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  • 貴方と夢見たその先へ(続編)Part2

uma-musumeになりたい部 @ ウィキ

貴方と夢見たその先へ(続編)Part2

最終更新:2023年11月20日 18:46

mejiroeski

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だれでも歓迎! 編集

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メジロエスキモー


前:貴方と夢見たその先へ(続編)Part1
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本編


ジュニア編(続き)


+ 第11話
 新学期が始まり、トゥインクル・シリーズも各路線で秋の大一番に向けた前哨戦が行われる季節になった。厳しい残暑が日本列島を覆う中、夏合宿を終えた2人はそれぞれレースに勝つために日々邁進していた。

「よし、今日のトレーニングは終わり! 2人とも着替えたらトレーナールームに来てくれ。話がある」
「はーい」
「かしこまりました」

 エスキモーとザイアがシャワーを浴びて部屋に来るまでの間に、最近の2人のデータをタブレット端末で確認する。エスキモーは最初に記録した数値が高い分伸びは落ち着いているが、着実に成長してきているのが見て取れる。ザイアはエスキモーに比べるとどうしてもスタート地点では一段二段と落ちてしまうが、成長力に関しては申し分ない。やはり彼女のダノン家としての強さか、はたまた彼女の母の血によるものか、秘めた素質は世代随一のものを感じる。既にティアラ路線に進むことを表明し、デビューを済ませている子たちと比較しても遜色はない。

(無理に早期デビューさせなくてよかったな。基礎を築いてからじゃないと、今はよくても将来崩れてしまうから)

 近年、というより自分がレースを見始めるようになった頃と生まれる前を比較すると、未来を有望視される子たちのデビューが早くなっていることを強く感じる。早めにデビューさせておいて、勝てば夏の間を休養と秋の重賞やGⅠに向けたトレーニングに充てたい、負けても立て直しが利くといった2つのメリットがあるのは自分でも理解はできる。なにせ似たような考えでエスキモーを宝塚記念当日にデビューさせたから。

(ただザイアはそうじゃない。磨けば光る原石なんだから、輝きを放たないと意味がない)

 ちょうど机の後ろの壁に縁取られた窓から差し込む西日が部屋を照らす。じきにこの時間でも暗くなってくるのだろう、ひとまず照明をつけようと席を立つと、部屋の扉が開かれ、教え子が2人仲睦まじそうに中へと入ってきた。

「おまたせー。やっぱり髪が長かったら乾かすのにも手入れするのにも時間かかるんだよねー。ただでさえ尻尾も綺麗にしないといけないのに」
「それでもその美しい髪をばっさり切るなんて絶対駄目です。なんなら明日から私にお姉さまの体のメンテナンスをさせていただければ……ふへへ……」
「ザイアはもうちょっと令嬢としての自覚をだな……」

 彼女たちを受け持って約半年ほど、ザイアのこともある程度分かってきた。一見すると清楚で可憐な女性に思えるが、その内面には、身近な誰かへ過剰なまでに入れ込んでしまう強烈な個性を隠し持っている。正直最初は彼女特有のものかと思っていたが、よくよく過去の資料や彼女自身に話を聞いてみたら……

(彼女の母親も同じだったんだなあ……しかも相手はザイアと同じくウマ娘……血は争えないってことか……)

 多様性が叫ばれる昨今、既に人の性的指向や嗜好にケチをつける時代は過去のものとなりつつあるが、やはり彼女のそれは一際輝きを放っているように思える。

(とりあえず人を傷つけない限りは静観しよう……)

 彼女たちがソファへと向かう横を通り過ぎ、入口横の照明のスイッチを押す。部屋全体がオレンジから白い光で照らされるのを確認してから、ノートパソコンを片手に彼女たちと向き合うように反対側の椅子へ腰を落ち着かせる。

「それじゃ改めて今日のトレーニングお疲れさま。数字を見る限り、2人とも合宿の成果が存分に発揮できていたと思う。念のため聞くが、手応えとしてはどうだった?」
「私は走りのぶれがマシになったのかなって。砂浜って足取られやすいし、こけないように走ってたら自然と体幹が鍛えられたのかな?」
「私は以前よりトップスピードが持続するようになったように感じます。長くいい脚を使えるようになった、という表現が適切でしょうか」

 あまり考え込む素振りを見せずすらすらと話せるということに、彼女たちの自分自身を客観視できる聡明さを垣間見る。エスキモーの場合はおそらく「夢」との比較で話している節があるが、特に問題視することもない。事実彼女たちが言っていることは、映像を見てもラップタイムを見ても正しいというのは明らかなのだから。

「ありがとう。エスキモーについては、将来今よりずっと長い距離を走ることになるだろうから、体力強化に重点を置いたトレーニングで進めたい。外回りのランニングをして体を疲れさせてから最後に坂路を駆け上がる、というのもありかな」
「大変そ……でも勝つためだから頑張らないと」

 よし、と自身に気合いを入れるエスキモーを横目に次はザイアに向けて話を進める。

「これまで半年ほどトレーニングを見させてもらって思ったのが、君の武器は『長くいい脚を使える』ことだということ。それが自分自身でも分かっているのは誇っていい」
「ありがとうございます。ただ裏を返せば一瞬の切れ味に劣る、ということでしょうか? いわゆる最後まで溜めて一気に差し切ることは難しいと」

 賢い。やはり彼女もご令嬢なのだと舌を巻く。一を伝えて一を理解してもらう、それだけで今は十分なのだが、彼女は一を聞いて十を知ることができる賢明なウマ娘なのだと認識を改めておかねばならない。だとすればこれからする話も難なく理解できるはずだ。そう思い、この場で話そうとしていた内容のさらに一歩先についても彼女に伝えることとした。

「正解。だから取れる戦法としては2つある。1つ目は周囲に仕掛けられるより先にロングスパートをかけて捲っていく戦法。切れ味に劣ったとしても最後まで粘り込めれば勝ちなんだから。相手の得意な土俵に乗る必要なんて全くない」
「なるほど……お姉さまの戦法と近いものを感じますね」
「私は切れ味勝負になっても大丈夫だけど? ロングスパートだけが持ち味じゃないから」

 そこで意地を張る必要はないんだけど、まあ普段見せない子どもっぽさが見られたからよしとしよう。彼女の姿を視界の隅に収めながらそのまま話を続ける。

「2つ目は……逃げること」
「逃げる……おそらくロングスパートという意味では先ほどと同系統の話だと思われますが……一体どのような意図が?」
「逃げるって、それこそ最後後ろの子たちに差されない?」

 オレの提案に小首をかしげる彼女たち。もちろんそう言われるのははなから織り込み済みだったから、事前に準備していた映像をいくつか2人に見てもらう。

「まずこれを見てほしいんだが」
「これって……私のゲート練習の動画ですね。しかもいくつも」
「こういうのも動画撮ってるんだね。それでこれで何が分かるの?」

 ゲート、それはウマ娘たちがレースにおいて永遠に向き合うことになる相手。そもそもレースに出るにはゲート試験に合格しないと許可が下りない。走る実力は他の誰より優れていたとしても、ゲートが苦手という一点で負けてしまったウマ娘というのはこの世界に星の数ほど存在する。過去を振り返るまでもなく現在進行形で何人も。翻ってゲートが得意なウマ娘も当然存在する。信じられないほどのロケットスタートを決め、後続を振り切ってそのまま逃げ切ってしまった子も多くはないが顔を思い浮かべることができる。なんといっても目の前のこの2人が同じ次元に位置しているのだから。

「ゲートが得意なのは1つの武器だ。出遅れてしまうと位置取り争いで後手を踏み、取りたい戦術が取れなくなる。自分のリズムでレース運びができなくなる。しかももし内枠なら外から被せられて身動きが取れなくなってしまうし、外枠なら延々と外を回らされる羽目になる。どの枠にせよプラス要素になることはほぼない」
「動画を見る限り私はそうではないのですね。それでいて今し方の『ゲートを失敗すれば自分のペースでレースを運べなくなる』というお言葉を裏返し、ロングスパートの要素を加えれば……」
「なるほど、ゲートを決めて前に立ち、道中のペースをコントロールする。それでいて切れ味勝負になる前にロングスパートを決めて勝つ、ってことだよね」
「話が早くて助かるよ。で、次に見てほしいのはこの動画」

 とある動画サイトを開き、少し昔のレース動画を見せる。それは日本のトレセン学園でトレーニングをしていた日本出身のウマ娘が初めて海外の国際GⅠ競走を制したときの動画だ。画質が今と比べて荒っぽいが、見れないわけではない。ただ今回注目してほしいのはそのウマ娘ではなく……

「2番手でレースを運ぶアメリカ生まれのウマ娘。世界的な名トレーナーに育てられた彼女が刻むラップだが……」

 オレの言葉で映像の右端に刻まれる2ハロンごとのラップタイムを凝視する2人。レース序盤は特に何も思わなかったようだが、レースが中盤から後半に差しかかると……

「26.0-24.4-26.0-24.2-23.4……?」
「嘘でしょ? こんなラップ刻んだら後ろからなんて……」
「そう、普通は届かない。このレースに限ればその普通じゃないことが起きたんだけど、そのレベルの差し切りなんてそうそうお目にかかれるものじゃない」

 シークバーが右端に到達し画面が止まったところでパソコンの画面を自身の方に向きを変え、改めてこの戦法を勧める意図を説明する。

「逃げを打つメリットとしては、自身でレース全体の流れをコントロールできることが一番大きい。2つ目は先頭に立ってしまえば、後方のウマ娘とは違ってコース取りに苦労しない、好きなように走れるということ。インが良さそうならインを回ってこれるし、その日外の方が伸びがいいのなら、後続の邪魔にならない限りで外側へ行けばいい。ゲートが開いてからゴール板の前を駆け抜けるまでレースを支配しろ」
「……分かりました。そのためにはどのようなトレーニングを積めばいいのでしょう?」
「ロングスパートのためのスタミナ強化は当然のことだが、ペースをコントロールするためにも体内時計を鍛えたい。ただ元々持ち合わせているエスキモーみたいな子は例外として、あまり鍛えられるものじゃないんだよな。だからせめて自分が走るペースが大体何キロぐらいか掴めるようにはなってほしい」

 そのためのトレーニングメニューを画面に表示しザイアへ見せる。ランニングマシーンを中心に身体に速度感を馴染ませるトレーニングは一見地味に思えるが、馴染むまでは相当な距離を走り込む必要があるから、意外と身体に負担がかかるものとなっている。

「勝つためですから……頑張ります」
「ねえトレーナー、私もやっていい?」
「君は体内時計が完璧なんだから、あんまりやる必要はないけどね……」

 レース中もほぼ0.1秒単位でタイムを体内で計算できるのになとも思いつつ、息抜き程度にやるならと許可を出す。話も終わったところで椅子から立ち上がり窓の外を見ると、てっきり日は沈み、その代わりにいくつもの星が夜空を覆うように瞬いていた。

「そうそう、ザイア。デビュー戦のことなんだが──」


+ 第12話
『まもなく残り200mを通過しますが……ここで道中最後方に位置取っていたメニュルージュが前に迫って一気に交わしたぁ! そのままリードを1バ身、2バ身と突き抜けて今ゴールイン!』

 スプリンターズSと秋華賞の谷間の週となる10月第2週、3日間開催の最終日となる今日もテレビからは一昨日と昨日に行われた重賞のプレイバック映像が流れていた。2つのうち土曜日に行われたサウジアラビアRCを制したのは、私と同じクラスのメニュルージュだった。スローペースで流れる道中を最後方から上がり3ハロン32秒前半の脚で制した末脚は、年末のGⅠレースだけではなく来年のクラシック制覇すら予感させる素晴らしいものだった。

「緊張しているか?」
「していないと言えば嘘になります。ただ同時に昂ってもいます。ようやくトゥインクル・シリーズで私の走りが披露できるのだと、いつもより気分が高揚しているのが私自身はっきりと感じています」

 テレビの電源を消し、この控え室で音を発する存在は私とお姉さまとトレーナーさんだけになった。鏡に向かって身なりのチェックをする私、対戦相手やバ場状態の最終確認を行うトレーナーさん、そして……

「大丈夫? お水飲む? ぎゅってする?」
「お姉さまが一番落ち着いてください。それはそうとぎゅっとしてほしいです」

 たぶん私より緊張していそうなお姉さま。ぎゅっとはしてもらったけど、お姉さまの方が体が震えていた。そんなお姉さまを私の方も背中に腕を回して優しく抱き締める。

「心配していただいてありがとうございます、お姉さま。私勝ってきますから、スタンドで見守っていてください」

 大きく息を吸って、そして吐いて、また吸ってを数度繰り返しお姉さまの震えが止まったところで互いに回していた腕を外し、笑顔で向き合う。

「……ゴール前で待ってるから」
「はい! 行ってきます!」

 2人に一礼をし、足音静かに扉から外へ飛び出す。天気は晴れ、芝コースは良バ場のコンディション。しかも先週まで中山レース場での開催ということもあって、芝の生育状況は極めて良好。一昨日、昨日とよく踏まれた路盤はある程度締まり、これ以上望めないほど絶好のレース日和となった。

(2人に勝利を届けるために)

 さあ舞台は整った。あとは走るだけ。

─────
「私たちもそろそろ行こっか」
「ああ……なあエスキモー、緊張しているのか?」

 ザイアがパドック、そしてコースへと向かうのを見送り、部屋にはオレとエスキモーの2人だけになった。いつもより声のトーンが一段低い彼女は何かに追い立てられるかのように観客席へ急ごうとする。オレはそんな彼女の緊張を解すべく呼び止めると、彼女の右手を優しく両手で包み込んだ。

「……送り出した背中を見守るしかできないってこんなに辛いんだね。今まで背中を押してもらってばっかりだったから気づかなかった。トレーナーはずっとこんな気持ちで私のレースを見てくれてたの?」
「半分正解で半分ハズレ。第一オレはトレーニングのときでもこのメニューでいいのか、詰め込みすぎていないかなんてことを考えているよ。そのトレーニングがレースに入れ替わっただけだから、少し緊張はするけど楽しみでもあるんだ」
「楽しみ?」

 「夢」の中でもサブトレ時代でもそして今でもレース前に思うことは変わらない。

「一体今日はどんなレースをしてくれるのかなって期待。レース前それが一番心の大部分を占めているんだ」
「期待……そっか、トレーナーはずっと私に期待してくれてたんだもんね」

 俯いた顔が上がり、彼女の瞳や表情が徐々に光を取り戻し始める。もう彼女は大丈夫。次は同じ轍を踏むことはない。ただ、今日このときだけは彼女のわがままを1つ許してあげることにする。彼女から手を離すと、両腕を横に広げ、おいでと伝える。

「ほら。今日だけは許してあげるから」
「ありがと、トレーナー。大好き!」

 胸に優しく飛び込んできた彼女を静かに抱き締める。彼女の両腕が背中に回っても咎めることは今はしない。

(この子が強くなるためだったらオレは……)

 どんな壁も超えてみせる。たとえその壁が尊敬すべき師匠だったとしてもオレは、絶対。

─────
『さあ本日の第5レース、メイクデビュー東京、芝1600m。12人のウマ娘によって争われます。ゲート入りはスムーズに進んでいきます。1番人気に支持されたダノンディザイアも4枠4番に収まりまして態勢完了……スタートしました!』

 ゲートが開き一斉にスタートが切られる。数人出遅れた気がするが、気にすることなく突き進み先頭に立つ。トレーナーさんの想定通り競りかけてくる子はおらず、無事に自分のペースに持ち込むことに成功する。といっても……

『最初の600mですが……34秒5!? メイクデビューにしてはかなり速い流れでレースが進んでおります! ただ2番手以降は無理には追わず、先頭との差は10バ身まで開いております』

 残り1200m地点を通過し、なだらかな坂を下り始めた頃、速度を落とさないように注意しながら後ろを見やる。戦前の予想通り後ろは仲良く自分のペースを守り、末脚勝負に持ち込みたいのだろう。彼女たちからすれば、さながら私は慌てふためく狩りの獲物に見えているのだろう。1番人気に動転し自分を見失い、暴走特急のようにペースを無視して突き進む姿は滑稽とまで思っているのかもしれない。

(笑止! そちらの方こそ私にすれば、攻める姿勢を見せず、自分の走りだけに固執する臆病者に見えますよ!)

 第3コーナーから第4コーナーへ差しかかる地点でレースも残り半分となる。まだまだ速度感覚を鍛え始めたばかりだけれど、おそらくこれは時速60キロを少し上回る流れで巡航を続けているのだろう。本来であればこの辺りで一度脚を溜めるためにペースを緩め、後続を引きつけてから再びスパートをかけるのがセオリーだ。ただ今日はそうしない。

(このペースは落とさない!)

 徐々に脚に疲労が蓄積していくのを認識する。重くなる脚を懸命に前へ行けと指令を出し、ゴールへと一歩ずつ歩みを止めずに突き進む。最後の直線に向いてもまだ後続の足音は聞こえず、目の前には綺麗な緑のターフが敷き詰められていた。

『最後の直線に入ってもこれだけの差! これだけの差! リードはまだ15バ身ある! 後続のウマ娘は捉えることができるのか!? まもなく残り400mを通過します!』

 『4』と記されたハロン棒を視界の隅で認識すると、『図ったかのように』速度を緩める。時速にして5キロから6キロほど、1ハロンではおおよそ1秒ほどペースを落とすと、スパートをかけた後続との差がみるみるうちに縮まっていく。

『残り200m! リードは10バ身をとうに切っている! 必死に逃げるダノンディザイア! 7バ身、6バ身、5バ身!』

 後続の子たちの足音がすぐそこに迫ってくる。だけど後ろを振り向いてはいけない。ただゴールまで走り切るのみ。

『さあ、交わすか、交わすか! いや残した残した! 手に汗握ったゴール前、ダノンディザイアがわずかに、わずかに粘りきって先頭でゴールを通過しました!』

 ゴールしたあと徐々に速度を落として立ち止まる。そして膝に手をつき、何度も大きな深呼吸を繰り返して、体が欲する酸素を送り込む。

『なんとタイムはジュニアクラスのデビュー戦にしては破格の1分34秒5! 開幕週ならではの高速バ場がもたらしたこの時計、出走者の疲労が心配になるところですが、今は全員無事に帰っていきます。勝ったダノンディザイアも、今ウィナーズサークルの前から地下バ道へとゆっくり抜けていきました』

 ゴール板前にいたお姉さまとトレーナーさんがこちらに手を振るのを横目に、私は地下通路へと小走りで走り抜けていく。検量室にて不正がなかったかの確認を受けると、ようやくそこで1着、勝利が確定した。レースに携わっていただいた職員の方々に一礼すると、勝利を報告するために自分の控え室へと再び小走りで駆けていった。

─────
「おめでと、ザイア!」
「おめでとう、そしてお疲れさま」
「ありがとうございます、お姉さま、トレーナーさん。宣言通り勝ってまいりました……わっ!?」

 控え室に戻ると、待っていた2人の祝福を全身に受ける。まだ汗を拭いていないのにお姉さまに抱きつかれるわ、走った際についた芝を払い落としていないのに頭をトレーナーさんにポンポンとされるわと、むしろこちらが申し訳なくなるほどに讃えられ、なんだか面映ゆくなり、自身の頬が紅潮するのが鏡を見なくても感じとれた。

「それはそうと……作戦通りだったな」
「ええ。後ほどの勝利者インタビューでも打ち合わせの通りに」
「私も黙ってないとだもんね。気をつけないと」

 ウイニングライブ後に行われるインタビューで話す内容も事前にトレーナーさんと打ち合わせをしていた。

『意図せずゲートを上手く出てしまい、頭が真っ白になりながらそのまま行ってしまいました。最後はなんとか踏ん張ることができてよかったです』

 と。

─────
 ウイニングライブ終了後、取材陣に事前の想定問答通りの受け答えをし、着替えて3人で帰路につく。帰路につくといっても東京レース場と学園の距離は近く、日が沈んだ夜道を横並びでゆっくりと歩いている。

「あっ、そうだ!」

 夜空に星が瞬く中、右隣で歩くお姉さまが何か閃いたように勢いよく私の方を向いた。私が電柱や並木にぶつからないように注意しつつお姉さまの方をずっと見ていたということもあって、必然的に顔と顔の距離が急接近してしまう。私は反射的に顔を後ろにそらしなんとか衝突を回避し、お姉さまはお姉さまで手を合わせてごめんねとウインクをしてくれた。全て許した。元からお姉さまに怒ることなど万に一つもないけれど。

「どうされましたか、お姉さま?」
「せっかくだし祝勝会しない? 今日とか明日は無理だから……今度の週末とか!」
「よし、やるか! 店も予約しないといけないな。ザイア、どこか行きたいお店ある?」

 主賓を置き去りにトントン拍子に話が進んでいく。トレーナーさんは携帯でお店を調べ始めたし、お姉さまはもう週末気分でスキップしている。ただ、ただ……

「気持ちは大変ありがたいのですが……次の週末は家の方で祝賀会を開く予定なんです。なのでご予定が開いているのであれば翌週以降にお願いできませんか?」
「それなら仕方ないな。まあまだ来週の方がお店の予約もしやすいだろうし……」

 次の週でと私とトレーナーさんとで話がまとまりかけた瞬間、前方でスキップをやめていたお姉さまがまたもや跳ねるように私の方へ振り返り、驚きの提案を持ちかけてきた。

「その祝賀会、私たちも参加できたりしない?」
「おいおい……それは流石に迷惑じゃないか?」

 妙案だと自分の手をぽんと叩くお姉さまをトレーナーさんが窘める。しかし今度の祝賀会は家族だけの少人数で行われるもの、むしろ指導いただいているトレーナーさんとお慕いしているお姉さまをお父様やお母様に紹介する良いチャンスかもしれない。

「いえ……承知しました。一度両親へ参加可能か相談してみます」

 メッセージアプリを開き、両親へ手早く一言お願いを申し伝える。しばらくすると既読がつき、問題ない、むしろ歓迎する旨の返答があった。

「服装ちゃんとしていかないとな。スーツ綺麗なのあったっけ」
「私も制服じゃなくて綺麗めな服で行こーっと」
「当日楽しみにしております」

 改めて週末の予定が確定したことで再び3人は、それぞれ自宅や寮へと分かれて歩いていく。ただ寮の前まで着いたところで、お姉さまが寄るところがあったんだと慌てて寮の外へと走っていったから、結局私は部屋へは1人で戻ることになった。

「お疲れさま、そしておめでとう、私」

 自身のベッドへ腰かけ独りごちる。今日一日レースからウイニングライブまで頑張った自分への労いと祝福の言葉。言い終わりそのままぱたりとベッドに倒れると、自分が考えていた以上に張っていた緊張の糸が一気に緩んだのか、瞬く間に夢の世界へと誘われていった。

「もう照明つけっぱなしにして……まあ仕方ないか。お疲れさま、ザイア。それとおめでとう。今日はゆっくり休んでね、おやすみ」

 ──せっかくお姉さまが労いの声をかけてくれたのに、それを聞き逃してしまうという失態を演じたことに気づかぬまま。

─────
「本日は娘の祝賀会に参加いただきありがとうございます。私はこの子の母親の──」
「お名前はかねがね伺っております。大事な娘さんを預からせていただき──」

 祝賀会当日、トレーナーさんは普段のジャージの装いとは異なり、クリーニングに出したばかりと見間違うほど綺麗なスーツ姿に身を包み私の両親へ挨拶していた。本来であればいつもお世話になっている方々への挨拶回りで私も両親も忙しいのだけど、今日はまだデビュー戦を勝利しただけだからと、トレーナーさんとお姉さまを除けば家族や親戚のみの小ぢんまりとした集まりのなっている。著名なホテルの会場を借り上げずただ自邸にて行われる小規模な集まりなこともあって、お父さまもお母さまも気を張らずにトレーナーさんたちと話ができているみたいだ。

「パーティーっていつもこんな感じだったらいいのにね」

 花柄のレースとサテンの優雅なワンピースを身に纏ったお姉さまが横から話しかけてきた。お父さまやお母さま、その他の親戚に挨拶を済ませたのだろう、会場に入られたときよりは少し晴れやかな顔をしていた。

「お姉さまもメジロ家で様々なものに参加されていたのですか?」
「いろいろね。知らない人、しかも年齢が全然違う人たちにニコニコ笑顔を振る舞いながら接するのってほんと疲れるよね。だから今日みたいなパーティーの方が私は好きだな」

 私とお姉さまは歴史は違えど、世間に名が知られている一族に生まれた身、お互い物心がついた頃には親に連れられてではあるが外向けの数々の集まりに参加させられた。そこで我が家がお世話になっている方、逆にこちらが支援をしている方たちへ笑顔を強いられるのは、幼い子どもにかけていい精神的な負荷ではない。ただそのような場に参加していたこともあって、立ち振る舞いやとるべき行動というものを同年代の方より先に習得できているのは不幸中の幸いというべきか。

「今日は是非ごゆるりとされてください。私はこのあと挨拶がありますが、お姉さまは我が家のシェフが用意した食事をお楽しみください」
「ありがと。挨拶も頑張ってね」
「はい。それではこの辺りで」

 手を振るお姉さまへ頭を下げると、会場前方の壇へ上がり改めて勝利の報告と両親を含めた参加者の方への感謝の言葉を伝える。簡単にということだったので、冗長な挨拶文や堅苦しい枕詞を抜きにしたストレートな気持ちを伝えられるのは想像以上に気楽でよかった。

「──それでは失礼します。ありがとうございました」

 大きな拍手を受け、そのまま壇の下へと下りる。するとそこには満面の笑みを浮かべたお姉さまと、なぜか腕を組んで何度も頷くトレーナーさんが待っていた。

「堂々としてたね、流石ザイア!」
「やっぱりご令嬢なんだなあ。普段はちょっとアレだけど」
「トレーナーさん!? アレとは一体どういうことですか、アレって!」

 トレーナーさんからの酷い言われように猛抗議を繰り返す私。ただトレーナーさんは撤回しようとしない上に、お姉さまも否定をしてくれない。ここはとお父様とお母様に救援を要請してもフォローに入ってもらえず、ただニコニコと見守られるだけだった。

「酷いですよ、お姉さまぁ……」
「涙目のザイアもかわいいなあ……ドレスも着てるしお人形さんみたい。なでなで」
「んっ……もう仕方ないですね……もっとしてくれたら許してあげます」

 なんだかトレーナーさんから生暖かい目で見られている気がするが気にしない。お姉さまは全てを解決する存在なのだから。お姉さまは心を落ち着かせる香りでも発しているのだろうか、次第に耳はへにょりと横に倒れ、若干眠気も催してきた。

「君の血だなあ……」
「そうね……流石私の子。あなたにとってのウオッカ様はあの子なのね……」

 ──後ろで聞こえたお父様とお母様の会話は聞こえなかったことにした。


+ 第13話
 そろそろ薄手のコートを着てこようかと悩み始める11月、ザイアのデビュー戦が終わりひと息つけると思っていたら、あっという間にエスキモーの東スポ杯ジュニアSが目前に迫ってきた。調整自体は極めて順調な上に、まだ想定段階にも関わらず強敵不在の一強ムードが漂っていた。たまに受ける取材についても次走の話は程々で切り上げられ、年末のGⅠや来年のクラシックに向けた意気込みについて時間を割かれる始末だ。

「一応名ウマ娘の登竜門って呼ばれているGⅡなんだけどなあ……」
「どしたの、トレーナー? あっ、朝ごはんもうちょっとしたらできあがるから座って待っててね!」

 そうは言われたものの、キッチンで忙しなく動き回るエスキモーだけに任せるわけにもいかず、食器やお箸、飲み物の準備を先にしておく。ただでさえ学校があるのに朝、昼、夜とご飯を作ってもらっている上に他の家事も少し手伝ってくれているんだから、せめてこれぐらいはしないとこの子のトレーナー、いやパートナーとして立つ瀬がない。

(ただ家ではもう彼女の方が立場が上なんだけどな)

 将来は尻に敷かれるんだろうなと思いながら、用意してくれた2人分の朝ごはんをキッチンから食卓へ持っていった。

─────
「それじゃトレーナー、私先行くからね」
「おう、また学園でな」

 朝ごはんを済ませ、歯磨きなどの朝の支度を終えると、彼女は自分で作ったお弁当を鞄に入れ、颯爽と学園に向かって歩いていった。オレも用意してくれたお弁当とお茶が入った水筒を保冷バッグに入れ、身支度を整え玄関を出る。

『一緒に登校したり、一緒に帰ったら絶対怪しまれるからな。朝はバラバラに家を出て、夕方はオレとは違うルートで家に来ること』
『トレーナーの家に行ってる子なんてそこそこ見かけると思うんだけど……はーい、秘密にするって約束したもんね』

 彼女とトレーナー契約を結んだときに結んだ決めごと、関係を秘密にするだけではなく、怪しまれる行動も避けるということ。2人並んで登校したりお泊まりなんてもってのほか、ただ端から橋まで全部駄目という切り捨てはできず、あくまで見られたら一発アウトなものは禁止、との形に落ち着いた。

(今のところバレてないから大丈夫……なはず)

 オレの勝手な想定だが、彼女がどのような成績を残そうが3年後の年末には引退することになるだろう。それまではレースがオレたちの生活の中心に据えられているからそれに打ち込めるとして、引退すれば当然その柱が取っ払われてしまう。そのときにお互い踏みとどまれるかどうかが分かれ目になるだろう。

「ってなんの分かれ目だよ……別に勝負しているわけでもないんだし」

 とにかく「夢」みたいなことは起こさないようにしよう、そう心に固く誓ったところでちょうど校門が目の前に現れた。

「よし、今日も頑張るぞ!」

─────
「ねえ委員長、ここ教えてくれない?」
「うーんと、そこはね……」
「副委員長、ここどうやって解けばいいの?」
「そこはですね……」

 昼休みの教室、昼ごはんを早々に食べ終わった組が私たち2人に宿題の解き方を教えてもらう勉強会が開かれていた。最初は自席で悩んでいた子を見かけたお姉さまが解法を教えてあげただけだったのだけど、それを見た他の子がだったら私もと次々と手を挙げ勉強会が始まった。しばらくすると人手が足りないからとお姉さまから要請を受けて私も教える側へと回った、という流れだ。

「放課後もしてくれたら助かるんだけどなー」
「私たちも練習あるから……ごめんね?」
「練習が休みであれば。もちろんお姉さまもセットで」

 本来ならこのような勉強会は授業が全て終わった放課後に行うのがベストなのは分かっている。ただ放課後はトレーニングを行う必要がある都合上、おいそれと開催することができないのが残念だ。

「そういや委員長の次のレースってもうすぐだったよね? 調整は順調?」
「それなりには進んでるよ。どんな子が出てくるのか分かんないけど、その辺りはトレーナーがやってくれてるし、私はその後ろをついていくだけ」

 いやいや、それなりになどというものではないだろうとつい口を挟みそうになる。おそらく謙遜しているのだろうけど、私としてはもはやどれほどのタイムでお姉さまが勝つかしか眼中にない。お姉さまに並び立つほどの存在のルージュさんは前走勝ちからそのまま年末のGⅠに向かうらしい。レインさんも出走予定だったデイリー杯ジュニアSを回避し、抽選にはなるけれど、朝日杯FSへ直行する予定となっている。すなわち、対抗しうるウマ娘が出てきそうにない。

「委員長と副委員長のトレーナーさんって絶対できる人だよね。めっちゃ若くてかっこいいし羨ましいなー」

 次は自分かなと構えていたら、話の方向性が想定の斜め45°へ飛びはじめた。このような話題に年頃の女の子が食いつかないわけがなく……

「この前コースで1人で走ってたら声かけてくれてさー。『エスキモーと同じクラスの子だろ?』って。担当でもないのに覚えてくれてるんだーって嬉しくなっちゃった」
「あっ、アタシもアタシも! 階段で躓いたときたまたま支えてくれてさ、ちょっとキュンってなっちゃった」
「……へぇ。もっと聞かせてくれない?」

 続々と上がるトレーナーさんとクラスメイトとの遭遇報告、しかもほぼ全部が少女漫画のようなロマンティックを感じる状況であればキャーキャー盛り上がるのも無理はない……ただ1人を除いて。

(おそらくあの『聞かせて』というのは……)

 自分もその話題を楽しみたいというものではなく……

(警察の事情聴取のようなもの、でしょうね……)

 昼休み終了のチャイムが鳴り響くまで、私は背筋に冷や汗を流しながら話の合間に他の子へ宿題を教えていた。

 ──午後の授業の内容は正直あまり覚えていない。

─────
 放課後、トレーナールームにて。今日はコースでのトレーニングではなく、走法や過去のレースを見て勉強する座学の時間のはずだったのだけど……

「トレーナー? ちょっと教えてほしいことがあるんだけど。いいかな?」

 ニコニコ笑顔、普段ならその顔を見て私も顔を崩してしまうのだけど今日は違った。あれだけ口角が上がっているのに目が全然笑っていない上に、冷気がお姉さまから漏れ出していたから。流石にトレーナーさんも只事ではないとすぐに察知し臨戦態勢に入った。

「……ああ」
「えっとね、今日もお昼に勉強会してたんだ。私とザイアがさ、クラスの子たちに宿題とか教えるの。前にも話したと思うけど」

 私たちは契約したときからトレーナーさんからクラスで何かあったら報告するように言われていて、以前このような会をやっていることを私から報告した覚えがある。もちろんその報告もただトレーナーさんが私たちの生活を知りたいなどという変態的な理由では全くなく、あくまでも体調管理の一環として私たちの承認の上で行っていることだ。なにも洗いざらい全てを話す必要はなく、軽く雑談程度に1つや2つ喋るだけ。トレーナーさんはそこから何を読み取るのか分からないけれど、その話によってトレーニングメニューが変わったことも幾度かあったから、何かしらプラスにはなっているのだろう。

「仲良しでいいじゃないか。人間関係でギスギスしたらレースにも悪影響が出るからな」
「……トレーナーも私のクラスの子と仲良くしてるんだよね? いっぱい教えてもらったよ?」

 おっと、ここでお姉さまが直球を投げ込んだ。はたしてトレーナーさんはこれをどう打ち返すのか。

「全部たまたまだよ。別に狙ってやったことじゃない。クラスの子って分かったのだって、君がみんなで撮った写真を覚えていただけだよ」
「それにしてはいろんな子のこと覚えてるんだね? デビューしてない子が多いのに」

 カウントとしてはノーボールツーストライクといったところだろうか。トレーナーさんが追い詰められていくのがはっきりと分かる。

「君のことを見ていたら自然と目に入るんだよ。どこにいても君は太陽みたいに輝いているから、すぐに見つけられるし」
「……太陽?」

 なんだか風向きが変わった予感がする。お姉さまの追及が若干弱まった。

「廊下でも遠くで花が咲いていることは分かる。君の教室の前をたまたま通りかかったときも、周りに人が集まっている君の姿に目が吸い寄せられるんだよ」
「そ、そうなんだ……」

 これ、なんだかトレーナーさんが攻める側になってない? お姉さまの勢いが完全に止まってしまっている。

「だから君のクラスメイトの顔も覚えちゃうんだよ。分かってくれる?」
「うん、分かった……今回は許してあげる」

 トレーナールームに入るまでの威勢の良さはなんだったのか、徹底的に追い詰めるといったあの意気込みはどこに置いてきたのかと思うけれど、たぶんあれはきっと。

(惚れた弱み……なのでしょうね。羨ましい……!)

 私にもその感情を1%、いや0.1%ほど分けてほしいと無言で唱えながら、私は2人が仲直りする光景を最後まで見守っていた。

─────
「それでだ。エスキモーの次走はもうすぐなんだが、ザイアもそろそろトレーニングのピッチを上げていこうと思うんだ」
「ということはつまり次走予定が決まったのですね。どちらのレースに向かうのでしょう?」

 座学が一段落したタイミングでトレーナーさんが切り出したのは私の次のレースのことだった。私の方も前走からまもなく1ヶ月が経ち、まだかまだかと待ち望んでいた。唾をぐっと飲み込み、トレーナーさんの次の言葉を静かに待つ。隣に座っているお姉さまも口を挟むことなく、一緒に待ってくれている……さっきの件が尾を引いているだけかもしれないけれど。

「……阪神JFだ」
「いきなりGⅠ……一体どうしてですか?」

 トレーナーさんが告げたのは、ティアラ路線においてジュニア級で唯一のGⅠ、阪神レース場芝1600mで行われる大一番だった。ただ私は未だ1勝クラスの身、厳しい戦いになると思われるのにどうしてだろうか。

「言いたいことは分かる。『いろいろすっ飛ばしていきなりGⅠなのか』と。確かにオレも悩んだ。まだレース経験も浅いのに送り出せるのかと」
「でしたらなぜ?」
「ザイアも分かっている通り、今後の大目標は来年のトリプルティアラだ。そこには当然万全の態勢で臨む必要がある。身体的だけではなく精神的な意味合いも含めて、だ」
「舞台慣れしておけ、ということでしょうか」

 私の返事にトレーナーさんはこくりと首を縦に振る。なるほど、阪神のコースに合わせてGⅠの空気感、そして勝負服を着て走る感覚に体を馴染ませてほしいという意図なのか。ただその前に問題点が1つある。

「理解しました。しかしながら……出走できるのでしょうか?」
「そうだよ。毎年出走登録が枠以上に殺到して抽選になってない?」

 大きな懸念点はそこだ。出走するメリットは十二分に理解できたけれど、それも出走にこぎつけなければ意味をなさない。何か対策があるのだろうか。

「まあそれは……運だなあ……」
「「えっ!?」」

 まさかの神頼み……ここまで理詰めで話を進めていたのに肝心の部分は天命を待つのみとは……思わず声を失ってしまった。

「あくまで目標は来春のGⅠなんだよ。そこに間に合わせられればそれでいい。だからもし抽選に漏れた場合は、翌週の1勝クラスのレース、ひいらぎ賞を使う」

 ノートパソコンにカタカタと打ち込み、出てきた画面を見せてくれる。そこに載っていたのは阪神JFの翌週に中山で行われる芝1600mの1勝クラスの特別戦、ひいらぎ賞の情報だった。

「でもこれ中山だよね? しかも1勝クラスのレースだし、大舞台の経験って意味では厳しくない?」

 すっかり元の調子を取り戻したお姉さまが私のフォローに回ってくれる。確かにお姉さまの言うとおり、1勝クラスとGⅠでは観客の数やレースの流れ、そしてなんといっても24競走しかない、URA主催のGⅠの中の1つという計り知れない重み、それが肩にのしかかるかのしかからないとでは当然感じる重圧も段違いだ。

「だから1戦挟むんだよ、桜花賞のトライアル競走でレース場も距離も本番と全く同一のレース、GⅡチューリップ賞を」
「なるほど。あくまでも1勝クラスを勝利すればという前提ですが、トライアル競走ならば仮に抽選になったとしても確実に出走できます」
「それでいて、3枠しかない桜花賞への優先出走権を最大18人で争う熾烈な争いとなれば、勝負服以外の条件はクリアできる。そういうことだよね?」

 私たちの言葉に再びトレーナーさんは頷く。あくまで本線は阪神JF狙い。ただ抽選に漏れたとしても、来年のティアラ路線に間に合うようなレース選択には文句のつけようがない。幸いにも私がデビュー戦で叩き出した1600mの持ちタイムは、この時期の1勝クラスの勝ちタイムをおおむね上回っている。すなわち勝算は限りなく高いということだろう。

「分かりました。勝負服はある程度下地は完成していますから、阪神JFに出走が叶った場合でも問題ありません。それではトレーニングメニューの策定のほどよろしくお願いします」
「私より先にGⅠデビューするかもしれないんだ……頑張ってね!」

 次なる目標はGⅠ、阪神JF。私は気持ちを新たに輝かしい未来への一歩を踏み出す。

─────
 ところ変わってオレたちのチームの部室。レースの知識とか走法とかをトレーナーに座学で教えてもらっているオレとレインを除いた他の先輩方は、全員コースや室内のトレーニングルームで練習をしている。だから今この部室には3人だけしかいない。

「なあトレーナー。オレたちの次のレースってどこなんだ?」
「気になります。ボクはデイリー杯に出られなかったから、今度こそ頑張りたいんです」

 椅子に座り、机に教科書やノートを広げて勉強するというのはとても退屈だ。トレーナーじゃなければ投げ出したいほどに。ただそれももう限界に到達し、早く走らせてくれとのアピールを兼ねて、次のレースのことについてトレーナーへと尋ねる。すると真面目に話を聞いていたレインの奴も話に乗っかってきたから、トレーナーは講義を中断、もとい終わらせ質問に答えてくれた。

「今日残った部分は次に回すとして……今はルージュをホープフルSへ、レインを朝日杯FSへ送り出したいと考えている。ただ既にGⅢを勝っているルージュはともかく、まだ1勝しかしていないレインは抽選漏れの可能性がある。そうなればその前日の1勝クラスのレース、ひいらぎ賞から来年初頭の重賞に臨ませたい」
「なるほど、ホープフルSってことはあいつも出てくるな……あのときの敗北、倍にして返してやる」

 年末にジュニア級中距離王者決定戦として行われるGⅠ、ホープフルS。中山レース場の芝2000mを舞台に行われるこの競走は翌年の皐月賞と同じ設定で開催されることもあって、年々注目度が高まっている、らしい。さっきトレーナーが言っていた。そう考えている中、隣に座っていたレインがなにやら俯き加減で声を発した。

「ボクはまだ2人とは走れないんですね……」
「もしかして自分は実力不足だって考えているのか?」
「……はい」

 流石にそれは自分を卑下しすぎている。ふざけんな、何言ってんだよと言おうと立ち上がったところをトレーナーに手で制されおとなしく椅子に座り直す。オレに代わってトレーナーはレインの前にしゃがみこみ、同じ目線の高さでゆっくりと話し始めた。

「オレが初めて君のレースを見たのはあの能力検査のときだった。本当のことを言うと、あのレースは娘の走りを見るつもりだったんだ。だけど一緒に走る君たちの走る姿を見て、この2人は絶対伸びるという予感がして声をかけたんだ。そこから半年経った今、その予感は確信に変わりつつある。つまりレイン、君が実力不足だなんてことはない。そんなことを言う人にはオレが正面から否定しにいってやる。君が強いんだと大きな声で伝えるよ」

 最初はただいい人だなと思っていた。物腰も柔らかで話しやすいから、先輩たちだけではなくサブトレーナーからの信頼も厚いのだと勝手に思っていた。ただともに過ごしていくにつれて、頭は冷静だけど心の中には熱い情熱、信念を持っているから、みんなこの人についていくのだと確信した。レースに勝ったときは自分が走ったかのように一緒に喜んでくれる。もし負けてしまってもきっと同じように悲しんでくれる。オレたちよりふた回り以上大人なのに、常に同じ目線で接してくれる。

「君がまだ体質が強くないということも知っている。だけどそれは実力が足りないということじゃない。これから一緒に強くなっていこう、レイン」
「はい……はい……!」

 涙混じりに答えるレインを見てちょっといいなと思ってしまった自分の頬を何度か張り倒し、邪念を窓の外へとふっ飛ばす。そのシーンを見たトレーナーとレインが噴き出すところを見て、オレも一緒に声を出して笑ってしまった。

(ああ、ここだったら 退屈することはなさそうだ)

 少し腫れた頬を擦り、天井を見上げながらふと頭に思い浮かぶ。

 ──幼い頃からの夢を叶えられるかもしれないと。


+ 第14話
 お姉さまが出走する東スポ杯ジュニアSを週末に控えた水曜日、今日は

「よし、じゃあ最後は1ハロンごとに15秒、14秒、13.5秒、13秒、12.5秒、11.5秒でやってみようか」
「はーい」
「よーい、スタート!」

 トレーナーさんがストップウォッチを押すやいなや、お姉さまが勢いよく飛び出していく。そして刻まれていくラップタイムは0.1秒ほどの誤差しかなく、しかも最後はきっちり全体を79.5秒にまとめて戻ってきた。

「お疲れさまです、お姉さま。こちらタオルとドリンクです」
「ありがと、ザイア。やっぱりラップのこと常に意識しながら走ってたらすっごく疲れるね」

 お姉さまは頭にタオルを被せつつ、ドリンクを片手にふぅと息をつく。トレーニングをしていても肌寒く感じるようになったこの季節でも、お姉さまは変わらずジャージの胸元をパタパタとさせ、服の中に冷たい風を送り込んでいた。一見涼しそうだと思いつつも、目のやり場に困り、思わず目を逸らしてしまう。

「エスキモー、周囲の目線があるところでそれはやめた方がいい」
「えー! でもトレーナーが言うならやめよーっと」

 それでも堪らず注意したトレーナーさんの指示にはきっちり従ってすぐにやめていた。ありがとうございますと心の中で私はトレーナーさんに合掌をした。あのまま続けられていたら理性がおかしくなるところだったから。

(ただでさえお風呂のときや着替えのときは、なるべくお姉さまの方を向かないようにしているのに……不意打ちすぎます!)

 ミロのヴィーナスより美しい肢体で、モナリザより艶めかしい髪、それでいてこの世の全てのものをかき集めても敵いそうもないその尊顔……そのようなまさにパーフェクトなお姉さまの一糸まとわぬ状態、もしくはそれに準ずるお姿を目に入れてしまえば昇天してしまうのも当然の理。小学生の四則計算より解くのが容易い問題、赤ん坊でも理解できるだろう。

「じゃあ今日のトレーニングはこれで終わり! 特に連絡事項もないから、今日はここで解散だな。体を冷やさないように気をつけてくれ」
「承知しました」
「お疲れー」

 私たちはトレーナーさんに一礼してシャワールームへと歩いていく。談笑しつつ向かうその道中、既にトレーニングを終えたルージュとレインの制服姿を視界に捉えた。

「あちらにいらっしゃるのはもしかして……」
「ルージュにレイン! トレーニングもう終わってたんだ」

 お姉さまが呼びかけると、先を歩いていた2人がこちらへ振り返った。せっかく前を歩いているのに戻ってきてもらうのは悪いと思い、私とお姉さまは駆け足で2人の元へと走っていく。

「おう、お疲れ。エスキモーは今週レースだったっけか」
「お疲れさま、ザイアにエスキモー。ザイアは次GⅠだったよね?」

 同じクラスということもあって、お互いが次どこを走るかというのは雑談の中で伝えている。トレーナーさんにもそれぐらいはいいよと言われているので、私も2人には次走については前に話していた。レインさんの問いに私はこくりと頷き、そのままお姉さまとルージュさんの会話に加わる。

「今度は東京レース場だからね。しかも土曜日だし気をつけないと」
「中山行って出走取消なんてザマはやめてくれよ?」
「もしお姉さまが間違えそうになっても、私が確実に連れていきますのでご心配なく」
「だってさ。これなら心配なさそうだね」

 冗談を言えるぐらいリラックスできているならおそらく次のレースも大丈夫だと思う。ただ問題は……

「勝って絶対出てこいよ、ホープフルS」
「もう分かってるよ! それ10回ぐらい聞いたし」

 その次、ほぼ毎年年末に行われる中央GⅠ、ホープフルS。既にサウジアラビアRCを勝利して出走を当確させたルージュさんは、最近しきりにお姉さまにリベンジしたいと訴えている。心優しいお姉さまはその度に分かったからといなしているけれど、流石にそろそろ限界が近づいているようだ。ピリピリ火種が燻るところで私は消火に入ろうとしたけれど、その前にレインさんが話題を変えてくれた。ルージュさんの視線もお姉さまからレインさんに移ったことで私はほっと胸を撫で下ろす。

「ルージュ、そういえば明日トレーナーさんに出せって言われてた課題、もう終わってる?」
「あー……終わってねえな」
「よかったら今から一緒にやらない? ボクもまだ終わってなくて」
「マジか!? ありがとな!」

 これは私の完全な偏見なのだが、おそらくレインさんは九割方終わっているけれど、ルージュさんについては半分、いや一割ほどしか終わってないと思う。レインさんへ向けて拝んでいる様子を見ても明らかだ。

「じゃあまた明日。2人とも風邪ひく前にシャワー浴びてきなよ」

 ルージュさんに見られないようにウィンクをしてレインさんは2人で去っていった。私たちは手を振って別れを告げ、本来やるべきことへと足を向けた。そのときお姉さまのポケットからピロリンと音が鳴る。メッセージか何かが届いたのだろうか、画面を見たお姉さまは素早く文字を打ち込むと、再び元のポケットへ携帯を滑り込ませた。

「どうかされましたか、お姉さま?」
「前から話してたことなんだけどさ、ママそろそろ出産近いかもって」

 お姉さまから話はある程度聞いていた。予定日より少し遅れ気味だから、もしかしたらレースと被るかもという話をトレーナーさんと私がいる場所で話してもらっていた。トレーナーさんは、あくまでもレースを優先してほしいけれど万が一のときはと、お姉さまの意志を最大限尊重する姿勢をみせていた。私も私で、いざとなればお父様やお母様に頭を下げ、ヘリでもなんでも使っていただこうと決意を固めていた。

「お姉さまのお母様の無事を祈ることは最優先として……勝つ理由が増えますね」
「うん。絶対負けられない理由が増えちゃったね」

 右手を胸にあて、お姉さまは廊下の先をまっすぐ見つめる。その視線の先にあるのはゴール板を先頭で駆け抜ける自身の姿だろうか。真剣な眼差しに私も唾をごくりと飲み込み、小さく頷く。

「それでは行きましょうか」
「うん、シャワーにね」

 まずはレース前に体を冷やして体調を崩さないためにも熱いシャワーで汗を洗い流さないといけない。

(それと記憶を排水口へと……)

 トレーニング終了直後、お姉さまの開いた胸元から見えたあの光景をいち早く記憶から抹消すべく、私は足早にシャワールームへと歩いていった。

 ……寮の部屋に戻ってから同じことを目の前でされたから、洗い流した意味が全くなかったんだけれど。

─────

 迎えた東スポ杯ジュニアS当日、エスキモーは一段と張り切っているように見えた。それもそのはず、母の出産がここ数日になりそうだからだ。家族が増えるかのタイミングなら勝利を飾りたいという意志がいつもより強くなるのは当然だろう。もちろんオレも今日は絶対に勝たせてやりたいという一心で今日まで様々なトレーニングを彼女に課してきた。

「……よし、行ってくるね」
「勝ってこい」
「お姉さま、頑張ってください」

 唇を湿らせる程度に水分を取り、ストレッチをして体を解すと、深呼吸をして体へ多くの酸素を取り込む。そしてゆっくり吐き出す。いつものルーティンを済ませると、今日は足早に控え室を出ていった。

「なあザイア」
「どうされましたか、トレーナーさん」

 エスキモーを見送った格好のまま隣に立っているザイアへ声をかける。この子ならそう答えてくれるだろうと分かっているが、安心したいから聞いてみることにする。

「今日エスキモーは勝つと思うか?」
「愚問です」
「……ありがとう。それじゃオレたちも観客席に行くか」

 大丈夫、絶対に大丈夫。彼女は父母と今度生まれてくる下の子へ勝利をプレゼントする。そう信じてオレは控え室をあとにした。

─────
『さあ今日のメインレースは出世レースと名高い重賞競走、GⅡ東スポ杯ジュニアSです。1番人気はデビュー戦を圧勝しましたメジロエスキモー! 今7番ゲートに入ります』

 ターフビジョンに大きく映し出されるエスキモーの姿。重賞、しかも年末だけでなく来年を占う競走として定着したこのレースにおいて1番人気に推されても、彼女の表情に緊張の色は見えない。瞳はただ前を見ている。

『──がゲートに収まり……スタートしました!』

 ゲートがガコンという音で開きレースが始まる。エスキモーは指示通り無理に前には行かず、自分のペースを守って中団へと位置取った。

「……やはり今日の作戦は少々無理があるのでは? 周囲の状況を気にしながら、その上プレッシャーをかけられる状況下で指示したラップで回ってこいなどという難題は厳しすぎませんか?」

 前半の600mを36秒を切るペースでレースが進む中、隣からターフビジョンを見つめながらザイアが今日の作戦について問いかけてきた。確かに最初にエスキモーへこのレースプランを伝えたとき、すぐ側にいたこの子が驚愕の表情を浮かべていたなと思い出した。言葉を失ったのち、無謀だとオレに言ってきたことも。

「いいや、この時期のGⅡでこれができないようじゃGⅠなんて勝てっこない。オレはエスキモーがGⅠを勝てると思っているからな」
「そのような信頼の源泉は一体……」

『最初の1000mは59秒! 今年はやや速いペースで流れています! 1番人気のメジロエスキモーは中団より前目につけ、じっくりと脚を溜めています!』

 ザイアの疑問も分かる。いくらエスキモーのことをデビュー前から知っていたとして、GⅠを勝てる人材なんて分かりっこない。ただでさえ地元で有名だったウマ娘がいざ中央に挑戦してみたらてんで駄目だった話には枚挙にいとまがないのに、そのような子たちと何が違うのかなんて普通分かるはずがない。

(だがオレは“見た”。彼女がGⅠをいくつも勝利する光景を)

 あの“夢”でのラストレースは、今でも昨日のことのように思い浮かぶ。無敗の最強ウマ娘メジロエスキーをハナ差で差し切ったウマ娘。その名は……

「メジロエスキモー。彼女は絶対GⅠを勝つ。オレはそう信じている」

『残り600mの標識を過ぎ、いよいよ最後の力比べに入ります! 1番人気メジロエスキモーはここで先頭を射程圏に収めました!』

 オレが信じた末脚が夢への直線を力強く駆け抜けていく。声はいらない。ターフを駆ける足音がこのレースの主役は自分なのだと高らかに宣言してくれるのだから。

「残り400m。ラップタイムはどうですか?」
「ああ、完璧だ」

 片手に握りしめたストップウォッチに目をやり、そして頷く。先頭に立った彼女を阻むものはもうない。

『残り200m! 先頭はメジロエスキモー! 後続との差を広げてまたもや圧勝ムード!』

 勝ちは堅い。ただそれでも彼女はそのスピードを緩めることはない。後ろを見ずにただ前だけを見つめている。

「おめでとう、エスキモー。タイムもばっちりだ」
「お見事です、お姉さま」

『先頭はメジロエスキモーで今ゴールイン! タイムは1分45秒0! 早い時計での決着となりました!』

 文句なしの完璧なラップタイム。気づく人だけ気づけばいい。彼女の本当の強さがどこに秘められているのかを。着差ではなく、タイムだけでない、その正確無比な体内時計。

 レース後の検査が終わったエスキモーと合流し控え室へ戻る。息をふうと吐き、体を休めるために椅子へ腰かけたその瞬間、控え室に携帯の着信音が鳴り響いた。その携帯の持ち主は……エスキモーだった。思わず立ち上がって携帯を手にした彼女の顔は固く、手は緊張を示すように小刻みに震えていた。

テッテケテッテケテッテテッテテッテテー

「はいもしもし……パパ!? うん、勝ったよ……ありがと。それで……えっ、ほんと!? ママは元気? 男の子だったんだ。そっか……ウイニングライブ終わったらすぐ行くから!」

 電話を切ると、エスキモーは全身の力が抜けたかのようにドサッと椅子にへたりこむ。漏れ聞こえてきた内容、そして今浮かべている緩んだ表情、結果はきっと。

「おめでとう、でいいんだよな」
「うん……無事でよかったよぉ〜〜〜!!!」
「おめでとうございます、お姉さま」

 ゲートが開く前も、レース中でも、レース後でも、そしてきっとウイニングライブにおいてもケロッとしている彼女が今日一番緊張したのが親の出産などと観客の誰が思うだろうか。安心して零れた彼女の涙を指でそっと掬い上げながら、自分もまたホッとする。

「ザイア、ウイニングライブ後の車の手配は?」
「抜かりなく」

 オレたちトレーナーができるのは、いつもはかぼちゃのバ車を準備して、衣装を身にまとったシンデレラをお城へ送り出すこと、ただそれだけ。しかし、今日ぐらいは一緒に乗っていってもいいだろう。

(だってお祝いするのは大勢の方がいいだろうから)

 ただその前に目を腫らした少女をもう1つの舞台へ送り出さなければならない。

 ──ウイニングライブという名の晴れのステージへ。

─────
 今日一日全てが終わり、オレとエスキモーは病院から家へと帰ってきた。今日ぐらいはとスーパーの惣菜でご飯を済ませると、互いにリビングのソファに深く腰かける。そして今日一日のことを思い出すよう、2人とも天井をぼーっと見上げた。

「今日一日長かったな」
「本当にね。レースで勝ったの昨日かなって思っちゃうぐらい」

 ウイニングライブを完璧にこなしたあと、ザイアが手配したハイヤーに乗り込み、エスキモーの母ドーベルさんが入院している病院へ制限速度を守った超特急で駆けつけた。病院の階段を静かに駆け上がり、事前に聞いていた病室の扉を開くと、そこには優しく赤ん坊を抱きかかえるドーベルさんと元チームトレーナーが2人仲良さそうに談笑していた。その光景を見たエスキモーは、再び白ウサギの目のように真っ赤になっていた瞳から涙を零していた。

「明日休みでよかったな……」
「ほんとそうだよ……近々かなって思ってたけど、本当に今日が出産日になるって全然考えてなかったもん」

 元チームトレーナーに聞くところによると、出産時刻は15時32分頃だという。偶然にもそれはエスキモーがゴールを駆け抜けたタイミングと同じで、オレたち全員は何かの神の導きとしか思うことができなかった。運命ってすごいななどとぼんやり考えつつ、睡魔に襲われつつある頭で隣の彼女へ時間を尋ねる。

「そういや今何時だっけ」
「とっくに21時過ぎてるよ」
「そっか、もう21時過ぎて……えっ、嘘、マジで!?」

 彼女の答えに思わず飛び起き、壁にかかったアナログ時計を見る。そこで完全に頭が覚醒したオレは、自身の携帯の画面に表示されているアラビア数字と間違いがないか見比べた。その結果は……

「21時どころか22時前だな……明日謝りに行くよ……」

 レースに加えウイニングライブに出演したことである程度は考慮してもらえるとはいえ、流石にこれは限度を超えている。ただ今から彼女を寮に送り届けたところで迷惑がかかるだろうし、とりあえず先に寮長に謝罪のメッセージを送ろうと携帯を開くと、隣から大丈夫との呑気な声が聞こえてきた。

「私今日泊まってくるって寮長に言ってあるから」

 そう言われ見せられた携帯の画面には確かに外泊の依頼とそれを許可する文面が並んでいた。なるほど用意周到だと合点がいきそうになったが、一つ現実と整合性が取れない部分を見つけてしまった。それは……

「流石だな、と言いたいところだが……」
「どうしたの、トレーナー?」
「そこには実家に泊まるって書いてあるように見えるけど」

 『実家に泊まらせてください!』という一文だった。

「あっ、打ち間違えちゃった☆」
「打ち間違えちゃった、じゃないだろもう……」

 しかもその上『てへっ☆』なんて言うから、怒る代わりにエスキモーの髪を両手でぐしゃぐしゃにしてやった。『もーっ!』なんてかわいい抗議が聞こえるが、それを無視してしばらくわしゃわしゃするのを続けた。

「今日は特別だからな」
「はーい。トレーナー大好きー」
「はいはい、そんなこと言ってないでとっとと風呂入って寝なさい」

 寄りかかってくる彼女を押し返し、そのまま風呂場に繋がる洗面所へと連れていく。そうして洗面所の扉を閉め、ふぅとひと息ついたところでまた一つ疑問が頭に浮かび、すぐに顔から血の気が引く。

「あれ、エスキモーの着替えって……」

 流石に不味い。このままだと交わした約束云々が吹き飛んでしまう。というかタオル……は洗面所に置いてあるから大丈夫かいや着替えがなかったら元も子もないだろどうすんだちょっと待てもしかして前に家に来たときに持ってきていたか?

 もしやと思い寝室の衣装ケースを見にいくと、まだスペースが余っていたはずの箇所に彼女の服がこっそり詰め込まれていた。おそらくオレが朝起きてこないうちにこっそり入れたのだろう。準備に抜かりがなさすぎる。

「えっと寝間着はたぶんこれで下着は……あるわ……」

 視界にあまり入れないようにそーっと手に取りすぐにパジャマの下に隠す。そしてリビングを通って洗面所のドアに耳をくっつけると、彼女はとっくに風呂場に入ったようだった。音を立てないようにドアノブを捻ると、抜き足差し足で寝間着を置いて、これまたバレないように洗面所からリビングに戻り、静かにドアを閉めた。

(こんなの続いたら心臓が保たない……)

 彼女とこちらの世界で再会してまだ半年と少し、若干、というよりわりと将来が不安になる出来事だった。



+ 第15話
「特別登録の人数は……」
「24人。やっぱり抽選になりそうだね」

 お姉さまが東スポ杯ジュニアSを勝利し、弟様が誕生された翌週の日曜日、世間では京阪杯やジャパンカップが行われた日の夕方、2週間後に迫った阪神JFの特別登録者が発表された。以前トレーナーさんが懸念されていた通り、フルゲートとなる18人を大きく上回る24人が登録を済ませている。私はそのメンバーの一覧表を今お姉さまと寮の自室で確認していた。

「それで2勝以上もしくは1勝プラス重賞2着1回以上を果たしているのは……8人ですか」
「じゃあ16分の10だね。確率的には5割超えてるけど、こればかりは分からないからなあ」

 すっかり日の入りも早くなり、徐々に辺りが暗くなっていくのを感じる11月末。私たちは部屋の照明をつけると、お姉さまのベッドに並んで腰かけて携帯画面に表示されるメンバーを凝視する。そこには重要な前哨戦と位置づけられている重賞、アルテミスSを3戦無敗で勝利したウマ娘の名前もあった。

「スカイピーチさん……勝利したレースはいずれも後方からの直線一気。その豪快な走法で注目を集めている方ですね」
「なんだかルージュみたいだよね」

 かつて名を馳せた某3冠ウマ娘を彷彿とさせるその戦法はやはり“映える”。勝った3レースとも2着につけた着差はわずかながら、逆に最後までどうなるか分からないハラハラ感と、差し切った瞬間の感情の爆発によってもたらされる人気によって、彼女は既に来年のティアラ路線の最有力候補へ押し上げられていた。他にもメイクデビューと1勝クラスのレースを連勝してきたウマ娘や、2戦目以降は勝利から遠ざかるも堅実に走るウマ娘たちがいる中で、まだキャリア1戦のみの私はそれほど注目される存在ではなかった。

「それでさ、勝負服の方は段取り進んでるの?」
「はい、明日明後日には試着ができる旨伺っています」

 GⅠに出走するウマ娘のみが着用できる各個人専用の勝負服を私はダノン家お抱えの仕立て屋に既に依頼していた。

「ザイアの衣装だし、きっとかわいいのが仕上がるんだろうなー」
「そんなかわいいだなんて……照れてしまいます……」
「ザイアもかわいいけど、今私が言ってるのは勝負服の方だからね?」

 お姉さまのお褒めの言葉に頬を赤らめつつも、確かにかわいらしいイメージのものが私のところまで上がってきていた。白のブラウスにショート丈のスカート、それに薄い青色をしたリボンを胸元に着け、上から金色の糸で縁取られた“ダノン”の赤いコートを身に纏う形。靴もレザーシューズと当然走りにくさはなく、これならば実力を遺憾なく発揮できそうだとGOサインを出した。

「そういえばお姉さまの勝負服はもう出来上がっているんですか?」
「うん、私の方ももうすぐ試着できるって。一応デザインはこんな感じなんだけど」

 携帯をぱぱっとタッチして見せてくれたのはアジアの民族衣装をベースに仕立て上げられた素敵な勝負服だった。それを見て思わず私はお姉さまの顔と携帯の画面を何度も見比べてしまった。

「これを……お姉さまが……?」
「あれ? 駄目だった?」

 そうお姉さまは首を傾げる。おそらく私が嬌声を上げるか卒倒するかどっちかだと思ったのかもしれない。ただその予感は外れた。なぜなら……

「体のラインがこんなに綺麗に浮かび上がって……しかも横のスリットからは生脚がチラチラ見えて……」
「えーっと……ザイア?」
「こんなの犯罪ですよ! 捕まります!」
「ごめん、私ザイアがちょっと何言ってるのか分かんないや……」

東南アジアの大国であるベトナム、その国の民族衣装であるアオザイを基調に、ところどころにメジロ家の緑を差し色に使った勝負服は、お姉さまの魅力をこれまでかという程に引き出すこと請け合いの代物だった。これをもし世間が見てしまえば……

「全員お姉さまにメロメロになってレースになりません! 競走中止です! はっ! ならばむしろ着た方が必ず勝利できるからいいのでは……しかしそれではお姉さまの素晴らしい走りを見てもらえない……難しい問題です……これはお父様やお母様を通じてURAに働きかけるしか……」
「ザイア? ちょーっとストップね?」
「はい、お姉さまの命令ならば」
「そこはすぐ黙ってくれるんだ……」

 なぜかお姉さまが首を傾げている。何かおかしなことがあったのだろうか。私も同じように頭を捻っていると、お姉さまはまるで子どもに言い聞かせるように滔々と話し始めた。

「勝負服、ずっと前からどんなのがいいかなって考えてたんだ。だって勝負服だよ? 絶対自分が気に入るものにしたいって調べて調べて……トレーナーにも手伝ってもらって……」
「……」
「制服みたいなデザインもかわいいなって思ったし、ドレスベースの勝負服も綺麗だなって憧れた。でも私が一番惹かれたのはこれなの」

 そう言ってお姉さまが見せてくれたのは、何人もの女性が色とりどりに彩られたアオザイを身に纏っている一枚の写真。赤、青、黄色……それ以外にも綺麗に染め上げられた衣装を身につけた人たちは眩しいほどの笑顔を浮かべていた。

「私も体のラインが出る服を着るのはちょっと恥ずかしいよ? そもそも歳不相応の体つきしてるって自分でも分かってるし」

 街で見かけると二度見、いや三度見するほど中等部らしからぬプロポーション。それは高等部、いや大人の中に交じっても引けを取らないほどの容姿に文句なんてつけるところはない。ただその容姿を持つお姉さまにとっては、少しばかりコンプレックスにもなっていたということに私は今初めて気がついた。

「だけど調べてる中でこんな写真見たらさ、着たくなっちゃうじゃん? 実際メジロ家に頼んで取り寄せてもらったのを着てみても、やっぱりいいなって思ったの。だから絶対これにしたいって、これがいいって」

 私は肝心なことを忘れていた。お姉さまに対して考えるようなことはお姉さまに既に考え抜かれていて、その上で選んでいたのだということに気づかなかった。愚かなことこの上ない。かくなる上は……

「腹を切ります。介錯してください」
「この話からなんでそうなるの!?」
「未熟すぎました。また来世でお会いしましょう。それでは」
「行かせないからね!?」

 包丁はどこかと血眼になって探す私を羽交い締めにしてお姉さまは止めようとする。数分間死闘を繰り返したのち、ぜーぜー言いながら2人ともベッドで仰向けになって倒れ込んだ。

「なんでこう変な方向に思い切りがいいの……?」
「お姉さまのことだからですよ……」
「その言葉喜んでいいのか……私には分からないかな……」

 何度か大きく息を吸って吐いてを繰り返し、私より先に起き上がったお姉さまは、心配する声をかけてくれながらもいつものように部屋を出ていった。日が早く落ちるようになってもこの習慣は変わることがないらしい。

「私も明日提出する課題等を鞄に入れ込んでお風呂に向かうとしましょうか」

 もう一度大きな深呼吸をして息を整え、寝転んだベッドから起き上がる。鞄の中を整理しながらふと窓の方へ目を向けると、先ほどまでの室内での喧騒とはうってかわり、暗闇の中に街灯がポツポツと静かに佇んでいた。

「抽選、通るといいですね。ここをステップに来年また大きな飛躍を果たすべく」

 夢への糸を強く両手で握りしめる。離さないように、落ちないように。

 夜空に浮かぶ一等星に願いを伝える。きっとこの願いは叶えてくれる

──はずだった。

─────
 12月に入り、なだれ込むようにあっという間にレース前最後の追い切りまで水曜日に終えた私は、今静かに出走者の発表を待っていた。一部のレースを除き、出走者はレース当週の木曜日の14時頃に一斉に発表される。その一覧表に自分の名前があれば出走が確定し、翌日、もしくは翌々日の枠順発表を待つ。載っていなければ、当然出走は叶わない。

「あと3分。こればかりは天命を待つしかないのがもどかしいですね」

 先生へ許可をもらい、トレーナールームにてトレーナーさんと2人で発表のときをただ待つ。緊張を紛らわすように他愛もない話をしようと試みるも上手く会話が繋がらず、時計の針の音がうるさく感じるほどにはっきりと鳴り響いている。

「ああ……」

 トレーナーさんはそれだけ言ってまた口を閉ざす。そしてまた時計がカチカチと時を刻んでいく音が聞こえる。

「あと1分……」

 どうかどうかと手を組み天に祈る。隣を見ると、トレーナーさんも図らずも同じ体勢をとっていた。

 そして迎えた運命の瞬間。出走表のページの更新ボタンを押す。何度かエラーを吐き出しながらも開いたその画面に私の名前は……

「「ない……」」

 何度見返しても更新ボタンを押しても、ダノンディザイアという8文字はそこに載っていなかった。16分の10の確率、5割を超える可能性を私は取りこぼした。祈りは届かず、綺麗に仕立て上げられた勝負服は早くても来年まで日の目を見ることはなくなった。埃一つついていないそれに緑のターフを見せることは叶わない。悲しい……悔しい……辛い……

(でも、それでも下を向いてはいけません、ダノンディザイア。貴方の目標はここで終わりではない。まだ手段は数多く残っている。ならば!)

「トレーナーさん、事前の打ち合わせ通りひいらぎ賞への登録をお願いします」
「そうだな。ここで立ち止まっているわけにはいかないからな」

 ひいらぎ賞、中山レース場芝1600mにて朝日杯FS前日に行われる、クラシック・ティアラ路線混合の一戦。1勝クラスのレースながら、過去にはGⅠウマ娘も複数輩出している出世レースの一つとして知られている。メンバーレベルとしてはGⅠと比べて一段落ちるものの、決して油断できるものではない。それでも私は見えない星へ必勝を誓う。

(負けません。ダノンの名にかけて、絶対に)

 それはそうと、お姉さまに出走できなくて残念だったねと慰めていただけたのは同室特権の一つ。心の底から甘受させてもらった。あっ、この権利は他の人には絶対譲りませんからね!


+ 第16話
 ひいらぎ賞当日の土曜日、天候は晴れ、芝・ダートともに良バ場。来週には有馬記念が行われるこの舞台で、今日ザイアが次のステップへと踏み出す。今日は土曜日ではあるものの、クラシック・シニア級混合のティアラ限定のGⅢが組まれていることもあり、それなりの人がスタンドに詰めかけていた。

「13人立ての4枠4番。2コーナーの形状もあって内枠有利なコース形態だから、それなりの枠取れてよかったな」
「はい。作戦は初戦と同様で問題ないですよね」
「ああ。ただ最後に急坂があることは考慮してくれ」
「承知しました」

 控え室でのレース前最後のブリーフィングはあっさりと終わり、あとはパドックへの集合、そしてレース開始を待つのみとなった。

「ねえトレーナー、1つだけ聞いていい?」
「どうした?」

 壁際の椅子で足をブラブラさせながら携帯を見ていたエスキモーが顔を上げ、隣に立っていたオレに声をかけてきた。

「これ、“いつまで”続けるの? ずっと、じゃないよね?」
「それはもちろん。とっておきのタイミングが必ず来るからそこで、な」
「ふぅん? ま、ザイアが勝てたらそれでいいんだけど。ね、ザイア」

 鏡を見ながら髪を整えていたザイアはその声で振り返り、大きく頷く。

「はい、勝利を重ねることが大前提ですから。トレーナーさんのことは信頼していますから、心配していません」
「だったら大丈夫だね。ザイア、ちょっとこっち来て。髪整えてあげる」

 室内にも関わらず、エスキモーの一言でダッシュで駆けつけるザイア。というか今言い終わる前に走り出してなかったか?

「はい、これで完璧。頑張ってきてね」
「ん……ありがとうございます、お姉さま。必ず勝利してみせます。トレーナーさんも見守っていてください」

 体調は万全、そしてやる気は十二分にある。懸念材料も特にない。ただ一つだけどうしても気になったことがあって、ザイアがパドックへ向かってから残ったエスキモーへ尋ねてみた。

「なあエスキモー、ちょっと聞きたい、というか確認したいことがあるんだけど」
「どしたの?」
「ザイアのこと、エスキーと重ねて見てたりする? もしくは妹として」

 そう、これまでの2人のやりとりを見ていて感じたのは、友人にしては距離が近く、さりとて恋仲としての雰囲気は特に感じない。もちろんザイアから感情の矢印が出ているのは間違いないんだが、エスキモーから彼女へ向ける視線は同じものでは決してない。そんな思いから発出された問いに、目の前の彼女は悩みながらも答えを紡ぎ出そうと試みる。

「女の子って友達でも手繋いだり腕組んだりするよ? だけどトレーナーの聞きたいことってそういうことじゃないよね……うーん……」
「答えに苦しむんだったら無理に答えなくていいよ。君を困らせたいわけじゃないから。ごめん、そろそろ行こうか」
「うん……」

 そろそろ観客席に向かおうと誘うと、彼女は何度も唸りながらもオレの隣に並び、控え室から観客席へ歩いていく。暖かいスタンドから冷たい風が吹き抜ける外に出ると、まだ9レースということもあって、あっさりとゴール板前を確保することができた。冷たい手をカイロを入れているコートのポケットの中に突っ込んでいると、隣の彼女がにへへと笑いながら同じ場所へ右手を突っ込んできた。

「あったかーい。私もカイロ持ってきたらよかったな。手袋はあるんだけど、やっぱり“防寒”だから」
「じゃあ今度トレーナールームにまとめて置いておくよ。使う分だけ持っていっていいから」
「ありがと、トレーナー。ほんと気が利くなー」

 本当は家にストックを置いてあるから、次に来たときにでもと伝えたかったけど、周囲に人がいるこの状況下でその台詞が言えるわけもなく、口を突いたのはこの場面での正解の一言。エスキモーもたぶん分かった上で変にツッコミを入れなかったのだと思う。彼女にも感謝しつつ、9レースの本バ場入場を見守った。

「ねえ、トレーナー。さっきの質問なんだけどさ」

 出走者がゲート裏に集い、発走の時間まで残り数分と迫ったとき、いつの間にかオレのポケットからカイロを抜き取っていた彼女がぽつりと想いを吐露し始めた。

「私、確かにザイアのことあの子と重ねてみていたところはあったよ。身長はザイアの方が小さいけど、ああ見えて喜怒哀楽激しくて、それでいてツッコミどころもあってさ。あの子の姿がダブることはこれまで何回かあった。だけど」

 枠入りが始まり、まず奇数番号のウマ娘がゲートへ収まる。嫌がった子がいたものの、比較的スムーズに11番の子までゲートへ入った。

「妹っていうのもちょっとだけ正解。この前弟ができたけど、それでも干支一回りぐらいは離れてるからさ。年が近い下の子がいたらなって思うこともこれまで何回もあったよ。パパとママには笑ってごまかされたけどね」

 続いて偶数番号のウマ娘が続々とゲートへ入っていく。2番の子、そして4番のザイアがゲートへ入る。

「だけどやっぱりザイアはさ、私にとっての大事な友達。親友なの」

 12番までが全員ゲートへ収まり、最後に大外13番のウマ娘がゲートへ歩を進める。

「この先も変わらない。未来のことは分からないけど、きっと、絶対」

 13人がゲートへ収まる。

「そういう意味で大好き、かな」

 彼女が言い終わるとともにゲートが開き、レースが始まった。

─────
 ゲートが開き、全員が一斉に飛び出す。少し出遅れた子もいるけれど、そのようなことは気にしていられず、私はただ先頭を奪い取るのみ。外から1人や2人ほど競りかけてくる様子を視界の隅で捉えたけれど、意に介することなく2コーナーを過ぎた辺りで定位置となる先頭の景色を確保した。

(無理に競りかけてはきませんね……ならば!)

 私は3コーナーの途中まで続く下り坂を利用し、ぐんぐんと後続との差を離していく。序盤に競ってきた2人はハイペースに付き合ってられないとばかりに、1600m戦ながら残り1000m地点で2番手以降の気配がかなり遠くに感じるようになった。

(先ほどの1ハロンが感覚として11秒と少し、その次の1ハロンもおそらく12秒は切っているでしょう。ならば次の1ハロンは12秒を目安にしましょうか)

 過去のコースデータを見ていると、2コーナーの途中から3コーナー過ぎまで下り坂が続く都合上、前半のラップが速い、いわゆる前傾ラップを刻むレースが必然的に多くなっている。そしてそのようなレースは得てして最初に前が飛ばすものの、最後垂れたところを後続の子が差すという展開に繋がる。

(すなわち私は最後に差される、と観客の方は思われているのでしょうね)

 その評価はレースの人気にも表れていて、私は13人中5番人気の評価に収まっていた。ハイペースでの逃げという、決まれば痛快だがその確率はそう高くないというハイリスクローリターンな走法なのだから、むしろこれでも評価されている方だろう。

(ただそれは私を甘く見すぎていますよ!)

 残り600mを切り4コーナーへと突入する。流石に後続のウマ娘も前を呑み込まんとアクセルを吹かし始めた。しかし差が詰まらない、いや詰まらせない。

(負けはしない。だって私は“ダノン”ディザイアなのですから!)

 最初のコーナーからそれほど荒れていない内ラチ沿いを這うように回ってきた都合上、周りが考えているより消耗は抑えられている。しかも気づいてなかったのかもしれないけれど……

(皆さんも私のペースに引っ張られて脚に疲労が溜まっているんですよ!)

 脚を溜めるという行為、それは最後に末脚を爆発させるために、前半を飛ばしすぎないようにレースを運ぶというもの。ただ脚を溜められたとして、ゴール板までに差し切らなくては意味がない。だから逃げるウマ娘以外は差せる位置で追走しながら前を窺っている。

 そう、みんな追走しているのだ。遅れないように、つかず離れずの距離を保ちながら走っている。すなわち……

(後続が最後に使う脚を道中で削ってしまえば、前に位置取る方が断然有利!)

 当然それはスピードを維持させつつ、体力を途中で使い切らずに逃げる、複雑で難解な作業。普通ならできない、そう普通なら。

(お姉さまには負けますが、私だって幼い頃から鍛えているのですから!)

 周囲にズルいと罵られようと、使えるものを使わないのは私の価値観に反する行為。幼少期に鍛えられた意地と根性で最後まで!

(負け……ない!)

 ゴール直前にそびえ立つ坂を駆け上がる。後続が近い、だけど。

(ここで負けるわけにはいきませんから!)

 粘り、そして、

『逃げ切った! 逃げ切った! ダノンディザイアが最後まで先頭を譲りませんでした!』

 勝った。

─────
「お疲れさま、そしておめでとうザイア。ウイニングライブまでまだ時間あるから、今はゆっくり休んでて」
「ふぅ……ありがとうございます、お姉さま。無事勝ってまいりました」

 ハイペースで飛ばす中、それでも最後まで粘りきっての1着。2着とは半バ身しか開いていないが、これは着差以上に評価されるべき勝ち方だろう。

(ここで評価されたくはないんだけどな)

 あくまでも本番は来年以降。まだここでは見つかってほしくない。まあ幸いにも世間では先週のGⅠを無敗の4連勝で制したウマ娘が話題になっているし、明日はまたGⅠがあるから上手く彼女のことを覆い隠してくれるだろう。

「明日は休みだけど……どうする?」
「んー……私は寮で観よっかな。ザイアは?」
「私も寮でお姉さまと見させていただきます。レインさんの晴れ舞台ですが、今日の明日というのは疲労がまだ抜けきっていませんので、現地には到底行けそうにありません」

 昔は中山で行われていたジュニアNo.1を決めるレースだったが、今となってはすっかり仁川の舞台で開かれるジュニア級マイル王者決定戦と趣を新たにした。中山2000mで行われるホープフルSもおおよそ定着したことで、ジュニア級GⅠはティアラ路線の阪神JF、クラシックマイル路線の朝日杯FS、中距離路線のホープフルSときっちりと線引きがなされることとなった。クラシック王道路線を走ると思っていたレインがホープフルSではなく、メイクデビューより距離を短縮して朝日杯を走るのは若干予想外ではあったが。

「分かった。ならオレも家で見ることにするよ。もちろん練習はないから、ゆっくり“2人”で楽しんでくれ」
「はい、承知しました……えへへ……」
「……はーい」

 エスキモーがこちらをじっと見てくるのを気づかないふりをして、タブレット端末でデータの確認をする。と見せかけ、こっそり彼女へメッセージを送る。

『終わったら家に寄っていいから』

 彼女の携帯が震える。そしてすぐに既読がつく。

『ありがと。絶対行くから待っててね』

 さっきの不満そうな顔はどこへやら、鼻唄でも歌い出さんばかりに上機嫌の彼女は、ザイアのウイニングライブが終わって帰るまでずっとニコニコ笑顔を浮かべていた。

─────
「準備はいいか?」
「はい、いつでも」

 修験道、古代日本において山岳信仰を基に山へ籠り、厳しい修行を己に課すことで悟りを得ることを目的とする信仰形態。ボクはその修験道を道者である山伏の装束をベースに据えた勝負服を今身にまとって、ただ静かにそのときを待っている。

(今日あの2人はいない。ボクただ1人。ならば……!)

 格式高く、そして出走者の能力も相応に高いGⅠと言えども、彼女たちと戦うまでに負けるわけにはいかない。ただでさえ遅れているのに、これ以上後塵を拝するわけにはいかないのだから。

 一度、二度と深呼吸。心は熱く、頭は冷静に。

「行ってきます」
「ああ、勝ってこい!」


+ 第17話
 ひいらぎ賞に勝利した翌日、丸一日休暇をもらったお姉さまと私は自室にて友人のレースを観戦するため、2人並んでテレビを見ていた。寮の大広間に行けば大画面で見ることができるのだけれど、まだ疲れが残っているなどと嘯くことでお姉さまを部屋に引き留め、2人だけでレインさんを応援することに成功した。

「お姉さまはこのレースどう見られますか?」
「うーん……1番人気と2番人気の子は差すレースでここまで勝ち上がってきたから、今日もよほどスローな流れにならない限りは後方に待機するはずだよね。だけどその2人をノーマークで放置するなんてことは誰もしないだろうから……」
「必然的に意識が後方に向かう、ということですね」
「そういうこと」

 走破タイムや上がり3ハロン、ウマ娘の能力を測るファクターは数多く存在する。中にはそのウマ娘の家族の競走成績まで予想に使用する者すらいる。『この子のお姉さんは短距離を中心に走っていたから、この子も長い距離は厳しいかもしれない』といったものから、『この子のお母さんやおばあちゃんが活躍したから、きっとこの子もたくさん勝つだろう』といったものまで無数の予想方法がこの世界に散らばっている。

「裏を返せば先行する子たちへの対策はおろそかになりがちなんだよね。そもそも自分が走ることに必死な状態で周りの子に意識を向けろって言われても、17人全員を見るなんて絶対できないもん。私だって無理」
「だとすると、あっと言わせるとすれば逃げ、もしくは先行勢」

 後方への意識が強くなれば必然的にレース全体の流れは遅くなる。いつあのウマ娘は動くのか、邪魔まではいかないにしてもスパートをかけにくい場所に閉じ込めたいという心理も働く。もちろんそれをされる側も黙って従うわけはなく、レースは心理戦の様相を呈することになる。いわゆる駆け引きと呼ばれるものだ。いかに相手を出し抜くかがキモになるため、レースは速いだけではなく賢明さがなければ勝利することは叶わない。

「人気がそれほど高くない先行勢。それでいてレースセンスに長け、決め手を有しているウマ娘。それに当てはまるのは……」
「レインさん、ですね」
「ねえザイア? 私の台詞全部取ってない?」
「……気のせいです」

 こんにゃろと膝の上に乗っかった私の頬をぐにぐにと弄り倒すお姉さま。私は罰ではなくご褒美だと思っているので、ありがたくお姉さまとの触れ合いを甘受する。背中に当たる柔らかい感触、髪や体から漂う甘い香り、そして時折耳に吹きかかる息、その全てに包み込まれることで、ただの寮の一室が天使が集う天国へと装いを変えていた。ああ、夢の国はここにあったのか。

「ザイアは相変わらず柔らかいね。やっぱり毎日抱き枕にしていい?」
「それは幸せすぎて私の命がいくつあっても足りなくなるので、できれば2日に1回ぐらいにしてもらえますか? お姉さまが快眠できることが最優先なのは間違いないのですが、私が不眠症になること請け合いなので……」
「約束だよ。2日に1回だからね」

 卒業するまでお姉さまの抱き枕になる権利を獲得したところでレースの時間が徐々に迫ってきた。部屋に掛けられた時計の針はとっくに15時を過ぎている。

「レインさんは8番人気。1戦1勝、しかも8月から直行となれば人気を得ることは難しいでしょうね」
「だけど走ったレースの数は実力と必ずしも直結はしない。あの子のポテンシャルだったらきっと……」

 祈るように願うように、私のお腹に回されている手にぐっと力が入るのを感じる。かくいう私も神様に祈りを捧げる。レインさんがどうか勝ちますようにと。

─────
 師走の冷たい風がレース場を吹き抜ける。パドックからコースへと地下バ道を通ってコースへ足を踏み入れると、観衆の大歓声が耳をつんざく。しかしそれは自身に向けられたものではきっとなく、自身の前後に本バ場入場を果たした1番人気と2番人気の子へ送られるエールだろう。ボクに向けられるのはこの時期によくいる1戦1勝のウマ娘相当のもので、勝つことより人気の子たちの引き立て役としての立場を人々はボクに求めている。

(だけどボクは否定する。その全てを否定する。)

 人気がどうした。下バ評がどうした。そんなものでボクの実力は分からない。だってボクは……

(あの2人をも追い越せるってトレーナーさんが言ってくれたから。)

 負けない。絶対に。

─────
『さあ枠入りは順調に進んでいきます。奇数番号のウマ娘がゲートに収まり、続いて偶数番号の──』

 自身の勝負服を身に纏ったウマ娘18人がゲートへ次々とその身を収めていく。その中には当然レインさんの姿もあった。和服がベースとなっている、どちらかというとかっこいい勝負服を羽織って、ゲートが開くその瞬間を今か今かと待ち構えている。

『──がゲートに収まり、18人全員の枠入りが完了しました……スタートしました!』

 ガコンと音が鳴りゲートが開く。ばらつきはあれど大きく出遅れたウマ娘はおらず、バックストレッチを目いっぱいに使った先頭争いが繰り広げられている。人気の2人はやはり中団より後ろに位置取り、他の“15人”はちらちらと2人を見ながら向こう正面から外回りの第3コーナーへと蹄跡を刻んでいく。

「お姉さまはどう見ますか?」
「やっぱりゆったり流れている気がするな。トレーナーの受け売りなんだけど、ジュニア級だとしても、GⅠだし最初の600mで34秒台を刻んでも全然おかしくないの。だけど……ほら見て」

 お姉さまが指を指した先は画面の右端。そこには白い文字でレースのタイムが刻まれていっていた。ありがたいことにトゥインクルシリーズ専門のチャンネルは、1600mであれば最初の600mのタイムを黄色い文字で数秒示してくれる。そして肝心の600mの通過タイムは……

「35秒2。1秒ほど遅いですね」
「33秒台も出てもおかしくないのに、レースが全然流れていかない。だとすれば……」
「最後の直線だけのレースになる、ということですか」

 私の言葉に頷くお姉さま。トレーナーさんからの入れ知恵があるにせよ、やはりお姉さまのレースの知識量はすごい。普段の授業でも分からない問題はないほどの聡明さなのに、レースに対する知識も決して見劣りせず、むしろ上回るほど。お姉しゃま……しゅてき……

『さあ3コーナーを過ぎ、4コーナーへと向かいます! 人気の2人はようやく今後方から徐々に上がる構えを見せています! 場内が騒然としてきたぞ阪神レース場!』

 残り600mのハロン棒を通過する。バ群が徐々に圧縮されひとかたまりになる。その中で最初に抜け出してきたのは……

『後方から人気の2人が前を捉え……いや、これは……内を掬ったグレイニーレインが後ろを引き離している!? 残り400mで1バ身、2バ身と差が開いていく!』

 実況の困惑、そしてテレビ越しでも感じるスタンドのざわめき。堅い決着になると思われていたレースがまさかまさかの荒れ模様。その中心に立っているのは……

「そもそもこんな低評価なのがおかしいんだよね」
「ええ、レインさんは強い方なのに。皆さん見る目がないのですね」

『上位人気を差し置いて、先頭駆けるは蒼き星! グレイニーレイン、今1着でゴールイン!』

 私たちの友、レインさんその人だった。

─────
 熱い、熱い……体が、熱い。

(人気がどうした。1戦1勝がどうした! 勝つのは……ボクだ!)

「ああああああああああああああああ!!!!」

 燃える想いは蒼き閃光となり、緑のターフを真一文字に切り裂いた。ゴール板を駆け抜けた瞬間、まるでボクがゴールしたことに気づかなかったように静寂に包まれ、また次の一瞬で一気に歓声が爆発した。ゴールを駆け抜けたあと、クールダウンのためにスピードを緩めながら2コーナー辺りまで駆けていく。何度か深呼吸をして息を整えると、レース後のチェックを受けるため、そして観客の声援を全身で受け止めるため、観客席に向かってゆっくりと走っていった。

『すごかったよ!』
『かっこいい!』
『おめでとう!』

 多種多様な声援に対して個別に応じることは叶わない。だからボクはウィナーズサークルの前で一度立ち止まり、観客席へ向けて深々と頭を下げる。そして1、2、3と心の中で数えて頭を上げると、降り注ぐ歓声がより激しさを増していた。

(勝ってよかったな。みんなびっくりしていたけど、笑顔でいてくれている。)

 礼を済ませたところでウィナーズサークルから地下バ道へと抜けていく。その道中視界の隅に映ったターフビジョンの1着と2着の着差の部分には“3”という文字が記されていた。

─────
「驚いたな。勝つとは思っていたが、まさかここまで強いとは。流石チームトレーナー、といったところか」

 既に中山の12Rのパドック映像へ切り替わった画面を切り替え、録画した映像へ切り替える。レースの開始からしきりに一時停止と早戻しを繰り返しながら、レース全体の流れや彼女の動きを細かく確認していく。

「最初の3ハロンは12.7-10.8-11.7の35.2秒、上がり3ハロンは11.4-10.9–11.5の33.8秒、典型的なスローからのよーいドンのレースになったわけだ。こうなると持てる末脚で全てが決まるわけだが……」

 レインは道中内々の4番手を確保していた。3枠6番という内枠の利を活かし、ゲートが開くとすんなりと内に寄せてコースロスを限りなくゼロに近づけていた。強敵と目されていた2人へ脇目も振らずただただ自身のレースに徹していたことは自信があるだけに留まらず、強者へ立ち向かう恐怖に打ち勝っている証左でもある。

「逆にそれ以外の15人は意識しすぎだな……まだジュニア級だから仕方ないけど、これはみんな帰ったら怒られているだろうな……」

 実力が上位と思われる子をマークするのはおかしなことではなく、むしろ推奨されることだ。トレーナーやレースを研究する者の中には、『強いウマ娘の後ろにつけ』と言う者もいるほどに強者へのマークは行う必要がある。それにしてもこのレースにおいてはやりすぎた感が非常に強いが。

「3コーナーから4コーナーを回るところで人気の2人が上がってくるわけだけど……あっ、レインの前を走っていた子が後ろを振り返ろうとして若干外にヨレたな。それでここを……うわ、すごいな」

 ソファから思わず立ち上がってしまうほどのレースセンスの高さ。それに焦りで冷静さを失うことなく、一瞬の隙を逃さず突ける実力と賢明さは称賛に値する。まるでシニア級のウマ娘のレース運びを見ているのかと錯覚してしまうほどに彼女、そしてその後ろにいるチームトレーナーへ拍手を送る。 

「そして最後は内から一気に突き抜けてゴール。人気だった2人が後ろに陣取った分遅れたといっても3バ身差は決定的すぎる。春とはもはや別人だな……」

 レース後の彼女を見てもまだ華奢に映る部分はある。ただしそれでもなおGⅠを完勝するだけの能力の高さは誰が見ても疑いようがなく、この一戦で彼女は一躍来年のクラシックの主役候補へ名乗りを上げた。

 もちろん負けたウマ娘の分析も怠ることはない。レースを何度も何度も繰り返し見てはパソコンと向き合い、また早戻し、そしてまたパソコンとにらめっこすることを延々と行っているうちにすっかり日が落ち、外が暗くなっていた。ただつけていなかったはずの部屋の照明は明るく部屋を照らしていた。しかもなにやらトマトのいい匂いまで充満しており、間食をしていないお腹がグーっと音を立てた。

「あっ、やっと気づいた。何回も連絡したんだけど全然見てなかったでしょ。心配したんだから」

 キッチンを見るとそこにはかわいらしいエプロンを着たエスキモーの姿があった。不満げな顔にごめんと伝え携帯を見ると、そこにはエスキモーからの10件以上のメッセージが連なっていた。

『レースすごかったね』
『トレーナーも見てたでしょ?』
『晩ごはんは朝仕込んでたミネストローネでいいよね?』
『フランスパンとサラダはスーパーで買ってくるから』

 そこから先は返事もなく既読もつかないことに心配した彼女の言葉が並んでいた。なるほど、レースが終わってからオレは2時間も彼女を放っておいてしまっていたらしい。

「ごめん、無視したつもりはなかったんだ」

 改めて彼女へ頭を下げる。いくら彼女のためとはいえこれは反省しないといけない。一つのことに集中しすぎるのも一長一短だなと軽くため息をつく。

「ちょっとこっち来て」
「うん、なんでも言ってくれ」

 オレはそう返して、くつくつと音を立てるお鍋の前に立つ彼女の元へ歩いていく。何を言われても受け止めると覚悟を決めたところ、口元に白い小皿が差し出された。これはなにと目を白黒させていると、彼女は、

「味見してくれない? 初めて作ってみたんだけど、貴方の口に合うか分からなくて」

 と不安げな表情を浮かべていた。オレはその言葉を聞いて彼女の手から小皿を受け取ると、熱さに気をつけながらも小皿を傾け味を確かめる。そして1秒、2秒と味わったあと、彼女へ正直な感想を伝えた。

「うん、大丈夫……って言い方よくないな。おいしい、ありがとう。母さんが作ってくれた味に似てるよ」
「そっ……か。それならよかった」

 オレのストレートな言葉に自信なさげな顔が綻び笑みが零れる。やはり彼女には笑顔が似合う。

「サラダはお皿に並べるだけでいいとして……それじゃオレパン切るよ」
「ありがと。コップとかも準備してくれたら嬉しいな」
「もちろん!」

 食卓を彩るのは笑顔の華。おいしいと伝えるたびに咲き誇っていく。

「来週のクリスマス、どうしよっか?」
「レース前だし大々的にはやりにくいよな……だったらザイアも呼んでここでやるか?」
「やった! それじゃ早速ザイアに連絡するね!」

 彼女と過ごす“初めての”クリスマス。それはGⅠ勝利の前祝いとなるのか、それとも。

─────
「お姉さま遅いですね……あっ、お姉さまからメッセージ!?」

 夕食やお風呂を済ませ、寮の部屋で1人寂しくお姉さまのベッドに寝転んでいたところ、不意に届いたお姉さまからのメッセージについあたふたしてしまう。もしかして今のこの状況を見られていたのかとおそるおそるアプリを開くと、そこに書かれていたのはクリスマスパーティーへのお誘いだった。

『来週のクリスマスなんだけど、よかったらトレーナーの家で3人でやらない?』

 その言葉に秒速で了解した旨返事をすると、再びお姉さまのベッドに寝転び一人思案に耽る。

「3人……この際トレーナーさんがいることはいいでしょう。場所も提供いただけるのですから感謝すべきです。それにトレーナーさんにもこの半年強の指導への礼も伝えねばなりませんから、何かお渡ししないといけません。ちょうどいい機会です。それにしてもお姉さまとクリスマス……ふへへ……プレゼントの交換……ケーキの食べさせあい……はっ!? それはもしかして間接キスになるのでは!?」

 衝撃の事実に気づいてしまった。これはノーベルお姉さま賞の受賞は間違いないだろう。そのような賞はない? 今私が作ったから存在します。いいですね?

「お姉さまの柔らかくぷるんと震える唇……今はまだ触れることは叶わなくても、いつの日か必ず……」

 目を閉じ想像するのは、純白のウェディングドレスを着た私とお姉さまがチャペルで2人愛を誓う場面。指輪を交換し、互いが互いのベールを上げる。神父の言葉に従い、顔と顔が近づき、そして……

「お姉さま……愛してます……」

 これはいい。是非とも文字に起こして何度も見返さなければ。時間など期にしている場合ではない。

「スタートはもちろん前日の夜から。当日の朝、ドレスに着替える部分は緻密な描写を入れないといけませんね。お化粧の部分はお姉さまの素の美しさを表現しつつ、メイクによってより際立つように記さなければ。そして肝心の挙式の部分。友人、ここではルージュさんやレインさんにも登場いただきましょう。皆さんが祝福の拍手を送る光景が瞼の裏に浮かびます。2人のこれまでの人生のムービーも流し、そして出会い、結ばれ、今この場所に至る部分は感動すること必至でしょう」

 そうか、私にはこのような才能が眠っていたのか。将来は小説家になるのもいいかもしれない。いや、お姉さまのことのみ書くからノンフィクション作家か。まあそのような区分など些細なこと。今は全身に奔流する熱い想いをただ記すのみ。

「ブーケトスを受け取るのは……本筋から逸れるので一旦置いて、披露宴についても書かないといけませんね。なにせドレスを複数着替えるのですから。せっかくですしどのような色がお姉さまに似合うのか調べてみましょう」
「私は赤もいいなーって思うよ」
「赤……ダノン家の色でもあります。お姉さまがダノンの色、私の色に染まる姿……ああ! なんと素晴らしい光景でしょう!」

 だとすれば私はメジロ家の緑を着てもいいかもしれない。互いが互いの家の色を身に纏う姿、これは描写しがいがあるというもの。腕が鳴る。

……ん? なにか違和感を感じる。

「黒もいいよね。貴方以外に染まらないって意味があるみたい」
「素晴らしい! 素晴らしすぎます! 私以外に染まらないでほしいというその気高き一途な想い! 間違いなく2人で着るにふさわし……い……」
「あれ、どうしたの? 続きは?」

 目を閉じて、開く。そして擦る。頬をつねってもう一度目をぱちぱちと閉じて開くのを繰り返す。

「お姉……さま……? 一体いつからそちらに……?」
「披露宴のところからかな? なんだかザイアが楽しそうな話してるなーって思ってさ。それで誰と誰の結婚式のこと?」

 あっ、終わった、終わりました。私のトレセン学園での生活はもう終演の時間とのことです。皆様ご観賞いただき本当にありがとうございました。

「切腹します。探さないでください!」
「あっ、こら! 絶対させないから!」

 2人とも部屋を飛び出し、突然鬼ごっこが幕を開けた。ドッタンバッタンの大騒ぎ。寮中の注目を集めたそのあとに待っていたのは、寮長の部屋でのお説教の時間だった。

(申し訳ございません、お姉さま……やはり私は……!)

「切腹はしないでね。顔に書いてる」

 お姉さまは人の心を読めるかもしれない。正座をしながら私はそう思った。


+ 第18話
 オレの家で行われることになったクリスマスパーティー当日、夕方から始める予定だったのだが有馬記念の日と被ったこともあり、昼過ぎから3人で準備をしながらテレビでレースを観ることになった。ただ食器や食材がどこにあるのかが分かっているエスキモーはともかく、ザイアも家で仕込まれてきたのか初めて来たにも関わらず、滞りなくエスキモーのサポートを行っていた。元々チキンはお店で予約してあったから、つけ合わせのサラダとスープをあっという間に作り上げてくれた。

「まだレース始まる前なのにもう出来上がったのか」
「まあね。ザイアが手伝ってくれたから」

 オレの家に置いている彼女専用のエプロン(ザイアには内緒だが)を脱ぎ、ソファに座っているオレの隣へぬるりと潜り込んでくる彼女。さらに、その膝の上に家から持参したエプロンをさっきまで着ていたザイアが当然の権利のように座り込んだ。

「私がこれまで学んできたことの全てはお姉さまをサポートするためにあったので当然です」

 ふふんと鼻を鳴らすザイア。いや同級生の膝の上に座ってよくそんなに堂々とできるなと逆に感心しつつ、話題はもうすぐ始まる有馬記念へと移った。

「トレーナーはどう見る?」
「うーん、やっぱり1番人気の子が抜けていると思うんだよなあ。枠も3枠6番っていう内枠を引けたから、最後前が詰まらなければ抜け出せると思う」
「対抗と目されていた方が8枠に入ってしまいましたから余計にですね。枠順抽選会での悔しげな表情が思い出されます」

 有馬記念恒例の公開枠順抽選会。ゲストがガチャポンの要領で、ウマ娘の名前が書かれた紙が入ったものと枠番号が記されたものをそれぞれ引いて枠順を決める有馬記念だけのイベント。ちょうど3日前に行われたそれにおいて、ファン投票1位と2位のウマ娘の運命が真っ二つに分かれることになった。前者は内枠を引き当てガッツポーズし、後者は8枠に入ってしまい、肩をがっくりと落としていた。

「有馬記念はこれがあるから怖いんだよな。コース形態の影響で、8枠に入った瞬間詰みかねないから」
「逆に宝塚記念は8枠の方が有利なんだっけ? 人気と実力があったメンバーが入っただけなのかもだけど」

 スタート直後にコーナーを迎える有馬記念、スタートしてからホームストレッチを目いっぱいに使って位置取りを争う宝塚記念、同じグランプリでもこれほどまでに違うのはむしろ興味深くある。

「お姉さまは来年はきっとファン投票で選ばれるでしょうから、シミュレーションしないといけませんね……そろそろ始まりそうです」

 枠入りがスムーズに進み、大外枠のウマ娘が入って落ち着いたところでゲートが開く。固唾を飲んで見守る150秒、その先に見たものは──

『やっぱりやっぱり強かった! ファン投票1位、1番人気、そして掴んだ1着の栄冠!』

─────
「そりゃスローペースであの位置確保してたら勝てちゃうよね。調子もよさそうだったし」
「周りが楽に行かせすぎたな。2番人気の子が近くの枠に入っていたら、またガラっと雰囲気が変わっていたんだろうな」
「枠順一つ取っても展開が変わる。本当にレースというものは面白いですね」

 今日のレースが全て終わって食卓でチキンを囲んだ今でも有馬記念の振り返りをしている3人。エスキモーはレースが近いということもあり量は控えめにしていたが、ザイアはやはりウマ娘ということもあって、小柄な見た目にそぐわず結構な量を口にしていた。

「ザイアはよく食べるな」
「お姉さまに作っていただいた料理を残すなど、神様が許しても私自身が許せませんから。トレーナーさんも食べないと人生損しますよ」
「あはは……そこまで言ってくれるのなんか照れるね……」

 いつもご飯を作ってくれていることを周囲に伏せている手前、毎食彼女の料理を口にしているとは言えず、曖昧な返事でその場を流すその他2人。幸いにもザイアはその反応を気にすることなく、必死に用意された食事を勢いよく消化していく。オレもオレで全部食べられては困るから、彼女に負けじとチキンを頬張り、スープを飲み干していく。

「そんなに一気に食べてたらお腹痛くなるよ、もう……」

 料理を作った彼女は、オレたちを呆れた顔で見つめる。ただその表情には料理を食べてくれて嬉しいといった気持ちも上乗せされているに違いない。時折見せる上がった口角と、長年付き添ってきたオレの勘がそう伝えた。

「ごちそうさまでした……少し休ませてください……」

 最後まで綺麗に食べきったザイアは少しよろけながらソファに腰かけると、レース直後のように大きく吸った息を吐き出していた。オレもオレで彼女に対抗心を燃やしてしまった結果、謎の疲労感のせいで椅子から立ち上がれなくなっていた。

「片付けは私がしておくから、2人ともゆっくり休んでて。ケーキの準備は私がしておくから」
「ごめん……」
「いいの。トレーナーにザイアも少し落ち着いたら準備してるプレゼント持ってきてよね。楽しみにしてたんだから」

 彼女が母親とすればオレが父親でザイアが娘か。想像しても全然違和感がないことになんだかおかしくなってしまい、つい噴き出してしまう。それを見ていたエスキモーもオレに釣られて笑い出してしまい、少し離れた場所にいたザイアだけは何が起こっているのか分からず目を白黒させていて、それもまた愉快に思えてしまう。

 ──ああ、楽しい楽しいクリスマスの夜は少しずつ更けていく。暖房が効いた部屋で花咲く笑顔はクリスマスツリーの星のように眩く輝いていた。

─────
 クリスマスケーキをなんとか胃に押し込め、プレゼント交換を済ませたあとの寮への帰り道、寒空の下をのんびり歩きながら私とお姉さまは交換したプレゼントの話題に花を咲かせていた。

「ねえザイア。トレーナーから何もらったの?」
「私は蹄鉄を打つ際に使用する金槌です。お姉さまは?」
「私はトレーニング用のシューズもらっちゃった。元々欲しいなって言ってたの覚えててくれてたのかな」

 最初包装を解いて見たときは、驚きよりも先に疑問のはてなマークが頭に浮かんだ。ただトレーナーさんもその反応をされるのが分かっていたのか、なぜ贈ったのかを丁寧に説明してくれた。

「自分自身を知ること、それがレースに勝つための第一歩だとトレーナーさんはおっしゃいていました。シューズ、そして蹄鉄と向き合うことは自身を見つめ直すことに繋がる。だからトレーナーさんは私にこれをプレゼントしてくださったのですね」
「それにしてもクリスマスプレゼントに金槌贈るのは……まあザイアが喜んでたらそれでいっか」

 お姉さまはそのようなことを言いながら、星降る夜空を見上げてくるくる回りながら先を歩いていく。遊園地のコーヒーカップみたいに街灯や電柱にぶつかることなく。それはそれは楽しそうに。

「ねえザイア」

 そんなお姉さまの姿に見惚けていると、ぴたっと立ち止まり私へ一つ望みを伝える。

「来年も一緒にクリスマス過ごせたらいいな」

 私が決して破らない願いを、私から伝えなければならないはずの想いを、お姉さまは自身の想いとして私に託してくれる。私はありがとうございますと心の中で唱え、吸って吐いてを数度繰り返す。想いをまっすぐ伝えるために。

 ──呼吸が整い、お姉さまの瞳を正面から見つめる。口をゆっくりと開き伝えた言葉はもちろん、

「はい、喜んで」

─────
 寮に到着しそのまま自室へと上がる。元々遅くなる旨寮長に伝えていたので特に怒られることなく部屋の前まで到着すると、なにやら扉の前に有名な某百貨店の紙袋を見つけた。中を見てみると、これまた綺麗に包装されたプレゼントらしき物が入っていた。

「これは一体何でしょうか? 怪しい物ではなさそうですが……」
「えーっとなになに……あっ、ふせん貼ってる。私宛てに……パパとママから!?」

 まさかのご両親からの贈り物だったらしい。部屋に入り暖房をつけると、そのままベッドに腰掛けて包装を外していく。端の方が少しだけ破けつつも剥がしていった中にあったのは……

「写真立てと手紙? エスキモーへだって」
「随分とかわいらしい便箋ですね。お母様が選ばれたのでしょうか?」
「パパはあんまりこういうのセンスないからママかな。えーっとそれで何枚か入ってるけど……1枚目はメリークリスマス、2枚目には挑戦状? 3枚目は手紙じゃなくて写真だ」

 覗きこむ形で手紙の中身を読ませてもらう。綺麗な字体で記された1枚目にはお母様のクリスマスを祝う文面と体に気をつけてという労りの言葉。2枚目は先ほどのものより荒々しい字。しかも中身は娘へのエールと、自身の教え子に勝ってみろという挑発文。ダンディーなお父様に見えて、娘に対しては実は少し子どもっぽいところがあるのだとクスっと笑ってしまった。

「写真は……これは家族写真ですね」

 3枚目はおそらく家の中で撮られた写真。ソファの真ん中にお姉さまが座り、左右にお父様とお母様が座る。そのお母様の腕の中には小さな赤ん坊が抱かれていた。赤ん坊は半分寝ているようだが、残る3人は満面の笑みを浮かべていた。

「そっか、写真立てはそういうことか……」
「流石お姉さまのご両親です。是非一度挨拶に伺いたいものですね」

 いつでも側にいるよというエール、それはお姉さまにも伝わったはず。だって今のお姉さまの顔に闘志が灯ったから。

「頑張らなきゃだね」
「ええ。私も応援いたします」

 目前に迫ったお姉さまの初のGⅠ、誰が相手でもきっと必ず。

─────
「あの人が勝ったホープフルS……オレも絶対勝つ。見ていてほしい、オレの走りを。あいつに勝ってオレが一番だって証明してみせる」

 すっかり日が暮れた寒空の下、空に煌めく星に誓う。

「世界制覇への第一歩。まずはここから」

 明日に迫ったジュニア級中距離チャンピオン決定戦のホープフルS、そこにはオレだけじゃなくエスキモーも参戦する。奇しくも同じ枠、オレが9番、あいつが10番、また隣からあいつの走りを見ることになる。

「人気なんて関係ねえ。勝てばそんなもん全てひっくり返せるんだからな」

 今回のレース、1番人気こそあいつに譲りはした。それはそれで気にしていないが、人気人気と騒ぎ立てられるのを見ていると、なぜか無性に腹が立ってくる。こっちは見てくれないのかと、注目してくれねえのかよと。

「はっ! 記者連中の鼻を明かすのが今から楽しみだぜ……あー寒っ!」

 外で威張っていて当日風邪をひきましたじゃ洒落にならない。レースに出走できなければ、勝ち負けの議論すらできないのだから。

「この世代の中心はオレだ」

 明日暗緑色のコートをなびかせながら先頭でゴールを通過し高らかに宣言しよう。オレが一番だと、世界のてっぺんを掴むウマ娘だと。

 おそらくあいつとはこれから何度もぶつかることになる。まずは一戦目、絶対に勝ってやる。


+ 第19話
 12月28日、決戦の日。天気は晴れ、芝・ダートともに良バ場。雪は降らずとも最高気温が10℃を下回る寒空の下、お姉さまは勝負服を身に纏い、戦いの舞台へ降り立った。

「お姉さま、調子はいかがですか?」
「うん、バッチリ! あとザイアニウム補給したら準備万端かなー」
「ザイアニウム? それは一体……って、お姉さま!? いきなり抱きつかれるとその……きゅぅ」

 唐突なお姉さまのハグに思わず意識を数秒間手放してしまう私。普段は身構えられるからなんとか堪えることができるのだけれど、このような予期せぬ身体的接触は寿命がいくつあっても足りなくなるからほどほどにしてほしい……いややっぱりいっぱいしてほしい。私も常にお姉さまニウムをしていないと倒れてしまうかもしれないから。

「エスキモー。おふざけはそこまでにして、最後のブリーフィングをやるぞ」
「うん、お願い」

 少しばかり2人でじゃれあっていると、咳払いをしたトレーナーさんの呼び声がかかる。お姉さまはそれを聞くと、私を解放して彼の隣に椅子を持ってきてそれに腰かけた。

「今回の中山レース場も今日で開催9日目。Aコースで行われる最終日ということもあって、内ラチ沿いの芝はわりと荒れている」
「今朝のバ場状態のお知らせも内側の芝が剥げてるってなってたもんね。あんまりインベタで走らない方がいいかな」

 同じ良バ場でも、レースの開催の進行具合やコースの切り替わりでレースの傾向が大きく変わることが常にある、とトレーナーさんからこの前教わった。トレーナーの中には朝やお昼休みに自身でコースまで歩いていって確認する人までいるほどに重要視される芝の状態、私もこれからトレーナーさんに教わりつつ、より注意していかないといけないなと感じる。

「5Rまでに3つあった芝のレースを見ていてもやっぱりインベタで走るより、一列や二列外に出していた子の方が最後の伸びがよかった」
「外から差すのが有利ってことね」
「もちろん外を回しすぎると、今度はコースロスが響いて最後差せなくなる。バ場が荒れていないぎりぎりを狙えたらベストだな」
「うわあ、難しいオーダーだなあ……」

 そう言いつつもお姉さまは嬉しそうな顔をしている。やはり頭を使って勝ちにいくことが好きなのだろう、トレーナーさんとの相性も文句のつけようがないほど嵌っているように思える。

「オレもぎりぎりまで見極めてそれをエスキモーに伝えるよ。でも最後は君に託すしかない」
「分かってる。任せておいて。それと相手関係はいいの?」

 そう、いくら理想のコース取りが叶ったとして、相手にそれ以上の走りをされれば負けてしまうのがレースの常だ。如何にして相手を封じ込めるかも張り巡らされた思考回路で考えないといけない。

「1番人気は君、そして2番人気はルージュ。実力という部分を見てもやはり君とルージュの二強対決になると思う」
「まあそうだよね。でもルージュは私の後ろに構えるだろうな。せっかく話振ったのにこれじゃ対策できないね」

 お姉さまは普段の練習風景を見ていると、追込型の戦法を採用しても十分戦えるように思う。ただやはりお姉さまのポテンシャルを最大に発揮できるのは中団からやや後方の位置。ルージュさんをマークしようとポジションを下げた結果、前を差し損ねる結果になれば元も子もない。

「もし彼女が少し前目で運んでくれれば、彼女が外に出しにくいよう蓋をするという戦術も取れるんだけど……あのチームトレーナーがみすみすオレたちの好きにさせるとも思えない」
「ハイペースになればいいけど、そう上手くはいかないよね。だったら結局先頭が前半を60秒ぐらいで通過するのを中団で追走して、最後は2分0秒台で差し切るようなレース……うん、こっちの方がしっくりくるかな」
「幸いにも今日逃げ宣言している子は大逃げするタイプじゃない。先頭を差したと思ったら実は2番手でしたなんてことがないのは安心だな」

 私自身逃げて走っているから分かりにくいけれど、中団より後ろで走っている子は案外先頭がどれほど離れているのか見えにくいらしい。背が周りより抜けて高ければ別だろうけど、毎レース毎レースそうなるとは限らない。やはりどの子が逃げるかや、どれほどのペースになるかなどレース前の準備を欠かしてはいけない。

「……うん。シミュレーションもバッチリできてる。あとは勝つだけかな」
「その言葉を聞いて安心したよ。それじゃオレたちは観客席の一番前で応援しているから」
「お姉さま、頑張ってください!」

 お姉さまは私たちの言葉に笑顔でサムズアップすると、足取り軽やかに控え室を飛び出していく。そんなお姉さまが身に纏うひらりはためく勝負服の裾から見えたおみ足は大変眩しかった。

「……やはりあの勝負服は反則級ではないでしょうか?」
「……言いたいことは分かる」

 お姉さまの本当の麗しさが世の中にバレてしまう。嬉しさ半分悔しさ半分の想いを胸に秘め、私たちは徐々に日が傾きつつある観客席へ向かった。

─────
「この前のクリスマス、娘に挑戦状プレゼントしたんだよ」
「何やってんだトレーナー……」

 レース前の控え室、そこにはトレーナーだけではなく先週朝日杯を勝ったレインの姿もあった。オレより先にGⅠウマ娘となったことは悔しくはあるが、開催順も絡む話だから勝ったときはぐっと堪えて素直に拍手を送った。その恩返しがしたいのか、今日はオレのことを応援してくれるためにこうやってこの場に駆けつけてくれた。

「トレーナーさんって普段しっかりしてるのに、お子さん、エスキモーのことになると子どもっぽくなりますよね」
「娘といえど負けたくないからな。オレは走れないから、ルージュに託すしかないのが悔しいけどな」

 いろいろ教えてもらっている立場で偉そうなこと言えたものじゃないが、やはり何人ものGⅠウマ娘を輩出しているチームのトップを張っているだけあって、指導力はケチのつけようがない。なんといっても新人の頃にあいつの母親、メジロドーベルさんを受け持って複数のGⅠ勝利に導いたのだから。

「任せとけって。エスキモーを入れて全員なぎ倒して勝ってきてやるよ」
「これは頼もしい。ということは作戦はもちろん頭に叩き込んでいるな?」
「当たり前だろ。途中まであいつを見ながら後方待機。3コーナー過ぎから捲っていって最後は大外からぶっ差す!」

 多少のコースロスは厭わずに己の力をぶつける真っ向勝負。直線入り口で背中を捉え、坂を上りきったところで前に出てやる。

「残り600mに全てを注ぎ込め。君の脚なら交わしきれる」
「おう! 勝ってくる!」

 トレーナーとハイタッチを交わし、そしてレインともハイタッチを交わして部屋を出る。エスキモー以外の対戦相手を思い出しながらふと考える。

「レインのやつ、めっちゃノリいいんだよな……」

 寡黙で冷静沈着、勉学も優秀。えてしてそのようなタイプはノリを合わせづらいのだが、レインは澄ました顔をしながらこっちのノリに結構合わせてくれるのが最初は衝撃だった。夏合宿でも唐突に始まった枕投げ大会で全力投球していたし、さっきみたいに手を上げてハイタッチをしてくれるから、オレの中での信頼度は結構高い。

 リノリウムの床をコツコツと音を立てて歩く。偶然かそれとも避けられているのか分からないが、誰とも出会うことなくパドックの側まで辿り着き、観客へオレの勝負服姿を見せつける時まで静かに待つ。その間頭の中でさっきのトレーナーとのやりとりを反芻していると、後ろから肩をトントンと叩かれた。

「やっほ、かっこいいねその勝負服」
「なんだお前か……というかそんなの当たり前だろ。オレが選んでオレが決めた勝負服だからな」

 ふん、と鼻を鳴らしながらも褒め言葉は褒め言葉としてありがたく受け取っておいた。手にはコートと同じ色をした手袋を、足にはレザーのロングブーツを履き、頭には同系色のチロリアンハットを被った格好は中世の軍人みたいだと言われたりもしたが、オレはその言葉をかっこいいと変換して受け取っている。

「お前も似合ってんじゃねえの。あんまりファッションのこと詳しくねえけど」
「ありがとー。もちろんこの服も私が選んで私が決めたんだから当然だよね」

 否が応でも女性らしい部分に視線がいくデザインをこいつは堂々と着こなしている。本当にこいつオレと同学年か? 自身の体と目の前の体を見比べ、その違いに愕然とする。

「いや走りにそんなもん関係ねえ……むしろオレの方が走りやすいはず……」
「ぶつぶつ唱えてどうしたの? 精神統一?」
「な、なんでもねえよ! てかもうパドック始まんぞ。準備しとけ、準備」

 あらぬ方向から攻撃を受けそうになったのを回避してパドックへ足を踏み入れた。すると出走者の様子を見るために待機していた観客たちがオレの姿を見て感嘆の声を上げた。オレはそれを聞いてまた一段と気分を高揚させる……さっきのアレはノーカウントだ、ノーカウント!

『6枠12番メニュルージュ、2番人気です』

 パドックが始まり、レース直前の出走者の姿を見てまた人気は上下する。テンションが上がり気味だったり調子が良くなさそうなウマ娘はそこで人気を落とし、落ち着いた様子を見せていたり自信満々の表情をしていると逆に人気は上昇する。オレ? もちろん常に自信たっぷりに登場するに決まっている。当然虚勢などではなくただありのままを見せるだけ。それだけで人は思わず息を漏らし、人気をさらに高めるという流れとなる……こいつがいなければ。

『4枠8番メジロエスキモー、1番人気です』

 オレが現れたときより観客のざわめきが大きく聞こえる。それはオレだけに聞こえる幻聴などではなく、先に登場した他の出走者も同様にそのざわめきを耳にして、周囲をキョロキョロと見渡していた。

「パドックすごい人だね。ちょっとだけびっくりしちゃった」
「びっくりしちゃった、じゃねえよ。なに呑気に話しかけてきてんだ!」
「せっかく友達と一緒に走るんだし、互いにリラックスできたらなって。もちろん勝つのは私だけどね」

 ヘラヘラと笑いながらもその言葉に驕りは見受けられない。真剣勝負を望むのならばオレも受けて立ってやる。

「直前に挑戦状叩きつけるたぁいい根性してんじゃねえか。オレも絶対負けねえ。今からウイニングライブの2着の振り付け確認しとくんだな」
「そっちこそ私のウイニングライブでミスしないでね? 盛りたて役がトチっても困るから」

 宣戦布告を互いに叩きつけ2人はバラバラの場所へと移動する。相手にとって不足なし。あのときの雪辱、ここで果たしてみせる。

─────
『有馬記念が終わってもまだ熱いレースは残っています。10日ほど前に行われた朝日杯に引き続き、来年のクラシック戦線を熱く盛り上げるニューヒロインがこのレースで誕生します。今日のメインレース、ホープフルS、GⅠ。さあ出走ウマ娘の入場です!』

 実況のアナウンスとともに一人ずつ颯爽とコースへと駆け出していく。体の筋肉を解すとともに芝の状態を確認する大切な準備運動。当然どれほど走るかは人によってバラバラで、ゆっくりと体の状態を確認しながら走るウマ娘もいれば、全力疾走に近いレベルでスタート位置まで走り込む子もいる。私はどちらかというと前者に近く、レース前に余計な体力を消耗したくない側のウマ娘だ。

「お姉さまの具合はどうでしょうか?」
「うん、文句なしの仕上がりだよ。あとは出遅れがなければ言うことなしかな」

 運よくゴール前50mほどの位置で最前列を確保した私たち2人はコースに出てきたお姉さまの走りを見て状態を確認する。控え室ではもしかしたら不調を隠しているのかもとも考えたが、全くの杞憂だったようだ。と、後ろからなにやら覚えのある声が聞こえてくる。しかも私たちの方へと歩いてきているみたいだ。

「やっぱり調子よさそうだな。ルージュ気張れよー。負けたらエスキモーへのお年玉の額増やすことになってんだから」
「トレーナーさんそんな勝負してたんですか……?」
「冗談だよ、冗談。元から学園に入ったら増やす約束してたから」

 その2人はレインさんにそのトレーナーさん。お姉さまにすればお父様にあたる方。緊張はしながらも軽く頭を下げる。

「ここを選ぶとはチームトレーナーも分かっていますね」
「いやいや、オレが先に教えたんだろ? まあいいや。エスキモー、調子いいみたいだな」
「ご覧の通りです。今日は胸を借りるなんて言いません。勝たせてもらいます」
「ほう? 言うようになったな。まあ勝つのはうちのルージュだが」

 互いに顔には笑みを貼りつけながらも内心ではバチバチにやりやっている。そのような2人を横目に見ていると、隣にレインさんが滑り込んできた。

「お疲れ、ザイア」
「お疲れ様です、レインさん。トレーナーさんは面白い方のようですね」
「ノリがいいというかなんというか……だけど指示はいつも的確だよ。トレーナーさんの言うことに従っていれば成長できるってボクは信じてる」

 2人、ルージュさんを入れたら3人出会ってまだ半年強。それなのにもうこれほど絶大な信頼を寄せられているのはやはり彼の手腕あってこそ。互いの信頼がトレーニングの効率アップに繋がり、実力向上に繋がる。私とは進む路線は異なれど、お姉さまとはいずれぶつかることになる。友人であっても警戒を緩めてはいけない。私はそう強く決意した。


「ザイア、なんだか目つき鋭くない?」
「……気のせいです。そろそろレースが始まりますよ」

 出走者全員がゲートの裏に集まり、コースの最終確認が行われる。問題ないことが確認されると、スターターの方が台に上がり赤い旗を左右に振る。その直後にファンファーレが場内へ流れ、観客の盛り上がりが一気に高まる。

『さあファンファーレが高らかに響き渡りまた中山レース場。本日のメインレース、ホープフルS、GⅠ、芝2000mで行われます』

 ターフビジョンにゲート入りの様子が大きく映し出される。まずは奇数番号のウマ娘が、17番まで入れば今度は内から偶数番号のウマ娘がゲートに収まっていく。お姉さまも嫌うことなくスッとゲートに入り、1人挟んでルージュさんも静かに収まる。

「お姉さま……勝ってください!」
「ルージュ、頑張って」

『──が最後に収まり態勢完了!』

 一瞬の静寂。祈り。そして、

『スタートしました!』

 レースが始まる。

─────
 ゲートが開き、各ウマ娘が一斉に飛び出す。1人か2人出遅れた気がするが、そんな奴らを気にしているほど暇じゃない。オレはあいつが中団のバ群の中に進路を求めたのを見ながら後方へ位置を下げる。

(いつものスタイルでいい。ただ仕掛ける場所は3コーナー過ぎ。2戦走ってきた府中と勘違いすんなよ、オレ)

 ホームストレッチから1コーナーへ進行方向を変えた辺りで隊列は落ち着きを見せる。ここまで続いた上り坂も4mほど上がったところで平坦となり、逆に今度は同程度に下る坂道を駆けていく。オレは変わらず後方4番手ぐらいで前を追走しながら、あいつがいつ動き出すかを双眸で凝視し続けている。

(それにしてもリラックスして走ってやがる。バテるのを期待するのは無理そうだな)

 コーナーを曲がる際にちらりと見えた横顔からはこのレースを楽しんでいる雰囲気を感じ取った。他の奴らは初めてのGⅠということもあって緊張を隠し切れていないが、あいつだけはなぜか泰然自若としている。その態度は自信かそれとも……

(残り1000m。1人オレの後ろから捲っていったが流石に早すぎるだろ。直線に入ったら沈むだろうから無視)

 向こう正面の中間地点を通過していよいよ3コーナーのカーブが視界に入ってくる。そろそろ仕掛ける体勢を取らなければと他の奴と接触しないように左の方を見ながら徐々に外へと進路を変える。コースロスを承知の上でじっくり脚を溜めながら3コーナーに差し掛かったところでレースは一気に動き始めた。

(あいつ仕掛けやがった……!)

 残り800mのハロン棒を通過した辺りで隊列は少しずつ崩れ始める。内ラチを突こうとする者、バ群の真ん中を割ろうとする者、そして、

(いつの間に外へ持ち出して……?)

 ──隊列の外を駆け上がっていく者。

 白の勝負服が風を切り裂き前を飲み込む。一人、また一人とあいつに交わされていく。足取りも軽やかに前へ前へと突き進む。

(ぼーっと見てる暇はねえ! オレもここで!)

 残り600mの標識を通過したところで一気にアクセルを踏み込む。あいつとの差は開いてしまったがここからならまだ追いつくはず。

「おらあああああああああああああ!!!」

 腹の底からの叫びをエキゾーストノートに、オレもまた外から隊列を撫で切るように進撃を開始する。残り400m、最後の直線が見えてきた。

(足りねえ……まだ足りねえ……! あのときの感覚にまだ届いてねえ!)

 あいつと初めて走ったときに踏み入れかけた領域。世界がオレの色に塗り替えられたような感覚、玉座に座るオレが頭をよぎったあのときの感覚に手を伸ばす。

 最後の直線、ここまで粘ってきただろう先頭のウマ娘が力尽き、あいつがトップに躍り出た。落ちることはなくむしろ伸び続けているんじゃないかと思えるほどの走りはさぞかし観客の視線を独り占めできるんだろう。心地いいんだろう。

(簡単に終わらせてたまるかよ!)

 残り200m、前まではまだ5バ身ほどの差がある。ただここからは壁にも思える急坂がある。そこで一気に前を捉えてやる。

 駆ける駆ける駆ける。そしてまた駆ける。脚を動かせ、前を見ろ。超える背中はすぐそこにある。己の走りで世界を変えろ。そしてその手で世界を掴め。

「ああああああああああああああ!!!!」

 ──瞬間、世界が反転する。

 そこは宇宙だった。観客もコースも全て消え去り、周囲にはただ星が煌めくのみ。音も聞こえない。

(ここは一体……)

 気づくとオレは椅子に座っていた。豪華絢爛、中世の王族が座りそうな派手やかな椅子に深々と腰かけたオレは視線の先にある地球へと手を伸ばす。巨大なはずの青いそれはオレの手中にあっさりと収まり、そこでようやく自身が大きいことに気づく。

(そうか、ここはオレの心象空間。世界、地球を掴み取るという夢が具現化したもの)

 そのとき両肩に優しく触れられた感覚を覚えた。オレ以外に誰かいたのかと振り向くとそこにいたのは……

(ありがとうございます。オレ、走ります)

“The World Is Mine” Lv.1

 彼女はにっこり微笑むとすぐに消え去っていった。そして再び世界は反転する。

(負けねえ負けねえ負けねえ! お前には負けねえ!)

 残り100mはとっくに切っている。残り2バ身ほど、この勢いならギリギリ届くはず。最後の最後の最後で交わし去ってオレが栄光を手に入れるはず

 ──だった。

 オレの脚が鈍ったのか、それともあいつが再び伸びたのか。追う背中の大きさが変わらない。必死に手を伸ばしても届かない。掴んだと思った栄冠がするりと手のひらから零れ落ちていく。

(抜け……ねえ……!)

 ゴール板が迫り、そして。

─────
『メニュルージュは届かない! 勝ったのはメジロエスキモー! 3戦3勝で見事ジュニア級中距離チャンピオンの座を掴みました! 決着タイムはなんとレコード! 2分0秒0! さあ次なる舞台はクラシック戦線。このまま彼女の無敗街道が続くのか!』

 わずか2バ身、されど2バ身。タイムにしてたった0.3秒の差で勝利を逃してしまった。

「クソクソクソクソクソクソクソ!!!!」

 交わせるはずだった。勝てるはずだった。無敗のチャンピオンの座はオレのものになるはずだった。

(あいつとオレの差はどこにあった? 位置取り? いやあいつのすぐ後ろにつけられていても今日は厳しかった。なら……)

 頭の中で敗北した理由が飛び回る。そうやってあーでもないこーでもないと走って考えているうちに、いつの間にかゴール板の前まで戻ってきてしまっていた。

「お疲れさま。いいレースだったよ」

 パドックに入る前と同じように後ろからまたあいつが声をかけてきた。降り注ぐ祝福の声に応えながらもオレに向かって右手を差し出してくる。オレはその手を仕方なしに握り返すと、

「皮肉でも言いにきたのか?」

 と言い返す。さしづめ戦前の煽り合いのことを笑いにきたのだろう、どんな言葉をぶつけてやろうかと考えていると、想定外の言葉が投げ返されてきた。

「ううん、そんなことない。最後差されるかと思っちゃった」
「……ああそういう奴だよ、お前は。変なこと考えてたオレがバカだった」
「ん? 変なこと?」

 育ちがいいのか、それとも素なのか、こいつは良くも悪くもまっすぐにぶつかってくる。お世辞をべらべらと話せる奴じゃないってことは今までの付き合いの中で分かっていたことなのに、レース直後で頭が回っていなかったせいかすっかり頭から抜け落ちていた。

「なんでもねえよ。ほら、お前のファンが待ってんだから早く行け」
「つれないなー。でもほんとありがとね。また次一緒に走ろ?」
「ああ。次は絶対オレが勝つ」

 握った手を離し大勢のファンが押し寄せるスタンドの近くへ駆けていく後ろ姿を見ながら、オレはコースを後にする。

(とりあえず帰ったらトレーナーと反省会だな……)

 祝勝会が残念会になるのは悔しいが、次こそは必ず勝ってやる。とその前に……

「あー、ウイニングライブか……振り付け確認しとかねえとな……」

 念のために覚えてきてよかったと思う。流石のオレもここで笑い者にされたくはない。ライブまで手は抜かない。トレーナーにも言われたからそこは絶対に守る。

「来年こそは……」

─────
「おめでとうございますお姉さま!!!!」
「おめでとう、エスキモー。勝つと信じていたよ」

 勝利を飾ったエスキモーが控え室に凱旋するやいなや、いの一番にザイアが彼女の胸に飛び込む。エスキモーも予想はしていたのかよろけることなくザイアを受け止めていた。

「トレーナーもザイアもありがと。宣言通り勝ってきたよ」
「お姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さま」
「道中のペースも文句なし。ただ最後が思ったよりギリギリだったな」

 正直もう少し引き離したまま勝てると思っていた。ただ2着、ルージュがオレたちの予想を超える伸びを見せ、残り100mではあわやと背中に冷や汗が一筋流れた。

「坂の下でちょっとヤバいかなって思ってね、差を詰められないように二の脚使っちゃった」
「流石ですお姉さまあれだけのスパートをかけていながら最後に使える脚を残していたとは素晴らしいですお姉さま誇らしいですお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さま」
「オレの予想が甘かった。次はちゃんと考慮してプランニングするよ……ザイアはちょっとエスキモーから離れようか」

 ありがとねとザイアの頭を撫でて解放してもらうエスキモー。渡したタオルで汗を拭き、あらかじめ机の上に出していたドリンクで喉を潤すと、ようやく椅子へと腰かけた。

「今日は疲れちゃった。反省会と祝勝会はまた明日でいい?」
「ああ、何と言ってもGⅠだから精神的にきている部分もあるだろうから、今日はまっすぐ寮に帰ってゆっくりしてくれ」
「……はーい」

 そう了承しつつも唇を突き出しているのは、疲れていても一緒にご飯を食べたかったという意思の表れだろう。そもそも昨日から今日は無理しなくていいからと伝えていたんだけどなあ……あとでメッセージを送ってフォローしておくか。

「……はっ!? すなわちお姉さまと夕食を食べられる上に、一緒にお風呂まで入ることができるということですか!?」
「まあ、そうなるかな? せっかくだからザイアの髪洗ってあげるね。代わりに私の髪はザイアにお願いしよっかな」

 ついでに尻尾もお願いするねと優しく伝えるエスキモーに対し、ザイアのテンションは凄まじいことになっている。

「そんな……! 今日頑張ったのはお姉さまの方なのに私がご褒美をいただいてもいいんですか!? ふぉおおおおおおおおおおお!!!!!」

 ……おそらくこれは当分収まることはないだろう。一旦彼女を放置したオレはエスキモーの隣に座り、今後のスケジュールをタブレットで考えることにした。

「お姉さまとお風呂……ふへへ……お姉さまとお風呂……ふへへ……ふへへ……」
「お風呂場で倒れないでね?」

 ……ザイアの体調管理のために、エスキモーには関東のGⅠの日にもご飯を作ってもらうことにしようか。また彼女と相談しないとな……

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