『この手で、俺の世界から消してやれたのだからな……おまえ自身を』
『何もかも今夜で終わらせる。おまえも、俺の世界から消えてゆけ──至門』
“彼”はもはや悪を憎む復讐者でも、過去に怯える逃避者でもなかった。
あらゆる罪と罰の因果を超越した彼の世界に、恐れるものは何も存在しない。
一切の表情が削げ落ちた、その瞳に映るものはただ透明な虚無。
その向こうには何も、正義や人道が燃え尽きた後の灰すらも存在しない無色の地平線。
ノーマルルート、
魔女から告げられた
真実を前に自己の存在意義を完全に砕かれた
角鹿。
暴走する感情の果て、悪夢を己で消し去り彼が至ってしまった精神状態にして、そこから生じた異常現象。
至門の
ユダの福音書や
ヴァレンティノスの
“秘蹟”のように、それは魔術的な法理で凄まじい超常現象を引き起こすものではないが……
彼と対峙したものは皆、
“角鹿彰護”という一個の人間を正確に認識できなくなってしまう。
実際に角鹿はその場にいるはずなのに、その姿を凝視すればするほど彼の表情や輪郭、気配はあやふやになって視える。
そしてこの状態の角鹿が恐ろしいのは、その先にあった。
戦い慣れした
ブライアンの放つ殺意や他者を利用し虚を衝く卑劣な罠さえ、
彼は真の意味で無視する。
結果、何らかの超常的な力を用いての瞬間的な移動や技巧を用いていないにもかかわらず、完全に男を見失う。
相手が気づいた瞬間には角鹿は既に別の場所におり、無防備に見えるのに銃弾は虚しく空を切る。
あらゆる価値観、あらゆる他者を必要とせず無視する―――彼一人誰もいない世界。
人間の認識に齟齬を引き起こさせる何か。
“そこにいるのに、いない”――目視と認識のズレが角鹿を追跡不能の透明な亡霊へと変貌させていた。
無論、彼の躰は人間のままであり、治療しなければ傷は治らず、回避能力を超えた広範囲の攻撃を受ければ当然避けきれず被弾してしまうのだが……
至門がトドメを刺すべく用いたユダの福音書の力を前に、驚くべき現象は連続する。
万象存在の根源を反転させ失墜させる力を持つ福音書が……角鹿には何の効力も及ぼせない。
さらに、通常であれば福音書の加護で無効化されるはずの聖遺物による攻撃が、彼の元から放たれた事でその護りを貫通し致命傷を及ぼす。
それらすべて、本来は逃れられぬこの世の法理――
神も叛徒も……その力、意味を及ぼす事のできない孤絶した透明の領域に“彼”が至ったが故。
希望を抱き、絶望に突き落とされ、憤怒と憎悪で武装し、それさえも結局は無意味だったと突きつけられた……
そんな極限状態に追い詰められた一個の人間が至ってしまった世界の涯てが生み出した結末だったのである。
- 「おまえも俺の世界から消えてゆけ」→各主人公が無表情で語る場合、敵の反応は如何に? -- 名無しさん (2020-06-04 09:50:20)
- ↑ベルグシュラインからは試練と捉えられそう。 -- 名無しさん (2020-06-04 09:52:03)
- 透明な亡霊を斬撃するんですね。わかります。 -- 名無しさん (2020-06-04 09:53:34)
- (∴) -- 名無しさん (2020-06-04 10:05:39)
- ↑やっぱり湧くと思ったw -- 名無しさん (2020-06-04 13:03:09)
- 仏教的な -- 名無しさん (2020-06-04 13:19:55)
- (∴)「お前ら全員俺の世界から消えろ」 -- 名無しさん (2020-06-04 15:40:43)
- 紫織の弟思い出した -- 名無しさん (2020-06-04 17:17:45)
- 白痴無敵バグ -- 名無しさん (2020-07-04 23:48:46)
- ブラッククローバーの世界で突然ダンゲロスの魔人になったようなもんなのか? -- 名無しさん (2020-08-11 13:28:26)
- どんな精神攻撃も効かず、メンタルが一切揺らがず、魔術や秘蹟といった神秘による現象に対して無敵。けど当たり前ながら、単なる物理法則によって起こった怪我はするし、死ぬ。って事だな要は -- 名無しさん (2020-12-14 17:19:45)
- まともでない精神状態故に遊戯王でいうところの「対象にとる」ができなくなる感じなのかな てきとうに石を投げれば当たるかもしれないが狙い撃つことはできない そして神秘は狙わなければ使えない -- 名無しさん (2022-01-29 22:43:28)
- とりあえずこんな能力でもゼファーさんは羨むんだろうな…俺のより暗殺に向いてるとかなんとか言って… -- 名無しさん (2022-01-30 00:29:50)
- 原因が悲惨なだけで暗殺者の理想といえる精神状態になっただけといえばだけだからな これに関しては羨むのはむしろ健全かもしれん -- 名無しさん (2022-01-30 19:00:13)
最終更新:2023年08月09日 14:05