ある日のこと。オレは担当ウマ娘であるエスキモーと2人でトレーニング用品を買いに学園から離れたデパートを訪れていた。
……彼女いわくデートとのことだが、あくまでも買い出しということにしている。
……彼女いわくデートとのことだが、あくまでも買い出しということにしている。
「ねえトレーナー、噂になってるカフェってここみたい」
「へえ、雰囲気良さそうじゃないか」
「へえ、雰囲気良さそうじゃないか」
そんな中ちょうど互いに小腹が空いたとのことで、今話題になっているらしいカフェに来た。一見すると昔ながらの喫茶店に見えるものの、店内は明るく若い女性の姿が多く見える。
「レトロな雰囲気がウマスタ映えするんだって」
「メニューもパンケーキとかパフェとか映えそうなものが多いな。それでいてコーヒーの種類も多い。これは流行るわけだ」
「メニューもパンケーキとかパフェとか映えそうなものが多いな。それでいてコーヒーの種類も多い。これは流行るわけだ」
席が空くまで見ていてくださいと渡されたメニューを2人で見ていると、オレたちの後ろに1組、2組、3組と次々に並び始めた。彼女たちの会話を聞いていてもやはりこの雰囲気が人気らしい。
「お待たせしました! 列の先頭の2名様どうぞ!」
「はーい!」
「はーい!」
念のため知り合いがいないか周囲を警戒しているうちに席が空いたようで、エスキモーとオレは店内へと足を踏み入れた。
(それにしてもエスキモーのテンションがさっきより上がってないか?)
本人は抑えているつもりかもしれないが、尻尾がいつもより揺れているし、声のトーンも若干高い。やっと噂になっている店に入れるからだろうか。
「注文はお決まりでしょうか?」
席に座り、少し落ち着いたタイミングで店員さんが注文を取りにきた。オレは彼女と食べるならなんでもよかったのだが、2人で来たからには食べ比べをしたいという彼女の要望を受け入れることにした。
「じゃあ私はこのベリーベリーのパイで」
「だったらオレはこの抹茶の方にしようかな」
「だったらオレはこの抹茶の方にしようかな」
彼女が選んだのはイチゴやブドウがたくさん乗ったカラフルなもので、オレが選んだのは逆に抹茶の緑をベースにした落ち着いた色のものだった。
「ねえ、甘いの苦手じゃなかったよね?」
「好きだよ。だけどせっかく食べ比べするなら、2人が同じ系統の味を選ぶよりこの方がいいと思ってな」
「好きだよ。だけどせっかく食べ比べするなら、2人が同じ系統の味を選ぶよりこの方がいいと思ってな」
甘いものは苦手ではない。それを彼女も知っているから、よくお菓子を作って食べさせてくれているのだ。
「そっか。ありがと!」
「いいよ。オレもいろんな味を楽しみたいから」
「いいよ。オレもいろんな味を楽しみたいから」
なんて会話を繰り広げていると、なぜか店員さんがうずうずしている。もしかして待たせすぎてしまったのだろうか。慌てて謝ろうとすると、彼女は開いていたメニューを1枚めくり、にこにこして話し始めた。
「もしよければこちらのペア割……いえ、お客様の場合さらにお得なカップル割をご利用できますが、いかがなさいますか? パイのみのお値段でドリンクが無料でついてきますよ!」
めくられたページを見てみると、ペア割は仲良しの友人や家族と2人で来たら適用できるとのことで、わりと適用範囲はがばがばらしい。対してカップル割はその名のとおり結婚していたり付き合っていることを証明しないと適用されないらしい。
ただ……
ただ……
「是非!!!」
店員さんの目がきらきら、いやぎらぎらと輝いている。何が彼女を掻き立てるのだろうか、よく分からない。
「君はどうしたい?」
同僚を含めた知り合い、それに学園関係者がいないか周囲を警戒する。一応エスキモーとの関係は周囲には隠している。このようなところでバレてはいけない。
「えへへ……やっぱりカップルに見えるんだ……」
「……エスキモー?」
「あっ、えっ、ううん、なんでもないの! 店員さん、このカップル割お願いします!」
「……エスキモー?」
「あっ、えっ、ううん、なんでもないの! 店員さん、このカップル割お願いします!」
頬が少し赤くなっている。声もやはりいつもよりトーンが高い。
「ではカップルであることを証明するためにハグをしていただけますか? 並んで座っていただいて、座ったままで大丈夫です!」
なるほど、結婚やペアリングをしている場合指輪を見せるだけでいいらしいが、今のオレたちはしていない。だからハグで証明することになるのか。
「仕方ないよね。カップル割のためだもんね」
「エスキモー? もしかしてこれを知っていて……」
「エスキモー? もしかしてこれを知っていて……」
メニューを見たときからテンションが高かった理由が分かったところで彼女から抱きつかれる。あくまで互いにハグをしないといけないらしく、オレも彼女を優しく抱きしめた。
「はい……はい……最高です! もしよければ裏メニューでラブラブ割っていうのがありまして、キスをしてもらえると……」
「それはいいです」
「それはいいです」
なぜか鼻息が荒い店員さんの話をぶった切り注文を終わらせる。なんで彼女はあそこまでノリノリだったんだろうか。もしかすると全部彼女の趣味だったり……
「……パイ楽しみだね」
「なんか露骨にテンション下がってないか?」
「べつにー。つーん」
「なんか露骨にテンション下がってないか?」
「べつにー。つーん」
いやこれは彼女の仕込みか? 疑念がふつふつと浮かんでくる。
事前にペア割のこともカップル割のことも……友人の多い彼女のことだから、もしかしたら裏メニューの存在も知っていたのかもしれない。
事前にペア割のこともカップル割のことも……友人の多い彼女のことだから、もしかしたら裏メニューの存在も知っていたのかもしれない。
(しかし……)
「はぁ……人前では駄目だからな」
「っ! はーい!」
「っ! はーい!」
この笑顔を見るとどうしても怒れなくなる。恋愛は先に惚れた方の負けと言われることもあるが、これじゃどっちが負けているのか分かったもんじゃない。
「パイ楽しみだね!」
「ああ、そうだな」
「ああ、そうだな」
甘い時間はまだまだ続く。
笑顔の花を満開に咲かせ、互いに食べさせ合いながら。
笑顔の花を満開に咲かせ、互いに食べさせ合いながら。
「はい、あーん」
「あーん……うん、このストロベリーすごくおいしいな!」
「でしょ! じゃあ次はトレーナーのもちょうだい!」
「あーん……うん、このストロベリーすごくおいしいな!」
「でしょ! じゃあ次はトレーナーのもちょうだい!」
こんな時間がいつまでも続きますように。そう願って。