「俺は勝つ!」
「おまえを斃す」
振動結界と
熱相転移――触れれば一切を滅する破壊の力を
両の拳に集中させて、
二人の男は最強の矛と矛をぶつけ合いながら――
互いを滅するまで止まらない死闘円舞へと突入する。
「まだ――ッ!」
「まだだ」
一撃一撃が交差する度、両者の足は一歩ずつ間合を詰めていく。
距離が縮まる――空間が消える。
空振りの許される空間が徐々に失われ、やがて最後は必ずどちらかの拳が命中する状況へ近づいていく。
そして、最後の一撃が互いを捉えた―――刹那。
「最後に地金を曝したな――ここで、死を恐れるか」
発動のタイミングも同時、乗せられた拳の威力は共に必殺。
絶対必中するであろう中で、凌駕は生きたいと願い、アレクサンドルは滅びに進んで身を投じる。
「ならば私の勝ちだ、秋月凌駕。私は死など恐れない。
全ては無謬なる時計の針を進める為に。この身命はもはや滅私している」
宣告に対し、凌駕は静謐な瞳で答える――俺は英雄にはなれない、そう……おまえのように。
一つしかない命を帰るべき場所ごと投げ捨て、死と引き換えに勝利を掴み全てを終わらせる――そんな領域には達せないと。
少年の告げた言葉に、遂にアレクサンドルの鉄の精神が罅割れる音が聞こえたかに思えた……その瞬間。
「―――ッ!?」
「凌駕ァァッ!!」
先にアレクサンドルに挑みながらも、力及ばずに退くしかなかったエリザベータだった。
凌駕は誇る、仲間達の決死の援護を。エリザベータの奮闘を。
そして、何よりアレクサンドル自身が凌駕だけを倒す為に振動結界を解除したことが、伏兵の一撃が通った要因だった。
突きつけられた結果を前に、錆び付いていた男の唇が、僅かに歪んで―――
「そうか……私は、おまえとも戦っていたのだな───イシュトヴァーン」
同時に皆既滅拳が、アレクサンドルの心臓に向けて過たず叩き込まれる。
対するアレクサンドルの拳は、銃弾により僅かに軌道を逸らされ、敵を討つには至らなかった。
独りではなく立ち向かったことを――然りと誇る凌駕の眼前で、機構最強の男は消滅していく。
その中で―――
「音が……止んだな……」
「おまえの耳には、まだ聴こえているのか……?」
凌駕の呟く声に。
「――いいや、もはや聴こえん。だがこれは……
ただの聴覚機能の損傷、および消失に伴う変調だ……」
返答ともつかぬ独言は、そんな自己を一個の機械であるかのように定義する諧謔。
だが、それこそはアレクサンドルという男が最後に見せた、愚直なまでの人間としての意地であるかもしれないと……凌駕には思えた。
「私への、裁き――確かに、受け取った」
最後の呟きと共に、アレクサンドルの総身は眩い輝きに包まれ……煌めく星々のようにその形を消失させていった。
……どこまでも自分を愛することが出来なかった一人の男の、胸に秘めた想いと共に。
最終更新:2021年11月16日 23:19