悪徳の栄え

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悪徳の栄え  ◆y6S7Lth9N6



 事務室と思わしき部屋でノートパソコンを動かす人影が一つあった。
 ハードシェルかなにかで固められたと思わしき、若干濡れたように持ち上げられた前髪。
 学生服を着込み、色男ながら年相応の幼さももつ少年が回線のつながったパソコンを操作していたのだ。
 彼の名を三村信史という。不幸にも一つの生き残りの椅子を賭けたデスゲームに二度も巻き込まれることとなった少年だ。
 廊下を歩く足音に顔を上げるが、誰かは見当がついている。
「俺のいたところとずいぶん警察署の様子が違うな。どうだ、三村?」
「大きい収穫だ。回線が生きていたぜ」
 包帯を巻いている長身の男、三村の飼い主とも言える志々雄真実に三村は答えながらも表情は晴れない。
 その答えを理解しているかはわからないが、志々雄は回線が生きていることは不自然だ、と三村の表情から読み取ったのだろう。
 続きを顎で促してきた。
「以前俺が参戦したプログラムだと回線は絶っていたし、つながったとしてもそれはダミーの回線だった。
まあ、早い話が逃げられないようにするための処置なんだ。だけど、ここはつながった」
「っていうと、つながってもここから逃げられない自信がある。もしくは回線使ったところで、情報を引き出せないような切り札がぶいつぅってガキにあるということか」
 クック、と志々雄が低く笑い、三村はため息をついた。
 北東の火柱があがった地点、おそらくは遊園地に向かわず警察署に来たのは理由がある。
 それは少し時間を遡った。


「次の行き先をお前に任せるぜ、三村」
 火柱があがった方角を背に、志々雄が余裕の笑みを浮かべて三村に決断を振った。
 どういうことだ? と三村は疑問を抱いて志々雄の腹を探ろうとする。
 もしも北東に向かわねば使えない犬として処分するつもりなのだろうか。
 いや、それはない。享楽的かつ冷酷に見えるが志々雄は頭が回る。
 試している部分もあるのだろうが、自分の知らない技術を持っている三村を無駄に消費することはないはずだ。
 志々雄が火柱の場所へ向かうと主張するなら別れることを提案しようと思っていた。
 三村には先に向かいたい場所があったからだ。
「その前に俺は警察署に向かいたい。その後ならあの火柱のあがった場所に向かってもいい」
「警察署に用事か。その“のーとぱそこん”とやらのためにか」
「ここのネットワークの状況を確認したいからな。回線の状態を確認するまで、このパソコンが壊れるような事態は避けたい。
ゆえに向かうなら回線状況が調べられる警察署に向かってからがベストだ。今から向かっても火柱の原因の野郎はいないだろうし。
まあ、あれを起こした奴が警察署に向かった可能性もあるが、そのときはそのときだ」
 三村がゆっくり状況を説明すると、値踏みするような視線を志々雄は送っていた。
 顔には相変わらず笑みが浮かんでいる。志々雄の答えは早かった。
「決まりだな。タバサ、お前の方はなんか文句があるか?」
 確認するように志々雄が青い髪の背の低い少女へと尋ねた。
 タバサは目を通していたカタログから顔をあげて、三村の提案に文句がないことを首を振って示した。
 こうして、三村の警察署へ向かう提案は受け入れられたのだった。


 志々雄は三村の隣のデスクへ腰をかけて、ノートパソコンの液晶画面をのぞき込んだ。
 中をみても理解出来ないとは思うが、志々雄ならあるいは可能かも知れない、と三村は夢想してしまった。
「しかし、以前参加したっていったな。三村、お前こんな面倒なことを二度もやっているのか」
「語るも涙、聞くも涙、って奴だよ。もともと首輪をはめて殺し合えってのはうちの政府がやっていたことでね。
俺のような中学生だけを集めて、知り合い同士を殺し合わせるってクソッタレな法律さ」
「くだらない法律だな」
 三村は目を見開いて志々雄を見る。てっきりプログラムについて肯定的な意見が返ってくるものとばかり思っていたのだ。
 人間らしい志々雄の反応に、逆に不気味だと思いながら三村は視線を移動する。

「どうせやるなら、今回みたいに大人も混ぜればいい。強い奴にガキも大人も関係ねぇ。
そうだな、いっそのことお前の世界全員を参加させて強い奴を頂点にたたせて、そいつが全部牛耳ればいい。ずいぶん中途半端な法律だな」

 前言撤回。志々雄の不満はそこか、とある意味らしい答えが返ってきたことで三村は逆に安心する。
 志々雄が『ラブ&ピース』だとか言い出したら壊れたと思う以外道はないのだ。
 この男は外見も相まってこの方がらしい。ふと、三村は周囲にいるはずの少女を見かけないことに気づいた。
「そういやタバサはどこいったんだ?」
「書庫にいる。あいつは本の虫だから退屈しないだろう」
「ずいぶんと寛容なゴシュジンサマですこと。逃げ出すとか考えないのか?」
「じゃあ、逆に聞くが……逃げてどうするんだ? 三村」
 愉快そうに質問を質問で返す志々雄に、三村は性格が悪いと感想をもつ。
 答えを聞く必要はない、ということだろう。逃げたところで禁止エリアに囲まれた島の中。
 互いにどちらかが死なない限り、顔をあわせるのは必須である。
 志々雄は三村がそう察したことを知っているかのように、楽しそうにデスクから離れた。
 その志々雄の背中へと三村は声をかける。
「あと二十分もあればだいたい確かめたいことも終わる。隣の遊園地に向かいたいなら、その後でいいか?」
「おう、ゆっくりしときな。俺はもう少しこの世界の警察署を見物していくぜ」
 物見山のような態度で志々雄が事務室の向こうの廊下へ消えていく。
 その後ろ姿を見届け、三村は一回だけため息をついた。


 タバサは書庫にあった一冊の本を手にとって視線を落とした。
 サッと文字の羅列に目を通し、一つ疑問を持つ。文字を読めるのだ。
(ハルケギニアのどの文字にも該当しないのに読める……)
 目の前の(おそらくタバサの知る世界ではないが)法律関連の書物の内容がしっかりと入ってくる。
 不思議なことだ。ちなみに、タバサが知識に持っている言語に該当しないだけで、文字自体はどこかで見たことがある。
 才人といった少年が持っていた持ち物のどれかに、似たような文字が刻まれていた気がするのだ。
 名簿にも似たような文字が使用されている。知識を刷り込む魔法だろうか。だとすると系統は水か。
 そんな魔法は聞いたことがない、とタバサが思考にふけろうとしたとき、扉から邪魔をする存在が現れた。
「よう、なにか面白い本でも見つかったか?」
 白い包帯で全身を包んだ狂人、志々雄真実。現在タバサを犬と称し、使役する男だ。
 父親の仇であり、母の心を壊したジョゼフの言いなりにならないといけない人生を歩んでいたタバサにすれば、以前と状況は変わらないといっていいかも知れない。
「別に」
「そうかい。なんか面白いものがあれば勧めてもらおうと思ったんだがな」
 志々雄の言葉にタバサは片眉を動かす。面白くない冗談だ。
 壁の本棚に収まるファイルを適当につまんでは戻す作業を行っている志々雄は、相変わらずニヤニヤしているだけだ。
「なにか用?」
「そうだな。用はないがリンゴを一つもらおうか」
 タバサはデイパックからリンゴを一つ取って志々雄へと投げる。
 シャリ、と齧って志々雄は思い出したかのような仕草をしながらタバサを見た。
「そういやお前さん修羅場をくぐっているようだが……復讐か?」
 タバサはその言葉を聞くと同時に片眉を動かして志々雄を見る。
 志々雄はタバサの雰囲気が一変したことを知っているはずだが、反応が薄い。
「当たらずとも遠からずってところか。自分の感情を隠すのが上手いが、上手すぎてあたりをつけやすい、そこは直しておけ。ま、種は簡単だ。
お前の歳頃で修羅場をくぐる理由なんざ少ない。着ているものが上等だから地位はそれなりにありそうだし、適当にカマをかけたのさ」
 確かに強奪するために力が必要であったことも、飢えをしのぐために魔法を習得したわけでもない。むしろそういう理由では魔法は習得できない。
 例外があるとはいえ、もともとメイジは貴族であるものが普通である。
 先ほどのように志々雄が候補に入れただろうと予測する理由は自然と除外される。
 そう、タバサの目的は一つ。タバサの父を殺し、母の心を壊したジョゼフ王の首。
 知らず復讐の炎が瞳に宿るが、すぐに消した。勘の鈍いイザベラの前ですら見せなかった感情を思わず出してしまったことを反省する。
「タバサ、俺からすれば悪いのはお前だ」
「どういうこと?」
 急に言葉を投げつけられ、タバサは訝しげに訊ねた。志々雄はもう一口リンゴを齧り歩き出す。
 相変わらずの表情のまま、首だけをタバサに回した。
「それはおいおいな。三村との約束の時間だ。いくか」
 そういって先をいく志々雄の背中を見つめてタバサは思った。
 今なら志々雄を殺せるか?
 答えは一瞬で出る。無理だという結論が幾多の修羅場をくぐったタバサにくだされた。
 志々雄の言葉に僅かに興味が出ながら、デイパックにいくつか本を詰めて後をついていった。


 ノートパソコンのはいったデイパックを大事に抱えながら、一足先に合流先のロビーへと三村は立っていた。
 調べ物はすぐに済み、早めにやってきたのだ。ふと、三村は出口を見る。
 別に他意があったわけではない。ただ手持ち無沙汰で周囲を見やっただけだ。志々雄以外に誰かきたか警戒した、というのもあるが。
 それはさておき、視界にはいった出口をみて三村はふと思ったのだ。逃げようか、と。
 正直自分でも志々雄を待っている理由がわからない。三村の尊敬する叔父と真反対の男だといってもいい。
 事実三村はこれがプログラムなら、首輪に盗聴器が仕掛けられていることを志々雄に教えていない。
 志々雄を警戒している証拠である。
 ふと、美しく生きることはすぐ死んでしまうことだ、といった叔父の言葉が三村の脳裏に蘇った。
 確かにそうだ。三村の親友である豊は美しく生きて、三村より先に死んでしまったのだから。
 そして飯島を疑い、豊が死ぬきっかけを作った自分がこうして生きている。神様は皮肉だ。
「待たせたな、三村」
「あいにく、躾が行き届いてね。待てくらいの芸当はいつでもやりますよ」
 現れた志々雄とタバサを見つけて、三村は皮肉っぽく志々雄に返した。
 ザ・サードマンと呼ばれた男が情けないものだ。こうやってガキっぽい仕返ししか出来ないのだ。
 それも志々雄がこの程度では気分を害さない、と知っての上だ。涙がチョチョ切れそうだ。
「そいつはいい心がけだ。当初の目的地に向かうぜ。と、いっても上から見下ろした限り、火種は鎮火しているようだがな」
「どこかに潜んでいるだけかも知れないぜ」
「だったら弱い方が死ぬだけだ。それのどこが問題だ?」
 ニィ、と口角をあげて志々雄が三村を見つめる。
 言葉にはしていないが、『不意打ちで死ぬほど弱いなら要らない』と言外で告げていた。
 なんとも厳しいご主人様である。
「それにだ、三村」
 相変わらず自信たっぷりの志々雄の言葉に相槌を打って続きを促す。
 三村の態度に特に興味を示さず、志々雄は唇を歪めた。

「もしも戦闘になれば、お前とタバサに味わわせてやるぜ。勝利の美酒って奴をなぁ」

 鬼が笑ったような錯覚を三村は起こし、ゾクリと背筋に走るものがあった。
 それは悪寒ではない。明らかな歓喜の電気信号。
 そうだ、志々雄は三村が尊敬する叔父と正反対だ。今まで親しくしてきた親友たちとも文字通り世界が違う。
 三村では志々雄と一生接点をもつこともない、一生理解できるような存在でもない。
 なのに三村はわかってしまったのだ。志々雄のもとから離れようとも、逃げようともしなかった理由を。

 三村信史は志々雄真実に惹かれている。

 否定したい事実を否定しきれず、三村は一度だけツバを飲み込んだ。
 勝利の美酒。その言葉が三村の頭に何度も反芻した。


【一日目早朝/H-9 警察署】

【志々雄真実@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-(漫画)】
[装備]:リュウガのデッキ@仮面ライダー龍騎
[所持品]:支給品一式、不明支給品0~1
[状態]:健康
[思考・行動]
1:自分の束ねる軍団を作り、ぶいつぅを倒す。
2:首輪を外せる者や戦力になる者等を捜し、自分の支配下に置く。
3:北の遊園地に向かってみる。


【タバサ@ゼロの使い魔(小説)】
[装備]:鉄の棒@寄生獣
[所持品]:支給品一式、林檎×8@DEATH NOTE、マハブフストーン×2@真・女神転生if…、本を数冊(種類はお任せ)
[状態]:健康
[思考・行動]
1:何としても生き残る。
2:とりあえず志々雄に従う。
3:一先ず、いつも通りに本を読んで落ち着く。
4:志々雄の言葉「お前が悪い」に少し興味。
[備考]
※1巻終了直後からの参加です。
※ハルケギニアで該当しない文字を読めるようです。


【三村信史@バトルロワイアル(小説)】
[装備]:金属バット(現地調達)、マハブフストーン×3
[所持品]:支給品一式、確認済み支給品0~2(武器ではない)、ノートパソコン
[状態]:左耳裂傷
[思考・行動]
1:このまま志々雄についていくか……
2:『ルルーシュ』か緑色の髪の女に接触し、V.V.の情報を聞き出す。
3:今回のプログラムに関する情報を集め、最終的に殺し合いに乗るか乗らないかを決める。
4:志々雄に惹かれている事実を自覚して愕然としている。
5:志々雄に首輪の盗聴器のことを告げるかは、とりあえず保留。
[備考]
※回線が生きていることを確認しました。


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058:カッキーン☆ 悪魔の怪人軍団! 志々雄真実 101:嘘か真実か
タバサ
三村信史



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