星屑と人形劇は罪の色
何も分かろうとしていなかった。
間違いなんて、最初から一つしかなかった。
正しさなんて、言ってしまえば合理化の材料でさしたる問題ではなかった。
手を尽くしてさえいなかったくせに、手遅れだなんてどの口が言う。
近付く勇気があればある程、苦痛は多くなってゆく。それが、少しだけ辛かった。
その果てに待つ終焉が何よりも辛いと、分かっていた、なのに。
何時まで隠れているつもりなのだろう。
何時まで監獄に閉じ籠っているのだろう。
どれだけ立派に拵えても、所詮はバラックだと言うのに。
何時まで俺達は親友の助けを待つつもりでいるのだろう。
偽りの檻への合鍵なんて、誰も彼も持って無いのに。
間違いなんて、最初から一つしかなかった。
正しさなんて、言ってしまえば合理化の材料でさしたる問題ではなかった。
手を尽くしてさえいなかったくせに、手遅れだなんてどの口が言う。
近付く勇気があればある程、苦痛は多くなってゆく。それが、少しだけ辛かった。
その果てに待つ終焉が何よりも辛いと、分かっていた、なのに。
何時まで隠れているつもりなのだろう。
何時まで監獄に閉じ籠っているのだろう。
どれだけ立派に拵えても、所詮はバラックだと言うのに。
何時まで俺達は親友の助けを待つつもりでいるのだろう。
偽りの檻への合鍵なんて、誰も彼も持って無いのに。
地面に情けなく転がる箒へとこれまた情けなく這い、やっとの事で空中へ浮遊する事が出来た少年、カイルは静かにその戦闘を見ていた。
目まぐるしく動く二人は流石と言うのだろうか。
お互いの機動力は下手をすれば追い切れない程に目を見張るものがあった。
本質はインファイターながらも短弓や蔦を駆使したトリッキーな攻撃手段を秘めたティトレイ、その攻撃は大味ながら三属性を有効に利用し敵の体力を賢く削るヴェイグ。
無論心の力、フォルスという特殊能力の賜物在っての戦術なのだろうが、その戦闘技術は他の追随を決して許さない。
だが。
だがしかし、である。
カイルは微妙な違和感をその戦闘から感じ取っていた。本の微かだが、何かが何処かに引っ掛かって仕方が無いのだ。
喉の奥に刺さった魚の小骨の様に、探ろうともがく程奥に深く刺さり、しかし正確には何処に刺さっているかすら分からない。
故にそれが取れる事は無く苦しむ羽目になる……そんな、煩わしい歯痒さ。
確かに言うまでも無く二人が繰り広げている戦闘は華麗にして圧倒的だ。
間違っても実力が不足している訳では無い。
が、何故だろうか。息を飲むまでとは行かないのだ。
何処か二人に、微かながら鈍りがある。そうカイルは直感的に感じる。
それは敢えて言葉という形にするならばそう、“迷い”。
いや、敢えてと言う必要性すら無いか。この小骨の正体は間違い無く迷いだ。
互いが互いを攻撃しながらもその理由を失っているかの様な、手段と目的を履き違えてしまった様な、そんな違和感。
端的に言うならばこれは戦闘ではなく劇のレベルだとさえ思える。
双方ともが己を動かす理由に疑問を感じ、なお且つ落とし掛けている。
目まぐるしく動く二人は流石と言うのだろうか。
お互いの機動力は下手をすれば追い切れない程に目を見張るものがあった。
本質はインファイターながらも短弓や蔦を駆使したトリッキーな攻撃手段を秘めたティトレイ、その攻撃は大味ながら三属性を有効に利用し敵の体力を賢く削るヴェイグ。
無論心の力、フォルスという特殊能力の賜物在っての戦術なのだろうが、その戦闘技術は他の追随を決して許さない。
だが。
だがしかし、である。
カイルは微妙な違和感をその戦闘から感じ取っていた。本の微かだが、何かが何処かに引っ掛かって仕方が無いのだ。
喉の奥に刺さった魚の小骨の様に、探ろうともがく程奥に深く刺さり、しかし正確には何処に刺さっているかすら分からない。
故にそれが取れる事は無く苦しむ羽目になる……そんな、煩わしい歯痒さ。
確かに言うまでも無く二人が繰り広げている戦闘は華麗にして圧倒的だ。
間違っても実力が不足している訳では無い。
が、何故だろうか。息を飲むまでとは行かないのだ。
何処か二人に、微かながら鈍りがある。そうカイルは直感的に感じる。
それは敢えて言葉という形にするならばそう、“迷い”。
いや、敢えてと言う必要性すら無いか。この小骨の正体は間違い無く迷いだ。
互いが互いを攻撃しながらもその理由を失っているかの様な、手段と目的を履き違えてしまった様な、そんな違和感。
端的に言うならばこれは戦闘ではなく劇のレベルだとさえ思える。
双方ともが己を動かす理由に疑問を感じ、なお且つ落とし掛けている。
成程、これでは劇の域を出ない筈だとカイルは一人納得した。
自分自身が考える戦闘としての定義から、目の前で展開されている構図が外れ過ぎている故に戦闘として見た時に違和感を拭い切れないのだろう。
いや、それとも別の何かなのだろうか?
自分自身が考える戦闘としての定義から、目の前で展開されている構図が外れ過ぎている故に戦闘として見た時に違和感を拭い切れないのだろう。
いや、それとも別の何かなのだろうか?
「……迷い、か」
先程感じたその語句を何の気無しに口にしてみる。
そう。本当に何の気無しにだ。けれどもカイルは胸を締め付けられるにも似た重圧を感じた。
それは自分にも言える事じゃないかと一人自嘲する。最早他人事では無い。
薄々、気付いてはいるのだ。……母を殺した人物が、一体誰であるのか。
「オレは、どうすればいいんだろう?」
それが逃避に他ならないと何処かで感じ取っているというのに。
少年は俯き、そう呟くと力無く笑ってみせた。
口の端が嫌に重く、上手く笑顔が造れずに出来損ないの表情が七色の魔力を帯びた箒に晒される。
半ば自棄になり呟かれた自問には期待する答えも、そうでない答えさえも提示されなかった。
そう。本当に何の気無しにだ。けれどもカイルは胸を締め付けられるにも似た重圧を感じた。
それは自分にも言える事じゃないかと一人自嘲する。最早他人事では無い。
薄々、気付いてはいるのだ。……母を殺した人物が、一体誰であるのか。
「オレは、どうすればいいんだろう?」
それが逃避に他ならないと何処かで感じ取っているというのに。
少年は俯き、そう呟くと力無く笑ってみせた。
口の端が嫌に重く、上手く笑顔が造れずに出来損ないの表情が七色の魔力を帯びた箒に晒される。
半ば自棄になり呟かれた自問には期待する答えも、そうでない答えさえも提示されなかった。
自分でさえ訳が分からぬ溜息が一つ、吐かれた。
自分から出た筈のそれは、しかし何故かやけに疲れきった音で少しだけ驚かされる。
「……オレって、こんな溜息吐く人間だっけ?」
動揺と疲労が少年の声に歪みの補正をかける。
そんなつもりで口から出した言葉では無い筈なのに、流石にここまでテンションが落ちた声だと笑えない。
いっそこの口を無くしてしまえば、無駄な感情の爆発や呆れる程の逃避発言もしないで済むのに。
自分の気持ちすら制御出来ない癖に、目の前の彼等の心情への考察、いや邪推をするなんて。何と自分は馬鹿なのだろうか。
「分かってるよ。分かってるけど、オレには判らない!」
苦悶に満ちた表情から搾り出されたそれには、見えない鎖が絡み付いていた。
その鎖は実態が無いが故に、例えどれだけ抗おうと外せない。
錘を纏った者はただ、もがき溺れる運命なのだ。
漆黒に澱む葛藤の水底で、少年はただ水面に浮かぶ淡い月明かりへと手を伸ばす。
それが偽りの月であると、分かっているのに。
「そんなに、簡単じゃないよ。分かっててもどうにもならない事だって、あるんだ」
この闘いの末に待つかもしれない“最悪の結末”を見た時、一体自分は何を思うのだろう。
カイルは小さな不安に駆られながらも目の前で展開される戦闘を見るべくして顔を上げた。
「“貴方”もそうなんでしょう?」
……何よりも先ず今は、彼等の闘いを見届けなければ。
自分から出た筈のそれは、しかし何故かやけに疲れきった音で少しだけ驚かされる。
「……オレって、こんな溜息吐く人間だっけ?」
動揺と疲労が少年の声に歪みの補正をかける。
そんなつもりで口から出した言葉では無い筈なのに、流石にここまでテンションが落ちた声だと笑えない。
いっそこの口を無くしてしまえば、無駄な感情の爆発や呆れる程の逃避発言もしないで済むのに。
自分の気持ちすら制御出来ない癖に、目の前の彼等の心情への考察、いや邪推をするなんて。何と自分は馬鹿なのだろうか。
「分かってるよ。分かってるけど、オレには判らない!」
苦悶に満ちた表情から搾り出されたそれには、見えない鎖が絡み付いていた。
その鎖は実態が無いが故に、例えどれだけ抗おうと外せない。
錘を纏った者はただ、もがき溺れる運命なのだ。
漆黒に澱む葛藤の水底で、少年はただ水面に浮かぶ淡い月明かりへと手を伸ばす。
それが偽りの月であると、分かっているのに。
「そんなに、簡単じゃないよ。分かっててもどうにもならない事だって、あるんだ」
この闘いの末に待つかもしれない“最悪の結末”を見た時、一体自分は何を思うのだろう。
カイルは小さな不安に駆られながらも目の前で展開される戦闘を見るべくして顔を上げた。
「“貴方”もそうなんでしょう?」
……何よりも先ず今は、彼等の闘いを見届けなければ。
結論を出すのはそれからでも、きっと、遅くない。
「せいッ!」
放出された水流を掛け声と共に振り下ろされた重い一撃が割る。
氷の青年、ヴェイグ=リュングベルの額に浮かんでいた汗が空中に飛び散った。
表面張力により霧散した無数の細かい水滴は玉と成り、各々が放物線を描きながら夕陽を浴び紫掛かった橙色に煌めく。
黄昏に染まった廃村に浮かぶそれらは宛ら宝石の様であり、瞬間的にその景色を切り取った一枚絵からは到底此所が死闘の舞台とは思えない。
と、その瞬間に一際大きな滴が空中で風圧により破裂する。蔓がその字の如く蔓延り、青年が居た場所を襲ったのだ。
ヴェイグは目の端で若干の違和感を地面に認め、半ば反射的に中腰からバック宙で勢い良く飛び出した蔓を避けた。
後ろで固く括られた三つ編みが遠心力により円の軌跡を描く。
夕焼けが彼の白銀の髪一本一本を息を飲む程美しい金色に染め上げ、蔓を出した張本人ティトレイ=クロウは口笛を吹き、一瞬だけ目を細めた。
一方、華麗に後方宙返りを決めたヴェイグは間髪を入れず左手にフォルスを集わせる。
蒼白く輝く掌が崩壊した家屋が散らばる地面に密着し、迫る蔓を瞬く間に透き通る氷の柩に閉じ込めた。
同時に軸足を捻りつつ身体を翻し氷の飛礫を手中から親友へと飛ばす。
ティトレイは氷の弾丸とその攻撃に至るまでの手際の良さを見て眉間に皺を寄せ苦笑いする―――パターンが分かっているだけで此所までやり辛くなるものなのか。
矢を左手で弄りながら目前に迫る氷飛礫を避ける為サイドステップをし、参ったな、と独り言。
放出された水流を掛け声と共に振り下ろされた重い一撃が割る。
氷の青年、ヴェイグ=リュングベルの額に浮かんでいた汗が空中に飛び散った。
表面張力により霧散した無数の細かい水滴は玉と成り、各々が放物線を描きながら夕陽を浴び紫掛かった橙色に煌めく。
黄昏に染まった廃村に浮かぶそれらは宛ら宝石の様であり、瞬間的にその景色を切り取った一枚絵からは到底此所が死闘の舞台とは思えない。
と、その瞬間に一際大きな滴が空中で風圧により破裂する。蔓がその字の如く蔓延り、青年が居た場所を襲ったのだ。
ヴェイグは目の端で若干の違和感を地面に認め、半ば反射的に中腰からバック宙で勢い良く飛び出した蔓を避けた。
後ろで固く括られた三つ編みが遠心力により円の軌跡を描く。
夕焼けが彼の白銀の髪一本一本を息を飲む程美しい金色に染め上げ、蔓を出した張本人ティトレイ=クロウは口笛を吹き、一瞬だけ目を細めた。
一方、華麗に後方宙返りを決めたヴェイグは間髪を入れず左手にフォルスを集わせる。
蒼白く輝く掌が崩壊した家屋が散らばる地面に密着し、迫る蔓を瞬く間に透き通る氷の柩に閉じ込めた。
同時に軸足を捻りつつ身体を翻し氷の飛礫を手中から親友へと飛ばす。
ティトレイは氷の弾丸とその攻撃に至るまでの手際の良さを見て眉間に皺を寄せ苦笑いする―――パターンが分かっているだけで此所までやり辛くなるものなのか。
矢を左手で弄りながら目前に迫る氷飛礫を避ける為サイドステップをし、参ったな、と独り言。
水と植物を使う自分にとって氷使いと炎使いは最も苦手なタイプだ。
遠距離攻撃は時間稼ぎ程度にしか成り得ない。
だが、かと言って接近戦で有利なのかと問われると答えは限り無ぁく否だ。
確かに機動力は勝るものの、一撃が剣対拳。
威力を比較する方が野暮と言うものだ―――さぁて、ならどうしたものか。
生温く不快な汗を顎に溜めながらも手慣れた様子で彼は矢を弓に装着し片目を閉じる。
半秒後、シュコンという軽快な音と共に短弓から木の枝で作られた矢が飛び出した。
更にバックステップをしつつ続けて二発。
合計三発の攻撃は自らに突っ込んでくるヴェイグの眉間、心臓、喉元を正確に捕捉した見事な連射だった。
一方のヴェイグは器用にそれを往なしてゆく。
一本目を体勢を低くし避け、二本目をディムロスの炎で葬り、三本目は刀身で弾いた。
遠距離攻撃は時間稼ぎ程度にしか成り得ない。
だが、かと言って接近戦で有利なのかと問われると答えは限り無ぁく否だ。
確かに機動力は勝るものの、一撃が剣対拳。
威力を比較する方が野暮と言うものだ―――さぁて、ならどうしたものか。
生温く不快な汗を顎に溜めながらも手慣れた様子で彼は矢を弓に装着し片目を閉じる。
半秒後、シュコンという軽快な音と共に短弓から木の枝で作られた矢が飛び出した。
更にバックステップをしつつ続けて二発。
合計三発の攻撃は自らに突っ込んでくるヴェイグの眉間、心臓、喉元を正確に捕捉した見事な連射だった。
一方のヴェイグは器用にそれを往なしてゆく。
一本目を体勢を低くし避け、二本目をディムロスの炎で葬り、三本目は刀身で弾いた。
この程度で俺を倒すつもりなのか、とヴェイグは鼻で笑いつつ改めて前方を睨む―――刹那、視野に違和感。
“先程までそこに居た筈のティトレイが居ない”。
“先程までそこに居た筈のティトレイが居ない”。
「まぁあれだな、お前が三本を落とすのは予想済みだよヴェイグ」
矢が右手方向から迫ったのは死角を利用し左から回り込む為の布石だと気付いた瞬間にはもう遅い。
圧縮された体感時間の中で、ヴェイグは己の胸に親友の両手がゆっくりと添えられる感触を確かに覚えた。
「弱点突くみてぇで悪ィが、それをカバーすんのも見つけて攻めるのも実力の内ってな。文句は言わせねぇぜ―――轟裂破」
炸裂した拳による衝撃派は青年の身体を強制的にくの字に曲げさせる。
横隔膜を圧迫され、まるで灼熱の炎で喉を焼かれている様な錯覚を感じた。
景色がぐらりと歪み、意識が一瞬飛び掛けるがその中でヴェイグは歯を食い縛り何とか耐える。
地に引き摺られる左足に無理矢理力を入れ、そこを軸とし力尽くで身体を捻り、隙だらけの青年の横腹へと伸ばした右足を襲わせた―――俗に言う下段の回し蹴りだ。
そしてヴェイグとティトレイはほぼ同時に瓦礫の山に仰向けに突っ込んだ。
どちらがどちらに遜色しているなんて事は無い。力は完全に互角と言って良いだろう。
圧縮された体感時間の中で、ヴェイグは己の胸に親友の両手がゆっくりと添えられる感触を確かに覚えた。
「弱点突くみてぇで悪ィが、それをカバーすんのも見つけて攻めるのも実力の内ってな。文句は言わせねぇぜ―――轟裂破」
炸裂した拳による衝撃派は青年の身体を強制的にくの字に曲げさせる。
横隔膜を圧迫され、まるで灼熱の炎で喉を焼かれている様な錯覚を感じた。
景色がぐらりと歪み、意識が一瞬飛び掛けるがその中でヴェイグは歯を食い縛り何とか耐える。
地に引き摺られる左足に無理矢理力を入れ、そこを軸とし力尽くで身体を捻り、隙だらけの青年の横腹へと伸ばした右足を襲わせた―――俗に言う下段の回し蹴りだ。
そしてヴェイグとティトレイはほぼ同時に瓦礫の山に仰向けに突っ込んだ。
どちらがどちらに遜色しているなんて事は無い。力は完全に互角と言って良いだろう。
ふと、ティトレイは大の字に倒れたまま目を細め遠く浮かぶ空を仰いだ。
今日は風も強くは無く、茜雲は実にゆったりと流れている。
その余りの優雅振りに急に全てが馬鹿馬鹿しく感じ、本当にこんな事をしていて良いのだろうかと自嘲した。
この闘いの先に一体何が待っているのか。
論じるまでも無く最悪のパターンだって数え切れない程にある。
自分はその中の内、どの選択肢を望んでいるのだろう。どれを、何故望んでいないのだろう。
こうなってしまった以上は結果に文句は付けられない、そんな事は疾うに分かっている。
しかしかと言って自分には別の方法が思い付かない。恐らくそれは、ヴェイグにも言える事だ。
ならばあいつも今同じ事を考えているのだろうか、と間抜けな表情でティトレイは思う。
……だったら兎に角、俺達はこの道の先、遠い地平線の向こう側に待つ結末を受け入れるしかないと言う事。
間抜けに開けられていた口の片端を釣り上げ、ティトレイは小さく嘲る。
何だ? 此所に不器用極まれり、ってか? 俺達らしいなぁおい。
今日は風も強くは無く、茜雲は実にゆったりと流れている。
その余りの優雅振りに急に全てが馬鹿馬鹿しく感じ、本当にこんな事をしていて良いのだろうかと自嘲した。
この闘いの先に一体何が待っているのか。
論じるまでも無く最悪のパターンだって数え切れない程にある。
自分はその中の内、どの選択肢を望んでいるのだろう。どれを、何故望んでいないのだろう。
こうなってしまった以上は結果に文句は付けられない、そんな事は疾うに分かっている。
しかしかと言って自分には別の方法が思い付かない。恐らくそれは、ヴェイグにも言える事だ。
ならばあいつも今同じ事を考えているのだろうか、と間抜けな表情でティトレイは思う。
……だったら兎に角、俺達はこの道の先、遠い地平線の向こう側に待つ結末を受け入れるしかないと言う事。
間抜けに開けられていた口の片端を釣り上げ、ティトレイは小さく嘲る。
何だ? 此所に不器用極まれり、ってか? 俺達らしいなぁおい。
実にゆっくりとした動作でティトレイは瓦礫から身体を起こす。
何故だろうか、それはこの隙に相手は攻撃してこないだろうという絶対に近い確信があったからだ。
そして、今しがた同じ事を思っていたのだろうという確信もまた、だ。
向こう側に居た親友に一瞥をやると、自らと同じように少しだけぎこちない笑いを浮かべていた。
「随分鈍ってんな、ヴェイグちゃんよォ」
フォルスキューブを右掌の上に浮遊させながら、ティトレイは皮肉めいた口調でその台詞を吐き捨てる。
ゆっくりと上下しながら旋回する彼の立方体が光を屈折させ、内部で全反射を起こしていた。
まるでプリズムの様で綺麗だが、一々反応している程暇は無い。
何故だろうか、それはこの隙に相手は攻撃してこないだろうという絶対に近い確信があったからだ。
そして、今しがた同じ事を思っていたのだろうという確信もまた、だ。
向こう側に居た親友に一瞥をやると、自らと同じように少しだけぎこちない笑いを浮かべていた。
「随分鈍ってんな、ヴェイグちゃんよォ」
フォルスキューブを右掌の上に浮遊させながら、ティトレイは皮肉めいた口調でその台詞を吐き捨てる。
ゆっくりと上下しながら旋回する彼の立方体が光を屈折させ、内部で全反射を起こしていた。
まるでプリズムの様で綺麗だが、一々反応している程暇は無い。
ところで自分は随分余裕めいて口上を吐いているが、本当に鈍っているのは誰なのだろうか、と思う。
全く、皮肉る相手を間違えている様では世話も無い。
「……そんなんじゃこの先、簡単に死ぬぜ?」
自分らしくない考えは終いだと気を紛らわせる様に左手でサッカーボールか何かを回す様にフォルスキューブを弾く。
内側に閉じ込められた光が乱反射を繰り返し、幻想的なオブジェへとそれを変える。
現実との乖離っぷりに思わず吹き出してしまいそうになる程の美しさだった。
ティトレイは景色から目を逸らす様に回転する半透明な立方体を見据える。
フン、と鼻で馬鹿にする様に笑う―――この後に及んで現実逃避か自分は。実にお目出度い脳味噌だ事で。
この場に来る前までは微塵もその様な事は思わなかったのだが……漸くそうか、と一人納得する。
何も難しい事ではない。正体は理解している。
全く、皮肉る相手を間違えている様では世話も無い。
「……そんなんじゃこの先、簡単に死ぬぜ?」
自分らしくない考えは終いだと気を紛らわせる様に左手でサッカーボールか何かを回す様にフォルスキューブを弾く。
内側に閉じ込められた光が乱反射を繰り返し、幻想的なオブジェへとそれを変える。
現実との乖離っぷりに思わず吹き出してしまいそうになる程の美しさだった。
ティトレイは景色から目を逸らす様に回転する半透明な立方体を見据える。
フン、と鼻で馬鹿にする様に笑う―――この後に及んで現実逃避か自分は。実にお目出度い脳味噌だ事で。
この場に来る前までは微塵もその様な事は思わなかったのだが……漸くそうか、と一人納得する。
何も難しい事ではない。正体は理解している。
つまるところ、自分は怖がっているのだ。
そしてその対象は他でも無い、ヴェイグ=リュングベル本人。
……嫌になるぜ、ホント。
ティトレイは立方体の光り輝く核を見つめたまま自嘲する。
もしも時間が赦すならば、ずっとこのまま光だけを見て居たいと少しだけ思った。
が、半透明なそれは知った事かと言わんばかりに現実を突き付ける。
フォルスキューブは御丁寧に向こう側に立つ人物を、青年の網膜に焼き付けたのだった。
「お前もな、ティトレイ。……高が剣士の俺の御座なり体術を往なせないとは、格闘家の名が泣くぞ?」
ヴェイグは血が滲んだ頭を右手で支えながら挑発を返す。
そしてその対象は他でも無い、ヴェイグ=リュングベル本人。
……嫌になるぜ、ホント。
ティトレイは立方体の光り輝く核を見つめたまま自嘲する。
もしも時間が赦すならば、ずっとこのまま光だけを見て居たいと少しだけ思った。
が、半透明なそれは知った事かと言わんばかりに現実を突き付ける。
フォルスキューブは御丁寧に向こう側に立つ人物を、青年の網膜に焼き付けたのだった。
「お前もな、ティトレイ。……高が剣士の俺の御座なり体術を往なせないとは、格闘家の名が泣くぞ?」
ヴェイグは血が滲んだ頭を右手で支えながら挑発を返す。
フォルスキューブを浮かべながら瓦礫の山に腰を沈めていた親友が少しだけ笑った。
「……そうだよなぁ。御互い様ってヤツだ。
ったく、五ツ星の格闘家、ティトレイ様があんなへなちょこキック喰らっちまったなんて……あれだなあれ、一生の恥ってヤツ?」
捲し立てる様な言葉と共にガラガラと瓦礫で音を立てながら青年は重い腰を上げる。
尻に付いた白い砂塵を手で払い、落ち着いたところでゆっくりとティトレイはヴェイグの“無い方”の目を見つめた。
唐突に吹き抜けた旋風が、彼の肩にまで伸びた髪を攫う。
少しくすんだ黄金のサークレットに付けられた飾り布がぱたぱたと音を立てた。
「来いよ。まだ“終わり”じゃねぇ」
拳を顔の前に構え、ファイティングポーズを取るティトレイ。
自分が言った事なのにその“終わり”が意味するものがあまりにも抽象的で、彼は少しだけこれが他人事の様に感じる。
曖昧過ぎて、もしかしてそんなもの自体存在しないのではないだろうかという疑問さえ沸いた。
「……そうだよなぁ。御互い様ってヤツだ。
ったく、五ツ星の格闘家、ティトレイ様があんなへなちょこキック喰らっちまったなんて……あれだなあれ、一生の恥ってヤツ?」
捲し立てる様な言葉と共にガラガラと瓦礫で音を立てながら青年は重い腰を上げる。
尻に付いた白い砂塵を手で払い、落ち着いたところでゆっくりとティトレイはヴェイグの“無い方”の目を見つめた。
唐突に吹き抜けた旋風が、彼の肩にまで伸びた髪を攫う。
少しくすんだ黄金のサークレットに付けられた飾り布がぱたぱたと音を立てた。
「来いよ。まだ“終わり”じゃねぇ」
拳を顔の前に構え、ファイティングポーズを取るティトレイ。
自分が言った事なのにその“終わり”が意味するものがあまりにも抽象的で、彼は少しだけこれが他人事の様に感じる。
曖昧過ぎて、もしかしてそんなもの自体存在しないのではないだろうかという疑問さえ沸いた。
ティトレイは少し離れて立つ親友へとピントを合わせる。
その奥には絨毯が敷き詰められたかの様な茜色が広がっていた。
雄大なそれを前にして、己という存在が如何に矮小かを理解させられた様な気がした。
『今更、羞恥が拭えなくて』
吸い込まれてしまいそうな橙から逃げる様にティトレイはヴェイグへと駆ける。
『どうにもならなくて』
朽ちた建造物から伸びた影が、視界を少しだけ暗くする。
『どうしても素直になれなくて』
構えられた拳と足、そして短弓にフォルスが集う。
『それでも俺は―――』
弦が軋みながら鳴り、煌めく水晶を思わせる圧縮された水球が発射された。
「蒼破」
ヴェイグは咄嗟にディムロスで防御の体勢を取る。
彼の対処は間違いでは無い。ブーメランにも似たそれを避けるのは不可能には近い事に加え、打ち落とすとなれば次に待つ強烈な踵落としをガードする隙が無くなるからだ。
唯一の誤算があるとすればそれは、彼がこの技の特殊能力を忘れてしまっていた事だろう。
その奥には絨毯が敷き詰められたかの様な茜色が広がっていた。
雄大なそれを前にして、己という存在が如何に矮小かを理解させられた様な気がした。
『今更、羞恥が拭えなくて』
吸い込まれてしまいそうな橙から逃げる様にティトレイはヴェイグへと駆ける。
『どうにもならなくて』
朽ちた建造物から伸びた影が、視界を少しだけ暗くする。
『どうしても素直になれなくて』
構えられた拳と足、そして短弓にフォルスが集う。
『それでも俺は―――』
弦が軋みながら鳴り、煌めく水晶を思わせる圧縮された水球が発射された。
「蒼破」
ヴェイグは咄嗟にディムロスで防御の体勢を取る。
彼の対処は間違いでは無い。ブーメランにも似たそれを避けるのは不可能には近い事に加え、打ち落とすとなれば次に待つ強烈な踵落としをガードする隙が無くなるからだ。
唯一の誤算があるとすればそれは、彼がこの技の特殊能力を忘れてしまっていた事だろう。
ヴェイグはディムロスとその弾丸が接した瞬間、奇妙な手応えに漸くそれを思い出す―――あ、しまった。弾かれる。
ディムロスはそれを本人より僅かに早く、刀身をして知った。
不味いぞヴェイグと叫ぶが反応が皆無に等しく、ディムロスはどうしたのだとマスターを見上げる。
……どうしようもない、とでも言いたげな苦い笑みが零れていた。
ディムロスはそれを本人より僅かに早く、刀身をして知った。
不味いぞヴェイグと叫ぶが反応が皆無に等しく、ディムロスはどうしたのだとマスターを見上げる。
……どうしようもない、とでも言いたげな苦い笑みが零れていた。
一瞬の油断が招くものは、致命的な失態だ。
思えば、何時だってそうだった。一時の気の迷いが取り返しの付かない事態を生み出してきた。
今回も、そうなのだろうか。
蒼破連天脚の能力を忘れていた事、では無い。
何かに迷いを覚えているのは確実だ。何かに縛られているのも分かっている。
知っている。知っているのだ。そこに大した意味は無い事だと万すら余裕で過ぎる程に。
今回も、そうなのだろうか。
蒼破連天脚の能力を忘れていた事、では無い。
何かに迷いを覚えているのは確実だ。何かに縛られているのも分かっている。
知っている。知っているのだ。そこに大した意味は無い事だと万すら余裕で過ぎる程に。
ふと、手元を見る。
大層な手錠を繋げたまま、何かを掴もうとする醜い両手があった。
自分はまた間違ってしまっているのだろうか―――本当に?
頑丈に造り過ぎた自前の手錠が、脳内で乾いた金属音を鳴らす。
―――もし、それすらもが間違いだと言うのならば、何が正解なのだろうか。
足元に何かが煌めく。自前の鍵は、何時だってそこにあるのに。
大層な手錠を繋げたまま、何かを掴もうとする醜い両手があった。
自分はまた間違ってしまっているのだろうか―――本当に?
頑丈に造り過ぎた自前の手錠が、脳内で乾いた金属音を鳴らす。
―――もし、それすらもが間違いだと言うのならば、何が正解なのだろうか。
足元に何かが煌めく。自前の鍵は、何時だってそこにあるのに。
「―――連天脚」
蒼い瞳がかろうじて弧を描いて飛んでゆく炎の剣を捉える。
目線はそのままで慌てて懐に入れておいたチンクエディアを取り出す。
上から迫る重力を味方にした渾身の一撃を受け、魔力で固められた水の刃はぴしりと音を立てた。
「くぅッ!」
水の刃の面に衝撃に備え十字に拵えた左手が軋む。
高が刃一枚、威力の吸収は矢張り期待出来ず、痛みは半端では無い。
食い込む刃には歯を強く食いしばり耐えた。細かい血飛沫は透き通る水色によく栄える。
蒼い瞳がかろうじて弧を描いて飛んでゆく炎の剣を捉える。
目線はそのままで慌てて懐に入れておいたチンクエディアを取り出す。
上から迫る重力を味方にした渾身の一撃を受け、魔力で固められた水の刃はぴしりと音を立てた。
「くぅッ!」
水の刃の面に衝撃に備え十字に拵えた左手が軋む。
高が刃一枚、威力の吸収は矢張り期待出来ず、痛みは半端では無い。
食い込む刃には歯を強く食いしばり耐えた。細かい血飛沫は透き通る水色によく栄える。
直後バックステップで距離を取りながら、だがしかし同時にヴェイグは安堵していた。
繰り出されたのは奥義、これ以上の追撃が無いと踏んでいたからだ。
しかしその予想は大いに裏切られる羽目になる。
繰り出されたのは奥義、これ以上の追撃が無いと踏んでいたからだ。
しかしその予想は大いに裏切られる羽目になる。
「何だよそのユルい顔。安心でもしたか? ……甘いっての」
とすん、と肩と胸に衝撃。何が起きたか理解する頃には、太腿にも電流にも似た激痛が走っていた。
「ぐ……あああぁぁぁッ!」
ヴェイグの顔が苦悶に歪む。
喉から搾り出される様な不快な叫び声が轟いた。
苦痛をして細まった視界でヴェイグはそれを捉える。
三発の鋭い弓矢は、見事に彼の肉に食らい付いていた。
ふと先程のティトレイの行動を思い起こす―――フォルスキューブを回していたのは、この為だったのか。
「ぐ……あああぁぁぁッ!」
ヴェイグの顔が苦悶に歪む。
喉から搾り出される様な不快な叫び声が轟いた。
苦痛をして細まった視界でヴェイグはそれを捉える。
三発の鋭い弓矢は、見事に彼の肉に食らい付いていた。
ふと先程のティトレイの行動を思い起こす―――フォルスキューブを回していたのは、この為だったのか。
「あぁ、悪いがこいつは貰うぜ。戦闘で相手の攻撃手段を減らすのは常套手段だ」
左手を翳してティトレイはそう笑う。
ぱちんと彼の指が鳴ると、ヴェイグの足元に現れた蔓がチンクエディアだけを正確に弾いた。
左手を翳してティトレイはそう笑う。
ぱちんと彼の指が鳴ると、ヴェイグの足元に現れた蔓がチンクエディアだけを正確に弾いた。
もう一本、ティトレイの足元から伸びた蔓が空中で旋回する刃を華麗にキャッチする。
「そう睨むなよ……何もあっちの剣まで取ろうってんじゃねぇんだ。
取っていいぜ、待っててやるよ。丸腰の剣士を嬲る程悪趣味じゃねぇ」
余裕を見せ付ける様にそう言うと、ティトレイは顎で地面に転がるディムロスを指す。
額に皺を浮かべる青年は到底自分が信用ならないという様子で、ティトレイは自嘲気味ににへらと笑った。
「へっ、そんなに信用がねぇか?
安心しな。本当に俺が一方的に殺るつもりなら、今頃お前は額で呼吸してら」
BANG、と額に短弓を当て弾くフリをしつつ、そう言い捨てるティトレイ。
お世辞にも笑えはしないジョークだが、成程それも尤もな話だと額に浮かぶ脂汗を袖で拭きつつヴェイグは思った。
高が相手は獲物を失い身体は重症の剣士。
本当に屠るだけがティトレイの目的ならば、彼の言う通り疾うに額にそれは涼しい風穴が空けられ、ジ・エンドだっただろう。
漸くぴんと張っていた糸が緩み――無論彼を信用した訳では無いが――、視界の隅にあったディムロスを直視する。
茜色が精錬された刃に反射し、正に炎の剣に相応しい風貌だった。
勿論、地に情け無く落ちているという事を除けばの話だが。
そんな下らない事を考えながらディムロスを拾った時だった。
小さな違和感が全身を駆け巡る―――待てよ、ならばティトレイの目的は何だ?
俺の行動理由は見定める為。すると奴の行動理由は一体?
殺す為で無いとすれば、即ち奴がマーダーで無いと云う事か?
いや。それは否だ。
奴が先程俺を殺さなかったのは紳士的な理由であり、マーダーでない事への必要十分な条件には成り得ない。
だが、今までのティトレイの行動から考えても此所であの様な行動を敢えて取る理由が無いのは明確だ。
その理由は至って簡単だ。
二対一という不利な状況に居るマーダー、ティトレイ=クロウにとってそれは不利益にはなるが利益にはならないのだから。
ミントを逃がすというお座なりの理由も遂げてしまった今、それは更に説得力を増している。
だとすれば矢張り妙だ。何かが、矛盾している。
根本的な部分のいずれかが間違っているとでも言うのか……?
「……まぁいい。考えて分からないならこの目で見定めるまでだ。絶―――瞬影迅」
「そう睨むなよ……何もあっちの剣まで取ろうってんじゃねぇんだ。
取っていいぜ、待っててやるよ。丸腰の剣士を嬲る程悪趣味じゃねぇ」
余裕を見せ付ける様にそう言うと、ティトレイは顎で地面に転がるディムロスを指す。
額に皺を浮かべる青年は到底自分が信用ならないという様子で、ティトレイは自嘲気味ににへらと笑った。
「へっ、そんなに信用がねぇか?
安心しな。本当に俺が一方的に殺るつもりなら、今頃お前は額で呼吸してら」
BANG、と額に短弓を当て弾くフリをしつつ、そう言い捨てるティトレイ。
お世辞にも笑えはしないジョークだが、成程それも尤もな話だと額に浮かぶ脂汗を袖で拭きつつヴェイグは思った。
高が相手は獲物を失い身体は重症の剣士。
本当に屠るだけがティトレイの目的ならば、彼の言う通り疾うに額にそれは涼しい風穴が空けられ、ジ・エンドだっただろう。
漸くぴんと張っていた糸が緩み――無論彼を信用した訳では無いが――、視界の隅にあったディムロスを直視する。
茜色が精錬された刃に反射し、正に炎の剣に相応しい風貌だった。
勿論、地に情け無く落ちているという事を除けばの話だが。
そんな下らない事を考えながらディムロスを拾った時だった。
小さな違和感が全身を駆け巡る―――待てよ、ならばティトレイの目的は何だ?
俺の行動理由は見定める為。すると奴の行動理由は一体?
殺す為で無いとすれば、即ち奴がマーダーで無いと云う事か?
いや。それは否だ。
奴が先程俺を殺さなかったのは紳士的な理由であり、マーダーでない事への必要十分な条件には成り得ない。
だが、今までのティトレイの行動から考えても此所であの様な行動を敢えて取る理由が無いのは明確だ。
その理由は至って簡単だ。
二対一という不利な状況に居るマーダー、ティトレイ=クロウにとってそれは不利益にはなるが利益にはならないのだから。
ミントを逃がすというお座なりの理由も遂げてしまった今、それは更に説得力を増している。
だとすれば矢張り妙だ。何かが、矛盾している。
根本的な部分のいずれかが間違っているとでも言うのか……?
「……まぁいい。考えて分からないならこの目で見定めるまでだ。絶―――瞬影迅」
ティトレイの両目が速度を上げたヴェイグを、その背後の地平線の彼方に夕陽が沈む様を認める。
……そう言えば、クレスはもう限界だったか。
ミントがあいつが狂う前に追い付けたかは運任せだが、さて。
……そう言えば、クレスはもう限界だったか。
ミントがあいつが狂う前に追い付けたかは運任せだが、さて。
ティトレイは速度を上げて迫る親友へダッシュする。
刹那に迫る三連撃を往なし、裏拳がヴェイグの顔が“あった”位置を襲った。
空振りをした拳を掲げたまま、ティトレイは背後に一瞥を投げる。
流れる様な美しい剣閃が幻と共に現れる。最後の切り上げがティトレイの背中に傷を刻んだ。
苦痛に顔を歪めるティトレイ。この時ばかりはリバウンドを克服しヒトの身体に戻った事を後悔した。
やるじゃねぇか、と言ってやりたい処だが、とティトレイは軸足に力を入れながら思う。
……生憎と、今はそんな下らない口上に暇を回している余裕は無い。
間髪を入れず繰り出された回し蹴り。
鬱陶しい程に適当に伸ばされた髪が激しく衝撃に揺らぐ。
束になった毛髪の先から、汗の飛沫が飛び散った。
時を同じくして、息を吐く間が無い程に早撃ちされた追尾性の三連発がヴェイグを襲う。
彼が持っていたディムロスが蔓に弾かれ、鮮血が緑の衣服に降り注ぐ。
刹那、ティトレイは大きく目を見開いた。
刹那に迫る三連撃を往なし、裏拳がヴェイグの顔が“あった”位置を襲った。
空振りをした拳を掲げたまま、ティトレイは背後に一瞥を投げる。
流れる様な美しい剣閃が幻と共に現れる。最後の切り上げがティトレイの背中に傷を刻んだ。
苦痛に顔を歪めるティトレイ。この時ばかりはリバウンドを克服しヒトの身体に戻った事を後悔した。
やるじゃねぇか、と言ってやりたい処だが、とティトレイは軸足に力を入れながら思う。
……生憎と、今はそんな下らない口上に暇を回している余裕は無い。
間髪を入れず繰り出された回し蹴り。
鬱陶しい程に適当に伸ばされた髪が激しく衝撃に揺らぐ。
束になった毛髪の先から、汗の飛沫が飛び散った。
時を同じくして、息を吐く間が無い程に早撃ちされた追尾性の三連発がヴェイグを襲う。
彼が持っていたディムロスが蔓に弾かれ、鮮血が緑の衣服に降り注ぐ。
刹那、ティトレイは大きく目を見開いた。
―――俺は一体、何をしているのだろう。
何故こうも必死に親友と戦闘を繰り広げている。
発端はミントの邪魔をさせない為だった筈だ。それだけで以上も以下も存在しない。
ミントはもう十分に逃げた筈だ、そうだろう?
カイルだって、ミントを追う素振りは見せていないじゃないか。
ならば、もう俺がヴェイグと争う道理は無い筈だろう?
実に簡単に導き出される結論じゃないか。
いや、或いは……真逆。
何故こうも必死に親友と戦闘を繰り広げている。
発端はミントの邪魔をさせない為だった筈だ。それだけで以上も以下も存在しない。
ミントはもう十分に逃げた筈だ、そうだろう?
カイルだって、ミントを追う素振りは見せていないじゃないか。
ならば、もう俺がヴェイグと争う道理は無い筈だろう?
実に簡単に導き出される結論じゃないか。
いや、或いは……真逆。
――――その先の想定出来る未来が、俺の望んだ事?
それを想像した瞬間、形容し難い恐怖と寒気がティトレイの身体を包み込む。
結局マーテルに諭されても諭されないでもヴェイグとこうして争うのか。
別に、単にそれだけの理由で俺は今畏れている訳じゃない。
その先の選択肢を、きっと俺は知っている。だから。
きっと、俺達のどちらかが ぬ。どちらかが される、その選択肢側に足が沈み掛けている、だから―――。
結局マーテルに諭されても諭されないでもヴェイグとこうして争うのか。
別に、単にそれだけの理由で俺は今畏れている訳じゃない。
その先の選択肢を、きっと俺は知っている。だから。
きっと、俺達のどちらかが ぬ。どちらかが される、その選択肢側に足が沈み掛けている、だから―――。
瞬間、身体が一瞬だけ強張る。
飛び込んでくる景色、音、この身体。全てが紛い物に見えた気がして。
宝物が急にガラクタに成り下がってしまう気がして。
飛び込んでくる景色、音、この身体。全てが紛い物に見えた気がして。
宝物が急にガラクタに成り下がってしまう気がして。
結果が分かりきっているならば、これはまるで意味の無い人形劇じゃないか。
観客の為の娯楽の一つに過ぎない。
(違う。本当はそうじゃないと分かっている。
何時だって宝物は宝物で、景色は景色で、音は音で は だ)
けれど俺がやっているのは、矢張り諄い様だがまるで意味の無い事だ。
そこに意思と理由は存在しない。
(でもそれは違う。
分かっていながら必死に闘うのは、それで何かが“変わってくれる”かもしれないと期待しているからだ。
だから意味が無い事なんかじゃない!)
笑わせる。何かに頼らないと、何も変えられない臆病者のくせに、どの口が大層な事を吠える。
意味が在るなら“意味を持たせてみせろ”。
何も出来ないならば、矢張りそれは理由じゃない。
誰かに縋るだけなら、親友に期待するだけなら、有りもしない奇跡に期待するだけなら誰にでも出来る。
必死に動いているつもりでも、誰かさんはずっと座っているだけだ。
牢獄という名のとびっきりのバラックの中で。
だったら結論は何も変わらない。変える術すら持ち合わせていない。
そこにあるのは腐敗したプライドと、本音に似せて造った建前と、形骸の口実だけだ。
観客の為の娯楽の一つに過ぎない。
(違う。本当はそうじゃないと分かっている。
何時だって宝物は宝物で、景色は景色で、音は音で は だ)
けれど俺がやっているのは、矢張り諄い様だがまるで意味の無い事だ。
そこに意思と理由は存在しない。
(でもそれは違う。
分かっていながら必死に闘うのは、それで何かが“変わってくれる”かもしれないと期待しているからだ。
だから意味が無い事なんかじゃない!)
笑わせる。何かに頼らないと、何も変えられない臆病者のくせに、どの口が大層な事を吠える。
意味が在るなら“意味を持たせてみせろ”。
何も出来ないならば、矢張りそれは理由じゃない。
誰かに縋るだけなら、親友に期待するだけなら、有りもしない奇跡に期待するだけなら誰にでも出来る。
必死に動いているつもりでも、誰かさんはずっと座っているだけだ。
牢獄という名のとびっきりのバラックの中で。
だったら結論は何も変わらない。変える術すら持ち合わせていない。
そこにあるのは腐敗したプライドと、本音に似せて造った建前と、形骸の口実だけだ。
「―――なら、曲がりなりにも立派な理由を持ってるお前に負けるのは必然ってか。
そうだろ? ヴェイグ」
そうだろ? ヴェイグ」
彼は歯を剥き出しにして笑った。
嘲笑でもなければ自嘲でもない、冷笑や苦笑いでさえもない、意味を失った曖昧で極限まで還元された笑みだった。
親友は何かに堪える様に懐に手を伸ばす。
忍んでいた血を欲する桔梗が彼の胸に咲く。
真っ赤なシャワーを全身に浴び、漆黒の刀身は嬉しそうに怪しく黄昏時の光を反射していた。
ほらな、やっぱりだとティトレイは目を細める。
嘲笑でもなければ自嘲でもない、冷笑や苦笑いでさえもない、意味を失った曖昧で極限まで還元された笑みだった。
親友は何かに堪える様に懐に手を伸ばす。
忍んでいた血を欲する桔梗が彼の胸に咲く。
真っ赤なシャワーを全身に浴び、漆黒の刀身は嬉しそうに怪しく黄昏時の光を反射していた。
ほらな、やっぱりだとティトレイは目を細める。
親友が胸倉を掴み、自分に覆い被さった。
これから何が起きるか、そんな事は想像に難くない。
ただ、その先にある残酷な現実を彼は知っているから、だから少しだけ悲しくなった。
避けられない現実は、すぐそこにある。
これから何が起きるか、そんな事は想像に難くない。
ただ、その先にある残酷な現実を彼は知っているから、だから少しだけ悲しくなった。
避けられない現実は、すぐそこにある。
親友の掌が白銀にも似た淡い蒼に光る。
それが聖獣の力だという事実は勿論直ぐに分かったし、矢張りなとさえ思った。
それは何故だろうか、それが無意味だと知っていたからなのか。
すごく興味が薄れて、目の前で行われている一連の動作がまるで他人事の様に感じた。
「漸くだ、これで終わる事が出来る……ッ!」
それが聖獣の力だという事実は勿論直ぐに分かったし、矢張りなとさえ思った。
それは何故だろうか、それが無意味だと知っていたからなのか。
すごく興味が薄れて、目の前で行われている一連の動作がまるで他人事の様に感じた。
「漸くだ、これで終わる事が出来る……ッ!」
ヴェイグは目が眩む程の光に違和感を感じざるを得なかった。
自分で言っておいてと思うがこれで本当に終わり、なのだろうか。
そもそもだ、何がどう終わるのだろう。
成功したら一件落着? 元の親友に戻る?
自分で言っておいてと思うがこれで本当に終わり、なのだろうか。
そもそもだ、何がどう終わるのだろう。
成功したら一件落着? 元の親友に戻る?
“本当に、そう、だろうか?”
もしかしたら、何も終わらないかもしれない―――そんな筈は無いッ!
余計な事を考えるな、ヴェイグ=リュングベルッ!
今、ティトレイをシャオルーンの力で元に戻してやる、それだけだ、それだけでいい!
今俺が思うべきはそれだけだッ!
余計な事を考えるな、ヴェイグ=リュングベルッ!
今、ティトレイをシャオルーンの力で元に戻してやる、それだけだ、それだけでいい!
今俺が思うべきはそれだけだッ!
―――――――ただ、そうであって欲しかっただけだった。
「……な?」
十数秒に渡って継続した呆れる程の静寂を切り裂いたのは、自嘲気味な微笑みとくたびれたその一言だった。
何故だ、と小刻みに震えながら呟くヴェイグを見てティトレイは目を細める。
鬱憤と共に生気すらも絞り出す様な深い溜息を一つ吐き、目線を高く広がる茜色の海へと泳がせた。
薄く伸びた雲がゆっくりと、しかし互いを競う様に走ってゆく。
何故かその様子がとても滑稽な気がして、ティトレイは唇の端を少しだけ歪めてみせた。
「あーあ」
夕暮れの冷たい空気が肺を満たす。
―――少し、先程に比べ冷た過ぎる気がした。
「……一番星、まだ見えねぇなぁ」
その言葉に特別な意味は無い。
恐怖を覚える程に深く、巨大な空に怯えた訳でも無ければ、特別星を見るのが趣味という訳でも無かった。
ただ何か、少しだけ、星が恋しい……そう感じたのだ。
そうして呟かれたそれは、尺では計れない程に遠く、冷めきった悲しさを帯びていた。
水の聖獣の加護を受けた燦然とした光の残滓が、まるで蛍の光のようにゆっくりとヴェイグの手から儚く消えてゆく。
ティトレイの胸に薄く根を降ろしていた氷が、冷えきった涙を零した。
「真逆、いや、そんな筈、は」
極度の狼狽は吸い込まれる様なアイスブルーの瞳を騒がしく流す。
それ以上言葉を続けられず、ヴェイグは親友の胸に置かれた手を無言でだらりと下げた。
空気さえも、掴む気にならなかった。
無意識に下唇を強く噛む。ずきり、と痛んだのは白く変色した唇でなく身体の芯である事に少し動揺する。
十数秒に渡って継続した呆れる程の静寂を切り裂いたのは、自嘲気味な微笑みとくたびれたその一言だった。
何故だ、と小刻みに震えながら呟くヴェイグを見てティトレイは目を細める。
鬱憤と共に生気すらも絞り出す様な深い溜息を一つ吐き、目線を高く広がる茜色の海へと泳がせた。
薄く伸びた雲がゆっくりと、しかし互いを競う様に走ってゆく。
何故かその様子がとても滑稽な気がして、ティトレイは唇の端を少しだけ歪めてみせた。
「あーあ」
夕暮れの冷たい空気が肺を満たす。
―――少し、先程に比べ冷た過ぎる気がした。
「……一番星、まだ見えねぇなぁ」
その言葉に特別な意味は無い。
恐怖を覚える程に深く、巨大な空に怯えた訳でも無ければ、特別星を見るのが趣味という訳でも無かった。
ただ何か、少しだけ、星が恋しい……そう感じたのだ。
そうして呟かれたそれは、尺では計れない程に遠く、冷めきった悲しさを帯びていた。
水の聖獣の加護を受けた燦然とした光の残滓が、まるで蛍の光のようにゆっくりとヴェイグの手から儚く消えてゆく。
ティトレイの胸に薄く根を降ろしていた氷が、冷えきった涙を零した。
「真逆、いや、そんな筈、は」
極度の狼狽は吸い込まれる様なアイスブルーの瞳を騒がしく流す。
それ以上言葉を続けられず、ヴェイグは親友の胸に置かれた手を無言でだらりと下げた。
空気さえも、掴む気にならなかった。
無意識に下唇を強く噛む。ずきり、と痛んだのは白く変色した唇でなく身体の芯である事に少し動揺する。
―――予想外だった、と言えば嘘になるかもしれない。
その可能性を自分は放棄していた。
それは埒外とも同義ではあるが、即ち“選択肢の一つとして思考の中に、確かにあった”と言える。
それは埒外とも同義ではあるが、即ち“選択肢の一つとして思考の中に、確かにあった”と言える。
つまり、俺は何処かでそうであるかもしれないと考えていたのだ。
考えていたのに。
考えていたのに。
「……どうして、こうなっちまうんだろうな」
小さく静かに、それでいて低くしっかりとした声がヴェイグの鼓膜を揺らした。
無造作なまま茂った緑色が風に乱れる。閉じられた瞼の裏側に、ティトレイは何を見るのだろうか。
紛い物の黄昏が青年の顔に影を落とす。
顔の起伏は強調され、ヴェイグに嫌にリアリティを感じさせた。
そして、痛い程に理解するのだ。自らが無意識に求めていたのは虚偽で塗り固められたリアルなのだと。
何も希望を持つ事が悪いと言っているのではない。
ただ、絶望的な現実への目を逸らすべきでは無かったのだと彼は早く気付くべきだった。
……どくん、と心臓の鼓動が一際大きく響いた気がした。
それは己が何処かで拠所にしていた何かが、崩れた事に気付いたからに他ならない。
無造作なまま茂った緑色が風に乱れる。閉じられた瞼の裏側に、ティトレイは何を見るのだろうか。
紛い物の黄昏が青年の顔に影を落とす。
顔の起伏は強調され、ヴェイグに嫌にリアリティを感じさせた。
そして、痛い程に理解するのだ。自らが無意識に求めていたのは虚偽で塗り固められたリアルなのだと。
何も希望を持つ事が悪いと言っているのではない。
ただ、絶望的な現実への目を逸らすべきでは無かったのだと彼は早く気付くべきだった。
……どくん、と心臓の鼓動が一際大きく響いた気がした。
それは己が何処かで拠所にしていた何かが、崩れた事に気付いたからに他ならない。
「つまりあれか。こうなっちまうのが運命とでも言いてェのか、神様って奴はよ?」
ぎこちない微笑みから苦々しい嘲笑が溢れ出す。
しかしそれが向けられたものは王都を覆う濃霧の様に不鮮明だ。
ティトレイは形容し難い違和感を覚えながらも自問する。
それは果たして自分への嘲笑なのか?
親友への嘲笑なのか?
それとも、舞台裏の悪魔の脚本家へか?
或いは、最初から誰に向けられて発せられたものでもないのだろうか。
「……まぁ、なんでもいいや」
そう呟くと自分だけの細い笑いが何故だか急に虚しく感じてきて、ティトレイ=クロウという存在が寂しく感じて。
笑いが止まり重い溜息が一つだけ漏れた。
口を真一文に閉じる。つられて笑いすらしない親友を細く、感情無く開かれた虚ろな目が捉えた。
「別に戸惑う必要は無いから安心しな。至って当然の反応だぜ?
そりゃあ笑えねェよな」
そうして静寂が訪れる。
穏やかな夕闇が包み込んだ戦禍の傷跡を残す廃村は、どこか淋しげだった。
「何故だティトレイ……何故なんだ……ッ!」
不意に、ヴェイグがティトレイの胸倉を強く掴み、訴える様な強い言葉を口から放った。
切り裂かれた静寂の穴から、飽和した様に様々な感情が溢れ出す。
地に伏す親友を、氷の青年は乱暴に揺さぶった。
だらしなく転がる炎の剣がマスターの名を呼ぶが、青年は反応すらしない。
真実を見ても尚、彼には理由を直接聞かねば納得出来なかったのだ。
ぎこちない微笑みから苦々しい嘲笑が溢れ出す。
しかしそれが向けられたものは王都を覆う濃霧の様に不鮮明だ。
ティトレイは形容し難い違和感を覚えながらも自問する。
それは果たして自分への嘲笑なのか?
親友への嘲笑なのか?
それとも、舞台裏の悪魔の脚本家へか?
或いは、最初から誰に向けられて発せられたものでもないのだろうか。
「……まぁ、なんでもいいや」
そう呟くと自分だけの細い笑いが何故だか急に虚しく感じてきて、ティトレイ=クロウという存在が寂しく感じて。
笑いが止まり重い溜息が一つだけ漏れた。
口を真一文に閉じる。つられて笑いすらしない親友を細く、感情無く開かれた虚ろな目が捉えた。
「別に戸惑う必要は無いから安心しな。至って当然の反応だぜ?
そりゃあ笑えねェよな」
そうして静寂が訪れる。
穏やかな夕闇が包み込んだ戦禍の傷跡を残す廃村は、どこか淋しげだった。
「何故だティトレイ……何故なんだ……ッ!」
不意に、ヴェイグがティトレイの胸倉を強く掴み、訴える様な強い言葉を口から放った。
切り裂かれた静寂の穴から、飽和した様に様々な感情が溢れ出す。
地に伏す親友を、氷の青年は乱暴に揺さぶった。
だらしなく転がる炎の剣がマスターの名を呼ぶが、青年は反応すらしない。
真実を見ても尚、彼には理由を直接聞かねば納得出来なかったのだ。
それを目にして息が詰まる様な胸の痛みを、全身を緑に包む親友は感じた。
信じるとか信じないとか、そういう薄っぺらい次元の話では無い。
ただ、想定はしていて許容が出来ずに項垂れる目の前の友と、そこまで追い詰めてしまった自分に心が痛んだ。
ぎり、と強く拳が握られる。
何も掴めない役立たずの両手のくせして、人を傷付ける事だけは一丁前に容易く出来てしまう。
信じるとか信じないとか、そういう薄っぺらい次元の話では無い。
ただ、想定はしていて許容が出来ずに項垂れる目の前の友と、そこまで追い詰めてしまった自分に心が痛んだ。
ぎり、と強く拳が握られる。
何も掴めない役立たずの両手のくせして、人を傷付ける事だけは一丁前に容易く出来てしまう。
如何して、何時もそうなってしまうのだろうか。
それならもういっそ―――。
それならもういっそ―――。
「全部、俺が選んできた道っつー事だよ。……分かるだろ、ヴェイグ?」
ヴェイグははっと息を飲む。何か、何かがこのままでは“また間違った終焉を迎えてしまう”気がしたからだ。
「頭のてっぺんから爪先まで汚れちまったこれが、俺なんだぜ」
下手をすれば蜘蛛の糸よりもずっとずっと細い糸なのかもしれないのだと、分かっていた。
キールも、俺に口をすっぱくして釘を刺した。
他人から見ても簡単に無謀だと言えてしまう、それ程に高く聳える壁。
俺自身が一番、シャオルーンの力を使うだなんて甘過ぎる考えと理解していたのだ。
それでも、希望を捨てられなかった。
理屈では無いのだ、可能性の問題では無いのだ。
希望というものは、持っているだけで楽になれる。それをよく知っているから故に、縋らずには居られない。
それが絶望を無視している行為だと分かっていても。
「なぁ、“ヤマアラシのジレンマ”って言葉、分かるか?」
知らない方が幸せな事もあるんだぜ、とでも言いたげな顔をしてティトレイはそう呟いた。
元から期待などしてはいないが、疑問に相応しい答えは幾ら待てども親友の口からは発せられない。
「やっぱり、」
やがて痺れを切らし、ティトレイが口を開く。
何処か諦観を漂わせる声でそれはぽつりと呟かれた。
俯いた氷の親友をその両目に収める度に心が削られてゆく。
「林檎は地面に落ちるだけだ。例外は無ぇ。
……近付き過ぎると、傷付くだけなのかもしれねぇな」
胸倉を掴んでいた手が粗暴に、しかし何処か優しく握られる。
ヴェイグははっと息を飲む。何か、何かがこのままでは“また間違った終焉を迎えてしまう”気がしたからだ。
「頭のてっぺんから爪先まで汚れちまったこれが、俺なんだぜ」
下手をすれば蜘蛛の糸よりもずっとずっと細い糸なのかもしれないのだと、分かっていた。
キールも、俺に口をすっぱくして釘を刺した。
他人から見ても簡単に無謀だと言えてしまう、それ程に高く聳える壁。
俺自身が一番、シャオルーンの力を使うだなんて甘過ぎる考えと理解していたのだ。
それでも、希望を捨てられなかった。
理屈では無いのだ、可能性の問題では無いのだ。
希望というものは、持っているだけで楽になれる。それをよく知っているから故に、縋らずには居られない。
それが絶望を無視している行為だと分かっていても。
「なぁ、“ヤマアラシのジレンマ”って言葉、分かるか?」
知らない方が幸せな事もあるんだぜ、とでも言いたげな顔をしてティトレイはそう呟いた。
元から期待などしてはいないが、疑問に相応しい答えは幾ら待てども親友の口からは発せられない。
「やっぱり、」
やがて痺れを切らし、ティトレイが口を開く。
何処か諦観を漂わせる声でそれはぽつりと呟かれた。
俯いた氷の親友をその両目に収める度に心が削られてゆく。
「林檎は地面に落ちるだけだ。例外は無ぇ。
……近付き過ぎると、傷付くだけなのかもしれねぇな」
胸倉を掴んでいた手が粗暴に、しかし何処か優しく握られる。
それはスローモーションに感じる程にゆっくりとした動作だったが、ヴェイグはそれを目で追う事しか出来なかった。
この先に何が起きるのか、何が待っているのか、ヴェイグは確信に近い予想を持っている。
分かっていながら、これでは駄目なのだと痛い程に理解しながら、抵抗する事が出来なかった―――否、抵抗をしなかった。
「知ってるか、ヴェイグ」
ぐらりと砂を噛むにも似た色をした風景が歪む。
地面へ引き摺り下ろされ、身体への痛みをヴェイグが感じた時には手遅れだった。
いや、どうこうしようという意思さえなかった訳だからその表現は間違っているのかも知れない。
この先に何が起きるのか、何が待っているのか、ヴェイグは確信に近い予想を持っている。
分かっていながら、これでは駄目なのだと痛い程に理解しながら、抵抗する事が出来なかった―――否、抵抗をしなかった。
「知ってるか、ヴェイグ」
ぐらりと砂を噛むにも似た色をした風景が歪む。
地面へ引き摺り下ろされ、身体への痛みをヴェイグが感じた時には手遅れだった。
いや、どうこうしようという意思さえなかった訳だからその表現は間違っているのかも知れない。
―――嗚呼、ほら。また“間違い”だ。
親友に馬乗りにされたヴェイグは絞られて軋む短弓を見て思う―――何故自分は抵抗しないのか。
忘れていたのでは無い。完全に埒外だった。
何処か、間違っていると知りながらこうなる事を求めていた自分が居たのか。
しかし、すると何が間違いだったのだろう。
いっそこのまま何も分からず終焉を迎えてしまった方が、或いはずっと幸せなのかもしれない。
忘れていたのでは無い。完全に埒外だった。
何処か、間違っていると知りながらこうなる事を求めていた自分が居たのか。
しかし、すると何が間違いだったのだろう。
いっそこのまま何も分からず終焉を迎えてしまった方が、或いはずっと幸せなのかもしれない。
「花ってよ、水をやり過ぎても枯れちまうんだぜ」
崩れそうな決意で保つその笑顔は、その手は、とても弱々しかった。
崩れそうな決意で保つその笑顔は、その手は、とても弱々しかった。
親友に馬乗りになり弓を引いたティトレイは思う―――何故、こうなるのか。
これでは駄目なのに、何も生まないのに。
後に残るものは深い後悔と、目標を失った情けない自分だけだ。
何の為に罪を受け入れたのだろうか。
狂おしい程に罪を理解しながら、自分はまた罪を犯そうとしている。
つう、と顎まで生温い汗が伝う。生唾を飲み込む音が妙に響いた。
今引いている弓を離せば終わる。
実に明快、何と呆れる答え。それだけの当たり前のこと。
それ程に簡単で、実に単純な解。
それなのに、とティトレイは小さく冷笑を零した。
……どうしてこんなにも俺は簡単に見失ってしまうのだろう。
答えがなきゃ、こんなにも不安なくせに。
お願いだ、答えを知っているならば誰か教えてくれ。
自分の手で掴むには、恐怖が過ぎる―――“また”他力本願か。いい身分だな。
これでは駄目なのに、何も生まないのに。
後に残るものは深い後悔と、目標を失った情けない自分だけだ。
何の為に罪を受け入れたのだろうか。
狂おしい程に罪を理解しながら、自分はまた罪を犯そうとしている。
つう、と顎まで生温い汗が伝う。生唾を飲み込む音が妙に響いた。
今引いている弓を離せば終わる。
実に明快、何と呆れる答え。それだけの当たり前のこと。
それ程に簡単で、実に単純な解。
それなのに、とティトレイは小さく冷笑を零した。
……どうしてこんなにも俺は簡単に見失ってしまうのだろう。
答えがなきゃ、こんなにも不安なくせに。
お願いだ、答えを知っているならば誰か教えてくれ。
自分の手で掴むには、恐怖が過ぎる―――“また”他力本願か。いい身分だな。
この手は他人を傷付ける事だけが取り柄の汚れた手だ。
いくら優れた洗剤で洗おうと、漂白剤に漬けようとこの汚れだけは落ちはしない。
否、“絶対にこれだけは落とさせない”。俺が汚れた俺である為に。
いくら優れた洗剤で洗おうと、漂白剤に漬けようとこの汚れだけは落ちはしない。
否、“絶対にこれだけは落とさせない”。俺が汚れた俺である為に。
なのに、そんなどうしようも無い程の愚かなこの手は頑なに、弦を放す事を拒み続けている。
「何してんだろうな、俺」
全身を得体の知れぬ汗でぐっしょりと濡らし、小刻みに震えながら苦しそうに青年は呟いた。
馬鹿、そうじゃないだろうと脳内で何かが叫ぶ。
破裂しそうな風船が身体の中から圧力を掛ける。それはとても不快で、息が詰まった。
……放せ、早く放せよ俺の手。
それで全て終わる。楽になる。
今更汚れる事に戸惑う必要は無いだろうッ? ―――そんな事の為に俺は此所に来たんじゃない筈だろう!
それだけのことが、何で出来ねぇんだよ―――そうじゃねぇ。本心から望んでいるのはそうじゃねぇ!
全身を得体の知れぬ汗でぐっしょりと濡らし、小刻みに震えながら苦しそうに青年は呟いた。
馬鹿、そうじゃないだろうと脳内で何かが叫ぶ。
破裂しそうな風船が身体の中から圧力を掛ける。それはとても不快で、息が詰まった。
……放せ、早く放せよ俺の手。
それで全て終わる。楽になる。
今更汚れる事に戸惑う必要は無いだろうッ? ―――そんな事の為に俺は此所に来たんじゃない筈だろう!
それだけのことが、何で出来ねぇんだよ―――そうじゃねぇ。本心から望んでいるのはそうじゃねぇ!
『見たかった景色は、どんな色だった?』
「何でこうなっちまうかなぁ。何処でミスっちまったんだろうなぁ。
こうするしか、ねぇってのかよ、これ以外、残ってねぇってのかよッ!?」
リュックに必死になって詰め込んできた何かがぶち撒けられた。
開ける切っ掛けなんて、ほんの些細な事だった。
少しの覚悟さえあれば、容易い事だった。
目頭が熱さに耐え兼ね、くしゃくしゃの悲しそうな顔で青年は笑う。
それはこの世の何よりもどうしようもなく汚い顔で、けれども。
こうするしか、ねぇってのかよ、これ以外、残ってねぇってのかよッ!?」
リュックに必死になって詰め込んできた何かがぶち撒けられた。
開ける切っ掛けなんて、ほんの些細な事だった。
少しの覚悟さえあれば、容易い事だった。
目頭が熱さに耐え兼ね、くしゃくしゃの悲しそうな顔で青年は笑う。
それはこの世の何よりもどうしようもなく汚い顔で、けれども。
つうと熱い何かが頬を伝う。
生まれた雫の理由なんて分からないしどうでもいい。
だけれどもきっと、それは何時でもそこにある。
「こんなんじゃ、俺が望んだのはこんなんじゃねぇ」
ぽつりと彼の頬に温かい雫が落ちる。空を切り取る様にそこに在る親友の赤い目が覗く。
生まれた雫の理由なんて分からないしどうでもいい。
だけれどもきっと、それは何時でもそこにある。
「こんなんじゃ、俺が望んだのはこんなんじゃねぇ」
ぽつりと彼の頬に温かい雫が落ちる。空を切り取る様にそこに在る親友の赤い目が覗く。
嗚呼、とヴェイグは思う。
忘れかけていた暖かさが。
諦めていた懐かしさが。
壊死しかけていた気持ちが。
喪いたくない理由が。
全てがそこに詰まっていた。
諦めていた懐かしさが。
壊死しかけていた気持ちが。
喪いたくない理由が。
全てがそこに詰まっていた。
四角い部屋の中でヴェイグはゆっくりと蹲る。落ちていた鍵は、こんなにも近くに何時だって在ったのだ。
かちゃりと何かが外れる音。探す事すら忘却していた探し物は、直ぐに見つかった。
かちゃりと何かが外れる音。探す事すら忘却していた探し物は、直ぐに見つかった。
斜陽がヴェイグの顔を照らす。
風が吹けば壊れてしまいそうな程に脆い笑顔を、確かに見た。
音の無い助けを呼ぶ声を、確かに聞いた。
自分は今まで何をしていたのだろうか。少なくとも目の前のそれらから逃げていた事は事実ではないのだろうか。
安息を手に入れる為に、自分は何を棄てようとしていた?
終わらぬ親友の苦しみを、少しでもその低俗な脳で悩殺した事はあるか?
嗚呼、何と程度が知れたヒト。何と莫迦で愚かな存在。
救い様が無さ過ぎて呆れを通り越して笑えてくる。
風が吹けば壊れてしまいそうな程に脆い笑顔を、確かに見た。
音の無い助けを呼ぶ声を、確かに聞いた。
自分は今まで何をしていたのだろうか。少なくとも目の前のそれらから逃げていた事は事実ではないのだろうか。
安息を手に入れる為に、自分は何を棄てようとしていた?
終わらぬ親友の苦しみを、少しでもその低俗な脳で悩殺した事はあるか?
嗚呼、何と程度が知れたヒト。何と莫迦で愚かな存在。
救い様が無さ過ぎて呆れを通り越して笑えてくる。
すう、と茜が差した光が瞳に宿る。
こんなにも近くに、何よりも大切なものはあるじゃないか。
見たかった景色は、何時でも目の前にあったじゃないか!
「……そうだ、こんなにも簡単な事なのに、俺は」
思い出した様に力が抜けた声でヴェイグは呟いた。
「……間違いだらけでうんざりするぜ。これすらも間違いだってんなら、何が真実だってんだよッ!」
「……違う。それは、違う」
「違わねぇ! 何が違うってんだ!」
泣きじゃくりながらティトレイは頭を左右に揺らす。
それでも引かれた弓は、未だに放されず握られたままだった。
「この村を火にかけちまった。ジェイって子供も刺した!
カイルを殺そうとした、しいなも見殺しにしたし、ダオスのおっさんだって殺したッ!
それなのに何がどう違うってんだよッ!」
必死の叫びに喉が渇きを覚えた。
壊れてしまったタイプライターの様にただただ言葉が喉から発せられる。
「俺だって!」
耐え兼ねた様にヴェイグは子供の様に叫ぶ親友の胸倉を掴み、地面に押し倒した。
構えられていた弓から発せられた矢が射るモノを失い虚しく茜空に消えてゆく。
「俺だって二人殺した! トーマも俺があの時躊躇う事をしなければきっと死ななかったッ!
今だって、ロイドやグリッドを見殺しにしてきた様なものだッ!
辛いのは皆同じだ、悲しいのは皆同じだ! 屍の上に立っているのは皆同じなんだッ!
自分だけ悲劇の主人公ぶるなティトレイッ!」
牙を剥いて逆上するヴェイグ。
一瞬その剣幕に圧倒され尻込みをするが、挑発とも取れるその罵倒を無視出来る程ティトレイは冷静ではなかった。
頭に血が上るのを感じる。歯を軋ませながら同じ様に乱暴に胸倉を掴んだ。
服の生地が軋むが、どうにも怒りは治まらず目を見開いて親友に迫る。
……何も知らないくせに、全部知ったみたいな口聞きやがって。何様なんだこいつは。
「じゃあお前に何が分かるってんだ! 俺がどれだけ苦しんできたか分かるってのか、あぁ!?
近付いても傷付くだけなんだよ、裏切られるだけなんだよ、結局こうなるんだよッ!
ならどうしろってんだッ! 俺でさえ分からねぇのに、お前にそれが分かるってーのかよおぉッ!」
「何も分からないに決まっているだろうッ! 俺はお前じゃない!
お前も俺の事が分からない様にそれは当然なんだッ!
それを理解した上でお前に聞きたい―――では“それ”が、お前の本当に望む事なのか?」
こんなにも近くに、何よりも大切なものはあるじゃないか。
見たかった景色は、何時でも目の前にあったじゃないか!
「……そうだ、こんなにも簡単な事なのに、俺は」
思い出した様に力が抜けた声でヴェイグは呟いた。
「……間違いだらけでうんざりするぜ。これすらも間違いだってんなら、何が真実だってんだよッ!」
「……違う。それは、違う」
「違わねぇ! 何が違うってんだ!」
泣きじゃくりながらティトレイは頭を左右に揺らす。
それでも引かれた弓は、未だに放されず握られたままだった。
「この村を火にかけちまった。ジェイって子供も刺した!
カイルを殺そうとした、しいなも見殺しにしたし、ダオスのおっさんだって殺したッ!
それなのに何がどう違うってんだよッ!」
必死の叫びに喉が渇きを覚えた。
壊れてしまったタイプライターの様にただただ言葉が喉から発せられる。
「俺だって!」
耐え兼ねた様にヴェイグは子供の様に叫ぶ親友の胸倉を掴み、地面に押し倒した。
構えられていた弓から発せられた矢が射るモノを失い虚しく茜空に消えてゆく。
「俺だって二人殺した! トーマも俺があの時躊躇う事をしなければきっと死ななかったッ!
今だって、ロイドやグリッドを見殺しにしてきた様なものだッ!
辛いのは皆同じだ、悲しいのは皆同じだ! 屍の上に立っているのは皆同じなんだッ!
自分だけ悲劇の主人公ぶるなティトレイッ!」
牙を剥いて逆上するヴェイグ。
一瞬その剣幕に圧倒され尻込みをするが、挑発とも取れるその罵倒を無視出来る程ティトレイは冷静ではなかった。
頭に血が上るのを感じる。歯を軋ませながら同じ様に乱暴に胸倉を掴んだ。
服の生地が軋むが、どうにも怒りは治まらず目を見開いて親友に迫る。
……何も知らないくせに、全部知ったみたいな口聞きやがって。何様なんだこいつは。
「じゃあお前に何が分かるってんだ! 俺がどれだけ苦しんできたか分かるってのか、あぁ!?
近付いても傷付くだけなんだよ、裏切られるだけなんだよ、結局こうなるんだよッ!
ならどうしろってんだッ! 俺でさえ分からねぇのに、お前にそれが分かるってーのかよおぉッ!」
「何も分からないに決まっているだろうッ! 俺はお前じゃない!
お前も俺の事が分からない様にそれは当然なんだッ!
それを理解した上でお前に聞きたい―――では“それ”が、お前の本当に望む事なのか?」
その静かに呟かれた一言にヒステリックな声が止み沈黙が訪れる。
何故ならばそうじゃないと理解していたから。
核心を正確に突かれたティトレイは、故に黙らざるを得なかった。
荒くペースが早い呼吸の音だけが、ただ徒に互いの鼓膜を刺激する。
その鋭利な静寂の一秒一秒が、ティトレイの宛も無く剥き出しにされた小さなプライドを痛め付けていた。
「…それは……」
荒々しく上下する肩が漸く収まった頃、胸倉を掴んでいた手がその声と共にだらりと下がった。
ヴェイグはそれを見届け、親友を睨み付ける。
鋭い目線に耐え兼ねたのか、ばつが悪そうな表情なままティトレイは項垂れた。
彼を目の前の男の親友として繋ぎ止める心は、何故だろうか。
断ち切れもしていないが地に着いてさえもいない。
未だに、どうしようも無い程に宙ぶらりんだった。
「俺が言えた義理では無い。そんな事は分かっている。だが、だがな……!」
何かに怯える様に後退る彼の両肩が乱暴に握られる。
それを振り払いたいという自分が居て、けれども確かにそのままで居てくれと肯定する自分も居る。
中途半端なヒトの中途半端な脳は、矢張り中途半端な指令しか出せないのだろうか。
ティトレイのこれまた中途半端に曲げられた腕は、宛も無く空中で見事に止まっていた。
「これ以上嘘を吐くな、ティトレイ=クロウッ!」
何故ならばそうじゃないと理解していたから。
核心を正確に突かれたティトレイは、故に黙らざるを得なかった。
荒くペースが早い呼吸の音だけが、ただ徒に互いの鼓膜を刺激する。
その鋭利な静寂の一秒一秒が、ティトレイの宛も無く剥き出しにされた小さなプライドを痛め付けていた。
「…それは……」
荒々しく上下する肩が漸く収まった頃、胸倉を掴んでいた手がその声と共にだらりと下がった。
ヴェイグはそれを見届け、親友を睨み付ける。
鋭い目線に耐え兼ねたのか、ばつが悪そうな表情なままティトレイは項垂れた。
彼を目の前の男の親友として繋ぎ止める心は、何故だろうか。
断ち切れもしていないが地に着いてさえもいない。
未だに、どうしようも無い程に宙ぶらりんだった。
「俺が言えた義理では無い。そんな事は分かっている。だが、だがな……!」
何かに怯える様に後退る彼の両肩が乱暴に握られる。
それを振り払いたいという自分が居て、けれども確かにそのままで居てくれと肯定する自分も居る。
中途半端なヒトの中途半端な脳は、矢張り中途半端な指令しか出せないのだろうか。
ティトレイのこれまた中途半端に曲げられた腕は、宛も無く空中で見事に止まっていた。
「これ以上嘘を吐くな、ティトレイ=クロウッ!」
―――嘘、か。
確かにそうだとティトレイは自嘲する。
理解するつもりが煙に巻いて、近付くつもりが遠ざかって、謝るつもりが傷付けて、触るつもりが撃ち抜いて。
成程、確かに嘘に塗れている。
そして同時に、そんな俺は赦されざる咎の住民だ。
確かにそうだとティトレイは自嘲する。
理解するつもりが煙に巻いて、近付くつもりが遠ざかって、謝るつもりが傷付けて、触るつもりが撃ち抜いて。
成程、確かに嘘に塗れている。
そして同時に、そんな俺は赦されざる咎の住民だ。
「……俺はヴェイグ=リュングベルでしかない。世界は世界でしかない。お前も、ティトレイ=クロウでしかない。
元から、誰も裏切ってなど、間違ってなんかいない。最初から何も狂ってなんか、いない」
親友の戯言に、けれども耳を傾けてしまう自分が、そこに居た。
そんなハイエナの様に狡く卑しい自分が堪らなく腹立たしくて、少しだけ親友が羨ましくて、疎ましくて、悔しくて。
―――眩しくて。
また無理をして搾り出す強がりが口から零れる。
元から、誰も裏切ってなど、間違ってなんかいない。最初から何も狂ってなんか、いない」
親友の戯言に、けれども耳を傾けてしまう自分が、そこに居た。
そんなハイエナの様に狡く卑しい自分が堪らなく腹立たしくて、少しだけ親友が羨ましくて、疎ましくて、悔しくて。
―――眩しくて。
また無理をして搾り出す強がりが口から零れる。
「は、はっ……! 口だけなら何とでも言えるからな!
綺麗事なんだ、そうさそうじゃねぇかよ! ははッ!
綺麗事なんだよそんなのはよおッ!」
「……俺は、全ては自分を否定し、世界を否定し、仲間をも否定してしまうこのバトルロワイアルという土壌に依るものと、そう思っていた。
……それは、違うんだ」
「五月蠅ぇ……黙れよ」
震える声が命令をする。しかしヴェイグは止まらない。
ティトレイの言葉には怯えと虚勢は在っても、伴える筈の“強さ”は皆無に等しかった。
「全ては逃避に過ぎない。“仕方無い”? “それがバトルロアイヤルだから”?
違う、そうじゃない」
「……五月蠅ぇって。今更講釈垂れてんじゃねぇよ」
「それは盲目になる口実には成っても、否定する理由には決して成り得ない」
「五月蠅ぇっつってんだろッ! 違わねぇ、違わねぇんだよ……黙れよッ!」
「……ならば、そうして選んだ先に待っている終焉は、」
「黙れ、黙れよ畜生おおぉぉぉぉぉぉッ!」
綺麗事なんだ、そうさそうじゃねぇかよ! ははッ!
綺麗事なんだよそんなのはよおッ!」
「……俺は、全ては自分を否定し、世界を否定し、仲間をも否定してしまうこのバトルロワイアルという土壌に依るものと、そう思っていた。
……それは、違うんだ」
「五月蠅ぇ……黙れよ」
震える声が命令をする。しかしヴェイグは止まらない。
ティトレイの言葉には怯えと虚勢は在っても、伴える筈の“強さ”は皆無に等しかった。
「全ては逃避に過ぎない。“仕方無い”? “それがバトルロアイヤルだから”?
違う、そうじゃない」
「……五月蠅ぇって。今更講釈垂れてんじゃねぇよ」
「それは盲目になる口実には成っても、否定する理由には決して成り得ない」
「五月蠅ぇっつってんだろッ! 違わねぇ、違わねぇんだよ……黙れよッ!」
「……ならば、そうして選んだ先に待っている終焉は、」
「黙れ、黙れよ畜生おおぉぉぉぉぉぉッ!」
瞬間、風を切る高い音と共にヒトを殴った時特有の鈍く生々しい音が響いた。
あ、とティトレイは自分のした事が信じられずに目を丸くして呟く。
何回自分から生えている腕と親友を交互に見ようと事実は変わらない。
彼の右ストレートは見事に親友の左顔面を貫いていた。
「―――軽いな」
ヴェイグは狼狽える親友を睨みそう吐き捨てた。
ゆらり、と顔面を血に濡らすヴェイグは右腕を構える。
何とスカスカなのだろうか。
あ、とティトレイは自分のした事が信じられずに目を丸くして呟く。
何回自分から生えている腕と親友を交互に見ようと事実は変わらない。
彼の右ストレートは見事に親友の左顔面を貫いていた。
「―――軽いな」
ヴェイグは狼狽える親友を睨みそう吐き捨てた。
ゆらり、と顔面を血に濡らすヴェイグは右腕を構える。
何とスカスカなのだろうか。
「は、はっ……! 口だけなら何とでも言えるからな!
綺麗事なんだ、そうさそうじゃねぇかよ! ははッ!
綺麗事なんだよそんなのはよおッ!」
「……俺は、全ては自分を否定し、世界を否定し、仲間をも否定してしまうこのバトルロワイアルという土壌に依るものと、そう思っていた。
……それは、違うんだ」
「五月蠅ぇ……黙れよ」
震える声が命令をする。しかしヴェイグは止まらない。
ティトレイの言葉には怯えと虚勢は在っても、伴える筈の“強さ”は皆無に等しかった。
「全ては逃避に過ぎない。“仕方無い”? “それがバトルロアイヤルだから”?
違う、そうじゃない」
「……五月蠅ぇって。今更講釈垂れてんじゃねぇよ」
「それは盲目になる口実には成っても、否定する理由には決して成り得ない」
「五月蠅ぇっつってんだろッ! 違わねぇ、違わねぇんだよ……黙れよッ!」
「……ならば、そうして選んだ先に待っている終焉は、」
「黙れ、黙れよ畜生おおぉぉぉぉぉぉッ!」
綺麗事なんだ、そうさそうじゃねぇかよ! ははッ!
綺麗事なんだよそんなのはよおッ!」
「……俺は、全ては自分を否定し、世界を否定し、仲間をも否定してしまうこのバトルロワイアルという土壌に依るものと、そう思っていた。
……それは、違うんだ」
「五月蠅ぇ……黙れよ」
震える声が命令をする。しかしヴェイグは止まらない。
ティトレイの言葉には怯えと虚勢は在っても、伴える筈の“強さ”は皆無に等しかった。
「全ては逃避に過ぎない。“仕方無い”? “それがバトルロアイヤルだから”?
違う、そうじゃない」
「……五月蠅ぇって。今更講釈垂れてんじゃねぇよ」
「それは盲目になる口実には成っても、否定する理由には決して成り得ない」
「五月蠅ぇっつってんだろッ! 違わねぇ、違わねぇんだよ……黙れよッ!」
「……ならば、そうして選んだ先に待っている終焉は、」
「黙れ、黙れよ畜生おおぉぉぉぉぉぉッ!」
瞬間、風を切る高い音と共にヒトを殴った時特有の鈍く生々しい音が響いた。
あ、とティトレイは自分のした事が信じられずに目を丸くして呟く。
何回自分から生えている腕と親友を交互に見ようと事実は変わらない。
彼の右ストレートは見事に親友の左顔面を貫いていた。
「―――軽いな」
ヴェイグは狼狽える親友を睨みそう吐き捨てた。
ゆらり、と顔面を血に濡らすヴェイグは右腕を構える。
何とスカスカなのだろうか。
あ、とティトレイは自分のした事が信じられずに目を丸くして呟く。
何回自分から生えている腕と親友を交互に見ようと事実は変わらない。
彼の右ストレートは見事に親友の左顔面を貫いていた。
「―――軽いな」
ヴェイグは狼狽える親友を睨みそう吐き捨てた。
ゆらり、と顔面を血に濡らすヴェイグは右腕を構える。
何とスカスカなのだろうか。
この馬鹿の拳は何時からこんなに日和ったモノに成り下がったのだ。
「こんな拳じゃ、こんな何も籠っていない嘘に塗れた拳じゃ俺は倒れない……!
俺に一人じゃないと教えてくれた誰かの拳は、こんな陳腐で薄っぺらいものじゃなかった!」
どずん、と鈍い音が響く。
彼の左頬には青年と同じような見事な右ストレート。
繰り出された反撃の拳に、ティトレイはいとも容易く膝を地に立て苦しそうに呻いた。
そんな彼にヴェイグは容赦無く続ける。
「立てよティトレイ……話の続きだ」
「……ッ」
「“……ならば、そうして選んだ先に待っている終焉は、”」
「こんな拳じゃ、こんな何も籠っていない嘘に塗れた拳じゃ俺は倒れない……!
俺に一人じゃないと教えてくれた誰かの拳は、こんな陳腐で薄っぺらいものじゃなかった!」
どずん、と鈍い音が響く。
彼の左頬には青年と同じような見事な右ストレート。
繰り出された反撃の拳に、ティトレイはいとも容易く膝を地に立て苦しそうに呻いた。
そんな彼にヴェイグは容赦無く続ける。
「立てよティトレイ……話の続きだ」
「……ッ」
「“……ならば、そうして選んだ先に待っている終焉は、”」
それは今し方至った真理。
親友の涙が、教えてくれたとても大切で、言ってしまえば簡単だが気付くのがとても難しい事。
親友の涙が、教えてくれたとても大切で、言ってしまえば簡単だが気付くのがとても難しい事。
「本当に俺が……お前が望んだものなのか?」
それをティトレイに教授する様に――実際は自分に確認したかっただけかもしれない、二度と迷わぬ様に――言う。
少し過去の自分の虚像がティトレイの実像に僅かだが重なっていて、不思議な感覚を呼ぶ。
「俺達は今、此所に居る。それは間違いじゃない。
過去にどれだけの罪深い事を重ねようと、俺達は俺達だ」
頭を抱えて荒く息をする親友を尻目に、彼はだが、と続ける。
「……罪を忘れてはいけない。それも間違いでは無いからだ。
しかしだ。何も、無理に罪を償う必要は無い。
何故なら罪滅ぼしと言ってしまうのは簡単だが、“罪は償えない”のだから。
例えヒトに万赦されようと、それは単なる互いの自己満足に過ぎない。
過去の傷跡は絶対に消えない。何時までも着いて来る。
しかし、だからこそ俺達は生きなければならないんだ。罪を受け止めて、その気持ちを忘れずに」
少し過去の自分の虚像がティトレイの実像に僅かだが重なっていて、不思議な感覚を呼ぶ。
「俺達は今、此所に居る。それは間違いじゃない。
過去にどれだけの罪深い事を重ねようと、俺達は俺達だ」
頭を抱えて荒く息をする親友を尻目に、彼はだが、と続ける。
「……罪を忘れてはいけない。それも間違いでは無いからだ。
しかしだ。何も、無理に罪を償う必要は無い。
何故なら罪滅ぼしと言ってしまうのは簡単だが、“罪は償えない”のだから。
例えヒトに万赦されようと、それは単なる互いの自己満足に過ぎない。
過去の傷跡は絶対に消えない。何時までも着いて来る。
しかし、だからこそ俺達は生きなければならないんだ。罪を受け止めて、その気持ちを忘れずに」
分かっていた。
分かっていた事なのに、何故だろう。
傷付け合う事への、ヤマアラシのジレンマの解決にへは足しにさえ成らない綺麗事なのに、如何してだろう。
脳内に響くのだ、こんなにも新鮮で心地良い音色が。
ティトレイはしかし唇を噛み身を委ねようとする己に耐えた―――分かっていても、認める訳にはいかない。
それは何故か? 簡単な事。
脳裏に焼き付いていた表情が鮮明に瞼の裏に映し出される。
聖獣の力が通じなかったと知った瞬間の、彼の絶望にも似た表情が。
―――きっとまた、この繰り返しだからだ。リピートなんだ。
どうせまた傷付くだけなんだ。選択を強いられ合うんだ。ならばもう二度と近付かない方がいい。
分かっていた事なのに、何故だろう。
傷付け合う事への、ヤマアラシのジレンマの解決にへは足しにさえ成らない綺麗事なのに、如何してだろう。
脳内に響くのだ、こんなにも新鮮で心地良い音色が。
ティトレイはしかし唇を噛み身を委ねようとする己に耐えた―――分かっていても、認める訳にはいかない。
それは何故か? 簡単な事。
脳裏に焼き付いていた表情が鮮明に瞼の裏に映し出される。
聖獣の力が通じなかったと知った瞬間の、彼の絶望にも似た表情が。
―――きっとまた、この繰り返しだからだ。リピートなんだ。
どうせまた傷付くだけなんだ。選択を強いられ合うんだ。ならばもう二度と近付かない方がいい。
この馬鹿の拳は何時からこんなに日和ったモノに成り下がったのだ。
「こんな拳じゃ、こんな何も籠っていない嘘に塗れた拳じゃ俺は倒れない……!
俺に一人じゃないと教えてくれた誰かの拳は、こんな陳腐で薄っぺらいものじゃなかった!」
どずん、と鈍い音が響く。
彼の左頬には青年と同じような見事な右ストレート。
繰り出された反撃の拳に、ティトレイはいとも容易く膝を地に立て苦しそうに呻いた。
そんな彼にヴェイグは容赦無く続ける。
「立てよティトレイ……話の続きだ」
「……ッ」
「“……ならば、そうして選んだ先に待っている終焉は、”」
「こんな拳じゃ、こんな何も籠っていない嘘に塗れた拳じゃ俺は倒れない……!
俺に一人じゃないと教えてくれた誰かの拳は、こんな陳腐で薄っぺらいものじゃなかった!」
どずん、と鈍い音が響く。
彼の左頬には青年と同じような見事な右ストレート。
繰り出された反撃の拳に、ティトレイはいとも容易く膝を地に立て苦しそうに呻いた。
そんな彼にヴェイグは容赦無く続ける。
「立てよティトレイ……話の続きだ」
「……ッ」
「“……ならば、そうして選んだ先に待っている終焉は、”」
それは今し方至った真理。
親友の涙が、教えてくれたとても大切で、言ってしまえば簡単だが気付くのがとても難しい事。
親友の涙が、教えてくれたとても大切で、言ってしまえば簡単だが気付くのがとても難しい事。
「本当に俺が……お前が望んだものなのか?」
それをティトレイに教授する様に――実際は自分に確認したかっただけかもしれない、二度と迷わぬ様に――言う。
少し過去の自分の虚像がティトレイの実像に僅かだが重なっていて、不思議な感覚を呼ぶ。
「俺達は今、此所に居る。それは間違いじゃない。
過去にどれだけの罪深い事を重ねようと、俺達は俺達だ」
頭を抱えて荒く息をする親友を尻目に、彼はだが、と続ける。
「……罪を忘れてはいけない。それも間違いでは無いからだ。
しかしだ。何も、無理に罪を償う必要は無い。
何故なら罪滅ぼしと言ってしまうのは簡単だが、“罪は償えない”のだから。
例えヒトに万赦されようと、それは単なる互いの自己満足に過ぎない。
過去の傷跡は絶対に消えない。何時までも着いて来る。
しかし、だからこそ俺達は生きなければならないんだ。罪を受け止めて、その気持ちを忘れずに」
少し過去の自分の虚像がティトレイの実像に僅かだが重なっていて、不思議な感覚を呼ぶ。
「俺達は今、此所に居る。それは間違いじゃない。
過去にどれだけの罪深い事を重ねようと、俺達は俺達だ」
頭を抱えて荒く息をする親友を尻目に、彼はだが、と続ける。
「……罪を忘れてはいけない。それも間違いでは無いからだ。
しかしだ。何も、無理に罪を償う必要は無い。
何故なら罪滅ぼしと言ってしまうのは簡単だが、“罪は償えない”のだから。
例えヒトに万赦されようと、それは単なる互いの自己満足に過ぎない。
過去の傷跡は絶対に消えない。何時までも着いて来る。
しかし、だからこそ俺達は生きなければならないんだ。罪を受け止めて、その気持ちを忘れずに」
分かっていた。
分かっていた事なのに、何故だろう。
傷付け合う事への、ヤマアラシのジレンマの解決にへは足しにさえ成らない綺麗事なのに、如何してだろう。
脳内に響くのだ、こんなにも新鮮で心地良い音色が。
ティトレイはしかし唇を噛み身を委ねようとする己に耐えた―――分かっていても、認める訳にはいかない。
それは何故か? 簡単な事。
脳裏に焼き付いていた表情が鮮明に瞼の裏に映し出される。
聖獣の力が通じなかったと知った瞬間の、彼の絶望にも似た表情が。
―――きっとまた、この繰り返しだからだ。リピートなんだ。
どうせまた傷付くだけなんだ。選択を強いられ合うんだ。ならばもう二度と近付かない方がいい。
分かっていた事なのに、何故だろう。
傷付け合う事への、ヤマアラシのジレンマの解決にへは足しにさえ成らない綺麗事なのに、如何してだろう。
脳内に響くのだ、こんなにも新鮮で心地良い音色が。
ティトレイはしかし唇を噛み身を委ねようとする己に耐えた―――分かっていても、認める訳にはいかない。
それは何故か? 簡単な事。
脳裏に焼き付いていた表情が鮮明に瞼の裏に映し出される。
聖獣の力が通じなかったと知った瞬間の、彼の絶望にも似た表情が。
―――きっとまた、この繰り返しだからだ。リピートなんだ。
どうせまた傷付くだけなんだ。選択を強いられ合うんだ。ならばもう二度と近付かない方がいい。
汚れた自分には、親友を傷付ける事しか出来なかった自分には。
彼の隣りに居場所を求めるなんて贅沢は、決して許されはしないのだ。
俺にはその権利も無いし、勇気も、無い。
それが答えだ。
「でもヴェイグ、俺は、こ――――」
こんなにも汚れてるんだぜ、と口が紡ごうとするが、その発言の矛盾に気付き発音し損ないの口を固く閉ざした。
その言葉だけは絶対に言ってはいけない。続く言葉は分かりきっているから。
あいつならきっとそう言うに決まっているから。
だからそれを求めてはいけない。耐えろ、その安息を求めてはいけないッ!
頼む、頼むよ。
お願いだから、これ以上俺に拘るなよ!
崩れてしまいそうになる程優しい言葉を掛けるなよ!
俺には、もう引き返せないんだよッ!
決心が崩れる前にいっそ突き放す様な目で見てくれよ。
あの頃にはもう、“戻れなくてもいい”から!
「……間違いなんて、この世には一つしか存在しない。分かるか、ティトレイ」
え、と口から出る。思いもよらない一言だった。
「一つしか、存在、しない……?」
情けなく脱力した声が絞り出される。
その声色は諦観や絶望と言うよりも期待と希望が見え隠れしていた事に強い絶望感を覚えた。
何を期待している。何故まだ希望を見ている、何故まだこの両目は親友を見据えている!
如何して嫌な言葉に耳を貸す?
塞いでしまえばこんな想いを覚えずに済むのに。期待なんかしないで済むのにッ!
嫌だ、もう嫌だ。“嫌なのに!”
こんな汚れた奴は親友なんかじゃないと、蔑んでくれ。罵ってくれ。
そうすれば、もう一つの安息が待っているのに!
彼の隣りに居場所を求めるなんて贅沢は、決して許されはしないのだ。
俺にはその権利も無いし、勇気も、無い。
それが答えだ。
「でもヴェイグ、俺は、こ――――」
こんなにも汚れてるんだぜ、と口が紡ごうとするが、その発言の矛盾に気付き発音し損ないの口を固く閉ざした。
その言葉だけは絶対に言ってはいけない。続く言葉は分かりきっているから。
あいつならきっとそう言うに決まっているから。
だからそれを求めてはいけない。耐えろ、その安息を求めてはいけないッ!
頼む、頼むよ。
お願いだから、これ以上俺に拘るなよ!
崩れてしまいそうになる程優しい言葉を掛けるなよ!
俺には、もう引き返せないんだよッ!
決心が崩れる前にいっそ突き放す様な目で見てくれよ。
あの頃にはもう、“戻れなくてもいい”から!
「……間違いなんて、この世には一つしか存在しない。分かるか、ティトレイ」
え、と口から出る。思いもよらない一言だった。
「一つしか、存在、しない……?」
情けなく脱力した声が絞り出される。
その声色は諦観や絶望と言うよりも期待と希望が見え隠れしていた事に強い絶望感を覚えた。
何を期待している。何故まだ希望を見ている、何故まだこの両目は親友を見据えている!
如何して嫌な言葉に耳を貸す?
塞いでしまえばこんな想いを覚えずに済むのに。期待なんかしないで済むのにッ!
嫌だ、もう嫌だ。“嫌なのに!”
こんな汚れた奴は親友なんかじゃないと、蔑んでくれ。罵ってくれ。
そうすれば、もう一つの安息が待っているのに!
「―――自分の気持ちに、嘘を吐く事だ」
瞬きすら忘れはっと息を飲む自分が呪わしい。
それは嘘だ、こんなの望んじゃいない―――本心じゃないッ!
違うね。決まってる、これが本心だ―――嘘だッ!
違う、違うんだ。あれも違うこれも違う、じゃあどっちだよ畜生ッ!
それは嘘だ、こんなの望んじゃいない―――本心じゃないッ!
違うね。決まってる、これが本心だ―――嘘だッ!
違う、違うんだ。あれも違うこれも違う、じゃあどっちだよ畜生ッ!
……そうして気付くのは何時だって一緒なんだ。
そう、マーテルに諭された時もそうだった。何時だって、境界線を綱渡りしていた。
きっと全部不安定に、曖昧にしておきたいだけなんだ。
そう、マーテルに諭された時もそうだった。何時だって、境界線を綱渡りしていた。
きっと全部不安定に、曖昧にしておきたいだけなんだ。
「だからお前が例え何をしていようと、どうなろうと」
拳が震える程に固く握られる。滲んだ真紅の血は、吐き気を覚える程にヒトの温もりがした。
言うな、と瞳を固く閉じる。
その先は絶対に言わないでくれ―――聞きたいから耳を塞がないくせに。
五月蠅い。仕方無いじゃないか。
だって、俺には、そんな言葉を受ける様な資格は、一つも、一つも、一つも…………ッ!
言うな、と瞳を固く閉じる。
その先は絶対に言わないでくれ―――聞きたいから耳を塞がないくせに。
五月蠅い。仕方無いじゃないか。
だって、俺には、そんな言葉を受ける様な資格は、一つも、一つも、一つも…………ッ!
「お前はずっと俺の一番の親友だ」
一度枯れた筈の、涙が溢れる。
なんて、なんてずるい一言だろうか。
お前はこんなに汚れてしまった自分を、未だに親友として見てくれるのか。
まだ待ってくれているのか。まだ、信じていてくれるのか。
なんて、なんてずるい一言だろうか。
お前はこんなに汚れてしまった自分を、未だに親友として見てくれるのか。
まだ待ってくれているのか。まだ、信じていてくれるのか。
地に、足が着く。
ずっと中途半端だった何かが、寄り道をしながらも確かに終着点へと辿り着いた。
断っておくがそれは一直線では無い。一直線ならば、終わりはまだ訪れないのだ。
故に彼は戻ってきただけなのだ。
たったそれだけ。今、ティトレイが立っているのはゴールであり、スタートであり、そして通過点に過ぎない。
おかえり、と何かが呼ぶ。
数秒後気恥ずかしいのか、彼は俯いたまま小さくただいまと呟いた。
ずっと中途半端だった何かが、寄り道をしながらも確かに終着点へと辿り着いた。
断っておくがそれは一直線では無い。一直線ならば、終わりはまだ訪れないのだ。
故に彼は戻ってきただけなのだ。
たったそれだけ。今、ティトレイが立っているのはゴールであり、スタートであり、そして通過点に過ぎない。
おかえり、と何かが呼ぶ。
数秒後気恥ずかしいのか、彼は俯いたまま小さくただいまと呟いた。
取返しのつく物語など無い、だから彼等は生きて行く。故に命は尊い。
従って、彼等が歩んできた道は間違いではない。
否定すればそれは自分の人生を否定する事に同義だ。
その結果最果ての地平線には、彼等自体が居なくなってしまう。存在が消えてしまう。
自分が居なくなる、それはとても悲しい事。
だから間違いは、きっとその一つだけ。
罪を犯した物が愚かなんじゃない、罪を受け止められない者が愚かなんだ。
それは、あの女性からも彼が教えられたとても簡単な事。
そして、その彼が滴をして親友に教えた事でもある。
従って、彼等が歩んできた道は間違いではない。
否定すればそれは自分の人生を否定する事に同義だ。
その結果最果ての地平線には、彼等自体が居なくなってしまう。存在が消えてしまう。
自分が居なくなる、それはとても悲しい事。
だから間違いは、きっとその一つだけ。
罪を犯した物が愚かなんじゃない、罪を受け止められない者が愚かなんだ。
それは、あの女性からも彼が教えられたとても簡単な事。
そして、その彼が滴をして親友に教えた事でもある。
……彼等は此所に居る。しかしながら居る理由は矢張り罪滅ぼしの為では無い。
“此所に居るから、居る”
たったそれだけのこと。
居場所は何時の日も、此所に在る。
立っている場所は、雨の日も風の日も雪の日も、常に自分の居場所だ。
必死に造った居場所なんて、ただの隔離された牢獄に過ぎない。
親友、ティトレイ=クロウと名を打たれた席は何時だって彼の横にある。
そこに座る権利だって、必要な勇気だって、本当はずっとずっとその汚れてしまった掌の中に、けれども大切に持っていた。
居場所は何時の日も、此所に在る。
立っている場所は、雨の日も風の日も雪の日も、常に自分の居場所だ。
必死に造った居場所なんて、ただの隔離された牢獄に過ぎない。
親友、ティトレイ=クロウと名を打たれた席は何時だって彼の横にある。
そこに座る権利だって、必要な勇気だって、本当はずっとずっとその汚れてしまった掌の中に、けれども大切に持っていた。
「もう一度行こう、俺達はまだ此所に居る」
そうしてヴェイグは俯いたティトレイに手を差し延べる。
ぴしりと檻に罅が入る。何故、壊そうと試す事さえしなかったのだろう。
座り込んでいるだけじゃ、何も変わらない。
重い、けれども何より尊い一歩を踏み出したティトレイの答えは、疾うに決まっていた。
ぴしりと檻に罅が入る。何故、壊そうと試す事さえしなかったのだろう。
座り込んでいるだけじゃ、何も変わらない。
重い、けれども何より尊い一歩を踏み出したティトレイの答えは、疾うに決まっていた。
罪滅ぼしの為―――ルーティの為、ジェイの為、カイルの為―――それが理由だと思っていた。
違うんだ。俺が望んでいたのは理由では無く口実に過ぎなかった。
それの何と愚かな事か。
それ以前に俺は、大切な想いを持っていた筈だろう?
だって俺は、どれだけ迷っても矢張りお前に手を差し延べているじゃないか。
迷った結果は、きっと間違いだと言って片付けてはいけない。
違うんだ。俺が望んでいたのは理由では無く口実に過ぎなかった。
それの何と愚かな事か。
それ以前に俺は、大切な想いを持っていた筈だろう?
だって俺は、どれだけ迷っても矢張りお前に手を差し延べているじゃないか。
迷った結果は、きっと間違いだと言って片付けてはいけない。
「全てを終わらせる為じゃない。全てはそこから始まる。俺達は全てを受け止めて歩む」
この世に禊なんて要らない。必要が無い。
罪は一人一人が受け止めるべきなんだ。
禊なんて只の逃避に過ぎず、自分が禊になるなんて自己満足にも程がある。
言ってしまえばただの驕りだ。そして俺はそんな事は一抹も望んで居ない。
ただ、親友と笑って此所に居たかった。それ以上も以下も無い。
罪は一人一人が受け止めるべきなんだ。
禊なんて只の逃避に過ぎず、自分が禊になるなんて自己満足にも程がある。
言ってしまえばただの驕りだ。そして俺はそんな事は一抹も望んで居ない。
ただ、親友と笑って此所に居たかった。それ以上も以下も無い。
後は、お前がこの手を掴むだけ。
「林檎は落ちる。だが、その途中で掴む事だって出来るんだ」
少しだけ湿った苦笑が、二人分の苦笑が澄み渡った空に消えて行く。
「馬鹿は楽でいいな、ヴェイグ。おまけに根暗でムッツリってか? 五ツ星だなこりゃ」
交わされた不器用な握手は、ヒトの暖かさがした。
自分より素直だったヴェイグに少しだけ嫉妬を覚えた。
同時に何だか照れ臭いな、とティトレイは左手で頭を掻く。
今更の様に羞恥心が顔を赤くする事に少し驚き、照れ隠しに目を滑らせた。
空に目が行った瞬間に、あ、と口から漏れる。
何事かとこちらを覗く友。見ろよ、と顎を動かすティトレイ。
同時に何だか照れ臭いな、とティトレイは左手で頭を掻く。
今更の様に羞恥心が顔を赤くする事に少し驚き、照れ隠しに目を滑らせた。
空に目が行った瞬間に、あ、と口から漏れる。
何事かとこちらを覗く友。見ろよ、と顎を動かすティトレイ。
期待していた訳じゃない。理由があった訳じゃない。
ただそれでも、在って嬉しいものだってある。
ただそれでも、在って嬉しいものだってある。
子供の様に目を輝かせながら、彼はヴェイグの肩を抱く。
その左手は背後に高く広がる虚空を指差していた。
その左手は背後に高く広がる虚空を指差していた。
ヴェイグは溜息を吐きつつ怪訝な表情をしながらも急かされ、はいはいと言わんばかりに後ろへ鈍い動作で振り向く。
―――あ。
ごくごく自然に笑顔が零れる。ぎこちなく作ったそれでなく、意識せずとも。
悠然と白く輝く最初のそれが、薄紫に染まった海に浮かんでいた。
ふとヴェイグは隣を見る。
こちらのテンションにお構い無く無邪気にはしゃぐ親友の笑顔に、自然と心が水面の様に落ち着いた。
同時にその立ち直りの早さに驚く―――いや、違うか。素直になっただけなのだ。
少しだけ目を細め、曲げた首を再び空へと戻す。
喧しい程の声も、暑苦しい程の元気も、体重が掛けられて痛い程の肩と首も。こんなにも、心地良いのは何故だろうか。
ああ、成程。そういう事か―――ヴェイグは全てを理解し、微笑みながら瞼をゆっくりと閉じた。
悠然と白く輝く最初のそれが、薄紫に染まった海に浮かんでいた。
ふとヴェイグは隣を見る。
こちらのテンションにお構い無く無邪気にはしゃぐ親友の笑顔に、自然と心が水面の様に落ち着いた。
同時にその立ち直りの早さに驚く―――いや、違うか。素直になっただけなのだ。
少しだけ目を細め、曲げた首を再び空へと戻す。
喧しい程の声も、暑苦しい程の元気も、体重が掛けられて痛い程の肩と首も。こんなにも、心地良いのは何故だろうか。
ああ、成程。そういう事か―――ヴェイグは全てを理解し、微笑みながら瞼をゆっくりと閉じた。
これだ。
求めていたのは、この自己中心的な騒がしさと、鬱陶しい程の暑苦しさと、この乱暴でごつい痛さだ。
求めていたのは、この自己中心的な騒がしさと、鬱陶しい程の暑苦しさと、この乱暴でごつい痛さだ。
そう、全てはこれでいい。気持ちを語る言葉はこれ以上何も要らない。充分過ぎる程だ。
俺達は此所から、進んで行く。
……確かに近付けば近付く程、痛みは大きくなる。
おまけに罪の重圧が加わった分、針には返しが付き、痛みは増している。
堪え難い痛みを味わう位なら、何時か離れてしまうなら、孤独でいる方がどれだけマシなのだろうと何度思ったか。
俺達は此所から、進んで行く。
……確かに近付けば近付く程、痛みは大きくなる。
おまけに罪の重圧が加わった分、針には返しが付き、痛みは増している。
堪え難い痛みを味わう位なら、何時か離れてしまうなら、孤独でいる方がどれだけマシなのだろうと何度思ったか。
『ならば、この身体はどうして此所にある?
この足は、手は、血潮は、筋肉は何故こうも必死に動いている?』
この足は、手は、血潮は、筋肉は何故こうも必死に動いている?』
だが、それでも……いやだからこそ俺は、俺達はこうして此所に居る。
お互いの罪を知り苦痛を味わいながら、地に足を立てている。
お互いの罪を知り苦痛を味わいながら、地に足を立てている。
また、同じ繰り返しなのかもしれない。否、それは最早想像の域を出ている。
詰まる処が実際そうなのだ。
生きて、罪を知り、自己嫌悪し、他人への恐怖が始まる。
傷付け合い、迷い、様々なヒトの終焉を超えて行く。
それは生半可な事では無い。
とても辛い思いをするだろう。
悲しい思いもするだろう。
深い傷も負うだろう。
けれど、それでいいのだ。
何故なら俺達は、今、此所で、生きているのだから。
詰まる処が実際そうなのだ。
生きて、罪を知り、自己嫌悪し、他人への恐怖が始まる。
傷付け合い、迷い、様々なヒトの終焉を超えて行く。
それは生半可な事では無い。
とても辛い思いをするだろう。
悲しい思いもするだろう。
深い傷も負うだろう。
けれど、それでいいのだ。
何故なら俺達は、今、此所で、生きているのだから。
「一番星、みっけ」
きっとそれこそが、“生きる事”なんだ。
【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態:HP10% TP30% リバウンド克服 放送をまともに聞いていない 背部裂傷
所持品:フィートシンボル メンタルバングル バトルブック(半分燃焼) チンクエディア
オーガアクス エメラルドリング 短弓(腕に装着) クローナシンボル
基本行動方針:罪を受け止め生きる
第一行動方針:西地区へ移動?
第二行動方針:ミントの邪魔をさせない
現在位置:C3村北地区→?
状態:HP10% TP30% リバウンド克服 放送をまともに聞いていない 背部裂傷
所持品:フィートシンボル メンタルバングル バトルブック(半分燃焼) チンクエディア
オーガアクス エメラルドリング 短弓(腕に装着) クローナシンボル
基本行動方針:罪を受け止め生きる
第一行動方針:西地区へ移動?
第二行動方針:ミントの邪魔をさせない
現在位置:C3村北地区→?
【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP20% TP20% 他人の死への拒絶 リオンのサック所持 刺傷
両腕内出血 背中3箇所裂傷 胸に裂傷 打撲
軽微疲労 左眼失明(眼球破裂、眼窩を布で覆ってます) 胸甲無し
所持品:忍刀桔梗 ミトスの手紙 ガーネット S・D 漆黒の翼のバッジ
45ACP弾7発マガジン×3 ナイトメアブーツ ホーリィリング
基本行動方針:罪を受け止め生きる(カイルについては考え中?)
第一行動方針:西地区へ移動?
第二行動方針:ロイド達の安否が気になる
SD基本行動方針:一同を指揮
現在位置:C3村北地区→?
状態:HP20% TP20% 他人の死への拒絶 リオンのサック所持 刺傷
両腕内出血 背中3箇所裂傷 胸に裂傷 打撲
軽微疲労 左眼失明(眼球破裂、眼窩を布で覆ってます) 胸甲無し
所持品:忍刀桔梗 ミトスの手紙 ガーネット S・D 漆黒の翼のバッジ
45ACP弾7発マガジン×3 ナイトメアブーツ ホーリィリング
基本行動方針:罪を受け止め生きる(カイルについては考え中?)
第一行動方針:西地区へ移動?
第二行動方針:ロイド達の安否が気になる
SD基本行動方針:一同を指揮
現在位置:C3村北地区→?
【カイル=デュナミス 生存確認】
状態:HP35% TP25% 両足粉砕骨折(処置済み) 両睾丸破裂(男性機能喪失)
右腕裂傷 左足甲刺傷(術により処置済み) 背部鈍痛
ルーティとヴェイグの関係への葛藤
所持品:フォースリング ウィス 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全 ミスティブルーム
首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ
魔玩ビシャスコア アビシオン人形 漆黒の翼のバッジ ペルシャブーツ
基本行動方針:生きる
第一行動方針:自分の気持ちに素直になる
第二行動方針:西へ向かい、ロイドと合流?
第三行動方針:守られる側から守る側に成長する
現在位置:C3村北地区→?
状態:HP35% TP25% 両足粉砕骨折(処置済み) 両睾丸破裂(男性機能喪失)
右腕裂傷 左足甲刺傷(術により処置済み) 背部鈍痛
ルーティとヴェイグの関係への葛藤
所持品:フォースリング ウィス 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全 ミスティブルーム
首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ
魔玩ビシャスコア アビシオン人形 漆黒の翼のバッジ ペルシャブーツ
基本行動方針:生きる
第一行動方針:自分の気持ちに素直になる
第二行動方針:西へ向かい、ロイドと合流?
第三行動方針:守られる側から守る側に成長する
現在位置:C3村北地区→?