夢の終わり(後編)

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夢の終わり(後編)  ◆ew5bR2RQj.



「ねぇ、ふざけてないでそろそろ行かないと……」

いつまでも笑い続けるデルフリンガーを窘め、アイゼルは先へ進むことを促す。
爆煙は晴れず、未だに周囲の状況を伺うことはできない。
ジェレミアや詩音の安否が気になるし、ゾルダや王蛇から逃げる必要もある。
故に一刻も時間は無駄にできない。

「おう、悪ぃ悪ぃ」
「ご、ごめんなさい……」
「……デルフリンガー、あなた本当は悪いと思ってないでしょ」

軽い態度で謝罪するデルフリンガーに、アイゼルは溜息を吐く。
その時だった。


――――FINAL VENT――――


無機質な認証音と共に。
男の悲鳴と、猛獣の咆哮が聞こえてきたのは。

「っ!?」

弛緩していた空気が、一気に張り詰めていく。
北岡は何度も耳にした音声。
つかさやアイゼルは初めて聞くものの、悲鳴や咆哮から緊急事態だと察することができた。
そしてほぼ同じタイミングで、爆煙が霧散する。
そこで彼らが目撃した光景は――――

「ハハハハハハハハハハハハハッ!!」

メタルゲラスとのコンビネーションで、ゾルダを撃破した王蛇の姿だった。

「浅倉……ッ!」
「北岡ぁ……」

奥歯を噛み締めながら浅倉を睨みつける北岡。
気怠そうに振り返りながら北岡を眺める浅倉。
かつて何度も殺し合った二人が、今ここで再び対峙する。

「そんな……」

爆煙が晴れたことで、病院の惨状が顕になる。
そこは地獄と呼ぶに相応しい状態であった。
蔓延する火薬の臭い、焼け焦げた地面、崩れ落ちた柱、散乱する瓦礫の山。
その渦中で力尽きた三人の男達。
瓦礫の中に埋もれるジェレミアと、焼け焦げた大地に倒れる次元。
離れた位置にある外堀では、金髪の男が蹲っている。
次元と一緒にいたはずの、詩音の姿はない。

(ヤバいな……)

北岡は周囲を見渡し、冷静に戦況を把握する。
この場で王蛇と互角に渡り合うことができたのは、五ェ門、次元、ジェレミア、金髪の男の四人。
今はその全員が戦闘不能であり、残っているのは非戦闘員の北岡、つかさ、アイゼルのみ。
装備の充実している詩音と合流できればまだ抵抗の芽はあったが、それすらも叶わない。
エンド・オブ・ワールド発動前と比べて、戦況は明らかに悪化している。

「やっと……メインディッシュだ」

獲物を品定めする蛇のように、ゆっくりと歩き出す浅倉。
抵抗する力のない北岡達は、ただ後退することしかできない。

「……ですか」

その中で、つかさだけが一歩前へと出た。

「つかさちゃん! 下がって!」

北岡は下がるように叫ぶが、彼女はそれを聞き入れない。
緩慢な動きで近づいてくる王蛇の前に、つかさは果敢にも立ち塞がる。

「……どういうつもりだ?」
「どうして……こんなことするんですか」

瞳を揺らしながら、浅倉に問いかけるつかさ。

「なんで……どうしてこんな酷いことするんですか!?
 五ェ門さんも……ルルーシュくんも……ジェレミアさんも……次元さんも……詩音ちゃんも……みんな、いい人だったのに」
「あぁ? 俺が戦いたかった、それだけで十分だろ」
「そんなくだらない理由で、みんなに酷いことしたんですか!?」

悲痛な叫び。
今までの彼女からは想像もつかないほど、大きく力強い叫び声。
だが彼女の脚は震えていた。
背中から垣間見える彼女の顔は、今にも泣きそうだった。

「お前、ウザいな」

浅倉の声色が、一気に低くなる。
その言葉に乗せられているのは明確な殺意。
付き合いの長い北岡でさえ、彼の発する殺気には背筋を凍らせる。
それでも彼女は引かなかった。
浅倉の恐ろしさは、彼女も身を持って経験しているはずなのに。

「……アイゼル」
「な、なによ」
「俺があいつを引きつける、だから今から俺が言うことに素直に従ってほしい」
「いきなりそんなこと言われても――――」
「時間がない、頼んだよ!」

傍にいたアイゼルに耳打ちをして、北岡はつかさの前に飛び出した。

「待てよ、浅倉!」

つかさを庇うように、浅倉の前に立ちはだかる北岡。

「なんだ? お前が代わりに戦うのか?」

北岡が前線に出てきたのが嬉しかったのか、浅倉の声は弾んでいる。

「北岡さん……」
「つかさちゃんは下がってて」
「……ごめんなさい」

不安気に見上げてくるつかさに、北岡は再び下がるように指示をする。
彼女は逡巡しつつも、申し訳なさそうに後ろに下がっていった。

「ホント、無茶するよ……」

皮肉げに溜息を吐きながら、地面に転がるデルフリンガーを拾い上げる北岡。
ずしっとした金属特有の重みが、彼の両肩にのしかかる。

「ふぅ……みんな俺のこと置いて逃げちまうもんだから、このまま忘れられちまうかと思ったぜ」

絶体絶命の窮地であるにも関わらず、デルフリンガーは軽口を叩き続ける。

「おぉ、その剣で俺と戦うのか、いいぜ、来いよ」
「冗談言うなよ、俺がこういうの苦手なの知ってるだろ?」

大剣を振り回すだけの筋力や技術は自分にはない。
魔法無効能力も不確定要素が強すぎて、この場を任せるには荷が重すぎる。

「ならどう戦うつもりだ?」
「おいおい、誰が戦うって言ったのよ?」

浅倉の機嫌が急降下していく。

「ライダーと生身で戦うなんて冗談じゃないよ、逃げるに決まってるでしょ?」
「逃げ切れるつもりか」
「当たり前だろ? 弁護士はな、出来ないことは口にしないんだよ」
「なにをふざけたことを!!」

罵声を飛ばすと共に、転がっていた瓦礫に蹴りを入れる浅倉。
八つ当たりに近い暴力を受けた瓦礫は、粉々に四散した。

「ふざけてなんかないさ、確実じゃないけど一つだけ方法がある」
「方法……だと?」
「ああ、俺たちは三人いる、そしてお前は一人、これの意味が分かるか?」

背後にいる二人の女性を視界の隅に捉えつつ、北岡は話を続ける。

「まさか、北岡さんの作戦って……三人で別々の方向に逃げること!?」
「その通りさ」

北岡の真意を真っ先に見抜いたのはアイゼルだった。

「そ、それじゃあ誰か一人は捕まっちゃうじゃない!?」
「大丈夫だ、どうせあいつは俺を追いかけてくる」

浅倉は北岡を自らの手で倒すことに執着している。
故に浅倉は北岡を追いかけてくるだろうと、彼は確信していた。

「自分を捨てて女を逃がすか、くだらないな」
「いや、俺は自分の命も捨てない、お前から逃げ切る秘策があるからな」
「訳の分からないことをごちゃごちゃ言いやがって……」
「おい、兄ちゃん」

浅倉の言葉を遮るように、デルフリンガーが言葉を被せてくる。

「五ェ門の兄ちゃんはどうするつもりだ? まさか置いてくつもりじゃあねーだろうな?」
「……五ェ門は、置いていく」
「おい、それ本気で言ってんのか!?」
「しょうがないだろ、五ェ門を背負ってあいつから逃げるなんて無理だ
 確かに五ェ門には感謝してる、でもやっぱり一番大事なのは自分の命だ」
「お前! それでも――――」
「悪い、お前も逃げるには邪魔だから、ちょっとこの中に入っててもらうよ」
「ちょっ、待て――――」

抗議の言葉を捲し立てるデルフリンガーを、北岡はデイパックの中に淡々と仕舞い込む。

「北岡さん……」
「大丈夫だよ、つかさちゃん」

不安気な視線を向けるつかさに対し、北岡は柔和な笑みを返す。
すると彼女の顔から不安は消え、覚悟が垣間見える凛とした表情へと変化した。

「……分かりました、私、信じます!」
「つかささん、本気なの!?」

心底驚いた様子のアイゼル。
心優しいつかさが五ェ門を見捨てる作戦に同意したのが信じられなかったのだ。

「はい、北岡さんのことだからきっと何か考えがあるんだと思います
 だからアイゼルさんも北岡さんを信じてください」
「……あぁ、もう! 分かったわよ!」

なし崩し的だが、アイゼルも北岡の作戦に乗ることを決意する。
浅倉を打ち破る策があって、それには自分達の協力が必須なのかもしれない。
自分に出来ることはやると決めた以上、彼女が協力するのは当然の話であった。

「作戦会議は終わったのか、北岡?」
「なんだ、待っててくれたのか、意外と優しいじゃない」
「ハハッ!! 本当にイライラさせるぜ、お前は」
「ああそう、じゃあそろそろ始めますか」

そう言うと同時に、北岡は拳を突き出す。
否、拳の中に隠し持っていたデリンジャーの銃口を、浅倉に突きつける。

「今だ! みんな逃げろ!」

叫ぶと同時に発砲。
銃弾の行く末を見守ろうともせず、北岡は身体を翻して駆け出す。
彼の視線の先には逆方向に走りだしたつかさとアイゼル、うつ伏せに倒れたままの五ェ門が映っていた。

「あぁ~……」

ベノバイザーで銃弾を弾いた浅倉は、首を一回転させながらそれぞれ別方向に逃げた三人を目で追う。
仮面の下に、酷薄な笑みを浮かべながら。
彼が北岡の作戦会議が終わるまで手を出さなかったのは、彼の作戦が最初から成り立っていなかったからである。
北岡の作戦は、追跡側が一人だけの時にのみ成り立つもの。
彼にはミラーモンスターという、人間を狩るのに優れた手駒がいる。
北岡は自分の手で殺すが、それ以外ミラーモンスターの餌になろうがどうでもよかった。

「クハハハ」

ベノバイザーの蓋を開け、バックルのデッキからメタルゲラスのカードを取り出す。
そしてカードを装填しようとして、彼は気付いた。

「ッ!」

走っていた北岡が再び身体を反転させ、デリンジャーの標準をメタルゲラスのカードに定めていたことに。

「喰らえ!」

そして、銃声が響いた。

時間が停止したような錯覚
一瞬にも満たない時間が数分、数十分、数時間にも感じられる。
しかし実際に経過した時間は、ほんの数秒に過ぎない。

北岡の真の狙いは、浅倉にミラーモンスター召喚のカードを使わせることだった。
五ェ門のような実力者の援護があるならともかく、素人が仮面ライダーから逃げ切るのは不可能である。
だが実力者が全員瀕死である以上、援護は期待できない。
ならばどうすればいいかと考えた時、思いついたのはミラーモンスターを利用することだった。
契約のカードが破壊された場合、契約は破棄になりミラーモンスターは元契約者に襲いかかる。
ミラーモンスターならば、ライダーを相手にも互角に渡り合うことができる。
確実性はないが、これに縋るしかなかった。
まず浅倉に同時に三人で別々の方向に逃げることで、三人のうち二人は助かることを強調する。
残忍な浅倉の性質上、別方向に逃げた二人にミラーモンスターをけしかけることは確実だと踏んでいた。
そこで自分が一瞬の隙を突き、契約のカードを撃ち抜く。
五ェ門を見捨てると言ったのは、銃を撃つ際に重りになってしまうためだ。
裏切ったミラーモンスターが浅倉を襲撃している間に、自分達はこの場から離脱する。
これが北岡の作戦の全貌だった。

「北岡ぁッ!」
「……浅倉」

交錯する視線。
この場の全ての人間の視線が、浅倉の手に持つカードに集約されている。
浅倉の手に握られている契約のカード。
それに銃痕は――――無かった。

「ハハハハハ! 残念だったな、北岡ぁッ!」

北岡の放った弾丸は、カードに命中しなかった。
命中しなかった理由は、いくらでも羅列することができる。
まず彼が使用したデリンジャーが、携帯性を重視するあまりに威力や緻密性を犠牲にしていること。
動く対象に弾丸を当てるのは、銃の扱いに馴れた者でも難しいこと。
彼自身の銃の腕前が、素人に毛が生えた程度であること。
彼の作戦は奇襲を仕掛けることが肝であり、種が割れてしまえば確実に避けられる。
そもそもデリンジャーは、二発までしか弾薬を装填することができない。
つまり彼の作戦は失敗したのだ。

「北岡さん……」

いつの間にか足を止めていた二人の女性。
彼女たちの眼差しに籠められているのは、失敗した北岡への怒りや同情ではない。
最後の希望を絶たれ、生きることを諦めた者の目であった。

「そろそろ消えろ」

ただ一言、冷酷に告げる浅倉。
そうして今度こそ、カードを装填しようとした瞬間。
二度目の銃声が、彼らの鼓膜を貫いた。

「今度はなんだ!?」

二度目に妨害に苛立ちを顕にする浅倉。
そして北岡を支配したのは、困惑と疑念であった。
自分の銃は弾切れで、アイゼルやつかさは銃を持っていない。
そしてこの場には五ェ門を除いて、もう生きている人間は存在しない。
にも関わらず、轟いた銃声。
そして――――

「どういう……ことだぁ!?」

浅倉の握り締めるカードの中央、メタルゲラスを撃ち抜くように弾痕が刻まれていた。

「ったく、女守るなら、最後までかっこよく決めようや……」

浅倉の背後。
大小様々な瓦礫に囲まれながら、銃を構えた次元が直立していた。

「俺はもう助からねぇ……だからとっとと逃げろ!」

潰れかけた喉から搾り取るように、叫び声を上げる次元。
今は身体を動かすことができているが、彼はエンド・オブ・ワールドの直撃を受けている。
血と火傷の赤が身体を彩り、とっくに死亡していても不思議ではない状態。
もう長くないと、遠目からでも察することができる。
今、起き上がっていること自体が奇跡なのだ。

「そんな……次元さんを置いてなんて――――」
「いや、ここは逃げよう」

次元を置き去りにすることを拒否するつかさを諭す北岡。
両の拳を爪が喰い込むほど握り締め、掌を自らの血で染めながら。

「ほら、早く!」

素早く五ェ門を背負い上げ、北岡は走りだす。
追随するようにアイゼルとつかさも、彼の背中を追い始める。

「ここで逃がすわけが……ぐおぉ!」

北岡を追跡しようとするが、何処かから現れたメタルゲラスの突進により遮られる。
契約が破棄されたことにより、メタルゲラスが反旗を翻したのだ。

「待て! また逃げるのか北岡ぁぁぁあああああああ!!」


   ☆ ☆ ☆


急速に色を失っていく世界の中、次元が見続けのは五ェ門を背負って逃げていく北岡の姿だった。
脚はとっくに限界を迎え、今はもうその役目を果たさない。
両腕も力を失い、銃は彼の手から零れ落ちていた。

もう自分は生きられないと、次元は悟る。
今までの絶体絶命の危機とは違う、抗いようのない絶望。
最後の仕事を終えた自分は、ただそれを受け入れるだけ。
そんな彼を、最初に支配したのは後悔。
だがそれ以上に大きな安心感が、傷だらけの彼の心を包み込んでいた。
生涯で最後に放った弾丸が、長年連れ添った仲間を救う。
エンド・オブ・ワールドの発動を阻止できなかったのは、彼の責任であり失態だ。
自分で仲間を窮地に追いやっておいて、虫がいい話かもしれない。
それでもこの事実は、死にゆく彼に黄金のような誇りを与えていた。

瓦礫に背を預け、今一度視線を前に向ける。
そこに既に北岡達の姿はなく、彼らが完全に逃げ切ったことを意味していた。
それを確認した途端、身体の奥底から心地良い倦怠感が噴出し始める。

「もう少し……生きてたかったなぁ」

最期にそう言い残し、彼はゆっくりと目を閉じた。


【次元大介@ルパン三世 死亡】


   ☆ ☆ ☆


病院から脱出した北岡達は、必死の思いで市街地を駆け抜けていた。
背後を振り向いても王蛇の姿はなく、それは死地から生還したことを意味する。
だが彼らは誰一人として、歓喜などしていなかった。

「次元さん……」

顔を伏せたつかさは、目の辺りに何度も服の裾を這わせている。
一瞬だけ見えた彼女の両目は、真っ赤に腫れていた。
命の恩人である次元を見捨てたという事実は、彼女の良心を苛んでいるのだろう。

「つかさちゃん――」
「大丈夫です」

心配しないでください、と言外に告げるつかさ。
その声は嗚咽混じりだったが、彼女は止まることなく走り続けていた。

「……ここまでくれば、大丈夫だろ」

しばらく走り続け、総合病院が小さくなったところで北岡は足を止める。
元々体力が少ない上に五ェ門を背負ったままの長距離走行、疲労するのも当然の話だ。

「これから……どうするんですか?」

肩で息をしながら、つかさは他の二人に問い掛ける。
窮地からは脱したものの、失った物はあまりにも大きかった。


「私は……もう一度あそこに戻ろうと思う」

真っ先にそう告げたのはアイゼルだった。

「ジェレミアさんの安否が気になるし……
 それにあんなだけど、奈緒子も大切な仲間だから」

ジェレミアの生死は不明で、奈緒子の所在も分からない。
一見絶望的な状況だが、行動を起こさなければ変化は訪れない。
そして彼らのために動けるのは、アイゼルただ一人なのだ。

「俺はあの金髪の男を追って、デッキを取り返そうと思う
 あれだけダメージを受けたんだ、そう遠くには行ってないはずだ」

次に告げたのは北岡である。
金髪の男は、いつの間にかあの場から居なくなっていた。
浅倉がすぐに北岡のもとに行っため、逃走する隙が生まれたのだろう。

「じゃあここでお別れね」
「そんな……」
「大丈夫よ、きっとまた会えるわ」

つかさが悲しげに瞳を潤ませるが、彼女にばかり構ってはいられない。
一緒にいた時間は少ないが、ジェレミアと奈緒子はかけがえの無い仲間なのだ。

「北岡さん、お元気で」
「アイゼルさんもね」

そう言って、アイゼルは来た道を戻り始める。
彼女の上質な貴族の服は、今や煤と泥に塗れて布切れと大差はない。
しかしそんなことが関係なくなるくらい、彼女の背中は気高いものに見えた。


【一日目昼/H-8 住宅街】
アイゼル・ワイマール@ヴィオラートのアトリエ】
[装備]:なし
[所持品]:支給品一式、無限刃@るろうに剣心、うに(現地調達)、不明支給品(0~2)
[状態]:軽傷、疲労(中)
[思考・行動]
0:ジェレミアと奈緒子を探す。
1:うに、ジェレミア、奈緒子と一緒に脱出!
2:ジェレミアと奈緒子に協力を惜しまない。
3:次に白髪の男(雪代縁)に会うことがあったら見逃さない。
4:奈緒子にうには渡さない。
[備考]
※自分たちが連れてこられた技術にヘルミーナから聞かされた竜の砂時計と同種のものが使われていると考えています。
※うにのことをホムンクルスだと思っていますが、もちろん唯のウニです。
※ジェレミアの説明で、電気や電化製品について一定の理解を得ました。
※病院にて情報交換をしました。


   ☆ ☆ ☆


「さて、と」

アイゼルを見送った二人は、近場にあった一軒家の中にいた。
カードデッキを取り返すことも大事だが、もっと大事な用事を先に済ます必要があったのだ。

「救急箱あったよ」
「あ、ありがとうございます」

それは負傷した五ェ門の治療。
止血後に激しい運動をしたため、彼の傷は再び開いてしまった。
五ェ門は気絶中であり、手馴れているつかさが応急処置に当たっている。
北岡は不足した包帯を探しに、家探しをしていたのだ。

「ったくよぉ……そういうことなら一言言ってくれりゃよかったのによぉ……」
「だからあそこで言ったら、浅倉にも聞こえちゃうじゃない」

そんな中、デイパックから開放されたデルフリンガーは項垂れていた。
北岡が本気で五ェ門を見捨てたと思っていたため、感情のぶつけどころに困っているのだ。

「にしてもつかさちゃん、五ェ門を見捨てるなんて言った俺のことをよく信じてくれたね」

数々の問題があった作戦だが、その中でも特に難関だと思っていたのがつかさの説得だ。
心優しい彼女が、嘘とはいえ五ェ門を見捨てる作戦を許容するとは思えなかった。
彼女が納得しなくても問題はなかったが、それでも納得させるに越したことはなかった。

「だって北岡さん、嘘吐いてたから」
「え?」
「五ェ門さんを見捨てるなんて、絶対言うはずないです、そのくらい分かりますよ」

くすりと可愛らしく微笑むつかさ。
最初から全部分かってましたよ、と言外に告げているような笑み。
自分の全てが見透かされているようで、北岡はどこか恥ずかしくなった。

「はぁ……いつから俺もこんなに甘くなったのかなぁ」
「北岡さん、それは甘いんじゃなくて、優しいって言うんですよ」

屈託の無い笑顔に澄んだ瞳を掲げ、彼女は北岡を見つめる。
それは汚い大人達を相手に仕事をしてきた北岡には、あまりにも眩しすぎるもの。

(俺が優しい、ねぇ)

でも、不思議と悪い気はしなかった。


【一日目昼/H-8 東の民家】
北岡秀一@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]レイの靴@ガン×ソード 、デルフリンガー@ゼロの使い魔
[所持品]シュートベント(ギガランチャー)のカード、レミントン・デリンジャー(0/2)@バトルロワイアル
[状態]疲労(中)、軽症、
[思考・行動]
0:五ェ門の応急処置。
1:0が完了次第、金髪の男(レイ)からデッキを奪い返しに行く。
2:1を達成し、浅倉と決着をつける。
3:戦闘は五ェ門、交渉は自分が担当する。
※龍騎勢が、それぞれのカードデッキを持っていると確信。
※一部の支給品に制限が掛けられていることに気付きました。
※病院にて情報交換をしました。

石川五ェ門ルパン三世
[装備]
[支給品]支給品一式(水を消費)、確認済み支給品(0~2)(剣・刀では無い)
[状態]気絶中、左手のひらに大きな傷、右肩に刀傷、軽い裂傷が数か所(それぞれ処置済み)、腹部に裂傷(処置中)
[思考・行動]
1:北岡、つかさを護衛する。
2:浅倉と決着をつける気があるなら、北岡のカードデッキを奪い返す手伝いをしてもいい。
3:早急に斬鉄剣、もしくは代わりの刀か剣を探す。
4:ルパンと合流し、脱出の手だてを探す。
※錆びた剣であるデルフリンガーを折らないよう、加減して戦っています。
※龍騎シリーズライダーについてはほぼ正確に把握しました。
※デルフリンガーが魔法吸収と錆を自由に落とせる能力を思い出しました。

柊つかさ@らき☆すた】
[装備]なし
[支給品]支給品一式(水のみ二つ)、眠りの鐘@ゼロの使い魔、確認済み支給品(0~2)
[状態]軽症、左足首にねんざ(固定済み) 、疲労(中)
[思考・行動]
0:五ェ門の手当てをする。
1:北岡と五ェ門に協力する。
2:精神的に強くなる。
3:みなみに会いたい、こなたは……
4:ジェレミアに謝罪の言葉を伝えたい。
5:霊安室に行ってかがみに会いたい。


   ☆ ☆ ☆


「うっ……うぅ……」

何かが燃焼する際に発する悪臭と、湧き上がる黒煙による悪臭。
それらが奈緒子の鼻腔を刺激し、彼女の意識を呼び起こす。
そうして完全に意識が覚醒した時、飛び込んできた光景は地獄だった。
燃え盛る炎、蔓延する黒煙、散乱する瓦礫。
少し前まで青空と太陽が広がっていたのに、今は煙と炎でそれすらも見えない。

「逃げ……なきゃ……」

全身を激痛が苛むが、今すぐにここから立ち去らなければ死ぬ。
朦朧とする意識の中で、警笛が鳴り続けている。
脚を動かそうとして、彼女は自分がうつ伏せで倒れていることに気付いた。
身体を起こそう両腕を地面につけるが、身体は立ち上がらない。
理由を調べるため、首を後ろに向けた時。

「う、うそ!?」

大きな瓦礫に、自分の下半身が押し潰されていることに気が付いた。

「そ、そんな……う……あぁぁぁぁぁぁっ!」

瓦礫の下から這い出ようと身体を動かすが、激痛がそれを阻害する。
それでもなお努力を続けるが、身体は全く動かなかった。

「た、助けて! 誰か!」

自力での脱出は無理と判断した彼女は周囲の人間に助けを求めるが、この近辺には誰もいない。
しかし彼女がそんなことを知る由もなく、必死に大声を出し続ける。
無人の空間に向けて、ひたすら助けを求め続ける奈緒子。
その声が誰かに届くわけもなく、彼女の声は粉塵の中に消えていく。
やがて彼女の喉は黒煙により潰れ、同時に近辺に誰もいないことを悟った。

「ジェレミアさん……アイゼル……上田さん……」

走馬灯のように、次々と仲間の顔が思い浮かぶ。
彼らを裏切ったから、こんなことになってしまったのだろうか。
これは、仮定の話である。
もし何も出来ないことを承知で正面玄関前に来ていた場合、五ェ門に助けられて生き延びていた。
もし応援など考えずすぐに逃げていた場合、爆発が起きた時点ではもう病院の敷地外にいた。
もしあのまま四階に残っていた場合、爆発により多少の振動はあれど致命傷を負うことはなかった。
中途半端に臆病で中途半端に善人であったからこそ、招いてしまった結末。
それが彼女の末路だった。

「あ」

ズシン、と何かが崩れる音。
頭上を見上げると、そこには落下してくる大きな瓦礫。
彼女の華奢な身体を押し潰すには、十分過ぎる質量と重量。
動けない彼女に、それを避ける術はない。

「ごめん……なさ――――」

彼女が残した最期の言葉は。
瓦礫の落下する轟音と砂塵に掻き消され、誰にも届くことはなかった。


【山田奈緒子@TRICK 死亡】


   ☆ ☆ ☆


――――FINAL VENT――――


ベノスネーカー背後に従え、勢いよく飛び上がる王蛇。
空中で一回転して体勢を整え、同時にベノスネーカーが吐き出すエネルギーを全身に受ける。
それを加速装置にし、地上にいるメタルゲラスに飛びかかった。
一発、二発、三発、四発、五発。
即死級の威力を持つ蹴りが、何度も何度もメタルゲラスの身体に浴びせられる。
やがて鋼鉄の肉体に亀裂が入り、雄叫びと共にメタルゲラスは爆散した。

「あぁ……」

メタルゲラスの亡骸から現れたエネルギーを吸収するベノスネーカー。
浅倉は逃げた北岡を追いかけようと一歩踏み出す。
が、そこまでだった。
時間制限が訪れ、王蛇の変身が解除されたのだ。

「あぁッ!」

今回の戦闘を改めて振り返るが、その成果は散々であった。
ゾルダの正体は北岡ではなく全くの別人。
そいつは倒したものの、最終的にそいつにも北岡にも逃げられる。
挙句の果てに契約モンスターを一体失う。
近場にあった瓦礫を蹴り上げるが、その程度で怒りが収まるわけがない。
浅倉は次元の死体の方まで駆け寄り、ゴミのように打ち捨てられたデイパックを拾い上げる。
そして、遺体を蹴り飛ばす。
だが怒りは収まらず、何度も何度もその遺体を蹴り上げた。
元から損壊が激しかった遺体は、もはや見るに耐えない様相となる。
それでもその顔は、最後まで浅倉を嘲笑うかのように満足そうに笑っていた。

「アアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!!!」

野獣のように咆哮を上げる浅倉。
次の瞬間には、北岡が逃げた先である東へと駈け出した。
だが、その方角に北岡達の姿はない。
何故なら彼らは彼の目を眩ますため、北岡の誘導で南に方向転換していたのだから。


【一日目昼/G-8 東】
浅倉威@仮面ライダー龍騎】
[装備]なし
[所持品]支給品一式×4、王蛇のデッキ@仮面ライダー龍騎(二時間変身不可)、FNブローニング・ハイパワー@現実(0/13)、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×1(13発)
    水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、庭師の如雨露@ローゼンメイデン、レイピア@現実、前原圭一のメモのコピー@ひぐらしのなく頃に、
    知り合い順名簿のコピー、バージニア・メンソール×五箱(六本消費)@バトルロワイアル、北条悟史の金属バット@ひぐらしのなく頃に、不明支給品(未確認)2~4
[状態]疲労(大)、イライラ(大)、全身打撲
[思考・行動]
0:北岡を探す。
1:北岡秀一を殺す。
2:五ェ門、茶髪の男(カズマ)、学生服の男(桐山)、金髪の男(レイ)を後で殺す。
3:全員を殺す。
[備考]
※ライダーデッキに何らかの制限が掛けられているのに気付きました。


   ☆ ☆ ☆


意識を取り戻したジェレミアを、最初に襲ったのは深い虚無感だった。
目の前に広がる惨状、誰もいない静寂な空間、共闘した男の死体。
そしてこれを引き起こした原因が、半ば自分にあるという事実。
ゾルダを阻止するために次元の放った弾丸を、他でもない自分自身が遮った。
浅倉には盾にされ、その後も散々利用された。
ボロボロの身体を見渡しながら、唇を噛み締めるジェレミア。
生きているのが不思議なほど多量の傷が、生身の半身に刻まれている。
当然のように痛みもあるが、彼にはそれが他人事のように思えた。
大声を上げたくなるが、上手く言葉が出ない。
目を拭ったグローブが濡れていることから、自分が泣いていたことに気付いた。
夢遊病患者のようにゆっくりと、彼は病院の敷地内を徘徊する。
ルルーシュの真の仇である浅倉を討つと決めた。
なのに結果はこの様だ。
仲間の足を引っ張り、浅倉には盾にされ、最終的には気絶。
悔恨のあまり、このまま命を断ち切りたくなるような衝動に駆られた。
右腕からサーベルを繰り出し、喉元にそれを突き付ける。
しかし、それを押し込むことはできなかった。
溜飲を下げるため、目一杯握りしめた拳を外壁に叩きつける。
だが彼の耳に届いたのは、石ころを蹴り上げたような軽い音。
限界まで力を込めたつもりが、全然力が入っていなかったのだ。
ふらふらと当てもなくさまよい続けるジェレミア。
そうして病院の裏門まで辿り着いた時、幾度も嗅いだことのある嫌な臭いが鼻を突いた。
戦場で気が狂うほど味わった錆びた鉄のような――――血の臭い。
彼は惹かれるように、臭いの元まで歩き続ける。
そしてそこにあったのは、血の海に浸された巨大な瓦礫。
隙間からは、人間の脚がはみ出ている。
もう生きてはいないと、一目で分かるような惨状。
自分の責任で死んだ人間が他にもいた事実が、彼の精神を蝕む。
せめて遺体を瓦礫の中から救出しようと、彼は力を振り絞って瓦礫を押し始める。
最初は全く動かなかったものの、少しずつ瓦礫は動いていく。
だんだんと顕になっていく遺体の惨状、比例するようにジェレミアの顔も歪んでいく。

「お……ぉぉ……」

そして完全に瓦礫を押し終えた時、彼は平常心を保つことができなかった。
何故ならその遺体は、バトルロワイアルが始まってからずっと行動を共にしてきた山田奈緒子のものだったのだから。

「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

全ての登場人物が立ち去った病院という舞台の片隅で、一人の哀れな騎士の慟哭が響き続けていた。

【一日目午前/G-8 総合病院裏門】
ジェレミア・ゴットバルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[装備]なし
[所持品] なし
[状態]右半身に大ダメージ、疲労(大)、精神的疲労(大)、左腕の剣が折られたため使用不能
[思考・行動]
1:???
※病院にて情報交換をしました。
※付近にジェレミアのデイパック(支給品一式(鉛筆一本と食糧の1/3を消費)、咲世子の煙球×3@コードギアス 反逆のルルーシュ、こなたのスク水@らき☆すた、ミニクーパー@ルパン三世 )が放置されています。


   ☆ ☆ ☆


「ハァ……ハァ……」

人気の少ない裏路地を走り続けるレイ・ラングレン
脇腹を庇うように抑えながら、苦痛に表情を歪めている。
それでも速度は落とさず、一定の速さを保ちながら走り続けていた。
病院での戦闘の成果は、最悪と言ってもいいだろう。
エンド・オブ・ワールドを発動したにも関わらず、始末できた人数は少ない。
しかも一番厄介な浅倉は無傷であり、ファイナルベントの一撃を見舞われてしまった。
このような醜態になったのも、全ては自分の油断が原因だ。
ゾルダの契約モンスターが一体だから、王蛇も一体しかいないとは限らない。
その思い込みは、紛れもなく自身の油断だった。

(だが、何時までも悔いていてもしょうがない)

確かに病院での戦闘は目を背けたくなるが、それでも生き残ることができた。
浅倉がとどめを刺さずに、北岡の元に向かったのは不幸中の幸いだった。
ゾルダのデッキも手元に残ったまま。
自らの命とこのデッキさえあれば、いくらでもやり直すことができる。
カギ爪への復讐は、まだ潰えてはいない。
今はどれだけ惨めでも、病院から逃げ続ける。
復讐を果たすためならば、プライドなど瓦礫の山にでも捨ててやる。

(しかしだいぶ距離も取れたな、そろそろ休息をとろう)

背後を確認するが、もう病院の姿は見えない。
負傷した身体の治療も必要だし、なにより体力にも限界が訪れている。
一度民家の中に身を隠し、ゆっくりと休養をとる必要があるだろう。
そう判断して、彼は近場の民家の戸に手を掛ける。

「ッ!?」

その瞬間、銃声が彼の鼓膜を貫いた。

「誰だ!?」

緩んでいた気を引き締め、戸口から距離を取るレイ。
鉈の柄を握り締め、周囲に警戒線を張り巡らせる。
だが、全てが遅すぎた。
零れ落ちるように全身から力が抜けていく。
破れた袋から水が溢れるように、脇腹から血液が滴っている。
同時に視界がぐにゃりと歪み、二本の脚が力を失う。
身体はゆっくりと傾き始め、やがて地面へと堕ちた。

「ハハ、や、やったぁ!」

こつん、こつんと塗装された道路に足音が響く。
霞む視界で見上げると、そこで緑髪の少女――――園崎詩音がカラシニコフを構えていた。

「な……ぜ」

彼女のような一般人にエンド・オブ・ワールドを防げるわけがない。
にも関わらず、彼女の身体に殆ど傷はなかった。

「あぁ、私がなんで生きてたか知りたいんですか? これのおかげですよ」

一枚のカードを掲げる詩音。
それはアドベントカードによく似ているが、絵柄は紫色の渦が巻いている抽象的なものだ。

「ま、見ても分かりませんよね」

レイを嘲笑した後、ハイヒールの爪先で脇腹を蹴り上げる詩音。
形容しがたいほどの激痛が、彼の意識を鮮血で染め上げる。
彼女の持つカードのSEALといい、所持者をミラーモンスターの襲撃から守る効力を持つ。
ミラーモンスターの説明を受けていた彼女は、咄嗟にこのカードを掲げることでエンド・オブ・ワールドをやり過ごしていたのだ。

「……貴方はなんで自分がこんな目に合ってるか分かりますか?」

患部をぐりぐりと爪先で捩じ込みながら彼女は問う。
霧散していく思考の中で理由を考えるが、初対面の彼女に恨まれる理由が思いつかない。

「お前が! 悟史君を! 殺したからですよッ!!」

彼女の表情が狂気と憤怒に染まり、患部への蹴りがより激しくなる。
高級なハイヒールが返り血で染まるが、彼女はまるで気にしていないようだった。

(悟史……北条悟史か)

拡声器で呼びかけを行った少年。
自分が殺したのかもしれないし、他の誰かが殺したのかもしれない。
真実は不明だが、ただ一つ残っている事実は彼が既に死亡していることだ。

「この人殺し! なんであんたみたいなのに悟史君がッ!」

何度も何度もしつこいくらいに、彼女はレイの脇腹を蹴り続ける。
局地的だった激痛は全身を駆け回り、もはや痛覚が麻痺し切っていた。

「ゼェ……ゼェ……」

激しい運動が負担だったのか、彼女は肩で息をしている。
攻撃が止んだ隙に逃げようとするレイだが、身体はまるで言う事を聞かない。

「なに逃げようとしているんですか?」

女性のものとは思えない底冷えするような低い声。
行先に先回りした彼女が、鬼のような形相でレイを見下している。
右手にレイが落とした鉈を握り締めながら。

「くけ……けけ……」

頭上まで振りかぶった鉈が、レイの顔面に振り落とされる。
女性の非力な腕力故か、鉈の刃は顔面の奥深くにまでは届かないため致命傷にはならない。
つまりそれは、何度も鉈による斬撃を浴びることを意味する。
刺さった鉈が抜き取られると、そこから鮮血が吹き出て彼女の白衣を汚す。
片目は潰れ、鼻は陥没し、断面からは肉や骨が顕になっている。
それでも彼女が気圧されることはなく、レイの顔面には再び鉈が叩き込まれる。
だが、まだ死ねない。
鉈は最初の傷口とは違う場所に到達し、そこにまた致命傷に届かない傷を創り上げる。
そしてまた鉈は抜き取られ、顔面に振り落とされる。
それが何度も何度も何度も何度も、数えるのが飽きるほど繰り返される。

「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ!!!!」

自らの血で染まっていく視界に写った彼女の表情に、彼は僅かな既視感を感じていた。
記憶の糸を手繰りその正体を探すと、すぐに答えを見つけることができた。
彼女が浮かべている表情。
それはかつて彼がカギ爪の男への復讐を決意した時、浮かべていた表情にそっくりだった。
復讐者にしか出すことのできない、歓喜と狂気が入り乱れた表情。
彼女の表情はまさにそれだった。

「シ……ノ……」

ついに顔面が崩れ、鉈が脳を真っ二つに両断する。
北条悟史を殺したレイ・ラングレンは、北条悟史を愛する園崎詩音によって命と夢を奪われる。
それが彼の終わりであった。


【レイ・ラングレン@ガン×ソード 死亡】


「やったよ悟史君! 私を褒めて!」

返り血に塗れた顔で天を見上げ、死亡した悟史に話しかける詩音。
瞳孔は限界まで見開かれ、狂ったように笑い続けている。
いや、実際に彼女は狂ってしまったのだ。

「悟史……君?」

だがいくら話しかけても、悟史の声は聞こえてこなかった。
彼が頭を撫でてくれる感触も、優しい声で呟いた彼のありがとうも思い出せなかった。

「そっか、まだ足りないんですね、分かりました」

どこか悟ったように、詩音は頷く。

「まだ北岡秀一を殺してなかったですね、それに他の連中も」

間接的な死因を作った北岡も目の前の男と同罪だし、悟史を見捨てた他の連中も同罪だ。
だから全員に復讐をしなければ、悟史は自分のことを褒めてくれない。
そう考えた詩音は、目の前に転がっている男のデイパックを剥ぎ取った。
中を探ると、そこには金色の牛のレリーフが施された緑色のケースが入っている。
これが悟史の命を奪った道具なのだと理解した時、彼女の顔からは笑みが零れていた。

(悟史君はとても辛い目に味わわされた、だから悟史君を見捨てた他の連中も同じ目に合うべきなんだ!)

そうしてデッキに手を伸ばすが、彼女の手は弾かれてしまう。
何度も繰り返すが、結果は変わらない。
苛立ちを感じつつも理由を推察すると、一つ心当たりが思い浮かんだ。

「これのせいですか……」

彼女のポケットにあるSEALのカードの説明書には、これを所持している限りカードデッキを使用できなくなると記されていた。
ミラーモンスターを遠ざけるという性質上、彼らを使役するカードデッキと併用することはできないのだろう。

「もう、これは必要ないですね」

ポケットからSEALのカードを取り出すと、彼女は躊躇なくそれを破り捨てる。
今の彼女に必要なのは防御ではなく攻撃であり、それ以外は必要ないのだ。

「悟史君待っててね! すぐ全部終わらせるから!」

かつて目明し編と呼ばれる世界でそうしたように、彼女は最愛の悟史のために再び復讐に身を染めた。


【一日目昼/H-8 西の裏路地】
【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に(ゲーム)】
[装備]鉈@バトルロワイアル、白衣@現実(現地調達)
[支給品]支給品一式×3(食料と水を一つずつ消費)、AK-47(カラシニコフ銃)@現実、AK-47のマガジン×9@現実、ゾルダのデッキ(二時間変身不可)@仮面ライダー龍騎
    クマのぬいぐるみ@ひぐらしのなく頃に 、確認済み支給品0~2(銃器類は入っていません) 消毒薬@現実(現地調達)×1
[状態]手に軽い裂傷、疲労(小)、血塗れ、雛見沢症候群L4
[思考・行動]
1:北岡を含む全参加者を殺す。
[備考]
※雛見沢症候群が悪化しています。
※ゾルダのデッキからはシュートベント(ギガランチャー)が抜かれています。
※病院にて情報交換をしました。


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105:夢の終わり(前編) 石川五ェ門 107:力(ちから)
北岡秀一
柊つかさ
ジェレミア・ゴットバルト
アイゼル・ワイマール
浅倉威 131:DEAD END(中編)
園崎詩音 126:鬼さんこちら
次元大介 GAME OVER
山田奈緒子
レイ・ラングレン



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