ノーマルルート、スラムビルでは目的の為囚われていた“魔女”達が次々と屠られていた。
準備も整わぬ内に道具を失い、焦りと苛立ちを隠さない至門。
そんな彼に、凌辱され尽くした
グロリアと
アリソンがまだ生き残っている事実を隠し、ブライアンは己の目的を叶える瞬間を待っていた。
侵入者――角鹿彰護が、至門とスラムビルの“魔女”の首を狙っているのならば、首領のいる最上階の前に必ずすべての“魔女”のいる獄舎を襲うはず……
恍惚の微笑を浮かべブライアンは、愛しき復讐鬼の登場を待ち望んでいたが。
「おまえは……誰だ?」
拷問部屋に現れた、変わり果てた男の姿を前に、ブライアンはそう呟かずにはいられない。
スラムビル侵入時に相まみえた時から、半日足らずの間に一体何があったのか。
野獣じみた闘争本能や、苛烈極まる目的遂行への意志……彼を特徴づけていた要素一切が抜け落ちていた。
その手には髪の毛で一つに結ばれた四つの“魔女”の生首があり……それらが一層奇妙な光景を演出していた。
……掴めない、その存在が。その場にいるはずなのに、ブライアンの瞳は今の角鹿を正確に認識できない。
今の彼は自分以外の全てを無視している。焦点の定まらぬ瞳は、他の何者も、ブライアンさえも見てはいなかった。
「………ッ」
――その事実が、ブライアンを憤らせる。
この蛆虫の世界に見出した、己の鏡像とでもいうべき無二の存在。その角鹿に裏切られたような想いがしたのである。
虚無的だったはずのこの男の双眸には、今や誰より強い熱情が漲っている。
ならば、と。グロリアを角鹿へ向けて突き飛ばし、ブライアンはよろめき歩く彼女の影に隠れ襲い掛からんとする。
それはいかなる相手の虚をも衝く、完璧な呼吸の盗み方。敵を騙し、味方を裏切り、死神の裁きさえ欺いてきた卑怯者としての闘い方。
まずは……この自分を視界に入れない両の瞳から、抉り取ってやるまで。
「なッ……」
だが、ブライアンは次の瞬間驚愕する。角鹿は、既にその場から姿を消していた……
そして、気づけばその巨体は部屋の片隅に立ち、ブライアンを見る事なく銃口のみが狙いを合わせていた。
あらゆるものを無視し、逸脱する透明な存在となった彼には、ブライアンの罠も殺意も虚しく素通りしただけだった……
「ウオォォォォッ!!」
黒い銃口だけが己を凝視する中、何もかもを無視されたブライアンは絶望の絶叫を上げて弾丸を放つも……
角鹿の放った聖釘弾丸がブライアンの胸部に叩き込まれていた。
邪法を断つその効力により、彼の体内の
妖蛆の細胞は死滅する苦痛を前に暴走、宿主を喰らい始める。
……だが、生きながらに喰われる苦痛よりも、ブライアンの表情は、張り裂けそうな哀切に沈んでいた。
「おまえって奴は……」
「なんて、残酷な男なんだ……」
同じ底辺の蛆虫として、角鹿と殺し合うことを望んだブライアン・マックールの命はここに尽きた。
そして、触手の群れに埋もれ消えていく男を、やはり角鹿は視界の片隅にも映してはいなかった……
- ヤンホモすぎて草 -- 名無しさん (2020-08-10 15:18:30)
- マゴベイにもおじさんやアイザックみたいなのが居るんだな -- 名無しさん (2020-08-10 15:34:25)
- なんというかバーテンダーの系譜と違って、湿度の高いヤンホモよね -- 名無しさん (2020-08-10 15:49:16)
- まずは……この自分を視界に入れない両の瞳から、抉り取ってやる★ -- 名無しさん (2020-08-10 18:57:36)
- なんだかんだで相手が友人だったり好き嫌いはともかく本気でぶつかってくれるアイザックや本気おじさんと違って、ガン無視だからなぁ -- 名無しさん (2020-08-11 20:21:11)
- 湿気ったストーカー…バイロン、かな? -- 名無しさん (2020-08-19 19:35:15)
最終更新:2021年05月06日 22:52