時は少し遡って1週間前。私ことカラレスミラージュは……盛大に暇を持て余していました。
「やることがない……」
基本的にリハビリ以外のトレーニングは禁止、学校の課題も終わっているどころか予習も進んでいるし、トレーナーさんから貰った動画も大体は網羅した上でメモ取ってる。この知識がすぐに活きるかと聞かれれば自信はないけど、テレビ越しに誰かのレースを見て「あぁ、こういう展開なんだな」っていうのは少しずつ分かるようになってきた。
出走前とか事前情報だけで推量を立てるのは難しいけど、少なくともゲートが降りてしまえば理解できる、そのくらいまでは習得したと自負している。つまるところ……
「遊びに行こう……」
これ以上詰め込んでも、モチベが乗らない状況では溢れ返るだけ。だったら、一回気を取り直すために出掛けてしまうのもアリだろう。
薄茶色の帽子を目深に被り、いつか買い揃えたブラウスとロングスカートで身を包む。普段なら激しい運動になるので置いていくペンダントも、折角だから首に掛けて。あとついでに、連休中にもらった伊達メガネも。これ意外としっくりくるんだよね、ちょっと重い気がするのがネックだけど。
女の子らしいファッションに身を包んで、向かった先は……当然、轟音渦巻くゲームセンター。明るいような薄暗いような、喧々囂々としていながらどこか落ち着くこの空間が大好きだった。トレセン学園に入学する前から通っていたくらいだし。
普段遊んでいる筐体から、少し離れた場所へ。今の状態で両足と全身を酷使するゲームなんてやったら、今度こそ大変なことになりそうだしね。大人しく指だけで遊べるゲームを楽しむことにする。
鞄からイヤホンを取り出して、カードを翳しながら挿入。聞き馴染んだイントロを堪能しつつ、早々にクレジットを支払えば、ずらっと並ぶ楽曲一覧。そういえば、トゥインクルシリーズの中で顕著な実績を残した生徒には、ライブ活動の一環でソロ曲が提供されるのだったか。私には到底縁のない話だけど、もし叶うなら書き下ろしとか受けてみたいな、なんて。
スクラッチをキュルキュルと回し、鍵盤を叩きながらそんなことを考えた。まあ、とりあえずは肩慣らし、ということで……
「やることがない……」
基本的にリハビリ以外のトレーニングは禁止、学校の課題も終わっているどころか予習も進んでいるし、トレーナーさんから貰った動画も大体は網羅した上でメモ取ってる。この知識がすぐに活きるかと聞かれれば自信はないけど、テレビ越しに誰かのレースを見て「あぁ、こういう展開なんだな」っていうのは少しずつ分かるようになってきた。
出走前とか事前情報だけで推量を立てるのは難しいけど、少なくともゲートが降りてしまえば理解できる、そのくらいまでは習得したと自負している。つまるところ……
「遊びに行こう……」
これ以上詰め込んでも、モチベが乗らない状況では溢れ返るだけ。だったら、一回気を取り直すために出掛けてしまうのもアリだろう。
薄茶色の帽子を目深に被り、いつか買い揃えたブラウスとロングスカートで身を包む。普段なら激しい運動になるので置いていくペンダントも、折角だから首に掛けて。あとついでに、連休中にもらった伊達メガネも。これ意外としっくりくるんだよね、ちょっと重い気がするのがネックだけど。
女の子らしいファッションに身を包んで、向かった先は……当然、轟音渦巻くゲームセンター。明るいような薄暗いような、喧々囂々としていながらどこか落ち着くこの空間が大好きだった。トレセン学園に入学する前から通っていたくらいだし。
普段遊んでいる筐体から、少し離れた場所へ。今の状態で両足と全身を酷使するゲームなんてやったら、今度こそ大変なことになりそうだしね。大人しく指だけで遊べるゲームを楽しむことにする。
鞄からイヤホンを取り出して、カードを翳しながら挿入。聞き馴染んだイントロを堪能しつつ、早々にクレジットを支払えば、ずらっと並ぶ楽曲一覧。そういえば、トゥインクルシリーズの中で顕著な実績を残した生徒には、ライブ活動の一環でソロ曲が提供されるのだったか。私には到底縁のない話だけど、もし叶うなら書き下ろしとか受けてみたいな、なんて。
スクラッチをキュルキュルと回し、鍵盤を叩きながらそんなことを考えた。まあ、とりあえずは肩慣らし、ということで……
【AAA!!! Yeah!!!】
とりあえず規定の3曲とおまけ1曲をこなして、イベントを処理しながら後ろをチラリと振り返る。別に自意識過剰とかそういう話じゃない。次の番を待ってる人がいるのに、気付かず遊ぶとかゲーマーの風上にも置けないから。
案の定、少し背の高いパーカー姿の男性がスマホ片手に立っているのが見えた。他には誰も並んでいなさそうだから、今日はこの人と私で筐体をぐるぐる回すことになるかな、なんて思ってたら。
「……カラレスミラージュさん、ですか?」
「へっ……? え!?」
丁度イヤホンを外したところで、ものすごく聞き馴染みのある声。相手の言葉にも若干の困惑が見える。だって、その声は私が毎日耳にしている……
「トレーナーさん!?」
「マジか……いえ失礼、休日の過ごし方は自由ですから。普段から頑張っているのも知っていますし、咎めたりはしませんよ」
一瞬覗いただけだったから気付かなかったけど、確かにその顔立ちとかスマホカバーとかはトレーナーさんのそれで。考えてみたら、私この人のスーツ姿しか見たことが無かったから私服に面食らったんだ。
というか咄嗟にフォロー入ってたけど、もしかして私、“トレーナーさんが怒ると思った”って思われてました……? いや確かに若干後ろめたかったけど。
「他に待ちもいませんし……連奏していきますか? 私もそこまで遊びたいって日でもなかったので」
「え、いいんですか?」
「特にこれと決めた曲もありませんでしたから。だったら、折角だし担当の趣味を知るのも悪くはないかなと」
言葉こそ丁寧だが、表情が普段ほどコテコテの笑顔じゃないのを見るに、ほどほど気を抜いて遊びに来たのが伝わってくる。多分「曲決めてない」も本心だろう、私もそういう日があるし。
「だったら折角なので、ありがたくプレイ権頂戴しますね!」
本人がいいと言うなら断る理由もなし。がんばるぞー、なんて胸中で唱えながら、趣味に任せた選曲を繰り返すことにした。流石に成人男性の側で電波曲流すのだけは自重したけどね!
とりあえず規定の3曲とおまけ1曲をこなして、イベントを処理しながら後ろをチラリと振り返る。別に自意識過剰とかそういう話じゃない。次の番を待ってる人がいるのに、気付かず遊ぶとかゲーマーの風上にも置けないから。
案の定、少し背の高いパーカー姿の男性がスマホ片手に立っているのが見えた。他には誰も並んでいなさそうだから、今日はこの人と私で筐体をぐるぐる回すことになるかな、なんて思ってたら。
「……カラレスミラージュさん、ですか?」
「へっ……? え!?」
丁度イヤホンを外したところで、ものすごく聞き馴染みのある声。相手の言葉にも若干の困惑が見える。だって、その声は私が毎日耳にしている……
「トレーナーさん!?」
「マジか……いえ失礼、休日の過ごし方は自由ですから。普段から頑張っているのも知っていますし、咎めたりはしませんよ」
一瞬覗いただけだったから気付かなかったけど、確かにその顔立ちとかスマホカバーとかはトレーナーさんのそれで。考えてみたら、私この人のスーツ姿しか見たことが無かったから私服に面食らったんだ。
というか咄嗟にフォロー入ってたけど、もしかして私、“トレーナーさんが怒ると思った”って思われてました……? いや確かに若干後ろめたかったけど。
「他に待ちもいませんし……連奏していきますか? 私もそこまで遊びたいって日でもなかったので」
「え、いいんですか?」
「特にこれと決めた曲もありませんでしたから。だったら、折角だし担当の趣味を知るのも悪くはないかなと」
言葉こそ丁寧だが、表情が普段ほどコテコテの笑顔じゃないのを見るに、ほどほど気を抜いて遊びに来たのが伝わってくる。多分「曲決めてない」も本心だろう、私もそういう日があるし。
「だったら折角なので、ありがたくプレイ権頂戴しますね!」
本人がいいと言うなら断る理由もなし。がんばるぞー、なんて胸中で唱えながら、趣味に任せた選曲を繰り返すことにした。流石に成人男性の側で電波曲流すのだけは自重したけどね!
「本当に上手いな……一体どれだけ突っ込んだんですか」
「トータルで○万円くらい……って何言わせるんです!?」
「いや、まあ……レース中のリズムキープが上手いのも納得しましたね、はい」
野口さん一枚でギリギリ収まるくらいまで遊んで、次を最後にしようかなーなんて考えていた頃に投げ掛けられた質問。冷静に考えると、「いつから」じゃなくて「どれだけ」遊んでるかって質問な時点で中々アレだよね、私まだ中等部だよ? お金遣いそんなに荒くないよ? 日頃のお小遣いでちゃんと賄ってる……ってそんなことはいいんだって!
「まあ次ラストにするので。折角だしリクエストとかあります? 2曲くらい」
なんだかんだで1時間以上同席させた訳だし、少しくらいはリクエスト聞いてあげてもいいよね。私だって好きな曲が目の前で遊ばれていたらテンション上がるし、それなりに上手いから見るに堪えない姿も晒さないはずだし。
「そうですね……では、[2番難しい曲]と[1番難しい曲]でもお願いしましょうか」
「やりますけど他の人に頼んだらブン殴られますからね?????」
そしてこの畜生ぶり、やっぱり笑っていてもこの人は私のトレーナーさんだってよく分かった。
「トータルで○万円くらい……って何言わせるんです!?」
「いや、まあ……レース中のリズムキープが上手いのも納得しましたね、はい」
野口さん一枚でギリギリ収まるくらいまで遊んで、次を最後にしようかなーなんて考えていた頃に投げ掛けられた質問。冷静に考えると、「いつから」じゃなくて「どれだけ」遊んでるかって質問な時点で中々アレだよね、私まだ中等部だよ? お金遣いそんなに荒くないよ? 日頃のお小遣いでちゃんと賄ってる……ってそんなことはいいんだって!
「まあ次ラストにするので。折角だしリクエストとかあります? 2曲くらい」
なんだかんだで1時間以上同席させた訳だし、少しくらいはリクエスト聞いてあげてもいいよね。私だって好きな曲が目の前で遊ばれていたらテンション上がるし、それなりに上手いから見るに堪えない姿も晒さないはずだし。
「そうですね……では、[2番難しい曲]と[1番難しい曲]でもお願いしましょうか」
「やりますけど他の人に頼んだらブン殴られますからね?????」
そしてこの畜生ぶり、やっぱり笑っていてもこの人は私のトレーナーさんだってよく分かった。
【AA!! Nice Play!!】
「指がぁぁぁぁぁぁ!!」
「いやぁお見事でした、本当に上手なことで」
「喧嘩売ってます??? 買いますよ???」
案の定、バチバチに鍵盤叩かされてガックガクに痙攣してる両手。まあ数十秒も置いておけば治るけど。というか私が店内4位くらいだったのに対して、3位の人のユーザー名とトレーナーさんの名字が似ていたような……
「まあ今日の時点では私の勝ちということで」
「よし名前覚えましたからね覚えてて下さいなトレーナーさん???」
そんなじゃれ合いを続けていると選曲時間が終わりそうだったので、慌てて本命の曲を選ぶ。危ないこれでやり過ごしたらもう1クレ入れないといけないところだった。
「あぁ、蜃気楼の図書館ですか」
「私の名前が名前なのもあって、少し親近感というか特別感があるんですよ」
4バージョンくらい前のボス曲、タイトルは確かラテン語だったかな。英語で書いたら“Song”にしかならない言葉がこんなカッコいい単語になるなんて、そんなことを考えた記憶がある。作曲者さんの正体が分からなかったのも話題だったね。
シンフォニックのジャンル名に見合った荘厳さと重厚さ、ゲーム音楽に相応しいキックやシンセの強烈さ。静と動、穏と騒。対極の存在が見事に調和を果たし、全力でプレイヤーに殴り掛かってくる。
トレーナーさんに投げられたド畜生選曲ほどじゃないにせよ、心臓を揺さぶって離さないカリスマ性と純粋な難易度としての暴力的譜面は、絶対に乗り越えたい壁として私の前に立ちはだかる。
何処からかのタイミングで。譜面を注視する目元から、力が抜けていた。緊張に強張っていた指先が、少し滑らかに進む。脳内で運指をイメージするより先に、肉体のメモリが最適解を導出する。少しずつ少しずつ、思考が画面の中にのめり込んでいく。
……後になって思えば。レース一本も、ゲーム一曲も、大体が2分前後。だったら、まあ、集中が続くのも当然の帰結なのかなと言う話なのか。まあ、それも……『後になるまで分からない』んだけど。
【AAA!!! Full Combo!!!】
最終的に、刻み付けられた記録は、店内1位。まだまだ上はいると思いつつも、大幅に伸びたベストスコアに安堵の息を漏らしたのであった。
「指がぁぁぁぁぁぁ!!」
「いやぁお見事でした、本当に上手なことで」
「喧嘩売ってます??? 買いますよ???」
案の定、バチバチに鍵盤叩かされてガックガクに痙攣してる両手。まあ数十秒も置いておけば治るけど。というか私が店内4位くらいだったのに対して、3位の人のユーザー名とトレーナーさんの名字が似ていたような……
「まあ今日の時点では私の勝ちということで」
「よし名前覚えましたからね覚えてて下さいなトレーナーさん???」
そんなじゃれ合いを続けていると選曲時間が終わりそうだったので、慌てて本命の曲を選ぶ。危ないこれでやり過ごしたらもう1クレ入れないといけないところだった。
「あぁ、蜃気楼の図書館ですか」
「私の名前が名前なのもあって、少し親近感というか特別感があるんですよ」
4バージョンくらい前のボス曲、タイトルは確かラテン語だったかな。英語で書いたら“Song”にしかならない言葉がこんなカッコいい単語になるなんて、そんなことを考えた記憶がある。作曲者さんの正体が分からなかったのも話題だったね。
シンフォニックのジャンル名に見合った荘厳さと重厚さ、ゲーム音楽に相応しいキックやシンセの強烈さ。静と動、穏と騒。対極の存在が見事に調和を果たし、全力でプレイヤーに殴り掛かってくる。
トレーナーさんに投げられたド畜生選曲ほどじゃないにせよ、心臓を揺さぶって離さないカリスマ性と純粋な難易度としての暴力的譜面は、絶対に乗り越えたい壁として私の前に立ちはだかる。
何処からかのタイミングで。譜面を注視する目元から、力が抜けていた。緊張に強張っていた指先が、少し滑らかに進む。脳内で運指をイメージするより先に、肉体のメモリが最適解を導出する。少しずつ少しずつ、思考が画面の中にのめり込んでいく。
……後になって思えば。レース一本も、ゲーム一曲も、大体が2分前後。だったら、まあ、集中が続くのも当然の帰結なのかなと言う話なのか。まあ、それも……『後になるまで分からない』んだけど。
【AAA!!! Full Combo!!!】
最終的に、刻み付けられた記録は、店内1位。まだまだ上はいると思いつつも、大幅に伸びたベストスコアに安堵の息を漏らしたのであった。
「ふう、今日はめちゃくちゃ堪能しました……!」
「お疲れ様です、こちらもいいものが見れましたよ」
「言っておきますけど当分忘れませんからね???」
少し汗ばんだ額を拭い、自販機でスポドリを買ってゴクゴクと。別にジュースとかでもいいだろうに、しっかり身体のことを気遣ったチョイスが出来るのも一種の職業病なんだろうね。
というかさっきの最終曲、我ながらプレイが上手すぎて再現性がない気がする。更新された時に取り返せるかな……?
「そろそろ私は帰りますけど、トレーナーさんどうします?」
「私は別件があるのでもう少々。くれぐれも気を付けて帰宅してくださいね」
「はーい! 大丈夫です!」
思わぬアクシデントにも見舞われたけど、最終的には外出を丸々エンジョイ出来たということでヨシ! こうしてゆったり出来るのも今だけだろうから、休めるうちに英気を養っていかないとね!
さあ来週は日本ダービー! 3人の走りがどれだけ見事に決まるか、しっかり見届けなくちゃ!
「お疲れ様です、こちらもいいものが見れましたよ」
「言っておきますけど当分忘れませんからね???」
少し汗ばんだ額を拭い、自販機でスポドリを買ってゴクゴクと。別にジュースとかでもいいだろうに、しっかり身体のことを気遣ったチョイスが出来るのも一種の職業病なんだろうね。
というかさっきの最終曲、我ながらプレイが上手すぎて再現性がない気がする。更新された時に取り返せるかな……?
「そろそろ私は帰りますけど、トレーナーさんどうします?」
「私は別件があるのでもう少々。くれぐれも気を付けて帰宅してくださいね」
「はーい! 大丈夫です!」
思わぬアクシデントにも見舞われたけど、最終的には外出を丸々エンジョイ出来たということでヨシ! こうしてゆったり出来るのも今だけだろうから、休めるうちに英気を養っていかないとね!
さあ来週は日本ダービー! 3人の走りがどれだけ見事に決まるか、しっかり見届けなくちゃ!