イングラムと散歩しないかね

19代目スレ 2007/10/08

タカヤな流れをぶった切って長編投下
イングラムが主役のちょっと異色の話

「この背後霊め。やれアストラナガン!」
「はいはーい。ディスレブの中でしばらく反省してなさーい」
もはや聞きなれた言葉の直後、俺はディス・アストラナガンの胸に吸い込まれた。
元主人に対して一瞬の容赦も無い所はさすがというか、まあ、今更主人面する気もないのだが。
暗い空間にたどり着くと、すぐに見慣れた顔がこちらに向く。
「おや、相変わらず出入りの激しい人ですね」
「少しは空気を読むか、いっそこちらで過ごすのもいい、と勧めてみるのも私だ」
まあ、それも悪くは無いがさすがにまだ隠居するつもりはない。それとユーゼス、お前もそろそろ出てきたらどうだ。もう、何年SRWに出ていないようだが。
「OGSのあれが私と言うことではどうだろうと提案するのも私だ」
いや、アレは……まあいい。で、マサキはどうした。
「彼なら『全員マサキ&プラスワーン。だからどうしたハウ・ドラゴンだよ全員集合パーティー』にゲストとして出席中ですよ」
そうか奴は外出か、俺もいつもここでくつろぐばかりと言うのもなんだ。
最近は、久保の奴も小さくなったりで忙しない。たまには一人でどこかに出かけようかと思うのだが。
「そうですねえ。ならこちらの秘密の出入り口からどうぞ。途中で彼が確認に来たら、現在50時間ノンストップで祭りの歌に挑戦中だと伝えておきます」
それだと、俺は50時間は帰ってきてもまともにディスレブから出られないぞ。まあ、とりあえずは感謝するが。
「お土産にはウルトラマン TOY EXPO 2006(限定ver)を頼むのも私だ」
あいにくと定価が2万円以上するものを購入する持ち合わせは幽霊の俺には無い。

ディスレブのを抜け出すのは意外と簡単だった。
まあ、平時はアストラナガンも気を抜いているということだろう。特に、ここではいざ何かあったとしても、戦えるのが自分だけと言うことは無い。
しかし、いざ抜け出してみても別にやる事は無い。まあ、気ままな散策も悪くない。
もう随分とご無沙汰だが、以前はこうやって散策をするのが趣味だった。
もっとも、それが何時だったかはもう思い出すことも出来ないが。
「あれ、もしかしてイングラム・プリスケンさんですか?」
そうやって呼ぶ声に振り返ると、確かマリと言っただろうか?あの朴念仁のリュウセイの子供だったはずだ。
で、少女よ俺に何のようだ。
「えっと、いや何と言うか、つい声をかけてしまっただけなんですけど。えっと、何か話しませんか。歩きながら」
ふむ。まあ、別に何か用があるわけでもないし構わないが。別にそんな畏まって敬語を使う事はないぞ。
「いや、一応父親の元上司ですし」
そんな事が言える立場ではないがな。結局中途半端で、後はヴィレッタに任せてばかりの駄目上司だ。
「父が聞いたら泣きますよ。一応、父は今でもイングラムさんの事を尊敬してるんですから」
やれやれ、悪い気はしないが、あまり買いかぶられても困るのだが。と、俺は苦笑いした。
そのままこの少女と会話をしながらしばらく歩いた。
最初の印象はとてもリュウセイの娘には見えない、だったが話してみると、まるで似ていないように見えてもやはりリュウセイと親子なのだというのが分った。
何かこれと決めたことに対してとても真っ直ぐな所と、その時に輝く瞳の色は瓜二つだ。
いつのまにか、マリが延々と演劇の話をしてそれを俺が聞いているような状態になっていた。
俺は別に構わなかったが、マリの方がなにやら用事を思い出したらしい。
「すいません、父に頼まれて電撃スパロボのはがきを出しに行くところでした」
はがきくらい自分で出せばいいだろうに。
「いえ、どうもニ○ニコ動画に上げるMADを今日中に作るとかで、今は家に篭ってます」
まったくあいつは……。まるで成長していない。
「アハハ。まあ、それでも二人も嫁をもらってしっかり養ってるんだから、父のことは尊敬してますよ。それと、父が会いたがってましたから今度家にでも来てくださいよ」
考えておこう。そう言って俺は少女と別れた。

それから、俺はしばらく特に目的もなく散歩した。もっとも、歩くという概念は幽霊の俺には無いから散歩と言うのは違うかもしれないが。
そして川原まで歩いたところで、見慣れた顔を見つけた。
いや、見慣れたといってもこの人物とはさほどの面識は無い。ただ、あの顔とあの髪はもう見飽きるほど見てきた。
キャクトラ。バルシェム同士の間に生まれた、恐らく最初の個体だ。
そのキャクトラが、川原で呆然と遠くを眺めている。
なんとなく、本当になんとなくだが俺は声をかけた。すると、すぐに振り返り律儀に礼を返してきた。
「あ、イングラム殿。どうしたんですか、こんな所で。それにクォヴレー殿は?」
今日は一緒じゃない。それよりどうした、こんな所で黄昏て。
「その……最近不安なんです。バルシェム同士の合いの子である、自分の体に何か問題があるんじゃないかと」
なるほど、バルシェムは兄弟以上に近しい遺伝形質を持っている。劣性遺伝を心配したか。だが、見た限り平均的なバルシェムよりは優れた能力を持っていると思うが?
「いえ、遺伝とかそういう問題以上に、作られた存在から出来た自分がおかしいんじゃないかという、不安が頭から離れないんです」
なぜだ?見たところ健康体。精神的にもまともだ。もっとも、変人ぞろいのバルシェムの中でまともなのが不安と言うのなら話は別だが。
それとも、何かあったのか?そう問い詰めると、キャクトラはゆっくりと口を開いた。
「じつは、以前私の体を見た時に姫様が露骨に目をそらされて。ハザリア殿の時にはまるで無反応だというのに」
……いや、なんだそれは。
「それだけじゃないんです。それ以来姫様は時々私から露骨なまでに目を逸らされるんです」
状況が飲み込めんぞ。
「普段は普通に話せるのですが、以前一度バルマー一行でプールに行った時は私の体を見るなりトイレに駆け込んでしまって」
だからそれがどうした。
「ですから、もしかしたら自分の体には姫様しか気づいていない、とても目を当てられないような物があるのではと」
何かと思えばそんな事。では聞くが、お前の手は、足は満足に動かないのか? その四肢で地を踏みその手で何かを守れるのだろう。
戦後復興中のバルマーにいたバルシェムだというのなら見た事があるはずだ。戦争で手足を失い義手や義足に頼るもの、体中に消えることの無い傷を負ったもの。
そういった者たちがバルシェムにもいるはずだ。そしてそういった者たちは、苦しみながらも前を向いているだろう。
それなのに、まさか貴様は見た目のコンプレックスなどに囚われているのか?
「それは……ですが、守るべき主君に目を背けられては」
ならば証を立てて見せろ。目を背けられたからどうした。貴様の存在の証明はあの少女を守ること。ならば、それを貫き自分を確立しろ。
そうすれば、そんな些細な悩みなどすぐに忘れてしまうはずだ。
「そ、そうですね。分りました、やってみます! しかし、どうも私はあなたを誤解していたようです」
誤解?俺の事をどう思っていたんだ。
「いつもフラフラと漂うふざけた人だと思ってましたよ。それに、父からはクールな人だと聞いていたし、今みたいな事を言うとは思いもしませんでした」
フッ、なるほどな。なら一つためにならない話をしよう。ある男はよこしまな考えを持つものに作られた男だった。だが、男は熱い心で仲間と共に戦いそれを打ち倒した。
しかし、その戦いの後、幾多の世界をさまよう内に男の心は冷たく乾いてしまった。
そして、乾ききった心はやがて人の温かさを求めた。そして男はユーモアを追及するようになった。
「それは、つまり」
人間笑いが肝心と言う話だ。深く気にするな。

キャクトラと分かれた頃には日が既に傾きかけていた。
だが、まだディスレブに戻る気にはなれず、俺は町外れまで来た。
この町の治安は、色々な要因が重なって驚異的なまでに良い。ある意味機動兵器が闊歩する無法地帯でもあるが。だが、町外れに来れば治安は一気に悪化する。
この町に居られなくなった不良や珍走団をそこらじゅうで見かける。夜になればそれこそ、ここが某犯罪大国ではないのかと疑うほどの荒れ模様だ。
救いといえば銃犯罪があまり無いくらいだ。
タイムダイバー。数多の世界をさ迷う俺たちは、その行為の善悪はともかく世界には常に何らかの影響を与える存在だ。
だが、ここがクォヴレーの帰る場所である以上、ここでクォヴレーが何かしたとしても俺にはそれをとがめる理由は無い。自分の居場所くらい誰にだって必要なはずだ。
「ウォワッ、久保さんの背後霊さんじゃないっすか」
不躾にそんな言葉をかける男を俺はにらみつけた。そこにいたのは、確か……ジキミ
「アークっすよ。いや、すいません。こんな所で見かけるとは思わなくて。てか、久保さんは?」
あいにくと別行動だ。しかし、俺とクォヴレーは完全にペア扱いか?
「だって久保さんは、ディストラさんより背後霊さんと一緒に居ることの方が多いじゃないっすか。それが一人で居たから」
まあ、そういわれるとそうだし、そもそも俺が憑依しているのがクォヴレーなんだから当然だがな。で、こんなところで何をしている。ここの治安は最悪だぞ。
「いや、そりゃそうなんですけどね。ただちょっと知り合いに会いに行ってたんですよ。浮浪者なんだけど、最近はこの辺にいるらしいんで」
そういった手合いと付き合うのはあまり感心できんな。
「まあそう言われりゃそうなんすけど、そういう知り合いってけっこういるし、そういう連中と一緒に居るのも面白し。それに今日のはちょっと特別な人だったし」
わからんな。最上重工の跡取りが、浮浪者と戯れる。まあ、単なる馬鹿なのかもしれないが。
「そりゃないっすよ。まあ、馬鹿って言われりゃ否定はできないけど」
自覚はあるのか。ところで、さっきから真っ直ぐこちらに突っ込んでくる車があるんだが?
アークが俺の言葉を聞き、間抜けな顔のまま、こちらに向かってくる大型自動車を見た。運転手の様子からすると恐らく飲酒運転だ。このままだとアークに車が突っ込む。
こいつが頑丈なことは知っている。だが、車に突っ込まれても死なないというのはありえない。こいつの丈夫さは恐らく何らかの因果律によるものだ。
誰に殴られても、一様に因果律が補正をかける。たとえイルスに殴られても同年代の少女に殴られたと因果律が修正する事でその傷は瞬く間に消える。それがアークの因果律だ。
だが、車に突っ込まれるならたとえ因果律がどう手を加えても車に突っ込まれた事実は変わらない。今こいつは間違いなく死ぬ。

こいつは間違いなく死ぬ。確かにそう思った。だが、その直後に俺の目に信じられないものが映った。
アークに突っ込む直前に、車が横にそれた。そしてそのままそばの電信柱に突っ込んだ。
しかも見ていた限り、運転手はハンドルを切っていない。いや、それどころか車のタイヤもアークのほうを向いていた。
まるで何かに吸い寄せられるように、車は勝手に曲がった。
アークは数瞬唖然とした顔をしていたが、すぐに我に返る。
「し、死ぬかと思ったぁ……って、それどころじゃねえ!おい大丈夫か!」
今しがた死に掛けたというのに、アークはまるで気にする素振りすら見せないまま車のほうに向かった。
俺はその背中を見つめ、冷たい血が全身を駆け巡るような感覚に襲われた。
人は誰でも何かしらの因果律に縛られている。数多世界をさまよう運命、報われない恋の運命、逃れられない貧乳の運命。その中でもこいつは、とても重い運命を背負っている。
いつも、ギャク補正や特異体質という言葉でこいつの事は片付けられる。だが、そんなはずがない。こいつは既に幾度か命に関わる事態に陥ったことがあるはずだ。
にもかかわらず、何の取り柄も無いただの馬鹿がなぜ今なお無事で居られるのか。恐らく、こいつは死ぬことを、否、健常体を失うことを許されない運命に縛られている。
それに、これほどの目にあえば注意深くならずには居られないはずだというのに、まるで実は脳を隠しているのではというほど注意力散漫だ。
こいつの因果律には馬鹿で居ることも運命付けられているのだろう。そして、これほど強固な因果に縛られているということは、もう2つ運命があるはずだ
それが何かは分らない。だが、もし何かが起きたとき、それがトリガーとなりこの男の運命が動き出す。大きな悲劇の運命と大いなる者の運命。
馬鹿で死なない。これを持つものがたどる運命は、世界を救う英雄となるか、はたまた世界を震わす大悪党になるか。
ただ、どちらも、自分の世界すら変えてしまう悲劇という決定的なトリガーが必要だ。エクサランスなど平行世界の敵ではなく、この世界の敵が現れればその時は……。
もっとも、今この世界は平和だ。俺たちが戦っているうちはそうそう巨大な因果律の動きなどないだろう。
アークはそろそろ周囲に集まりだした野次馬の群れから抜け出してきた。
「いやー、運転手は無事みたいだし、ここらで逃げようと思うんだけど」
ほう、この状況で逃げるのか。ここで運転手でも助けておけば、ちょっとした美談になるが?
「いや、そういう事やって名前売れるのは嫌なんっすよ。なんでか知らないんだけど」
つくづく英雄の素質だけは立派なものだ。恐らく、有名になることも今の段階では抑制されているのだろう。
そして完全に待ちは夜になった。そろそろ戻ってもいい頃だ。


俺はアークと分かれてそろそろOG町に戻ろうとすると、不意に妙につややかな男の声で引き止められた。
「おや、イングラム・プリスケン氏ではないですか。このようなところでいったい?」
そこにいたのは、シュウヤだった。父親に見た目と言葉遣いこそ似ているが、中身はまるで違うというのが今のところの俺の中でのこいつの評価だ。
ところで、声をかけられたほうが聞くことでもないが、なぜこんな時間にこんな所にいる。
「ああ、ちょっと知り合いに会いに。まあ決まった住所を持たない人なのでなかなか会えないのですが」
さっきアークもそんなのに会いに行っていたが、最近の子供の間ではホームレスと戯れるのが流行っているのか?
「ああ、たぶん同じ人ですよ。そうですか、彼は会えたんですか。いやあ残念だなあ」
そうか。まあ、別にどうでもいいんだが。ところでこの世界のお前の両親はどうしている?
「母とは良く会いますけど、父は……。まあ、生きてはいるでしょうけど。そういえば、貴方とよく一緒に居る別の世界の父は?」
元気にしてるさ。まあ時々騒々しいこともあるがな。
「そうですか。父はどの世界でも人に迷惑をかけているようで。ほんとに申し訳ない」
そう言うな。お前の父親は、凄まじく重い因果の鎖に抗ったのだ。邪神に操られ、世界を混沌に陥れる運命にな。
肉体、もしくは人とのかかわりというかけがえの無いものを捨てることで、穏やかな因果地平の片隅にようやく流れ着いた男なのだ。それを責める理由は無い。
俺もそうだった。数多世界を渡り歩き、その行く先々で操られ、自己を確立するために戦い、死の間際にリュウセイに未来を託す事を繰り返した。
この世界で肉体を失いクォヴレーに憑依することでようやく俺は解放された。
シュウヤは深く考えされられるような顔で俺を見た。口には出さないが、こいつもある意味危険な運命を抱えている。
先ほどのアークは英雄の運命を持っているが、こいつはカリスマの運命を持っている。
確固たる能力と、不遜ながら人を惹きつける言動。こいつも何かトリガーが引かれれば、因果律に縛られることになる。
正義か悪かは分らないが、大きな一つの流れを作れるだろう。
シュウヤは考えるのを中断して、俺のほうを見た。
「そうですね。まあ、父がどうだろうと私は自分の道を行きますよ。女性に最高のランジェリーを提供するそれが私の使命です」
そうか。それならばそれでいい。この穏やかな運命の波の中で、自分で未来を切り開けるのなら。
それからしばらくシュウヤと話して俺はバランガ家に戻った。


バランガ家の前まで来て、俺は立ち止まった。
チッ、クォヴレーのヤツ。普段はこの時間は編み物でもしているというのに、よりによって玄関で電球を換えている。
仕方なく俺は裏口から家に入ると、ゼラドと鉢合わせした。
「あれ、背後霊さん?確か今祭りの歌を踊ってるんじゃ……」
い、いや。色々とな。ところで、ゼラドこそ裏口から外に出るなどと。
「エヘヘ。実はジュースが切れてたんだけど、今から出かけると絶対お兄ちゃんが止めるから裏口からこっそり行こうと思って」
そうか。まあ、気をつけろ。
「うん。背後霊さんも50時間頑張ってね」
そういうと、ゼラドはこそこそと裏口から出て行った。俺はそれを見てふと思った。
この世界は奇妙な運命に縛られた者が多い。その割りに、他の世界には必ずいそうな英雄はカリスマはその片鱗を見せるに留まっている。
その奇妙な流れ、それはタイムダイバーが常駐している事やエクサランスの来襲などが原因だと思っていたが、冷静に考えるとその中心はゼラドではないのか?
現に、たびたびゼラドは世界の改変や時間移動など、単一の人間には不可能な因果律の制御を行っていた。
ゼラドと言う存在はこの世界の因果律の流れを変えてしまう堤防のようなものなのかもしれない。
ではなぜそうなったのか。それは恐らく俺とそしてディスレブ。そしてその中に居るユーゼスのせいだろう。そしてゼラドの力のトリガーはクォヴレーだ。
ゼラドは生まれたときから因果の楔から解き放たれている俺を見て育ち、ディスレブと言う因果律に抗う機関の余波を受けながら育った。
そしてユーゼスは、ディスレブ越しにだがアカシックレコードを取り込んだ存在ゼストの形をゼラドに無意識に伝えた。
それによってゼラドの中にはアカシックレコードそのものか、もしくはソレを制御する器官が存在するはずだ。
それが数々の超常現象を起こし、数々の過酷な運命を休眠させているのだろう。
もっとも、俺たちには直接は何も出来はしない。ゼラドと密接に関わるそれをゼラドが生きたまま取り除けない。そしてゼラドが死に至るだけの危機に陥れば因果の暴走が起こる。
どれほどの規模になるかは知らないが、補完かあるいは調律くらいの事は起きるはずだ。
恐らくゼラドが天寿を全うしないかぎりそれは取り除けないのだろう。
やれやれ厄介な話だ。喜べクォヴレー、お前はゼラドの一生を見守り死の瞬間まで付き添う義務が出来たぞ。それでもタイムダイバーの仕事もするんだ。
っと、これだと今までどおりだな。自然と俺の口元には笑みが浮かんでいた。暢気なものだ、世界を破壊できる爆弾がすぐそばにあるというのに。
俺がディスレブに戻ると、やはり二人が出迎えた。そして辺りには軽快な音楽が流れている。
「思ったより遅かったですね。しかし参りました、50時間なんていったから本当に50時間もこの曲を流さないとならなくなってしまいましたよ」
「そんな事より、今度はジュデッカOOというのを企画しているのも私だ」
「ハハハハハ今戻ったぞ!パーティーの土産など期待するな。だが、タッパーに詰めて帰った料理ならくれてやらんでもない」
マサキも戻ってきてディスレブの中はいつもの賑わいに戻った。そして俺もそこに腰を下ろし皆の中に加わった。



おまけその1
「私キャクトラは!ただ姫様のために!この身から肉がはげ骨が粉塵と成ろうとも!魂魄が消えうせるその日まで!全身全霊をかけてお仕えするするのだ!」
イングラムに言われた事を頭の中で反芻しながらキャクトラは左手の小指だけで懸垂をしていた。
熱気がこもり服が邪魔になり、上半身裸でひたすら懸垂をしていると扉が開いた。
「騒々しいぞキャクトラ。アルも怯えておる……て、ムッ」
部屋に入ってきたルナはキャクトラを見るなり扉を閉めてドタバタと走り去った。
しかし、ソレを見るキャクトラの顔には動揺も迷いも無い。
「フッ。たとえルナ様にどのような目を向けられようと!私はただこの身をルナ様の剣として、盾として、捧げるだけだ!」

「くっ、あやつ、あんなかっこうで。いかん、落ち着かねば、そうだアルの肉球を数……えてもしょうがない!素数を数えよう」
「五月蝿いぞ!せっかくいい脚本が浮かんだというのに!」
「だまれ小太り!お前などに用は無い!」

おまけその2
イングラムは、そういえばと首をかしげる。けっきょくアークやシュウヤが会っていた浮浪者とは誰なのだろうかという疑問に。

OG町の隣町。その路上でレーツェルは浮浪者と会っていた。
「久しぶりだな。前に会ったのはスレイチェルの誕生日に男女切り替えリバーシブルスーツを持ってきたときだったな」
「ああ、あれね。面白いだろぉ、表だと女物なのに裏返して着ると男物になるんだぜ。って、そんな話じゃないだろ、貴族様が俺みたいな浮浪者に会いに来る理由は」
「親戚の婿に会いに行くのには、さすがに理由が必要か。それと、浮浪者と言うが単に家を構えるのが億劫なだけではないのか?タスク・シングウジ」
言われてタスクは鼻をすすった。さらにレーツェルは続ける。
「イカサマと勝負運で成り上がり、ガーシュタイン家の者を嫁にもらえるまでになりながら、今は仕事を部下に任せて一人路上生活。ある意味羨ましいな」
「よせって。俺はただタキシードを着てやるギャンブルは性に合わねえから、こんな所で青空マージャンとかしてんだぜ。で用件は?」
「なに、ちょっと店の経営に難癖をつけてくるヤクザがいて、経営に詳しい4本合いのロボットに頼んだのだがあそこまでイリーガルにやられてはどうにもならなかった」
「で、俺に役目が回ってきたわけね。オッケー、久々にスリルを味わいたいところだったんだ。チキンレースでもカードでも何でも来いよ」
そういうとタスクは頭にバンダナを巻き、立ち上がった。

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最終更新:2009年11月14日 11:12
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