ハザリア仕掛けのオレンジ

19代目スレ 2007/09/30

 プアァァァァンッ
マリ「まったく、新幹線にまで乗って、いったいどこに行くつもりだ」バグバグ
ハザリア「黙れ、黙れよ!
 こっちだってな、いい加減断られるのではないかと思っておったわ!
 それを貴様と来たら、駅弁ひとつでパクパクヒョイヒョイと!
 あれか、貴様は知らない人から駅弁をもらうとヒョイヒョイ着いて行ってしまう子供か!?」
マリ「ああ、たしかに小さなころから、
 駅弁あげるといわれるとヒョイヒョイ着いていってしまうところがあった」
ハザリア「どれだけ駅弁が好きなのだ! 駅弁に病みつきか、貴様!」
マリ「うるさい、駅弁駅弁連呼するな!」
キャリコ「まあ、お目付役の私が着いている限り過ちは起こらないと思いますが」
ハザリア「え、オッサンお目付役のつもりだったのか?
 そのわりにはいつもビールばかり飲んでいるではないか」
キャリコ「いい加減、親御さんが心配するんじゃないんですか?」
マリ「・・・それが、わたしが友達と旅行するのが嬉しいらしくて、
 それはそれはにこやかに送り出してくれるんだ。
 だから、なんていうか、断りづらくて。
 わたし、長いこと友達いなかったから」
ハザリア「・・・この、新幹線の車内で買った微妙に高くて微妙に不味い果汁ジュースをくれてやる」
キャリコ「この、キヨスクで買った正体の知れない微妙な合体ロボあげます」グスッ
マリ「施しなんかいるか!」

 無人駅
マリ「・・・新幹線から、鈍行電車だのバスだのモノレールだの乗り継いで、
 なあ、なんでお前はいつも山奥に来たがるんだ?」
ハザリア「ああ、どこかその辺の草むらでこれに着替えておけ」バサッ
マリ「・・・・・・ドレスに、ネックレス、ハイヒール? なんだこれ」
ハザリア「ドレスやネックレスやハイヒールだ」
マリ「そんなことはわかってるよ!」
ハザリア「今回は遊びではない、公務だ。
 あちらこちらの星の貴族どもが開く、くそくだらんパーティに出席せねばならん。
 貴様にも、それなりの格好をしてもらわんとな」
マリ「そういうパーティなら、なんでその辺の草むらで着替えなくちゃならないんだ。
 更衣室かなんか、あるんじゃないのか?」
ハザリア「着替えてる最中、上から水をぶっかけられたいなら、どうぞそうするがいい」
マリ「は?」

 ダンスホール
マグマ獣マグナム「やあ、バルマーの! まだ滅亡していなかったか」
マグマ獣マンモズ「おやおや、君のエスコートを受ける女性がいたとはな」
鎧獣士オコゼニア 「どこかから奴隷を拾ってきたのではなくて?」
強力ナマズンゴ「バルマーの人間はつくづく恥知らずと見える!」

マリ「なんなんだ、あいつら」
ハザリア「キャンベル星貴族のマグナ獣マグナム、マグマ獣マンモズ、
 ボアザン貴族の鎧獣士オコゼニア、おなじくボアザン貴族の強力ナマズンゴだ」

マリ「そうじゃなくて、お前、えらい嫌われようじゃないか。
 いったい、なにやらかしたんだ」
ハザリア「なにというか、先代まで宇宙を荒らし回ってたからな。
 戦後補償は終わっても、しつっこい連中はなかなか恨みを忘れん。
 というわけで、定期的にこういうパーティが開催される。
 別名、『落ちぶれたバルマー貴族を指差して笑ってやろうぜの会』だ」
マリ「そんなパーティにお前みたいな短気なの出席させちゃダメだろ。
 ルナとかキャクトラとか」
ハザリア「ルナか。貴様らにとっては地球に来てからのやつの印象が強いのだろうが、
 俺にしてみれば、何年経とうが泣き虫毛虫のろくでなしだ。
 それに、キャクトラのやつはルナに忠誠を誓いすぎている。
 だから、こういう席にはたいてい俺が出席することになっている」
マリ「お前」
ハザリア「やつらは、どうにも融通が利かんからな。
 俺のような、清濁併せ飲む度量がなくては!」
マリ「お前の場合、単に清濁の区別が付いていないだけだろ」

ハザリア「ブクブク」
マリ「あ、こら、お前、水タバコなんてやって」
ハザリア「タバコではない。ただのガンジャだ」
マリ「もっとやめろよ! お前、あれだけいってまだやめてなかったのか!」
ハザリア「心配せずとも、ここは大使館のようなものだから、地球の法律など当てはまらん」
マリ「そういうこといってるんじゃなくて。
 キャリコさん? キャリコさーん、なんかもう、諸々といってやってくださいよ」

キャリコ「やあ、君と会うのは3度目だったかな。
 よかったら、2人で抜け出して黒ビールでもすすらないかい?」
どれい獣バララ 「あっ、あの、困ります!」
マリ「なに、バニーのお姉ちゃん口説いてるんですか!」

マグマ獣マグナム「困りますよ、バルマーのウザロン毛と名高いオジさん。
 貴族によるエレガントな会合で下衆な真似をしてもらっては。
 護衛は護衛らしく、扉の前にでも立っていてください」
キャリコ「へ、へへぇ。これはどうも、失礼をば」

マリ「あんな、キャクトラの前じゃ決して見せないへつらい笑い浮かべて。
 おい、お前といいキャリコさんといい、なんでいわれっぱなしなんだよ。
 もっと、こう」
ハザリア「考えなしなことをいってもらっては困る。
 ここの連中はいずれ劣らぬアホ揃いだが、生憎と親は政府高官と来ている。
 おかしなことをいって、外交上の不都合でも生じたらどうするのだ」
マリ「だからって」
ハザリア「フハハハ、俺は映画監督になるから、家を継ぐ気などさらさらないのだ。
 養ってもらっている間に、せいぜい貴族の務めを果たしてやろうというだけだ。
 いずれ縁のなくなる世界かと思えば、愛着すら覚えるわ!」
マリ「なんでわたしを連れてきたんだ?」
ハザリア「ああ、貴様は舞台以外ではぼけーっとしとるからな。
 なにをいわれても、そう答えないだろう」
マリ「お前ってやつは!」

マグマ獣マグナム「お嬢さん、そんなへなちょこは放っておいて、こちらで飲みませんか?
 どうせ、騙されて連れられてきたのでしょう。
 そいつは、昔から口ばかり上手いんです」
マリ「・・・まあ、そんなようなものだけど」
鎧獣士オコゼニア「あら、結婚前から浮気かしら?」
マグマ獣マグナム「おいおい、お互い、浮気には寛容にいこうと話しただろう?」
鎧獣士オコゼニア「まあ、そうですけれど!」

マリ「おい」
ハザリア「行ってくればいいだろう。どうせ、俺といても愉快なことはないぞ」
マリ「ああ、そうかい!」

マリ「あの、お二人は婚約してるんですか?」
マグマ獣マグナム「ええ、もっとも、政略結婚だけれどね」
鎧獣士オコゼニア「会ったこと自体、今日が初めてなんですのよ」
マリ「そういうことって、あるんですか」
マグマ獣マグナム「貴族とはどこもそういうものでしょう?
 お家の存続のために結婚をして、初めて自由恋愛が許されるというところがあります。
 たしか、地球でも騎士が靴屋の女房と大恋愛をする文学小説がありませんでしたか?」
マリ「あ、いや、子供向けのでは、靴屋の娘さんてことになってて」
マグマ獣マグナム「おお、やはり地球の方でしたか。
 わたし、地球のスシ、ゲイシャ、大好きデェース」
鎧獣士オコゼニア「それで、あなたはどういう家の生まれなのかしら?」
マリ「えっ、父さんは軍人で、母さんたちはたまにパートとかやってるけど」
鎧獣士オコゼニア「まっ! それではあなた、平民の子!?」
マグマ獣マグナム「よせよ、君」
鎧獣士オコゼニア「あなたも、声をかける相手を考えていただかなくては困ります。
 うちの家名に泥を塗るつもりですか」
マグマ獣マグナム「この子にいったって仕方がないだろう」
鎧獣士オコゼニア「それにしたって、おお、いやだ!
 どうりで全体的に貧相だと思いましたわ!」
マリ「・・・あのなあ、あんたたち!」

ハザリア「そこまでにしておけ。そいつは地球人だぞ。
 貴様らも、闘争本能ばかり異様に肥大した地球人の恐ろしさはよく知っているだろう」
鎧獣士オコゼニア「あてつけのつもりなんですの?
 貴族の集いに平民の娘など紛れ込ませて」
ハザリア「地球の貴族など、惨めなものだぞ。
 相続税を払うのに苦労して、むしろ平民よりも貧しいと来ている。
 たまに儲かってるのがいると思えば、多角経営に精を出しとるわ性別はわからんわ」
鎧獣士オコゼニア「だからって、こんな小汚い子を連れ込むなんて」
ハザリア「オコゼが、あまり口を開くな。生臭いぞ」
鎧獣士オコゼニア「なんですって!」
マグマ獣マグナム「よせよ、こいつは昔からこうなんだ。
 身分もわきまえずに川縁で暮らしてみたり、
 叔父だかなんだか知らないが小汚い男の家に入り浸ったり」

マリ「おい」
ハザリア「ブクブクブク」
マリ「だから、ガンジャをやめろっていってるんだよ!」
ハザリア「黙れよ。ガンジャでもやらんと、やってられるか」

マグマ獣マグナム「もうよせ、2人とも。
 醜い言い争いは、お互い貴族の格を落とすだけだ」
鎧獣士オコゼニア「あなたはさっきから、なんなんですの」
マグマ獣マグナム「僕らは結婚するんだぞ。
 いつまでも子供のようなことをしているわけにはいかないだろう。
 さ、乾杯でもしようじゃないか。おい君、シャンパンを」
どれい獣バララ「あ、はい。ただいま」
マグマ獣マグナム「ハザリア、君から取りたまえ。
 決して仲良くはなかったが、お互い長い付き合いじゃないか。
 地球の文化を愛好する者同士、語り合いでもしないかい?」
ハザリア「フン、いっておくが、俺の見識は半端ではないぞ」カタン
マグマ獣マグナム「さ、君も」
鎧獣士オコゼニア「私はすぐに失礼しますわよ」コクン

 カチャーーーーーーン
鎧獣士オコゼニア「うぐっ!」
マグマ獣マグナム「どうしたんだいっ!?」
鎧獣士オコゼニア「・・・・・・口に」
マグマ獣マグナム「まさかハザリア、おまえはっ!」
ハザリア「ああ?」
鎧獣士オコゼニア「・・・・・・ゴボッ」
マグマ獣マグナム「誰か医者を! オコゼが、オコゼが血を吐いたッ!」

 地下室
マリ「・・・鎧獣士オコゼニアは即死。死因は毒殺。
 テトロドトキシンをベースにした即死性の毒を飲まされた形跡があった。
 おそらく、毒が入っていたのは彼女が死の直前に飲んだシャンパンの中。
 シャンパンは厨房でグラスに注がれたばかりで、盆に触れたのはどれい獣バラバとお前だけ。
 身体検査の結果、どれい獣バラバはピルケースになるものを持っていなかった。
 バニーちゃんの格好だから、どこかにカプセルや錠剤を仕込んでいても体温で溶けてしまう。
 厨房でもホールでも、特に怪しい素振りは目撃されていない。
 第一、キャンベル星のどれい獣バラバとボアザンの鎧獣士オコゼニアには面識がなく、動機があるとは考えられない。
 対して、お前は鎧獣士オコゼニアには何度となく侮蔑的な言葉を浴びせられていた。
 それに、テトロドトキシンという毒は宇宙的にレアなもので、
 地球に住んででもいないと入手が難しい。
 そこらへん総合して、お前が犯人ていうことでこの地下室にぶち込まれてるわけだけど」

ハザリア「ブクブク」
マリ「だから、ガンジャをやめろっていってるんだ!
 事件の直前にそれやってたのも、容疑を強くしてるんだぞ!」
ハザリア「ガンジャでオーバードーズを起こした話など、聞いたことがないわ」
マリ「ほんとにお前がやったんじゃないだろうな」
ハザリア「くだらん。オコゼなど殺しても、さばき方を知らん」
マリ「とにかく、状況証拠が揃いすぎてる。
 お前だって、手錠をかけられてたら身動きが取れないだろ」
ハザリア「この状況では、手の1本や2本動いたところでどうしようもないだろう」
マリ「相手が異星人じゃ、わたしの色仕掛けも効かないだろうし」
ハザリア「地球人なら効くとでもいわんばかりの言い草だな」

マリ「なにのんびりしてるんだよ!
 お前、外交かなんかのために、縛り首にでもなるつもりなんじゃないだろうな」
ハザリア「そう慌てることはない。どうせ、物証はなにもないのだ」
マリ「それだって、真犯人が野放しになってるならいくらだって」
ハザリア「それもそうだ。なら、少し協力してもらおうか。
 おい、砕け散ったグラスはどうなっている」
マリ「そりゃ、証拠品だから、あのダンスホールにそのままにしてあるけど」
ハザリア「ひとつ残らず拾い集めて持ってこい」
マリ「おい、そんなことしたら、証拠隠滅を疑われて」
ハザリア「貴様のいうとおり、のんびりしていてはこちらが証拠隠滅されてしまう。
 いいからさっさと行ってこい。
 貴様はチビだから、気付かれずに忍び込めるだろう」
マリ「こんなときまで憎まれ口を聞いて!」

 ダンスホール
マリ「13・・・14・・・、よし、これで全部だ。あんまり細かい破片は拾えなかったけど」
マグマ獣マグナム「なにをしているのですか」
マリ「あ、これは!」
マグマ獣マグナム「困りますよ。私だってね、仲がよかったわけではないが、旧知の仲なんだ。
 できる限り便宜を図ろうと思っていたのに、こんなことをされては」
マリ「でも、これが必要なんだ!」
マグマ獣マグナム「わからないな。まさか、君は本当にあいつの女なのかい?」
マリ「そんなんじゃない!」
マグマ獣マグナム「それだったら、君はあいつに騙されているんだよ。
 あいつはそういうやつなんだ。
 地球人でも、少しは知っているだろう。あいつの国がおこなった悪逆の限りを。
 そして、あいつの父、祖父、叔父、母親もだ。
 信用に足る要素なんてひとつもない。
 あいつも、それがわからない頭ではないだろうに。
 いつもいつも偉そうに高笑いして、我々を愚弄して!」
マリ「違う! そりゃああいつはバカだしアホだしツンデレだし悪知恵ばっかり働くし、
 息をするようにウソをつくし、いくらいってもガンジャをやめない人でなしだけど、
 でも、でもなあ!」
マグマ獣マグナム「それをこちらに渡したまえ。
 やれやれ、地球の娘は、もう少しおしとやかなものだと思っていたが」
マリ「甘く見るなよ。いっただろ、わたしの父は軍人だって。
 わたしは、リュウセイ・ダテの娘だぞ!」
マグマ獣マグナム「なんだと!?」
マリ「しまった。父さんも恨まれてるのかッ?」ダッ
マグマ獣マグナム「待て! おい、誰か! 誰か来てくれ!
 ハザリアの女を捕まえろ。そいつは、リュウセイ・ダテの娘だ!」
マリ「くそ、誰がハザリアの女だ!」

 ダンッ
マリ「・・・ハァ、・・・ハァ、持ってきたぞ」
ハザリア「ああ、聞こえていた。ずいぶん派手にやらかしたもんだな」
 ダンッ ダンッ ダンッ!
マリ「急がないと、ドアが破られるぞ!」
ハザリア「わかったわかった。それをよこせ」ヒョイ パク
マリ「あっ、バカッ! そんなもの、口に含んじゃ・・・!」
ハザリア「やはりな。このグラスに毒など入っていない」ペッ
マリ「え?」

 バァンッ
マグマ獣マグナム「もう逃げられんぞ、ハザリア!」
マグマ獣マンモズ「証拠隠滅を謀るとは、なんと卑劣な!」
強力ナマズンゴ「しょせん戦犯の息子か!」

マリ「待ってくれ、いま」
マグマ獣マグナム「どけ、地球の狂戦士の娘よ」
 ドガッ
マリ「・・・うぐっ」
ハザリア「マリ! 貴様、このたわけ! 女優のくせに、顔を守れないとはなにごとだ!」
マリ「・・・・・・」
ハザリア「この、バカモノめっ!」

マグマ獣マグナム「どうやってここまで仕込んだか知らないが、ムダな抵抗だったな」
ハザリア「いや、そうでもない」
 カチャン
マグマ獣マグナム「お前、手錠を!」
ハザリア「俺の手先が器用なことは知っているな」
マグマ獣マンモズ「取り押さえろ、逃がすな!」
ハザリア「おっと、それ以上近づくな。
 俺が漫然と地球に留学していたと思ったか?
 間合いに入ろうものなら、地球仕込みのバリツで全身の骨を粉々にしてやる」
マグマ獣マンモズ「たしかに、やつは昔から手先が器用だった」
強力ナマズンゴ「その手練で、女を骨抜きにしたかッ!?」
ハザリア「まあ、想像に任せる」
マグマ獣マンモズ「マジでか。いっておくが、俺はもの凄い想像をするぞ」
ハザリア「ちなみに、その女は駅弁に目がなくてな」
強力ナマズンゴ「なんと、こんな清純そうな顔をして、くそ、なんてけしからん!」
マグマ獣マグナム「落ち着けお前たち、やつの口車に乗るな!」
ハザリア「なんでもいい。そこで、しばらく見ているがいい」

 カチャ カチャ カチャ
ハザリア「よし、できた」
マグマ獣マンモズ「なんだ、これは、どういうことなんだ!?」
強力ナマズンゴ「グラスの破片を組み合わせて、ほとんど原型を取り戻しているというのに、
 破片がひとつ残った?」
ハザリア「グラスには毒など残っていなかった。
 入っていたのは、この破片だ。
 これが口に入ったから、鎧獣士オコゼニアは顔をしかめたのだろう」
強力ナマズンゴ「では、どれい獣バラバが!」
マグマ獣マンモズ「すぐにやつを取り押さえろ、くそ、どれい獣ごときが!」
ハザリア「落ち着け。最初に鎧獣士オコゼニアがグラスに口を付けた時点で、毒は入っていなかった。
 そして、やつが吐血するまでに触れたのは」
マグマ獣マグナム「言うに事欠いてなにを!」

ハザリア「どれい獣バラバがガラスを入れ、マグマ獣マグナムが毒を飲ませる。
 その手順の間に適当な人間を入れ、容疑をかぶせる。
 つまらんカラクリだな、ええ?」
強力ナマズンゴ「マグマ獣マグナム、まさかお前が」
マグマ獣マンモズ「しかし、なぜどれい獣などと」
ハザリア「付け足すと、地球にもどこにもバリツなどという武術は存在していない。
 滝壺に落ちて生還する武術など、意味がわからんだろう。
 そして、駅弁とは駅で売っている弁当のことだ。ほかの意味などあるか?」
強力ナマズンゴ「お前、このタイミングでそれはねえよ!」
マグマ獣マンモズ「フフ、もはや遅い!
 俺の脳内では、すでにものすごい妄想が完成している!」
ハザリア「知らなかったが、貴様らちょっといいヤツだな」
マグマ獣マグナム「やつのペースに呑み込まれるな!
 常識で考えろ、マグマ獣とどれい獣だぞ、示し合わせるどころか、対等に口を聞くことすら」

キャリコ「常識が考えれば、たしかに。
 しかしここ半年、あなたが出席したパーティには、どういうわけか常にバラバちゃんがいた。
 ときには、主催者側から指名があったことも。
 バニーちゃんたちの間ではもっぱらの噂でしたよ。
 若く、お尻のプリプリしたバニーちゃんたちのこと。
 どういう噂がたつか、考えられませんでしたか?」
マグマ獣マンモズ「ああっ、ダンスホールでビールかっくらってた護衛のオッサン!」
キャリコ「フフフ、私が、ただのセクハラ目的でバニーちゃんのお尻触ったり
 胸元を食い入るように見たり、転んだフリしてパンティストッキングを電線させたり、
 隙を見てメアドをメモしたり、更衣室に忍び込んで衣装を物色していたとお思いですか」
マグマ獣マンモズ「そこまでしてたら、セクハラってレベルじゃねーぞ!」
強力ナマズンゴ「なんて自慢げに犯罪を告白するオッサンなんだ!」
キャリコ「更衣室のロッカーで、これを回収しましたよ。
 バラバちゃんが使っていた胸パッドです。
 バニーちゃんの衣装と胸パッドの間にガラスの破片を仕込んでいたんですね。
 しかし、どうやら完璧ではなかったようで。フフ、血が滲んでいますよ。
 愛のために痛みを堪え忍ぶとは、健気なもんじゃないですか」
ハザリア「カプセルや錠剤なら体熱で溶けてしまうが、ガラスならそんなことはない。
 分業にしたのは、そこらへんのこともあったのだな」
マグマ獣マグナム「この、バルマーのウザロン毛が!」
キャリコ「はっはっは、妻はこの髪型が好きだというのでしてね。
 上司からいかにネチネチいわれようと、この髪を切るつもりなどありませんとも!」

マグマ獣マグナム「耳を貸すな、こいつはハザリアの手の者だ!
 どうした、なにをしている。取り押さえろ!」
強力ナマズンゴ「・・・・・・いや」
マグマ獣マンモズ「どれい獣などと通じるとは、マグマ獣の誇りを忘れたか」
マグマ獣マグナム「なんだと、お前たち!」
ハザリア「フハハハハ! 貴様も知っていたはずだろう?
 このあたりが、貴族のくだらなさだ!」
マグマ獣マグナム「やめろ、笑うな! その笑い方が、昔から気に食わなかった!
 俺を、俺を見下すな!」
ハザリア「オッサン、やれ」
キャリコ「マリ嬢は」
ハザリア「捨て置け。あとは、俺がやる」
キャリコ「了解」
マグマ獣マグナム「やめろ、お前たち、なにを!?」
 ゴスッ

 山中
ハザリア「スゥウィインギィン・ザ・レイィーン」
マグマ獣マグナム「はっ、ここは!?」
ハザリア「よぉ、ハラショーな気分か?」
マグマ獣マグナム「なにを謡っている。このレンガはなんだ、やめろ、ロープをほどけ!」
ハザリア「騒ぐな。ちょっとした実験をするだけだ。
 1メートル四方のレンガの中に人間を密閉し、まばたきも許さず暴力描写満載の映像を見せるとどうなるか。
 フハハハハハ! 地球人とは、実にハラショーなことを考えるではないか。ええ?」
マグマ獣マグナム「やめろ、そんなことをしてタダで済むと思っているのか!」
ハザリア「スゥウィインギィン・ザ・レイィーン」
マグマ獣マグナム「その歌をやめろ! そしてレンガを積むな!
 なあ、話を聞いてくれ。お前ならわかってくれるはずだ。俺は、あのバララと」
ハザリア「痴情のもつれがどうしたと、そんなカビの生えた話には興味がないな」
マグマ獣マグナム「マグマ獣とどれい獣、許されぬ恋だとはわかっていた。
 でも、俺は今までの生活で満足していたんだ!
 表だって結婚はできなくても、彼女と一緒にいられさえしたら!
 それなのに、両親が急に結婚の話を、しかも、あんなオコゼと!
 オコゼは典型的な貴族だ。バララとのことを、決して許さない。
 だから、だから俺は!」
ハザリア「お粗末な『伊豆の踊子』だな。
 上流階級でありながら、カースト外の踊り子に目をかける俺カッコイイ。
 言動を見ていればわかる。貴様の感情はその程度のものだ」
マグマ獣マグナム「なぜだ、お前だって、わかるはずだろう!」
ハザリア「わからん。貴族は恋などしないものだ。
 貴族の結婚は、大切なカードなのだからな」
マグマ獣マグナム「よせ、やめろ、レンガを積むな!
 こんなことをして、バルマーとキャンベルがどうなっても」
ハザリア「たまにな、どうでもよくなるのだ」
マグマ獣マグナム「あの娘か。あの娘の顔に傷を付けられたからか!
 なあ、そうなんだろう? お前も」
ハザリア「くだらん」
マグマ獣マグナム「なら、なぜだ! 俺は知っているんだぞ。
 お前は誰も信じちゃいない。誰にも心を開かない。
 この世のすべてがどうでもいいと思っている、そういう種類の人間だったはずだ!
 それが」
ハザリア「スゥウィインギィン・ザ・レェイーン」
マグマ獣マグナム「レンガを積むな、積まないでくれぇっ!
 やめろ、助けてくれ! お前をスケープゴートに使おうとしたのは悪かった」
ハザリア「さて、狂い死にするか、自分の糞尿に埋もれて死ぬか」
マグマ獣マグナム「よせ、やめろ、許してくれ、なあ、なんでも、なんでもするから・・・!」
ハザリア「ハラショォーッ!」
マグマ獣マグナム「やめ・・・・・・」
 ガコン

キャリコ「よろしかったので」
ハザリア「なぁに、ケツのポケットにケータイをねじ込んでおいたから、気が付いたら勝手に助けを呼ぶだろう。
 もっとも、脱糞する前に気付くかどうかまで責任持てんがな」
キャリコ「ハザリア様、やはりあなたは、こういうことにこそ」
ハザリア「またその話か。やめろやめろ、貴族の勤めを果たしてやるのは成人するまでと、何度もいっているだろう」
キャリコ「しかし、こういうことができる人間が、国には必要なのですよ。
 我が子やルナ嬢は、心が優しすぎます」
ハザリア「俺だって、それはもう大変に優しいぞ」
キャリコ「ご自分で、わかっていらっしゃるはずでしょう」
ハザリア「ああ、俺は、ゆくゆくは映像界を制する男だ」
キャリコ「いずれ、嫌も応もなく悟らされる日が来ますよ。
 あなたの身体に流れる、血の宿命というものを」
ハザリア「マグナムのベタが伝染ったのか?
 くだらん、実にくだらん。宿命だ運命だ、そんなものはクソでも食らえだ」
キャリコ「あなたにそう教えた方も」
ハザリア「黙れ、ほんとに黙れ」

 無人駅
マリ「やっぱり、お前とどこか行くとろくなことにならないんだ」
ハザリア「黙れ、黙れよ。いいから、さっさと病院に行ってその傷を治してこい」
マリ「わたしが気絶したあと、なにしてたんだ」
ハザリア「話す必要はない。外交には、ややこしいことがいろいろとあるのだ。
 貴様に口を出されたらたまらん」
マリ「おい、どこ行くんだ。帰りの電車はこっちだぞ」
ハザリア「実につまらん旅だった。口直しに、ダンゴザカに行って冷やしコーヒー飲んでくる」
マリ「アイスコーヒーだろ?」
ハザリア「おい、なぜ着いてきているのだ。貴様は来るな! 乱歩の世界に浸れんわ!」
マリ「あ、そうだ、これ」カシャーン
ハザリア「あ、ああああ! 俺の水煙管が! なんてことをするのだ!
 あれは俺が丹念に丹念に手作りした逸品で・・・」
マリ「なんでお前は、そういうくだらないことに労力を裂くんだ。
 ほら、千代田線に乗り換えるんだろ?」
ハザリア「貴様は、だんだんと生意気になる!」
マリ「お前はもう少し静かに変われ」
ハザリア「黙れ、黙れよ! だいたい貴様は」

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最終更新:2009年11月14日 11:11
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