柩をこの手で護るという約束の為に──
《血染ノ民》として、命じられるまま襲い掛かった十六夜村の住人達を、老いも若きも、男も女も関係なくその刃で斬り捨てた隼人。
故郷での温かな思い出を己の手で切り刻む感覚に心を軋ませながら、彼は
一度も後ろを振り向く事無く、彼ら全員を灰に変え……囚われた柩の元へ駆け出した。
そして、一人取り残された澪は、自らの行為が齎した結果への罪深さに恐怖する。
大切な隼人を騙し、柩を傷つけ奪い、彼の手を汚させ消えない傷をその心に刻み込んでしまった事に。
「……だって、あたしは、村を救うために……ッ」
その罪悪感を振り払おうと澪は叫ぶ。
人質として残された村の半数の人間達を守ろうと、
異人の女の策略に従い、隼人と柩をこの村に誘い込んだ。
だがそれは、隼人が六年前に捨て、そしていつか彼が帰って来るべき場所を守るためで。
だから、こうするしかなかったのだと。愛する人の心を裏切ったとしても。
それ以外の雑念を捨て去ろうと、澪は激しくかぶりを振る。
……しかし、隼人への罪悪感は一向に消えてはくれなかった。
村人達を斬り捨てた後、一度も自分の方を振り向かず去っていった彼の背中……あの、圧倒的な前進の意志に満ちた後ろ姿が瞼に焼き付いて離れない。
離れていた六年の間。ひたすら侍として自分の道を歩み続けた隼人に対し、澪はただ過去に縛られ儚い約束に縋って生きてきただけ。
二人の間の隔たりを突きつけられたような、そんな気がして。
まるで――おまえはいつまでそんな場所にいるんだ、と。
あの背中が問いかけているようで。
「置いていかないで、隼人……」
今度もまた、置いて行かれてしまう。
自分の決断が間違いじゃなかったと信じたい。約束を信じて待ち続けた六年の想いに、価値がないとは思いたくない。
そうでなければ、永遠に隼人の背中には追い付けないから。
―――けれど、自分はどうしたらよいのだろうか。
揺れる心のまま、澪は彼が去っていった闇の彼方に呼びかける……
答える者はなく、冴えわたる月の光が、独り佇む澪の姿を照らすだけだった。
最終更新:2025年03月22日 19:19