鬼さんこちら

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鬼さんこちら  ◆.WX8NmkbZ6



 胸ぐらを強く掴まれ、北岡秀一は背を壁に押し付けられた。

「何故……先に言わなかった!!」
「落ち着け五ェ門……悪かったよ」

 掴み掛かっているのは石川五ェ門で、北岡を相手にこのように激情を露わにするのは初めての事だった。
「先生を責めないでやってくれよ兄ちゃん。
 俺だって、どう切り出していいか分からなかったんだからよ……」
 なだめるようなデルフリンガーの声に、ようやく五ェ門は手を離した。

 放送で、次元大介の名が呼ばれた。
 この場に彼がいない事、北岡とデルフリンガーが病院で起きた顛末について言葉を濁した事から、覚悟していた事ではある。
 だが、長年連れ添った仲間の死を伏せられた事は。
 それを主催者の放送によって初めて知らされた事は。
 五ェ門を逆上させるに充分な出来事だった。
 北岡が次元を見た最期の姿を説明するも、五ェ門の怒りは収まらない。
「何故拙者を起こさなかった!?
 何故あやつ一人を置き去りに……!!」
 五ェ門とて分かっている。
 その時の次元の怪我は、もう助からないと分かる程のものだったのだろう。
 そして事態は切迫していた。
 北岡達とて断腸の思いで瀕死の次元に場を任せたのだ。
 それでもなお納得出来ないのは、仲間と過ごした時間の長さと絆が故。
 責めるべきではないと分かっていても、納得など出来るはずがない。
 総合病院でジェレミア・ゴットバルトと衝突した時、彼はこのような気持ちであったのだろうかと、今更ながらに理解した。

「お前だって戦える状態じゃなかった。
 それはお前が一番良く分かってるんじゃないの」
 北岡の言い分に五ェ門は返す言葉を失い、そのまま一同は押し黙る。
 第一回放送後、銭形の遺体と対面した。
 その時に北岡に指摘された通りだ。
――どっかで、不死身な人間がいると思ってるんじゃないの?
 銭形の死を目の前にしても、それでも五ェ門は次元やルパン三世が死ぬ姿を想像出来なかった。
 どこかで彼らを不死身だと思っていた。
 その考えの甘さを痛感させられる。
 ルパンだろうと、次元だろうと、銭形だろうと――自分だろうと、人は死ぬのだ。
 それに気付く為の代償は、余りに重かった。


「北岡殿……頼みがある」
 壁を背にして座っていた五ェ門は暫し沈黙を守っていたが、ふとそう口にした。
「病院に戻りたい、だろ」
 その言葉がいずれ出るだろうと予想していた北岡は、彼の提案に先回りする。
「そうだ……つかさ殿の事もある」
「分かってる、俺だって心配なんだよ。
 でももう少し休んでからだ」

 放送で呼ばれたのは、次元だけではない。
 北岡が知る名前は篠崎咲世子、次元、東條悟、タバサ、前原圭一、そして山田奈緒子
 咲世子はジェレミアの、東條は北岡の、タバサはデルフリンガーの、圭一は園崎詩音の知り合いだ。
 圭一以外はそれぞれにとって親しい間柄ではなく、大きな衝撃はなかった。
 しかし、奈緒子はあの病院で短い時間ながら一緒にいた参加者。
 残念だと感じるのは勿論、ジェレミアの状況が気に懸かる。
 正確には彼に謝罪しようと考えているであろうつかさの状況が、気懸かりだった。

 つかさは放送前、「姉に会いに行きたい」と言ってこの民家を発った。
 しかし病院には恐らくジェレミアが残っている。
 接触すれば、つかさはルルーシュ・ランペルージ殺害の件で彼との会話を試みるだろう。
 病院でのジェレミアとのやり取りを鑑みれば、つかさが彼に殺されるという事はまずない。
 なかった、と言った方が正しい。
 彼と奈緒子とは随分親しい間柄に見えた。
 その奈緒子を失った今、彼がどんな心理状態にあるのかを察するには北岡が彼と接した時間は短過ぎる。

 つかさが殺される。
 それは飽くまで万一の可能性だが、この環境の中で捨て置ける可能性ではない。

「俺もよぉ、嬢ちゃんに『手伝う』って言っちまったんだよ。
 あの機械の兄ちゃんと話すんだったら、傍にいてやりてぇなぁ。
 帽子の兄ちゃんとだって付き合いは短かったが……礼ぐらい言いてぇよ」
 デルフリンガーの言葉に北岡も五ェ門も頷く。
「何にせよ、五ェ門はまだ休んだ方がいい。
 俺も疲れたし。
 その後でつかさちゃんを追い掛けよう」

 五ェ門はそれ以上言い返そうとはせず、黙って目を閉じた。
 その落ち着いた様子に北岡はホッと息を吐きつつ、気を取り直す。
 病院はあれだけ派手な爆発が起きたのだから、今後も危険人物が集まるかも知れない。
 浅倉が幾ら猪突猛進でも、途中で北岡の思惑に気付いて引き返して来るかも知れない。
 ゾルダのデッキは金髪の男と共に見失ったまま。
 そういった意味では大変なのはむしろこれからだ。

 それにデッキを取り返したにしても、そこがスタート地点。
 今度こそ浅倉との決着をつけなければならない。
 浅倉が北岡との決着に執着しているように、北岡とてこのままズルズルと現状を続けるつもりはない。
 浅倉を野放しにした事への責任を果たす為に、北岡もまた決着を望んでいるのだ。

 しかしどうあれ、五ェ門との関係が良好なものであるに越した事はない。
 それは、その方が事が運びやすいから。
 生存して日常に帰る目が高くなるから。
 そう思う。
 それならつかさを本気で心配しているのは何故か。
 少女を連れていた方が、接触した参加者から信用されやすくなる?
 五ェ門とデルフリンガーがうるさいから?
 ただの同情?

「……ちょっと甘過ぎるんじゃないの?」

 北岡は五ェ門にもデルフリンガーにも聞こえないように、小さな声で独り言を呟く。
 現在の自分の姿に戸惑いはあるものの、悪い気はしない。
 その事が余計に疑問になって胸にわだかまりを作る。
――北岡さん、それは甘いんじゃなくて、優しいって言うんですよ
 つかさの言葉と、それを言った時の彼女の表情を思い出す。
 やはり悪い気はしない。
 すっかり毒気を抜かれてしまったようだと、北岡も自覚しない訳にはいかなかった。


 「そろそろ行けるか?」という北岡の問いに、五ェ門は力強く頷いて立ち上がる。
 ゾルダから受けた傷は深く、素人のつかさと北岡による手当を受けただけなのだから相変わらず重傷のままだ。
 しかしただ休んでいるには時間が惜しい。
 五ェ門は腰にデルフリンガーを携え、北岡に続いて民家を後にした。
 北の方角にある病院はそう遠くない、すぐに到着するだろう。

 銃声が聞こえたのは、そう考えた矢先の事だった。

 五ェ門がデルフリンガーを抜き、北岡を狙った弾丸を残さず斬り落とす。
 曲芸にも似た達人の技に、しかし銃の持ち主はまるで動揺していなかった。

「はろろ~ん」

 気の抜けるような声で、何事もなかったかのような声で、銃を構えたまま詩音は挨拶して来る。
 浮かべる表情はゾッとする程に眩しい笑顔だった。

「詩音殿、これは……」
「元気そうで安心しましたよ。
 北岡は是非とも私の手でぶっ殺してやろうと思ってましたから」

 ゾルダのデッキを奪われ、北条悟史の呼び掛けを無視した北岡。
 それに対し詩音が憎悪を向けていた事は五ェ門も知っている。
 しかしその後戦線を離れていた五ェ門は、その感情が次元に銃を向ける程のものに成長していた事を知らなかった。
「今はこんな事をしている場合では――」
「黙れ」
 五ェ門が詩音を鎮めようとするが、詩音からの返事は低く重い。
 コロコロと調子を変える様は二重人格にも似て、病院で話をした少女と本当に同一人物なのか分からなくなる。
「そっちにやる気がなくても、こっちはやる気満々なんですよ。
 これを見たらやる気になります?」
 彼女がもったいぶるように大仰に取り出したのは、金の意匠を施された緑色の板――紛れもないゾルダのデッキ。
「な、何で!?」
 驚きの余り素っ頓狂な声を上げた北岡に、詩音は冷ややかな視線を向ける。
「さぁ、何ででしょう?
 欲しいですか、これ?」
「返せ!」
 見下すようにおどけながら、詩音が挑発する。
 それは状況を楽しんでいるようではあったが、心の内から滲む憎悪は隠せていなかった。

「全部、これをあんたがちゃんと管理してなかったせいなんですよね?
 壊しちゃおっかなー」
「……っ!!」
 詩音がデッキを地面に叩き付ける素振りを見せる。
 北岡がとっさに動こうとした瞬間、彼女は背を向けて逃げ出した。
「あはは、こっちですよー」
「お、おい待て!!」
 詩音が向かっているのは北東、病院からは遠ざかっていく。
 北岡は躊躇っていたもののデッキに代えられるものはないと判断したのだろう。
 走り出す――そしてすぐに速度を緩めた。

「五ェ門……」
「……すまん、北岡殿」
 五ェ門は、走れない事はない。
 しかし全力疾走も長距離走も難しい。
 常時なら詩音に追い付いて捕らえる事も容易いが、今は追い掛けるのがやっとだ。
 五ェ門の負傷を知る詩音は、この事を見越して挑発していたらしい。

「しかし北岡殿、ここで詩音殿を逃がすわけには行くまい」
「そうだな……」
 ここで詩音を逃がせば、ゾルダのデッキによって更なる犠牲者が出ないとも限らない。
 ここで取り返せなければ、いつ取り返せるか分からない。

 次元との別れは惜しく、つかさの事も心配だ。
 だが今は別れを惜しむ時ではない。
 心配する時でもない。
 次元をほんの少しだけ待たせて、つかさを信じる時だ。

「五ェ門」

 詩音を見失わない程度の速度を維持しながら、五ェ門の前を走る北岡が改まった声で言う。

「取り返すぞ……絶対」

 会ったばかりの頃、北岡は五ェ門に絡め手の交渉を持ち掛けて強引な協力関係を結んだ。
 総合病院では「俺がデッキを取り返す」と言った。
 だが今北岡が口にした言葉には「二人で」――デルフリンガーも加えれば「三人で」取り返そうと、そんな響きが含まれていた。
 命令でも頼みでもなく、協力し合う事を前提とした言葉。
 『仲間』だからこそ出た言葉に、五ェ門は自然とルパンや次元達の事を思い出した。
 だから、信じられる。
 前を走る北岡の表情が見えなくとも分かる。
 背中を預けられる。

「言われるまでもない」

 五ェ門は自然と笑っていた。
 詩音を追い、北岡と共に走る。


【一日目日中/G-9 市街地】
【北岡秀一@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]レイの靴@ガン×ソード
[所持品]シュートベント(ギガランチャー)のカード、レミントン・デリンジャー(0/2)@バトルロワイアル
[状態]疲労(小)、軽症
[思考・行動]
0:病院にいるつかさを信じる。
1:詩音を追い、デッキを奪い返す。
2:1を達成し、浅倉と決着をつける。
3:戦闘は五ェ門、交渉は自分が担当する。
※龍騎勢が、それぞれのカードデッキを持っていると確信。
※一部の支給品に制限が掛けられていることに気付きました。
※病院にて情報交換をしました。


【石川五ェ門@ルパン三世】
[装備]デルフリンガー@ゼロの使い魔
[支給品]支給品一式(水を消費)、確認済み支給品(0~2)(剣・刀では無い)
[状態]左手のひらに大きな傷、右肩に刀傷、軽い裂傷が数か所、腹部に裂傷(それぞれ処置済み)
[思考・行動]
0:病院にいるつかさを信じる。
1:北岡、つかさを護衛する。
2:北岡のカードデッキを奪い返す手伝いをする。
3:ルパンと合流し、脱出の手だてを探す。
※龍騎シリーズライダーについてはほぼ正確に把握しました。
※デルフリンガーが魔法吸収と錆を自由に落とせる能力を思い出しました。


 圭ちゃんが死んだ?

 悟史君の仇を討った私は放送までの間、疲れた体を民家で休めていた。
 気分がすっきりした事もあって気が抜けていて、放送の事をちょっと忘れていた。
 だからちょっとだけ圭ちゃんの名前に驚いたけど、私がこれからやる事に影響はない。
 むしろ「殺す手間が省けた」と、それぐらいにしか思わなかった。
 くけけけけけけけけ。
 お姉は圭ちゃんが好きだからこれを聞いたら怒るかも知れないけど、これはお姉の為でもあるんだから。

 悟史君や沙都子やお姉を差し置いて、生き残ってる連中。
 許せない許せない許せない。
 何でみんな悟史君達を助けてくれなかったの? 守ってくれなかったの?
 誰も近くにいなかったの? みんながみんな見捨てたの?
 許せない許せない許せない。

 悟史君といい、沙都子といい、お姉といい、圭ちゃんといい、私の知り合いばっかり死んでいく。
 これは何かの陰謀に違いない。
 私達に敵意を持った何かが意図的に殺しているんだ。
 許せない許せない許せない。
 くけけけけけけけけけけけけけけ。
 クーガーさんは主催者が嘘の放送で私を煽ろうとしている可能性があると言っていたけど、今更そんな話は信じられない。
 放送は嘘なんかじゃない、悟史君も沙都子もお姉も死んじゃったんだ。
 あれはクーガーさんも勘違いしていたんじゃない、私を騙そうとしていたんだ、馬鹿にしていたんだ嘲笑っていたんだ。
 違いない、違いない。
 許せない許せない許せない。

 私達の幸せを邪魔した奴は、一人残らず死ねばいい。

 ちょっとの挑発で、案の定馬鹿な北岡達は付いてきた。
 馬鹿め、馬ー鹿馬ー鹿。
 くけけけけけげげげげげげげげげげげげ。
 真正面からじゃ五ェ門を殺すのは難しい。
 病院での一連の戦闘を間近で見て、それは素人の私だって良く分かってる。
 さっきも事も無げに銃弾を弾いていた。
 化け物じみてる。
 だから怪我を利用するしか、悔しいけど私に勝ち目はない。

 鬼さんこちら、手の鳴る方へ――まあ、鬼は私の方なんですけどね。

 ぐげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげ。
 逃げ回って、隠れて、時間を稼いで、少しずつ体力を奪う。
 デッキがある以上、北岡達には私を追い掛け回す以外の選択肢はないのだから。
 そして最後にデッキを使って二人とも仕留める。
 実際に使った事はないけど、馬鹿な北岡が御丁寧に説明してくれたし、ゾルダと王蛇が使ってるところも見た。
 ぶっつけ本番だって大丈夫。
 シンプルイズベスト、完璧な作戦。

 待っててね、お姉、沙都子、悟史君。
 仇は私が必ず討ってあげるんだから。
 こんな時、何て言うんだっけ?
 ぐげげげげげげげげげぎぎぎぎぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ。
 えーと。
 そうそう。


 ふぁいと、おー、なのですよ。
 にぱー☆


【一日目日中/G-9 市街地】
【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に(ゲーム)】
[装備]鉈@バトルロワイアル、白衣@現実(現地調達)
[支給品]支給品一式×3(食料と水を一つずつ消費)、AK-47(カラシニコフ銃)@現実、AK-47のマガジン×9@現実、ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎
    クマのぬいぐるみ@ひぐらしのなく頃に 、確認済み支給品0~2(銃器類は入っていません) 消毒薬@現実(現地調達)×1
[状態]手に軽い裂傷、疲労(小)、血塗れ、雛見沢症候群L4
[思考・行動]
1:北岡とクーガーを含む全参加者を殺す。
[備考]
※雛見沢症候群が悪化しています。
※ゾルダのデッキからはシュートベント(ギガランチャー)が抜かれています。
※病院にて情報交換をしました。


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107:力(ちから) 北岡秀一 138:It was end of world(前編)
石川五ェ門
105:夢の終わり(後編) 園崎詩音



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