DEAD END(前編) ◆ew5bR2RQj.
最初に言い出したのは誰だったのか。
殺し合いの苛烈さに多くの者たちが憔悴していく中、一つの情報が参加者の間で広まっていった。
殺し合いの苛烈さに多くの者たちが憔悴していく中、一つの情報が参加者の間で広まっていった。
『誰かが警察署で人を集めている』
誰かというのは、世界的に有名な名探偵だったのかもしれないし、警視庁きっての切れ者と呼ばれた男だったのかもしれない
あるいは、全く別の人物だったのかもしれない。
どちらにせよこの情報は、絶望の淵に立たされていた者たちにとって一縷の希望となった。
これは、そんな希望を抱いて集まった者たちの話。
希望を抱き、死んでいった者たちの物語だ。
あるいは、全く別の人物だったのかもしれない。
どちらにせよこの情報は、絶望の淵に立たされていた者たちにとって一縷の希望となった。
これは、そんな希望を抱いて集まった者たちの話。
希望を抱き、死んでいった者たちの物語だ。
☆ ☆ ☆
最初に警察署に辿り着いたのは、L、泉こなた、上田次郎、由詑かなみで形成される四人組。
右京たちが居ないのを確認すると、彼らは施設内の散策を始めた。
散策の方法は先ほどと同じ。
剣を持つこなたが先頭に配置し、戦える”振り”をしているLが後方を固める。
その間に上田とかなみが入るという、四人全員が一緒に行動するものだ。
四人全員が別々の散策する方が効率的だが、こなたを単独行動させたり誰かと二人きりにさせることを避ける必要があった。
彼らはしばらく警察署を散策したが、大量のカップ焼きそばぐらいしか見つからない。
数時間前に訪れたロロと次元が、有用な品物の多くを持って行ってしまったためである。
だが上田とかなみはデイパックを奪われていたため、食料品もそこそこの収穫と言えただろう。
右京たちが居ないのを確認すると、彼らは施設内の散策を始めた。
散策の方法は先ほどと同じ。
剣を持つこなたが先頭に配置し、戦える”振り”をしているLが後方を固める。
その間に上田とかなみが入るという、四人全員が一緒に行動するものだ。
四人全員が別々の散策する方が効率的だが、こなたを単独行動させたり誰かと二人きりにさせることを避ける必要があった。
彼らはしばらく警察署を散策したが、大量のカップ焼きそばぐらいしか見つからない。
数時間前に訪れたロロと次元が、有用な品物の多くを持って行ってしまったためである。
だが上田とかなみはデイパックを奪われていたため、食料品もそこそこの収穫と言えただろう。
「何も見つかんないからつまんないな~」
「さっきは宝探しみたいで楽しそうって言ってたじゃないですか」
「何も見つかんなきゃつまんないよ」
「さっきは宝探しみたいで楽しそうって言ってたじゃないですか」
「何も見つかんなきゃつまんないよ」
壁に背中を預けながら退屈そうに呟くこなた。
一見するとお気楽そうに見えるが、その手は女神の剣を握り締めたままである。
歩き続けて疲労が溜まった彼らは、散策中に見つけた大きな会議室で休憩を取っていた。
ここは正面にある駐車場の様子がよく見えるのと同時に、非常階段が傍にあるため襲撃を受けた際にすぐに逃げることができる。
非常階段への入り口は内部から施錠しておいたため、外部からの侵入者がここを使用する可能性は低い。
最も、カズマのシェルブリットのような大技には無意味だが。
一見するとお気楽そうに見えるが、その手は女神の剣を握り締めたままである。
歩き続けて疲労が溜まった彼らは、散策中に見つけた大きな会議室で休憩を取っていた。
ここは正面にある駐車場の様子がよく見えるのと同時に、非常階段が傍にあるため襲撃を受けた際にすぐに逃げることができる。
非常階段への入り口は内部から施錠しておいたため、外部からの侵入者がここを使用する可能性は低い。
最も、カズマのシェルブリットのような大技には無意味だが。
「あれ、なにか聞こえる」
最初に気付いたのは、机に突っ伏していたかなみだった。
彼女の言葉で、他の三人も窓の外から聞こえてくるその音に気付く。
聞こえてきたのは、車の駆動音。
Lが窓の方まで駆け寄り、ブラインド越しに駐車場の様子を伺う。
彼女の言葉で、他の三人も窓の外から聞こえてくるその音に気付く。
聞こえてきたのは、車の駆動音。
Lが窓の方まで駆け寄り、ブラインド越しに駐車場の様子を伺う。
「安心してください、あれは私の仲間です、今から迎えに行きましょう」
そして、すぐにそう告げた。
「ご無事で何よりです、右京さん」
車から降りてきたのは右京を含めて四人。
右京に背負われている茶髪の青年と、オッドアイの小柄な少女、そして――――
右京に背負われている茶髪の青年と、オッドアイの小柄な少女、そして――――
「みなみちゃん!?」
「泉先輩……?」
「泉先輩……?」
泉こなたと同じ制服を着た少女、岩崎みなみだった。
「先輩……先輩ッ!」
「おぉ~、会いたかったよ~」
「おぉ~、会いたかったよ~」
出会った瞬間、二人は互いに駆け寄って抱き締め合う。
Lの中のこなたへの疑惑は既に膨らみきっていたが、今の彼女は本気で再会を喜んでいるように見えた。
Lの中のこなたへの疑惑は既に膨らみきっていたが、今の彼女は本気で再会を喜んでいるように見えた。
「Lくんこそご無事で何よりです、おや、光太郎くんが居ないようですが……」
「彼とは途中で別れました、後から来ると思います」
「何かあったのですか?」
「ええ、銃を持った少年に襲われまして……そちらの方は?」
「彼は城戸真司くん、恐ろしい力を持った参加者と戦っていたところを私が保護しました
まだ意識が戻らないようなので、出来ればここで休ませてあげたいのですが」
「彼とは途中で別れました、後から来ると思います」
「何かあったのですか?」
「ええ、銃を持った少年に襲われまして……そちらの方は?」
「彼は城戸真司くん、恐ろしい力を持った参加者と戦っていたところを私が保護しました
まだ意識が戻らないようなので、出来ればここで休ませてあげたいのですが」
真司は未だに眠り続けており、破けたジャンパーから見える赤黒い傷が痛々しい。
「分かりました、上田さん、彼を医務室まで運んでください」
「……私が運ぶのか?」
「ええ、この中では上田さんが一番力持ちなので」
「ふぅ、しょうがない、この私の力が必要とあってはな、彼は私が責任を持って背負おう」
「……私が運ぶのか?」
「ええ、この中では上田さんが一番力持ちなので」
「ふぅ、しょうがない、この私の力が必要とあってはな、彼は私が責任を持って背負おう」
上田は煽てられて上機嫌になり、右京から真司の身体を預かる。
たかが背負うくらいで大袈裟だとLは心中で呟くが、拒否されても面倒だと口を紬いだ。
その際に真司が背負っていたデイパックは、Lが代わりに受け取った。
たかが背負うくらいで大袈裟だとLは心中で呟くが、拒否されても面倒だと口を紬いだ。
その際に真司が背負っていたデイパックは、Lが代わりに受け取った。
「皆さん、つまる話は中でしましょう、既に大勢で話し合うのに適した部屋を確保してあります」
「待ってくれないか」
「待ってくれないか」
Lの言葉を合図に、集まった面子は次々と警察署に進もうとする。
だが、更なる来訪者の声が彼らの足を止めた。
だが、更なる来訪者の声が彼らの足を止めた。
「どぅわ!!」
突然の来訪者に驚きの声を上げる上田。
今の今まで気配を感じなかったため、突然その場に現れたように錯覚したのだ。
今の今まで気配を感じなかったため、突然その場に現れたように錯覚したのだ。
「貴方は誰ですか?」
集団の最後尾にいたため、Lが来訪者の応対をする。
挙手をしながら、Lは値踏みするように桐山の身体に視線を這わせる。
学生服を着用していることから、彼が学生であることは間違いない。
だがその雰囲気は学生にしては妖艶過ぎていて、長身であることも相まってスーツでも着ていたら成人と勘違いしそうだ。
学生服を着用していることから、彼が学生であることは間違いない。
だがその雰囲気は学生にしては妖艶過ぎていて、長身であることも相まってスーツでも着ていたら成人と勘違いしそうだ。
「どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありません、何故私達の名前を?」
「カズマに聞いたんだ、警察署で人を集めている者たちがいると」
「カズくんに……カズくんに会ったんですか!?」
「いえ、なんでもありません、何故私達の名前を?」
「カズマに聞いたんだ、警察署で人を集めている者たちがいると」
「カズくんに……カズくんに会ったんですか!?」
カズマの名前を聞き、上田の影に隠れていたかなみが反応を見せる。
「ああ」
「カズくんは……無事なんですか!?」
「分からない」
「そうですか……あの……カズくんとはいつお会いしたんですか?」
「さっきまで一緒にいた」
「それで――――」
「由詑さん、話は中でしましょう、ここだと危険人物に見つかる可能性があります」
「あ、すいません……」
「いえ、それでは桐山さんも一緒に来てください」
「ああ、だがその前に近くに隠れている仲間を連れていきたい、先に行っていてくれないか?」
「分かりました、では我々は二階の会議室にいます」
「カズくんは……無事なんですか!?」
「分からない」
「そうですか……あの……カズくんとはいつお会いしたんですか?」
「さっきまで一緒にいた」
「それで――――」
「由詑さん、話は中でしましょう、ここだと危険人物に見つかる可能性があります」
「あ、すいません……」
「いえ、それでは桐山さんも一緒に来てください」
「ああ、だがその前に近くに隠れている仲間を連れていきたい、先に行っていてくれないか?」
「分かりました、では我々は二階の会議室にいます」
☆ ☆ ☆
「そ、蒼星石!?」
現れた人物を見て、翠星石は思わず声を荒らげる。
桐山と一緒に現れたのは、彼女の双子の妹である蒼星石だった。
桐山と一緒に現れたのは、彼女の双子の妹である蒼星石だった。
「良かった……良かったですよ無事で……」
「翠星石こそ無事で良かったよ、怪我とかしてないかい?」
「翠星石こそ無事で良かったよ、怪我とかしてないかい?」
パイプ椅子に腰掛けていた翠星石は、一目散に蒼星石のもとに駆け寄る。
そして両手を広げ、その身体を勢いよく抱き締めた。
そして両手を広げ、その身体を勢いよく抱き締めた。
「苦しいよ……」
一瞬だけ顔を歪める蒼星石だが、その後は満更でもなさそうに頭を撫で始める。
彼女たちは姉妹たちの中でも特別な絆で結ばれているため、再会の喜びも人一倍大きいのだ。
彼女たちは姉妹たちの中でも特別な絆で結ばれているため、再会の喜びも人一倍大きいのだ。
「あの……」
「あ、スマねーです」
「いえ、あとでゆっくりと休む時間を設けますから」
「あ、スマねーです」
「いえ、あとでゆっくりと休む時間を設けますから」
Lの申し訳なさそうな視線を浴び、翠星石たちは恥ずかしそうに離れる。
いつの間にか着席していた桐山を傍目に捉えながら、彼女たちは用意された椅子に座った。
集まった会議室は二十畳ほどの大きさで、正面には壇上とホワイトボードが設置されている。
名探偵に警察官という実績を持つLと右京は司会を務める形でそこに上がり、それ以外の面子は大量に設置された長机とパイプ椅子に腰掛けてる。
なお、真司は治療を施した後に、仮眠室のベッドに寝かされていた。
いつの間にか着席していた桐山を傍目に捉えながら、彼女たちは用意された椅子に座った。
集まった会議室は二十畳ほどの大きさで、正面には壇上とホワイトボードが設置されている。
名探偵に警察官という実績を持つLと右京は司会を務める形でそこに上がり、それ以外の面子は大量に設置された長机とパイプ椅子に腰掛けてる。
なお、真司は治療を施した後に、仮眠室のベッドに寝かされていた。
「では皆さん、お疲れの方もいるとは思いますが時間がありません、情報交換を始めましょう」
翠星石と蒼星石が着席したのを見て、右京が情報交換の開始を宣言する。
緊張のあまり唾を飲む者もいる中、Lは神妙な表情を浮かべていた。
緊張のあまり唾を飲む者もいる中、Lは神妙な表情を浮かべていた。
「どうかしましたか、Lさん?」
「いえ、情報交換の前に一つやっておきたいことがあったので」
「いえ、情報交換の前に一つやっておきたいことがあったので」
右京が尋ねると、Lは前に座っているある人物へと視線を移す。
「由詑かなみさん」
「な、なんですか!?」
「な、なんですか!?」
突然名前を呼ばれ慌てふためくかなみ。
だが、Lはそれを意に介する様子もなく話を続けていく。
だが、Lはそれを意に介する様子もなく話を続けていく。
「単刀直入に伺います、貴女はアルター使いですね?」
質問をした瞬間、かなみが肩を震わせたのが見て取れる。
これでは肯定しているようなものだ。
これでは肯定しているようなものだ。
「はい……」
「まさか君が……いや、振り返れば兆候はあったか、君もカズマくんみたいに空を飛ぶのかい?」
「カズくんみたいに強くないです……」
「まさか君が……いや、振り返れば兆候はあったか、君もカズマくんみたいに空を飛ぶのかい?」
「カズくんみたいに強くないです……」
隣に座っていた上田が話しかけるが、かなみは怯えるような態度を崩さない。
彼女のいたロストグラウンドでは、アルター能力者の人権など皆無に等しかった。
ろくに仕事も貰えず、人々には恐怖され、HOLYからは追い回される。
故にかなみは迫害されることを恐れ、アルター能力者であることを隠していたのだ。
彼女のいたロストグラウンドでは、アルター能力者の人権など皆無に等しかった。
ろくに仕事も貰えず、人々には恐怖され、HOLYからは追い回される。
故にかなみは迫害されることを恐れ、アルター能力者であることを隠していたのだ。
「私は別に貴女を追いだそうとしているわけではありません、ただ一つ質問に答えていただきたいだけです」
そんな彼女の怯えを察したのか、Lがかなみの心中の考えを否定する。
「質問……?」
「はい、貴女はストレイト・クーガーという人物をご存知ですよね?」
「はい、貴女はストレイト・クーガーという人物をご存知ですよね?」
怖ず怖ずといった様子で首肯するかなみ。
「なんでそんな質問するのかな?」
Lが二の句を告げようとしたところで、後方に座っていたこなたが口を挟む。
その声には今までの呑気さは欠片もなく、剣呑とした殺意のようなものさえ纏っていた。
その声には今までの呑気さは欠片もなく、剣呑とした殺意のようなものさえ纏っていた。
「ストレイト・クーガーは誰かを襲って殺そうとするような人物ですか?」
「ちょっと無視しないでよ!」
「ちょっと無視しないでよ!」
無視されたことで怒りを露わにするこなた。
彼女の豹変ぶりにかなみは萎縮し、隣に座っていたみなみも驚愕の表情を浮かべている。
彼女の豹変ぶりにかなみは萎縮し、隣に座っていたみなみも驚愕の表情を浮かべている。
「答えてください」
「えっと……その……クーガーさんはそんな人じゃありません」
「えっと……その……クーガーさんはそんな人じゃありません」
質問に答えた瞬間、こなたが舌打ちと同時にかなみを睨みつける。
濁った汚泥のような悪意を向けられ、常人よりも人の気持ちに敏感なかなみは身震いしてしまった。
濁った汚泥のような悪意を向けられ、常人よりも人の気持ちに敏感なかなみは身震いしてしまった。
「泉さん、先ほど貴女はストレイト・クーガーに襲われたと言いましたよね
しかし彼の知り合いである由詑さんはこう仰ってます、これはどういうことでしょうか?」
しかし彼の知り合いである由詑さんはこう仰ってます、これはどういうことでしょうか?」
かなみに質問を終え、Lの視線はこなたへと移る。
その瞳は、こなたへの疑惑が確信に近いことを物語っていた。
その瞳は、こなたへの疑惑が確信に近いことを物語っていた。
「どういうこともなにも……Lさんも見てたじゃん」
「ええ、見てました、しかし私には彼が貴女を殺そうとしているようには見えなかった」
「それはLさんからそう見えただけだよ、クーガーは本気で私を殺そうとしてた、私の仲間も見捨てたし」
「彼が貴女を本気で殺そうとしてたなら、とっくに貴女は死んでますよ
彼は変身した光太郎くんと互角の実力を持っているのに、ただの女子高生である貴女がどうやって逃げ切れたのでしょうか」
「えっと……それは……」
「それに貴女は殺されかけた直後であるにも関わらずまるで緊張感が無かった、無さ過ぎたと言ってもいい」
「ええ、見てました、しかし私には彼が貴女を殺そうとしているようには見えなかった」
「それはLさんからそう見えただけだよ、クーガーは本気で私を殺そうとしてた、私の仲間も見捨てたし」
「彼が貴女を本気で殺そうとしてたなら、とっくに貴女は死んでますよ
彼は変身した光太郎くんと互角の実力を持っているのに、ただの女子高生である貴女がどうやって逃げ切れたのでしょうか」
「えっと……それは……」
「それに貴女は殺されかけた直後であるにも関わらずまるで緊張感が無かった、無さ過ぎたと言ってもいい」
Lの見透かすような視線が突き刺さり、額にだらだらと脂汗が浮かび上がる。
この場にいる全員の視線が集中し、こなたは推理モノの犯人にでもなったような不快感を感じていた。
冷静に考えれば、そもそも殺されかけたなどと言う必要はなかったのだ。
下手な理由付けをしてしまったことが、不要な災いを呼び寄せている。
何とかしてこの場を切り抜けなければいけない。
切り抜けなければ、ゆたかの命は戻ってこないのだ。
この場にいる全員の視線が集中し、こなたは推理モノの犯人にでもなったような不快感を感じていた。
冷静に考えれば、そもそも殺されかけたなどと言う必要はなかったのだ。
下手な理由付けをしてしまったことが、不要な災いを呼び寄せている。
何とかしてこの場を切り抜けなければいけない。
切り抜けなければ、ゆたかの命は戻ってこないのだ。
「泉先輩をどうするつもりなんですか……?」
隣に座っていたみなみが俯いたままLに尋ねる。
その声色は普段の彼女と違い、明確な怒りが篭っているものだった。
その声色は普段の彼女と違い、明確な怒りが篭っているものだった。
「下手に情報を与えたくないので、留置所にでも入ってもらいます」
それに対し、Lはあくまで感情の篭ってない普段の声色で返す。
ドンッと大きな音が会議室に響いた。
ドンッと大きな音が会議室に響いた。
「いい加減にしてください!」
勢いよく立ち上がるみなみ。
こなたに集中していた視線が一斉に集まり、彼女は思い出した様に顔を赤くする。
こなたに集中していた視線が一斉に集まり、彼女は思い出した様に顔を赤くする。
「す、すいません……でも、どうしても我慢できなくて……」
恥ずかしそうに顔を伏せながら、みなみは言葉を紡ぎ続ける。
「さっきからLさんは一方的に先輩を嘘つきと決めつけて……
かなみちゃんが嘘を吐いてるとは思いません……でも……先輩の話も少しは信じてください!
何かの間違いかもしれないじゃないですか!」
かなみちゃんが嘘を吐いてるとは思いません……でも……先輩の話も少しは信じてください!
何かの間違いかもしれないじゃないですか!」
涙声になりながら、それでもハッキリとした言葉をみなみはLに叩きつける。
大人しい性格のみなみが突然大声を上げたことに、周囲の人間は驚きを隠すことができない。
その中でこなただけが心中でほくそ笑んでいた。
彼女は完全に自分のことを信じ切っている。
再会した時から期待してはいたが、L相手に啖呵を切る程とは予想していなかった。
ゆたかの親友でもあった彼女ならば、かがみと違って自分に協力してくれるかもしれない。
大人しい性格のみなみが突然大声を上げたことに、周囲の人間は驚きを隠すことができない。
その中でこなただけが心中でほくそ笑んでいた。
彼女は完全に自分のことを信じ切っている。
再会した時から期待してはいたが、L相手に啖呵を切る程とは予想していなかった。
ゆたかの親友でもあった彼女ならば、かがみと違って自分に協力してくれるかもしれない。
「先輩だった泉さんを信用したい岩崎さんの気持ちもよく分かります
しかし実は由詑さんの他にもう一人、ストレイト・クーガーのことを知っている人物がいたんですよ」
しかし実は由詑さんの他にもう一人、ストレイト・クーガーのことを知っている人物がいたんですよ」
絶句するこなた。
Lが自分の方を見て、ニヤリと笑ったような気がした。
Lが自分の方を見て、ニヤリと笑ったような気がした。
「カズマさんです、最初にお会いした時に彼から話を聞きました、岩崎さんも一緒に聞いてたはずです」
カズマという人物が、余程信頼できる人物だったのか。
Lとこなたの顔を交互に見て、あからさまに狼狽し始めるみなみ。
やられた、と思った。
おそらく彼女が庇うことを見越していて、あえてこの事を言わずにいたのだろう。
Lとこなたの顔を交互に見て、あからさまに狼狽し始めるみなみ。
やられた、と思った。
おそらく彼女が庇うことを見越していて、あえてこの事を言わずにいたのだろう。
「そのカズマって人が嘘を言ってた可能性も……」
「カズくんは嘘なんか吐きません!」
「カズくんは嘘なんか吐きません!」
こなたが言い終わる前に、かなみが大声でそれを遮る。
「カズマくんは嘘は吐くようには見えないかな……」
「嘘を吐く前にぶん殴ってそうだな、彼は」
「嘘を吐く前にぶん殴ってそうだな、彼は」
それを皮切りに次々とカズマを擁護する意見が出てくる。
カズマという人物には余程人望があったのか、翻った情勢が一気に傾いてしまった。
みなみに助けを請うが、申し訳なさそうに視線を逸らされる。
自分の身体が冷たくなっていくのを、こなたはハッキリと感じていた。
カズマという人物には余程人望があったのか、翻った情勢が一気に傾いてしまった。
みなみに助けを請うが、申し訳なさそうに視線を逸らされる。
自分の身体が冷たくなっていくのを、こなたはハッキリと感じていた。
「それでは泉さん、失礼ですが少なくとも我々が情報交換をしている間は留置させていただきます」
擁護する者が居なくなったことで動こうとするL。
こなたもこれ以上の抵抗は不可能と判断し、歯軋りをしながら従おうとする。
こなたもこれ以上の抵抗は不可能と判断し、歯軋りをしながら従おうとする。
「待ってください」
だが、彼らの動きを止める者がいた。
今まで静観していた警視庁きっての切れ者、杉下右京だ。
今まで静観していた警視庁きっての切れ者、杉下右京だ。
「泉さんが嘘を吐いていたのは分かりました、しかしそれで留置するというのは少々行き過ぎてやいませんか?」
「……と、言うと?」
「もっと穏やかな方法……例えばそう、見張りをつけて別の部屋に隔離するというのはどうでしょうか?」
「……と、言うと?」
「もっと穏やかな方法……例えばそう、見張りをつけて別の部屋に隔離するというのはどうでしょうか?」
一瞬だけ助けてくれるのかと期待したが違った。
嘘を吐いただけのこなたを留置する訳にはいかないという、真面目な警察官らしい意見だったのだ。
嘘を吐いただけのこなたを留置する訳にはいかないという、真面目な警察官らしい意見だったのだ。
「……確かに少し行き過ぎていたかもしれませんね、右京さんの案で行きましょう」
Lは僅かに逡巡した後、渋々といった様子ではあるが彼の案を採用した。
「なら私が先輩の見張りを――――」
「岩崎さんは駄目です、貴女では懐柔される可能性がありますから」
「岩崎さんは駄目です、貴女では懐柔される可能性がありますから」
真っ先に立候補したみなみをLは一蹴する。
そしてパイプ椅子に腰掛けている面子をぐるっと見回し、蒼星石の前で視線を止めた。
そしてパイプ椅子に腰掛けている面子をぐるっと見回し、蒼星石の前で視線を止めた。
「蒼星石さん、貴女はずっと桐山さんと一緒でしたか?」
「え、えっと……ほとんど一緒だったけど……それが何の関係が?」
「え、えっと……ほとんど一緒だったけど……それが何の関係が?」
質問の意図を理解できず、蒼星石は首を傾げている。
「単刀直入に申せば、蒼星石さんに泉さんの監視をお願いしたいと思ってます」
「何となくそう言われる気はしてたけど、なんで僕なのかな?」
「何となくそう言われる気はしてたけど、なんで僕なのかな?」
蒼星石の質問に、Lは噛み砕くように説明を始める。
まず泉こなたと一切の関わりが無いこと、見張り役が懐柔されては困るためだ。
そして体力にも比較的余裕があり、ある程度は武術の心得があること。
蒼星石はこれらの条件をクリアしており、なおかつこなたと同じ女性であることから抜擢されたのである。
先程の質問は、彼女の所持する情報が桐山と同じものかを調べるためのものだ。
所持している情報が同じならば、必ずしも情報交換の場にいる必要もないのである。
まず泉こなたと一切の関わりが無いこと、見張り役が懐柔されては困るためだ。
そして体力にも比較的余裕があり、ある程度は武術の心得があること。
蒼星石はこれらの条件をクリアしており、なおかつこなたと同じ女性であることから抜擢されたのである。
先程の質問は、彼女の所持する情報が桐山と同じものかを調べるためのものだ。
所持している情報が同じならば、必ずしも情報交換の場にいる必要もないのである。
「分かったけど……Lさんや右京さんじゃ駄目なの?」
「私はこれから行う情報交換の司会を務めますし、右京さんには裏口の見張りをお願いしたいと思ってます」
「私はこれから行う情報交換の司会を務めますし、右京さんには裏口の見張りをお願いしたいと思ってます」
正面入口はこの部屋からよく見えるため問題ないが、裏口はどうしても死角になってしまう。
故に危険人物の侵入を防ぐため、最低でも一人は見張りが必要になる。
警察官であり信頼のおける右京はその役に最適だった。
故に危険人物の侵入を防ぐため、最低でも一人は見張りが必要になる。
警察官であり信頼のおける右京はその役に最適だった。
「というわけで、泉さんの監視をお願いできないでしょうか」
「はぁ……あんまり気乗りしないけど……分かったよ」
「はぁ……あんまり気乗りしないけど……分かったよ」
こうして蒼星石が承諾したことで、こなたは別の部屋に隔離されることとなった。
☆ ☆ ☆
「ちぇー、みんな酷いよ」
こなたが隔離されたのは二階にある取調室。
二階というのは簡単に逃げることができず、なおかつ飛び降りても死亡する危険性は低い。
犯罪者が集まりやすい性質上、二階というのは一般に知られている以上に重要なウエイトを占めているのだ。
二階というのは簡単に逃げることができず、なおかつ飛び降りても死亡する危険性は低い。
犯罪者が集まりやすい性質上、二階というのは一般に知られている以上に重要なウエイトを占めているのだ。
「しょうがないよ、こなたちゃんは嘘を吐いてたみたいだし」
「蒼星石ちゃんも私が嘘吐いたって言うの?」
「正直なことを言うと疑ってるかな、あのカズマくんが嘘を吐くとも思えないし
それにデイパックから出てきたアレもあるし……」
「蒼星石ちゃんも私が嘘吐いたって言うの?」
「正直なことを言うと疑ってるかな、あのカズマくんが嘘を吐くとも思えないし
それにデイパックから出てきたアレもあるし……」
蒼星石が言う”アレ”とは、こなたのデイパックから出てきた骨と眼球。
隔離される際にデイパックを点検されたのだが、その際に中から現れたのだ。
その場は騒然となったが、一番驚いていたのは他でもないこなた自身。
躍起になって否定していたものの、当然疑いが晴れるわけはない。
だが、その場でLが不問としたことで、これ以上言及されずに済んだのだ。
隔離される際にデイパックを点検されたのだが、その際に中から現れたのだ。
その場は騒然となったが、一番驚いていたのは他でもないこなた自身。
躍起になって否定していたものの、当然疑いが晴れるわけはない。
だが、その場でLが不問としたことで、これ以上言及されずに済んだのだ。
「だからアレは本当に知らないんだよー、元々才人が持ってたヤツだし……
それでさ、そのカズマって人、そんなに信用できるの?」
「うーん、信用できるというか、なんというか……」
それでさ、そのカズマって人、そんなに信用できるの?」
「うーん、信用できるというか、なんというか……」
信用できるとは少し違う。
カズマの性格からすれば、気に入らない相手がいたらその拳で殴り飛ばすだろう。
行動パターンが簡単に推察できてしまうのだ。
カズマの性格からすれば、気に入らない相手がいたらその拳で殴り飛ばすだろう。
行動パターンが簡単に推察できてしまうのだ。
「まぁ、剣とか全部取られちゃったからどうしようもないんだけどねー」
隔離される際、水や食料等の共通支給品以外を全て没収されてしまった。
武器もないのでは、抵抗するのは不可能だろう。
武器もないのでは、抵抗するのは不可能だろう。
「それにしても蒼星石ちゃんってホントに女の子なの? 私ずっと男の子だと思ってたよ」
「なっ……もう失礼だなー、これでも立派な女の子なんだよ」
「なっ……もう失礼だなー、これでも立派な女の子なんだよ」
ショートカットヘアに半ズボン等、彼女の容姿は非常に中性的な嗜好が凝らされている。
実際にかつての同行者である橘あすかは、彼女を男性と勘違いしたことで一悶着を起こしていた。
実際にかつての同行者である橘あすかは、彼女を男性と勘違いしたことで一悶着を起こしていた。
「でもリアルでボクっ娘って初めて見たよ、くは~、萌えるね~」
「別に萌えとか意識してるわけじゃないんだけどなぁ」
「別に萌えとか意識してるわけじゃないんだけどなぁ」
こなたと二人きりになってもうすぐ十分を過ぎようとしているが、Lが言っているように彼女にはまるで緊張感がない。
殺し合いの舞台であるにも関わらず、彼女の態度はあまりにも自然体過ぎるのだ。
Lからは情報交換が終了次第、自分たちを迎えに来ると言われている。
それまでは警戒を緩めず、監視を続けることにした。
殺し合いの舞台であるにも関わらず、彼女の態度はあまりにも自然体過ぎるのだ。
Lからは情報交換が終了次第、自分たちを迎えに来ると言われている。
それまでは警戒を緩めず、監視を続けることにした。
☆ ☆ ☆
「それでカズマさんは瀬田宗次郎と戦闘を開始したんですね?」
「そうだ、私が戦おうとしたんだが、カズマくんにどうしてもと言われて譲ったのだよ」
「そうだ、私が戦おうとしたんだが、カズマくんにどうしてもと言われて譲ったのだよ」
Lの質問に対し、上田は脚色を加えながら返答する。
かなみからは溜息を吐かれ、その他の参加者からは疑いの眼を向けられるが、上田はまるで気付いていない。
朗らかな声を上げながら、上機嫌に笑い続けていた。
かなみからは溜息を吐かれ、その他の参加者からは疑いの眼を向けられるが、上田はまるで気付いていない。
朗らかな声を上げながら、上機嫌に笑い続けていた。
「それでカズマさんと瀬田宗次郎が戦っている最中に、桐山さん達が出くわしたと」
「そうなるな」
「そして瀬田宗次郎を倒した後、光太郎くんの加勢に向かったわけですね」
「そうなるな」
「そして瀬田宗次郎を倒した後、光太郎くんの加勢に向かったわけですね」
最終的に残ったL、上田、かなみ、桐山、翠星石、みなみの六人で行われた情報交換。
全員が支給されたメモ帳に情報を書き記している。
警察署には印刷機が設置されており、この場にいない面子とも情報交換することが容易い。
そうする価値があるほど、今回得られた情報は大きかった。
Dー7で起きた火災の原因となる乱戦の経緯と、シャドームーン討伐のための二度の闘争
人間を仮面ライダーへと変身させるカードデッキの存在。
他にも多くの情報を得ることができ、それだけでも価値は十二分にあったと言える。
全員が支給されたメモ帳に情報を書き記している。
警察署には印刷機が設置されており、この場にいない面子とも情報交換することが容易い。
そうする価値があるほど、今回得られた情報は大きかった。
Dー7で起きた火災の原因となる乱戦の経緯と、シャドームーン討伐のための二度の闘争
人間を仮面ライダーへと変身させるカードデッキの存在。
他にも多くの情報を得ることができ、それだけでも価値は十二分にあったと言える。
「……」
だが、同時に歯噛みするような事態にも直面していた。
ここに集まっている戦力が、想像以上に貧弱であったことだ。
かなみやみなみは論外、Lや右京も瀬田宗次郎のような強者には太刀打ちできないだろう。
上田は空手の達人を名乗っているがいまいち頼りなく、蒼星石も専用の武器が無いのでは全力を発揮できない。
結果として戦力に数えられるのは、花弁を操れる翠星石とカードデッキを所持している桐山くらいだ。
ここに来て、光太郎と別れてしまったことが響く。
光太郎やカズマが来るまで、誰にも襲撃されないことを祈るしかないだろう。
ここに集まっている戦力が、想像以上に貧弱であったことだ。
かなみやみなみは論外、Lや右京も瀬田宗次郎のような強者には太刀打ちできないだろう。
上田は空手の達人を名乗っているがいまいち頼りなく、蒼星石も専用の武器が無いのでは全力を発揮できない。
結果として戦力に数えられるのは、花弁を操れる翠星石とカードデッキを所持している桐山くらいだ。
ここに来て、光太郎と別れてしまったことが響く。
光太郎やカズマが来るまで、誰にも襲撃されないことを祈るしかないだろう。
「桐山さん、一つお尋ねしてもいいでしょうか……?」
「なんだ」
「なんだ」
怯えたように桐山を見上げるかなみ。
彼女と桐山の身長差は頭二つ分以上あり、必然的に見上げて会話する形になる。
カズマや君島との交流である程度は免疫がついていたものの、やはり初対面の桐山との会話は緊張してしまうようだ。
彼女と桐山の身長差は頭二つ分以上あり、必然的に見上げて会話する形になる。
カズマや君島との交流である程度は免疫がついていたものの、やはり初対面の桐山との会話は緊張してしまうようだ。
「その……瀬田宗次郎さんをこ、殺したのは……カズくんなんですか?」
ビリッと電流が駆け抜けたかのような緊張感が訪れる。
もしカズマが殺していた場合、彼を殺人犯として扱わなくてはならない。
Lは殺人犯であろうと使えるものは使うが、他の人間はいい感情は抱かないだろう。
とくに右京が殺人を強く忌避していることが翠星石との話で判明している。
下手をすれば、たったこれだけでもコミュニティが崩壊してしまうかもしれない。
もしカズマが殺していた場合、彼を殺人犯として扱わなくてはならない。
Lは殺人犯であろうと使えるものは使うが、他の人間はいい感情は抱かないだろう。
とくに右京が殺人を強く忌避していることが翠星石との話で判明している。
下手をすれば、たったこれだけでもコミュニティが崩壊してしまうかもしれない。
「違う、カズマはあいつにとどめを刺さなかった」
抑揚のない声での返答。
かなみはほっと胸を撫で下ろし、Lも心中で安堵した。
かなみはほっと胸を撫で下ろし、Lも心中で安堵した。
「ということは、貴方達が去った後に何者かに襲われたということですかね」
「そうなるな」
「そうなるな」
答えると同時に、桐山はすぅっと立ち上がる。
「スマない、トイレに行ってもいいだろうか?」
いきなりの申し出に訝しむLだが、理由を聞いて納得がいった。
彼と蒼星石は今まで一度も施設に寄っておらず、当然トイレに寄る機会もなかった。
十二時間以上もそれが続けば、催しても無理は無いだろう。
Lが許可を出すと、桐山は出口まで歩を進める。
彼と蒼星石は今まで一度も施設に寄っておらず、当然トイレに寄る機会もなかった。
十二時間以上もそれが続けば、催しても無理は無いだろう。
Lが許可を出すと、桐山は出口まで歩を進める。
「待ってください」
ドアノブに手をかけたところで、不意にLが制止を促す。
「デイパックは置いていった方がいいのではないですか?」
桐山の背に掛けられているデイパック。
どういう原理かは知らないが、これは中にどれだけ物を詰め込んでも一切重さを感じない。
さらに車のような巨大な物でも収納でき、挙句の果て無限に詰め込むことができる。
現代の科学力でこれを再現するには、あとどれくらいの歳月を要するのだろうか。
どういう原理かは知らないが、これは中にどれだけ物を詰め込んでも一切重さを感じない。
さらに車のような巨大な物でも収納でき、挙句の果て無限に詰め込むことができる。
現代の科学力でこれを再現するには、あとどれくらいの歳月を要するのだろうか。
「そうだな」
桐山は背負っていたデイパックを無造作に放り投げる。
綺麗な弧を描きながら飛ぶそれは、彼が座っていた席にぽすんと落ちた。
綺麗な弧を描きながら飛ぶそれは、彼が座っていた席にぽすんと落ちた。
「……」
ドアノブをゆっくりと回し、扉を小さく開けて外へと出る桐山。
扉が無言のまま閉まるまで、Lの視線が彼から離れることはなかった。
扉が無言のまま閉まるまで、Lの視線が彼から離れることはなかった。
☆ ☆ ☆
こなたが隔離されてから一時間が経過。
会話する内容も尽きて沈黙が訪れた頃、不意にこなたが蒼星石に話しかけた。
会話する内容も尽きて沈黙が訪れた頃、不意にこなたが蒼星石に話しかけた。
「あの……蒼星石……」
両脚を閉じ、スカートの裾を僅かに引っ張る。
そして艶かしく身体をくねらせながら、ほんのりと顔を赤らめていた。
そして艶かしく身体をくねらせながら、ほんのりと顔を赤らめていた。
「な、なにかな……?」
蒼星石は嫌な予感を感じつつも、最低限の冷静さを保って対応する。
「……レ……」
「え?」
「え?」
こなたが何か呟くが、あまりに小声なため聞き取ることができない。
そんなやり取りがしばらく続く。
そんなやり取りがしばらく続く。
「トイレだよトイレ! 何度も言わせないでよ恥ずかしい!」
顔を真っ赤に染め上げながら、こなたは大声で叫んだ。
「えー……我慢できないの?」
「さっきからずっと我慢してたの! もう限界だよ!」
「さっきからずっと我慢してたの! もう限界だよ!」
交互に足踏みをして、いかにも急いでいるような素振りを見せるこなた。
いや、実際に急いでいるのだろう。
尿意を催すことのない蒼星石でも、我慢する苦しみを想像できてしまうのだから。
いや、実際に急いでいるのだろう。
尿意を催すことのない蒼星石でも、我慢する苦しみを想像できてしまうのだから。
「も、もう少し我慢できないかな?」
それでも蒼星石は、彼女に我慢することを強いた。
Lからは、絶対に彼女を出すなと言われているからだ。
Lからは、絶対に彼女を出すなと言われているからだ。
「無理だよ~! あ~! 大声出したら余計に漏れそうに……」
股間を押さえながら慌てふためくこなた。
もし真紅がこの場にいたら、彼女をはしたないと嗜めていただろう。
狼狽する彼女を尻目に、蒼星石は思考を展開する。
彼女が本当に尿意を催しているのか、それを見極めなければならない。
蒼星石も暇な時間はテレビの前に座り、真紅や雛苺と一緒にくんくん探偵を眺めている身。
幾多もの事件を追体験し、多少は探偵としての素養が備わってきているはずだ。
逮捕された犯罪者がトイレに行きたいと告げ、何らかの方法で逃げ出すというのは常套手段である。
それを鑑みれば、彼女に許可を出すべきではないだろう。
だがそんな簡単に思いつく方法を、俗に言うオタクである彼女が使ってくるだろうか。
もし真紅がこの場にいたら、彼女をはしたないと嗜めていただろう。
狼狽する彼女を尻目に、蒼星石は思考を展開する。
彼女が本当に尿意を催しているのか、それを見極めなければならない。
蒼星石も暇な時間はテレビの前に座り、真紅や雛苺と一緒にくんくん探偵を眺めている身。
幾多もの事件を追体験し、多少は探偵としての素養が備わってきているはずだ。
逮捕された犯罪者がトイレに行きたいと告げ、何らかの方法で逃げ出すというのは常套手段である。
それを鑑みれば、彼女に許可を出すべきではないだろう。
だがそんな簡単に思いつく方法を、俗に言うオタクである彼女が使ってくるだろうか。
「あ~、もう漏れちゃう! ここで漏らしちゃうかも!」
「え、それは……」
「え、それは……」
こなたの発言に蒼星石は凍りつく。
取調室のような密閉空間で漏らされたら、たちまち臭いが立ち込めるだろう。
窓ははめ殺しになっており、換気することもできない。
取調室のような密閉空間で漏らされたら、たちまち臭いが立ち込めるだろう。
窓ははめ殺しになっており、換気することもできない。
「蒼星石! 絶対に逃げないからトイレ行かせてよ! お願い!」
こなたは扉の前まで行き、ドアノブをガチャガチャと回し始める。
だが、内部から施錠されているため扉が開くことはない。
それが分かっていながらも、彼女は必死にドアノブを回し続ける。
限界が近いのだろう、今にも漏らしてしまいそうな雰囲気だ。
武器は全て没収されているし、格闘戦になったとしても普通の人間に負けるつもりはない。
何よりもし彼女が演技でなかった場合、悲惨な状況を産み出してしまう。
だが、内部から施錠されているため扉が開くことはない。
それが分かっていながらも、彼女は必死にドアノブを回し続ける。
限界が近いのだろう、今にも漏らしてしまいそうな雰囲気だ。
武器は全て没収されているし、格闘戦になったとしても普通の人間に負けるつもりはない。
何よりもし彼女が演技でなかった場合、悲惨な状況を産み出してしまう。
「はぁ……もうしょうがないなぁ……」
観念した蒼星石は、Lから預かった取調室の鍵を取り出す。
「やった!」
「でも――――」
「でも――――」
扉の前まですたすたと歩いて行き、鍵を挿し込んで解錠する。
「僕も付いて行くからね」
「そんなのどうでもいいよ! 先に行くね!」
「あ、待ってよ!」
「そんなのどうでもいいよ! 先に行くね!」
「あ、待ってよ!」
鍵穴から鍵が刺し抜かれると、こなたは一目散に駆け出す。
皆が集まる前から警察署に居たため、トイレの位置は完全に把握しているのだろう。
物凄い勢いで疾走するこなたに、蒼星石は付いて行くのがやっとだった。
皆が集まる前から警察署に居たため、トイレの位置は完全に把握しているのだろう。
物凄い勢いで疾走するこなたに、蒼星石は付いて行くのがやっとだった。
「ちょっと……速すぎるよ……」
蒼星石がトイレに到達した時、既にこなたの姿はない。
代わりに一番手前にある個室の鍵が、使用中を示す赤色に変わっていた。
代わりに一番手前にある個室の鍵が、使用中を示す赤色に変わっていた。
「……」
しばらくすると個室の中から水の滴るが流れ出す。
トイレに行きたいという要望が事実だったことに、蒼星石は思わず安堵した。
もし嘘だったのなら、彼女は大失態を犯したことになるのだから。
トイレに行きたいという要望が事実だったことに、蒼星石は思わず安堵した。
もし嘘だったのなら、彼女は大失態を犯したことになるのだから。
「……」
無言のトイレの中を水温の音だけが鳴り続ける。
他人の排泄音を聞くというのは、あまり気分のいいものではない。
だが他にやることがない以上、どうしても流れる音に集中してしまう。
他人の排泄音を聞くというのは、あまり気分のいいものではない。
だが他にやることがない以上、どうしても流れる音に集中してしまう。
「……はぁ」
湿った溜め息を吐く。
蒼星石に汗を掻く機能はないが、人間だったら確実に発汗しているだろう。
居心地の悪さがすり減った彼女の神経を蝕んでいく。
一人の時間を得て、ふと頭に過ぎったのは二人の少年の顔。
初めての同行者である橘あすかと、自分を庇って死んだ北条悟史。
他にも大勢の人間の犠牲があるからこそ、今の自分たちはここにいるのだ。
そう思うと、悪寒が止まらない。
蒼星石に汗を掻く機能はないが、人間だったら確実に発汗しているだろう。
居心地の悪さがすり減った彼女の神経を蝕んでいく。
一人の時間を得て、ふと頭に過ぎったのは二人の少年の顔。
初めての同行者である橘あすかと、自分を庇って死んだ北条悟史。
他にも大勢の人間の犠牲があるからこそ、今の自分たちはここにいるのだ。
そう思うと、悪寒が止まらない。
「……はぁ」
二度目の溜め息を吐く。
手の平に不快感を感じ、泥や砂で汚れていることに気付いた。
目の前に洗面台まで進み、汚れ一つない蛇口を捻る。
そこから噴出した水に、彼女は汚れた手を預けた。
泥や砂は綺麗に洗い落とされるが、こびり付いた血液はなかなか消えない。
握りしめた際に付着した悟史の血液だろう。
手の平に不快感を感じ、泥や砂で汚れていることに気付いた。
目の前に洗面台まで進み、汚れ一つない蛇口を捻る。
そこから噴出した水に、彼女は汚れた手を預けた。
泥や砂は綺麗に洗い落とされるが、こびり付いた血液はなかなか消えない。
握りしめた際に付着した悟史の血液だろう。
「ん?」
ガシャン、と音がした。
振り返ると、そこにはガラスの残骸が散乱している。
目を凝らして見てみると、それは全員に支給されたランタンであった。
振り返ると、そこにはガラスの残骸が散乱している。
目を凝らして見てみると、それは全員に支給されたランタンであった。
「なんでこんなものが……」
すたすたと足音を立てる蒼星石。
水の滴る音は、まだ止んでいない。
そして――――
水の滴る音は、まだ止んでいない。
そして――――
「――――ッ!?」
頭上から飛び掛ってくるこなたの姿を最後に、彼女の意識は暗闇の中に落ちていった。
☆ ☆ ☆
「どうかしましたか?」
トイレから戻ってきた桐山を見て、Lは覗き込むように質問する。
冷静沈着な彼には珍しく、息を荒げているのがはっきりと分かった。
冷静沈着な彼には珍しく、息を荒げているのがはっきりと分かった。
「蒼星石が……死んでる」
桐山の告白は、その場にいた全員に衝撃を齎した。
「う、嘘です……嘘吐くなです!!」
桐山の告白を否定する翠星石。
顔は真っ青に青ざめていて、手は小刻みに震えている。
顔は真っ青に青ざめていて、手は小刻みに震えている。
「ッ……泉さんは?」
「分からない、が、何処にも見当たらなかった」
「分からない、が、何処にも見当たらなかった」
ギリッと奥歯を噛み締めるL。
この場にいる人間の中では比較的冷静さを保っていられたが、それでも完全に動揺を隠すことはできなかった。
この場にいる人間の中では比較的冷静さを保っていられたが、それでも完全に動揺を隠すことはできなかった。
「まさか……先輩が……」
翠星石と同じように顔面を蒼白に染めたみなみが、独白のように呟く。
その後に続く言葉は、言わずとも誰にも予想できるだろう。
その後に続く言葉は、言わずとも誰にも予想できるだろう。
”泉こなたが、蒼星石を殺害して逃げた”
「非常に残念ですが、その可能性は極めて高いでしょう
情報交換は中止です、これから泉さんを追います」
情報交換は中止です、これから泉さんを追います」
表情は変えないまま、しかし普段よりも荒い語調で宣言するL。
みなみの顔には、より一層暗い影が落ちる。
みなみの顔には、より一層暗い影が落ちる。
「でも……どうやって追うんですか? 泉さんが何処に行ったのか分からないんじゃ……」
「そうだ! 彼女が何処に行ったのかを知る方法が――――」
「あります」
「我々には無いだろう……ってなに?」
「そうだ! 彼女が何処に行ったのかを知る方法が――――」
「あります」
「我々には無いだろう……ってなに?」
かなみの指摘に上田は長々と便乗するが、Lはたった四文字で切り捨てる。
「彼女のデイパックを調べた時に発信機を仕込んでおきました、受信機はここにあります」
くすんだ色のジーパンのポケットから、リモコンほどの大きさの機械を取り出す。
これは元々は真司の支給品であり、預かった際にこっそり拝借していたのだ。
これは元々は真司の支給品であり、預かった際にこっそり拝借していたのだ。
「上田さん、お願いします」
「Why? 何故私が!?」
「Why? 何故私が!?」
手に持った受信機を、呆然としている上田に差し出す。
すると上田は露骨に狼狽し、口早に異を唱えだした。
Lがその内心を知る由もないが、上田はこの殺し合いに乗っている者に対して恐怖を抱いていた。
東條悟、ミハエル・ギャレット、稲田瑞穂、前原圭一、瀬田宗次郎。
今まで出会ってきた者たちは、頭のネジが何本も抜けているような者ばかりだった。
いくら天才的頭脳を有していても、彼らのような人種とは会話ができない。
ハッキリ言って、関わりたくなかったのだ。
すると上田は露骨に狼狽し、口早に異を唱えだした。
Lがその内心を知る由もないが、上田はこの殺し合いに乗っている者に対して恐怖を抱いていた。
東條悟、ミハエル・ギャレット、稲田瑞穂、前原圭一、瀬田宗次郎。
今まで出会ってきた者たちは、頭のネジが何本も抜けているような者ばかりだった。
いくら天才的頭脳を有していても、彼らのような人種とは会話ができない。
ハッキリ言って、関わりたくなかったのだ。
「上田さんしかいないんです、この中で一番腕っ節が強いのは貴方なんですから」
「し、しかし……」
「お願いします」
「し、しかし……」
「お願いします」
上田がいくら目を逸らしても、Lは不健康そうな隈に彩られた目で追い続ける。
あまりにも居たたまれず、やがて上田は観念したように肩を落とした。
あまりにも居たたまれず、やがて上田は観念したように肩を落とした。
「ふぅ……仕方がないな、この私の頭脳と手腕が必要とあっては力を貸さないわけにはいかない」
放つ言葉は尊大なものの、普段のような張りのある声ではなかった。
「……私も行かせてください」
上田との交渉を終えた直後、影に隠れていたみなみが前へと出てくる。
「……先ほども言いましたが、泉さんが蒼星石さんを殺した可能性はかなり高いです、それでも行きますか?」
「足手まといにはなりません、それに……先輩が何でこんなことをしたのか知りたい」
「足手まといにはなりません、それに……先輩が何でこんなことをしたのか知りたい」
みなみの目を覗き込む。
ただの女子高生であるみなみを外出させるのは避けたいが、上田だけではどうしても不安が残る。
ただの女子高生であるみなみを外出させるのは避けたいが、上田だけではどうしても不安が残る。
「なら、俺も行こう」
静観していた桐山が立候補した。
「俺にはカードデッキがある、襲われたとしても返り討ちにできる」
デイパックの中から黒いカードケースを取り出し、学生ズボンのポケットの中に仕舞い込む。
確かにカードデッキの力があれば、並大抵の敵なら跳ね除けることができるだろう。
真司が気絶中である以上、現状の最強戦力は彼だ。
確かにカードデッキの力があれば、並大抵の敵なら跳ね除けることができるだろう。
真司が気絶中である以上、現状の最強戦力は彼だ。
「分かりました、岩崎さん、桐山さん、お願いします」
表情を崩さないまま、Lは二人にこなた探索隊に加えた。
「私は……蒼星石を見に行きます……」
嗚咽を漏らしながら、翠星石は自らの意思を告げる。
自分自身の半身ともいえる蒼星石の死は、怒りよりも悲しみの方が大きかったようだ。
それに、もしかしたら桐山が見間違えただけかもしれない。
自分の目で確認するまで、彼女は蒼星石の死を認める気はなかった。
自分自身の半身ともいえる蒼星石の死は、怒りよりも悲しみの方が大きかったようだ。
それに、もしかしたら桐山が見間違えただけかもしれない。
自分の目で確認するまで、彼女は蒼星石の死を認める気はなかった。
「分かりました、私も彼女の遺体を拝見します」
「えっと……私は……」
「えっと……私は……」
ほぼ全員の役割が決まったが、かなみだけがまだ決まっていない。
自分だけが蚊帳の外であったため、不安に苛まれたのだろう。
自分だけが蚊帳の外であったため、不安に苛まれたのだろう。
「由詑さんはここに残っていてください」
「でも……!」
「でも……!」
彼女は子供であり、さらに左腕を骨折している。
探索隊に加えても足手まといになるのは目に見えているのだ。
探索隊に加えても足手まといになるのは目に見えているのだ。
「私も何かしたいです! 出来ることなら何でもしますから!」
包帯の巻かれた腕を不便そうに振るいながら、必死に懇願するかなみ。
その姿を見て、Lは数秒間だけ思考した後にこう告げた。
その姿を見て、Lは数秒間だけ思考した後にこう告げた。
「では、裏門にいる右京さんを呼んできてください」
「わ、分かりました!」
「わ、分かりました!」
指示を受けると、彼女は一目散に駆けていく。
誰にでもできることであったが、とにかく何かをしたかったのだろう。
誰にでもできることであったが、とにかく何かをしたかったのだろう。
「殺人を犯した可能性のある泉さんを放置しておくわけにはいきません、迅速に確保してください」
こうして、彼らは会議室を後にした。
☆ ☆ ☆
「これは……」
女子トイレに集まったL、右京、翠星石の三人は、目の前に広がる惨状を見て思わず声を漏らした。
着衣が乱れ、事切れた蒼星石の姿。
強烈な打撃を受けたのだろうか、顔には痛々しい痣ができている。
そして何よりも目立つのは、喉元に深々と突き刺さった鉛筆。
鉛筆は蒼星石の細い喉を貫通しており、これが死因となったのは間違いないだろう。
着衣が乱れ、事切れた蒼星石の姿。
強烈な打撃を受けたのだろうか、顔には痛々しい痣ができている。
そして何よりも目立つのは、喉元に深々と突き刺さった鉛筆。
鉛筆は蒼星石の細い喉を貫通しており、これが死因となったのは間違いないだろう。
「そんな……蒼星石……」
崩れ落ちる翠星石。
もしかしたら生きているかもしれないという淡い希望も、あまりに呆気無く打ち砕かれたのだ。
もしかしたら生きているかもしれないという淡い希望も、あまりに呆気無く打ち砕かれたのだ。
「遺体を検分してもよろしいでしょうか、翠星石さん?」
そんな彼女を尻目に、Lは無表情のままだ。
こなたとの悶着で彼の性格をある程度は理解していたつもりだったが、自らが当事者となるとその不愉快さに辟易する。
こなたとの悶着で彼の性格をある程度は理解していたつもりだったが、自らが当事者となるとその不愉快さに辟易する。
「勝手にしやがれです」
今更なにを調べる必要があるのかと思うが、もしかしたら予想もできない真実が見つかるかもしれない。
それを達成できるような人物は、Lや右京のような頭のいい者たちだろう。
だがそれでもLの態度が気に食わず、言葉に出てしまった。
それを達成できるような人物は、Lや右京のような頭のいい者たちだろう。
だがそれでもLの態度が気に食わず、言葉に出てしまった。
「……」
蒼星石のマスターである柴崎元治を呪縛から解き放ち、ようやく手に入れた本当の幸せ。
だが、もうそれは何処にもない。
真紅も、劉鳳も、新一も、そして蒼星石も死んだ。
彼女の死に直面し、去来したものは怒りでも悲しみでもなく虚無感だった。
だが、もうそれは何処にもない。
真紅も、劉鳳も、新一も、そして蒼星石も死んだ。
彼女の死に直面し、去来したものは怒りでも悲しみでもなく虚無感だった。
「翠星石さん、これが何かご存知ですか?」
Lの手の平には、翠星石にとって見覚えのある物が乗っている。
「蒼星石の……ローザミスティカ……」
ローゼンメイデンにとって命にも等しい代物。
これが身体の外に出たということは、アリスゲームの脱落――――死を意味する。
これが身体の外に出たということは、アリスゲームの脱落――――死を意味する。
「これは私たちにとって命みたいな物です、できれば翠星石に渡してほしいです」
「……分かりました」
「……分かりました」
少し逡巡した後、Lは蒼星石のローザミスティカを差し出してくる。
それを受け取った翠星石は、口を結んだままそれを自らの胸に押し当てた。
それを受け取った翠星石は、口を結んだままそれを自らの胸に押し当てた。
(せめて、私の中で真紅と一緒に……)
翠星石の身体が眩い光に覆われ、時間と共に身体の内側へと吸い込まれていく。
彼女がこれを体験するのは二度目である。
アリスゲームに積極的だった水銀燈ではなく、否定的だった彼女がローザミスティカを二つも得たのは何の皮肉だろうか。
身体が暖かい感触に包まれるが、対照的に心は氷のごとく冷え切っていた。
彼女がこれを体験するのは二度目である。
アリスゲームに積極的だった水銀燈ではなく、否定的だった彼女がローザミスティカを二つも得たのは何の皮肉だろうか。
身体が暖かい感触に包まれるが、対照的に心は氷のごとく冷え切っていた。
(え……?)
翠星石の表情が見る見るうちに歪んでいく。
蒼星石のローザミスティカを取り込んだことで、彼女が有していた記憶がぼんやりと浮かび上がる。
そうして伝わってきたのは、予想だにしない光景であった。
蒼星石のローザミスティカを取り込んだことで、彼女が有していた記憶がぼんやりと浮かび上がる。
そうして伝わってきたのは、予想だにしない光景であった。
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121:彼と彼女の事情 | 城戸真司 | 131:DEAD END(中編) |
翠星石 | ||
岩崎みなみ | ||
杉下右京 | ||
125:How many miles to the police station? | 上田次郎 | |
由詑かなみ | ||
泉こなた | ||
蒼星石 | ||
桐山和雄 | ||
L | 131:DEAD END(後編) |