───どこへ行くつもりかと訊いている




美汐ルート、ギアーズにより囚われの身となっていた凌駕。
その敵拠点に突如来襲したネイムレスと、その動きを察知し逆に先制の一撃を浴びせるイヴァンとの戦闘に乗じ、少年は拠点の戦艦の甲板へと抜け出した。
だが、先程まで凌駕を監視していたイヴァンは一直線にネイムレス迎撃に駆け抜けており
軍属である彼が敵を放置するなど信じられないと、凌駕は敵地にありながら思わず動きを止めてしまったが……


「──どこへ行く」


背後から(・・・・)。一瞬前には確かに何物も存在しなかった後方から掛けられる、鉄を想起させる硬質な声。
認識、反応、対応。その何れもが間に合わぬ内、顔面を激しい衝撃に襲われた凌駕は、甲板の上を転がされていた。

うやく自らを襲った衝撃の正体が、容赦ない拳撃であると気づき……どうにか自らの背後を振り向き――少年の全身に緊張が走る。
そこに立つのは、規格外、桁外れ。先の一戦において見る者全てを驚愕させ、そして畏怖せしめた男。
この艦に残っていた実働部隊で最強の戦力である機人……アレクサンドル・ラスコーリニコフが。


「……御伽噺の英雄は、まったくどれだけ恵まれてるんだ」

……力のない悪態が凌駕の口から零れる。
現実は敵が段階的に強くなどなってくれない。運の良し悪しや相互行動に依存して、今のように最大戦力に立ち向かわねばならない

イヴァンの行動は実に合理的だった、そう凌駕は痛みと共に理解する。
――獅子に見張らせておけば、鼠は逃げだす事能わない。

刻鋼人機の速度限界すら遥かに超えているのではないかという矢継ぎ早の攻撃。
それらを視認することさえできず、喰らってからようやく認識できるという有様。
抵抗の動きを見せようとした初動の瞬間、狙い打たれて地に叩きのめされる事態が連続する。


「なるほど」


幾度も地を舐めさせられる凌駕を、言葉とは裏腹に興味など欠片も示さず睥睨する指揮官(アレクサンドル)


「ストリゴイの評価は正当であったらしい。確かに、おまえは降伏などしないのだろう」

「英雄のように高潔だな。故に苦しみ、故に潰える。心の素質を恨むがいい」


淡々と、事務処理のようにそれだけを告げて、再び豪拳が襲いかかるのだった。




  • 実際は限界速度を超えているんではなく、徹頭徹尾先の先をとって知覚させてないだけなんだけどな むしろその方がすごいんだが -- 名無しさん (2020-04-22 01:05:40)
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最終更新:2021年07月10日 22:19