先日の帝國の古人が南方古人を捕虜にするネタを元に手荒く書いた代物。
書いてみるとテンプレとご都合主義に満ちている気がする。
何気にアウルスがほぼ初登場。
「以上で報告を終わります。」
アウルス・ヴァレリウス・ロムルスは機神を用いた偵察結果を報告した。
指揮官たちに配布された紙と自分の背後の帆布には上空から写された敵軍がくっきりとその姿を見せており、机が並ぶ天幕の中央には幻影魔術で再現された会敵予想地点の地形が模写されたかのように見えている。この後すぐに参謀が土を使って実物の地形そのままの模型を作り上げるだろう。
「ご苦労だった。貴官の情報支援に感謝する。」
南部軍司令官であるフェルヌス・ユリウス・マキシムスが笑みを浮かべてうなづいた。
なにしろ敵軍の規模と進行ルート、自軍と敵軍の間の地形を全て視覚化して見せられたのだから。
参謀の一人など、眼を皿のようにして写像を睨んで地形図に書き込んでいる。
軍人の永遠の問いに「あの丘の向こうには何がある?」というものがあるが、アウルスはそれにほぼ完璧に答えて見せた。後は司令官が自ら確かめればいい段階まで。
「帝都防衛戦では貴官が参謀総長の切り札と言われていたそうだが、納得だ。」
「ありがとうございます。何か質問はありますでしょうか?」
フェルヌスに一礼して周囲を見回した次の瞬間、物凄い勢いで数名が手を挙げた。
会戦が終わり、兵が本拠へ帰還した夜。帝国軍はひと時の勝利に浮かれていた。
内戦中の帝国を狙って南方諸国は何かと介入していたが、今回の攻撃は特に大規模なものだった。
それが今度の勝利によって、南方戦線はひとまず息をついたと言えた。
アウルスは宴席が行われていた館のバルコニーに立ち、路地で浮かれ騒ぐ兵士たちを眺めて微笑んでいた。
若干目に掛かっていた、豪奢と言ってよい黄金の髪をかきあげると持っていたガラスの杯を口に当てる。
「ヴァレリウス・ロムルス卿」
呼びかけに気づいて振り向くと、フェルヌスの参謀の一人がこちらに歩み寄っていた。
「何か?」
「司令官閣下がお呼びです。来て頂けますか?」
アウルスは頷いた。フェルヌスは宴の中程よいところで切り上げ、自室へ戻ったはずだった。
「急に呼んですまないな。」
「構いませぬ。酔いを醒ましていたところでしたゆえ。」
呼び出された先、フェルヌスが自室に使っている部屋は、それなりに豪華だった。水魔法は掛けていないようだがが、風がよく通る構造になっているらしく、不快さはなかった。
「実はお前さんに話がある。」
「と、おっしゃいますと。」
砕けた言い方と共に差し出された冷茶に、礼を言いながら答えると、フェルヌスはアウルスの部屋に入るまでの全ての予想を吹き飛ばす問いを告げた。
「お前さん、南方古人の相手をする気はないか?」
「は?」
思わずも、礼を失した答えが出た。
「失礼しました。」
「なに、気にするな。気持ちはわかるよ。」
にやりと笑いながら、フェルヌスは続けた。
「さっきの戦闘、追撃に移る時に、お前が出ただろう。」
「はい、出撃を許可下さり有難うございました。」
この内戦の中、アウルスのもっとも多い任務は偵察である。それが戦略偵察であれ、今回のような戦術偵察であれ、任務の性質上、基本的に交戦を許可されないし、そもそも交戦の機会はほとんどない。
彼の機神“デインデ・ヴァレリウス”はかなり特殊な仕様になっているが、偵察用の軽量装備の状態では最高で高度七里半を時速一千里以上で駆け抜ける。これは古い機神が多く残る帝国においてもかなり常識外だ。
これに高度な隠蔽魔法まで掛けて進むため、多くの場合そもそも魔力探知に引っかからずにその範囲の上を飛ぶ事になる。既に国境を越えた偵察も多く行っていたが、生き延びている。
どれほど強い機神を持っている一門だとしても生き残れるとは限らない、昨今の内戦においては安全といってよいのかもしれないが、逆に言うとそれは中々実戦経験を積む事が出来ないという事でもある。
内戦序盤、低空を飛行して偵察していた時期に比べて交戦機会が減ったため、自らの腕が落ちる事を恐れたアウルスは、偵察任務が終わった後も、可能であれば戦場に出るようにしていた。参謀本部や軍情報部はあまりいい顔をしてくれないのだが、同時に彼を黒の龍神の乗り手と共に機神狩り部隊の一人として運用しようという意見もあり、制止はされていない。
実際彼の乗り手としての能力は、戦闘に出れば明らかだった。
「そこでお前さんが倒した王の近衛騎士達だが、生きていてな。」
「はい。」
会戦の最中、趨勢が完全に定まり、戦場より撤退する王を捕らえようと追撃に移った帝国軍を食い止めようと立ちはだかった部隊がいた。王の傍に侍る、古人の近衛騎士からなる親衛隊だ。
その働きは賞賛に値し、他の(つまり常人の)近衛騎士と共に一時帝国軍の追撃を、それもその穂先である黒騎士を食い止めたのだが、一機が撃破された段階で均衡が崩れた。あとは乱戦の中で次々に撃破されてほぼ全滅したものの、王を逃がすという最大の役目は果たしていた。
「南方古人なので、せっかくだから帝国への亡命を薦めてみたところ、お前さんに会いたいらしい。」
「先ほど近衛騎士『達』と仰られていましたが、何人かいるので?」
「4人だ。」
「多いですね。4人全員ですか?」
「そりゃそうだ。全部お前さんに倒されたんだからな。」
「残りの近衛騎士は?」
「古人だろうが何だろうが、ほとんど俺の部下の手柄首になったな。お前さんは相手の機体に一撃入れて戦闘不能にしたら、さっさと次に移っていたから生きてたみたいだが。」
「最重要目標がその先にいたので急いでいまして。」
「わかってる。別に慈悲を掛けたわけじゃないんだろう?」
「生け捕りを最初から狙っていくのは、必要な任務以外では騎士に対する侮辱では?」
「南方諸国では違うやり方らしいからな。ともあれ別に協議させたわけじゃないが、それぞれ全員『自分を倒した者』、つまりお前さんに会って話がしたいと言っているそうだ。」
「何を話せばよろしいので?」
「何でもいいが、帝国に亡命してくれれば御の字だな。いっそ口説いたらどうだ。その顔ならかなり行けるぞ。」
「お戯れを。女性の口説き方など手馴れておりませぬ。」
「捕虜の虐待は厳禁だが、同意の上ならば問題はないぞ?」
そう続けながら、フェルヌスはまたしてもニヤリという笑いを顔に浮かべた。
「4機も生きたまま撃墜したんだ、ついでに説得してくれ。」
「あれはほとんど運と機体の性能のおかげです。均衡を崩せる時間と場所にたまたま居合わせて、一機倒したら次々に目の前に出てきたから対応しただけで。他の方でも同じように出来たでしょう。」
「運も機体も実力のうちさ。ともあれ任せたからな。話は通してあるから今夜にでも会ってみたらどうだ?」
結婚するまでそういう事をするつもりはないのだが。困惑するアウルスとは別にフェルヌスは愉快そうに笑っていた。
「なぜだ。」
アウルスは呟いた。
「どうしてこうなった?」
呆然と左右を見れば、ほぼ裸の女性が2人ずつ、布を体に掛けただけで左右に横たわっている。部屋の片隅には脱ぎ捨てられたそれぞれの服が散らばっていた。
今自分がいるのは半地下になった、捕虜のうち古人を収容するための建物の一室。寝台が5つも横並びにくっつけて並べられている。
東向きの窓を見ると空にうっすらと赤みがさしているのがわかる。もうじき鳥が囀り始めるだろう。
「…………。」
思わず手で顔を覆うと、体を起こして来たままの服を整え、軍服の上着を羽織った。
ぼんやりした記憶を引き起こして何とか夕べの様子を思い出そうとする。
フェルヌスと会った後この建物に案内され、その時看守がニヤニヤしながら「ごゆっくり」と言ったのは思い出せる。
確か部屋に入った時既に寝台はこの状態で、部屋には微かに香が炊かれていた。
そこから先は断片的にしか思い出せない。
誰かが色々な事を言っていたような気がする。
「デカい寝床だ。私達皆でも、不足はないな。」とか
「一人で相手をする気か。侮られたものだな、私達も。」とか
「貴方にはここで果てていただきます。理由はおわかりですね?」とか
そうして肌を露にした彼女らが迫ってきて――。
――そうだ。それで自分は。
どこか、頭の中のねじが外れて痺れたような感覚を覚えながら“影”を召還した。
自分の体から漆黒の影が寝台一杯に広がり、その闇夜のように黒い場所から伸ばされた無数の触手が彼女達を絡め取る。魔導によって構成されたそれが接触した肌から彼女らの感覚を侵し、彼女らの顔色が変わる。
それを眺めて、微笑みながらこう言った。婚前交渉の趣味はないので君達を抱く事はできないが、せめて楽しんでくれと。
“影”が彼女達に一斉に覆いかぶさってその体を飲み込み、やがて嬌声の四重奏が始まった。
それを聞き流しながら部屋にあった土瓶に水を入れて沸かして茶を淹れ、しばし彼女達の音色に耳を傾けつつその味を楽しみ、“影”を通して彼女達を満たす事に専念した。
“影”で彼女達の肉体に浸透しつつ、楽しめるようにやり過ぎない程度に感覚系を調整してあげ、精神の方で苦痛を感じているようであれば手を緩め、快楽をより求めるようであれば少し負荷を掛けて調整する。
やがて彼女達が皆果てた末に眠りに就いたのを確認して“影”の中から出すと、煙草に火をつけてしばし余韻に浸り、吸い終わったところでまだ頭の痺れを感じながらその場で眠ったのだった。
「…………。」
なんということをしでかしたのか。魔導の業をこのような事に使うとは!
再び呆然としながら女性の一人、マリエスと名乗っていた彼女の顔を見れば。
その顔には一筋、涙の跡が残っていて。
アウルスは自己嫌悪で死にたくなった。これでは南方諸国の淫蕩な王侯貴族と何も変わらぬではないか!!
顔を青ざめさせながら心中で「すまない。すまない!」と叫びつつ部屋を出た。
建物を出る際に看守からは別れの挨拶として、この上もなく陽気にこう告げられた。
「いやあアウルス様、ゆうべはお楽しみでしたね。お疲れ様でした!」
ますます死にたくなった。
最終更新:2012年06月30日 01:08