第二巻壱ノ章、
万次郎に呼び出される形で、ついに坂本龍馬の協力者、勝海舟の屋敷へと足を踏み入れた
隼人と柩。
幕府の重臣との面会という事で、緊張に身を引き締めていた隼人が案内された座敷で見たものは一匹の……
猫、だった。
『ま、よく来てくれた。ささ、そんなところに突っ立ってないで、座ってくんねェ。かつぶし食うかィ?』
予想していた光景とは違い、
座布団の上に箱座りする三毛猫しかおらず……閉じた襖の向こうから軽妙な江戸言葉が聞こえてくる。
視線のみで万次郎に説明を求めても、当の万次郎はにやにやと笑っているだけ。
まさか本当に猫になった…などという訳もないだろうと、隼人は勝の仕掛けてきた悪戯への対応に頭を悩ます。
もしも沖田さんがこの場にいたら、すぐさま猫だろうと一刀両断、戯れに対し怒りを表明するのだろうな――
と隼人は思いを馳せつつも、相手が大物とはいえ侮られないようここは真剣に対応しようと、声を上げようとしたところ。
「かわいい!」おまかわ
―――彼を押しのけるように、童女のように柩が瞳を輝かせ爛漫な笑顔で三毛猫の前に飛び出していた。
そのまま「かわいい」を連呼しつつ、(柩は勝本人だと信じ込んでいる)猫を抱き上げ頬ずりする紅い目の少女に、
隼人も万次郎も、そして当の勝も呆気に取られてしまっていた。
そうして、奥の襖が開くと、そこにはバツが悪そうに頭を掻く勝海舟その人がいたのだった―――
余談
基本殺伐とした空気で進行する場面が多い
本作だが、柩周りのこうした描写は心和ませる部分が多い。
同時に巻が進むごとに、もう一人の主人公ともいうべき柩が“成長していく”中での周囲への感じ方の変化を見るのも興味深いかと思われる。
- 日常描写がかなり丁寧で好感持てるんだよな、この辺 -- 名無しさん (2021-12-21 23:04:02)
最終更新:2021年12月25日 16:53