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  • End of the Game -prologue!!

テイルズオブバトルロワイアル@wiki

End of the Game -prologue!!

最終更新:2019年10月13日 22:57

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End of the Game -prologue!!-


強く振り下ろされた握り拳は、その一角を粉々にするのに十分な威力だった。
左上隅A1から数えて右に1つ、下に2つ。
そこはB3と呼称される、いや、されていた位置だった。
見るもの全てを魅了する局地戦が繰り広げられたその場所は、今やその痕跡を思い返すことも出来ぬほど破壊されてい

る。
頑と打ちつけられたベルセリオスの拳が、そのスクエアの全てを覆い尽くしていた。
ベルセリオスがゆっくりと拳を持ち上げたそこに残っていたのは、ただの残骸のみ。
四肢がもがれて、首の部分を真っ二つに叩き割られた駒だった。
ベルセリオスはそれを見てまだ足りぬと舌打ちし、握り拳の中から親指だけを伸ばした。
どれほどに労力を掛けたかも分からぬほど煌びやかな虹の翅が指で丁寧に押し潰される。
飴細工のような虹色の薄羽も余すところなく、パリパリと破片となっていく。
胴体部分も余すところなく負荷を与えて、日々の割れている所から爪を立て、ぐりぐりと抓るように捻るように破砕し

ていく。
彼の非力な筋力でも、損傷著しかったそれを砕くには十分過ぎた。

ベルセリオスが感情を抑制できる程度になって拳を戻したとき、
かつて天使と呼ばれた美しき駒は、今や無残そのものにまで粉砕されていた。

「……楽しいですか?」
その光景を対面より見ていた女神は、不快を露わにその性根を問いただした。
つい先ほどまで酷使に酷使を重ねていた駒に対する報いとしてはあまりにも酷すぎた。
「楽しい? ハァ?」
手に残ったゴミの粉末をもう片方の手でパンパンと打ち据えて払いながら、ベルセリオスは疑問符をことさら強調して

言った。
「楽しくないの問題じゃない。禁止エリアに残った駒を砕くのはルール、義務だ。咎められる謂われはない」
「咎めつもりもないのですが、そう聞こえましたか」
ベルセリオスは鼻を鳴らし、背もたれにがっぷりと体を預ける。
先ほどの激闘の傷は何処へ消えたか。その姿はあの戦いが始まる前と何一つ変わっていない。
しかし、姿形に変化はなくともコメカミが窪むほどに指で抑えつけられた頭痛の仕草、盤上の結果まで消えることは無

い。
冗談も余裕も見られないその言葉は、彼がこの盤上の結果に対して心底不愉快を持っており、
同時に、この局面を覆す方策を持たないことを示していた。
炎剣―――――否、ついに英雄と成ったその駒を即座に殺す手段はもう失われた。
どう足掻いたところで、そこに再び持っていくには手数もメリットも無さ過ぎる。
疑う余地は無い。この戦局の勝者は、ベルセリオスの対面する下座なのだ。

「やってくれたね……決して過小評価をしていたつもりはないんだが」

最後に大きく意気を吐いて怒気の熱を放出したベルセリオスは、改めて対面の女性に向き直った。
後ろでポニーテール状に束ねられた銀の髪は涼しげで美しく、肌は妙齢の女性特有の艶めかしさと瑞々しさを兼ね備え

ている。
黒いブーツとニーソックスと白のスカートの狭間にある領域は本当の意味で絶対的。
一般的な成人男性ならば誰もが一度は獣性を解き放ちたつ夢想を抱くだろう母性の象徴たる双丘は、
仕立て屋に惜しみない歓声を上げたくなるようなベストサイズの蒼い衣でぴつちり包まれている。
神代の造形師が作り上げた貴婦人の絵画が、そのまま額縁から飛び出てきたような完成度の高さ。
社交界に出るような正装を身に纏う美貌は、紛れもなく美の女神・ヴィーナスのそれだった。


だが、ベルセリオスが評価しているのはそんな表面的な数値ではない。
およそ人間としての常識から逸脱しているこの男にとって、性欲などあって無いに等しい生理現象に過ぎない。
今この男の眼を捉えてやまないのは、その女神の「眼」だ。
凛々しく、毅然と張りつめたその瞳は持ち主の高い知性を現わしている。
この眼がこの盤上の全てを読み取り、その知性がこのベルセリオスから(限定的とはいえ)勝利を勝ち得た。
今や下座のその卓越とした戦略眼は、神の眼と呼ぶにふさわしい。

「ぐふふふふっ、この私が神の眼にねめつけられ、追い回されてるなんて。素敵な皮肉だ」

ベルセリオスの挑発など眼もくれず、彼女はベルセリオスの瞳を見つめていた。
言葉にて揺さぶり、その反応から次の手を図ろうという思惑さえも見透かされているかのような瞳だった。
何物にも因らず輝くその太陽の眼にベルセリオスは疎ましさを覚えるしかなかった。
「――――――――――でも、君も酷い」
ベルセリオスの口から、自然と言葉が出ていた。反射的に口元を抑えつけようとする手を手摺に押さえつける。
それは眼前の女神を穢したいという衝動だったか。否、陰らせたいとベルセリオスは自覚した。
強い日差しを浴びて手を額に立てるように、少しでもその光熱量を遮る雲が欲しいという子供じみた反応だった。
「何がですか?」
「ボロボロの天使を、あそこまで酷使して。最後なんて見ていられないくらいに無残滑稽、ボロボロの襤褸っかす。
 あれだけの力がまだ残ってたんだ。その最後を、安らかに眠るだけの体力位はあったはず。
 それを、英雄を逃がすためだけに踏み台にした。これを酷いと言わずなんという? 文字通りの酷翅じゃないか」
ベルセリオスの言葉に、彼女は震えを見せなかった。だがその瞳の光が僅かに曇るのを、ベルセリオスは見逃さなかった。
たったそれだけのことが、彼にとっては慰撫となる。影そのものである彼にとって、陽の光は有害そのものなのだから。
「『それはお前ががやったことだ』なんて言わせないよ。僕は確かにその肉を食べて、皮を剥いでそれを売った……でも“そこまでだ”。
 墓に埋める骨は残したんだ。それを、バラして崩して擂り潰して畑に捲いたのは――――――貴女じゃないか」
何かを言い返そうとした下座の機先にカウンター。ベルセリオスの皮肉がその頭を押さえる。
詭弁であることは百も承知。だが、その詭弁もまた一つの真実である。
天使の駒の性能を100とすれば、その99%を使用したのは確かにベルセリオスだ。
だが、その最後の1つを使ったのは……紛れもなく、対面の彼女なのだ。
「ああ、いやいや、誤解しないでほしい。私は別にそこを責めるつもりはないよ。むしろ誉めているとさえ言っていい。
 まったく、これっぽっちも。女神グリューネ、貴女はこの戦いの法を誤解していない。その点を私は高く評価しているんだから」
両手を上げて竦むかのような彼のポーズの内訳は冗談四半分、敬意四半分、侮蔑が半分だ。
「いやね、今までの私の相手は、その辺りをどうも理解し切れていなかったみたいでね。
 やれ正義を貫くだ、理想が大事だとか、悪い敵には容赦しないとか、こんな催しには乗らないぞ!……とか。
 打筋は千差万別なんだけど、とりあえずゲームに乗らない行いイーコール正しい行いで
 ゲームに乗る行為イーコール主催の言葉を信じる莫迦の所業、って感じのさ。なんていうか、ガチガチに凝り固まってたんだよね。
 安易に人殺しに走らないのは素晴らしいことで、そんなマイノリティを貫く自分は環境に縛られていないイケテる奴で、
 勧善懲悪万歳三唱、こんな催しを行う主催者や乗る悪は滅びて当然万全……みたいなね」
それが彼女に“効く”と気付いた彼は眼を細め遠くを見るようにしてかつての戦いを振り返った。
生き残りたいと願う意思、高潔にあらんとする魂、気高き獣の感情。全ての願いが坩堝と化したあの窯を。

「“その式が本当に証明されているか”―――――その確認さえもせずに、ね」

その窯の煙を、穢れていると彼は吐き捨てた。
もうこれ以上犠牲を出したくないと誰かが言った。一体何人以上かも明記せず、その数は常に現在人員と一致する。
脱出には首輪を解かねばならないと誰かが言った。ゲームに乗って殺すのは駄目だが、ゲームに反抗して殺すのはいいらしい。
マーダーは殺すと誰かが言った。彼の世界には鏡が無いらしい。
命懸けで守ってくれた人の意思を継ぐと誰かが言った。その重量を秤で量ったこともないくせに。

かつて彼の対面に座った存在達が次々と放った“希望的一手”を思い返す。思い返して――――――――――腹が捩れた。


「どいつもこいつも屑だった。あいつ等はなァんにも分かっちゃいなかった。
 結局さ、どんなキレイな言葉を紡ごうとさ、やることは結局殺人でしか表現できないんだよ。
 否、はっきりと認めなければならない。“この戦いはどの陣営だろうが人数が減らなければ勝利にたどりつけないことに”」

下座の表情が、そうと完全に分かる形で陰ったことを確認してベルセリオスは内心狂喜した。
そうなのだ。誰か一人が優勝する場合に、人数を減らさなければいけないのと同じく、
主催に抗う場合も“首輪調達役”を殺し、対「対主催」を排除しなければならない。
マーダーを首輪調達役にすることや、対・対主催を対主催にひっくり返すことで殺傷人数を減らすことはできる。

“だが、ゼロには出来ない”。誰かは死ななければならない。

つまり、対主催であろうが優勝狙いであろうが、生存優先だろうが対主催・優勝のダブルスタンダードだろうが、
そんなものはポーンかナイトかルークかという微かな違いでしかない。意味を極限まで還元すれば、全ての駒の役割はたった一つだ。

「駒の仕事は愛とか正義とか夢とかを嘯くことじゃない。他の駒を盤上より墜とすこと。殺されるか、殺すか―――――それしかない」

マーダーが対主催を殺そうが、対主催がマーダーを殺そうが、駒が一つ墜ちるという事実に影響は無い。
“殺意の内容、即ち動機や過程はそれがどうであるに関わらず、殺害という結果には影響しない”。
ベルセリオスの思惑がなんであれ、彼女の想いがなんであれ……それは駒の消失という形でしか表現されないのだ。
結果とは、つまり残り人数。そしてそこに対主催・マーダーなどと言ったカテゴライズは無意味だ。
「この時点で証明可能なんだ。対主催・マーダーといったカテゴリはこの盤上では全く意味を成さない。
 手番が代わったらあっという間に白黒ひっくり返ってマーダーが対主催に、なんてザラにあるしね。
 だから私と君を分かつ境界はその線引きじゃない。言っている意味、分かるよね?」
このゲームは、二つの陣営がそれぞれの駒を用い己が勝利条件を達するために戦う。
チェスにも似た高度なボードゲーム。だが、チェスと違う点が一つある。
この世界の駒は……“灰色”なのだ。黒と白の境界を曖昧にした灰色の駒たちは、どちらの陣営なのか一目には分からない。
いや、そもそも陣営と言う概念があるのかさえ疑わしい。人の心の全てを知ることができないように、彼ら駒の本当の色は誰にも分からない。
ただ一つ分かっているのは、灰色の駒しかないこのゲームで彼らに動かせない駒は殆どないということだ。
「全ての駒を守りながら勝てるチェスなんて存在しないし、そもそんな動かし方をするプレイヤーも居ない。
 絶望を紡ぐ私が必要に応じてマーダーを殺すように、希望を紡ぐ君達も必要ならば対主催を殺す。
 誰も死なせない、これ以上の犠牲は出させない。盤上で吐き捨てられる理想は、偽善を通り越して滑稽だ」
ベルセリオスは瞳を閉じて過去の棋譜を思い返す。
グリューネを苦しませることのできる逸材は無かったかと考えて、一つ丁度良いモノを思い立つ。
天上に反逆せし騎士。その息子の番いを、そして英雄を待ち望んだ聖女を護るため己が命を賭して崩壊する城より救いだした男。
彼の末路は悲劇に満ち、だがそこに遺されたものは希望に輝いていた。

「いるんだよねえ。ここは俺に任せて先へ行け、とか命を尽くす行為を美談にする奴って。
 あんなもの、唯の戦術だ。使えない駒、先の展望無き駒を自陣から排除するのは当たり前の話だというのに」

だが、そんな光の美しさはベルセリオスの視点から見れば唯のサクリファイス――――基本的な戦術でしかない。
TPが底を突いて今後の戦力として期待できない死駒を生贄に、残りの駒を護った。ただそれだけの一手。
山積する色々な事象も、分解して整理すれば似たようなものだ。
例え弱い駒でも、その死は戦略に乗せることができる。弓使いの妹はその代表例と言ってもいいだろう。
生きている内はポーン以下の塵芥でしかない屑駒も、死ぬことでベルセリオスやグリューネの役に立つことができるのだから。


「どちらの陣営もやることは同じなんだ。敵を排除し、使えぬ味方を排除し、己が望む結末を紡ぎだす。
 私たちは、善悪によって分かつことはできない。望む結末が希望だろうが、絶望だろうが……“酷くなければ勝てない”のさ。
 だから、私は君を拍手喝采で誉めたたえよう。君は今までのプレイヤーの中で最高だ!!
 蒼翼や天使を死地より救いだすのではなく“極限まで酷使することで”その他の駒を全て生かしたこのC3村を巡る局面は見事に尽きた。
 時の紡ぎ手。君はこれまでで最高のプレイヤーであり―――――――――――最ッッッッ高の屑じゃないかッ!!」

人の心に色は無い、と言ったのは誰だったか。
ベルセリオスはふふん、と陰鬱な笑みをニタニタと浮かべていた。
その眼には生者死者問わず盤上を蠢く駒が映っている。だが、そこには何の色も浮かんでいなかった。
地に這い蹲る駒の視点では赤いほどに迸る熱さも、宇宙より高いこの場所には届かない。
白い駒だろうが黒い駒だろうが、灰色の駒の動かし方は同じ。
ならば希望だろうが絶望だろうが“えげつない指し方”が出来る方が勝つのは言うまでもないのだから。

その胆の裏側にあるヘドロを吐き終えたのか、ベルセリオスは僅かに腰を椅子に沈めた。
所詮、上澄みだけを見て綺麗などと嘯く偽善者の行為などその程度なのだ。
こんな風に嘲れば、一笑に附されてしまう程度の浅薄な藁ぶきの家だ。
さて、家を吹き飛ばされた哀れな子豚はどんな怯えた面を見せてくれるのか。
ベルセリオスは相手の瞳を覗き込む。だが、そこから彼が得たものは愉悦ではなかった。

「哀れな……貴方は、彼らをそういう風にしか見ることができないというのですか」

皮肉。いや、蔑みか。
対面に立つ女神は眼の前の人間を真に神らしく、そう評した。
血肉の全てを削ぎ落し、残った骨だけを見て人間を語る男は、
人間を見守り、導く神々から見ればそのような矮小な存在でしかないのだろう。

「…………ふ」

そんなちっぽけな存在の分際で幾つもの駒の命運を弄び破壊する男、ベルセリオス。
だが逆に返せば、そんなちっぽけな存在こそが幾つのも駒を命運を弄び、汚し尽くしている。
その事実は神からみても眼を背けたくなる下劣さだった。
「この私が”哀れ”だって? ぐふふふふっ、ぐひゃひゃひゃ!
 その世界中の人間を見下したような、自分の価値観を粉微塵も疑っていないその純粋!
 それが、それこそが、グひゃッヒャッ……」
顔と違い癖のあるその髪を頭皮ごと掻き上げてベルセリオスは笑った。
決して大きくはないが、喉の奥の奥でこびり付いていたような濃密な音が静かに部屋を満たす。
怒りでも、悲しみでも、楽しみでも、喜びでもあり、またその何れでもない感情を毒とまき散らす人間、ベルセリオス。
神でさえ理解し切れぬこの小物はおもむろに席を立ち、やはり理解しがたい言葉を紡ぐ。

「取り消せ。私は、哀れなんかじゃない。前の盤面を知っているだろう?
 お前の半神がボロッッカスに負け果てたあの戦だ。“あすこ”で踊った駒の末路をお前も読んだろう?」

その視線は、今まで彼が放ってきたものの中でも一際“歪つ”だった。
ネジ曲がっているようであり、直線でもあるような異質な線が彼女を射抜いている。
彼女や今まで対戦してきた獣共ごと、人の意思を護ろうとするもの全てを捻り潰さんとする悪意が、
ベルセリオスと言う人間から迸っていた。天才であろうとも、決して神ではない人間から。

「薬に幻をみた哀れな廃人も、姉の幻影に戸惑い児戯と爆ぜたあの餓鬼も、
 本当の願いから眼を背け続けた唐変木人も、初手から釈迦の猿だったあの狂妹も! そんなゴミ屑に蹂躙された対主催もぉッ!!
 みんな、みぃぃぃぃんなッ! 私の式に翻弄されるモルモット以下の廃棄物!!
 それが私の組み上げた陣形、私が脅かした世界、私の掌で踊る物語。即ち私こそが“絶望”! 
 その私が、あの駒どもよりも哀れなんて、あり得るはずがない!!」

だが、その人間がアレを仕組んだ。
誰一人として希望を掴めず、全てが黒一色に染め上がていった前回の盤面。
オセロでも達するに難しいその景色は、この男の指にて動いていた。
その事実だけで、その技術・知略を示すには十分すぎる要素。
絶望の指手・ベルセリオスもまた、屈指のプレイヤーであることの証明だ。


「まだ気づきませんか、矮小なる存在よ……“だから貴方は哀れだ”というのです」

凛とした、その音律だけで百邪を祓えそうな女神の言葉が彼の妄執を弾き飛ばす。
そのあまりにも神々しい佇まいに、ベルセリオスは母親に寝小便を窘められる子供のように身を屈めた。

「神は決して操らない。私はただ、その希望ある背中を押すだけです。
 何度でも言いましょう。ヒトの身で人の運命を操ると驕り、絶望を気取る小人よ。
 貴方は私に負けるのではありません。彼らの意思によって、打ち滅ぼされるのです」

女神はそこそこ端正な顔を醜悪に歪める男を見下し、嘆息をついた。
眼の前の男が如何に才を持っているかなど百も承知。だからこそ、女神は眼を細め小人を侮蔑するのだ。
勇気を失着と嘲り、愛を定石と置き換え、希望を罠と貶める。
そんなヒトの心を理解しない存在の紡ぐカストリなど神の綾なす聖典の前にどれほどの値があるか。
死闘を終えてなお白く輝くこの盤こそが、その証左に他ならない。

ベルセリオスは極寒の吐息の如く唇と喉を奮わせて問う。
女神は一片の慈悲もなく裁断する。
「撤回は、無いと」
「愚問を。何を目的としてこの遊戯を始めたかは未だ見えませんが、
 賢しきと賢きを弁えぬ人間如きが、賢明に生きる彼らの世界を脅かすなど……身の程を知りなさい」

グリューネの言葉に、どくんと心拍をかき鳴らす様に盤上が白く輝いて息づいている。
生きる意味を、なすべき事を、守るべきものを、貫きたいものを知り、その命を輝かせる白き駒たち。
まだくすんだ灰色であったり、弱々しい輝きの駒もあるが、
C3にて第二幕が開けた時……即ち、彼女がこの席に座った時は汚れきっていた盤面の黒き趨勢は、
いまや白がその劣勢を盛り返し、輝きの力は五分と五分―――――否、優勢にさえ持ち込んでいた。
対するベルセリオス側は、未だ王は無傷ではあれども、もう動かせる駒がほとんどないのだ。
戦慄きこそすれ、余裕をひけらかせる余裕が彼にあるとは到底思えない。
だが、ベルセリオスは顔を複雑に歪ませながらも、口元で辛うじて笑顔を作った。

「あっ、そう…………だったら仕方ない。おい、判定者」
「はい……ここに、私はどこにでも侍っております。ベルセリオス様」
ベルセリオスの呼びかけに幽、とサイグローグが姿を現す。
影絵が実体に取って代わったかのような不確かさは、道化の仮面以上に彼を不可思議な存在にしていた。
そしてその不可思議を前に彼が告げる言葉もまた、不可思議だった。
「疲れた。寝る」
「…………ふざけるのも、大概にしなさい」
そう言っておもむろに席を立つベルセリオス。その様、あまりの言葉に虚を突かれた女神が声をあらげた。
そんな生真面目な女神とは対照的に、ベルセリオスはバカにしたように呆れ返す。
「疲れたから寝る。当たり前の話だろ? 駒が昼夜ぶっ通しで戦い続けてるのを見て、あんたまで同化したの?」
ある意味当然の反論に女神は口を紡ぐ。だが、その暴論に応じたのは彼女ではなく道化だった。
「ベルセリオス様……現在貴方の手番です……この戦いは基本的に持ち時間はありませんが…………
 “この状況では貴方が駒を動かさなければ全体の進めようがありません”…………
 ジャッジの立場と致しましては……この状況での退席は……了承致しかねます…………」
サイグローグは判定者だ。戦いを円滑に進行させるための存在である彼はあらゆる意味において中立である。
故に、劣勢を認めぬが故の牛歩戦術などサイグローグが許す道理もない。
だがベルセリオスが次に放った呪文は、中立の道化をしても揺さぶられる物だった。



「――――――――――――――――――――――“だったら、お前が打てばいいよ”。私がいない間は好きに動かせ」




そう言って、ベルセリオスは懐から何かを取り出す。その正体に、グリューネの眼が大きく見開く。
この盤上に終ぞ姿を見せなかった、王冠を掲げし黒き駒―――――――即ち、王<キング>だ。
そこからベルセリオスが王の持つ剣を外し無造作に投げると、王冠が妖しく輝き、一つの紋章となってサイグローグの手元に落ちた。
受け止めたサイグローグはその紋章を見て微かに、しかし確実に息をのんだ。
それはある王国の紋章だった。外界より閉ざされしエルフの村に入る為の、唯一の許可証。
王の名の下にのみ賜ることができる、禁忌の世界へ入る為の鍵。
ジャッジ故にその本質を理解できる。会場の設営システム、首輪の詳細な構成と解除方法etcetc……。
エンブレム――――――――――それは紛れもなく主催操作権限そのものであり、絶望側を絶望側たらしめる証だ。

「プレイヤーなど…………私めにはとてもとても……」

軽薄な言葉とは裏腹に、形容しがたい重さをその手に感じながら、サイグローグは紋章をぎゅうと握った。
ベルセリオスは皮肉を炙った油を更に煮詰めたようなしつこさをその笑みに乗せた。
「それはひょっとしてギャグでいってるの? 冗談はその振る舞いだけにしておくがいいさ。
 それに、お前は分かっているだろう? 私が築いた王の守りは完璧だ。絶対に崩せない」
ベルセリオスが盤面と下座をまとめて見下す。疎ましき陽光とは違い、輝きに満ちた白盤を目の当たりにしてもその狂いに陰りはない。
如何なる城塞が見えているかは分からないが、その備えにベルセリオスの自信が感じられた。
「……まだ、貴方の持ち時間には余裕がある……この砂が零れ落ちる間際まで……
 しばし、この権限を、貴方のキングをお預かりします…………
 それまでにお戻りいただけば……私はこの心労から喜んで解き放たれましょう……」
そう言ったサイグローグの左手から音もなく砂時計が現れる。
いかなる奇術による物か、それとも、種がない事まで含めて手品なのかは判別つかない。

「寝ると言っているのに……“お前の好きにすればいい”――――――――と、いうわけだ時の紡ぎ手。
 しばらくの間はこいつが相手をする。勿論、私が戻ってくる前に決着していても文句は言わないよ」
「負けを察し矢面から逃げますか、人の子。あまり姑息が過ぎると歴史に恥を残しますよ」

ベルセリオスが陽光から逃げまとうようにして席を立ち、何処よりか現れた扉を開く。
女神は真意を探る様にその背中をねめつけ続けた。
安い挑発。この程度で動じると思うほど甘い期待は女神には無い。
だが、その境目に足を乗せた所でベルセリオスは止まり顔を背けたまま瞳だけでグリューネを見つめ返す。
光彩無き瞳。光さえ脱出できないブラックホールの井戸の底から見上げたような虚無が女神をただ見つめ続ける。
そして、思い出したかのように呟いた。

「…………言っただろう。私の盤は……この世界は“完全”だと。聖獣だろうが、創世の二女神だろうが、同じこと。
 そうまで言うなら一つ預言してやるよ。まるで神のように」

ベルセリオスは大きく扉を開く。一歩前に進み、扉がゆっくりと閉じていく。
閉じかける扉の狭間から、感情さえも井戸の底に沈めてしまうかのような黒眼はずっと女神を見つめ続けていた。
ギィィィィという扉の音に混じって、ベルセリオスの口から呪文が走る。
呪う、言葉。人間が神を呪う皮肉を乗せて、それは彼女の耳を――――――――――――――――


漆喰の闇で塗り固められた回廊をベルセリオスは歩く。
本来なら溶岩灼熱の煮立つ第十階層の炉心は落ちており、古ぼけた金属の道だけが続いていた。
歩みに応じて軋むのは鉄の嘆きか。さび付いたその不協和音は彼の不快を募らせる。
がしゃん。
女神の視界より十分離れた場所にたどり着いたベルセリオスがその歩みを止めた。
止まる、というよりは溜めるという語法のほうが正しそうなほど、その親指に感情が堪っている。
「何が希望だ……何が、神だ…………お前に、あんたらに何が分かる………………
 あんたたちが支えるのは、あんたたちが見守る世界だけだろうが…………」
その怨嗟は誰に向けた言葉なのだろうか。
対戦者個人に送るには余りに大きく、切な過ぎる情念だった。
「いいよ……私のバトルロワイアルを脅かせるというならばやってみろ。
 お前が最後だ……それでもう、私の相手はいなくなる。
 来いよ女神、神の名に相応しい燦然と輝くご都合展開を組むがいい」
 永い永い道のりを思い出してベルセリオスは虚空に嗤う。
もうすぐ、もうすぐ終わる。その最後に立ちはだかったのが、絆の世界の女神とは。
やはり“世界樹”は、私を許容しないらしい。

「それでも私が勝つよ。私のバトルロワイアルは負けない。決して、消えない。消えるのは、そう―――――――」

微かに遠く何かを見つめる。
その細い手のひらを胸に当てて、ベルセリオスは何かを確かめた。
失ってしまった心臓を労わるかのような、欠損への愛撫。
それはこのバトルロワイアルが生まれた因縁の根源たる、はじまりの種だった。
それを咲かせるために、ベルセリオスは神々へ戦いを挑んだ。

これはその最終戦。りょーかい。でも気負いはしない。
私は天才ベルセリオスで、目の前には神様。だったらやることはいつもどーり。




“ただ平伏しな。この私の頭脳の前に”。




「お前だよグリューネ……“お前だけは必ず、この私の手で殺してやるッ”!!」



誰もいないアルカナルインの地下10階に、ベルセリオスの嘲笑か木霊する。
神の加護を得られないその両足で気丈に立つその振る舞いは、やはり小物のそれだった。


ベルセリオスの居なくなった部屋に沈黙が訪れる。
時計の音さえ剥離する沈黙の中、対面の空席を凝視して彼女は固唾を呑んだ。
本当に退席するとは。対局の中、ベルセリオスの冗談、挑発は数知れずあったが
まさかここまでのことをされるとは、さしもの女神でも予想だに出来なかった。
相手は人間とは言え、本来神々にしか見えない世界にまで到達した天才。
いかな策謀かと勘繰っても見たが、盤面を手放すなどどう考えても悪手でしかない。
神々の座にいる彼女でさえ、一手を誤れば即座に奈落に墜ちるような接戦の中で
一手を捨てることがどれほどに愚かしいことか。そこにどれほどのメリットがあろうと、
デメリットの方が大きすぎる。少なくとも、実利を求めての行為とは思えなかった。
(実利を捨ててでも、この場から離れたかった……? 
 それとも、この不利さえも覆す隠し札がまだある……? あるいは―――――この道化)

「…………世界は…………二つに分けられます…………」

心臓が、無くなった――――そうとしか表現できない悪寒が、彼女の意識を犯した。
鷲掴みにされるとか、締め付けられるというならまだ分かるが“それ”は度が過ぎていた。
腐った果実に蠅が集る様に、甘く爛れた胡乱さがそこから洩れている。
つらつらと嘯かれる波は、色さえ認識できそうな密度で源泉へと彼女の視線を誘う。
薄暗い部屋の中でもそれと明瞭に理解できる傾いた装束。泣いているようで笑っているようでもある黒白の仮面。

「善と悪…………天上と地上…………物質と非物質…………人と神…………衰退と繁栄…………獣と人…………陸と海…………
 一より始まった世界は、必ず二つに分かたれる。そして、重なり交わり、響き合い、新たなる一つの世界となる」

道化師サイグローグ。屈強なる魂を持つ戦士を自らの屋敷に招き、様々な趣向でその煌めきを鑑賞することを愉悦とする好事家。
この戦いの審判であり立会人でもある彼が、初めて“ゲーム進行以外で”彼女に声を掛けた。

「二項対立の相克こそが世界の原型……ならば互いの勝利の為に相戦う貴方達は今、世界を創り出しているに等しい……
 そうは思いませんか…………存続と繁栄を司る女神……グリューネ様」

そう言ってサイグローグは彼女に……女神グリューネに問うた。
眼の部分が開いているのかどうかも分からない仮面越しに、しかし確かに感じる視線。
神とも人とも違う現外の存在からの呼び声に、女神は僅かに体を強張らせた。
「……何のつもりですか? 道化よ」
「おや、お気に障られましたか……この場の空気がひりついているご様子でしたので私なりに気を廻して見たのですが……」
「気にしていません。ただ貴方がゲーム進行以外の目的で私に話しかけてくることが、少々物珍しかっただけです」
陰気な笑みを浮かべる道化に、女神は養殖的な気丈さで応じた。彼女が奥底に隠したものを知ってか知らずか、肩をすくめて道化はおどける。
「これはこれは失敬の極み。確かに私はこの戦いの審判、中立的な立場ですので貴方達の集中を乱すようなことはせぬようにと控えた次第。
 ですが、今は戦いがベルセリオス様の中座にて止まっておりますからして……私の職務も、同じことかと」
おどけた調子で飄々と嘯きながら、道化は何処からとりだしたカップを手に取り湯気立つ紅い液体を注ぎ込む。
その様を見て彼女は嘆息をついた。彼女は見たことも無いが、あの仮面の奥ではきっと舌を出していることだろう。
女神は諦めた調子で、カップを手に取り艶やかな唇へと運んでいく。
「屁理屈を。道化……道を化かす者とは、つくづく貴方に相応しい称号ですね」
「いやいや、どうか誤解無きよう……素直に嬉しいのですよ、貴女のようなVIPを賓客と招くことはホストの誉れですから。
 まったく“貴女をこの催しに招いた、聖獣王には感謝せねばなりません”」

紅い茶の水面が僅かに波立つ。
女神はその胸中を一切表情に現わさなかったが、視線がその波紋につられ下を向く。
直ぐに自らの失敗を理解するが、慌てて道化を見直すことは無かった。
音さえ聞こえそうなほどに“にんまりと”歪んでいる顔が想像できたからだ。


「……彼は、聖獣王は誰よりも早くこの“異常”を認識しました。
 そして直ぐにこの地を突き止め、聖獣達を遣わせました。その手際には一切の無駄は無かったでしょう」
サイグローグはグリューネの話に耳を傾けながら傍にあった花瓶の花をくしゃと千切り、握り締める。
揉むようにして手に力を入れた後、その掌に合ったのは程よく焙煎された豆だった。
「聖獣王と六聖獣、一つの世界を調停してきた彼らです。55の存在の消失と幽閉。
 この程度の“異常”ならば、容易く破れるはずだったでしょう」

「……ですが……この程度の“異常”は存外に……“しぶとかった”というわけですか……」

茶葉の香りと煎豆の香りがとぐろを巻くように混交する。
サイグローグは花の散った花瓶を用済みとばかりに布で覆いこつこつと指でなぞった。
ジャッジであるサイグローグは、その香りの向こうに思い出す。



最初に現れたのは『闇』であったか。
ただ王を討てば良いものと思い込んだ哀れな獅子は、何をすればいいのかも分かっていなかった。
故に、むざむざと相手に陣形を整えられ、当の本人は“樹の暴走”を赦して呑まれた。

次に現れたのは『風』であったか。
風は闇よりは賢かった。王を討つためにはまず“王を討つ準備を整える”必要があると知った。
その分だけ善く保った。だが、それだけでは説明できない何かがあることを知らなかった。故に、押し潰された。

ちちんぷいぷいと道化は布を掃う。そこには、美しき装飾に彩られたサイフォンがあった。
「彼らは……認識できませんでした。これは王という邪悪の根源を、正義が討ち果たす遊戯なのだと思い込んでいた。
 そして、“それが間違いであることに気付けませんでした”」
2匹を敵に落とされて、ようやく彼らは認識を改めた。

天上王。55の生贄を異世界へ集め殺し合いを強要した全ての元凶。
この世界で起きた全ての悲劇は、この元凶こそが全ての原因であると考えたくもなる。
だが、それだけでは“解釈しきれない”のだ。
ある者は己の性を満たすことのできる戦場で獣と成り、
ある者は喪命への怖れから殺人の生物的禁忌を破り、
ある者は異常と言う現象そのものに理解が追い付かず、本人の意図から逸脱して死を散布した。
――――――――――その全てが、主催者の仕業と言うにはあまりに杜撰なのだ。
全てを一個人を端に発した必然というには、散逸的であまりにも統一性が無く、逆に矛盾を生じさせる。
しかし、全てを偶然というには…………この後が“おぞましきに過ぎる”。

老獪たる『土』は手堅く手を進めた。
南西に萃まりし悪鬼三種を意図的に古城へ誘導し、殲滅を図る。
破恋の魔女が実らせし毒林檎を逆手にとりや、白雪姫が血の天誓を朝日に響かせた。
かくて風は嵐と成る前に消え、赤青双鬼は破つる。姫の棺には多くの弔問客が訪れた。
敵の駒は大きく減じ、北西の村には一大の陣形が構築された。
王が仕掛けし策を逆手に取った、見事な手の進めよう……“だった”。

「この戦況……一見すれば王だけが不利に見えますが……“彼の視点では”何一つ掌から出ていませんでした……
 ………そう、あの宴こそが、彼の存在を確かに知らしめているのです……」

そう……あの城を生き延びた策士が計画し“魔宴”。
西側の趨勢に楔を打ったあの一撃によって、強固強大な『土』の城塞は儚くも打ち砕かれた。
計算し尽くされた惨劇。だが、あの現象において全てを把握していたものはいない。
盤の中では不確定要素たるものさえも統べる計算は“彼”でなければ成しえなかった。

「………もっとも……彼が狡猾たるは……そこで全てを持っていかないところなのでしょうが…………」

希望と絶望は波の様な性質を持っており、片方に傾き過ぎると元のバランスに戻ろうとする性質がある。
そこで蹂躙してしまえば、生き残った者たちに反動する運命の力を与えてしまう。
故に、彼は星座だけを壊し、星そのものを壊さなかったのだ。
魔宴によって集いし星は、その星座を引き裂かれた。だが星光途絶えることは無く、再び輝かんと動きだす。


「線は千切られ、再び線を描こうと集い始める。傷ついた獣は、仲間を集めて力を蓄え、
 自らを傷つけた人間を殺そうと画策する……それこそが上座の思惑……“猟銃は貴方を狙い続けていたというのに”」

『水』は力の限り健闘した。そう言っていい程にこの局面は“酷かった”。
合わせ鏡の罪人は己が罪を己の手で清算し、怪人は海神としてその魔を制御する術を覚え黒き翼を蹂躙する。
魔宴の主は廃城に破壊神を招いて二度目のサバトを画策し、その裏で天使が血塗られた策謀を巡らせる。
東西問わず、様々な箇所で同時に、時に連鎖的に起こる局面の変化。
様々な思惑が絡みに絡み合った運命は、最早主催者を含めて、個人の意思ではどうにもならないレヴェルだ。
あまりの酷さに屈してしまいたくなる“敵”の攻勢――――――それに、水は耐えたのだ。

悪意に染まりし糸の絡みを、流水で解きほぐす様に少しずつ解き、多くの殺意に終止符を打った。
中でも、決まれば勝負有りだった魔砲をギリギリの線で凌ぎ切り、宴の主をこの段階で倒したことは驚嘆と言うほかない。
『水』は希望を諦めぬ不屈の意思で、その命と引き換えに混沌極まりない盤上の“乱戦”に終止符を打ったのだ。

「ですが……今にして思えば、ここで智将が墜ちることも折り込み済みだったのかもしれません……
 E2を基点とした乱戦が終わったことで、確かに敵と味方の境界線は鮮明となった……そして、敵の強大さがどれほどのものかも」

学士が語ったように、敵として残った四騎……いや、四鬼は……敵というには、強大過ぎた。

力に陶酔しその間合いに入る者全てを斬殺する剣鬼。
枯木の様な虚心の侭に己を含めた命を弄ぶ幽鬼。
思慕を狂気に換えて衝動のままに屍を積む鬼姫。
そして生者必滅の理にすら逆らい、盤上を支配しようとした天邪鬼。

智将の怨念を魔法陣として召喚されたかのような強大な4つの駒。
そして希望側に残ったのは、ボロボロの駒ばかり。俯瞰したこの視点からの戦力の優劣は明白だった。

「言わば終盤、詰めの状態です。ましてや、それを操るのがあのベルセリオス様であれば……
 “ここからさらに徹底的に追い詰められる”のは、最早避けられなかったのかもしれません……」

『火』は、完全にベルセリオスに翻弄されたといってよかった。
敵の駒に対抗する為、希望側にとって東西の軍勢と合流させることは必須だった。
絶望側の駒が休み準備を行っている間に、全てを整えなければならないと。
だが……“午前中は絶望側が動かない”という固定観念さえも、策略だったのかもしれない。
ベルセリオスは駒の位置と禁止エリアを巧みに用いた搦め手で、彼らを洞窟に誘導した。
白日の下ならばもう少し分かりやすかったはずのすれ違いを極限まで複雑な蜘蛛の巣とし、再びあの穴倉を墓穴としたのだ。

「挙句の果てに……魔杖を撒き餌として対主催を合流させる前に“釣った”。
 尖兵があの海神では、地獄以外のなにものでもないでしょうに」

『火』は、ベルセリオスの狙いが分かっていながら、そこに手を進めるほかなかった。
十全な備えをする間もなく、海神攻めを強いられた。
無論、敵の手が分かっていた以上『火』も全力を尽くした。
烈火の如き怒濤の攻めで、海神を焼き尽くした。

「しかし、これも捨て駒……いえ、最後の布石だった……駒に愛着の無いベルセリオス様らしい外道さです」

元々、海神は制限時間つきの駒だった。“だから最初に使い切ったのだ”。
求められたのは、より強大な呪いを放つ死であり、幸薄き妹の未練ある生ではなかった。
かくて哀れな生贄は計算以上の呪いを世界に撒き散らした。

双剣の天使が心臓を抉りとり、
学士は運命の決断を行い、
烏の黒は、闇に染まり、
海神は、トロイの木馬と成りて正義へ感染する。

あとは当人達は戦いの傷を休める間もなく、北にて鐘が鳴らされる。
……火は、誰かを滅ぼすことはできても、再生の炎にはならなかった。


「かくして……ここに、最悪の最終戦の配置が完成“させられ”ました……この後の流れは、最早語るまでもありますまい」

それはこの世の地獄、その完成形の一つだった。
怒りと、悲しみと、裏切りと、嘆きと、破壊と、
死と、死と、死と、死――――――――――――絶望一色、64マス悉く真っ黒に染まりしパーフェクトゲーム。
一切の希望を遺さぬキリングフィールド……誰もいない丘に、ベルセリオスの勝利だけが刻まれた。
ここで終わるゲーム。ここで終わる“はずだった”ゲーム。

「最終戦……いえ、最終戦に“なるはずだった”戦いは、文句無しで“彼女の”敗北でした。
 後は清算し、舞台を片付けるだけ……そのハズでした」

それはこのゲームを観戦する誰もが思った、究極の問いだっただろう。
“なぜ、再び盤上で戦いが行われているのか?”

「ですが……“一つだけ、希望が残っていた”……いや……保険を打ったというところですか」

香り立つ珈琲を淹れながら、道化は彼女を見つめる。
紅茶だろうが珈琲だろうが、カップを口に近づけ香りを楽しむその姿はヴィーナスそのもの。
女神グリューネ。世界を渡り歩き、人を繁栄に導く時の紡ぎ手。
“存在しないはずの第七戦”より参戦した彼女こそが、その答えにして最後の希望だった。

「聖獣王様もそうでしたが……一体、どのような手で此処を知ったのですか……?」
サイグローグは自分のカップを取り出しながら昨日見た歌劇の感想を尋ねるように問う。
ベルセリオスの作り上げた世界は、まだ出来たてであるはずなのに、こうもあっという間に客が入るとは思っていなかったのだ。
「それに答えろというならば、先ず貴方が応えるべきでしょう」
「はて……何のことでございましょうか?」
「惚けるのはやめなさい。そもそも、貴方は何故ベルセリオスに従っているのですか」
瞬間、二人の間に沈黙が走る。
そう、それも一つの謎であった。世界を渡り歩き、己が性に従って悦楽の限りを尽くす好事家が、
さも当然の様にこの戦いの運営を取り仕切っているのである。
あまりにも堂に入り過ぎて見逃してしまいそうになるが、彼女の側にしてみればベルセリオスと同等に警戒するべき存在なのだ。

「ふうむ……と、言われましても。私も中立の立場を表明している以上、
 ベルセリオス様にアンフェアとなりかねない情報を、御裁可も無しに申し上げることは大変難しいのですが……」
サイグローグはすうと己の仮面に手を透かし、涙を浮かべたような仮面へと切り替えてさも困ったように肩をすくめた。
「しかし、我が別荘に招いておきながらゲストの望みに応えられぬのもホストの名折れ……実に、ええ、実に困りました……」

そう言って、頭を小突きながらサイグローグが指をパチンと鳴らすと、グリューネの周りに品の良いサイドテーブルが現れる。
そして、そこには様々なお茶受けが用意されていた。。
マフィンやレモンタルトやフルーツケーキ、クレープにフルーツサンド?は序の口。
女王甘甘、あまにんとうふに、里より取り寄せた高級味噌(1つ80000ガルド)をふんだんに使ったマーブルチーズ。
トドメとばかりにドンと置かれたるは特製フルーツパフェ・ウィズ・チョコレートバナ~ヌおいしおいし。

お茶受けというにはあまりにも万漢全席な菓子のバトルロワイアルがそこにあった。



「節操が無いと言われたことは?」
「いえ、何分急なお客様でありましたので……
 どれがお口に召すかどうか分からなかったものですから、とりあえず私の判断で“色々”揃えさせていただきました」
残りは私が責任持って片付けさせていただきますので、とサイグローグが苦笑する。
一見ふざけた態度ではあるが、あらゆる世界の出来立て菓子を一瞬で用意するその手際は、最早奇術というレベルを越えている。

「……パイがありませんね」
「申し訳ありません。良い桃が中々見つからず。別の場所から取り寄せても良いのですが」
「結構です……頂きますよ」

グリューネは少しだけ迷った後に、マフィンを手に取り口に入る程度に千切って頬張る。
毒の可能性は無きにしも非ずだが、神を殺す毒など有り得ない。ましてや、ホストが毒殺など己が名声を穢すだけだ。
上品な甘さが舌を浸し、そこに紅茶を注げば彼女の内側に苦みと甘みが広がっていく。
昔、こうしてパンやマフィンを食べながら冒険をしたことを思い出しながら、あの激戦で極限まで張りつめた緊張を僅かに弛緩させるのだった。

「……お気に召したようで、何よりです」
「…………別に。かつて食べたサンドイッチの方が、私には忘れられぬ味です」
「これはこれは手厳しきかな。確かに、甘いモノだけでは舌もお疲れになるというもの……
 さて、飲み物もお茶受けも揃いましたならば……後は良き花を咲かせる話の種があれば完璧というものですか。
 では……このような趣向はいかがですかな……」

サイグローグが指を弾くとグリューネの前方の空間が宇宙の収縮の如く歪み、
やがてビックバンの如く復元する。そして、そこには今まで無かった“窓辺”があった。


GREAD SHOP


♪~一週目クリアおめでとう!! これまでに手に入れたグレードを用いて新しくゲームを遊べます!!
  なお、使ったグレードは周回ごとに持ち越されます~♪


GREAD SHOP                               所持グレード:2,000

□支給品無し                       :10000
□初期支給品所持数最大1個                :1000
□初期支給品所持数最大15個               :100
□術技消費システム変更(TP→CC)           :2000
□TP自然回復量10倍                  :200
□TP自然回復量0.5倍                 :700
□回復術制限解除                     :50
□回復術禁止                       :2000
□死者蘇生制限解除                    :300
□死者再登場(幻想・エクスフィア精神体等を含む)禁止   :2500
□支給品を除く飲食物の補給禁止              :1500
□支給品を除く道具・武器の調達禁止            :1500
□支給品の自律意思禁止                  :1000
□参加者途中参加開放                   :100
□外部介入禁止                      :4000
□主催サイド中途介入禁止                 :1000
□OVL系統禁止                     :500
□CERO:Z要素開放                  :500
□スキットシステム開放                  :50
□禁止エリア2倍                     :1000
□禁止エリア無し                     :100
□魔装具能力MAX                    :100
□記憶引継ぎ                       :50
□絆引継ぎ                        :50
□習得スキル引継ぎ                    :50
□スキル禁止                       :1000
□ユニゾンアタック系統禁止                :1000
□不意打ちによる即殺禁止                 :50
□オールズガン                      :40000
□一人称視点禁止                     :100000
□首輪フリー                       :1
□秘奥義(クライマックスモード含む)回数制限開放     :500
□秘奥義(クライマックスモード含む)禁止         :1500
□支給品の未確認状態禁止                 :15000
□武器スロット、武器エンハンス開放            :500
□敵味方識別個別設定解除                 :1000
□「召喚師の系譜の物語」開放               :2003
□「真実と向き合う物語」開放               :2010
□「生まれた意味を知る物語」開放             :2005
□「魂を解き放つ物語」開放                :2006
□「想いを繋ぐ物語」開放                 :2007
□「響き合う心を信じる物語」開放             :2008
□「『正義』を貫き通す物語」開放             :2009
□「心と出会う物語」開放                 :2008
□「守る強さを知る物語」開放               :2010
□「君の為の物語」開放                  :2011
□Now Locking……Coming Soon―――――――――――――――Next Tals of………

□サイグローグ視点における情報              :400
□ルート分岐理由                     :300
□勝利条件・敗北条件確認                 :200
□チャネリングの意味                   :50
□この世界の真贋                     :???
□                            :


洒脱な音楽というよりは、軽過ぎる奇妙な高音に包まれたグリューネが言葉を選び出すには数秒の時を要した。
「……なんですか、これは」
「グレードショップですが……何か?」
何を当り前を、と小首を傾げるサイグローグ。
10人が見れば15人が「お前みたいな胡散臭いのが小首を傾げた所で可愛くなるはずがない」と答えるだろう仕草だった。
ちなみに10人に5人は一度否定してから「こんな道化が可愛い訳が……いや、やっぱ可愛いはずがない」という意味だ。
「いえ、中立の立場といたしましてはこのサイグローグ……確かに無条件に情報を提供することはアンフェアになる故、出来ぬ次第です……
 しかし、情報が乏し過ぎることが逆にグリューネ様にとってアンフェアであることも事実……
 なればと私考えましたが……対価を以ての取引とあらば……公正は保たれるかと……
 とりあえず……前ゲームがNormalで決着しておりますので、周回ボーナスで1,000。第七戦最終戦の結果から765追加。
 後は、先ほどの勝負の勝利を讃えて……端数込みで、所要情報量200を追加。端数を御負けして合計2,000でいかがですかな?」
「しかし、どれもこれも今は使えないものではないですか……」
サイグローグはワザとらしく額をペチリと叩き、申し訳ありませんと冗談めかして謝罪の言葉を口にした。
グリューネもまた溜息をつきながら、しかし一方で冷徹な目で前方の窓辺を見つめ続ける。
如何な思惑が道化にあろうが、サイグローグの持つ情報を得る機会であることは事実。
こと遊戯に関しては真摯なあの道化が提示したこの好機を見逃すほど、彼女は愚かではない。
「しかたありません……つまらぬ揚げ足でこの機会を失うのも稚拙でしょうし、貴方の遊興に付き合ってあげましょう」
そういって、先ずはと女神は少し思案した後、一つの項目に指を伸ばす。

→□スキットシステム開放                  :50

「ほほう……まず最初にそれに眼をつけましたか…………」
サイグローグが腕を組みながら頸を揺らして、お目が高いと声を漏らす。
「かの術式そのものについては、今さらご説明の必要はございますまい……
 ここ暫くの盤上の展開……重厚ではありますが今一つ機敏さに欠けるものがあったことも事実……
 長考の果てに絞り出される一手もこの戦いの醍醐味ですが、感性に身を委ねたあの序盤の早指しノータイム乱れ撃ちもまた魅力………
 進行上の細やかな要素や、些細な一手に関してはこちらの術法を用いることで思考の負荷を減じようという……
 まあ、一種の補助術法と思っていただければ結構かと……」
「そういうことですか。一手の価値は? 通常手と同等ですか?」
「厳密な定義は難しいですが……【各駒の冒険の際にあったものと同等の価値と認識していただければ結構です】。
 無くても手筋が成立することが最低条件。あくまでも、メインディシュの為のオードブル……
 例えるならば、そう……肉料理のソース……定食の味噌汁と浅漬け……肉まんの辛子…………そんな所と考えて頂ければ」
高尚な茶葉の香りが吹き飛んでしまいそうな例えではあったが、グリューネは成程と気にせず茶を飲む。
「了解しました。この項目を購入します」
「承りました。どのような形式になるかは……本格稼働の前に……テストしてみましょうか……」
サイグローグがそう言いながら指を弾く。すると、女神から白い霧の様なものが漏れ出す。
霧がエクトプラズムのようにゆらゆらと漂ったかと思えば、それは次第にサイグローグの下へ近づき、その手元のサイフォンへと封じ込められた。
グリューネの持つグレードポイントが道化に徴収された結果だった。

「ああ………申し添える必要は無いとは思いますが…………スキットですので……少々……“病む”可能性もなきにしもですが……
 用法用量を正しく…………どうか……御寛大な御心でお使いください…………クハハハハ…………
 それでは……次なる項目を………もしくは……これで終わるか……どうぞお選びください………」

notice:スキットシステムが解放されました。本手以降のスキットはレコード内で閲覧可能となります。

〆スキットシステム開放                   :50

Grade Point:2000→1950

→□サイグローグ視点における情報              :400


SKIT 【ここはどこ? わたしはだあれ?】


サイグローグはグリューネから差し出された靄の様な光を茶器に封じ、再び入れ直した茶の香りを楽しむ。
「ふむ、先ず先ずの香りです…………さて、ここが何処かと申しますれば『アルカナルイン』……
 私の持つ敷地の一つです……まあ、別荘の様なものと考えて頂ければ」
「別荘ですか。随分と羽振りの良いことですね。となれば、本邸はさぞや豪勢なのでしょう?」
「あの館が本邸と言う訳ではないのですが……申し訳ありません。ただいま改装中でして……
 このような絢爛豪華な催しに用いるには、とてもとても……重ねて、申し訳ございません……」
「招かれた時には、既にこの部屋に通されていましたが…………窓はあれど太陽は視えず、月も見えず……
 在るのはチェス盤と椅子と、僅かな灯りだけ…………察するにここは地下の様ですが、一体何階ですか?」
詰め寄るグリューネ。だが、サイグローグは諸手をひらひらと動かしてお手上げの意思表示をする。
「残念ですが、ここは何処かとの問いには答えましたので……これ以上“私の口からは”はお答えできません……」
諸手を挙げて勘弁してくれとジェスチャするサイグローグに、グリューネは若干眉間にしわを寄せる。
「結構です。では、続いて、この場に存在する人物について述べなさい」
「……これは……私に問うべきことですかな? 良い医者ならばご紹介致しますが……」
「正常ですよ。“貴方の口から言わせることに意味がある”のですから」
「これは手厳しい。グリューネはグリューネでも実は画家グリューネヴァルトでは……などと嘯くとお思いですかな?」
「ならばその証を立てて頂きましょう」
ほう、と嘆息をついてしばし黙考するサイグローグ。だが、直ぐにその問いを了とした。
再びグリューネから光が湧き、それがカップに注がれる。
「まあ半分は貴方がご存じのことですから、サービスしておきましょうか……。
 現在、このアルカナルインには私を含め3人がおります。一人は……グリューネ様、貴方でございます。
 先ほどもお尋ねしましたが…………いったい、何処でこの催しのことを……?」
「聖獣王から使いの鳥が来ました。それだけ言えば、十分でしょう?」
女神は茶を飲みながら目を瞑り、その時を思い出す。
あの蒼海より旅立ち、この盤に未だ関わらぬ世界で人の世の流れを見守っていた時に、燃え盛る炎のような女性が現れたことを。
「聖なる鳥ですか……成程、合点がいきました……聖獣の皆様がこうも早く参じたのは、彼女の力ですね……
 となると……“もう一人の方も”…………ありがとうございます………漸く背景を理解できました……」
「私のことなど、どうとでも良いでしょう。それより、あのベルセリオスという男、何者ですか?」
「何者……と言いましても…………今回の催し、その主賓です……
 いやはや、この様なモノを構築するできるとは……人間の力の恐ろしさ……いえ、凄さを改めて思い知らされます……」
「構築、ですか……随分と悪趣味な世界を構築したものです。血も涙も無い、いえ、ただの液体としてしか見ていないような」
「今度見えた時にでも、直接お云いください……恐らく、諸手を挙げて喜んでいただけるものかと……」
「そして、そのような外道に力を貸したのが貴方という訳ですか」
言葉の矛先が変わったことを感じ取ったサイグローグが、困ったような顔をする。
「最初は眉唾モノかと思いましたが……少し興味を持ちまして………こうして、ささやかな“お手伝い”をさせて頂いている次第です」
「ささやかな、ですか……」
「ええ、ささやかに…………ご紹介は、このようなところで十分でしょうか…………もう少し詳しい部分は、後で棋譜に刻んでおきましょう」

notice:レコードに新規キャラクター紹介が追加されました。

〆サイグローグ視点における情報                 :400

Grade Point:1950→1550

→□ルート分岐理由                       :300


SKIT 【詳しくはアルタミラカジノで】

再び白霧がサイグローグのサイフォンに取り込まれ、内側の珈琲は既にミルクが混じったかのような色合いになっていた。
「ブラックも捨てがたいですが……時にはミルクやシュガーを入れるのも乙なもの……白と黒が交わる味わいは格別です……
 さて……この問いですが……これも、半分以上はグリューネ様も良くご存じかとは思いますが……」
「構いません。貴方の口から述べなさい」
「クク……了承いたしました…………確かに、本来ならば第六戦にて決着となるはずでした……
 第五戦までの状況が状況でしたから……後は最後に残った“雷”をベルセリオス様が屠ることで…………
 時に……先ほどの戦いを見る限りポーカーの知識はございます様子ですが……グリューネ様は……カードゲームなど、なされたご経験は……?」
「? ありませんが。何が言いたいのですか?」
「いえいえ……あの船は、闘技場位しかありませんからね……経験薄しも已む無しかと………
 カジノで用いられる代表的なカードゲームでは、ポーカーの他に……“ブラックジャック”などがありますね…………
 上座のディーラーと下座のプレイヤーが合計21の値を互いに目指すシンプルなゲームなのですが……
 シンプルなゲームであるが故に……“中には、特殊なルールも存在いたします”…………」
「…………」
「ディーラーが一枚目でAを出した場合……チップを上積みして保険を打つことが出来る【インシュランス】……そして…………【スプリット】」
「180度旋回による高度低下機動?」
「それはスプリットSでございます……【スプリット】……プレイヤー側が、最初の2枚で同じ数字のカードを引いた場合に同額のチップを積むことで、
 “その2つを分けて、2つのゲームとしてディーラーへ勝負を挑むこと”ができるというルールでございます……
 当然、Betは2倍掛かります故……リスクは2倍ですが………2回勝負が出来るという利点はなかなかにして大きいモノです……。
 ある海辺の企業系カジノでも採用されておりますルールです故、詳しくはそちらの方でご確認いただければと……」
「このゲームが終わったら、そうさせていただきます……で、このルール説明が、一体なんだと?」
グリューネの問いに、サイグローグが眼を横にそらす。そこには、打ち捨てられた前回の黒盤があった。

「何、第六戦開始時……プレイヤー側に入った手が“クイーン2枚だった”……それだけのことですよ……ハートと……真っ黒なスペードの、ね……」
「そうですね……彼女は、私の為に道を切り拓いてくれました。結構です。意味はこれで通じました」

〆ルート分岐理由                 :300

Grade Point:1550→1250

→□勝利条件・敗北条件確認            :200

SKIT 【勝ち方と負け方】

「……何度も尋ねるようで誠心苦しいのですが……これまでの戦いを見ていても……ましてや戦い、勝利してなお……この問いを――――」
「当然です。先ほどから、勝利・敗北という単語は幾度となくありましたが、実際何を以てそれが決定されているのかが不明ではありませんか。
 極端なことを言ってしまえば、判定者である貴方がそう判定したからとしか言いようがありません」
グリューネの問いに、道化は新しく譲渡された白い靄を綿菓子のように摘まみながら千切って食べながら、ふうむと唸った。
「成程、言われてみればご意見は御尤も……そうですね……それを探り合うことも戦いの一環ではあるのですが……
 まあ、少しならば宜しいですよ……ですが少々……」
「の・べ・な・さ・い」
「……いたします……いたしますとも……ええ私答えたくてたまりません……
 ……先ず……希望側は、盤を白く満たすことが勝利条件と成ります……
 絶望側は……盤を黒く満たすことが勝利条件と成ります……以上です…………」
「ふざけているのですか?」
「何がでございましょうか……?」
「これのどこが条件ですか。曖昧にも程があります。それに、この条件ではあまりに達成が難しいでしょう」
「ベルセリオス様は、見事やりおおせましたがね……もっともこの第七戦が無ければの話でしたが……」
 確かに……白い盤の中に、黒が混じっていないとは限らない……逆もしかり……パーフェクトゲームは難しいモノです……
 ですので……もう一つの手段による決着が専らですね………【相手の敗北条件を満たすこと】……それでも勝利と成ります……」
「……敗北条件は?」
「プレイヤーが指せなくなってしまった場合です……
 私が知る限りでは二つ…………一つは私も見たことがありません……もう一つは……相手が降参<リザイン>することです……
 ……諦めてしまえば…………そこで試合終了とはよくぞ言ったものです……」
「なるほど。ならば、問題は無いでしょう。了解しました」

(もう一つは……まあ、有り得ないと云えば、有り得ないですがね…………諦めること“さえ”できなくなってしまった場合など……)

〆勝利条件・敗北条件確認             :200

Grade Point:1250→1050

→□チャネリングの意味              :50

SKIT 【PPPPP!!】

「ほう……此処に着眼致しますか……流石はグリューネ様……慧眼にあらせられます……」
「能書きは結構です。述べなさい」
「わかっております……分かっておりますとも……
 さて、先ほどベルセリオス様も述べられておりましたが……基本的にこの戦いは灰色の駒しかありませんので……
 原則……盤上に於いて……絶望側・希望側共に殆どの駒を使うことが可能と成ります…………ですが……“例外の駒がございます”……」
「“王<キング>”―――――主催者ですね」
「左様でございます……主催者……“王”、そして王のみが知りうる情報……王のみがとることができる行動……これら全ては、
 絶望側のみが使用可能な特権となっております…………先ほど私がベルセリオス様よりお預かりしたこの王家の紋章……
 この権限の証などを持たぬ限りは……主体的に動かすことはできません……」
「つまり“王”は絶望側専用の駒、ということですね。そして、恐らくチャネリングとは……」
「御想像の通りです……チャネリングとは本来絶望希望問わず使用可能な灰色の駒を黒く染め上げる鎖……
 “効果発動中の駒は絶望側しか使用できません”……」
「発動条件は?」
「御想像にお任せ致します…………解除条件は……まあ……電波が途絶えれば……解除ですよ……」
白煙を燻らせながら香りを楽しむサイグローグの視線は、グリューネの視界からは視えない。
「途絶えれば、ですか…」

「そう…途絶えれば……ピピピピ……電波が……ピピピピピピ……ククククク…………」

〆チャネリングの意味             :50

Grade Point:1050→1000



(ここまでは、先ず先ずですか……)
グレードと呼ばれる何かを半分サイグローグに渡しながら、グリューネは思う。
如何なる思惑かと訝しみながら道化の遊興に付き合ってみれば、サイグローグの返答は決して軽挙な妄言ではなかった。
言い回しは曖昧であったが、その解答の意味を理解しようと思えば8割は可能だ。
グリューネが答えをの一部を自分が知っている内容を道化に尋ねたのはそれを確認する為でもあった。
自ら敷いたルールは守る。それこそがサイグローグの矜持であり、ゲームを楽しむ為の自らに架す縛りなのであろう。

残り、1000。
グリューネは残された項目へ向ける視線を上から下へゆっくりと下げていった。
このグレードショップによる契約は恐らく真実だ。サイグローグの名の下に効果を発揮する強制力を持つ。
ならばこの残高を如何に用いるか…………
殆どの項目は高過ぎて購入できないが、グリューネにとっては問題なかった。殆どが自らに不利な項目ばかりであったからだ。
逆に、購入可能な項目には非常に魅力的な要素が眠っている。
それらは殆どがグリューネに、いや、希望に向かう駒達に利をもたらすものばかりで、
何故これほどまでに安いのか、逆に罠かと訝しみたくなるほどだ。
それらを手に入れ最後の戦いを有利に進めたいという衝動は、例え神だとして無碍に出来るものではない。

だが。それよりも、どうしても……眼を離せないものが……ある……

→□この世界の真贋             :???

対価の数値は隠されているが、決して少ないものではないだろう。
だからこそ、グリューネはそのポイントの半値を残したのだ。
だが、本当に、これを選んでいいのだろうか。
選ぼうとする彼女の指が、凍ったように動かなくなる。
末端まで血液が届かなくなったかのような鈍さ、息苦しささえ感じる粘性の空気。
空気の温さが、歪みかけた光が、揃い揃って警告しているのだ。

“それに触れたら、取り返しがつかなくなる”。

コノセカイ、ホントウハ。

「…………一つ……質問をいたしましょうか…………」
「ッ!!!!」
その柔らかな耳たぶの裏側を舐めるような道化の声が、グリューネを浸した。
想像さえ絶するほどの、底なし沼を逆に昇るような不快に堪らず女神は上半身を跳ね上がらせる。
だがサイグローグはそんな彼女を意も介さぬといった様子で、シックな意匠の長煙管から白煙を燻らせている。
瞬きの間の悪夢の後、そこに残ったのは胸を大きく揺らす心臓の動悸と白磁の肌に滲む汗だけだ。
(今のは、一体)
「貴方の手元に…………一冊の本があります…………何も書かれていない……真っ白な本です……」
自らが吐き出した煙をサイグローグが空いた右手でくるくると弄ぶと、いつしか煙は一冊の本になった。
絢爛豪華な装丁の表紙が勝手に捲れ、独りでにパラパラと進むページは何も描かれていない文字通りの白紙だった。
「貴方は……物語をその本に書こうとします……喜劇の神話でも……悲劇のオペラでも……惨劇の小咄でも……」
サイグローグが更に右手を握り、そして開くとそこには七色のインクと蒼い羽ペンが現れる。
如何なる翅を用いた筆か、どんな染料を用いたインクなのか。そんな瑣末なことなど考えられなくなる色合いだった。
手に取れば、忽ちの内に物語が書けるように思える、夢のように蠱惑的な代物だった。
だが、とサイグローグはそれをグシャと筆を折り、インクをドボドボと盤に垂らしてしまう。
「果たして…………それは…………本当に貴方が書く物語なのでしょうか………………
 真白い本に物語を描く貴方”という物語を…………誰かが書いているだけなのでは……?」
砕けた筆記用具の残骸を見て、グリューネは気付く。
折れた筆の断面にどす黒い骨髄が渦巻いている。盤に零れた虹色の川は血河のようにテラテラと人脂で輝いている。
「……もしくは逆に…………真白い本に……素晴らしき筆に……貴方が書かされているだけなのでは……?」
麗しき白薔薇が棘より吸い尽くしたるは血の赤。美しき満開の白桜の下に葬られしは亡骸。
物語を彩る“魅”惑、それが強く有れば強く在るほど裏側の魑“魅”はおどろおどろしく戦慄いている。


「貴方は…………何を……読むのですか…………? …………何を……書くのですか…………? “それとも”……」

七色に穢れた道化の御手が五指を広げて、女神の美貌を覆う様に近づいていく。
グリューネは息を飲んだまま、退くことも進むことも出来なかった。
女神は誘われる。奥へ、更に奥へ、そのまた奥の、深淵のその先へ。
楽しさで、美しさで、明るさで、光輝く白道の先へ。

「…………何を……読まされるのですか…………? …………何を……書かされているのですか…………?」

その本の真白は、隙間無き細密なる蜘蛛の巣の色だと知らずに。


「―――――――ッ!!」
邪手が肌に触れる瞬間、辛うじて動いたグリューネの右手がそれを祓う。
だが、その手が自身の前方を通過した時、そこに彼女が見た手も、魔の筆も毒のインクも無かった。
ただ白煙を燻らせてクスクスと笑う道化が、対面の座に座っているだけだった。
「貴方は、今……考えました……それこそが……私の悦び…………」
「……戯言を……ッ」
仮面の奥で下弦の月を作るサイグローグに、グリューネは歯を食いしばって唸った。
無意味な問いと虚言を弄んで相手の心の奥を覗き見ようとするのはこの道化の十八番。
それにまんまと乗せられてしまった自分に、グリューネは自分の肩を抱きながら悔んだ。
「真実か虚構か……貴方は選んだ……どちらでもいいのに……胡蝶の夢を見る蛾は軽やかに空を舞うだけだというのに…………」
サイグローグは陰鬱な微笑を浮かべながら煙管の煙を肺に溜めこむように深く吸い、吐き出すことなく煙管を虚空に仕舞う。
そして、カップに残った冷めた珈琲をぐいと飲み干し、サイドテーブルにそっと置く。
「楽しんでいただけましたか…………?」
「ええ、反吐が出るほどに!! それが、貴方の答えという訳ですか
グリューネが噛みつくように、サイグローグの紡いだ解答を問いただす。
しかし、サイグローグははてや何のことやらと頸を折れるかと思うほどに傾げた。
「私はただ貴女に質問をしただけ…………私はまだ何も答えておりません…………おりませんとも…………」
「ならば、答えなさい! この世界が、本当に―――――」
そこまで言いかけたとき、グリューネは口を塞がれた。それは無論物理的な意味ではない。
対面で黒煙管をしまったサイグローグから放たれていた気配の性質が変化したからだった。
「残念ですが……“時間切れです”……最初に、私は申しました…………これは言わば茶会を盛り上げる為の茶受け…………
 お茶を下げても残っている菓子など……ありますまい……?」
それは、表面的には何も変わっていないかのような微細なものであり、女神でさえどう表現して良いものか判断をためらうものだった。
軽薄は変わらず、洒脱も変わりなく……なのに、明確な指向性だけが顕在している。
赤から紅へ、青から藍へ、黒から玄へ変わるかのような、密度の違いというべきであろうか。
今まで均等に存在したサイグローグの感情のバランスが、一気に傾いた。
(一体、何が―――――――ッ!!)
グリューネはついにそれに気付いた。変わっていたのは、サイグローグではなかったのだ。
サイグローグの横に置かれていた砂時計、その砂が全て硝子の底に沈んでいた。

【……この砂が零れ落ちる間際まで……しばし、この権限を、貴方のキングをお預かりします…………
 それまでにお戻りいただけば……私はこの心労から喜んで解き放たれましょう……】
「そう……全ては砂が墜ちるまでの余興…………時間制限があることは…………既に提示済みです……
 そして……時は空しくも満ちました…………残念ながら……ベルセリオス様は戻られなかった…………」

月が折れるほど、サイグローグの両目が歪みに歪む。
なぜ気付かなかったのだろうと、グリューネは悔んだ。砂時計以前の問題だ。
道化は既に着席していた。グリューネと盤を挟んだ対極に、“ベルセリオスが座っていたあの席に”。
「ええ……残念です……誠残念無念です…………ですが…………“約束は果たされなければなりません”…………!!」
全ては、時間稼ぎだった。サイグローグがこの席に就くまでの―――――絶望側の代行プレイヤーになるこの瞬間までの!!


「判定者宣言<リコール>……! 絶望側・ベルセリオス様が規定時間までに着席されなかったことを確認……
 事前約条に基づき……ベルセリオス様が戻られるまで……このサイグローグが絶望側代行を務めることを宣言いたします………ッ!!!」

「白々とッ!!」
頬を舐めるかのような錯覚を肌身に受けたグリューネは、サイグローグに有らん限りの敵愾心をぶつける。
判定者として中立の立場から全体を眺めていたサイグローグの視線、それが今絶望側からグリューネを…“敵”として射抜いている。
「どうしました……? まさか……私を味方だと勘違いしていたなどと……
 あのグリューネ様が……よもやそのようなチョロ甘なことをお思いになっていたとは……ええ……決して……思いませんが……?」
クスクスと笑うサイグローグに、グリューネは自分の甘さを痛感してその美貌を微かに歪めた。
味方などと思ったことは無いが、中立であるサイグローグがこの段階で敵に回ることを想定してはいなかったのも事実だった。
何をバカな。この道化が、誰かの味方になるなど有り得る訳が無い。こいつは自分だけの味方なのだから。
「さて……余興に大分時間を割いてしまいました……始めてもよろしいですかな?」
「……お好きになさい。どの道、初手は貴方なのですから」
グリューネが、半ば汚物を祓う様にサイグローグの確認をあしらう。
次の一手は既に決定している。だから絶望側が誰であれ、そこは不変であるはずなのだ。

―――――――――――――――――――――相手が“まともであったならば”。

「畏まりました……さて私の手番ですが……しかし……この盤は……寂しい……」
サイグローグは駒を動かすことなく、くるくると片手で器用に煙管を回す。
やるべきことは一つしかないというのに、一体何を待っているというのか。
女神が声をかけようとしたその瞬間、サイグローグの煙管がカンと盤を打ちならす。
「白く輝き過ぎて……綺麗過ぎて……淋しいですね……ならば“こう”しましょうか……」

サイグローグが煙管の端を片手で摘み、もう一方の片手でグリューネから隠す様に煙管を覆う。
そして腕を払った時、そこには煙管の姿は無く、一本の剣があった。何の変哲もないロングソード。
煙管と剣をすり替えたのか、煙管だと思っていたものが実は剣だったのか、それはグリューネには分からなかった。
あったのは、今此処に剣があるという事実。そして、事実の剣をサイグローグが投げ飛ばした。
投げた先が対戦相手などということは勿論有り得ず、グリューネとは全く別方向に―――棄てられた黒盤へ突き刺さった。
「!? 一体、何を……」
グリューネの声など金属には聞こえるはずが無く、底なし沼のようにずぶずぶと剣が盤に沈み、
やがて、柄だけが盤の上に突き刺さったまま静止する。
「始める前に……少し……ここまでの戦いの感想でも……お聞きしましょうか…………」
そう言いながらサイグローグが指を弾くと、貫かれた剣と黒盤が躍る様にしてサイグローグの手元に戻る。
その生きたような自然さは、最早奇術のタネを暴く気さえ奪ってしまう程のものだった。
だから、サイグローグがその剣を引き抜こうとした時、女神は心構えの一つも出来なかった。
「な、何をッ!!」
「なにも……唯の……インタビュウです……ギャラリィの……声をね……」
眼を見開くグリューネの驚愕を甘露の如く味わいながら、道化はゆっくりとゆっくりと剣を引き抜いていく。
ズルズルズルズルズブズブジュルルルル。
剣より伝う液体は、その盤の色に違わず闇黒だった。芳しい腐臭を、香ばしい死臭を撒き散らしながら剣が戻ってくる。
一体そこから何が出てくるのか。それは奇術の肝ではなかった。
それは既に終わった世界。ならばその冥府の底の底から引き上がるものなど、死以外に存在するのだろうか。



グリューネは絶句した。絶句するしかなかった。

そこには頭が刺さっていた。後頭部から刺して無理矢理引き抜いたのか、
脊髄がテラテラと首のあたりから血管と一緒に垂れさがっている。
ただの悪趣味な頭蓋だ。金色の頭髪が、真白い雪に覆われた――――――唯の子供の生首だ。
「よかった……冷やされたおかげで、まだ腐っておりません……
 フォルスで出来たものは……類する力でなければ解けない……だから……保存がいい……
 唇も、歯も、舌も……こんな風に………“まだまだ使えます”…………」
まるで杖のように突き刺さった生首、その閉じた瞼が爛と濁ったまま見開く。
――――――――最後まで英雄になれなかった子供の残骸、その口がガタガタと鳴り響きだす。

「ひっでーよね! 俺は腹イタいのイタいの我慢して、あの人を許したのに、
 今の俺は無様にぶっざまに、生きながらえて、色んな人にチヤホヤ守られて、
 そのくせまだ許すかどーかも決めてないってドヘタレ過ぎ!! 」

今読んでいる本に独り突っ込みを入れるかのように、生首の杖は独りでにもう一人の自分を酷評する。
グリューネはまるで人間のように口を手で押さえて、内側からマグマのように沸き立つものを抑えた。
眼球があらぬ方向を向いているわけでもない。腐肉や涎が垂れているわけでもない。
ただその円らな瞳と快活な喋り方が、あまりにも生者のそれであることが何よりもおぞましかった。

「まあまあ……そうおっしゃらずに……仮にも同じ駒だったではありませんか……」
「んなコトいってもさー。結局、あれって俺の負け方見てさ、対策考えてこうなったんでしょ?
 つまり俺の犠牲の上にアイツがああしてノウノウ生き延びてるわけじゃん。それってズルくない?」
「ククククク……ズルくなければ、勝てないらしいですから……この戦いは……そうでしょう……女神グリューネ……?」

そう言いながらサイグローグが杖をグイとグリューネへと伸ばす。
女神と杖があわや接吻してしまいそうなほどの距離に近づく。
杖より輝く蒼眸に、女神は己の歪んだ顔が映ったのを見た。
瞳の中には怨みも蔑みも無かったが、だからこそ水面の底に映ったものが耐えがたかった。

“お前達は一度ゲームを棄てたのだ”

                “犠牲にした俺達を見捨てたのだ”

                               “犠牲を出しておいて何が神だ”

「茶番を止めなさいッ! この様な座興、盤には何の関係も無いでしょう!?」
苛立つように吠えるグリューネの表情は、眉目秀麗たる女神の称号を返上しなければならない程だった。
だが、その言動には理があった。この様な盤外戦術など余剰もいい所だ。
“ここで何が起ころうと、盤上の動きこそが全て”なのだから。
女神の罵声などそんなことは百も承知だと、サイグローグは卑しい微笑を浮かべて杖を窘める。
「これは失敬……そうですね……ええ……いけませんよ……? 美しい御方を虐めては……?」
「まあ、いいけどさ。それよりさ、俺の天翔翼、凄いカッコよさだったよね!
 おっきくて、輝いてて! 暗くなった空にビカーってさ!! “あの村からも見えるくらい!!”」
先ほどまでと打って変わって、もう一人の自分を称賛する生首にグリューネは僅かな違和感を覚えた。
しかしその微細なノイズは、潮騒の如く広がる心のざわめきに掻き消されてしまう。
もしグリューネが常の聡明と神眼を備えていたならば、その違和感の行きつく先に至っただろう。

だが、全ての可能性が真実と成り得るこの戦いにおいて“もしも”などという腑抜けた言葉など、何の役にも立たない。


「そうですね……実に……実に美しかった……夜空に輝く花火の如く……
 壮大なるフラメンゴに会場は歓声に包まれている…………おやぁ……? 何やら違う声も……聞こえますねェ……?」
サイグローグはワザとらしく耳を大きくして、手を当てておっきくなっちゃった耳を澄ます。
そして、その耳の穴が向かう先は剣を引き抜いた盤だった。
僅かに空いた女神の心の隙間を埋めるように、道化の鋭い手刀がズブリと突き刺さる。
そしてポケットの中のビスケットの粉を探す様にグリグリと盤の中を弄繰り回した後、あったあったとその手を引き抜いた。
そこには白手袋で包まれた手は無く、牛の生首がドンと鎮座していた。
正確には“そんな風にも見えた何か”が鎮座していた。
なぜなら、サイグローグの手が纏っていたのは唯のヘドロのような汚物だったからだ。
腐食して内部からガスをゴボゴボ吹かせている肉汁と、良く挽かれた小麦の様なきめ細かな骨の粉が混ざったパンケーキの種のようだった。
さらに捏ねて捏ねて、いい感じに粘ったソレをべたりと腕に纏わせただけのもの。
なのに、その非加熱牛肉骨粉は一流の影絵師の如き巧みな指捌きによってまるで生きた牛のように口を開くのだ。

「でもおかしくねえか?」
「何がですか……ウシ君……?」

サイグローグの見事な奇術の前に、女神は感極まって先ほど食したマフィンを吐きそうになる。
あの食べたマフィンは“一体何で出来ていたのか”。その可能性に思い当ったのだ。
小麦のような白い粉も、卵のようなタンパク質も、ミルクのような白い液も、果物でさえも何で出来ていたのか。その事実は一切確定されていない。
あの数々のスウィーツの絢爛舞踏さえも、今やモルグ街のびっくり挽肉市でしかなかった。
そして可能性は胃袋の中で新たな真実となり、おぞましき汚物と成り下がり女神に特大の反吐を催させるのだ。

グリューネの痴態をワザとらしく見逃すようにして、右手の“ウシ君”と左手に持った“杖”に道化は甘ったるい声をかける。
「いったい何が……可笑しいと……? 君は……分かりますかな……?」
「ん~~なんだろ……あ、わかった!! そうだよ、おかしいじゃん!」
「だろ? どう考えてもおかしいじゃねえか!」
「ううむ……困りました……私何のことかさっぱりこれっぽっちもけっして分かりません…………どうか……私にもお教え願えませんか……?」

もう呆れるほどのわざとらしさで頭を振る道化に、二つの死骸は顔を見合わせて笑う。
そして、1、2の3と声を合わせて大声で答えを言うのであった。


「「C3村北地区から見えたんだったら、C3村中央地区の奴らが何のリアクションも無いなんておかしいね!!」」


「!? まさか…!」
口元の体液を拭うグリューネはそこまで来て漸く道化師の無意味な行い、その本当の意味を理解する。
だが気付いた時は既に遅く、道化の両腕は既に変化を起こしていた。
「おお……そうですねえ……村は小さい……そして北で見えるモノが僅かな距離の差しかない広場でも見えない道理はありません……
 教えてくれてありがとうございます……こんな大きなムジュンを見逃していては……先には進めません……進められませんとも……」
「―――――――猿芝居が……ッ!!」
グリューネは隠しようも無い怒気を乗せて叫んだ。ベルセリオスに対する蔑みとは全く別種の怒りだった。
だが、サイグローグはそんな上気した肌も見眼美しきとニヤニヤ笑うだけだ。
そして、その両腕に纏った骸の形が、役目を終えたとばかりに突如頸の額が罅割れだす。
額の骨をガリガリと削り、骨と大気の狭間の薄肉をくちゃくちゃと啜るようにして頭は破裂した。
原型留めし口元は永遠にワラッたまま―――――そして脂ぎった黒光りの羽蟲が孵化するように広がっていく。

「何がでございましょうか……? ギャラリィからの問いを無視するなど……私そのような無礼はとてもとても……
 紳士でございますが故に…………真摯にお答えさせていただきますとも…………ククククク…………」

子供の生首からは、眼窩や鼻腔から毛根・汗腺に至る全ての穴からひり出るようにして。
賞味期限をブッチぎったの牛100%ミンチからは、それ自体を餌として貪る様に増殖して。
骸の隙間に詰まった微小な産まれの卵より生まれ這って粘々と汁を垂らしながらビタビタと。
黒き水面に蠢く波濤の如く、十重二十重四万八方餌を求めて居場所を求めて不吉を携えて。
湧き上がる様に広がっていく。黒虫が、道化を伝い、剣を伝い、盤を、世界を覆っていく。
白だろうが灰だろうが、分け隔てなく虫が奔っていく。

「仕方ありません……それでは我が手番の前に……補完いたしましょう……仕方なく……しィ…かたァ…ぬぁ……クククククッ……」

忘れられた二つの骸が喰い尽くされて無数の黒虫が盤上を覆い尽くした時、グリューネは終ぞ理解した。
これが、これこそがサイグローグというプレイヤー――――――その本質なのだと。



――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――




おっす、俺様はグリッド! 苗字は聞くなよ!! 正義のレンズハンター集団、漆黒の翼の団長だ。
眼が覚めたらいつの間にか変な所にいて、偉そうなオッサンがバトルロワイアルとかいうなんか訳わかんねえゲームをしろとか言いだしやがった。
強くてカッコ良くて頭脳は明晰でかっちょ良くてイケメンな俺がそんな命令に従う訳が無い!
だからカッコイイ俺はこんな良く分からん場所でも己を見失うことなく再び漆黒の翼を再結成、ミクトランを倒すことにした訳だ。
……まあ、途中ちょっと、ほんのちょっと。ホントこの若干内側に反って眼に入りそうな右目の端の睫毛の長さくらいちょ~~~~~おっと、
自分を見失なった――――って今の無し、見失い“そうに”なったりもしたが、見失ってないんだから問題無し。結果オーライ。
人望厚い俺様程のカリスマになると、おちおち自分探し中に「おおっと?」とLOSTする暇も無いから困ったもんだ。
兎に角、ちょっとしたピンチをババッとささっと片付けて一回りも十一回りも大きくなった俺にとっては最早ミクトラン如きでは収まらない器になった訳よ。
主人公って大変だわー大変ヒーローホント大変だわー。大変過ぎてバトルロワイアルそのものをブチ壊したくなってきた。いまここら辺。

そんなこんなで雷光天使ヴォルタルグリッドさん-Fatal Strikers-始まるよ!!

「……で、なんだその頭痛を通り過ぎて耳から汁が垂れそうな口上は」
大分陽が落ちて更けた夕空に、キールの呟きが拡散する。
烏がカアとでも鳴いてくれればオチもついただろうが、そんな生き物もいない。
これ以上のリアクションは求められないと、グリッドは右手で頭をかきながら口を開いた。
「いや~~~~、なんかノームが俺に【もっとかがやけ~~~】と囁いたんでね。
 べ、別に最近別の誰かが滅茶苦茶フィーバーしてて1年半以上出番が無い俺達のこと忘れかけた人とかに
 アピールしなきゃとかコレッぽっちも思ってないんだからなッ!! ホントなんだからなッ!!」
「色々言いたいことはあるが、自分のことしかアピールしてないだろう」
「馬鹿野郎ッ! 真・漆黒の翼の団員規則第876条『団員の出番<モノ>は団長の出番<モノ>』を忘れたのかよッ!!」
「絶対王政も真っ青の強打主義だな……」
どっと溜息をついて、キールはやれやれと首を振った。
キールにしてみれば額を抑えたくなるほどの奇言だろうが、両の手が塞がっているためそれは出来ない。
激闘を終えた男達の、他愛無い雑談“だけ”が暗き夜を慰め程度に彩っていく。

はははと笑いながらグリッドは北の空を向いた。
東西や南、天頂と大差ない夜色の空。だがつい先程の一瞬、その空は紅く輝いていたのだ。
「なんだよ……カイルの奴、あんな大技隠してやがったのか。ディムロスの奴、俺といた時はあんなの一言も言ってなかったぞ」
「その前の4属性同時術撃……あれほどの術式を使えるのは、生き残りの中ではミトスだけだろうな。
 図らずともお前が述べたヴェイグ達の話を補強する形になったか。お前が丸々嘘をついていなければという条件付きだが」
「信用ねえなあ」
鳳凰と基幹四元素の混成大魔術のぶつかり合い、その威力は遠く離れたこの場所にも伝わっていた。
それは唯衝撃が届いたというだけの意味ではない。その攻撃に乗せられた、互いを撃滅させんとする“決意”というべき意思を感じるものだった。
今この瞬間まで、否、今もまだカイルは戦っているのだ。それほどまでの決意を乗せて戦っているのだ。そしてそれはつまり―――

「少なくとも、カイルは戻って来れないな」


キールはつい先ほどまで自分が座っていた椅子の座り心地を語るように未来を論理的に断定した。
そこには当然、それを見届けるまでこちらには来ないと言っていたヴェイグとティトレイのことも含まれている。
グリッドはその一言にひくりと眉根を詰める。だが、その感情を眉に走らせたのはキールがカイルの帰還を諦めたからではない。
キールで無くとも、少し考えればカイルが生きて帰還することがどれほど難しいことかは否でも分かる。
そして今グリッドが背負う漆黒の翼とは己が想いに従い生き抜くことであり、その結果カイルが選んだモノがこの結果であるならば納得は出来ないまでも
団長として受け止めなければならない、そう考えていた。故に、グリッドがキールに対して思ったのはそこではない。
“何も無いのだ”。理屈に逆らってまで己が感情に従い、自ら地獄に足を踏み入る―――――あのキール=ツァイベルならば真っ先に唾棄し否定する行為。
それに対して、キールは一切の感情を示さなかった。カイルを愚かと貶す訳でもそんなカイルを待つヴェイグ達に苛立つ訳でもない。
“もうどうでもいい”。そう、その言葉がグリッドにとっては現状を一言で現わすのに一番しっくりとくるものだった。

「そういや、あの火の鳥のせいで話が途切れちまったな。悪ぃ」
「いや、別に大したことじゃないから構わないさ」

伏し目がちに、自らを背負う少女の幸薄い胸元をキールは見ていた。
グリッドはキールが自分から視線を外したように見えて、心にもやもやしたものを抱え込む。
彼らは向かい合っていた。開いた距離は、そのまま2人の関係性を表しているのか。
視線は、心は終ぞ重なることなく、少なくとも現時点では歩み寄る様子さえ見えない。

「悪いな、ホント。じゃあさ、さっき聞きそびれたから、もっかいだけ言ってくれないか? 出来れば、俺がハッキリ聴ける位の声で」
「その天使の耳は何の為についているやら……分かったよ、もう一回だけな」

グリッドと、コレットにおぶられているキールは、遠く離れたまま向かい合っている。
他愛ない刻限前の、仲間達のささやかな会話。そうあるべきだった。
さも余裕ぶって能弁を垂れるグリッドに、キールは口元を三日月型に歪める。
その笑みにグリッドの心が身震いし、メルディの肩を掴む手に僅かに力が入る。

「メルディをこちらに渡せ」
「敢えてもう一度聞かせろ。嫌だって言ったら?」

キールの言葉に、グリッドはこれが最後の我慢だと言い聞かせて冷静に問い返す。
血の色が抜け、青白い肌の上で浮かぶ笑みは人間味が消えたようで薄気味が悪い。
幽霊のように、ふっと目を離せばすぐ掻き消えてしまいそうな頼りない姿。気づいたらコレットの背から重みが消えているかもしれない。
なのに、その右手だけが、強く強く力が込められてそこに確かに存在した。

「この哀れな娘が、一人ここで壊れるだけだ」

ホント、何がどうしてこうなりやがった。
そう口の中で吐き捨てたグリッドが見つめるキールの右手には、コレット達のネックレスが強く握りしめられていた。


 始めよう。始まろう。新たなゲームを始めよう。
 ちょっと眼を離した隙に空気は険悪最低。下手を打てばすぐおしまい。ハッキリ言って無理ゲーだ。
 ああ、仕方がないさ! 運命の女神様は男の喧嘩程度では見向きもしてくれない。
 絶対に無理なものが覆って、まるで幸せな結末に向かっていくような予感を感じさせても。
 そんなもの、淫蕩な女神様が一夜をやり過ごす為に色目遣うようなもの。
 貴方に気があるなんて夢を見たら、浮き足立ったところでちょっと足を引っかけられれ簡単に転んでしまうよ。
 一度マントルまで掘り尽くされたガバガバな溝がそう簡単に埋められる訳がないじゃないか。
 まだまだ続くよエマージェンシー、終わらないよエマージェンシー、終わらせないよエラージャンキー。
 帰ってきたよロジカルカーニバル。あの懐かしのカニバルカーニバル。
 非常口なんてどこにもない。継ぎ目無き密室の内側で20枚全部剥がれるまで壁をひっかいてひっかいて――――――


空は赤味を失い、地平線の向こうから紫のグラデーションが現れる。
もはや廃村にも等しいC3の村にも薄暗い闇が落ち始めていた。
吹き抜ける風も涼しさを通り越して、隙間に入り込んだようにうすら寒い。
寒暖を感じる感覚こそ失っているものの、今の風はそうなのだと彼は記憶を頼りに断じた。
彼は空を見上げ、忌々しげに舌打ちをする。背負っている漆黒の羽は、黒という色であるにも関わらず闇に溶け込むことなく凛然と漂っている。
しかし、ともすればその羽ばたきは、焦りに揺れているようにも見えた。

キールの考えは分からないが、時間が残されていないことはグリッドも漠然と感じている。
なのに本来の目的であった3人の回収は叶わず、ましてや黙認してしまった。
当然、それが間違いだとは思っていない。だが、どこか心の内で見えない霧のようなものが満ち始めていた。
ふと隣を歩くメルディを見ると、彼女もこちらを見つめていた。
いや、ずっと見つめていたのだろう。
寄る辺無き無機質で透徹した瞳は、年端もない子供のようにずっと彼の表情を凝視している。
その瞳を鏡として自分の有様を見つめ直す。こんなの自分らしくもない。
彼はかぶりを振って、メルディに向かって自信に満ちたいやらしい笑みを投げかける。
これもきっと虚勢だと彼女にばれているのだろう。構いやしない。
自分の目的はひとまずは達成したのだと、そう自分に言い聞かせてグリッドは歩き続けた。



北に向かったグリッドとメルディが中央広場へ戻ってきたのはキールが指定した時間より10分前、つまり放送15分前の頃合いであった。
2人の影に気付いたコレットは彼らに向かって手を振っている。
しかし、椅子に座っているキールは目を細めてグリッドを見やっていた。
連れてくるはずだったヴェイグとカイル、ティトレイの姿がないことに疑問と不満でも覚えているのだろう。
いや、むしろ原因はそこではない気配さえあった。
地面にそのまま置かれた机の上で指をとんとんと叩き、眉間に皺を寄せている。眉の端は時折ひくひくと引きつっていた。
3人を連れてこなかった“だけ”にしては、妙にキールは苛立っている。
「……遅い」
「は?」
「遅いと言っている」
「いや、約束の5分前には戻ってるんだからいいだろ? しかもまだ15分前だし」
「待っていたのはこっちだ。行動しているより、待つ方が時間を長く感じるのが常だ」
「……理不尽だ」
お前の方が色々な意味で理不尽だと机にひじを置き、顎を手に乗せてふてくされるキール。
頼んだのはどこの誰だよ、と彼は思わず突っ込みたくもなったが、売り言葉に買い言葉は頂けないと思いぐっと堪える。
「それで、目的の3人は?」
「ああ。それが、3人ともまだ北を離れられない用事があるようで」
「用事?」
「ここより更に北でカイルとミトスが戦ってるんだ」
へえ、とキールは珍しく感嘆したように息をつく。
首を軽く動かし、空を見上げる。
暗闇に覆われた天蓋には、幾つかの星と、赤と青の双子月が浮かんでいる。
下はどんなに血生臭く淀んでも、空気だけは澄んでいるらしい。
その中で、ぽつぽつと不自然な星が散り、長めの飛行機雲が多くたなびいている。


「応援に行かなくていいの?」
心配そうな声音でコレットは尋ねるが、グリッドは目を伏せてかぶりを振った。
「ヴェイグとティトレイでさえカイルの帰りを待っていた。俺達が水を差す理由なんてないんだろう」
少しだけ肩を落とすコレットを見て、グリッドはああと納得した。
確かコレットは天使化していた時にカイルと会っていたと、カイル当人から聞いた。
そしてミトスとコレットがどれほどの縁かは、ロイドから大まかには聞いている。
だから彼女はカイルが心配なのだろうと彼は推測した。いや、もしかしたらミトスも。
グリッドは、どんな行動も自分の意志で決めたものならば、それが1番だと思っている。
相手の決意ある意志を尊重したいし、何よりそれを認める自分の意志を快く思っている。
もちろん、相手の行動が気に食わなかったら、当然のように乱入を(妨害を)するのだろうが。
だが、行く末を心配するコレットの気持ちが分からないつもりではない。
実際問題、B3で戦って無事に帰ってこれる確率は――――戦闘に敗れるにしろタイムオーバーになるにしろ、万に一つだろう。
だが、それをあの過保護のヴェイグが許したのだ。自分が許さないでどうする。海よりも広い器の大きさが高が知れる。

とはいえ、いわばそれはグリッドの事情であり。
キールは2人の会話を聞いても表情1つ変えなかった。
――いや、和らげることも更にしかめることもないので、さして内容を気にしてもいないのかもしれない。
ふう、とキールは一息ついた。輪にかけてぼさぼさになった長い前髪を掻き上げ、額を押さえる。
何も言わずに視線を横に流す。キールはグリッドの隣にいるメルディを見ていた。
疲れきった学士の重い視線は、メルディの首元に集約しているように思えた。

「まあいい。別にあの3人が遅れても支障はない」

は? と思わず疑問が口から飛び出そうになる。
だが、ふらふらと立ち上がろうとするキールと、阻止せんと近寄るコレットに意識が向かい、口は言葉を発せずに閉ざされた。
子鹿のように震える足で立つキールを支えるコレット。
「ああ、すまない」
「キールさん、私がいないと立てないんですから、立つときはちゃんと言って下さい」
「気をつけるよ。それと、僕のことは別にさん付けなんしなくていい」
「ふぇ?」

グリッドは吹き出しそうになった。それこそ噴飯ものだ。
あのキールが、妙に優しげな声で――それこそメルディにしかしないような声で、呼び捨てにしろと言ったものだから。
当のコレットでさえ困惑の色を隠せない。
「どうせ僕とお前は1歳くらいしか離れてないんだろう。さん付けするほどでもない」
「あ、う、うん……」
急に穏やかになったキールを、戸惑いつつもコレットは背におぶる。
立ち上がるとき、いつものように転びそうになったが、これまた珍しく何とか体勢を持ち直した。
コレットの幸運は転ばない方向へと転換したらしい。
傍から見れば、ほほえましい介助者と病人のやり取りにも見える。
なのに、グリッドは微かな不快感を禁じえなかった。奥歯で砂を噛む……いや、砂ほど自己主張はしていない。
せいぜいライスを食べていたら一つだけ生の固い米粒を噛んでしまったような。
有害ではない、しかし無視して噛み続けることもできない、そんな中途半端な違和感だ。

「さて、グリッド」
名を呼ばれた彼は、眉を寄せ目を大きくした。
コレットの背後、彼女が表情を把握できない場所で、キールは眼光を鋭く――否、どっぷりと深い沼のような瞳の暗さで彼を見ていた。
それだけならばまだ策士として様にもなろうが、自分と同じくらいの少女に背負われるその姿がその演出を台無しにしている。
そんな情けなさなど露知らず、キールはコレットの首筋近くでふっと笑った。



「あの3人は、脱出には必要ない」

今回ばかりは流石に聞こえた。キールをおぶっているコレットも、メルディでさえ、声の方へ顔を動かした。
グリッドが口元を引きつらせている間、キールは涼しそうな面持ちでいた。さも当然のことだろうと言いたいかのように、無表情な顔だった。
闇の帳が更に深く広場へと下りてくる。空に光る人工の星が、生まれては激しく散っていく。
だが、そんなものなど比べ物にならない闇の誕生、生煮えの米粒程度のその予感をグリッドは確かに感じ取っていた。
「なんつったお前?」
「メルディを渡せ」
「いや、だからヴェイグ達待たねえのかよ」
「言っただろう。待つ必要が無い」
「意味分からねえって言ってんだろ」
成り立たない会話。まるで違う国の言語で喋っているかのような、空を掴むようなドッジボール。
その間にもグリッドは何かしらの危機感を感じたのか、残された左腕でメルディの行く手を遮っていた。
それを見たキールは、九九を何度教えても理解できない子供を見るように呆れた表情を伺わせる。
そして、少しだけ何かを考えるように眼を伏せた。
僅かばかりの逡巡、その後、やむを得ないとばかりにキールは目を伏せて講釈を垂れた。
「グリッド、さっき言ったな。僕の全てはみっしりとメルディだ。
 こいつを救う―――――――それだけを、僕は貫き通す。それが僕のバトルロワイアルだ」
「馬鹿にしてんのか? ンなことはバッチリ覚えてるよ。だったらなんで待たないって話になるんだよ」
吐き捨てるようにキールは短く笑った。グリッドも同じよう軽蔑にも似た笑声で答えていた。
しかし、彼の牽制に対してキールはすぐ答えを出した。汚れに汚れたローブからクレーメルケイジを取り出し、眼前にかざす。

「メルディを奴の所まで“飛ばす”」

瞬間、グリッドの表情に苦味が走った。
奴、則ち主催者ミクトランの元へ、メルディを転移させるとキールはそう言ったのだ。
常ならば冗談だと即座に笑い飛ばせる与太話。だが、そんな軽口さえ噤まされてしまう。
キールが所持していたケイジから、もう1つのケイジとは比べ物にならない威圧が放たれている。
天使となってマナという異世界の概念に触れたグリッドには、その威圧の源――――無数の晶霊を確かに感じ取っていた。
キールがケイジを取り出したことに、一体どんな意味があるのかまでは分からない。
だが、この圧力そしてキールの一切の迷い無き眼光がそれが決してブラフではないことを教えていた。

「は、それが何だっていうんだよ。単なるケイジじゃねえか。転移できるんだったらとっくの昔にしてるはずだ! そんな出任せ……」
「……できるよ」
グリッドの威勢のいい大声を遮り、隣にいるメルディが小さく呟く。小さい体躯と声量から放たれる抑止力は相当のものだった。
「できるよう。やろうと思えば、キールはいつでも」
彼は唇を噛む。ぷつりと切れた皮から、生産停止となり残り少ない血が湧き出る。
循環こそしていないものの、酸素に触れずに済む命の名残は綺麗な朱の色をなしていた。
ただの単なる揺さぶりであったはずのハッタリがそれ以上の結果を招き寄せてしまう。
メルディにもあの威圧の元が見えているらしい。
これまでの流れをぶち壊す、そんな荒唐無稽を可能とする何か―――グリッドが知らぬ、時晶霊の王―――があのケイジの中に入っているのだと。
「なんだそりゃ……何時の間に思いついたんだよ。まさかそんなチートがこの10分足らずでヒョロっと手に入ったとか抜かすのか。
 だいたいお前、普通はこれからみんなで集まってどうやってあの天上のおバカ様をブチ倒すか考える流れだろ。ドンダケ空気読めてないんですか」
唇を震わせないように、慎重にグリッドは皮肉を選ぶが、キールは薄く莫迦にしたような笑みを浮かべるだけだ。
ソレが何か明言しないということは、それこそ下手に口を出せば永遠に口を利けなくなる代物ということか。
更にそれを現時点で扱うことができるのは事実上、上級術を扱えるはキールだけということ。
半信半疑だった思考が、晶霊技師であり術士であるメルディの言葉によって確信へと変わる。臍を噛む思いだが。


「なあ、一個だけ聞かせてくれよ。お前言ったよな。メルディを救うって、ついでに俺らを救ってやってもいいって。ありゃ、嘘か?」
「お前じゃあるまいし。嘘はつかないよ。虚言の総元締めのようなお前に嘘を付いたところで、敵う訳が無い」

キールは本心から純粋に讃えているように見えるのが、逆に馬鹿にされているようにグリッドには思えた。
だが、グリッドもそれはハッキリと理解している。あの時のキールの誓いに嘘は無い。正真正銘の慟哭だ。
行くなよメルディ。絶対に行くな。グリッドはキールを見据えたまま、横に立つメルディへと小声で伝える。
しかし、それも耳が異常に優れたグリッドにとっての小声なので、メルディには聞こえているかどうかも分からない。
辛うじて同じ天使のコレットが聞き取れたくらいか。
「とりあえずさ、お前が何考えてるか分からねえ。分からねえが、今のままハイそうですかとは言えねえな」
「問われたことには、全て答えたつもりだがな。時間が無い、僕に預けてくれ」
「ハン、今のままじゃ何度やっても答えは同じだよ。舐めんなよ俺の石頭。誰がお前に渡すかよ」
コレットも今の状況が剣呑であり、少しでも動けば綱渡りの線から落ちてしまうことは理解していたようだが、どう出るか考えあぐねているようだった。
というよりは、すぐに手を離してキールを突き落とすほどの冷たさを持ち合わせていないだけなのかもしれないが。
(待て。そういや、なんで“この距離でそんなことを言いやがった”)
グリッドはやっと自らを蝕む違和感、その一つを認識した。態々こんな怪しさを撒き散らして警戒させずとも、
メルディに頼みたいことがあるとでも言って、二人になればいいのだ。この距離ではキールの今の足ではメルディを強奪することも出来ない。
グリッドかメルディの自発的な意思が無ければ、メルディに触れることもできない。
なにせ、今のキールはコレットがいなければ動くことも―――――――――――――

“この膠着はコレットが動かないことが前提だ”。

「え、あの、キール……さ、ん?」
なよなよしくも強かな青年を背負ったまま動けないコレットはキールの言葉の意味を理解できていないのか、
首をきょろきょろとさせるが、天使といえど180度は回らない首ではキールの表情をみることはできない。。
動けないキールを背負うくらい、優しいコレットなら簡単な気持ちで引き受けるだろう。だから不自由を演出したのか。
それを尻目に、キールはグリッドの呻きが聞こえていたかのように強気に笑い続ける。
キール=ツァイベルを笑わせるほどの決定的な確信が、キールの手の中にあるのだ。
グリッドがその結論に至るよりも早く、キールがコレットの頸に回した腕を動かす。
その腕に走る迷い無き動きは、キールの決意をグリッドに教えているかのようだった。
仕込みに仕込んだ、この一瞬の為の引鉄を。自分の眉間に銃口を向けるようにして。

「するともさ……こうすれば、な」
セイファート、ネレイド、そして数多の世界の神々よ照覧あれ。
これが暗き未来を斬り裂き彼女に光を齎す―――――――――僕の答えだと。


ぬるりとキールの右手が幽婉に動く。爪の先まで意思を漲らせたその右手に、ともすれば心臓を素手で抉り取るかと錯覚する。
だが、幾らコレットが少女であろうとも、運動を得意としておらずましてや下半身の力を使えないキールの手刀などに命を奪える訳が無い。
「は。舐めてんのはどっちだ、お前の力でコレットを殺せるかよ―――――って、お前」
右手は静かにコレットの首に廻される。首筋をさすり、喉を撫で、浮き出た鎖骨を震える指先で食む。
その時、やっとグリッドはキールの狙いがコレットの命で無いことに気付いた。
「ああ、コレットは殺せない。でも、壊すだけなら……僕にだって出来るさ」
そして――――要の紋に取り付けられたネックレスを強く、しっかりと握り締める。
思いがけない行動にコレットは反射的に体を捩らせようとしたが、それも僅かな身じろぎで終わった。
無理に引き離そうとすればネックレスが壊れ、やがて瞳は赤く変わるだろうことは、彼女が誰よりも理解している。
「クレス・ミトス・ロイド。思うにな、エターナルソードを巡る三つ巴は、この女を誰が押さえるかというゲームだったんだ。
 マーテルの器を欲したミトスにも、こいつの幸せを望んだロイドにも……そしてあのクレスにさえ通じたワイルドカード。
 全ての時空剣士を支配できるこの切札を最後まで押さえた奴が、このゲームの主導権を握ることができる。
 クレスだけは確証の無い半信半疑の推測だったが――――――もう半歩早くコイツを押さえられたなら、もう少し楽ができたのにな」
コレットの抵抗があえなく終わったのを見届けたキールは、その表貌にキールは醜悪な表情を浮かべた。
グリッドは心の奥底から湧き出たものに吐き出しそうになった。感覚のない口内で、歯をへし折ってしまいそうになるほどに噛みしめる。
輝きの欠片も無い虚空の瞳は、地獄を睥睨するように無数の未来を読み切っているように思えた。
どの時空剣士が生き残るかではなく、どの時空剣士が生き残っても飼い馴らせる鎖を探す。
その為ならば、情報だろうがアイテムだろうが尊厳さえも献上して蔑まれながら相手の油断を誘うだろう。
この極上の反吐を出させる思考は、成程、確かに紛うこと無きキール=ツァイベルだ。

素晴らしいねキール。何処まで行こうがその糞野郎ッぷり。反吐が出て、その反吐見てまたゲロリングしそうだよ。
おうおうもっと良く見せろよ、屑を極め尽くしたそのどん底の眼を。
人形だった頃なら心地良過ぎて無条件で奴隷になっちゃいそうだよ。
俺が見てやる、怒りと吐き気と共に見続けてやるよ。でもよ。

「キー、ル…………」
「……………………」

それを、その顔をメルディにも見せるのかよ。
ぼろぼろのよれよれになって、あるかも分からない命を更にすり減らして、
中にあるもの全て吐き出しても、それでもずっと立ち上がって守り通したメルディに向かって。
メルディを遮る左手が、きつく握り締められる。強さの制御を忘れた手からは血がぽたぽたと流れ出ていた。
腹の中に佇む、居心地の悪い煩わしさが、ふつふつと沸き上がった熱となって血潮に紛れ込んでいた。
キールにとって実に甘美なあの表情と醜い手法に。何より手を出せない自分自身に向かって。

「キールッ!! コレットを離せ。俺は時空剣士じゃねえぞ馬鹿野郎。ンな人質、効くわきゃねえだろ!!」
腹の底から、唾液と憤怒をまき散らして喚いた。
重く冷めた目でキールは一瞥する。どうした、ボロが出てるぞ、と。


「“嘘をつけ”……それがお前の限界だ。僕にとってコレットの心がどうなろうが知ったことじゃない。
 だが、お前はそうはいかないはずだ。“残る全ての漆黒の翼の生存が勝利条件であるお前は”。
 どうだ? 僕は僕なりに考えて、自分で決めたんだぞ? どうしてお前が文句を言うんだ?」
右手に力が込められる。待つ時間も躊躇する必要もない。
キールはコレットを壊せるが、グリッドはコレットを壊させる訳にはいかない。
人質であるコレットは瞳を潤ませ、すがるような目でグリッドを見つめている。
声にできぬ何かを懸命に伝えているかのようで、その姿といったら、雨の中置き捨てられた子猫のようだ。
コレットには理不尽な現状を打破する方法がない。
ロイドが残された全てを賭けて救い出したのは、望みを見いだしたのは何だったのか。
それを、いくら自分で動いたとはいえ、こんな腐ったやり方で無に返すなど許されるはずがなかった。
「あーそうですか。うっさいボケ。そんな御託を吐く暇があるなら、とりあえずそれを離せ。
 コレットを人質にすると、色々とヤバイ。特に、尊厳もない終わりを迎えるって面で」
いや、何よりも、その手に人質とした娘がキールを許すまい。
「それをやったら、死ぬぜお前」
コレットが天使に――無機生命体化するということは、目的を害する異物や障害は容赦なく排除するということだ。
いま背後を陣取っているキールも例外ではない。
「構わない。もう覚悟は出来ている」
だがその発言にも、キールは不敵に笑い返した。
失血寸前で顔は青ざめており、瞼は重く、息はところどころ震えている。時間さえ経てば自然と意識を失うだろう。
キールには時間が残されていないのだ。既にメルディと共に在ることは考えられない事象なのだ。
だって、時間がない。キールはいずれ死ぬのだから。タイムアップを迎えるか、ここで撲殺されるかなど、もはや些末な問題である。
ならば命がある内に救えばいい。
そんな悲観主義を、けれども愛の溢れたキールの選択を――――グリッドは「そんなの愛じゃねえよ」と思い切り蹴飛ばしたかった。


「答えろ。その覚悟、何処に向けるつもりだ」

たった一瞬で追いつめられたグリッドは、絞り出すように真実を問うた。
キールは一拍を於いて、呪文を唱える。紛うこと無き、彼の真実の呪文を。

「メルディを優勝させる。億が一、兆が一、ミクトランが本当に優勝者の願いを叶えるなら―――――運が良ければお前達も救われるかもな」



――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――



ガン、と薄暗い部屋に響く鈍い打音は声にならない叫びの代替だった。
椅子の手摺に乗せられたグリューネの掌が震えている。手摺と重なって隠れたその掌はきっと真っ赤に腫れているだろう。
「なんですか……これは………」
手同様に震えた唇から洩れた言葉はグリューネの内側に湧きあがった全てを見事に表現し切っていた。
意味が分からない。いや、意味が存在しないというべきか。
こんなもの、補完でさえない。補完を口実とした唯の蹂躙だ。
全員が強大な敵に相対し、互いの弱さと強さを認め合って力を合わせ、それを打倒した。
譲れぬ所はあれど、それを抱えたまま彼らは手を取り合ったはずだ。
ぐうの音も出ない程の決着。初手の屑札の並びからはこれ以上そうそうに考えられぬエンディング。
其は女神の紡ぎし、完全なる輝きの芸術を。
それが、何故こうなる。何故こうも簡単に“落書ける”。
「回答申請! 学士の行動ロジックが不明瞭です。何故神子を傷つける振る舞いを?
 烏の信頼を裏切る行為を!? 黒神の器を―――――彼女への愛を裏切るのですかッ!?」
あの温厚な女神とは思えぬほどの相貌でグリューネは道化を詰問する。
この様な手筋など断固として認める訳にはいかない。
盤上の戦いには手筋と呼ぶべき“流れ”というものがあり、そこから急激に矛先を変えようとすれば必ず“歪む”。
この歪みを見逃すことは出来ない。ここで潰さなければならない。
故にグリューネは即座にサイグローグの一手の脆そうな部分を一気に攻めた。
この圧倒的な波状攻撃に、まっとうなプレイヤーであるならば即座に手を緩めて守りに入るだろう。

つまり、サイグローグに効く訳が無い。

「回答と申しましても……“私がこうしたかったからとしか言いようがございません”……
 いえ……やはり学士は善人を気取るよりこうして裏切るのが良く似合う……あの糞の様な下種の窮みこそが相応しい……」

女神がその小さな口を限界まで開いて押し黙る。何も言えなかった。言える訳が無かった。
理由もへちまも無い。“自分が見たかったから”。それだけの為に、あの黄金律で整えられた彫像を打ち壊した。
「そ、そんな理由が認められるとでも!?」
「認められませんか…………それならどうしましょうか…………ちょっと待ってくださいませ……私、この戦いは見ていただけの素人でございまして……」
駒が揺れそうなほどに机を叩きつけながら椅子から尻を持ち上げるグリューネなど眼もくれず、
サイグローグは懐からさも当然の如く質量体積を無視して巨大な本を取り出す。別に装丁が人皮で整えられた訳でもない、普通の辞書のようだった。
その中からインデックスを辿り、指を這わせながら目的の項目を探し当て、感情のこもらぬ声で理由を告げる。
「ええと……行動ロジックの不合理を追及された場合は……『ばとるろわいあるトイウ異常ナ環境ニヨッテ
 精神ガ追イツメラレタノダカラ非論理的ナ行為モ不思議デハナイ』……こんな所でどうでしょうか……? 理由はあると思いますが……?」
グリューネはこの部屋に壺がないことに感謝した。もしあったならば、即座に掴んで道化の頭に直撃させていただろう。
なんの心もこもらぬ、大人の言い訳のような紋切り型の答弁。それをあの道化はなんの恥ずかしげも無くのたまったのだ。
否、そこに恥の気持ちが無いのは当然だ。サイグローグはこの理由を本気で認めているのだから。
サイグローグが欲しているのは学士が腐っているという状況そのものであり、その背景にあるべきモノなどどうでもよいのだ。
着ぐるみの中の人が辛かろうが暑かろうが寒かろうが死んでいようが頸が無かろうが、着ぐるみが動いて自分を楽しませてくれればそれでいい。
サイグローグにとっての“理由”などその程度のものでしかない。

「例えそれが理由として認められようが、私が認めません……ッ!!」



故に今必要なのはサイグローグを諭す言葉ではなく、その心を粉砕する楔だ。
グリューネの怒声と共に、彼女の背後に巨大な闇黒の刃が現れる。
四重論理の杭や輝きの槍と同様に、不条理を斬り捨てる否定の刃<ネガティブブレード>。
これほど多くの不純を抱えた軟弱な一手であれば、豆腐を斬るよりも簡単に断ち切るだろう。
「悪魔の証明は使わせません。貴方のエラーは学士の意思に対するもの。偶然の入る余地のない選択論の問題です」
「この私に悪魔の証明など……難し過ぎてとても私には使いこなせませぬ……それに、私は偶然よりも選択を好むクチでございまして……」
剣を振りかざす女神に、サイグローグはただ笑って応じた。万能の防御を封じられて尚、手に辞典を持ったまま優雅に寛いでいる。
自分の一手に対し守る素振りも見せないとは。その程度の覚悟でこのゲームに乗ってきたその愚かさごと、荼毘に付されろ。
「修正手など打たせません。宣言、敵手強制破棄<インバリッド・アタック>!!
 学士の前手までの動きに対し、ロジックが不整合。修正不可能な程の瑕疵――――故に本手は通らず砕け散ります!!」
女神の一撃がサイグローグに打ち降ろされる。神の裁きの前に、たかが道化に抗うことなどできはしない。

「判定<ジャッジメント>――――――」
“道化という役職だけしか、なかったならば”。


「控訴棄却<パリィ>ッ……!! 判定者の名に於いて……“我が一手を通しと認めます”ッッッ!!!」


グリューネの顔が驚愕で完全に歪む。
それもそのはず、神が鍛えし刃が微動だにせず止められたのだ。強固な楯でも不屈の鎧にでもなく、唯の一冊の本に。
「これはレオノア百科全書……その一冊でございまして……かの世界にて常識を司った魔術書でございます…………
 常識……其れ即ち『法』……ベルセリオス様のエンブレム同様……法を司る判定者権限……【私の手は無条件に通しでございます】……」
本の輝きに刃が消滅する中、グリューネはただそれを茫然と見ていた。見ていることしかできなかった。
サイグローグはプレイヤーであると同時にジャッジであり、その手がどれほど無茶苦茶であろうとも通る。通すことができる。
「莫迦な、審判がプレイヤーを兼ねるなど……そのような無法在り得ていい訳が無い!! どういうことですかサイグローグ! 答えなさい!!」
「上告棄却<マジックパリィ>……断固辞退させていただきます……此のサイグローグ……ベルセリオス様より絶望側独自操作の免許を頂いておりますれば……
 つまりはワンセルフ・ソロプレイ……私が……私こそが……バトルロワイアルでございます…………!!」
右手に王の紋章を、左手に法の書を携えて仮面の道化は不敵に笑う。
そんな道化を前に、女神は振り上げた拳を力なくだらりと垂らす。
女神は、道化の指手に何の気負いも無い理由を漸く理解した。プレイヤーとジャッジが同一兼務可能なら、何の恐れもあるはずがない。
“必ず通る一手が放つのではなく、放った一手が必ず通る”。百発百中・防御力無視・反撃不可・射程無限の究極絶対攻撃。
女神でさえ不可能なコトを、何のリスクも無く放つこの道化は今や神に最も近い場所に立っていた。

無気力に項垂れて椅子に深々と座り込むグリューネを満悦そうに眺めて、サイグローグは諸手を打った。
「御理解が早くて助かります……無駄も良いモノですが……スープが冷めては台無しですからね……それでは続けますが……よろしいですか……?」
サイグローグの心にもない気遣いにグリューネは何も返さなかった。
最悪だ。勝てる訳が無い。勝ちようが無い。ベルセリオスとは、根本的にその性質が異なり過ぎている。

自分が描き、自分が観劇し、自分が愉しむ。たった一人のバトルワイアル。

ならば――――――――サイグローグは既にして勝利者なのだ。



――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――



そして時は冒頭へと至る。

「それが……手前の出したファイナルアンサーか……ええ、キールさんよォ……」
「何だ、いきなりさん付けなんて。お前の方が多分年上だろうに。僕のことは別にさん付けなんしなくていいさ」
「勘違いするな。手前ェにゃ、呼び捨てにする程の親近感も湧かねえって意味だよ」
さして意味も生まれなかった舌戦を経て、グリッドは今一度キールの顔を見た。
弱みを感じさせない傲慢な支配者のような勝ち誇った表情とは裏腹に、血が巡っていない白磁の顔は蝋人形のようで精気を感じさせない。
まるで彼の髪のように真っ青なキールが常に帯びているものは「終わり」そのものだ。
自身の命のこともあるが、今となっては皆にも関わる。
この島に残る希望を永遠に閉ざさんとする、何処からかの刺客。
(らしくねえ……いくらなんでも、露骨すぎる)
だが、これまでキールは焦ることがあっただろうか。
やること為すこといつでも計算ずくで、誰をも手の上で遊ばせてきたあの腐れ外道が。
今のキールは必死すぎて惨めすぎて、クレバーさを、否、クレバーな振りする気持ちを欠片も持ち合わせていない。
別に諦めろよとか止めろよとか、そういうことを言うつもりは更々なくて。ただ「キールらしくない」その一言に尽きるのだ。
グリッドは自分が思い描くキールの像との差に混乱していた。
キールは最高にふてぶてしくてむかつく奴だが、卑屈な自尊心の塊のような奴だ。ここまで浅ましい人間ではない。
彼は彼なりに評価していたつもりだった。それに、キール自身も頭の調子が悪いはずがない。
頭が回らないのなら、ネジが2個か3個弾け飛んでしまったのだろうが。
メルディにはキールが要る。コレットも要る。それはキールも分かっているはずだ。
ならば何故こんな真似をするのか。命乞いは絶対に有り得ない。
今キールを回復できるのはそれこそメルディかコレットぐらいだ。こんなことをした後で2人が許可するだろうか。
そもそも、こんな馬鹿げたことをしている時間すらない。
キールが持つロジックの変化が理解できない。

<難しく考える必要はありません……矛盾なんてあってあたりまえ……
 細かく鍋の蓋を開けて爪楊枝を刺していたら……シチュウの風味が逃げてしまいます……
 ……大事なのは……それを包み込む聖母の如き大らかさ……そして……いまある料理をどうやって愉しむカ……カカカカ……>

胎児は嗤う。玩具箱をひっくり返すように世界をあっという間にひっくり返して。嬉々と螻蛄螻蛄と爆笑する。
ここにはお片付けを急かすマミーなんていやしない。遊んで遊んで遊んで遊び尽くせばそれでいい。

頭がぐるぐる回る。ティーカップのように加速して、笑い出したくなるほど速く、ぐるぐるぐるるんロンドの如く。
ああ、この感覚、この感覚! 脳が、脳が痺れてれてれてれて、何かもうどうでも良くて!
そうして身体は硬直し身動きが取れなくなる。蜘蛛の巣に雁字搦めにされたように。
甘いあンンンンま~~~~~い角砂糖。一粒300スオム、悠久の果て星辰の彼方までひとっ飛び!!
そのまま甘蜜べっとりまみれて頭のエンジン焼きついちゃう。
停止して静止して生死を。いっそ勝手にオーバーヒートして自滅したい!
何も考えないのってすごくシアワセだよ。視界がすごくクリア。
芯まで痺れて蕩けてしまうくらい、女王甘甘くらい甘くてシアワセなんだゾ?

<だから楽しみましょうグリューネ様……もうこの学士……貴女の使い物になりません……
 だから……貴女は今少し想った……“もう要らない”と……私が叶えて差し上げます……こんなふうに…………>

こどもはおもちゃの兵隊を前進させる。まだ前のおもちゃは片付けていないけど関係無い。
出したい時に出して、出して、箱が空っぽになったら新しいおもちゃを買って。
誰も怒らないんだから。誰も怒れないんだから。今日は楽しい楽しいバースデイ。


すいません、ちょっと通りますよ。

言葉にするなら、ちょうどそんな感じだった。
風がさあっと吹き抜ける。グリッドが思考の片隅で「それ」を視認し、思考の坩堝に沈みかけた我を取り戻す。
キールとグリッド、二人の譲れぬ国境線の上を何かが歩いている。
どう軽く見積もっても部外者立ち入り禁止のプライベートエリアを、空気を割る様にして通行している。
空気を読まない「通行人」は一体どこから現れたのか。近づいてくることもなく、既にここに居た。存在していた。
二人の視線を斬ったとき、グリッドは漸く「通行人」の存在に気付いた。

(なんでだ、なんで、出てきた)

もしヴェイグがここにいたならば、グリッドの問いにサニイタウンのようなものだと答えただろう。
小島の上に建てられた街の人々は何も気付かず、平平凡凡に生き続けている。“自分達が巨大な生き物の上に生活しているなどと”。
理解できる存在が、良く目を凝らして、やっと認識できるかどうか――――――巨き過ぎるというのは、そういうことなのだ。
人の輪郭をしていた。風に煽られる後髪、赤い外套と同じく前髪ごと顔に張り付く乾いた血で双眸は完全に覆い隠されている
夕焼けは落ちかけ、昼が死のうとしている。村全体に下りた死の影は、通行人の姿を完全に隠そうとはしない。

(心臓、極まったろ。深手も与えた。立てるわきゃねえ。在り得ねえ)

キールも気づいたのか、首下のネックレスを握ったまま身構える。
コレットもつられて僅かに顔を動かすと、ほころんだような驚いたような、そんな表情を見せた。
視線はただ一カ所に集中していた。影の中で澱んだ赤みへ、手の内の剣へ、恐るべき予期していなかった敵へと。
しかし、乱入者は特に口出しすることもなく、静かに2人の間を通り抜けようとする。
特に用件もないかのように、何も見えていないかのように。もしくは見る価値もないのかもしれない。
なのに、2人も口を閉じたまま、黙ってが通行するのを見届けようとしてしまう。
薬を失い完全に弱体化した奴など、歯牙にかけるほどの人間でもない。
哀れに惨たらしく、誰にも知られずにひっそりと死んでいくのだ。
そう、思っていた。

(それでも通っちゃうのかよ―――――――――クレス、アルベイン)
手に携えるは深き紫の魔剣が煌めくまでは。

腸を思いきり掴まれたような錯覚。
目の前を今まさに通り過ぎようとする通行人―――――クレスの瞳が映る。
冷たく冴え冴えとした、物悲しさを秘めた瞳。それはしっかりと理性を宿していた。
ぞくり、と背筋に薄ら寒い電撃が走る。

(っヤバイ……ッ!!)



もちろん、グリッドは感覚を失っているのだから、悪寒など感じるはずがない。
だが重苦しいモヤは彼の中でどっかりと居座っていた。1度心を覆った薄暗さはそう容易く消えはしないのだ。
(キールお前、真逆ここまで読んで―――――)
荒れ狂う時化のような心の中、一瞬でも意識を逸らせば斬殺される間合いの中で、グリッドは辛うじてキールの方を向いた。
キールが指示し、グリッドが行動して、クレスを殺さなかった。その結果が報いを受けろと今こうして顕現している。
ならば、これさえもキールの策略のうちなのか。グリッドは一切動じず、言葉も放っていないキールを見た。
予測不可能な事態に最も弱いあの男が動じていないということはやはりこの状況も奴の読み通りか。
<ああ……させませんよ……「ここまで全部学士の計算通り」なんて凡手で返そうなど……興が覚めてしまいますから……>
時化の海の中で藁にもすがるようにして見つけた一つの安心は微動だにせずどっしりと構え――――鼻血を垂らしていた。

(むっちゃ動じてやがる―――――――――――――――!!!!!!)

この異常事態に於いてさえ突っ込みを入れてしまう程、それは致命的な要素だった。
表面だけは辛うじて平静を取りつくろっていても、垂れていることに気付いていない鼻血が、
キール=ツァイベルの脳内演算処理がフル回転しても間に合っていないことを教えていた。
(キールが呼んだ訳じゃない。ってことはマジ偶然か、クソったれ!!)
微細な電流が走る。心で感じ取り、頭部から運動神経へ、シナプスを走って末梢へ命令を下さんために。
しかしグリッドの速さを以ってしても敵わなかった。
雷は音速よりも速い光速で走るとしても。彼が頭をキールに向けたときには、既に二手も遅かったのだ。
空に描かれていたのは、透き抜ける紫の円弧。凡人には見切れぬ刹那の剣閃。
それが斬る力などないと思わせるほど見事で柔らかな曲線は、けれども確かに鋭利な刃として、
キールの右手を――魚の肉で作られたソーセージを食べるときみたいにぷつりと割れ――離れるか否かの瀬戸際で皮1枚がぷらぷらと――
ぱらぱらと“何か”が落ち――ネックレスを握る5本の“何か”を解した。
しかも、要の紋を傷付けない瀬戸際で止めて。
この剣士にとっては、まだ穏やかで優しい処置だろう。しかしその優しさを剣戟に乗せるのに、一体どれだけの鍛錬と経験が必要なことか。
それでも剣を振るう限り血は飛び散る宿命だ。目の前で広げられた光景に、コレットは一瞬怯えた表情を見せた。

「だめ、クレスさ――――」

下半身の感覚はなくとも、それより上は消えている訳ではない。
鼻血に気付けぬキールも指が消えた痛みには終ぞ喚き声を上げ、コレットの背の上で暴れた。
コレットもまたキールの暴動に体勢を崩し、手を離して倒れ込む。
グリッドも手を下ろして身構えていた。
彼の横をメルディが駆け抜け、大切なキールとロイドにとって大切なコレットの下へと近づく。
良くなってしまった耳があらゆる音を取り込み、喧しくけたたましい音響を作っていた。
静寂が一気に膨張し騒がしく張り裂ける。その中で騒動の首謀者が、クレスだけが平然と静謐に佇んでいた。
血みどろの人殺しだけがノイズとは無縁のところに立っている。
切り離された、異質なところに立っている。まるで、一人だけおいてけぼりにされたように。




――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――


「クククク……やはりこうでなくては…………お涙頂戴の悲劇も……夕日の中で殴り合う青春活劇も悪くはありませんが……
 汚物をぶちまけたようなドス黒いグラン・ギニョールのグロテスク劇こそがメインディシュ…………この味は格別です……」
道化は仮面越しにさえはっきりと伝わる陽気を振りまきながら盤の駒を動かしていく。
まるで数年以上お預けを食らい続けた狗のように、浅ましく盤の要素を味わっていく。
サイグローグはずっと見続けてきたのだ。審判としてベルセリオスの次に永くこの戦いを見続けてきたのだ。
希望と絶望が、バトルロワイアルという名のフルコースを美味しそうに食べているのを、ずっと見続けてきたのだ。

そして、ついに給仕を止めてディナの席についたのだ。待ち焦がれたこの席に座ったのだ。
それなのに――――――もうコースメニューは殆ど終わって、後はデザートを遺すだけ。

「足りません……コレっポチでは全然足りませんとも……もっと食べたい……浴びるように……貪る様に……」

欲望の道化にそんな程度で足りる訳が無い。だからサイグローグは食べ続ける。
サラダに残ったドレッシングを、スペアリブに残った僅かな脂身を、メインディシュの皿にこびりついたソースを。
グラスごと、スプーンごと、フォークごと。テーブルクロスごと。
何もかも、喰い尽くす。例え、皿さえも噛み砕こうとも。血塗れの口元で美味しそうに。
「まだまだまだ……せっかくのディナーショウ……食事の時間は終わらない……時の王とて邪魔は許されない……
 帝王に仕えし法の守護騎士よ……不確定の狭間に隠れし不義を……その正義の光にて焼き払い給え―――――――――」
口元を真っ赤に垂らして笑いながら、サイグローグは紋章と百科全書を重ね合わせる。
世界を統べる王の力と、全てを認めさせる法の力がその瞬間、心響き合って交差する。

「宣言・主催側情報確定<ディバインストリーク>――――――対象……時の大晶霊……ッ!!」

道化の宣誓によって極大の光の柱が盤を貫く。
それは絶対たる正義の威光。王が定めし絶対の法律、その輝きは―――――――時の狭間に逃れた罪人さえ見逃さない!

notice:レコードが更新されました。

 ※ゼクンドゥスが一度クレスの攻撃を阻止しました。ミクトランに気付かれたかは不明。
→※ゼクンドゥスが一度クレスの攻撃を阻止しました。ミクトランにその存在を気付かれました。

「…………そこまで、そこまでするのですか……!!」
「お得意の奇跡で“気付いていない”と確定させられてもつまりませんので……つまらないので……クククククッ!!」
心の奥の奥から吐き尽されたようなグリューネの言葉さえ、狂喜の叫び声が掻き消していく。
二つの力を兼ね備えたサイグローグにとって『王』の情報を通すことなど造作も無い。
駒を動かすことさえ無く真実が決定されるなんて、最早無法地帯。ルールもなにもなく、ただ道化が満足する為だけに駒が踊り狂う。
こんな戦いに、一体何の意味があるというのか。何も無い、なんの意味も無い戦いに道化は何を求めるというのか。

「楽しいですかグリューネ様……楽しくありませんか……? でも……私はとっても愉しいですよ……?」

そう、サイグローグにとってはソレが全て。
勝利を追い求めるベルセリオスとも、駒を救おうとするグリューネとも違う。
希望や絶望という結果を求める彼ら2人と異なり、過程が全てである道化師に敗北の2文字は無い。
盤上の瞬間瞬間において如何に自分が楽しめるかが思考の根幹であり、それに付随する結果など興味の欠片も無い。

「さあ楽しみましょう……愉しみまショウ……悦しみまSHOW……私が織りなす「私が愉しむバトルロワイアル」を……」

王の力と法の力を用いて自分の好みを中心に全てを掻き回すその手筋は厄災そのもの。過ぎ去った後には無惨なモノしか残らない。

――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――



カァン!
目覚まし時計のように突如鳴り響く金属の音。
クレスは眼を微動だにも動かすことなく魔剣を背中に回し、何かを弾く。
そして首を僅かにずらし、つい半秒前に耳が在った場所に空いた手を伸ばして亜音速で飛来した矢を掴み取る。
そんな光景を茫然と立ち尽くして観ていたグリッドは肌の上で気泡が浮き立つ感覚を覚えた。
泡が消えてしまえば跡形もなくなってしまうような、ごく刹那の感覚。
だが、グリッドは直感した――――――――違う、と。
(畜生。なんだよ、これ、なんなんだよ)
違う。これは、自分自身の焦りではないのだ。
心が、勝手に外の違和感にざわついているのだ。
違う、おかしい、変だ、何かが変わった。
(これは俺達の戦いなんだ。俺のバトルロワイアルなんだ。なのに、なのに)
自分じゃなく、外の見えない何かが今この世界を作り上げているのだ。
いま彼を取り巻く世界が彼にとっての「バトル・ロワイアル」ではない以上、悲しいことに、彼の唯一の取り柄とも言える指導者の資質は機能しない。
彼が一喝すれば元に戻るかもしれないが、どの行動が最適なのか未だ見いだせていなかった。
指揮系統はバラバラだ。末端の兵は自分勝手に動き、司令部も機能が麻痺して慌てふためくばかり。

(俺の居ない場所で勝手に話を進めんじゃねェェェェェェェェェ―――――――――――――!!!!!!!!)

声無き叫びを虚空に向けるグリッドはこの瞬間、元の「無能」に戻っていた。

<それです……この表情こそが観たかった……一寸先さえ見えぬ未来に怯えきったその忘我……やはりバトルロワイアルはこうでなくては……
 第七戦など所詮は第六戦の焼き直し…………欠けたココロを繋ぎ合せただけ……実際は未だ王への道程は見えず彼らには何の方策も無い…… 
 ……これより先は全く未知の領域………このサイグローグが代行せし第八戦…………難易度【UNKNOWN】でございます……………!!>

 自分の為に描き、自分の為に観、自分が愉しめればそれでいい。胎児の宇宙はそれで満たされる。
 失うものは無く、得るモノしかない。たった一人で完成した宇宙の真理。
 バトルロワイアルを楽しむことが勝利条件であるサイグローグは、開始した時点で勝利者なのだ。
 後は、ただ勝者の手によって遊び尽くされるだけ。つまりは――――――――――

それぞれ声は上げずとも鼓動は高鳴る。頭部は霧が詰め込まれたように解答への道は不明瞭。
まるで目に見えない、赤紫色の甘ったるいモヤが広場に立ち込めているようだった。
そして広場に近付く、勇ましき帰還の足音。高らかで無知なる音は、広場に近付くごとに速度を上げる。
加速する、加速する。熱量を上げ、火照り発火し、そのまま燃え尽きて灰になってしまうかのように。
 じゃあどうする? 水でもかけてクールダウン? 無理。今から更に油を掛けるから。
  じゃあどうなる? 決まってる
   燃えて燃えて燃え尽きてもまだ燃えて、灰になっても塵になっても、燃やされ続けるというのなら――――――

<さあ……身体が出来上がってきました……それではそろそろ始めまショウか…………夢踊るアナウンスを……心響く鐘の音を……
 その後でもっともっと遊びましょう……もっともっと……永遠に永遠に…………>

 飽きるまで犯され続けた後に――――――――――木っ端微塵にブッ飛んで死ぬしかないのさ。


――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――・――――Turn END


「――――……それでは、放送開始です……」
「いいえ、終わりです。貴方の愉悦も、この狂った遊戯も、何もかも」








だからこそ、此処で終わらさなければならないのだ。



【グリッド 生存確認】
状態:HP15% TP15% 大混乱 プリムラ・ユアンのサック所持 天使化 心臓喪失 自分が失われることへの不安
   左脇腹から胸に掛けて中裂傷 右腹部貫通 左太股貫通 右手小指骨折 左右胸部貫通 右腕損失
習得スキル:『通常攻撃三連』『瞬雷剣』『ライトニング』『サンダーブレード』
      『スパークウェブ』『衝破爆雷陣』『天翔雷斬撃』『インディグネイション』
所持品:リーダー用漆黒の翼のバッジ 漆黒の輝石 首輪×3 ジェットブーツ
    ソーサラーリング@雷属性モード リバヴィウス鉱 マジックミスト 漆黒の翼バッジ×5
基本行動方針:バトルロワイアルを否定する。現状ではキールの方策に従う。
第一行動方針:何とかこの混乱を収める
現在位置:C3村・中央広場

【キール=ツァイベル 生存確認】
状態:ふざけんな馬鹿野郎何でクレスこんな僕の計画時間演算間に合え急げ開いて道に糞畜生頼む頼む頼む!!!
   HP3%/MAX5%(HP減衰が常時発生)TP50% フルボッコ ある意味発狂 頬骨・鼻骨骨折 歯がかなり折れた 【QED】カウントダウン
   指数本骨折あるいは切断 肉が一部削げた 胸に大裂傷 中度下半身不随(杖をついて何とか立てる程度)ローブを脱いだ 五指切断 鼻血
所持品:ベレット セイファートキー C・ケイジ@I(水・雷・闇・氷・火) C・ケイジ@C(風・光・元・地・時) 
    分解中のレーダー 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) フェアリィリング
    スティレット ウィングパック(UZISMG入り)魔杖ケイオスハート
基本行動方針:メルディを救う
第一行動方針:ゼクンドゥスの力で扉を開き、メルディを優勝させる
ゼクンドゥス行動方針:静観。一度はキールの願いを叶える。
現在位置:C3村中央地区

※ゼクンドゥスが一度クレスの攻撃を阻止しました。ミクトランにその存在を気付かれました。


【コレット=ブルーネル 生存確認】
状態:HP70% TP25% 罪を認め生きる決意 全身に痣や傷 深い悲しみ
所持品:ピヨチェック 要の紋@コレット 金のフライパン メガグランチャー
    エターナルリング 細工工具 イクストリーム
基本行動方針:何時か心の底から笑う
第一行動方針:クレス、さん?
第二行動方針:リアラを殺してしまった事をカイルに打ち明ける
現在位置:C3村・中央広場

【メルディ 生存確認】
状態:TP40% 生への失望?(TP最大値が半減。上級術で廃人化?) 神の罪の意識
   キールにサインを教わった 首輪フォルス付加状態
所持品:スカウトオーブ・少ない トレカ カードキー ウグイスブエ BCロッド 
    双眼鏡 漆黒の翼のバッジ クィッキー(戦闘不可) マジカルポーチ ニンジン
基本行動方針:本当の意味で、ロイドが見たものを知る
第一行動方針:キール……
第二行動方針:キールを独りにしない
現在位置:C3村・中央広場

【クレス=アルベイン 生存確認】
状態:HP10% TP20% 放送を聞いていない 重度疲労
   善意及び判断能力の喪失 薬物中毒 戦闘狂 殺人狂
  (※上記4つは現在ミントの法術により一時的に沈静化。どの状態も客観的な自覚あり。時間経過によって再発する可能性があります)
   背部大裂傷+ 全身装甲無し 全身に裂傷 背中に複数穴
所持品:エターナルソード ミントの荷物(ホーリィスタッフ サンダーマント ジェイのメモ 大いなる実り)
基本行動方針:「クレス」として剣を振るう
第一行動方針:斬る
現在位置:C3村・中央広場


新期キャラ紹介

【グリューネ@TOL】
天女の如き絶世の美女にして、時の紡ぎ手と呼ばれる繁栄と存続の女神。
未発達の精霊を具象化させるほどの強大な力を持つが、
存在するだけで一つの世界の均衡を崩壊させかねない為、基本的に力を抑制している。
一時は力と同時に記憶まで封印してしまい、元の性格とはかけ離れた存在になったが
その際の冒険を経て現在は記憶を取り戻している「しゃっきりねえさん」。

前述の冒険の後にその世界を去り、様々な世界を見守りながら放浪していたが、
王の勅命を受けて推参した聖獣フェニアよりかつての世界をも巻き込んだ「現象」の存在を知り、
それを食い止める為、この戦いに参戦する。希望側が用意した最強の切札。
第六戦の犠牲を経て、第七戦にてついにベルセリオスに勝利。このゲームから駒を解放する為、最後の戦いに挑む。
曲がりなりにも催事への訪問客であるため、蒼と白を基調としたスタイル抜群の礼服を着用中。どたぷーん。


【ベルセリオス@TOD…?】
地上軍“中佐”。工兵部隊隊長にして、天才科学者。
双子の兄である稀代の天才軍師カーレル=ベルセリオスと共に、
ベルセリオス“兄弟”の名を知らぬ者は地上軍にいないほどの、史上最高の頭脳と称された。
一説にはハロルドとの名前で呼ばれているが、それが本名であったという記録は残っていない。
一卵性双生児であるため、容姿は兄カーレルに瓜二つである。

マッドサイエンティストとしても有名であり、その頭脳の中に何があるかは余人には与り知らぬものである。
故に、彼が何故ここにいるのか。どうしてこんなことをしているかなど考えるだけ無駄なのかもしれない。
「気まぐれなベルセリオスならやりかねない」という根拠なき空想。
「どれだけ難しくともベルセリオスなら不可能ではない」という軽薄な妄想。
その圧倒的なフーダニットの前にはホワイダニットもハウダニットも考察するだけ無意味なのだから。
しかし、第七戦にてついに敗北。サイグローグに自身の代行を委任し、姿を消す。




【サイグローグ@TOR+】
謎の洋館に棲む好事家(ディレッタント)にして、様々な世界を愉しむ道化師。
特に人間の限界と、そこにある心の在り様を観測すること好み、
自身の館や別荘に強き力を持つ客を招き、試練と選択を突き付ける趣味を持つ。
奇抜な衣装に覆われたその存在は全て謎に包まれており、ただ仮面に刻まれた笑顔だけが彼の全てである。

ベルセリオスが作り上げた「それ」に興味を持ち、彼のパトロン(出資者)となった。
別荘の一つ「アルカナルイン」をこの戦いの為に使わせたことや、人間と神の折衝を行い判定者を務めるなど、
その骨の折りようからこの戦いへの入れ込み様が察せられる。
一見ベルセリオスに協力的であるが、その心中はベルセリオスにも、当人にも分かっていないのかもしれない。
ジャッジにしてオーディエンス。そして、第八戦より絶望側代行としてついにプレイヤーとなる。

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