故郷にて その1

筆がある程度乗ったお陰で続けて書けるようになっています。
元々ここで出す予定の人がいますが、書いていたらケイレイ様の話で水軍が出てきたのには驚きました。



ヨハネス・ヴァレリウス・ピカルデスは頭を下げた。
「この度は我が一門のアウルスが我侭をいい、お手数をおかけしました。」
内海に面する帝國の艦隊の艦長の一人であり、探検家としても有名な彼が頭を下げているのは現在の彼の上司、フェルヌス・ユリウス・マキシムスだった。
彼と、彼の兄弟たちにとって近孫(正確には彼の兄の孫)であるアウルス・ヴァレリウス・ロムルスは先日の会戦にて敵国の親衛隊を撃破していたが、その際に捕虜となった親衛隊長のマリエス以下が帝國に亡命を希望したものの、同時にアウルスへの出仕を希望したため、その件について許可してくれたフェルヌスへ礼を言っていたのだった。
「いやいや、お気になさらないでください。」
年上ゆえか、探検家としての名声ゆえか、フェルヌスの口調は丁寧だった。
「本来なら彼女らは生きて我が軍の手の中にいなかったかもしれないのですから、幸運な拾い物のようなものです。アウルス卿に仕えたいならそうしてもらってかまいません。」
「そう言って頂けると幸いです。」
「それに彼女らは既に帝國の役に立っています。聞き取りを始めていますが、貴重な情報を提供してくれていますよ。自国についてだけではなく、周囲の国についても親衛隊長と幹部だっただけに我々の知らぬ情報も持っていました。」
特にアル・レクサ王国に関して情報をもたらしてくれたのは有難い、フェルヌスはそう続けた。
「南方諸国においてあの手の部隊は切り札ですから、かなりの事を知りうる立場だったでしょう。とはいえその部隊を失い、国軍そのものも司令官がお勝ちになられましたし、あの国も今後は厳しいでしょう。」
航海中に寄港地として停泊し、また外交任務でも赴いた経験からか、修道僧のような禿頭のヨハネスの顔には少々の同情が浮かんでいた。とはいえ、先日までフェルヌスの指示の下で作戦行動を取っていたのも彼自身だったのだが。
「しかし南方古人を4人も堕とすとは、貴方の近孫はなかなかのやり手のようだ。」
フェルヌスの表情にはどこか面白がっているところがあった。
「若さゆえの暴れでしょう。お恥ずかしいところです。彼が自分の行動の重さを理解してくれているとよいのですが。」
男女関係については人並みの倫理基準を持つヨハネスとしては、古人を4人も抱え込むというのは驚愕の事態だった。特にアウルスはそれまで周囲が心配するほどその手の話に興味がなかったのだから
「なに、暴れるのは若さゆえの特権ですよ。私もかつてはそうでした。そして自分の行動の意味を理解できるようになったら、それは大人になったという事です。」
貴方もそうでしょう?とフェルヌスは問うた。若い艦隊士官時代、数々の武勇伝を誇る問題児だったヨハネスとしては、恐縮するしかなかった。

そのヨハネスに苦言という名のお小言を既に頂いていたアウルスは、南方から帝都へ帰還中であった。参謀総長であるカメリアに命ぜられた南方での任務、フェルヌスへの情報支援が終了し、帰還命令が出たためである。
機神に乗って移動してもよいのだが、それで移動できるのは彼一人のみであり、またそれによって機神を消耗させるのは得策ではないという判断により、彼はこの任務の時は副官のヴァルタスと共にテルベ河を下って南方へ赴いていた。
今度は逆に帝都までテルベ河を遡る予定であったが、行きと違って帰りは移動する数が4人も増えていた。先日アウルスへ仕える(同時に帝國軍にも一門経由で出仕する)事になった4人の古人、マリエス達である。
彼女らはアウルスと共にテルベ河沿い近くにあるヴァレリウス一門の本拠地モリアへ向かい、そこで分かれて家臣として必要な教育を受ける事になっていた。
「教育はそれなりに長くなると思う。家臣としてだけではなく、軍事教育もある程度行うそうだから。」
アウルスは船中で彼女達に告げた。
「君達は家臣としての基礎を学ぶ必要はないけれど、南方諸国とこちらでは宮中のしきたりも統治の行い方も軍事学の流れも何もかもが違うから、それについての教育が必要になると思う。」
「はい、心得ております。」
マリエスが4人を代表して答えた。後ろの4人も真剣な顔で聞いている。
「特に我が一門の歴史上、葬典祭祀・宮中儀礼・魔導・情報戦・荒事辺りは必須項目だから、頑張ってほしい。」
「はいマスター。御心のままに。」
マリエスは小さく礼をした。その後ろではリリアメスが「情報戦?荒事?」と小さく呟いていたが。
「むこうさんには君達の話を伝えてある。この船が着くまでに準備を整えるそうだ。盛大に歓迎するそうだから、期待していてくれ。」
「やはりマスターはちょっとな……」と呟いて悩むアウルスをよそに、ヴァルタスが微笑と共に話を補足した。

モリアと呼ばれる地域はそれなりに広大だ。
一般的に帝國の人間がモリアと聞いて思い浮かべるのは帝都からテルベ河を下った、湖のほとりにある都市の事だ。その町は正確にはノヴァモリア、新モリアと呼ばれている。
元々のモリア、古代魔導帝國の首都だった都市はそこから少し離れた場所にある。新モリアの住人に“杜のモリア”と呼ばれているそれは、新モリアから歩いて半日ほどの場所にある、人の手によって管理された森に覆われた静かな街だ。
夕刻、アウルス達の船はテルベ河から湖に入ると、新モリアの湖港にある埠頭へと停泊した。そこには数人の人間と、彼らに従ってきたらしい人々が彼らを待っていた。一人は髭を生やした老人であり、貴族としては比較的地味な服をまとっていた。もう一人は青みがかった銀色の髪を持つ美貌の女性で、帝國軍の制服を着ていた。三人目は禿頭の男であり、全身から武威と呼べるものを微かに醸し出していた。最後の一人は黒がかった紫の髪を肩口で切りそろえた女性で、こちらは近衛騎士の徽章つけた黄土色の制服を身にまとっていた。
「久しぶりじゃな、アウルス。」
「前に会ったのはだいぶ前ね。戦死もしないで何よりだわ。」
スルフス・ヴァレリウス・アトスリュア、フェブダス前男爵。エリュトリア・ヴァレリウス・アトスリュア、フェブダス現男爵。
アウルスの祖父フェリックス及び大伯父ヨハネスの弟とその娘である。
「はい、お久しぶりですスルフス大伯父上。エリュトリア姉上も元気そうで。」
アウルスは2人にそう微笑むと、続いてもう1人にも相対した。
「こんばんわ、ドゥーポス師匠。」
「おう。元気そうじゃねえか。」
禿頭の男はうれしそうな声だったが、顔に映し出せる笑みはどちらかというと凶悪なものだった。
ドゥーポス・アングイス。本来の名前ははドゥーポス・ヴァレリウス・ロムルスだが、あまり名乗ることはない。
若い頃に半ば家を出奔した彼は武道の道を一心に歩み、“虎殺しのドゥーポス”の名で知られている。既に大きな道場を構え、ヴァレリウス一門のしがらみからも抜けていた彼だったが、内戦の勃発と共に縁を戻し、帝都やモリアで若い兵士や騎士に教えていた。
ドゥーポス自身は古人でも魔導を使えるわけでもないのだが、人間同士の生身の戦なら帝國でも有数の強さだろう。少なくとも、アウルスは自身が魔導を全力行使したとしてもなぜか負ける予感がしていた。
3人に挨拶したアウルスは、最後の一人、女性に向き合い、挨拶しようとした。
「おかえり、アウルス」
だがそれは相手に先を越され、アウルスは頭を下げて答えた。
「ただいま帰りました、母上。」
ソリディア・ヴァレリウス・ロムルス。
現在のヴァレリウス一門の副氏族長であり、宗家当主の妻であり、アウルスの母。内戦が始まる前の帝都における謀略の渦の中の情報戦と、その後の内戦における壮絶な全面戦争を生き延びた女。
「話は聞いているわ。まずは夕食にしましょう。」
「はい、母上。」
ソリディアはアウルスに言葉を掛けると、目を細めてにっこりと微笑み。
「言い訳はその後でゆっくり聞くから。」
楽しそうに攻性の口調で、息子を心理的崖から突き落としたのだった。


恐ろしいほど時間が掛かったが、ようやっと話が書け始め、ようやっと出したかった人々が出せるようになった。
以下はその説明。かなり趣味全開。

ヨハネス・ヴァレリウス・ピカルデス
 元ネタ: ジャン=リュック・ピカード(スタートレック)
スルフス・ヴァレリウス・アトスリュア
 元ネタ:アトスリュア・スューヌ=アトス・フェブダーシュ前男爵(リューフ・レカ・フェブダク)・スルーフ(星界の紋章)
ドゥーポス・アングイス
 元ネタ:愚地独歩(バキ)
フェリックス・ヴァレリウス・ロムルス(※今回は未登場)
 元ネタ:キール・ローレンツ(新世紀エヴァンゲリオン)
ヴァレリウス一門の、アウルスの祖父の世代。全員中の人は麦人さんで、キール議長を出す時から兄弟は同じ声の人でそろえようと思っていましたw。

エリュトリア・ヴァレリウス・アトスリュア:
 元ネタ:アトスリュア・スューヌ=アトス・フェブダーシュ男爵(リューフ・フェブダク)・ロイ(星界の戦旗)
ジントとラフィール相手に「弔いの晩餐」をした印象が強く残っていたキャラ。饒舌で有能で道楽者で美人と非常に好みだったw
ヴァレリウス一門に出す予定だった人としては実はアウルスの次に古い。この後エメリスと絡む予定。

ソリディア・ヴァレリウス・ロムルス
 元ネタ:草薙素子(攻殻機動隊)
説明不要。やっと、やっと出せた大本命。

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最終更新:2012年07月03日 23:46