カッキーン☆ 悪魔の怪人軍団!

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カッキーン☆ 悪魔の怪人軍団!  ◆EboujAWlRA



スゥ――――カーン!

スゥ――――カスッ……

スゥ――――ガン!

スゥ――――カキン!

「ハッ!っと。こいつは中々……っ、奥が深いじゃねえか」
「……」

月が夜空に輝く草木も眠る真夜中、全身に火傷を負った怪人が、金属バットを持ちボールと一人で対戦していた。
金属バットの握りは辛うじてセオリー通りだが、腰だめに低く構え近づいてから小さく振る変則打法が目につく。
それでいて110km/hのボールに負けることなく、それどころか完全に力だけで弾き返していた。
技術も何もあったものではないため、当たらないことや芯を外していることが多いため醜い音を響かせている。
だが、それも確実に変化が生じ始め、ボールをバットの芯で捕え始めている。
それが会心の一打だと悟ったのか怪人は口元を歪にゆがめて興奮を表す。

金属を撃つ甲高い音とかすれた音とくぐもった音が不規則に響くここはバッティングセンター。
緑色のネットが周囲を囲み、北に広いコンクリート詰めの敷地、その南に横長に広がった屋根のあるマシンを置いた小屋。
さらに南へと行くとまたコンクリート詰めの敷地が広がり、その南にはネットで仕切られた五か所のバッターボックスがある。
つまり、コンクリート、ボックス、コンクリート、ボックス、廊下と続いているのだ。

広さとネットの緩み具合からあまり本格的なバッティングセンターではないことが分かる。

そこに包帯で全身を包んだ上に着流しを着た体格の良い怪人と、その後方で分厚いファイルを読む背丈の低い少女が居た。
包帯の怪人は口元を愉快だと言わんばかりに吊り上げ、少女は表情一つ変えず視線だけを動かして本を読み続ける。

着流しを着崩した包帯の怪人の奇天烈加減に隠れているが、少女の出で立ちもまた変わったものだ。
肩から掛けた踵まで届く黒い外套と空のように透き通った水色の髪とメガネの奥の宝石のような蒼色の目。
まるで童話から飛び出してきた魔法使いの弟子のような格好。

包帯の怪人と魔法使い見習い、童話のような二人組がバッティングセンターに居る。

なんともまあ、シュールな光景だ。
せめてここが廃退した城か暗黒に包まれた森の中ならしっくりと来ると言うのに。
とは言え、一番シュールなのは別のことなのだが。

「で、なんか分かったか坊主?」

そう、一番シュールなのは、頭と顔と運動神経の良いだけの中学生である三村信史がこの二人とチームを組んでるということなのだが。

「いや、少し見ただけでは特に変わったところはないな。
 データの入っていない、空のまっさらなノートパソコンとしか言えない」
「……つまり何も分からなかったんだな、坊主」
「このノートパソコンに何も入ってないってことはわかったぜ、ゴシュジンサマ」

傷ついた左耳をタオル(バッティングセンターに蓄えられていた物)で抑えながら信史は言い返す。
主導権は志々雄に握られた形になったが、ゴマをする必要は感じない。
志々雄が持っていない技能を持った使える人間だと思わせてるうちは、よほどのことがなければ命は取らないだろう。
逆に言えば、志々雄は役立たずだと判断した瞬間に信史を殺しにかかってくるということだが。

それは最初に志々雄真実と言う男と出会った時に直観的に理解した。


   ◆   ◆   ◆


陸上競技場から立ち去った後、信史はこのバッティングセンターに立ち寄った。
何かしらの武器になる物が欲しい、と思っての行動だ。
と言うのも、支給された武器がマハブフストーンなる奇妙な石を五つだったことと、モップ程度の武器しか競技場では見つからなかったからだ。
何でもこの石を使うことで、広範囲にわたって氷結系の魔法が繰り広げられる、ということらしい。
魔法、実に馬鹿馬鹿しいが蘇ると言う超現象を通り越した出来事を信史自身が経験してしまったのだ。
このことを考えるとマハブフストーンなる石も、非現実だと馬鹿にはできない。
とは言え、支給された数は五つだけ。
無限にあるならともかく、五つしかないのならば物は試しとばかりに簡単に使うことはできない。

だから、目についたこのバッティングセンターに立ち寄った。
ここならば金属バットがあるだろうと踏んだのだ。
金属バットはリーチが長いだけに、身を守るためならば包丁よりもよっぽど使いやすい。
しかも、鉄パイプなどよりもよっぽど軽量な上にグリップテープで手から滑る心配もない。
武術の心得のない信史にとって最も扱いやすい武器だ。

「おっ、あるある」

小さなバッティングセンター(壁代りにネットを張っているだけなので外から簡単に中の様子が窺える)だ。
マシーンも軟球専用しかないが、バットは確かに置かれていた。
数はちょうど五本、ボックスの数と一緒だ。
その中でもグリップが細く先が太いバットを選ぶ。
二、三回ほど軽く振ってみて十分に扱えることを確認する。
他にも何か武器になるものはないか、と考えてボックスと廊下を挟んである事務室に立ち寄る。
ひょっとすると何か面白いもの、たとえばパソコンか何かがあるかもしれない。
すいすいと進んで行き、蛇口をひねる。
すると簡単に水が出てきて、信史は軽い驚きを覚える。
前のプログラムでは水は止められていた、だがこのプログラムでは水道が通っている。
この様子だと電気も通っているかもしれない、危険なためつけたりはしないが。

現地調達は二度目となるためか、何となく手際が良くなっているのではないか?、と信史は思えた。
実際はそうではなく、経験したことがある、という自惚れから大胆になっていただけだが。

恐らくそれは、銃弾を身体中にばら撒かれた自分が無傷でここに立っていること。
そして、全くの暗闇の中で宣言された異端のプログラム、その空間からの会場への瞬間移動。
この『プログラムの経験者』というアドバンテージが全く生かされない状況に僅かながら苛立ちを感じていたのだろう。
その中で唯一活かせる現地調達というスキルが信史に安心をもたらしたのかもしれない。
呑気な無警戒だったのではなく、以前よりも少し大胆に行き過ぎた程度のミス。

だが、得てしてその手のミスとは天を仰いで嘆きたくなるほど間が悪い時に訪れるものである。
そして、それは今回も例外ではなかった。


「よぉ、コソ泥。景気はどうだ?」


いつの間にかそこに腕を組み仁王立ちした包帯の怪人と黒いマントをつけた背の低い少女が居た。
その二人組に奇妙さを覚えるよりも早く、おかしい、という言葉が信史の頭に浮かんでいた。
確かに今思うと大胆に動いた部分が大きいが、入口付近には最大の注意を払っていた。

しかし、怪人の手を見て直ぐに気付いた。
この怪人は手に緑色の糸、ネットの切れ端を持っている。
つまり、マシーンの奥にあるネットを切って強引に侵入してきたのだ。
ネットの切れ端を持っているということは、まさかナイフを使わずに手で引きちぎったのだろうか?
だとしたら、幾らボロボロのネットとは言え尋常でない膂力の持ち主だ。

「ボチボチ、かな。そっちはどうだい?」

心の中は驚愕で満たされているが、それを悟らさないようにいつものようにおどけた調子で言葉を返す。
念のために左袖に一つだけ仕込んだマハブフストーンを確認し、右手に握った金属バットをより強く握りしめる。
そして、慎重に相手の出方を窺う。

「まあまあ、かな。何せ獲物が見つかったからなぁ」

獲物、見つかった。

その言葉を聞いた後の信史の行動は素早いもので、バットを思いきり薙ぎ払うように振っていた。
だが、怪人の行動はもっと素早かった。
薙ぎ払う形に振るった金属バットを距離を詰めることでダメージを薄いものにして、信史の腕をつかむ。
後は、腕を掴んだ手とは逆の手で首を掴んで壁に押し付けてくる。
その瞬間にドシッと鈍い痛みが背中に走る。
痛みに思わず眉をしかめてしまい、その僅かな気を抜いた瞬間に手首をひねられる。
今度は鈍い痛みではなく、鋭い痛みが手首から伝わってくる。
眉をしかめるどころではない、思わずその手に握った虎の子のバットを落としてしまう。
マズイ、こいつはチェックメイトをかけられた。

「良い度胸だが、腕と釣り合ってない場合は無謀って言われるもんだ」
「くっ……つぅ……」

怪人の首に掛けた手に力を込められる。
凄い握力だ、信史も身体能力は優れているもののこの怪人と比べれば大人と子どもほどの違いがある。
そして、怪人は片方の腕で三村の左耳を触り始める。
ピアスに興味を示したのだろうか?

「耳飾りか……知ってるか、坊主? 耳ってのは簡単にもぎ取れるんだぜ?」
「ッ!?」

不味い、これは不味すぎる。
例えるならビデオゲームでバグによって開始早々に最終ダンジョンに紛れ込んでしまったようなものだ。
この男はヤバすぎる。
人を傷つけるという行動を、朝食の後に歯を磨くことのように自然に行える狂った男だ。

「ふん、イカシてるじゃねえか……坊主、俺にくれねえか?」
「や、安物だぜ旦那……旦那のイカした姿ならもっと派手な方がっぅ!」

左耳のピアスを強引に、力づくでもぎ取られた。
血に染まったピアスをニヤけながら見る男。
信史は自由な左手で耳を抑えながら眉をしかめる。

だが、痛みと共に信史の脳裏に疑問が湧いてくる。
容赦がない。容赦がないが、この男の行動は不自然だ。
何故直ぐに殺さないのだろう?
下手に甚振って悲鳴を出させれば、強力な武器を持った人間が来るかもしれないというのに。

「……やっぱり細工物ってのは血が映える。血で彩ったこいつをつけ直せば男に磨きがかかるぜ」
「そ、そいつは……どうも御丁寧に」

どうしてこいつは嬲るように痛みを与えてくるのだろうか。
殺すならさっさと殺せばいいと言うのに、何故こうも甚振るのだろうか?
そう考える信史に対して包帯の怪人は問いかけてくる。

「テメエ、名前は?」
「三村、信史……」
「ほぉ、三村信史ってことは同郷みてえだな。
 とは言え、珍妙な格好と髪型をしてるからにはまだ何かしらのタネがあるようだが」

こちらは名乗ったと言うのに向こうは名無しのままだ。
完全に主導権を握られているが、この状況なら仕方がない。
なんとかしてこの状況を打破するために、とにかく会話を長引かせなければ。

「同、郷……?」
「異世界ってのを信じるか、三村」

突然の言葉に三村は眉をさらに深くしかめる。
異世界、異なる世界と言うことだ。
だいたい自分の常識とは違う光景を見た時に使われる言葉。
外国の文化を目の当たりにした時や新しい音楽を聞いた時や麦茶に砂糖を入れる人間を見た時などに、使われる比喩表現。
だが、怪人の『異世界を信じるか?』と言う問いはそういう比喩表現の『異世界』とは全く違うように聞こえる。
信史が何も言わないことをどう判断したのか、ヒントを出すクイズの出題者のような調子で言葉を放った。

「俺は日本、こいつはハルゲギニアから来た……いや、連れてこられた」
「……ハルゲ、ギニア? それに日本?」

指差した先で野球用具のカタログを読んでいる少女。
信史の命の危険などまるで気にもしていない風だ。
その少女はハルゲギニアという国から連れてこられたらしい。
確かに見る限り共和国の人間ではない。
だが、ハルゲギニアなんて国、今も昔も聞いたことがない。

「厳密に言えばハルゲギニアは国名じゃねえらしいが……まあどうでもいいことだ。
 分かるか? 異世界だ、常識なんてつまらねえものは捨てることをお勧めするぜ」
「異世界って……まさか?」
「そういうことだ、常識が違う世界さ。魔法も使えるらしいぜ」

普段ならば馬鹿馬鹿しいと一蹴するような話だが、今の状況ではそれも簡単に捨てることが出来ない。
魔法、なるほど魔法か。
確かにワープや死者蘇生(傷の再生ではなくこっちの方がしっくりくる)は物語で出てくる魔法の本領だ。
マハブフストーンにも魔法と書かれていたし、本当に魔法もあるのかもしれない。
だがそれ以上にこの話は交渉に使える。
もし、この怪人がファンタジーでメルヘンな世界の住人でならば。
もし、着流しから察せられる文化レベルの人間ならば。
もし、火傷を整形手術で治していないのならば。
十分に交渉の余地はある、機械はファンタジーを蹂躙出来る。

「……それじゃアンタら一生無理ってものだぜ?」
「ほぉ」

このままでは助からない。
だから、三村は一世一代の賭けに出た。
不確定要素が強すぎるが、座して待てば死ぬだけだ。
皮肉にも信史の学んだコンピュータ技術でない魔法なんて曖昧なものに縋ることになるが。

「機械を解体するのはファンタジーの住人じゃ無理だって言ってんだよ。
 この首輪の仕組みには見覚えがあってな、俺の世界の技術を使われている可能性が高い。
 詳しいことは知らねえのは俺も一緒だ。だが、土台の分で首輪を解除できる可能性は比較にならないぐらい高いぜ」
「……知らねえものを知るのは時間がかかるもんだ。基礎もねえ俺たちには無理ってのはなるほど道理だ」
「だろ? だから」
「俺を助けてくれ、って?」

その言葉とともに信史の首に掛かった手に力が込められる。
満足な呼吸も出来なくなるが、ここが正念場だと萎えそうな意志に鞭を打つ。

「そいつは負け犬根性ってもんだぜ? 俺は擦り寄ってくる弱った犬は蹴り殺す性質だ」
「ま、負け犬はどっちだ? V.V.に首輪をかけられたアンタは負け犬じゃねえってのか?
 犬が犬飼っても負け犬の事実は変わらねえぜ。
 ……負けるってのは、勝つまでは負け続けることだぜ?
 V.V.と勝つためには俺と手を組むのが……」
「負け犬ってのはよく吠えるもんだ……言ってることは正しいのがまた腹が立つぜ」

ふっと笑いを深め、一瞬だけ力を緩める。
ここで助かったなんて思わない、この怪人はそれほど甘い人間ではないことは目で分かる。
恐らく一度上げてから落とすつもりだ。
だから、志々雄が全身の力を抜いて筋肉を弛緩させるその瞬間。
信史はそれを、それこそを待っていた。


「ほら、プレゼン……っ!?」


袖に隠しこんだマハブフストーンを取り出し、志々雄へと向かって投げつける。
説明書きによればマハブフストーンは、氷結系、つまりかなりの冷気を発するのだろう。
当たれば必ず隙が出来る、隙が出来ればやりようがある。
荷物を放り出すことになるが、逃げるぐらいならば出来るだろう。
魔法と言う言葉が本当ならば、逃げれる。

だが、それは予想以上に簡単に塞がれた。

「よっ、と」

【学生服の袖に仕込んだ石を手の中へと持って行き、手首を使って怪人に向かって投げつける。】
これだけの一瞬で終わる動作を、石を手の中に持ってきた瞬間に手首をつかまれることで簡単に防がれた。
怪人がギュッと強く握らるだけで、信史は指先に力が入らず石を取りこぼす。

「……っぅ」
「石……か。こいつもまた異世界の武器か?
 あと奇襲する時は腹芸も出来なきゃ意味がないぜ、目をぎらつかせ過ぎだ」

ニヤニヤと嫌味な笑いを消さない怪人を眺めながら、必死で頭を働かせる。
元よりカードの少ない信史にはもう手が残されていない。
だが、諦め悪く必死に頭を回し続けなければいけない。
信史は簡単に死を受け入れるような性質ではないのだ。
口で言いくるめられる相手ではないのは確かだ。
殴り合いで勝てるようにも見えない、バットを持っていても負けるような気もする。
何と言うか、この怪人は血生臭いことを生業にしているような雰囲気を持っている。

(どうする? どうすればいい? 今の俺に出来ることはなんだ?)

そんな信史を無視するように怪人は言葉を続ける。

「悪くねえよ、強者に縋らずに強者になろうとする根性は悪くねえよ。
 ……それだけに無力ってのは悲しいなぁ、三村。
 度胸と知恵は十二分だが、奈何せん経験と実力が残念だ」
「っ!」

これからどうなるか。
信史は間違いなく怪人に歯向った。
尊大な口調の怪人がそれを見逃すとは思わない。
この男が信史を見逃すにしろ殺すにしろ、簡単にケリをつけるとは思えない。
生き残れたとしても、骨を何本も折られるぐらいは覚悟をしなければいけないだろう。
だが、必ず隙を見つけてカウンターを返してやる。


そう覚悟を決めた信史に対し、怪人は――


「三村、もう少しばかり弱肉強食の世で揉まれてみな」


――その言葉と共に、信史の首から手を離した。


「……え?」
「今からお前は犬は犬でも負け犬じゃねえ、俺の犬だ。生きることを許してやるよ」
「……」

唐突な展開に思考が追い付かないが、どうやらこれで生き残ったのだ、と言うことは理解できた。
だが、どうして?
見逃すのなら最初から見逃せば良かったでは良いか。

「俺は志々雄真実、精々二匹目の飼い犬として働きな。そっちのガキはタバサだ」
「飼い犬、か……」

癪に障る言い方だが、何の力もない信史にはぴったりの表現だ。
生き残るためには怪人――志々雄を喜ばせるために芸をするしかないのだろう、わん。
タバサなる少女がどうして志々雄と共に居るのかも気になるが、今はそれよりも耳の手当てだ。
汗をふくタオルが事務室には置かれていたので、それを手に取って耳に当てる。

「よろしく、可愛らしいお嬢さん」

そう言ってタバサに話しかける。
タバサは無視するように本を読み続けるが、ふと思い出したように顔を上げて口を開いた。

「杖」
「……杖?」

その言葉は、鈴が鳴るような、なんて表現がしっくり来るほど綺麗な声だった。
だが、言葉が全く分からない。
杖とはどういう意味だろうか?
ああ、やっぱり魔法使いだから杖は居るのか?
そんな風に若干混乱した信史を急かすようにタバサはもう一度綺麗な声で尋ねた。

「杖」
「俺が杖を必要とする爺さんに見えるかい、お嬢さん?」
「ないなら、良い」

それだけを言ってカタログに視線を戻す。
落ち付いたものだ、目の前に耳から血を流す男がいると言う。
志々雄同様タバサも中々変わった人物なようだ。
色々と前途多難だが、頼りにはなりそうだ。

……志々雄という信史ごと敵を吹き飛ばす爆弾とそばに居ることになったのが、非常に危険ではあるが。


   ◆   ◆   ◆


しかし、よく生きているものだと信史自身も思う。
下手をしなくても、殺されていても全く不思議ではないのだ。
志々雄の言った弱肉強食の世の中。志々雄の胸一寸で生死が逆転したかと思うとぞっとする。
この魔法使いのような少女、タバサもまた怪人と何かしらの交渉に成功したのだろうか。
二匹目……つまり、タバサが一匹目ということだ。
まあ、それはどうでもいいことだ。
大事なのは生きるためには志々雄と手を組んで最短でこのクソゲームを攻略すること。

ちなみにこのノートパソコン。
信史がタバサとマハブフストーン二つと物々交換したものだ。
その時もタバサは一切言葉を口にせず、『魔法の石』と言う言葉に釣らて本から目を離した。
ただ、幼く見える容姿に似合わない冷たい目がひどく印象的だった。

そして、本から説明書きに書かれた文章に目を通し、何も言わずにノートパソコンを指差しただけだった。
取っていい、というシグナルだろう。信史は肩をすくめながらも遠慮なく頂いておいた。

ちなみに、志々雄はパソコンを待つ間にバッティングセンターを堪能していた。
初めて見る施設に興味を示したのか、信史に「ここは何をやる場所だ?」と尋ねたのだ。
信史は素直に野球と言う球技の練習場だと答えた。
厳密にはストレス発散の場でもあるので違うが、まあそう間違ってはいないだろう。
そう言うと志々雄は「ほぉ」と呟いて、「どうやってやるんだ?」とも訊ねた。
二百円入れれば向こうの機械からボールが飛んでくるから、より遠くにこのバットで弾き返せばいいと答えた。
そう聞いてからの志々雄の行動は早かった。
その二百円はどこにあると聞いてから、事務室の持ち運び型の小さな金庫を指差すとそれを金属バットで破壊した。
後はご想像の通り、百円玉を山ほど持ってボックスの中へと入っていった。
信史に「その、のーとぱそこん、ってのを調べときな」とだけ言って。

と言うわけで信史と言う名の奴隷は優雅に戯れるご主人様の背後でカタカタとキーボードを打っていた、というわけだ。

で、結局このノートパソコンは新品同様まっさらなままだと分かったのだ。
主催者側の弱点どころか、プログラムを勝ち抜くためのめぼしい情報は与えられていない。
志々雄は僅かに眉をしかめたが、あまり当てにもしていなかったのかそれほど落胆したようには見えなかった。

「で、これからどうするんで?」
「当面の問題は首輪だな」

それだけを言って志々雄は顎を指で触る。
しかし、全身火傷の痛々しさと包帯で捲いただけの無造作な姿が不気味だ。
そのくせ目はギラギラと野望に燃えている。
何時までも志々雄と共に居れば危険かもしれない。
腕は確実に立つだろうが信史を守る気など一切なく、まず間違いなく火種を嗅ぎ取ればそこに直行する。
そんな男と一緒に居たら命が幾つあっても足りやしない。
だが、単独行動のチャンスを得れる可能性があるかどうか。
信史はそう考えながらパソコンの電源を落とす。
これ以上見ていても何も変わらない。
休憩はここで終わりにして、探索の再開に移るべきだ。
それは志々雄も分かっていることだろう。

そう思って、移動を提案しようとした瞬間だった。

「なっ!」
「ほぉ……こいつはまた分かりやすい花火だな」

北東から僅かに火柱が上がったのを目撃した。
パソコンを見ていたら気付かなかっただろうが、タイミングよく電源を落としたところだ。
素早く地図を開き、あの方向に何があったかを確認する。
あの方向だと警察署、いや遊園地か?
いずれにせよ、そこで大々的な戦闘があったのだろう。
ここから見れるほど高く火柱が上がるとはとんでもない爆発物だ。
そんな強力なものが支給するなんてV.V.は何を考えているのだろうか、と考えてふと気づいた。

『そういうことだ、常識が違う世界さ。魔法も使えるらしいぜ』

魔法が使える、という志々雄の言葉。
まさか魔法を使える人間は武器を使わずにあの威力の魔法を扱えるのだろうか?
童話などでは悪い魔女一人で国を潰したりする、魔法と言うぐらいなのだからそれぐらいしてもおかしくないように思える。
知らないから判別できない。無知とは歯がゆいものだ。
ふと、見ると志々雄もタバサもさほど衝撃が受けているようには見えない。
タバサに至っては四冊目となるカタログに未だに目を通したままだ、良く見るとリンゴも食べている。
信じられない冷静さ、それだけでタバサの奥が見えない。

本当のところはいつもの行動をすることで、タバサなりに頭を落ち着かせようとしているだけなのだが。

「火柱に、煙……どんな強力な武器が?」
「はん、どうせあそこでもこの世の理通りに人間が動いてるだけだ」

そう言いながら、志々雄は再び百円玉をカウンターに差し込み、バッティングを開始する。
正直、志々雄の反応には驚きを隠せなかった。
剣呑とした雰囲気を常に纏った、戦うために生きているような男だ。
威力云々はともかくとして、明らかに戦いの火種と思える火柱に何の興味も抱かないのは意外だった。

それと同時に、志々雄の漏らした『この世の理』と言う物にも僅かながら興味を抱いた。

「この世の、理?」
「所詮この世は弱肉強食……弱いものが死に強いものが生きる、絶対の理だ」

それだけを言うと、もう一度バットを構えてピッチングマシーンへと目をやる。
110km/hのボールが志々雄へと向かって――――

スゥ――――カッキーン!

志々雄がバットで弾き返したボールは、ネットの最奥に供えられた『ホームラン』と描かれた的に見事突き刺さった。
それが、何の意味を指しているのか志々雄も察したのだろう。
バットを肩で担ぎ、口元に笑みを浮かべながらネットを潜り、まだ球も残っていると言うのにボックスから出る。
底の知れない不気味な、それでいて妙な信頼感を覚える笑みを浮かべながら、だ。

「とは言え、骨のある奴は多そうだな。さて、どうするか……」

行くか行かないか。
当然、信史としては危険な場所に行くのは避けるべきだ。
ならば志々雄と別行動するのも手かもしれない。
何処かで落ちあう約束をして信史だけ単独行動。
だが、志々雄と共に居るのもまたアリかもしれない。
この男は信史と違い狂っている。
狂っているからこそ、共に居て見えるものもまたあるのではないか?
志々雄ではないが、信史もまた「さて、どうするか……」と考え始めた。


【一日目黎明/H-08 バッティングセンター】
【志々雄真実@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-(漫画)】
[装備]:リュウガのデッキ@仮面ライダー龍騎
[所持品]:支給品一式、不明支給品0~1
[状態]:健康
[思考・行動]
1:自分の束ねる軍団を作り、ぶいつぅを倒す。
2:首輪を外せる者や戦力になる者等を捜し、自分の支配下に置く。
3:北東に向かうか、それとも別の場所に向かうか……

【タバサ@ゼロの使い魔(小説)】
[装備]:鉄の棒@寄生獣
[所持品]:支給品一式、林檎×9@DEATH NOTE、マハブフストーン×2@真・女神転生if…
[状態]:健康
[思考・行動]
1:何としても生き残る。
2:とりあえず志々雄に従う。
3:一先ず、いつも通りに本を読んで落ち着く。
※1巻終了直後からの参加です。
※支給品の鉄の棒は寄生獣10巻で新一が後藤を刺した物です。

【三村信史@バトルロワイアル(小説)】
[装備]:金属バット(現地調達)、マハブフストーン×3
[所持品]:支給品一式、確認済み支給品0~2(武器ではない)、ノートパソコン
[状態]:左耳裂傷
[思考・行動]
1:単独行動を志々雄に言うか、このまま志々雄についていくか……
2:『ルルーシュ』か緑色の髪の女に接触し、V.V.の情報を聞き出す。
3:今回のプログラムに関する情報を集め、最終的に殺し合いに乗るか乗らないかを決める。

【マハブフストーン@真・女神転生if…】
氷結系の魔法攻撃を範囲広く仕掛ける。
魔法の使えない主人公にも使えるので、誰にでも使うことが出来る。
出来るだけに威力はそれほどでもない。
魔力の高い人間が使った方が威力は高くなる。
5個セットで支給。


時系列順で読む

Back:仇敵 Next:月の残光

投下順で読む


033:弱肉強食の理 志々雄真実 074:悪徳の栄え
タバサ
031:”The third man” in the game to try again 三村信史



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