何者にも心を許さない
呪術師・
文鳴啾蔵にとっての唯一最大の心の傷
――それを生み出した因縁の相手の存在を三十数年ぶりに感じ取り、使役された式童子と対峙した彼が絞り出した叫び。ポン刀担いだ黒コートの侍『分かりみ』
……そして、《文鳴編》において啾蔵が追い求めることとなる
最大の謎、についての問いかけでもある。
《文鳴編一》、病床に臥せていた二ツ栗吉延の身に突如として怪異が降りかかる。
青沼シヅの呪い――その強大さに圧倒されながらも、啾蔵は途中加勢した
刑部と共に、呪いの進行を何とか止める事に成功する。
こうした緊急事態が生じた事に対し、“呪い”に対する結界を幾重にも張り巡らせた張本人である
蒔山太夫の力が弱まっているのではないか?
――いやそもそも彼女は果たして生きているのか?……と、
一人思惟を巡らせていた啾蔵はふいに、
自らに向けられた濃厚な呪詛の気配を感じ取る。
振り向いた先、夕闇迫る逢魔が時の空の下に“それ”は居た。
微笑をたたえた弥勒菩薩――その腰から下、蛸の如き太い無数の触手を周囲に向けて伸ばす冷血の軟体。
神仏の皮を被った異形、術師の命の元呪詛を撒き散らす式童子の巨体が、男を見下ろしていたのだった。
「てめえはぁぁッッ!?」
その姿形を前に、文鳴啾蔵の意識は若き日へと一気に引き戻され――喪失の痛みと共に赤黒い殺意が噴出する。
「殺す……!」
一番大事だった
存在より受け継いだ、十一面観音菩薩の頭部より女郎蜘蛛の躰が生えた妖しき式童子。
それを瞬時に顕現させ、姿見せぬ“敵”の操る巨大な呪詛へと真っ向から殺し合いを挑まんとする。
相手が明らかに己よりも
呪術師としての格は上だったが、啾蔵は臆することなく鍛え上げた呪殺の術を次々に繰り出していく。
(なぜだ…なぜ今になって俺の前に現れやがった……!?)
『啾蔵』
不可視の呪詛が飛び交う中、滅ぼすべき怨敵への憎悪と憤怒は尽きることはなく……
『おまえを愛しているよ』
(なぜ、あのとき……槐は、死ななければならなかったんだ……!?)
暗闇に生まれた自分を照らし続けてくれた一人の女神を失い、
時の止まった“少年”の心は、今も答えるもののない悲痛な叫びを上げ続けていた―――
- ⇒祖母が笑って勝ち逃げするため -- 名無しさん (2025-02-25 23:59:34)
最終更新:2025年02月25日 23:59