推測 ◆EboujAWlRA
【推測】
「……それでは、少々時間をいただいてよろしいでしょうか?」
支給品をしばらく眺めていると、Lが突然切り出した。
「では、先に言っておきますが、これは脱出の役に直接立つことではありません。
あくまで今後の心構えをきちんと取っておくための推測です」
「前置きはいい、さっさと言え」
あくまで今後の心構えをきちんと取っておくための推測です」
「前置きはいい、さっさと言え」
C.C.が急かすように言葉を出す。
様々なことが重なり、すでにV.V.の真意をC.C.は読めなくなっていた。
弟とともに生きることだけに必死だった少年はもう居ない。
既に自身を裏切るものなど消えてしまい、ただ欲望を叶えようとするだけの不老不死の怪物が一人だ。
様々なことが重なり、すでにV.V.の真意をC.C.は読めなくなっていた。
弟とともに生きることだけに必死だった少年はもう居ない。
既に自身を裏切るものなど消えてしまい、ただ欲望を叶えようとするだけの不老不死の怪物が一人だ。
「はい、これから考えるべきはV.V.の目的です」
そのC.C.の心中を覗きこんだように、Lは口にした。
「これがわかったからと言っても脱出に直接大いに役立つものではありません。
しかし、殺し合いを打破しようと思えば、相手を理解することは必要です」
しかし、殺し合いを打破しようと思えば、相手を理解することは必要です」
Lはそこまで述べ、やはり冷静な目をC.C.へと向ける。
その目は全てを見透かそうとしているようで、見つめられているC.C.としては気分が悪くなった。
もっとも、後ろめたいことがあるからこその気分悪さなのだが。
その目は全てを見透かそうとしているようで、見つめられているC.C.としては気分が悪くなった。
もっとも、後ろめたいことがあるからこその気分悪さなのだが。
「右京さんからは『コード』と『ギアス』について聞きました。
ですが、他にもなにかあるのではないでしょうか。
それこそ、V.V.という人物の核心に迫るようななにかが」
「……」
「おい」
ですが、他にもなにかあるのではないでしょうか。
それこそ、V.V.という人物の核心に迫るようななにかが」
「……」
「おい」
顔をしかめながら黙り込んだC.C.へ、ヴァンは苛立つような声で促す。
C.C.がそのことを喋りたがらないのは、あの兄弟への義理立てに近い。
自身が力を与えて、あるいは歪めてしまったかもしれない、兄弟への想い。
だが、そんな想いも一時的なものだ。
ルルーシュ・ランペルージという少年を死なせたという、嫌悪感もある。
C.C.は深く息を吐き、口を開いた。
C.C.がそのことを喋りたがらないのは、あの兄弟への義理立てに近い。
自身が力を与えて、あるいは歪めてしまったかもしれない、兄弟への想い。
だが、そんな想いも一時的なものだ。
ルルーシュ・ランペルージという少年を死なせたという、嫌悪感もある。
C.C.は深く息を吐き、口を開いた。
「V.V.の目的は『ラグナレクの接続』――――人類の意思を一つに繋げることだ」
「……と、言いますと?」
「集合無意識という言葉は知っているか?」
「……と、言いますと?」
「集合無意識という言葉は知っているか?」
Lは小さく頷く。
集合的無意識とは、人間の無意識の深層に存在する個人の領域を超えた精神構造のことだ。
ドイツの心理学者カール・グスタフ・ユングが提唱した概念である。
集合的無意識とは、人間の無意識の深層に存在する個人の領域を超えた精神構造のことだ。
ドイツの心理学者カール・グスタフ・ユングが提唱した概念である。
「我々は集合無意識、あるいは人類全体の記憶の集合体を『Cの世界』と呼んだ。
……まあ、名称自体はあまり重要ではないが、話をしやすいように『Cの世界』とするぞ。
『ラグナレクの接続』とはその『Cの世界』に、全ての人間の意思を繋げるんだ」
「実に非科学的な話だな」
……まあ、名称自体はあまり重要ではないが、話をしやすいように『Cの世界』とするぞ。
『ラグナレクの接続』とはその『Cの世界』に、全ての人間の意思を繋げるんだ」
「実に非科学的な話だな」
そこに横槍を入れたのは、白梅香の瓶を握りしめた上田だった。
日本科学技術大学教授である上田にとって、その話はあまりにも馬鹿げているものだ。
この場で様々なあり得ないことを見てきたが、それでも職業柄最初に否定の念を覚える。
メガネの位置を直しながら、C.C.に迫るように尋ねた。
日本科学技術大学教授である上田にとって、その話はあまりにも馬鹿げているものだ。
この場で様々なあり得ないことを見てきたが、それでも職業柄最初に否定の念を覚える。
メガネの位置を直しながら、C.C.に迫るように尋ねた。
「集合無意識の概念はあまりにも抽象的すぎるし、人の意思というものは電気信号が生んだ奇跡だ。
人の意思が集合し、あまつさえ独立してどこかの空間に存在するなどあり得ない。
科学的根拠に欠けて、いや、科学的根拠を求めることすらも馬鹿らしい空想だ」
「だが、実際に存在する」
人の意思が集合し、あまつさえ独立してどこかの空間に存在するなどあり得ない。
科学的根拠に欠けて、いや、科学的根拠を求めることすらも馬鹿らしい空想だ」
「だが、実際に存在する」
C.C.は鬱陶しそうに顔をしかめ、上田の言葉をバッサリと切り捨てた。
Lも黙って聴き込んでいるものの、やはり上田と同じく懐疑的だった。
だが、常識という尺度自体がおかしくなっている。
仮面ライダー、パラサイト生物、ギアス、不死のコード、ローゼンメイデン。
その全てが『科学的根拠』に欠けている。
Lも黙って聴き込んでいるものの、やはり上田と同じく懐疑的だった。
だが、常識という尺度自体がおかしくなっている。
仮面ライダー、パラサイト生物、ギアス、不死のコード、ローゼンメイデン。
その全てが『科学的根拠』に欠けている。
「上田さん、今は静かに聞いておきましょう。
C.C.さん、話の腰を折ってすみません。続けてください」
C.C.さん、話の腰を折ってすみません。続けてください」
Lは上田を制し、C.C.に続きを促した。
上田は不満そうな表情を見せる。
だが、『なぜベストをつくさないのか』と次郎人形に言わせると口を閉じた。
上田は不満そうな表情を見せる。
だが、『なぜベストをつくさないのか』と次郎人形に言わせると口を閉じた。
「……Cの世界は全ての人間の意思が集まった場所だ。
そこに、全人類の意思を繋いで、意思の疎通の意味を変える。
そうすれば、嘘は意味を失くし、人の行き違いによる悲劇はなくなる。
意識を共通するということは、当然相手の考えていることがわかるからな。
間違いなく世界のあり方が変わる計画だ」
「…………………………そうですか」
そこに、全人類の意思を繋いで、意思の疎通の意味を変える。
そうすれば、嘘は意味を失くし、人の行き違いによる悲劇はなくなる。
意識を共通するということは、当然相手の考えていることがわかるからな。
間違いなく世界のあり方が変わる計画だ」
「…………………………そうですか」
「翠星石さん、水銀燈さん。
貴方たちもCの世界、集合無意識に聞き覚えはありますか?」
「そりゃあるわよ。というより、nのフィールドってそういう一面も持ってるもの」
「夢の世界へと向かうために通るnのフィールド自体が、そのCの世界って奴とも言えるですぅ。
夢の世界ってのは、結局のところ人の心が具現化したものですから」
貴方たちもCの世界、集合無意識に聞き覚えはありますか?」
「そりゃあるわよ。というより、nのフィールドってそういう一面も持ってるもの」
「夢の世界へと向かうために通るnのフィールド自体が、そのCの世界って奴とも言えるですぅ。
夢の世界ってのは、結局のところ人の心が具現化したものですから」
翠星石と水銀燈の両者が『nのフィールドはCの世界と同じものではないか』と答えた。
人の意思の集まる場所という共通点から出された答えだろう。
その答えに満足したかのように、Lは小さく頷いた。
人の意思の集まる場所という共通点から出された答えだろう。
その答えに満足したかのように、Lは小さく頷いた。
「なるほど……」
「その、Lさん、前置きが長いんじゃないか?
結局、V.V.の狙いってのはなんなんだ?」
「その、Lさん、前置きが長いんじゃないか?
結局、V.V.の狙いってのはなんなんだ?」
真司がしびれを切らして問いかける。
Lはやはり表情を崩さずに、だが、真司の問いには答えずに逆に問いかけた。
Lはやはり表情を崩さずに、だが、真司の問いには答えずに逆に問いかけた。
「とりあえず、パッと思いつく解答は三つほどありますね」
「解答?」
「まず、考えられる目的は三つです。
ひとつはこの殺し合いの結果そのものがラグナレクの接続に繋がるということです」
「解答?」
「まず、考えられる目的は三つです。
ひとつはこの殺し合いの結果そのものがラグナレクの接続に繋がるということです」
ルパン三世と同じ考えか、C.C.はそう考えながらLに問いかけた。
その口調はそこから先の答えを求めるようなものだった。
その口調はそこから先の答えを求めるようなものだった。
「殺し合いの果てに生まれる何かがラグナレクの接続に必要、そういうことか?」
「なんか、そこもライダーバトルと似てるんだな……」
「と言いますと?」
「なんか、そこもライダーバトルと似てるんだな……」
「と言いますと?」
ふと真司が漏らした言葉に、Lは鋭く突っ込む。
真司は小さく頷くと、少し不器用に説明をはじめる。
真司は小さく頷くと、少し不器用に説明をはじめる。
「神崎……ライダーバトルを始めたやつなんですけど、そいつも目的があったんです。
優衣ちゃんっていう妹を救う、っていう目的が」
「最後の一人だけ願いが叶う……この殺し合いとの共通点ですね。
人が死ぬことで願いを叶えるための特別なエネルギーのようなものが生まれる。
V.V.はそれを必要としているのでしょうか……?」
優衣ちゃんっていう妹を救う、っていう目的が」
「最後の一人だけ願いが叶う……この殺し合いとの共通点ですね。
人が死ぬことで願いを叶えるための特別なエネルギーのようなものが生まれる。
V.V.はそれを必要としているのでしょうか……?」
Lはそこまで言うと、急に黙りこむ。
考えをまとめているのだろう。
それは、ここまでのL主導の会話でなんとなくこの場の全員がわかっていた。
考えをまとめているのだろう。
それは、ここまでのL主導の会話でなんとなくこの場の全員がわかっていた。
「この場合だと、殺し合いを勝ち残ったものの願いが叶えられるということは嘘になりますね。
なぜならそのエネルギーを使用するのならば、他の誰かに渡すことはできませんから。
C.C.さん、V.V.が嘘を言っている可能性はどれくらいありますか?」
「……全くないわけじゃない。
私が知っているV.V.ならば、嘘は避けるだろうが……ただ、嘘であるという可能性も否定できない」
なぜならそのエネルギーを使用するのならば、他の誰かに渡すことはできませんから。
C.C.さん、V.V.が嘘を言っている可能性はどれくらいありますか?」
「……全くないわけじゃない。
私が知っているV.V.ならば、嘘は避けるだろうが……ただ、嘘であるという可能性も否定できない」
C.C.は歯切れの悪い言葉で答え、言い訳をするようにこう続けた。
「もう自信がないんだ。
私の知っているV.V.と、今この殺し合いを主導しているV.V.が一緒であることに。
だから、私にはもうV.V.が変わっていないという確証が持てないんだよ」
「そうですか」
私の知っているV.V.と、今この殺し合いを主導しているV.V.が一緒であることに。
だから、私にはもうV.V.が変わっていないという確証が持てないんだよ」
「そうですか」
C.C.のどこか泣きだしてしまいそうな声に、Lはただ黙々と応える。
そちらのほうがC.C.としても楽だった。
あまり突っ込まれると、自分のしてきたことに本当に泣きだしてしまいそうだったから。
そちらのほうがC.C.としても楽だった。
あまり突っ込まれると、自分のしてきたことに本当に泣きだしてしまいそうだったから。
「そして、もう一つの答えとしては、V.V.は何かを知りたがっているのではないでしょうか」
Lは次の可能性に話題を切り替える。
先ほども話題にあげていた、V.V.はなにかを観察しているという可能性だ。
先ほども話題にあげていた、V.V.はなにかを観察しているという可能性だ。
「実のところ、すでにV.V.は目的を達成できている。
つまり、異世界に住む人々全てと『Cの世界』へとつなぐ『ラグナレクの接続』を可能としている。
ですが、異世界を知ると同時にV.V.は『ラグナレクの接続』を躊躇うなにかを見た。
その躊躇いを捨てる、あるいは疑問を失くすために我々を殺しあわせているという可能性です」
「……アレが計画を躊躇うとは思えないが」
つまり、異世界に住む人々全てと『Cの世界』へとつなぐ『ラグナレクの接続』を可能としている。
ですが、異世界を知ると同時にV.V.は『ラグナレクの接続』を躊躇うなにかを見た。
その躊躇いを捨てる、あるいは疑問を失くすために我々を殺しあわせているという可能性です」
「……アレが計画を躊躇うとは思えないが」
C.C.はゆっくりと否定の念を口にした。
少年期からあの二人の悲願を、誰にも騙されない世界の創造を諦めるとは思えなかった。
少年期からあの二人の悲願を、誰にも騙されない世界の創造を諦めるとは思えなかった。
「新しい世界を知るということは生まれ変わることに等しいです。
知識を深めるということは新しい喜びを知ることですが、同時に新しい苦しみも知ることです」
「だから、V.V.は我々で何かを試していると、そう言いたいのか?」
「……で、残りの一つはなんなのよ?」
知識を深めるということは新しい喜びを知ることですが、同時に新しい苦しみも知ることです」
「だから、V.V.は我々で何かを試していると、そう言いたいのか?」
「……で、残りの一つはなんなのよ?」
達観した、素っ気ない言葉に水銀燈が痺れを切らしたように尋ねる。
もったいぶるような口ぶりのLに明確な憤りを覚えているようだ。
もったいぶるような口ぶりのLに明確な憤りを覚えているようだ。
「そもそも、V.V.はただの飾りに過ぎないということです」
「……あん?」
「……あん?」
ヴァンがゆっくりと顔をあげる。
間の抜けた顔が、一瞬だけ引き締まった。
間の抜けた顔が、一瞬だけ引き締まった。
「裏に黒幕がいる、そういうことです」
「黒幕……?」
「黒幕とは芝居などで用いる黒い暗幕のことを指す言葉だ。
場面転換の際に用いる、つまり、舞台を影で操る人物という意味もある。
これが転じて、表舞台に現れずになにかを操作する人物を黒幕と呼ぶようになったんだ」
「いや、意味は知ってますよ……成り立ちとかは知りませんでしたけど」
「黒幕……?」
「黒幕とは芝居などで用いる黒い暗幕のことを指す言葉だ。
場面転換の際に用いる、つまり、舞台を影で操る人物という意味もある。
これが転じて、表舞台に現れずになにかを操作する人物を黒幕と呼ぶようになったんだ」
「いや、意味は知ってますよ……成り立ちとかは知りませんでしたけど」
真司の疑問に対して上田が長々と喋り出すが、簡単に真司に遮られた。
上田は次郎人形を弄り、『なぜベストを尽くさないのか』と言わせると椅子に座り直した。
上田の語りが終わると、Lは畳み掛けるように早口でまくし立てる。
上田は次郎人形を弄り、『なぜベストを尽くさないのか』と言わせると椅子に座り直した。
上田の語りが終わると、Lは畳み掛けるように早口でまくし立てる。
「黒幕の正体は簡単に考えて四パターンです。
創世王、ローゼン、神崎士郎の三人が可能性のある人物ですね。
なにせ、この三名全員が超常現象を起こせる力を持っていますので」
「もうひとつのパターンは?」
「我々の情報だけでは想像できない、未知の何者かです」
創世王、ローゼン、神崎士郎の三人が可能性のある人物ですね。
なにせ、この三名全員が超常現象を起こせる力を持っていますので」
「もうひとつのパターンは?」
「我々の情報だけでは想像できない、未知の何者かです」
それがありならなんでも言えるな、と思いつつもクーガーは口にしなかった。
Lもあくまで可能性の話だけをしている。
V.V.が相手だと思って行動しているとしっぺ返しを食らうかもしれない。
だから、様々な可能性を考慮しておこう。
言ってしまえば、そういう考えを根付かせるための話し合いなのだ。
Lもあくまで可能性の話だけをしている。
V.V.が相手だと思って行動しているとしっぺ返しを食らうかもしれない。
だから、様々な可能性を考慮しておこう。
言ってしまえば、そういう考えを根付かせるための話し合いなのだ。
「それに、この三名には誰かと誰かを戦わせる目的があるという共通点があります。
それは世紀王の血闘であり、アリス・ゲームであり、ライダーバトルです。
どれも、自身以外の他の誰かを消さなければ勝者になれません。
そして、脱落は死を意味しています」
「Lさん、殺し合いという意味ならば稲田くんの言っていたプログラムもある」
「個人的には可能性自体は薄いと考えています」
それは世紀王の血闘であり、アリス・ゲームであり、ライダーバトルです。
どれも、自身以外の他の誰かを消さなければ勝者になれません。
そして、脱落は死を意味しています」
「Lさん、殺し合いという意味ならば稲田くんの言っていたプログラムもある」
「個人的には可能性自体は薄いと考えています」
Lがその言葉をバッサリと切ると、上田は少し泣きそうに顔を歪めた。
元々メンタルの弱い男だから仕方ないだろう。
元々メンタルの弱い男だから仕方ないだろう。
「プログラムの首謀者は一国家です。
また、稲田さんのデータでは西暦1997年と書かれており、我々の世界観から大きく離れていない。
大東亜共和国が黒幕である可能性は前の三人が黒幕である可能性と比べるとあまりにも小さいものです。
……これが超常の力を手に入れた大東亜共和国の侵略への準備という妄想も出来ないわけではありませんが」
「ふふ、やはりそうか。いやね、私も、ちゃんとわかっていたんだよ。
ただLさんがわかっていない、もしくは気づいていないかもしれないからね。
だから意地の悪いことだが、ちょっと試してみたんだよ」
また、稲田さんのデータでは西暦1997年と書かれており、我々の世界観から大きく離れていない。
大東亜共和国が黒幕である可能性は前の三人が黒幕である可能性と比べるとあまりにも小さいものです。
……これが超常の力を手に入れた大東亜共和国の侵略への準備という妄想も出来ないわけではありませんが」
「ふふ、やはりそうか。いやね、私も、ちゃんとわかっていたんだよ。
ただLさんがわかっていない、もしくは気づいていないかもしれないからね。
だから意地の悪いことだが、ちょっと試してみたんだよ」
上田は取り繕うように笑顔を作って、Lに対して同意の言葉を告げる。
手元の次郎人形でLを指さし、『なぜベストを尽くさないのか』と言わせることも忘れない。
Lはそれを無視して、話を続ける。
手元の次郎人形でLを指さし、『なぜベストを尽くさないのか』と言わせることも忘れない。
Lはそれを無視して、話を続ける。
「さて、創世王の場合です。
私は光太郎さんから話を聞いた時、創世王はあり得ないと考えました。
世紀王以外の人間が勝ち抜いてしまった場合、本末転倒になるんですからです。
ですが、城戸さんの願いが叶うという話を聞いて新たな可能性に気づきました。
十三人のライダーが殺し合い、残った一人が願いを叶える力を得る。
つまり、一人だけ生き残ることで巨大な力が生まれるということです」
私は光太郎さんから話を聞いた時、創世王はあり得ないと考えました。
世紀王以外の人間が勝ち抜いてしまった場合、本末転倒になるんですからです。
ですが、城戸さんの願いが叶うという話を聞いて新たな可能性に気づきました。
十三人のライダーが殺し合い、残った一人が願いを叶える力を得る。
つまり、一人だけ生き残ることで巨大な力が生まれるということです」
世界を征服する力は既にあるが、その生命を延ばす術を創世王は持ち得ていない。
だが、ライダーバトルの末に生まれる力がその願いを叶える可能性は高い。
だが、ライダーバトルの末に生まれる力がその願いを叶える可能性は高い。
「創世王は欲しているのかもしれません。
ブラックサンやシャドームーンといった後継者ではなく、自身の命を救う強大な力を」
ブラックサンやシャドームーンといった後継者ではなく、自身の命を救う強大な力を」
Lが真司から神崎士郎の目的を聞いて真っ先に浮かんだ考えはこれだった。
創世王自身が力を取り戻すのならば、二人の世紀王が死んでしまってもなんの問題もない。
創世王自身が力を取り戻すのならば、二人の世紀王が死んでしまってもなんの問題もない。
「残りの二名についてはあくまで可能性があるだけです。
六十五人の異世界の人々を殺し合わせる理由は思いつきませんので」
六十五人の異世界の人々を殺し合わせる理由は思いつきませんので」
ここでLは半分だけ嘘を言っていた。
ローゼンが黒幕である可能性も思いついていたが、水銀燈と翠星石への配慮のために口を閉ざしたのだ。
ローゼンが創世王と同じで強大な力を求めているのだとしたら。
奇跡を扱うことで、アリスへの道のりのヒントを得ようとしているのかもしれない。
それは、なんの確証もない。
はっきりとした確証など一つもない話で翠星石と水銀燈の両名を揺さぶる必要はない。
ローゼンが黒幕である可能性も思いついていたが、水銀燈と翠星石への配慮のために口を閉ざしたのだ。
ローゼンが創世王と同じで強大な力を求めているのだとしたら。
奇跡を扱うことで、アリスへの道のりのヒントを得ようとしているのかもしれない。
それは、なんの確証もない。
はっきりとした確証など一つもない話で翠星石と水銀燈の両名を揺さぶる必要はない。
「神崎士郎ならば、なぜライダーバトルではなく大規模な殺し合いに切り替えたのかが不明。
ローゼンは……そもそも翠星石さんたちも理解できてないことから、その真意は計りかねます」
「お、お父様のことは、その……」
「お父様はアリスを求めているだけよ」
ローゼンは……そもそも翠星石さんたちも理解できてないことから、その真意は計りかねます」
「お、お父様のことは、その……」
「お父様はアリスを求めているだけよ」
父がなにを考えているか、それはローゼンメイデンも把握しているわけではない。
その事実に翠星石は口ごもり、逆に水銀燈は明瞭な言葉で返した。
その事実に翠星石は口ごもり、逆に水銀燈は明瞭な言葉で返した。
「アリス……完璧な少女、でしたか」
「ええ。
そして、私たちはそのために生きているし、アリスになったものだけがお父様に愛される。
……翠星石、元々私たちは争うために生まれてきたのよ。
私も、貴女も、蒼星石も、雛苺も、金糸雀も………真紅もね」
「そんな! そんな、そんなの……悲しすぎるじゃないですか……」
「ええ。
そして、私たちはそのために生きているし、アリスになったものだけがお父様に愛される。
……翠星石、元々私たちは争うために生まれてきたのよ。
私も、貴女も、蒼星石も、雛苺も、金糸雀も………真紅もね」
「そんな! そんな、そんなの……悲しすぎるじゃないですか……」
翠星石の言葉にこの場の温度が下がったような気がした。
水銀燈が顔を無表情に変えて、翠星石へと向き直る。
壊れた身体を、隠そうともしていなかった。
水銀燈が顔を無表情に変えて、翠星石へと向き直る。
壊れた身体を、隠そうともしていなかった。
「翠星石」
激高している時よりも、刃を突き立てた時よりも、はっきりとした迫力のある冷えた言葉だった。
おちょくるような色はない。
翠星石を軽蔑するような色を持った言葉だ。
おちょくるような色はない。
翠星石を軽蔑するような色を持った言葉だ。
「そう考えること自体が、お父様への裏切りなんじゃないの?」
壊れた右目が妙な威圧感を放ち、睨みつけられた翠星石は思わず身体を小さくした。
翠星石はなにも言い返せない。
翠星石はなにも言い返せない。
姉妹との関係が友好であればいいとは思ってるが、父を心から愛している。
その父の言葉を否定するようなことは、あまり考えたくなかったのだ。
その父の言葉を否定するようなことは、あまり考えたくなかったのだ。
「Lさん、そのローゼンという人物が黒幕である可能性はあり得んだろう」
その険悪というよりも気まずい空気を読み取ったのだろう。
上田はどこかおどけたような口ぶりで言い放つ。
上田はどこかおどけたような口ぶりで言い放つ。
「確かに私は完璧という言葉に最も近い人間ではあるが、見ての通りダンディなナイスガイだ。
どう頑張っても少女にはなれん。
仮に私のような凛々しい男性が勝利してしまっては元も子もないだろう」
「貴方はちょっと黙ってなさい」
どう頑張っても少女にはなれん。
仮に私のような凛々しい男性が勝利してしまっては元も子もないだろう」
「貴方はちょっと黙ってなさい」
場を和ませようと戯けたような口調で発言した上田に対し、水銀燈は怒りを隠そうともせずに言い放った。
上田はビクリと身体を震わせて、その大きな体を縮こませる。
そして、上田次郎人形を手に持ち、『なぜベストを尽くさないのか』と言わせた。
上田の言葉は上田の意図通り見当はずれなものだ。
だが、Lもローゼンが黒幕という可能性はあまり考慮していなかった。
上田はビクリと身体を震わせて、その大きな体を縮こませる。
そして、上田次郎人形を手に持ち、『なぜベストを尽くさないのか』と言わせた。
上田の言葉は上田の意図通り見当はずれなものだ。
だが、Lもローゼンが黒幕という可能性はあまり考慮していなかった。
「……まあ、ローゼンは謎が多すぎますね。
城戸さん、神崎士郎が黒幕である可能性はありますか?」
「いや、その……あんまりない、かなぁ?
アイツの目的はとにかく優衣ちゃんを助けることだし。
だから、ライダーバトルを中止してまでわざわざこんなことやるなんて……」
城戸さん、神崎士郎が黒幕である可能性はありますか?」
「いや、その……あんまりない、かなぁ?
アイツの目的はとにかく優衣ちゃんを助けることだし。
だから、ライダーバトルを中止してまでわざわざこんなことやるなんて……」
はっきりと断定こそしなかったものの、真司の言葉は否定のものだった。
そこで沈黙が訪れる。
Lは親指の爪を噛んでいる、思考を働かせているのだろう。
そこで沈黙が訪れる。
Lは親指の爪を噛んでいる、思考を働かせているのだろう。
「……結局、なにもわからずか」
「相手の目的がわかればプラスになるって理屈はわかるんですがねぇ」
「相手の目的がわかればプラスになるって理屈はわかるんですがねぇ」
C.C.がため息をつきながら脱力し、クーガーが苦笑いを浮かべながら言葉をつなぐ。
実際、確定したことはなにもなかった。
そのままクーガーは窓から外を眺めると、すっかり暗くなってしまっている。
この場に来てから丸一日が経とうというのだから当然とも言えた。
実際、確定したことはなにもなかった。
そのままクーガーは窓から外を眺めると、すっかり暗くなってしまっている。
この場に来てから丸一日が経とうというのだから当然とも言えた。
「さて……俺はそろそろ行かせてもらうぜ。
これ以上、走らずに止まってたら俺は死んじまうからな」
これ以上、走らずに止まってたら俺は死んじまうからな」
どこかふざけるように言うクーガーに視線が集まる。
Lは相変わらず表情の目立たない顔でクーガーを見つめた。
Lは相変わらず表情の目立たない顔でクーガーを見つめた。
「……そう、ですか」
「悪いな、L」
「悪いな、L」
謝罪の言葉を口にした割に、クーガーは顔に笑みを浮べている。
この男はそういう男だった。
無駄に相手を威圧するような真似は行わない、文化人を気取る伊達男なのだ。
この男はそういう男だった。
無駄に相手を威圧するような真似は行わない、文化人を気取る伊達男なのだ。
「戦力の拡散は好ましくありません」
「戦えない奴を戦場に引っ張りだすほうが良くないってもんだ」
「戦えない奴を戦場に引っ張りだすほうが良くないってもんだ」
はっきりと口にしたクーガーの言葉に、Lは露骨に顔をしかめた。
その言葉の裏は、Lたちは邪魔だ、と言っているようなものなのだから。
その言葉の裏は、Lたちは邪魔だ、と言っているようなものなのだから。
「……足手まとい、ですか」
「平たく言っちまえば、そうなっちまうな」
「平たく言っちまえば、そうなっちまうな」
クーガーの言葉も露骨なものだった。
だが、それが何よりの優しさである。
死が近くなる以上、突き放すのもまた思いやりだ。
だが、それが何よりの優しさである。
死が近くなる以上、突き放すのもまた思いやりだ。
「柊さんたちに出会ったら、私たちの場所まで連れてきてください」
「……そうだな、その時はそうするさ」
「……そうだな、その時はそうするさ」
Lはそういうのが精一杯だった。
クーガーは再び窓から外を眺める。
ここにいる明確な敵はシャドームーン、雪代縁、枢木スザク、狭間偉出夫、浅倉威、そして後藤。
あまりにも多く、誰もが強敵であることが明白だったが、それでもクーガーは自らで終わらせる気だった。
誰よりも誇れる、己の速さで。
クーガーは再び窓から外を眺める。
ここにいる明確な敵はシャドームーン、雪代縁、枢木スザク、狭間偉出夫、浅倉威、そして後藤。
あまりにも多く、誰もが強敵であることが明白だったが、それでもクーガーは自らで終わらせる気だった。
誰よりも誇れる、己の速さで。
「その前に」
そのクーガーの決意に水を指すような形でLが口を挟む。
「全員の治療をしておきましょう。正直な話、痛くて痛くてもう気絶しちゃいそうなんです」
肋骨を抑えながら、Lはそう提案した。
時系列順で読む
投下順で読む
156:検分 | ヴァン | 156:準備 |
C.C. | ||
城戸真司 | ||
翠星石 | ||
ストレイト・クーガー | ||
上田次郎 | ||
L | ||
水銀燈 |