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「ふぅ……2本目終了っと。また下まで戻って数分休憩のあと3本目走ったら今日は終了ですね」
鬼畜、もといトレーナーから「今週は坂路強化週間だから」といういつもと変わらねえじゃねえかと愚痴をこぼしたくなるトレーニングの途中、ふと後ろから声をかけられた。
「あっ、バラカ先輩!」
「その声、その姿はエスキモーさん。奇遇ですね」
「私たち走るレース真逆ですもんね。もしかして今トレーニング終わっちゃったところですか?」
「いえ2本目終わったところでこれから坂路3本目に向かうところですよ」
「さ、3本……凄いですね……」
「エスキモーさんも走ったら慣れますよ。それで何か僕に用事ですか?」
「今から3本目走るならご一緒してもいいですか? 誰かと併走したくて探してたところなんです」
「いいですよ。僕も1人で黙々と何本も走るの飽きてきたんで」
「ありがとうございます! では先に下りて体解してきますね! バラカ先輩は走ってきたところですしゆっくり戻ってきてもらえたら!」
「ではお言葉に甘えてのんびり行かせてもらいますね」
「その声、その姿はエスキモーさん。奇遇ですね」
「私たち走るレース真逆ですもんね。もしかして今トレーニング終わっちゃったところですか?」
「いえ2本目終わったところでこれから坂路3本目に向かうところですよ」
「さ、3本……凄いですね……」
「エスキモーさんも走ったら慣れますよ。それで何か僕に用事ですか?」
「今から3本目走るならご一緒してもいいですか? 誰かと併走したくて探してたところなんです」
「いいですよ。僕も1人で黙々と何本も走るの飽きてきたんで」
「ありがとうございます! では先に下りて体解してきますね! バラカ先輩は走ってきたところですしゆっくり戻ってきてもらえたら!」
「ではお言葉に甘えてのんびり行かせてもらいますね」
(エスキモーさんとは無理なく話せてるな……)
そう、僕はエスキーさんに少し苦手意識を持っている。詳細については話の趣旨と大きく離れてしまうから避けるけど、彼女に話しかけられると一瞬身構えてしまう。彼女には何か異質めいたものを感じてしまうから。あと某事件のせいで。
そんなことがあるからエスキモーさんにも最初身構えてしまったところがあった。ただ彼女とは走るレースこそ真逆で交流する機会自体少ないけれど、特に一歩引くことはなく、むしろ謎の親近感をほんの少し感じてしまっている。俗に言うウマソウルの影響だろうか。
そんなことがあるからエスキモーさんにも最初身構えてしまったところがあった。ただ彼女とは走るレースこそ真逆で交流する機会自体少ないけれど、特に一歩引くことはなく、むしろ謎の親近感をほんの少し感じてしまっている。俗に言うウマソウルの影響だろうか。
「……哲学的な話は誰かさんに任せるとして、エスキモーさんを待たせすぎるのも悪いですし早く行きますか」
そう呟き小走りで坂路のスタート地点へ向かう。体に疲労が残らない程度に。
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スタート地点に到着するとエスキモーさんがちょうど準備運動を終わらせたところだった。
スタート地点に到着するとエスキモーさんがちょうど準備運動を終わらせたところだった。
「お待たせしました」
「いえ、私も今ストレッチ終わったところなんで全然待ってないですよ!」
「それならよかったです。では早速スタートの準備を」
「はい! じゃあタイマーをセットしてっと……はい、大丈夫です」
「……せっかくですし何か賭けて勝負します?」
「……それ私明らか不利じゃないですか?」
「いえ、僕もこれで3本目で疲れてますし、ちょうどいいコンディションかなと。賭けっていっても負けた方が勝った方にスポーツドリンク1本奢るぐらいならちょうどいいかと」
「……分かりました。勝ちに行きますからね」
「いえ、私も今ストレッチ終わったところなんで全然待ってないですよ!」
「それならよかったです。では早速スタートの準備を」
「はい! じゃあタイマーをセットしてっと……はい、大丈夫です」
「……せっかくですし何か賭けて勝負します?」
「……それ私明らか不利じゃないですか?」
「いえ、僕もこれで3本目で疲れてますし、ちょうどいいコンディションかなと。賭けっていっても負けた方が勝った方にスポーツドリンク1本奢るぐらいならちょうどいいかと」
「……分かりました。勝ちに行きますからね」
ピッ
(まあ疲れてますし? 本当に負けるかもしれませんが)
ピッ
(無抵抗でただ負けるのは性に合わないので)
ピッ
(僕だって少しはやるんだぞってとこ見せないと)
ピーーーーーッッッ!!!
(よしっ!)
─────
2人ともタイマーに遅れず勢いよく駆け出していく。ただ並んでいたのは束の間、脚質の差か単に慣れの問題か徐々に僕が前に、エスキモーさんがその後ろにつく並びに変わった。
2人ともタイマーに遅れず勢いよく駆け出していく。ただ並んでいたのは束の間、脚質の差か単に慣れの問題か徐々に僕が前に、エスキモーさんがその後ろにつく並びに変わった。
(勝負といっても焦らずいつも通り。疲れは……大丈夫、残ってない)
そのままの隊列を保ち、早くもコースの半分を過ぎる。ここからゴールの手前まで傾斜が徐々にキツくなっていく。
(エスキモーさんは……流石メジロ家。エスキーさんと走ることもあるって言ってましたししっかり付いてきてますね。少し見くびりすぎましたか。ですがここから……!)
「……うそっ!?」
早くもスパートを掛けると、後ろからつい零してしまったのだろうエスキモーさんの声が聞こえてきた。
(スポーツドリンクはいただきますよっと……あれ?)
ペースを上げたはずが突き放せた感じがしない。むしろ詰められているような……
(ですがそんなに簡単に負ける僕じゃないですよ……!)
残り200m。もう1度足を強く踏み込む。
「ああああああああああっ!!!!!」
「……っ!」
それでも彼女は伸びる。1バ身、半バ身、クビ、アタマ……
──2つの影が再び重なったところがゴール地点だった。
─────
「ハァ……ハァ……ふぅ、お疲れさまでした。最後凄かったですね」
「ハァ……ハァ……お、お疲れさまでした……それを言うなら……バラカ……先輩こそ……」
「ハァ……ハァ……ふぅ、お疲れさまでした。最後凄かったですね」
「ハァ……ハァ……お、お疲れさまでした……それを言うなら……バラカ……先輩こそ……」
結果は同着。写真判定でもすればどちらかがハナ差出てたかもしれないけど、本番のレースでもない併走トレーニングなら大体で十分でしょう。
「いえいえそんなことは。それこそ賭けの話ですがどうしましょうか。同着ということでお互いに1本ずつ奢るというのは」
「ですね。どこかで買って休憩しましょうか」
「ですね。どこかで買って休憩しましょうか」
──そうして名もなきレースは終わる。同着という結果で。
─────
エスキモーさんとの長い休憩が終わり、更衣室へ足を向ける。そこに、
エスキモーさんとの長い休憩が終わり、更衣室へ足を向ける。そこに、
「あっ、バラカちゃーん! ちょうどいいところに!」
「ファ、ファル子さん……どうしてここに?」
「今から逃げシスのゲリラライブするんだけど、急に1人足りなくなっちゃって……バラカちゃんも逃げだしどうかなって☆」
「……今帰るところなので他の人を探してください、では」
「待って待って! えーっと……あっ、そうだ! 今からひと勝負してファル子が勝ったら来てもらうっていうのはどうかな?」
「……僕が勝ったら?」
「今度ウイニングライブのトレーニングに付き合ってあげる☆ 駄目、かな?」
「……分かりました。男に二言はありません。男じゃないですけど」
「よーっし! じゃあ早速いっくよー☆」
「ファ、ファル子さん……どうしてここに?」
「今から逃げシスのゲリラライブするんだけど、急に1人足りなくなっちゃって……バラカちゃんも逃げだしどうかなって☆」
「……今帰るところなので他の人を探してください、では」
「待って待って! えーっと……あっ、そうだ! 今からひと勝負してファル子が勝ったら来てもらうっていうのはどうかな?」
「……僕が勝ったら?」
「今度ウイニングライブのトレーニングに付き合ってあげる☆ 駄目、かな?」
「……分かりました。男に二言はありません。男じゃないですけど」
「よーっし! じゃあ早速いっくよー☆」
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──まあ万全の状態でさえ勝てるか分からない勝負を坂路を3本走った状態で走ったらどうなるかは目に見えていたわけで。
──まあ万全の状態でさえ勝てるか分からない勝負を坂路を3本走った状態で走ったらどうなるかは目に見えていたわけで。
「バラカさーん! こっち見てくださーい!」
(エ、エスキーさん……どうしてここに……!)
その声と姿に気づかないふりをして踊り続けるバラカさんでした。おしまい。
─────
「ちょっとバラカさん!」
「あー……エスキーさん。なんですかそんな怒った顔して」
「なんですかじゃないですっ! 昨日のライブ、わたしずーっと声援送ってたのになんでずっと無視してたんですかーっ!」
「……気づかなかったんですよ、ごめんなさい」
「目逸らしながらじゃ駄目ですっ! こっち見て言ってくださいっ!」
「えーめんどくさい」
「あーっ! めんどくさいって言いましたねっ! もう怒りました。ちょっとしゃがんでくださいっ!」
「はいはいどうぞ……ってあっ」
「やったー! バラカさんのメガネゲットー!」
「ちょっ、オイコラ待てや」
「嫌ですぅー! 返してほしかったら捕まえてみてくださーいっ!」
「逃がすかこのガキ……!」
「あー……エスキーさん。なんですかそんな怒った顔して」
「なんですかじゃないですっ! 昨日のライブ、わたしずーっと声援送ってたのになんでずっと無視してたんですかーっ!」
「……気づかなかったんですよ、ごめんなさい」
「目逸らしながらじゃ駄目ですっ! こっち見て言ってくださいっ!」
「えーめんどくさい」
「あーっ! めんどくさいって言いましたねっ! もう怒りました。ちょっとしゃがんでくださいっ!」
「はいはいどうぞ……ってあっ」
「やったー! バラカさんのメガネゲットー!」
「ちょっ、オイコラ待てや」
「嫌ですぅー! 返してほしかったら捕まえてみてくださーいっ!」
「逃がすかこのガキ……!」
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「会議で遅くなったけどバラカの奴いないな……また逃げたか?」
「会議で遅くなったけどバラカの奴いないな……また逃げたか?」
『鬼さんこちらーっ!』
『ハァ……ハァ……』
『ハァ……ハァ……』
「なんだもうトレーニング始めてるじゃないか。しかも芝の上で全力疾走なんてアイツ成長してんだなあ。また坂路の本数増やすか」