「ねえトレーナー。明日って予定、ある?」
バレンタインデー前日。緊張しているのを悟られないように、そして顔が紅潮しているのをごまかせるようにトレーニング後の帰り道で声をかける。
「明日? いつも通りに仕事こなしてエスキモーのトレーニング見るぐらいだけど」
よし。トレーナーに見られないように小さくガッツポーズ。これで予定が入ってたりしたら、せっかく練習したのが無駄になっちゃってた。
「じゃあそのまま予定空けたままにしておいてね。あと夕食も用意しちゃダメだから」
少し抜けたところがある私のトレーナーは
「? 分かったよ。明日は夕方からフリーにしとく」
と絶対分かってない返事。こんなにカッコいいのにチョコもらったことないのかな……出鼻をくじかれたみたいで少しよろけそうになる。だけど。
バレンタインデー前日。緊張しているのを悟られないように、そして顔が紅潮しているのをごまかせるようにトレーニング後の帰り道で声をかける。
「明日? いつも通りに仕事こなしてエスキモーのトレーニング見るぐらいだけど」
よし。トレーナーに見られないように小さくガッツポーズ。これで予定が入ってたりしたら、せっかく練習したのが無駄になっちゃってた。
「じゃあそのまま予定空けたままにしておいてね。あと夕食も用意しちゃダメだから」
少し抜けたところがある私のトレーナーは
「? 分かったよ。明日は夕方からフリーにしとく」
と絶対分かってない返事。こんなにカッコいいのにチョコもらったことないのかな……出鼻をくじかれたみたいで少しよろけそうになる。だけど。
外泊届も出した。チョコはエスキーやフラりんに試食してもらって太鼓判を押してもらった。
──乙女の決戦日。絶対失敗するわけにはいかない。
─────
バレンタインデー当日。トレーナーの家にて。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
「本当料理上手になったよな。契約して最初にお弁当作ってもらった時なんか……」
「もうっ! その時のことは忘れてよっ!」
トレーナーになってもらって最初の年、トレーニング見てもらってるお礼の意味で作ったお弁当は散々な出来で……
「見た目は良かったんだけどな……」
この時のショックが大きすぎて、これまでのバレンタインもずっと既製品をプレゼントしていた。それでもトレーナーは喜んでくれたんだけど、せっかく部長との特訓で上達した腕前、ここで発揮せずにしていつ使うのか。
バレンタインデー当日。トレーナーの家にて。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
「本当料理上手になったよな。契約して最初にお弁当作ってもらった時なんか……」
「もうっ! その時のことは忘れてよっ!」
トレーナーになってもらって最初の年、トレーニング見てもらってるお礼の意味で作ったお弁当は散々な出来で……
「見た目は良かったんだけどな……」
この時のショックが大きすぎて、これまでのバレンタインもずっと既製品をプレゼントしていた。それでもトレーナーは喜んでくれたんだけど、せっかく部長との特訓で上達した腕前、ここで発揮せずにしていつ使うのか。
「ねえ、トレーナー」
意を決してトレーナーの隣の椅子に座り声をかける。
「ん? どうした?」
「はい、ハッピーバレンタイン」
綺麗に包装してお洒落な手提げ袋に入れたバレンタインチョコ。それをトレーナーにスッと差し出す。緊張、バレてないよね。
「おぉ! そっか、今日バレンタインだったな。ありがとう!」
やっぱり抜けてる。
「もう、去年もあげたでしょ。既製品だったけど」
ふと漏らした言葉が気になったのか、
「ということは……もしかして今年は手作り? うわー、嬉しいなあ。手作りチョコなんて初めてもらったよ」
「……えっ? だってトレーナー……」
こんなにカッコいいのに。
そんな言葉をぐっと飲み込んでいると、トレーナーがフッと笑い、
「そんなに意外だった? モテたことなんてないよ、今の今まで。彼女は……まあいたことはあるけど長続きしなかったし、付き合ってた期間バレンタイン被ってなかったから、手作りなんて本当に初めてだよ」
「そっか、そうなんだ……」
私が、初めて……嬉しいな。
緩みそうになる顔にグッと力を入れてなんとかこらえる。そして、
意を決してトレーナーの隣の椅子に座り声をかける。
「ん? どうした?」
「はい、ハッピーバレンタイン」
綺麗に包装してお洒落な手提げ袋に入れたバレンタインチョコ。それをトレーナーにスッと差し出す。緊張、バレてないよね。
「おぉ! そっか、今日バレンタインだったな。ありがとう!」
やっぱり抜けてる。
「もう、去年もあげたでしょ。既製品だったけど」
ふと漏らした言葉が気になったのか、
「ということは……もしかして今年は手作り? うわー、嬉しいなあ。手作りチョコなんて初めてもらったよ」
「……えっ? だってトレーナー……」
こんなにカッコいいのに。
そんな言葉をぐっと飲み込んでいると、トレーナーがフッと笑い、
「そんなに意外だった? モテたことなんてないよ、今の今まで。彼女は……まあいたことはあるけど長続きしなかったし、付き合ってた期間バレンタイン被ってなかったから、手作りなんて本当に初めてだよ」
「そっか、そうなんだ……」
私が、初めて……嬉しいな。
緩みそうになる顔にグッと力を入れてなんとかこらえる。そして、
「あのねトレーナー。私、私ね。トレーナーのことが……」
その続きを言おうとした瞬間、トレーナーが手で遮る。
「あのなエスキモー。今エスキモーが言おうとしてること、流石のオレも分かるよ。だけどな、オレはトレーナー、エスキモーは学生だ。嬉しいけど今その気持ちに応えることはできない」
「えっ、でも私、本当にトレーナーのこと……」
声が詰まり、涙が零れる。こんなはずじゃ……
「泣くな泣くな。何もお前の気持ちが嫌だって言ってないだろ? だからさ」
そこで言葉を区切り、じっと私の瞳を見つめる。
「続きは卒業する時に聞かせてくれ。オレもエスキモーからその言葉を聞くのを待ってるから」
「えっ、それって……」
「言わないからなっ!? 言ったらオレが我慢できなくなるんだから」
そう言って顔を背けるトレーナー。だけどその頬はちょっと赤くなっていた。そんな後ろ顔を見て思わず、
「ありがとうトレーナー! 私、頑張るから!」
横からギュッと抱きついちゃった。
「大丈夫かなほんと……」
トレーナーがポツリと零した一言は聞かないことにした。今はこの幸せを噛み締めたいから。
その続きを言おうとした瞬間、トレーナーが手で遮る。
「あのなエスキモー。今エスキモーが言おうとしてること、流石のオレも分かるよ。だけどな、オレはトレーナー、エスキモーは学生だ。嬉しいけど今その気持ちに応えることはできない」
「えっ、でも私、本当にトレーナーのこと……」
声が詰まり、涙が零れる。こんなはずじゃ……
「泣くな泣くな。何もお前の気持ちが嫌だって言ってないだろ? だからさ」
そこで言葉を区切り、じっと私の瞳を見つめる。
「続きは卒業する時に聞かせてくれ。オレもエスキモーからその言葉を聞くのを待ってるから」
「えっ、それって……」
「言わないからなっ!? 言ったらオレが我慢できなくなるんだから」
そう言って顔を背けるトレーナー。だけどその頬はちょっと赤くなっていた。そんな後ろ顔を見て思わず、
「ありがとうトレーナー! 私、頑張るから!」
横からギュッと抱きついちゃった。
「大丈夫かなほんと……」
トレーナーがポツリと零した一言は聞かないことにした。今はこの幸せを噛み締めたいから。
─────
「味、どうかな?」
「こっちはシンプルなトリュフで、こっちは抹茶……これは……お酒入ってるのか?」
「そう、ラム酒入れてるの。トレーナーお酒好きだって言ってたから。他にもいろんな種類作ったから美味しく食べてね?」
お互い気持ちを落ち着いたところでプレゼントしたバレンタインチョコを食べてもらっている。やっぱりちょっと味が心配だったけど大丈夫みたいね。
「これだけ作るの大変だっただろ?」
「ううん、そんなことない。トレーナーのこと想って作ってたから全然大変じゃなかったよ」
「よくもそんな恥ずかしいことを……でも本当にありがとうな。お返しはちゃんとするから」
「3倍返しだからね」
なんて冗談を言うとトレーナーも、
「ハハッ、それは大変だ」
って笑って返してくれた。
……なんかいいな、この会話。
「味、どうかな?」
「こっちはシンプルなトリュフで、こっちは抹茶……これは……お酒入ってるのか?」
「そう、ラム酒入れてるの。トレーナーお酒好きだって言ってたから。他にもいろんな種類作ったから美味しく食べてね?」
お互い気持ちを落ち着いたところでプレゼントしたバレンタインチョコを食べてもらっている。やっぱりちょっと味が心配だったけど大丈夫みたいね。
「これだけ作るの大変だっただろ?」
「ううん、そんなことない。トレーナーのこと想って作ってたから全然大変じゃなかったよ」
「よくもそんな恥ずかしいことを……でも本当にありがとうな。お返しはちゃんとするから」
「3倍返しだからね」
なんて冗談を言うとトレーナーも、
「ハハッ、それは大変だ」
って笑って返してくれた。
……なんかいいな、この会話。
─────
トレーナーがチョコを全部食べ終わって、私がキッチンで食器の後片付けをしていると、
「エスキモー、門限は大丈夫か? もうそろそろ出ないと間に合わないんじゃないか?」
とトレーナーがリビングから声をかけてきた。
「大丈夫だよ。外泊届、出してきたから」
「えっ、おい、もしかして……」
「泊まらせてもらうから。いいでしょ?」
「荷物多かったのってそういうことか……」
ため息をこぼし、しばし逡巡。ただ寒空の下追い出すのは躊躇われたのか、
「分かった。泊まっていいよ」
「やった! ありがとうトレーナー!」
「ただし寝るのは別々だからな?」
「えー」
「えーじゃない。何かあったら駄目なんだからな?」
「でもトレーナーのベッド大きいよ? ちょっと離れてても大丈夫じゃない?」
「おい、いつの間に寝室見てたんだ……」
「それはナイショ♪」
トレーナーがお手洗いに行ってる間にこっそり見ちゃった♪
「それにソファとか床で寝たら体痛めるよ? それで明日から私のトレーニング見るのに支障出たら大変だよ? 一緒のベッドで寝よっ?」
もっともらしい理由を並びたて、同じベッドで寝られるように圧をかけていく。すると諦めたのか折れたのか、
「分かった分かった。ただ、くっつくのは絶対禁止だからな。それだけは守ってくれ」
と条件つきで一緒に寝るのを許してくれた。
「ありがとね、トレーナー!」
トレーナーがチョコを全部食べ終わって、私がキッチンで食器の後片付けをしていると、
「エスキモー、門限は大丈夫か? もうそろそろ出ないと間に合わないんじゃないか?」
とトレーナーがリビングから声をかけてきた。
「大丈夫だよ。外泊届、出してきたから」
「えっ、おい、もしかして……」
「泊まらせてもらうから。いいでしょ?」
「荷物多かったのってそういうことか……」
ため息をこぼし、しばし逡巡。ただ寒空の下追い出すのは躊躇われたのか、
「分かった。泊まっていいよ」
「やった! ありがとうトレーナー!」
「ただし寝るのは別々だからな?」
「えー」
「えーじゃない。何かあったら駄目なんだからな?」
「でもトレーナーのベッド大きいよ? ちょっと離れてても大丈夫じゃない?」
「おい、いつの間に寝室見てたんだ……」
「それはナイショ♪」
トレーナーがお手洗いに行ってる間にこっそり見ちゃった♪
「それにソファとか床で寝たら体痛めるよ? それで明日から私のトレーニング見るのに支障出たら大変だよ? 一緒のベッドで寝よっ?」
もっともらしい理由を並びたて、同じベッドで寝られるように圧をかけていく。すると諦めたのか折れたのか、
「分かった分かった。ただ、くっつくのは絶対禁止だからな。それだけは守ってくれ」
と条件つきで一緒に寝るのを許してくれた。
「ありがとね、トレーナー!」
─────
2人ともお風呂に入り少しの間ゆっくりしていると、お互い疲れが溜まっていたのかうつらうつらとしていた。
「どうする、もう寝るか?」
「うん、そうする……」
私がもぞもぞと布団に潜り込むのを確認すると、トレーナーが部屋の電気を消してくれた。
トレーナーが布団に潜り込んだのを確認したところで、眠気が頂点に達した。
「トレーナー、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
2人ともお風呂に入り少しの間ゆっくりしていると、お互い疲れが溜まっていたのかうつらうつらとしていた。
「どうする、もう寝るか?」
「うん、そうする……」
私がもぞもぞと布団に潜り込むのを確認すると、トレーナーが部屋の電気を消してくれた。
トレーナーが布団に潜り込んだのを確認したところで、眠気が頂点に達した。
「トレーナー、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
─────
「それでエスキモーちゃんはそのまま朝まで寝ちゃっていたと」
「朝は私が先に起きてご飯作ったんだよ? トレーナーも美味しかったって言ってくれたし」
「うーん、そうじゃなくてですね……」
翌日学園に戻ったところをエスキーに捕まってしまい、仕方なしに昨晩の結果報告をすると、はぁ〜っとため息をつかれた。なんでよ。
「仕方ないでしょ!? あんなこと言われたら無理じゃない!?」
「うーん……まあ真面目なエスキモーちゃんにしては頑張ったと思います。卒業するまで頑張りましょうね。応援してますから」
「なんか納得いかないなあ……」
けなされたというかなんというか……
「まあいいか。明日からまた頑張ろっと」
そう呟いて私は自分の部屋に駆けていくのであった。
「それでエスキモーちゃんはそのまま朝まで寝ちゃっていたと」
「朝は私が先に起きてご飯作ったんだよ? トレーナーも美味しかったって言ってくれたし」
「うーん、そうじゃなくてですね……」
翌日学園に戻ったところをエスキーに捕まってしまい、仕方なしに昨晩の結果報告をすると、はぁ〜っとため息をつかれた。なんでよ。
「仕方ないでしょ!? あんなこと言われたら無理じゃない!?」
「うーん……まあ真面目なエスキモーちゃんにしては頑張ったと思います。卒業するまで頑張りましょうね。応援してますから」
「なんか納得いかないなあ……」
けなされたというかなんというか……
「まあいいか。明日からまた頑張ろっと」
そう呟いて私は自分の部屋に駆けていくのであった。
──トレーナーから「いつでもご飯作りにきていいから」ってもらった合鍵のことはみんなに内緒にしておこうっと。