ハザリアルート(1)

19代目スレ 2007/10/09

【午後1:00 バルマー寮】
【午後2:00 イスルギフード】
【午後3:00 ゾンボルト家】
【午後3:30 学校】
【午後4:00 図書室】
【午後4:30 図書館】
【午後5:00 ケイサル神社】

■主人公を選択してください。
●ハザリア
 バルマー星からの留学生にして演劇部の部長。公演はしたいが費用がない。カネを勝ち取るため、お宝探して東奔西走!

■この主人公でいいんですか?
●お断りだ
→主人公選択へ

●よかろう
【午後1:00 バルマー寮】
 悲しむべきことに、大衆とは常に愚衆であるとは本当のことだ。
 書物を紐解くまでもなく、人類の歴史は様々な天才を生み出してきた。
 ところが、ナポレオンの例を出すまでもなく天才が時代を作ることはついになかった。
 歴史を築くのは、常に大衆であった。
 なぜ天才が時代を作れないかといえば、それは大衆が足を引っ張るからだ。
 なぜ引っ張るかといえば、それは大衆が愚かだからだ。
 嘆かわしい、実に嘆かわしいことだ。
 くだらぬ凡俗のごときは、天才のやることにただただ感嘆し、拍手のタイミングだけを考えていればよいのだ。
 もしも天才が歴史を紡いでいたなら、それはそれは素晴らしい世界ができあがっていたに違いない。
 そこではくだらない争いは起きない。
 飢えもなく、貧困もない。
 文化経済科学、あらゆる面で、このくだらない現実を遙かに凌いでいたはずだ。
 ただ、天才のやることを粛々と享受する。
 たったそれだけで、あまねく問題は解決するのだ。
 なぜ言い切れるのか、疑問に思うか?
 それは俺が天才だからだ。
マリ「ひとの話を聞いてるのか!?」
 深淵なる思索のひとときは、耳を打ったくだらない怒鳴り声と、頭を打ったくだらない衝撃によって中断を余儀なくされた。
 俺の名はハザリア・カイツ
 惑星バルマーの伝統と実績を継ぐべき、貴族の生まれである。
 いや、よくよく考えてみると、バルマーには侵略戦争の実績はあっても、受け継ぐべき伝統などさらさらないな。
 第一、惑星バルマー自体20年ほど前にブラックホールに呑まれて滅んでしまった。
 だから、俺が生まれ育ったのは父上たちの世代が移住をして、
『じゃあどうする、新しい母星だし、新バルマーとでも呼んどく?』
『ないわあ、新バルマーっていう名前のセンス、なしだわあ』、
『いや、逆にありじゃね?』
『いいじゃんもう、バルマーのまんまでさあ』
のような経緯を経てバルマーと呼ばれているだけの、わりとどうでもいい惑星だ。
 訂正しよう。
 俺は、継ぐべき伝統もなく、継いではいけない実績を背負った貴族の生まれである。
 フム、なんだかいやな肩書きになってしまったな。
マリ「おい、こっちを向け」
 バルマー寮の、俺の部屋だ。
 俺の超絶技巧をもって組み上げられたプラスチックモデル群、技術の粋が凝らされた超合金、アニメーションや特撮などの映像ディスク、
ヨシユキ・トミノ、ゴー・ナガイ、ケン・イシカワ、ヨシユキ・サダモト、江戸川乱歩、横溝正史、シェイクスピア、エミリ・ブロンテ、J・D・サリンジャー、
J・P・ホーガン、カート・ヴォネガット・ジュニア、その他諸々。
 地球文化の数々が、精妙なるバランスをもって棚や床の上に並べられている。
 聖域といっても過言ではないこの空間に、現在招かれざる闖入者が紛れ込んでいた。
マリ「なにをブツクサいっているんだ」
 小柄な娘が、中途半端に貧相な胸の前で腕組みをしている。
 うっすらと赤みがかった栗色の髪を持ち、丸い形をしたアクのない顔の上では、細い眉を鋭角に吊り上げて俺を睨みつけていた。
 こいつの名前はマリ・コバヤシ
 俺が率いてやっている演劇部の看板女優、ということになっている。
 誰がいっているのかは、知らん。
 いっておくが、俺は認めていない。
 元はといえば、こいつは教室の端っこで姉だか妹と一緒にひっそり生きているような人種だった。
 それを俺が拾い上げてやったのだが、こいつときたら、まあ日増しに態度がでかくなるばかりだ。
 本来俺に払うべき敬意というものを、コンビニで買い物するついでに募金ポストにでも入れてきてしまったらしい。
 まったく、恩知らずという言葉はこいつのためにこそ存在しているようなものだ。
リトゥ「マリ、そんなふうにいうもんじゃ」
 眼鏡の上にうっすらと紫がかった髪を載せた娘が、眼鏡の下でおたおたした表情を浮かべ、眼鏡の位置を直しながら眼鏡的な口をはさんだ。
リトゥ「マリ、ハザリアくんは考え中なのよ。脚本書いてるときは、いつもそうじゃない」
 この、眼鏡をかけているのはリトゥ・スゥボータ
 マリの腹違いの妹で、そして眼鏡をかけている。
 存在の8割を眼鏡に引きずられているような人生を歩いている女だ。
 腹違いという言葉からわかるようにマリとリトゥの母親はまったく別の人間だ。
 たしか地球のこのあたりのエリアでは重婚は禁止されているはずだが、なぜこいつらの家のようなことが起こっているのか、詳しいことは知らんし知る気もない。
 大方、不健全ななにかが行われたのだろう。
マリ「おい、わかってるんだろうな。公演まであと半月を切ってる。
 いい加減稽古に入らないと間に合わない」
 マリはくどくどとまくし立てる。
マリ「もちろん、脚本はできあがってるんだろうな」
 なにも、こいつらはなんの理由もなく休日の昼下がりから俺の部屋に来ているわけではない。
 俺の手による超脚本を、スズメのヒナのようにピーチクパーチクとねだるためだ。
 嘆かわしいことだが、我が母星バルマーは長らく文化から遠ざかっていた。
 敵対する惑星が大量にあったのだから、無理もない。
 ところが20年ほど前、軍事路線を捨て平和路線を歩むことが決まると、そうもいっていられなくなった。
『やばくね? このままじゃやばくね?』と、誰がいったのか知らんが、
案外ヒラデルヒアあたりがいったのかもしれんが、
バルマーは失った文化を取り戻すために様々な方策を行うようになった。
 俺が地球に留学しているのも、その一環だ。
 この地球という星は、エネルギー資源の使い方も住民の生活レベルも低いくせに、軍事技術と文化と缶コーヒーのレベルだけが異様に高い。
 だからだろうか、俺の父上は昔から地球文化を愛好していた。
 俺は、その影響を受けた。
 いっておくが、純粋に父上からの影響だ。
 もう1人誰かいたような気がするが、やつのことはもうどうでもいい。
 そういうわけで、俺は地球にやって来た。
 初めはディスクや書籍をコレクションしているだけで満足だったが、やがて自分の手で作り上げたいと思うようになった。
 それはそうだろう。
 バルマーが俺を留学させたのは文化の担い手にするためで、仲介業者を作るためではない。
 俺は文化部をぶち上げ、監督脚本として辣腕を振るうようになった。
リトゥ「出直しましょうよ、邪魔しちゃ悪いし」
マリ「いーや、あの顔は違う。
 こいつがこういうふうに話をはぐらかすときは、決まってそうなんだ」
 やれやれ、やかましい連中だ。

■どうする?
●マリに話しかける
マリ「なんだよ」

●リトゥに話しかける
リトゥ「ねえ、そうだよね? 考え中なんだよね?」

●草に水をやる
 その必要はない。
 俺の部屋に鎮座しているガラス張りの円筒形はフォトトロンといって、全自動で水と液体肥料を供給できる優れものだ。
 地球の技術レベルのごときはバルマーに比べればヒヨッコもいいところだが、たまにいい仕事をするから侮れない。
 このフォトトロンは、NASAという組織の技術協力によって作られたそうだ。
 宇宙ステーションで野菜を栽培するためだという触れ込みだが、なに、本音はわかりきっている。
マリ「なんだ、その、妙に葉っぱがギザギザした草は」
リトゥ「ハザリアくん、ガーデニングなんてするんだ。かわいいハーブね」
ハザリア「ま、ハーブの一種ではあるな。大麻とかマリファナとかガンジャとか梵という呼び方もあるが」
 ガシャンと音を立てて、フォトトロンが江戸川乱歩全集の上で横倒しになる。
 あろうことか、マリのやつがフォトトロンを蹴っ飛ばしたのだ。
ハザリア「あ、ああ! 貴様、なにをするか!」
マリ「なにホームグロウにまで手を出してるんだ。
 いったい、何回やめろっていわせれば気が済むんだ!」
ハザリア「黙れ、黙れよ! 貴様の機嫌を伺う義理など、俺にはないわ!」
マリ「お前が身体を壊すのは勝手だけど、頭と右手だけは生きててもらわないと困るんだよ!」
 俺は、つくづく思う。留学する場所を間違えた。
 べつに地球のことをいっているわけではない。問題はエリアだ。
 そもそも、地球において大麻とは2000年以上前から人類の友であり続けた植物だ。
 コロンブスが梅毒と一緒に西洋社会に持ち込んだタバコなどとは歴史が違う。
 大麻は非常に繁殖力が強く、栽培も簡単だ。
 嗜好品のほかに産業用、医療用として、地球の各地で愛用されている。
 ところがだ、どういうわけかこのエリアでは、妙に厳しく大麻を取り締まっている。
 そのため、住人の大麻に関する知識は驚くほど薄い。
 使っている字がおなじというだけの理由で、大麻と麻薬の区別が付かない有様だ。
 規制する理由といえば、馬鹿のひとつ覚えみたいに『身体に悪い』のひと言だ。
 バカバカしい、話にならない。
 依存性や健康被害でいえば、地球で異常なほど蔓延しているアルコールやニコチンの方がはるかにたちが悪い。
 だいたいにして、嗜好品とは身体に悪いものだ。
 美味いものといい女は身体に悪いものだと、相場が決まっている。
マリ「飛び降りるつもりか、マンションから飛び降りるつもりなのか、お前は!」
ハザリア「マリという呼び名もある草に対して、ずいぶんないいようだな」
マリ「知りたくなかったよ、そんなアウトローなトリビアは!
 いいから、脚本を寄こせ!」
 おたおたと慌てるリトゥの横で、マリはやたらにまくし立てる。
マリ「つまり、できてないんだな」
ハザリア「甘く見るな。もちろんできているとも。
 俺の頭の中では、すでに1から10まで組み上がっている」
マリ「やっぱりできてないんじゃないか」
ハザリア「黙れ、黙れよ! できてはいても、予算とのかねあいが面倒なのだ!」
マリ「え、カネ、ないのか」
リトゥ「ないのよ」
 リトゥがしょんぼりと呟いた。
 こいつは眼鏡をかけているので、演劇部の会計のような役目を任せている。
リトゥ「演劇部の予算は火の車。新しい衣装や舞台装置を買うお金なんて、とても」
マリ「お前が、いつもいつも考えなしに予算を食いつぶすからだ!」
ハザリア「黙れ、黙れよ! 貴様だって、土壇場になってやれ背景に色を加えろだの、照明をもっと増やそうだの、しょうもないことを言い出して予算を圧迫するではないか」
リトゥ「あと、前から気になってたんだけど、
 この、取材費っていう名目で出てる新幹線とかの領収書は」
 マリが俺の頭をひっぱたいた。
マリ「お前のくだらない放浪に部費を使うな!」
ハザリア「貴様こそ、いつもいつもバクバクと遠慮会釈もなく駅弁を平らげているではないか!」
 心なしか、リトゥがムッとしたような顔をした。
 たぶん気のせいだろう。やつの表情は、眼鏡に遮られて読みにくい。
リトゥ「部費を捻出する方法なら、心当たりがあるけど」

■どうする?
●話を聞かない
マリ「聞けよ!」

●話を聞く
【午後2:00 イスルギフード】
 暇で物好きな金持ちがいて、ネットで宝探しをしてくれる人間を捜している。
 リトゥがもたらした情報を要約すると、そういうことだった。
 で、その暇で物好きな金持ちがいるというところが、このイスルギフードだ。
 イスルギフードは、現在業界2位に着けている大手外食チェーン店だ。
 もっとも、利益の大半はM&Aで稼ぎ出しているとか、親会社の社長が息子の社会勉強のために設立しただとか、
その息子の額にはピーナッツ大のホクロがあるとか、くだらん噂もよく聞く。
 ま、此岸と彼岸を行き来する芸術家であるところの俺にとって、俗な事情はどうでもいい。
 とにかく、我々はその、イスルギフードOG支部が入っているビルのロビーに来ていた。
 先ほどリトゥが受付に話をしたから、じきに例の暇で物好きな金持ちがくるはずだ。
ミツハル「どうだいスレイチェルくん、このあと食事でも」
スレイチェル「最近は見境なしかミツハル。スレイチェルは女性ではない」
ミツハル「では、男性なのか!?」
スレイチェル「男性でもない! スレイチェルは性別イグニションである!」
マーズ「ねーねーミツハルさーん、お花とかオシボリの仕入れ先は、もー決まってる? ねーねー」
 ふたりの男女、いや、違うな。
 さらに、低い駆動音と、ガチャンガチャンという無粋な音まで聞こえている。
 実に形容に困る一団がロビーに入ってきた。

■見る
●スレイチェル
 細い胴体に、すらりと細長い手足を備えた人物だった。
 特に腰のあたりは、柳を思わせる流麗なラインを描いている。
 スマートな白いシャツにサテン素材の黒いパンツを合わせ、腰には金色に輝くベルトを巻いていた。
 黒光りするパンプスで、音を立てて大理石の床を歩いている。
 たっぷりと量が多い豪勢な金髪を緩く縦に巻き、毛先を細い肩の上に載せていた。
 スレイチェル・ファッツメッカー。
 こうしていると女性に見えるが、どうも違うらしい。かといって、男性でもないらしい。
 実際、堅牢に組み合わさった肩のあたりの骨格や、コンパクトな尻などは男性的にも見える。
 本人は、性別イグニションなどと称している。
 実は男のように見える女だとか、女のように見える男だとか、はたまたまったく未知の性別だとか、説だけはたくさんある。
 本当のところは本人しか知らない。
 ややもすると、本人も知らないのかもしれない。
 正直いって、こういう得体の知れない相手は苦手だ。

●マーズ
マーズ「フルネームはマーシャン・マンハンター・フロム・マーズだよっ!」
 もちろん嘘だ。
 今どき珍しく『ロボット三原則』を積んでいるクラシカルなロボに、マンハントなどできるはずがない。
 ヴァルストーク備品No.123・マーズ。
 父親というか制作者の名前から2字もらったのと、祖父というか祖父のモチーフとなった人物のルーツが火星にあるからというのが名の由来らしい。
 ビジネスのために製造され、ビジネスのために活動するビジネスロボだ。
 上半身はどこにでもいるような十歳前後の子供だが、それだけに強化樹脂製の外装が剥き出しになった四本足が異様に見える。
 もちろん、最新のロボティクスを用いれば人間そっくりなロボを作ることは可能だ。
 ところが、人間そっくりなロボは事実ほとんど存在しない。
 そうしなければならない事情は、人間の側にある。
 人間、特に地球人はよほど自分のアイデンティティに自信がないらしい。
 人間そっくりな姿と頭脳を持つ機械に人権を主張された場合、笑って済ませることができないのだ。
 労働力として作られているロボに人権など与えていては、それこそ仕事にならない。
 そういうわけで、高度なAIを搭載したロボに関しては人間とかけ離れた姿に作られることが多い。
 こいつのように手足が4、5本あることもあるし、ツノが生えていたり羽根が生えていたり、ほとんど神話上のモンスターのような姿になることもしばしばだ。
 もっとも、こいつの場合、弁は達者だがデータの蓄積が未熟らしく、いまいち人間の感情を理解していないところがある。

●ミツハル
ミツハル「やあ、君たちだね。アオギツネノミタマを探してくれるというのは」
 おそろしく趣味の悪いスーツを着た男が、額の中央に鎮座しているピーナッツ大のホクロを赤緑色にテカらせた。
 見たところ年齢は20代前半ほど。
 のっぺりした顔に、自信なさげな小物くさい目を持っていた。
 ミツハル・イスルギ
 イスルギグループの総帥である母親と、政界のコウモリ野郎と蔑称される父親が、政治上の駆け引きの中でうっかり作ってしまった子供だという噂だ。
ミツハル「ではさっそく始めようか。
 そもそも、妖怪変化は目には見えないが、ちゃんといるものなんだ」
 なにやら、怪しげな話をし始めたぞ。
ミツハル「今をさかのぼること500年前、この地はおそるべき妖魔の脅威にさらされていた。
 その妖魔は凶悪極まりなく、火を吐いては山を焼き、稲妻を呼んでは作物を台無しにし、一晩の間に何十もの人間を食らったという。
 住民はただ、恐怖に打ち震えるしかなかった。
 そんなときだ。
 青く輝く炎が天から落ち、妖魔を青い石に封印してしまった。
 村人たちはこれを天の思し召しに違いないと、その石を丁重に祀ったそうだよ」
マリ「ええっと」
リトゥ「どうしよう」
 満足げな顔で語り続けるミツハルを前に、マリとリトゥは困った顔を見合わせていた。
ミツハル「アオギツネノミタマと名付けられたその石が、
 まだどこかに残っていると考えると、ロマンを感じませんか?」
マリ「あのぅ」
マーズ「あー、気にしないで。ミツハルさんの趣味なんだよ。
 高校ンとき考古学同好会に入ってて、土器のカケラ掘り出したのをしつっこく自慢してくることでゆーめーなんだから」
 大会社の若社長のくせに、なんだか地味な青春を送っていたらしい。
リトゥ「あの、スレイチェル先輩たちもアオギツネノミタマを探すんですか?」
スレイチェル「いや、今度商店街の皆さんと協力してフェアをやることになってな、
 その打ち合わせに来ただけだ」
マーズ「おれは隙あらばスレイチェルちゃんを損切りしてミツハルさんに取り入るために来たんだよ」
ミツハル「備品、伏せ」
マーズ「ぷぎゃっ!」
 このマーズというロボのロジックは、どこかくるっているのかもしれない。
 人間の命令には絶対服従なくせに、人間に忠誠を誓っているわけではないらしい。
ミツハル「アオギツネノミタマはフェアの展示物にするつもりなのさ。
 郷土を救ったパワーストーンなんて、ロマン溢れるじゃないか」
 喋っている横から肩に伸びてくるミツハルの手を、スレイチェルはすげなく打ち払う。
スレイチェル「そんなものが存在していると思うのか。
 ここは歴史の浅い町だ。そんなに古いものがあるはずないだろう」
リトゥ「そういえば」
 リトゥが眼鏡をずり上げ、そして眼鏡を光らせる。
リトゥ「このへんが開発されたのって20年くらい前に軍の施設ができてからで、
 その前は沼地だらけだったって聞いたことあるけど」
スレイチェル「ああ、小さな集落で、猟師が山で鉄砲を持って、
タヌキやイノシシを撃って煮て焼いて食うなどして、ひっそりと暮らしていたそうだ。
 一晩で何十人も食い殺すバケモノなど出たら、あっという間に全滅だ。
 いったい、どこの誰が伝承を残したというのだ?」
 スレイチェルのいうことももっともだ。
 おそらく、青い炎というのはハレー彗星かなにかを見間違えたものだろう。
 未開人種は、天変地異の類を神か悪魔の仕業として畏れるものと相場が決まっている。
 村を荒らしていたケチな盗賊が、彗星に怯えて逃げ出してしまったと、真相はこんなところだろう。
ミツハル「それはだね、妖魔を倒した武芸者がその場にお寺を建てて」
スレイチェル「妖魔を倒したのは、空から降ってきた青い炎ではなかったのか」
ミツハル「いろいろ説があるんだよ!」
 ミツハルはイラッとくる仕草で肩をすくめた。

■返事をする
●やってられるか
リトゥ「どうしよう、ほかにアテなんて」
 リトゥが途方に暮れた顔をしている。

●やってやる
ハザリア「よかろう、探してやる」
 俺にとっては、真相などどうでもいい。
 カネを出してくれるちょろいカモがいる。なら、やりようはいくらでもある。
ハザリア「現物があれば、それを持ってくる。
 ただし付随する事物があれば、それも買え」
ミツハル「ほぉう」
 ミツハルがのっぺりした顔に緩い笑みを浮かべた。
ミツハル「よろしい。できたら、古文書のように形のあるものがいいな」
 やはりな。こいつは、ただの骨董趣味のカネ持ちだ。
 古いものなら、なんでもかんでもありがたがって、実際の価値以上のカネをポンと出す人種だ。
 カネ持ち御しやすしとは、よくいったものだ。
 適当に古いものを見つけ出して、売りつけてやればよい。
 こいつなら、旧家の倉の隅で転がっている火縄銃の部品でも喜ぶような気がする。
ミツハル「では行きたまえ。ただし、経費も報酬も後払い。もちろん成功報酬だ。構わんね?」
ハザリア「よかろう」
 そもそも経費をかけるつもりなどないし、経費と呼べる持ち合わせもない。

■どうする?
●もう少し話を聞く
スレイチェル「では、スレイチェルたちも行こうか」
ミツハル「待ちたまえよスレイチェルくん。
 向こうに、美味しいパンナコッタ専門店があるんだ」
スレイチェル「お前が税金対策に出した、くだらない赤字店だろう。
 あんなゲテモノを食べたらスレイチェルの舌がくるう」
マーズ「ねーねー、ミツハルさーん。
 宣伝用に、でっかいバルーンとか上げる気なーい?」
 長居は無用のようだぞ。

●外に出る
マリ「あんな安請け合いをして、大丈夫なのか」
リトゥ「どこに行くの?」

■移動する
●酒場
 情報収集といえば酒場、というセオリーが地球にはあるらしい。
リトゥ「ダメよ、お酒なんて!」
 いわれるまでもなく、あんな毒物に興味はない。
 毎年多数の中毒患者を出しているマヌケな星と違い、我がバルマーではアルコールの類は厳しく規制されている。
 もちろん、ニコチンのごときは何百年も前に駆逐済みだ。
 だいたいにして、知的生命体のくせに好きこのんで酩酊状態に陥りたがるとは、地球人のやることは理解しがたい。
 やはりピースでハッピーなバイブスな感じの……、
マリ「大麻の有用性を説こうとするのをやめろ!」

●ゾンボルト家
【午後3:00 ゾンボルト家】
 大きな日本邸宅だ。
 元は旧家の持ち物であったのを、サムライマニアのドイツ人が借り受けて使っているらしい。
 この家には、自分の国籍を忘れ去ったエセザムライの父親と、マッドサイエンティストの母親と、
見た目30代半ばな高校生の息子が住んでいる。
 門は硬く閉まっていた。
 どうやら留守のようだ。
リトゥ「ゼフィア先輩に、なにか用なの?」
ハザリア「いや、この家の倉ならなにかしら古いものがあるだろう。
 ヨロイカブトかカタナでもかっぱらって、適当ないわくを着けてミツハルに売りつければ」
マリ「まず考えるのがイカサマか、お前は!」
 がなりたてるマリの向こうに、見知った姿があった。
 ミナト・カノウが、身体を小刻みに震わせながら俺のことを睨みつけていた。
 こいつは元々パンチなど微塵も打っていないのに『パンチが得意』などと吹聴するようなおかしな男だが、はて、睨まれる覚えなどないが。
ミナト「チクショー! お前の、お前の人生がそれで正しいと思ったら大間違いだからな!」
 なにやらわけのわからないことを喚いて、ミナトはそのまま走り去ってしまった。
マリ「なんだったんだ、あれは」
ハザリア「さあな。やつの人生が、あのままではいけないとは思うが」

■移動する
●遊園地
 俺はピースでハッピーな気分になる趣味はあっても、遊具でトランス状態に入る趣味は持ち合わせていない。

●学校
【午後3:30 学校】
 俺たちが通う学校だ。
 休日ということで、人影はまばらだった。
 グラウンドでは野球部が練習に励んでいる。
ナヴィア「あら」
 いやな相手に会ってしまった。俺は顔をしかめた。
 ナヴィア・クーランジュ。
 生まれ育ちは月だが、どういう経緯からか最近地球に引っ越してきた。
 性別は女だが、欲望の対象も女だという。
 もっとも、俺の見立てではこいつのビアン趣味はただのお遊びだ。
 いいとこ、コバルト文庫レベルだろう。
 ゲイ・フィルム・フェスティバルにでも行けば、そのへんがわかるはずだ。
ハザリア「なぜ貴様が学校にいる。
 転校早々、補講でも仰せつかったか」
ナヴィア「今度商店街で開かれるフェアで、展覧会をやるのよ。
 作品制作の時間が足りないから、休日のうちに進めておきたいの」
マリ「休日返上か。誰かに爪の垢でも飲ませてやりたいな」
 熊の手なら、だいぶ前に食べてみたことがある。
 俺の舌には合わなかった。

【午後4:00 図書室】
アルヴィ「やあハザリアくん、やっぱり来てくれたんだね!」
 校舎に入るや、またぞろ聞きたくもない声を聞く羽目になった。
 アルヴィ=ヴァン・ランクス。ナヴィアの弟だ。
 姉弟のくせにナヴィアと姓が違うのは、単にナヴィアが『クーランジュ』という母方の姓を気に入っているからだという。
 ナヴィアは祖先を大事にしないやつだと思う。
マリ「やっぱりって、なにか約束でもしてたのか?」
ハザリア「しとらん」
アルヴィ「きっと来てくれるって信じてたよ。
 僕にはわかっているんだ。ハザリアくんが前々から神への信仰の道に入りたがってるって」
 はっきりいう。俺はこいつが苦手だ。
 まず、会話が成立しない。
 どういう根拠があるのか知らんが、この世のすべてが性善説で構築されていると思っているらしい。
ハザリア「神など実在しとらん。
 全知全能の神が実在しているのなら、この世はなぜこれほど中途半端なのだ。
 ニーチェにいわれるまでもなく、神などとっくの昔に死んでいるのだ。
 仮に生きていたとしても、人間への愛想など尽きに尽きているだろうよ」
アルヴィ「神の愛は無限さ。
 僕たちが神を信じている限り、神は僕たちを見守ってくだすっているんだよ」
ハザリア「ああ、そうか。
 では神というのは、見守っているだけでなにもしない怠け者なんだろうよ」
 長く会話をしていると、壺を売りつけられそうな気がする。
 俺は移動しようとした。
リトゥ「ハザリアくん、どこ行くの?」
ハザリア「図書室で調べ物だ」
アルヴィ「え、あそこは、あまり役に立たないんじゃないかな」
リトゥ「そうよ。ここの図書室って、かなり新しいものしかないもの」
 そうだったのか。
 普段は図書室に行くまでもなく自前で書籍を集めているから、知らなかった。
ハザリア「そういうことは早めにいえ!」
マリ「お前がなにもいわず、ずかずか先に行くからだろう!」

■移動する
●バルマー寮に戻る
 たしかに俺の蔵書量はかなりのものだが、今回役に立ちそうなものはない。

●図書館に向かう
【午後4:30 図書館】
 公営の図書館だ。
 2階建てで、蔵書量はかなりのものがありそうだ。
 児童書コーナーで喧騒を上げているガキどもを横目に、俺たちは専門書などが入っている2階に上がった。
 建ち並ぶ本棚の奥に分け入っていくと、古書特有の臭いがぷんと香った。
 郷土史コーナーだ。
 建物自体は新しいくせに、本棚に並んでいる背表紙はやけに古びていた。
リトゥ「何年か前に亡くなった郷土史家の遺族が、蔵書を寄付してくださったんですって」
 リトゥの声を耳に入れながら、俺は一冊の本を手に取った。
 ページを繰りつつ、床に尻を落とす。
マリ「こら、そんなとこにしゃがみ込んじゃ」
リトゥ「マリ、ハザリアくん、こうなったらダメだから」
 天才がなぜ凡人を凌駕する働きができるかといえば、それは強靱な集中力を持ち合わせているからだ。
 思考状態に入った俺には、余人の声はほとんど入らない。
ハザリア「気が散るだけだから、貴様らは向こうにいっていろ。
 そうだな、古新聞でもあさっているがいい。
 なにかめぼしい情報でも見つけられれば儲けものだ」
 マリがなにかいったような気がした。
 俺の聴覚はすでに外界からの音を受け付けなくなっていた。

■なにを読む?
●エロ本
 なるほど、土偶とは豊穣の象徴であり、豊穣とは女性のふくよかな乳房というわけか。
 いや、こんなものはどうでもいい。

●郷土史の本
 俺は郷土史に関する本を片っ端から読みあさった。
 まず、土地に伝わる伝承だ。
 どこかの猟師が殿様の命を助けて褒美をもらった。
 村の娘がヘビの妖怪と恋をして、その証に川ができた。
 巨人がいて、山を作り、津波を止めた。
 どこにでもあるような昔話が並んでいる。
 しかし、昔話があるということは、昔に人が住んでいたということだ。
 さらに、どこかで聞いた話だということは、情報の伝達があったということであり、人の行き来があったということになる。
 読み進めると、ミツハルから聞いた話に行き当たった。
 ただし、細部が微妙に異なる。
 村を荒らしていた妖怪に対して、青い色をした別の妖怪が挑んだ。
 二体の妖怪の戦いは三日三晩続き、四日目の朝に、突如として青い火柱が立った。
 村人が様子を見に行ったところ、二体の妖怪はどちらも姿を消していて、ひとつの石だけが残っていたという。
 村人たちはこの石を『袈裟瑠璃神社』という場所に祀った。
 ページを繰る手が、ここでぴたりと止まった。
 『袈裟瑠璃神社』という音は、どこか聞き覚えがある。
 俺は本棚から一冊の古地図を引っ張り出した。
 リトゥのいうとおり、やはり昔は沼地だらけだったようだ。
 ただし、それでも人は住んでいた。
 集落とも呼べないほどの規模で、人家を表す書き込みがぽつぽつと見られる。
 その、東北の方向だ。
 かすれてはいるが、『袈裟瑠璃神社』という文字があった。
 現在もこの町にある、ケイサル神社とおなじ場所だった。
 なるほど、もともと神主でもなんでもないジジイがなぜ神社などやっているのかいまいちわからなかったが、どうやら元々ある神社に住み着いていただけらしい。
 よし、情報はそろった。
ハザリア「フハハハ! よお貴様ら、収穫はあったか」
 俺は1階に降り、閲覧コーナーで古新聞を広げていたマリたちに声をかけた。
マリ「図書館では静かにしろ」
リトゥ「えぇっと、この町の人口が増え始めたのは、やっぱり20年前に軍施設ができてからだったんだけど、
 正確には、それよりもう少し前から始まってたんですって。
 大学ができて、学生さんとか飲食店の人とかが住むようになったんだけど、学生運動が盛んな時代だったから治安がちょっと」
ハザリア「貴様は、普通に郷土史を調べてどうするつもりだ」
 つくづく、このリトゥという女は要領が悪い。
 なんというかこいつは、そのうちどうしょうもない男に惚れて、どうしょうもない人生を送るような気がする。
マリ「そっちはどうなんだ」
 俺は古地図を開いて机に叩きつけた。
ハザリア「行くぞ、場所はケイサル神社だ」
リトゥ「あっ、ちょっと待って、片付けを」

【午後5:00 ケイサル神社】
 神社とは、地球のこのあたりで信仰されている古くさいアニミズムの神殿だ。
 人心掌握にもカネ集めにもならない宗教が1000年以上続いているところを見ると、このあたりの住民は妙なところで信心深いらしい。
 高い石段を登り終え、俺は荒い息をついていた。
マリ「体力ないなあ、もう」
ハザリア「ふん、いっておくが、俺に肉体的な働きを期待されても困る」
マリ「心配しなくても、お前の肉体なんか頭の先から尻尾の先まで、まるっきり期待してないよ」
リトゥ「マリ、尻尾の先なんていうもんじゃ」
 リトゥがなぜか顔を赤らめている。
 食い付きどころがよくわからない眼鏡だ。

 神社の境内で、小柄な少女が藁箒を動かしていた。
 じっとこちらを見る目は、ひどく感情が読みにくい。
 ここの神主の孫娘である、ルサイケ・エフェスだ。
 正確には、養女のようなものらしい。
 口数が少なく、ちょっとなにを考えているのかわからない女だ。
リトゥ「こんにちは、ルサイケちゃん」
ルサイケ「……」
 リトゥの言葉に対し、ルサイケはほとんど聞こえない声で呟きながら小さく頭を下げた。
ハザリア「ケイサルのジジイに用がある。出せ」
ルサイケ「……メカ……ギルギル……ガン……」
 よく聞き取れなかったが、どうやらケイサルはメカギルギルガンあたりとどこかへ行っているらしい。
 大方、年寄りで集まってエロビデオでも観ているのだろう。
ハザリア「では、貴様でいい。
 この神社は最近になって建て直されたものだな?
 それ以前のものはどこにある」
 ついと、ルサイケはものもいわず本堂の奥を指差した。

 そろそろ日が暮れかけている。
 本堂の奥にあった雑木林は、薄暗くなっていた。
 木と雑草に埋もれるようにして、ぽつんと小さな祠があった。
 もとは塗料が塗ってあったらしい表面はすっかり色あせ、惨めな姿をさらしている。
 扉には一応南京錠がかかっていたが、引っ張るとたやすく壊れた。
 中に入ると、異様な臭いが鼻をついた。

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最終更新:2009年11月14日 11:20
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