――ゴメン、凌駕。ちょっとだけ、遅れちゃったみたいかな

発言者:万里也 ジュン
対象者:秋月 凌駕


ジュン√、突如立ちはだかった《預言者》(アポルオン)と名乗る半人半機の刻鋼人機(イマジネイター)によって、
凌駕、ジュン、美汐の三人は、同じ輝装段階でありながら手も足も出ないままに痛めつけられていた。
それでも一息に決着を着けずに、“何か”を待っているかのようなアポルオンはいい考えが思い浮かんだとばかりに
凌駕に熱い視線を向け煽り立てながら、彼にとって大事な人であるジュンの命を奪わんとして―――


『流石――いや、それとも賞賛はまだ早いかな?』
『だが、まずはおめでとう。どうかな、正確だったろう? 私の読みと君の(まこと)は』

「そうだな……的確すぎて吐きそうだ」


瞬間、影装に到達した凌駕の熱相転移の拳が、ジュンを絞殺せんとしていた鋼の腕を消滅させていた。
しかし、ネイムレスの技術を応用した自己修復機能により、アポルオンの損失箇所はすぐさま修復され、
相手の神経を的確に苛立たせる言葉は抑えられるどころか、ますます勢いを増していった。
故に凌駕は、消滅の拳を以て一刻も早く眼前の敵手を黙らせるため、単独で立ち向かっていく。


しかし救い出されたジュンは、彼とアポルオンの戦いを蒼白な顔で見つめながらこう呟かずにはいられなかった……

「駄目だよ、凌駕……このままじゃ……」
「―――負けちゃうよ、今のままだとあいつに勝てない」

影装の燃費効率の劣悪さ、何より熱相転移の制御の困難さが、安定した輝装段階のアポルオンとの戦いによって、
凌駕を著しく消耗させていくのは間違いなく、最悪力を制御できなくなれば……両腕から彼は消滅してしまいかねなかった。
それでも、そんな危険な事に迷わず挑んでいく少年の姿は、彼を見続けてきたジュンに哀しみを抱かせる。


「なのに、またそうやって……無理なことに平然と挑んだりして。
 あたしに分からないはずないじゃない。そんな腕して、寂しいなら言ってくれたらよかったのに……!」

凌駕が常人の超えられない一線を、当たり前に逸脱していること。
何か困った時、誰かが矢面に立たなければならない時ほど、それを感じさせられた。
いつ、いかなる時でも自分の生き方を崩さないからこそ――


「本当にどうしようもないときは――
 こうやって、あたしの手の届かないところまで平然と行っちゃうんだ」


自分は走ってきたはずなのに、ただ歩いているだけの凌駕の速度に追いつけない。これほど傍に居たいのに。
無力な己の現実を突きつけられた気がして、それでも黙って見ていられなくて。
そんな思いを抱えたまま、破壊の嵐が渦巻く場へジュンはふらふらと引き寄せられるも……


「馬鹿かッ! てめえ、何ふらふらと血迷った真似してやがる。状況が見えてないのかよッ!」


その身体は、美汐によって止められていた。苛立ちを露にし、彼女はジュンに向かって吐き捨てる。


「感傷的な思いつめた表情してるからな、はっきり言ってやるよ……あそこに居るのは化物だ」

「ほんのちょっぴりその気になった子犬程度じゃ、止めるどころか引き裂かれる。
 ザコはお呼びじゃないんだよ。お前も、そして私も……
 あの場に立つ資格は欠片も持っちゃいないんだ! くそったれッ!」

「弱いってことは……そういうことなのよ。少しは分かれ、この馬鹿女」


何よりも自身に向けて言い聞かせるようなその言葉には、力無きゆえに追い詰められた者としての説得力、重みが籠められていた。
それでも、かつての喪失の記憶を思い出し、ジュンは、一歩を踏み出そうとする。


真実、加速するのはこの瞬間しか存在しないと思うからこそ。


「あたし達が弱いから?」
「そうだ」
行けないのかという問いに、美汐は即座に頷いた。

「あたし達がいても、何の役にも立てないから?」
「そうだ」
行ってはならないのかという問いに、美汐は即座に頷いた。

「あたしがまだのろま(・・・)だから、どれだけ走っても、走っても、凌駕の歩きに追いつけないから?」
「そうだ……影装(あれ)を手にしない限りはな」
それが追いつくための条件だと、美汐は即座に頷いた。


だから………

「なら――
自分がやるべきことは一つだと。誓った瞬間、ジュンの意識は自己の内海(せいしん)に潜行を始めた。


展開(エヴォルブ)


……しかし、彼女の雄々しい誓いもむなしく、精神の完成度において凌駕との埋めがたい差が存在するという事実は覆らない。
自己の無意識(イド)に潜む自責の悪意を制御できず、無力感を抱えて苦しむジュンの心に、優しく背中を押す“声”が聞こえた。


『そう、だから……』

『二人で――――』


自分を支えてくれたその声に感謝を捧げて、今、万里也ジュンは、影装に到達する――


「心装」

「影装・超光翔翼(スターライト・スパロー)


そして、覚醒した彼女の一撃は、アポルオンの言葉に煽られ、制御できぬままに自己の内の“何か”を引きずり出されようとした凌駕を救い出す。



「――ゴメン、凌駕。ちょっとだけ、遅れちゃったみたいかな」



それは風の動きも音もない、不可視の一撃。
輝装段階よりも段違いに強化されたであろう能力値と合わせ、閉塞した状況を打破する頼もしい援軍と凌駕には思えたが……
その力を振うジュンの横顔は、常のような明るさはなく、何かを堪えるように険しく、張りつめたものであった……。




  • これ見てると凌駕さん程ではなくてもやっぱりジュンも超人側なんだよなぁ… -- 名無しさん (2017-05-30 21:52:32)
  • これを見せられた美汐きっついだろうな -- 名無しさん (2017-05-31 10:29:24)
  • ↑2まあ、カレンさんの手助けあってこそだけどな。だからこそ、真理では自分とカレンと凌駕の三人でって言ってるわけだしな -- 名無しさん (2017-06-01 12:38:46)
  • ↑まあ、だからこそその能力がパーソナルアタラクシアに似てるんだろうね -- 名無しさん (2017-06-01 15:11:08)
  • 言われてみれば確かにそっくり。方向性はともかく他者の調律という点ではまさにその通りだった -- 名無しさん (2017-06-01 17:02:24)
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