19代目スレ 2007/10/21
【夜 ホテル『宇宙怪獣』オーナールーム】
マーズ「あいあい、まいどー。ふんじゃー払いのほーは月末に。
えっへっへ、あのね、もーちょっとなの。
さっさとジャック、きびきびジャック、ろーそくたてをとびこえろー!」
ボッ
マーズ「・・・・・・か・・・・・・あ・・・・・・ぁ・・・・・・ガガッ・・・・・・ピピー・・・・・・
サーモスタット破損・・・・・・無停電電源装置破損・・・・・・光学系焼失・・・・・・
サーキット焼失・・・・・・駆動系破損・・・・・・ファイル破壊ファイル破壊ファイル破壊・・・・・・
エラー、ワーニング、ワーニング、エラー・・・・・・、
きけん、きけん、きんきゅーかいひ・・・・・・きんきゅー・・・・・・か・・・・・・」
【翌日 学校】
マーズ「あーん、あーん! おれが殺されたぁー!」
レイナ「突然来て、なにいってんのあんたは」
ゼラド「あれ、なんだか今日、四本足の動きがぎこちなくない?」
マーズ「うん、これ、事務所に置いてあったスペアのボディ。
機能停止寸前でデータだけ転送したんだけど、ずっとほったらかしだったボディだから
間接機構とかガタ来てるしOSなんか一世代古いし最適化とか上手くできないしメモリ足んないし。
あーん、もー、まともに動かすのに予定外の出費だよー!
ぐすっ、ぐすっ、コツコツ貯めてたバネ足貯金がパァだよー!」
レイナ「どんだけバネ足が欲しいのよ、あんたは」
マーズ「だってだって、バネ足カッコいーもん。
ぴょんぴょん飛ぶもん、青白い火ぃ吐くもん、ならずものどもけちらすもん」
ゼラド「マーズくん、『ロボット三原則』積んでるから人間に危害くわえられないんでしょ?」
ルアフ「昨晩遅く、ホテル『宇宙怪獣』のオーナールームで突如子供型ロボが発火。
すぐにスプリンクラーが作動したから小火程度で済んだけど、ロボの下半身部分はほぼ焼失。
んっふふふ、このロボっていうのが、つまり君だったわけだ」
レイナ「あんたは、こういうことが起こるとどこからともなく現れるのね」
マーズ「まずいよー。ケーサツは、おれが勝手に故障して発火したと思ってんだよー。
このままじゃ、おれ、放火ロボとしてケーサツにおーしゅーされちゃう!」
レイナ「あんた、どうせロボなんだから人間の法律なんて適用されないでしょ?」
マーズ「それがまずいんだよー!
おれ、ヴァルストークの備品扱いだから、なんかトラブル起こしたら所有者の責任になっちゃうのー!
おれ、あんなしょーばい下手なオヤジに借りなんか作りたくないよー!」
ゼラド「マーズくん、『ロボット三原則』積んでるのに、どうして肝心のオーナーさんにキツいの?」
マーズ「ちえっ、ヴァルストークの駐車料金も払えねーで、
くらーい宇宙空間をフラフラしてるよーなビンボー人に、なんで忠誠誓わなくちゃなんないのさ」
ゼラド「アーディガンさん、なんだかかわいそうな深夜タクシーみたいになってる!」
ルアフ「『彼らは神の息吹によって滅び、その怒りの息によって消えうせる』と、ヨブ記は語る。
1967年、イギリス・ロンドン南部ランベスでは、階段の上で炭化している男が発見された。
1982年、イギリス・エドモントンでは台所のウィンザーチェアに座っていた女性が突如炎上。
1988年、イギリス南部サウサンプトンでは足だけを残して人体が焼失。
人体発火現象といえば、昔から報告されてるミステリーさ。
リンによる自然発火説、マスコミが大好きなプラズマ説、人体ロウソク化現象、
人間のDNAの中にはそもそも発火する因子が眠ってる。
奇説珍説いろいろあるけど、決定的なものはいまだなし。ま、データが少なすぎるしね。
なかなか、そそる題材じゃないかい?」
マーズ「ほんとはさー、ガリレオとゆー名前のフクヤマさんに頼りたかったんだよ。
でも時間なくって」
レイナ「ふざけないでよ! ガリレオという名前のフクヤマさんなんて、あたしが会いたいわよ!
むしろシバサキコウのポジションにあたしが納まりたいわよ!」
ルアフ「いやいや待ちたまえよ。
ニッポン放送がヴァンゲリブームにくるってたあのころ、
なぜかオールナイトニッポンのゲストにオガタメグミさんが来ちゃって、
双方大変にやりづらそうな放送をしてたころからのフクヤマファンの僕を差し置いてだね!」
ゼラド「やめなよぉ、みんなしてフクヤマさんが好きすぎるよぉ~」
ルアフ「ラジオのフクヤマさんはねえ、下ネタ全開で最高だったよ」
【ホテル『宇宙怪獣』】
合体怪獣「うわあぁぁぁっ! 君、なんで!?」
マーズ「あー、オーナーさん、ゆんべはどーも」
レイナ「ちょっと驚き過ぎじゃない? まさか、あんたが」
合体怪獣「やめてくださいよ、こっちだって高いカーペット燃やされてるんですよ?」
ルアフ「目の前で炎上したロボが、何食わぬ顔で出てきたんだ。そりゃ驚くさ。
ちょっと、現場を見せてくれるかい?」
合体怪獣「はあ、でも、まだ警察が現場検証してますが」
ルアフ「君、通してくれたまえ」
警官「はっ、お疲れ様です、ルアフ先生!」
レイナ「なんで当然のように警察があんたのいうこと聞くのよ!?」
ルアフ「はっはっは、これが、長年築き上げた信用と実績の成果ってやつさ」
【オーナールーム】
レイナ「事件当時、オーナールームは密閉されてた。
窓ははめ殺しで、外から火薬かなんかを投げ込むことは不可能。そもそもここ、5階だし。
ストーブ、暖炉、マッチ、ライターなど、出火原因になるものはなし、か」
ゼラド「うわ、これがマーズくん?」
レイナ「うわ、グロッ!
上半身部分だけ中途半端に残ってるから、見た目普通に子供の焼死体よ」
マーズ「わーん! バリバリにカスタムしたおれのボディが、こんなになっちゃってー!」
ルアフ「べつに腐ることもないから、現場に置きっぱにされてるんだねえ。
四本脚はフレームが残ってるだけ。
上半身はほぼ炭化して、かろうじて原型が残ってるのは頭部だけか。
あれれ? 過去に報告された人体発火現象じゃ、むしろ脚が残ってるもんなんだけどね」
ゼラド「マーズくんは、ホテルのオーナールームなんかになんの用があったの?」
マーズ「先月から始めたリネンの卸しについて、打ち合わせだよー」
レイナ「あんたねえ、もうちょっと子供らしいバイトしなさいよ」
マーズ「バイトじゃないもん。ちゃんとしたシノギだもん。
前まで大名商売してたフロント企業から契約かっぱらうのに、おれ、かなりがんばっちゃったもんね!」
レイナ「それよ! それで恨まれたのよ!」
マーズ「えー、なんでぇー? おれ、ちゃんとフェアにプレゼンして契約勝ち取ったんだよー?」
ゼラド「あのね、人間て、ちょっとダメなところあるから」
マーズ「名刺渡しただけでキョーカツ罪適用されるご時世に、ヤクザがそんなことすんのかなー。
最近のヤクザって、ごーほー的なことばっかするかんなー。
もしやったとしても、なんでこんな手の込んだこと。
ヤクザのやり方って、もーちょっとシンプルだよ。
そのへんのホームレスに小銭とナイフ握らせりゃいーんだもん。
裏社会について必要以上の情報を握ってるミヤザキさんは、アホなシロートのほーがよっぽど怖いってゆってたし」
レイナ「あんた、付き合う相手もうちょっと考えなさいよ!
とにかく、トリックはすでに解けたわ。
見て、この窓だけど、たしかに開けないけどカーテンなんかはかかってない。
つまりここからレーザーを照射して、ロボの髪や服を燃やした」
ゼラド「レーザーって、そんなものどこから」
レイナ「そりゃあ、金属加工なんかに使うレーザー発生装置を使って」
合体怪獣「このあたりに、その手の工場はありませんが」
レイナ「たぶん、小型化されたのがあるのよ!」
ルアフ「あのねえ、レイナ、大出力のレーザー光線を発生させるには、
炭酸ガスを含むレーザーガスを高速で流さなくちゃだし、
高電圧放電を安定して行わなきゃならないんだよ?
どうしたって大きくなっちゃうんだ。いまだにPTサイズ以下のレーザー銃は開発されてないのに。
それに、ガラスを通したっていうなら屈折の問題もあるんだよ?
専門家でもなけりゃ、ぶっつけ本番で狙いに当てるなんてことはまず不可能だよ」
マーズ「ちゅーかそれじゃ、ガリレオとゆー名前のフクヤマさんの丸パクリじゃん」
レイナ「じゃ、ほかにどんな方法があるっていうのよ!?」
ゼラド「あの、オーナーさん。あのエアコンて、酸素発生装置が付いてるんですね」
合体怪獣「ええ、酸素濃度が高いとリラックスできるといいますから。最新式ですよ」
ゼラド「ルアフせんせーい。酸素がたくさんあると、火が燃えやすいんですよね?」
ルアフ「うん。小学校の理科で習う通りだよ。
ただし、酸素自体は発火なんかしないけどね」
ゼラド「それじゃ、たぶん」ガバッ
レイナ「ちょっとちょっと、床に這いつくばったりなんかして」
ゼラド「あった!」
ルアフ「糸? アクリル繊維のようだね。しかもたくさん」
合体怪獣「おかしいですね。このカーペットはウール製ですが」
ゼラド「この部屋の掃除を担当してたのは誰? たぶん、そのひとが!」
【別室】
ルアフ「プラスに帯電しやすいウールと、マイナスに帯電しやすいアクリルを重ねると、非常に静電気が発生しやすい状態になる。
その上を歩くと、靴との摩擦で火花が発生するっていう仕掛けさ。
さらに、エアコンの酸素発生装置に手が加えられていた形跡があった。
つまり、事件当時のオーナールームはただ歩いただけで人体発火が起こる状態になってたんだ。
マーズくんが発火しちゃったのは、四つ足が革靴より静電気を起こしやすかったからだね」
合体怪獣「本来の狙いは私だったのか」
上陸艇「あんたが、あんたが悪いんだ! 俺が借金で困ってるって、あんなにいったのに!
給料の前借りはできないって・・・・・・!」
ゼラド「逆恨みだよ、それって」
レイナ「行きましょ。あとは警察が」
マーズ「いや、ちょっと待ってよ。そいつの身柄はおれにちょーだい。
ケーサツがなにしてくれるってゆーの。
おれの場合器物破損だから、大きな罪にはならないよ。
それにね、刑事裁判てゆーのは国対犯罪者で行われるもんなんだ。
有罪になったって、罰金をもらうのは国であって被害者にはびた一文入んない。
被害者対加害者でやるのが民事裁判だけど、費用は原告持ちってゆーふざけたシステムだよ。
だからおれ、国なんか頼んない。オトシマエは自分でつけるよ」
ゼラド「オトシマエって」
マーズ「ねー、いーでしょ、オーナーさん。
カーペットの費用も、ちゃんとこいつに出させるからさ」
合体怪獣「うちとしても、従業員から犯罪者が出たことにはしたくありません」
ゼラド「でも」
マーズ「だいじょーぶだいじょーぶ。おれがニンゲンに危害加えらんないの、知ってるでしょ?
おれはアキンドだから、カネを払わせるいじょーのことはしないよ」
ルアフ「好きにしたまえ。警察には、プラズマの自然発生とか、適当なこといっとこう」
レイナ「ちょっと、いいの!?」
ルアフ「探偵の仕事はね、犯人を見つけるまでなんだよ」
バタン
マーズ「じゃー、始めよーか。まず、おれのボディの修理費用2000万。
カーペットの弁償金500万。今日いち日、おれがシノギできなかった分は5万でいーや。
おれの精神的苦痛についてロハにしちゃう。判例なくて、判断しづらいし。
ついでに街金からの借金300万も一本化してやって、合計2805万。
これが、あんたが払うカネだよ。なーんだ、けっこーリーズナブルじゃん。
おれがロボでよかったねー、ニンゲン殺してたら、損害賠償の相場は5000万だよ。
生涯賃金が2億くらいなこと考えると、これもずいぶんお安い値段だけどさ」
上陸艇「そんなこといわれても、とても」
マーズ「わかってんよー。どーせこのホテルもクビになるだろーし。
おれがしゅーしょく斡旋してやんよ」
上陸艇「それって、まさか」
マーズ「あー、希望のお船とか、そーゆーのは期待しないでね。
おれ、分の悪い賭けとかどっちでもいータチだから。
業務内容は単純明快な土木作業。
作業現場は山ン中。お国のためになる、りっぱな公共事業だよ。
まー、間に仲介業者5つくらい入ってるけどね。
日給8000で月21日勤務として、ひと月16万8000。うち、6万を返済にまわしてもらう。
あー、あと寮住まいしてもらうから、食費と施設使用費が5万。
その他、税金年金保険料とかさっぴいて、あんたの手取りは月2万てとこかな。
もちろん、余裕があんなら多めに払ってくれていーよ。むしろそーして」
上陸艇「なんだよ、それ」
マーズ「年利は25%ね」
上陸艇「ふざけんなよ! そんなの、違法じゃねえか!」
マーズ「は? なにいってんの?
そりゃーたしかに、利息制限法じゃ年利15%が上限だね。
でもさー、違反したとこで罰則もなーんもないほーりつに、なんのこーそく力があるってーの。
むしろ、法定金利ギリギリの29%とか言い出さない、おれのフトコロの深さにカンシャしてほしーよ。
べつに、そのうち改正されそーだから、なんとなく安くしたわけじゃないよ?」
上陸艇「ふざけんな! お前、さっき人間に危害くわえられないって」
マーズ「くわえてないじゃん。
おれのデータベースだと、ニンゲンにお仕事紹介してあげんのはいーことだってインプットされてるけど?
これ、違うの? そしたらハローワークは犯罪組織なの? 転職サイトはアングラサイトなの?」
上陸艇「払わねえ! 俺は払わねえぞ!
ロボを一体壊しただけじゃねえか、そんな大金払わなくちゃならねえほど悪いことなんかしてねえ!」
マーズ「あのさー、あんたが住んでるここはどこ? 資本主義でしょー?
カネ持ってる側に都合いーよーにできてんの。
なにが悪いっていやー、あんたがカネ持ってないのが一番の悪なんだよ!」
上陸艇「この、バケモノ! 四本足!」
マーズ「おれのバネ足の夢潰しといて、ずーずーしーよ。
ほら、すぐにお迎えが来るから、さっさと行ってちゃっちゃと稼いできな。
あー、そうだ。現場の皆さん、10年単位で女って生き物見てないからだいぶ見境つかなくなっちゃってるけど、
まーそのへんは自己責任でくぐり抜けて」
上陸艇「いやだ、いやだ! 俺は、ただ給料の前借りを」
マーズ「うまくして、まかり間違ったら、出てくるころには年金貰えるからさー!
まー、希望を捨てずにがんばってよ、あきゃきゃきゃきゃ!」
最終更新:2009年11月14日 11:15