無念無想の一太刀

むねんむそうのひとたち


『隼人はあの日、侍になる(・・・・)とあたしに約束した(・・・・・・・・・)でしょう?』

隼人の肉体に、“魂”としか言いようがない意思とは無関係な強制力が発生していた。

『俺は、負けない───侍として(・・・・)そう約束したから(・・・・・・・・)

『柩を護るためなら、俺は誰が相手だろうと斬るだけです(・・・・・・・・・・・・・・)

そう告げた隼人の目の光は、夜空に浮かぶ寒月のように透徹して迷いがなかった



柾隼人が、十六夜村にて立ちはだかった最後にして最悪の『敵』……
かつて必ず助けに行くと誓った初恋の女性――自らの意思に反して(・・・・・・・・・)斬り捨てる際に発動した呪われし魔剣

『なら……そんな人間(あたし)でさえ斬れたんだもの……隼人はもう、誰にも負けないね。立派な、強い侍になれたね……?』

肉体も精神も超越し、本能のままに放たれたその刃は、殺気すら相手に感じさせはしない。技量の差も、能力の有無も関係ない。
稲妻の如き速度で、襲い来る“敵”を、一切の無駄なき機動でもって斬り捨てるのみ。
間違いなく先攻を奪っていた澪の刃も、勝利を確信し墓碑銘で強化された槍撃を振るった原田も、この剣の前に断ち切られる結末しか無かった。
そして、後に残るのは、抜いた覚えのない刀(・・・・・・・・・)を持った柾隼人ただ一人。

……本来この魔剣は、剣豪がその生涯を費やしても至れるかどうか判らない、極限の境地の産物である
しかし、“侍は約束を守るもの”という信念を魂に刻み込んだ隼人が、初めて約束を交わした(・・・・・・・)相手である澪を、
柩との約束を違えぬために――護るために殺す(・・・・・・・)という矛盾を踏み越えた結果、完全な無意識下において敗北に抗う魂の業としてこれが発動するようになってしまった。
愛する人を斬ったことで、もはや泣くことも、後戻りすることも出来なくなった隼人は、心配する柩や沖田の思いを他所に、
自らに課した“柩を護る”という約束を遂行すべく、更なる修羅の道に足を踏み入れようとしていた……。


―――ただ、二回目の発動の直前。瀕死の隼人はある不可思議な感覚を覚えていた。
―――それは、自らの刀を固く握りしめる手に、優しく添えられた柔らかな掌だった。




  • 最悪のトラウマが最強の必殺技になるとか闇深すぎない? -- 名無しさん (2021-10-22 16:30:56)
  • エロゲーだったら最後約束守ったことに満足して墓に入って柩に参られてた気がしてならない。次はあっちで澪の約束守らなきゃのノリで -- 名無しさん (2021-12-22 08:24:38)
  • ↑2 つ『兜割』 -- 名無しさん (2024-07-07 22:42:11)
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最終更新:2024年07月07日 22:44