力(ちから)

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力(ちから) ◆8ejk0/mc9k



 戦火に焼けた道を、一人の女性が行く。
 彼女の名はアイゼル・ワイマール。錬金術士である。
 その向かう先は、病院。
 激戦の中で大きなダメージを受けたジェレミアは、戦う力を持たない奈緒子は無事だろうか?
 逸る気持ちを抑えつつ、周囲に気を配りながら、慎重に歩んでいく。


 彼女が周囲に気を配る理由は2つある。
 一つは、言わずと知れた敵への警戒。
 今回襲ってきた敵は、みなライダーだった。そして、今回の戦闘で両者ともに時間切れになっていた。
 時間制限が存在する以上、それが切れた場合、エネルギーの充填を待つか、補給をするなりしなければ再使用不可能であると考えるのが自然である。
 具体的にどれくらいの時間で再使用可能になるのかは判らないが、戦闘がついさっきであった以上、とりあえず今すぐにライダースーツを着用した状態での超人的な力でもって襲撃されることはないと見ていいだろう。
 しかし、それでも生身の状態で襲ってこないとも限らないし、予想より早く充填が完了しないとも限らない。それに、他にも危険人物はいるかもしれない。
 特に、あの浅倉というライダーは見境無しを絵に描いたような人間だ。変身できずとも襲い掛かってくる危険性は十分にある。

 アイゼルは、体力に自信がないわけではない。
 旅の錬金術士である彼女は、時に危険な場所に赴く事もあるし、食い詰めた夜盗2~3人程度であれば追い払うくらいは出来る。
 しかし、その程度だ。本格的な戦闘訓練を積んだ人間にはかなわないし、ましてやライダーたちには到底及ばない。
 なので、まず遭遇しない、気づかれないようにすることが重要なのだ。

 二つ目は、錬金術士ならではの理由。それは、錬金術の素材となる物の収集である。
 ライダーやジェレミア、五ェ門のような人間の武器は、言わずと知れたその戦闘力である。
 そして北岡のような人間の武器は、その頭脳だろう。
 とすれば、アイゼルの持つ一番の武器は、錬金術士としての技術力である。


 その技術力を生かすためには、素材が必要だ。そして、この戦場跡には、錬金術の素材として有用なものが、いくつか落ちていた。
 例えば、五エ門が切り払い、不発に終わったエンドオブワールドの弾薬。これは強力な火薬材料になるだろう。
 浅倉に砕かれたメタルゲラスの残骸は、金属や鉱石のような性質を持っているようだ。
 中でも爪や角の部分は特に質が良く、強度も高い。これを素材に武器を作れば、とても強力なものに仕上がるだろう。

 しかし、簡単な加工ならばともかく、強度の高い素材を加工するためには、相応の設備が必要となる。加工できない素材をただ持ち歩いたところで、何の意味もない。
 だがアイゼルは、そういった設備がこの会場のどこかに存在するだろう事を、ほぼ確信していた。

 そう考える理由は、この会場に集められた人間の強さが完全にバラバラであったこと。
 しかし、参加者同士が友人関係やライバル関係にあるなど、何かしらの関係者であるケースがかなり見受けられること。
 最後に、錬金術士である自分がこの場にいることだ。


 まず一つ目だが、強さがバラバラであるということは、このロワイヤルは単純に腕っ節が最強の人間を決めるためのものではないということを表している。

 次に二つ目だが、参加者はランダムで集められたのではなく、何かしらの意図を持って集められたことを表している。
 なぜなら、世界は広い。世界中からランダムに数十人を選び出し、その選ばれた人間同士が何かしらの関係者である確率は、極めて低いだろう。

 最後に、アイゼルがこの場に呼ばれた理由があるとするなら、それはおそらく錬金術士だからであろう。
 素材を加工することの出来ない錬金術士など、一般人と大差はない。しかしわざわざ錬金術士である自分を呼び出した以上、その力を生かすための設備が必ずどこかにあるはずだ。

 うまくジェレミアや奈緒子たちと合流できたら、そういった設備を探してみようかなどと思いながら病院付近へたどり着いたとき……



―――おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!―――



 ……男の慟哭が聞こえた。

 その声の主は、おそらくジェレミアであろう。
 しかし、あれほどの叫びを上げるとは、いったい何があったのだろうか?
 一部が損壊し、瓦礫が散乱する病院の中を駆け足で向かったアイゼルが見たものは、泣き崩れるジェレミアと、女性の――おそらく奈緒子の――無残にひしゃげた遺体だった……。

「ジェレミア卿……」

 状況に動揺しながらも、しかしジェレミアのことを気遣いながら、アイゼルは声をかける。
 だが、ジェレミアからの返事はない。

「ジェレミア卿!」

 次は、背中を軽く揺すりながら少し強い口調で声をかける。

「ああ…アイゼル…君か……」

 今度は、一応反応があった。
 しかし、目の焦点は定まっておらず、本当にこちらのことを認識しているのかさえも不安になってくる。

「私は…また…守れなかった……」

 それだけ言うと、ジェレミアはまた泣き崩れる。


 主であるルルーシュを失い、そしてさらに協力者である奈緒子まで失い、彼の精神はもはや限界に来ていた。
 アイゼルも奈緒子の死には少なからず動揺したが、しかしそれ以上にショックを受けているジェレミアを前に、逆にいくらかの冷静さを保つことが出来ていた。
 奈緒子の遺体をそのままにしておくのは気が引けたが、ジェレミアをこのままにしてはおけない。何せ、精神的に追い詰められていることに加え、連戦によるダメージも小さなものではないのだ。
 そう考えたアイゼルは、付近に放置された彼のディパックを回収した後、ジェレミアに肩を貸し、先ほどの戦闘によるダメージの少ない診療室にあるベッドに連れて行き、そこへ寝かせた。



☆  ☆  ☆  ☆


 一方そのころ、病院から少し南にある民家では…。


「…これでよしっ」
「つかさ殿、かたじけない」
「いいんですよ、五ェ門さん。私にはこれくらいのことしか出来ませんから」

 そこでは、つかさが先の戦闘で負傷した五エ門の応急処置を終えていた。

「本当は、もっと本格的な治療が出来ればいいんですけどね…」

 つかさは、あくまでも単なる女子高生である。本格的な医療技術など望むべくもなく、基本的な処置に終始していた。
 ある程度の傷は即座に癒せてしまう傷薬などもこの会場には存在していたが、生憎とこの民家にあった救急箱に入っていたのは普通の消毒薬であったため、塗るが早いか見る見る傷が塞がって…などということは、当然ない。


「これからどうしましょうか?」

 つかさが北岡と五ェ門に声をかける。

「どうするも何も、しばらくここに留まるしかないだろう」

 北岡が返す。
 北岡としては、できればすぐにでもカードデッキを取り返すために行動を起こしたかった。
 しかし北岡もつかさも、いざ敵に遭遇しても戦えるだけの力を持たない。
 唯一戦闘能力を持つ五ェ門は先ほどから気絶から覚めたばかりでダメージも大きいため、せめて傷が安定するまで休ませなければ戦闘は厳しいだろう。
 ならば下手に動き回るよりは、ここで体力を回復させた方が良いと判断したためだ。
 五ェ門もまた同じ意見のようで、それに異を唱えることはしなかった。この周辺には民家は少なくないため、隠れるには悪い場所ではないだろう。


 しかし、つかさだけは別のことを考えていた。
 そして、意を決したように口を開く…



「だったら…、だったら私一人で病院へ行ってきていいですか?
 お二人とも、しばらくはここを動かないんですよね。でしたら、その間に病院の霊安室にいるお姉ちゃんにお別れを言ってきたいんです。」

 二人が驚いて目を見開く。

「つかさちゃん、いくらなんでも危険過ぎる!」
「つかさ殿、早まった真似をしてはいけない!」

 しかしつかさは首を振る。

「大丈夫ですよ。
 さっきの浅倉さんってライダーは上手く撒けたはずです。
 もし撒けてないなら、もうとっくに襲われてますよ。
 ここから病院までならそれほど距離もありませんし、きっと今しかチャンスはないと思うんです」

 五ェ門は、つかさの目を見た。
 その目には、明確な決意の色が浮かんでいた。

「…わかった。ただし、少しでも危ないと感じたらすぐに戻ってこい。絶対に無理をするな」

 こういう目をした人間は、口で言っても止まらないだろう。
 例え怒鳴りつけて無理やり病院行きをやめさせたとしても、こっそり目を盗んで出て行く危険性が高い。
 そうなってしまった場合、トラブルは避けられない。ならばいっそのこと目の前で送り出したほうが良いと考えたためだ。
 五ェ門は北岡の方を見たが、渋々ながらも異論はないようだ。

「それじゃ、つかさちゃん。俺たちは基本的にここで待っている。
 ただし、何かしらの事情でここにいられなくなった場合、つかさちゃんの後を追って病院へ向かう。
 だから、もしここへ戻ってきて誰もいなかったら入れ違いだから、一旦病院へ戻って欲しい。
 …これでいいかい?」

「わかりました。それでは、行ってきます!」











「…五ェ門。本当に、これで良かったのか?
 もし敵に出会えば、彼女は確実に殺される。
 それなら、柱に縛り付けてでもここにいさせた方が良かったんじゃないか?」

 つかさを見送った後、北岡が言う。
 しかし、五ェ門は静かに首を横に振る。

「人には、時に越えなければならない壁や、通らなければならない道がある。その者が、その者であるためにな。
 つかさ殿にとっては、今がその時なのであろう。
 ならば拙者たちにできる事は、ただ信じて待つ事のみだ」

「そうか…」

 五ェ門の言葉に、北岡は短く返す。
 今の彼らにできること、今の彼らがすべきことは、とにかく体を休めることだけなのだから…。




********************************************************************


【一日目昼/H-8 東の民家】
北岡秀一@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]レイの靴@ガン×ソード
[所持品]シュートベント(ギガランチャー)のカード、レミントン・デリンジャー(0/2)@バトルロワイアル、デルフリンガー@ゼロの使い魔
[状態]疲労(中)、軽症
[思考・行動]
0:つかさを信じて待つ
1:今はとにかく体力を回復させる
2:0が完了次第、金髪の男(レイ)からデッキを奪い返しに行く。
3:2を達成し、浅倉と決着をつける。
4:戦闘は五ェ門、交渉は自分が担当する。
5:ここに留まれない理由が発生した場合、病院へ向かう。
※龍騎勢が、それぞれのカードデッキを持っていると確信。
※一部の支給品に制限が掛けられていることに気付きました。
※病院にて情報交換をしました。


石川五ェ門ルパン三世
[装備]
[支給品]支給品一式(水を消費)、確認済み支給品(0~2)(剣・刀では無い)
[状態]左手のひらに大きな傷、右肩に刀傷、軽い裂傷が数か所(それぞれ処置済み)、腹部に裂傷(処置済み)
[思考・行動]
0:つかさを信じて待つ
1:北岡、つかさを護衛する。
2:今はとにかく体力を回復させる
3:浅倉と決着をつける気があるなら、北岡のカードデッキを奪い返す手伝いをしてもいい。
4:早急に斬鉄剣、もしくは代わりの刀か剣を探す。
5:ルパンと合流し、脱出の手だてを探す。
※龍騎シリーズライダーについてはほぼ正確に把握しました。
※デルフリンガーが魔法吸収と錆を自由に落とせる能力を思い出しました。


**********************************************************************


 民家を発ったつかさは、小動物のようにびくびくと道を歩いていた。

 彼女は…無力だった。
 五ェ門のような達人との比較でなくとも、例えば、"病弱な"北岡と殴り合いをしたならば、簡単に負けるだろう。
 北岡は成人男性。対してつかさは女子高生である。
 だったら、同じ女子高生同士ならばどうだろうか?
 格闘技を習っていたこなたや運動神経の良いみなみは言うに及ばず、今は亡きみゆきが相手だったとしても体格差で負けるだろう。そもそも、運動自体が苦手なのだ。
 加えて言うなら、勉強もあまり得意な方ではないため、頭脳戦を行うことも難しい。
 アルターをはじめとした超常の力の行使など、それこそ夢物語だ。
 少女は…どうしようもなく無力で、最弱だった。


 彼女が右手に握り締めているものは、唯一の武器といえる眠りの鐘。もし何者かに襲われても、これで眠らせれば何とかなるだろう…とは思う。
 しかし、先ほどのライダーのような相手に対して、これは本当に有効なのだろうか?
 それだけでなく、生身でも五ェ門に匹敵するような敵に出会ってしまった場合、鐘を鳴らす暇もなく首を刎ねられてしまうのではないだろうか?
 それよりも、遠くから銃で狙撃されたりなんかしたら?
 考えれば考えるほど不安になる。
 そんなわけで道中、風の音を聞くたびに驚き、木の葉のこすれる音を聞くたびに涙ぐみ、羽虫が近くを飛ぶたびに身を隠した。
 しかし、歩みを止めることだけはなかった。




 幸いなことに、病院へは特に何事もなく到着することが出来た。
 先の戦闘で損壊した玄関をくぐり、地下にある霊安室に向かおうとした。
 しかし、そこで玄関からすぐのところにある階段が塞がっていることに気づいた。

「せっかくここまで来たのに…」

 力が抜け、絶望しかけるつかさは、しかし思い直す。
 この病院はかなり大きい。ならば、階段がこれひとつなどということはないはずだ。少し見て回れば塞がっていない階段も見つかるだろう。
 そう思い歩き出そうとしたつかさは、自分のものではない足音に気づいた。



(あうう! どうしようどうしよう!
 逃げる? ダメ、足音でばれちゃうし、絶対つかまっちゃう!
 眠りの鐘を使う? ううん。効くとは限らないし、相手が眠る前に殺されちゃうかもだから最後の手段!
 命乞い…なんて聞いてくれるわけないよぅ!
 隠れる? 見つかっちゃうかもでもそれしかないよガレキの裏に隠れようそれしかないよそうしよう!)

 つかさは大混乱に陥りながらも、足音を消しながら、しかし急いで瓦礫の裏に身を隠した。
 瓦礫の隙間からそっと足音の方を見るつかさ。
 できれば後ろを向いてうずくまっていたいが、もし見つかってしまった場合、何もできずに殺されることになる。
 気づかれたならば、一か八か先制で眠りの鐘を使うしか生き残る道がない以上、恐怖に耐えながら、じっと足音の方を見据える。

 その時間は数秒に過ぎなかったはずだが、随分と長い時間のように感じられた。
 そして、足音の主が現れる。
 それは戦闘後、病院へ向かったアイゼルだった。




「アイゼルさん…」

 つかさは、アイゼルに声をかけた。
 物陰から不意にかけられたその声に、アイゼルは少し驚く。

「つかささん、何でこんなところに?
 …そういえば、一緒にいた北岡さんと五ェ門さんが見えないけど、何か…いえ、何があったの?」

 思いがけない再会に、アイゼルが当然の疑問を投げかける。
 誰がどう見ても、つかさは弱い。
 そんなつかさが保護者である五ェ門たちの下を離れ、一人で出歩いている以上、何かがあったと考えるのが自然である。

「いえ…お二人には特に何もないです。五ェ門さんも目を覚ましましたし。
 ただ、やっぱりひどい怪我なので、しばらくは動かないで休むことになったんです。
 また動き出したら、お姉ちゃんにはいつ会えるかわからなくなくなっちゃうし…
 だから、今のうちにって、またここに来たんです…」


 一通り説明した後つかさは、アイゼルがここにいる理由を思い出した。
 確か、ジェレミアと奈緒子のために病院に戻ったのである。
 つかさは、その二人がどうなったのか、尋ねた。

「ジェレミア卿は、何とか無事よ。
 ただ、傷だらけで今はベッドに寝かせているわ。それに、精神的にもだいぶ弱っているみたい」

 そこまで言うとアイゼルは俯き、一呼吸の間をおいて再び口を開く。

「……奈緒子は…亡くなったわ。
 おそらく、戦いに巻き込まれたのでしょうね。
 裏口の、瓦礫の下よ。後で弔ってあげないと…」

 それを聞いたつかさも、俯く。
 アイゼルもまた、友人を喪ったのだ。


「…ごめんなさい。辛い事を聞いちゃって」

「いいのよ。つかささんが悪いわけじゃないわ…」





 …少し空気が沈むも、会話を再開する。

「あ、そういえば、アイゼルさんは今何をしているんです?」

「さっき、ジェレミア卿の状態があまりよくないことは話したわね。
 一応の処置はしたのだけど、ここの病院においてある薬だと、ちょっと用が足りないのよね。
 だから、ここの薬をベースに傷薬を作ろうと思ったのよ。
 で、今は薬品庫から素材を調達してきた帰りなの」

 そう言うと、アイゼルはディバックを開いてみせる。
 なるほど、消毒薬やら漢方薬のようなものやら、色々な薬が入っている。

「薬から…薬を作る?
 薬同士を混ぜ合わせて、そんなに効果が変わるんですか?」

 つかさが疑問を口にする。
 この疑問は、厳密には間違っており、薬同士を混ぜ合わせることにより効果が変わることは往々にしてある。
 しかし、それは大抵の場合効果を打ち消しあったり、下手をすれば副作用が強くなってしまうため、むしろ危険なのだ。
(なので、モニターの前の君は決して自己判断で複数の薬を一緒に使ってはいけない。約束だZe!)

「そこは、錬金術の出番よ。
 あなたの世界には、錬金術は存在しないのよね?
 簡単に説明すると、色々な素材を素にして物を作るための技術であるという点では普通の物作りと同じなのだけど、そういったものは詰まるところ元の素材の組み合わせでしょう?
 錬金術って言うのは、その元の素材の性質を強化したり、性質自体が異なる物も作れるという点において決定的に異なるわ」

「そうですか…」


 アイゼルの言葉に、何かを考えるように下を向く。


「…錬金術っていうのは、"技術"なんですよね?
 扱うために何か魔法的な才能が必要だったりとかは…」

「ないわよ。
 よく誤解されるけど、錬金術は体系立った物作りのための技術なの。
 理論と手法を学んで技に通じれば誰でも扱えるわ」

 再び考え込むように下を向くつかさ。
 そして、意を決したような目を向け、口を開いた。

「アイゼルさん。それなら、これから傷薬とかを作るついででいいですから、私に錬金術を教えてください!」

「え…それはいいけど、つかささん、お姉さんに会いに来たんじゃないの?」

 その言葉に少しつかさの表情が曇るも、それでも勢いは緩まない。

「それは確かにそうですけど、今は錬金術を習いたいんです!」

 突然の熱意に少し気圧されるアイゼル。
 しかし、断る理由がないのも確かだった。
 ジェレミアの治療のために限らず、薬などは多く用意しておきたい。
 しかし今は敵の気配がないとはいえ、それでもいつ誰に襲われるかわからない以上、調合にあまり時間もかけられないので、手伝ってくれる人が欲しい。
 ついでに言うなら、アイゼルはこれでなかなか面倒見のいい性格であり、人に何かを教えることも嫌いではないのだ。

「わかったわ。それじゃあ材料も揃っているし、早速はじめましょう。作業は給湯室で行うわ」

 こうして、アイゼルによる錬金術講座が始まった…。


********************************************************************


【一日目午後/G-8 総合病院診療室】
ジェレミア・ゴットバルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[装備]なし
[所持品] なし
[状態]右半身に大ダメージ(ごく簡単な処置済み)、疲労(大)、精神的疲労(大)、左腕の剣が折られたため使用不能
[思考・行動]
1:診療室のベッドに寝かされています
2:???
※病院にて情報交換をしました。
※彼のベッドの横に、アイゼルが回収したジェレミアのデイパック(支給品一式(鉛筆一本と食糧の1/3を消費)、咲世子の煙球×3@コードギアス 反逆のルルーシュ、こなたのスク水@らき☆すた、ミニクーパー@ルパン三世 )が置いてあります。


********************************************************************




 給湯室の調理台の上には、先ほどの薬類の他に、先の戦場で暴れ回ったミラーモンスターの残骸や、流し台の下にあった調味料まで置かれていた。
 下準備完了である。

「さて、今回作るのは基本的な傷薬のリフュールポットと、精神安定剤の琥珀湯、それと今後のためにフラムという爆弾を作るわ。
 時間がないからパッパと行くわよ」

「はいっ!師匠!」

「いえ…師匠なんて呼ばれても照れくさいから、今まで通りでいいわよ…」

「え、そうですか? こっちの方が気分が出るかと…」


 まず二人は、リフュールポットの調合に着手した。
 材料をすり潰し、混ぜ、鍋で煮る。

 このリフュールポットだが、錬金術の学校では最初にこれの作り方を習うほど基本的な薬なのだ。
 単純であるがゆえに調合に時間がかからず、ある程度量を作る場合にも向き、それでいて作り手の腕前や素材が良ければ効き目もなかなかであり、今回のような状況には最適と言えた。
 アイゼルの調合を見ながら、同じようにつかさが材料を加工する。そして、時折アイゼルがアドバイスをし、つかさが忘れないようにメモを取る。


「ここはもっとこう…ね。意外といい手つきじゃない」

「えへへ、そうですか?」


 アイゼルに褒められ、少し照れるつかさ。
 というのも、つかさはお菓子作りをはじめとした料理が得意であり、こういった調合にはそれらと似通った部分が多々あるのだ。
 しかし、違う部分も結構ある。
 今まで気にもしていなかった、しかし言われてみれば確かにその通りな、コロンブスの卵的な発想の違い。
 それこそが、錬金術の技術であり、つかさが暮らしていた世界にはないものであった。
 これを料理に応用すれば、また違ったものができるかもしれないと、つかさは思う。


「……最後に、一回分ずつ小瓶に分けて、リフュールポットはこれで完成よ。次の作業に移るわ」


 青く澄んだ液体の入った6つの小瓶を横に寄せ、琥珀湯を作る作業に入る。
 こちらの材料には薬の材料と鉱石…今回はメタルゲラスの装甲板の欠片を使う。
 これは、鉱石という硬いものから液体という全く性質の違うものを作り出す、錬金術の本質が絡んでくる薬であり、これが上手く作れれば錬金術の初心者マークが外れる程度のレベルのものだ。
 なので先ほど錬金術を始めたばかりのつかさは少々苦労しているが、アイゼルのフォローもあり、何とか作業を進めていた。


 ところでこのときアイゼルは、この給湯室においてある道具の性能と仕組みに、しきりに感心していた。
 例えばこのガスコンロだが、扱える熱量は薪を大きく凌駕する。
 参加者の出身地によって不公平が出ないよう置いてあるのであろう取扱説明書を読む限り、これはガスを圧縮したものを容器に貯めておき、それを燃焼させることで炎を作るらしい。
 このくらいの容器なら、アイゼルにも設備があれば作れる。燃えるガスが発生する場所も知っている。
 しかし、圧縮して貯めておくという発想がアイゼルには…アイゼルがいた世界にはなかった。
 また、ジェレミアが言っていた電気の力。それを光に変えて物体を内部から加熱したりする電子レンジという機械も、アイゼルにしてみれば発想のレベルで未知の技術だった。
 世界ごとにおける技術体系の違い。先ほどつかさが感じていたことを、アイゼルもまた感じていた。

 琥珀湯は、実は調合に少しばかり時間がかかる薬である。
 しかし、こういった道具があったおかげで、彼女の出身地である世界で調合を行ったときよりも、かなり早く琥珀湯は完成した。
 リフュールポットのときと同様に、その琥珀色にきらめく液体を一回分ずつ3つの小瓶に取り分ける。



「さて、最後にフラムを作るわよ。強力な火薬を使うから取り扱いには十分に注意してね」

「はいっ!」


 緊張した声で、つかさが答える。
 フラムは、錬金術で作る爆弾の中では最も基本的とされるものだ。
 しかし、構造が単純であるだけに素材となる火薬材料によって、爆竹に毛が生えた程度のものから、岩の一つや二つ消し飛ばす程の物まで、威力が大きく左右される。
 そして今回の材料は、先ほどの戦闘で五エ門が切り払ったエンドオブワールドの不発弾である。
 不発に終わっているとはいえ、世界の終焉の名を冠する威力を持った火薬自体はまだ生きており、その破壊力は凄まじいものだ。

 この作業自体は、単純なものだ。
 フラム作成で一番時間を使うのは火薬の生成だが、もうすでに火薬はある。後はそれに簡単な錬金術処理を施し、円筒状の、典型的なダイナマイト型に仕上げるだけだからだ。


 つかさは、慎重に、慎重に、加工を行う。
 その額には緊張のため汗が浮かんでいる。
 しかし、汗を垂らすわけにはいかないので、すぐに袖で拭う。

 火薬を扱う場合においても、注意通りに作業を行えばそれほど大きな危険はないと、アイゼルは言っていた。
 だが、それでも怖い。
 手元にあるのは、先の戦闘で多くの被害を出した、あのエンドオブワールドの火薬なのだから。
 脳裏に、あのときの情景が浮かぶ。
 こればかりはアイゼルに頼んで、後ろで見ていようかと、そう思う。
 しかし、ふと気づく。

(誰だって痛いのは嫌だし、死ぬのは嫌だよね。
 あの時戦っていたジェレミアさんも、私を救ってくれた五エ門さんも、きっと同じだよね…。
 でも、それでも戦わなくちゃいけないから、頑張ったんだよね…。
 だったら―――)

―――これが私の戦いなのだと、つかさは認識した。






 危険を冒してまで、一人病院まで姉に会いに来たつかさ。
 そのつかさが、姉に会わずに錬金術の教えをアイゼルに頼んだ理由、それは二つあった。

 一つは、ジェレミアがこの病院にいたこと。
 つかさは、本意ではないとはいえ彼の主であるルルーシュをその手に掛けている。
 姉に会うのは、せめて彼に謝ってからにしたかった。

 そして、もう一つの理由。
 それは、無力なままではいたくなかった事。強くなりたかったこと。
 自分の身を守るために。誰かに守られているだけでなく、誰かを助けることもできる自分になるために。

 …私は強くなったと、姉に伝えるために。



(お姉ちゃん。私、錬金術を覚えたよ。
 運動は相変わらず苦手だけど、それでも、もう何もできないわけじゃないよ……)



 完成したフラムをその手に握り、ここにはいない姉に語りかけた。







 そして、正午の放送が始まった………




********************************************************************


【一日目正午/G-8 総合病院給湯室】
【アイゼル・ワイマール@ヴィオラートのアトリエ】
[装備]:なし
[所持品]:支給品一式、無限刃@るろうに剣心、うに(現地調達)、不明支給品(0~2)
     リフュールポット(6個)、琥珀湯(3個)、フラム(2個)
     薬材料(買い物袋一つ分程度)、エンドオブワールドの不発弾(小型ミサイル数個分)、メタルゲラスの装甲板、メタルゲラスの角と爪
[状態]:軽傷、疲労(中)
[思考・行動]
0:ジェレミアの治療を行う
1:うに、ジェレミア、つかさと一緒に脱出
2:ジェレミア、つかさに協力を惜しまない
3:奈緒子を弔う
4:より高度な作業が行える機材が設置されている施設を探す
5:次に白髪の男(雪代縁)に会うことがあったら見逃さない
[備考]
※自分たちが連れてこられた技術にヘルミーナから聞かされた竜の砂時計と同種のものが使われていると考えています。
※うにのことをホムンクルスだと思っていますが、もちろん唯のウニです。
※ジェレミアの説明で、電気や電化製品について一定の理解を得ました。
※錬金術とはまた違った技術体系で作られた器具を使うことで、より迅速に作業を行えることに気づきました。
※病院にて情報交換をしました。


柊つかさ@らき☆すた】
[装備]なし
[支給品]支給品一式(水のみ二つ)、眠りの鐘@ゼロの使い魔、確認済み支給品(0~2) 、フラム(1個)、レシピ『錬金術メモ』
[状態]軽症、左足首にねんざ(固定済み) 、疲労(中)
[思考・行動]
0:ジェレミアに謝罪したい
1:霊安室に行ってかがみに会い、私は少しだけ強くなれたと伝えたい
2:錬金術でみんなに協力したい
3:もっと錬金術で色々できるようになりたい
4:みなみに会いたい、こなたは……
[備考]
※アイゼルに教えてもらい、錬金術の基本を習得しました。今回製作したアイテムの他にも、発想と素材次第で何か作れるかもしれません。



 メタルゲラスの装甲板(仮面ライダー龍騎)
 浅倉に殺されたメタルゲラスの外皮であるが、これはもう外皮というより装甲板である。
 頑強さで知られたメタルゲラスのそれは、ミラーモンスターとしてのエネルギーを奪われたあとも、その強度を失っていない。


 メタルゲラスの角と爪(仮面ライダー龍騎)
 浅倉に殺された、メタルゲラスの角と爪。
 頑強さで知られたメタルゲラスのボディの中でも特に強度の高い部分であり、その怪力による力任せの攻撃を繰り出そうとも耐えうるだけの強さを持つ。


 エンドオブワールドの不発弾(仮面ライダー龍騎)
 ゾルダがファイナルベントであるエンドオブワールドが発動した際に、五エ門が切り払った弾薬の残骸。
 ミサイルとしての機能はすでに失われているが、その中に封入された強力な火薬は、いまだ健在である。


 薬材料(現実)
 アイゼルが病院の薬品庫から持ってきた、消毒薬や漢方薬など。
 これらの薬の効果は現実準拠なので、傷の処置には使えるものの、回復効果は低めである。
 アイゼルはこれを『錬金術の薬の材料として使う』と考えているため、便宜上このように表記した。


 リフュールポット(アトリエシリーズ)
 錬金術の道を志す者は、まずこれの作り方を学ぶといわれるほど基本的な青色の水薬であり、傷に良く効く。
 簡単な薬草や薬の材料からも作れるので、初心者から上級者まで重宝がられている。
 効果の程は材料や作り手の腕前により左右されるが、総合的に見て一般的なRPGの『きずぐすり』より多少上である。


 琥珀湯(アトリエシリーズ)
 錬金術により、鉱石と薬から作られる精神安定剤。
 飲むと頭がすっきりして、精神的な疲労が回復する。
 味についての描写はないので、作り手の調味センスによるということなのだろうか?
 余談だが、高みを目指す錬金術士は、ひたすらこれを大量生産することがあるとかないとか…。


 フラム(アトリエシリーズ)
 錬金術によって作られる、基本的な爆弾。
 単純に敵を攻撃する他、岩盤破壊にも用いられる。
 その威力は火薬の材料に何を使うかによって大きく変わり、爆竹程度から大岩を砂に変える程まで様々。
 『力(ちから)』で製作したフラムは、エンドオブワールドの不発弾の火薬を用いた、非常に強力なものである。


レシピ『錬金術メモ』(多ジャンルバトルロワイアルオリジナル)
 『力(ちから)』にて、つかさがアイゼルに錬金術を教わった際に、つかさが取ったメモのこと。
 リフュールポット、琥珀湯、フラムの作り方と、錬金術の基本的な概念が書かれている。


時系列順で読む


投下順で読む



105:夢の終わり(後編) 石川五ェ門 126:鬼さんこちら
北岡秀一
柊つかさ 124:消せない罪
ジェレミア・ゴットバルト
アイゼル・ワイマール



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