終わりはいつも突然に ここは【オッキーナ】 ある世界のある場所で発展した大都市である からんころん 鐘の音が鳴る 酒場の扉に備え付けてある鐘だ 「おう、お前らか。悪いが旨みのある仕事は入ってないぜ」 酒場の主人ポチョムキンは渋い顔で客を出迎えている お相手はいつもの奴らだ 【冒険者】 明日より今日を生きることを生業としている連中のことを総じてそう呼ぶ 彼らはこの都市で活動している中では新米に分類されるグループだ とはいえ、何度か依頼をこなしているのだが 「んん、それはちょっと渋い話ですわねー」 メンバーの一人、エルフ族のリードはそう言った エルフ族は知性の種族だ 面立ちは美しく、魔法技術に長ける だが彼女はそれを感じさせない目つきでもう一人のメンバー、もくせいを見つめているようだ (ああ、あのたくましい筋肉、素敵ですわ、お姐さま・・・!) そのうっとりとした眼差しを、しかしもくせいは気づいていない それを見たメンバーのコーラは頭を押さえていた (なんだかまーた俺は変なメンバーに絡まれるのか・・・) そう言いかけるのを我慢しているらしい 「なかなか参ったねぇ。このままじゃそのうち干し肉も買えなくなっちゃうよ」 もくせいの隣にいる女性、コーラと同じ人間のワッフルはそうポチョムキンに答えてカウンターに腰掛ける 「景気悪いんですかねー」 最後に、パーティリーダーの雪山は溜息混じりに店に入ってきた いや、もう一人いた 店の隅でドワーフ族のロベルト・カーロンは安らかな寝息を立てている 屈強な体つきにそぐわない、安らかな表情だ 一同はいつものように依頼書を見せてもらっている しけた仕事だとしても、彼らには必要なのだ 金が そして何より冒険が 紙にはこう書かれている ゴミあさりをつかまえて 依頼人は食料品店の主マンプック。 売り物にならない食料を店の裏にまとめているのだが、誰かがそれを持ち去ってしまうらしい。 気味が悪いので犯人を探し、こらしめてほしい。 報酬15G 届かない恋文 依頼人は代書屋の青年ジキレイ。 街で見かけた女性に一目惚れしてからというもの、仕事が手に付かない。 思い切って告白しようと恋文を書いたが、届けに行く勇気もない。 かわりに女性の家に手紙を届けてくれないだろうか。 報酬20G 幽霊騒動? 依頼人は年金暮らしの老人シラガ。 最近、家の近くにある古井戸から、夜な夜な人の声がする。そんな気がする。 幽霊でも出たのではないかと、気がかりでしょうがない。 どうか、声の正体を確かめてほしい。 報酬10G (あ、あれ!?なんだろう・・・俺が空気として・・・扱われているような・・・) コーラはそう思っていたが、彼の思考はメンバーに届かない (力瘤は少ないですけど、あのがっちりとした体系、憧れますわ・・・! ああ、ドワーフなのに。対立してるドワーフなのに眼がいってしまう・・・) もう一人、リードも寝息を立てているロベルトを見てそんなことを思っていたが、それもメンバーたちには届かなかった もっとも当人はやっと目を覚ましたようだ 「・・・は!ね、寝てないぞ!だ、誰が酒場のテーブルで涎を垂らして・・・! 落ち着け、落ち着くんだロベルト・カーロン・・・!」 「んで、どうする?どれもこれも破格の仕事だが、全部やれば、まあ45Gはなる。 簡単そうだし、全部やってみてもいいだろう」 主人のポチョムキンは彼らを無視して言った リードは並べられた依頼書に目を通していたが、やがて顔を上げる 「なんだかしょぼ・・・・・失礼。ぱっとしない依頼ばかりですわね」 そう言って苦い顔だ 「恋文などは自分でお届けになったほうが良いと思いますけど・・・早さの割りに高報酬ですね」 対して雪山は冷静なものである さすがはリーダーといったところか 唸っていたコーラもリードの後ろから依頼に目を通す 「こ、こんなに出るのかよ・・・模擬戦講習なんて一回に付き食事三回分って言うのに・・・」 どうでもいいことかもしれないが、彼は対人戦闘の講師でもある 一回の指導に比べれば、依頼額というのは破格なものだ 「はいはいロベルト、素数を数えるのは後でもいいよ。今は依頼を吟味するのが最優先なんだよ。 でも・・・これはなんだかちょっとアレだねぇ」 ワッフルは困った顔でロベルトの脇から呟く 妙な依頼ばかりだ、と言わんばかりに するとポチョムキンが口を開いた 「いや、しょぼいのは事実だよ。だがまあ、俺も依頼人とお前らを仲介してるっていう立場がある。 どうだ、全部やってくれるなら、一つ10Gを上乗せしようじゃないか。 そうりゃ報酬は全部で75G。まあまあだろ?」 依頼の仲介人である彼の肩には信用と責任が乗っている 僅かばかりの金でそれらが買えるなら、安いものだと判断したらしい 「リーダー、どれも子供のお使いみたいなものですけど、全部引き受けてしまってはいかがかしら?」 悪くないと思ったようで、リードはコーラの二の腕を見ながらそう返した (ああ、でもやっぱり一番はこのたくましい腕ですわねぇ・・・素敵) 「安くても楽ならもうけもの・・・」 「いや、私は決して寝ておらんぞ!信じろ!話も聞いていた! ていうかマスター、10G上乗せとか太っ腹だな」 彼女の思考をもくせいとロベルトの言葉が邪魔をした 「そりゃお前、オッキーナにどれだけ冒険者の店があると思ってんだ。 あそこの店に頼んだ依頼は引受人がいない、なんて事になったら商売あがったりだぜ。 こういう時に、冒険者にぽんと還元するのも胴元のつとめよ」 ポチョムキンは鼻息を荒げてロベルトに答える 「それであまり冒険者向けでないのも受け付けてるんですね〜」 「やっぱりマスターにも色々と気苦労があるんだねぇ。 まだまだ冒険者な私達には難しいよ。ありがたいけど」 「・・・マスターの生え際が後退するのも道理・・・」 雪山やワッフル、もくせいの面々はどうも感心しているらしい 「あのさ、1つだけ頼みごとしたいんだがいいか?」 その会話に、コーラは口を挟み始める 「頼み事?聞ける範囲で聞いてやろう」 主人は若き冒険者の願いを叶えてやることにした 「10Gも出してくださるなんて、やっぱりいい人ね、ポチョムキンさんてば」 リードが横槍を入れそうだったがロベルトが手でそれを制す 「言うな。最近、アロエに手を出し始めたらしいからかなり深刻だと思われる」 そう、もくせいに耳打ちして 「こっそりヒールかけたりしてるんですけどね〜」 雪山がぼそぼそと言ったが、ポチョムキンには聞こえていない 「いや、できれば何か・・・こーパーッと飲み物とかを提供してくれないか? さっきまで模擬戦しててお腹すいちまってよ」 コーラは厚かましくそうほざいた だが主人は寛容だ 「よし分かった。今日俺が試作したデビルドリンクっていうのがあるからそいつをご馳走してやろう」 そして運ばれてくる、マグマのように沸騰した茶色い液体六つ 「さて、リーダー。どうなさいます? わたくしは全て引き受けてもよろしいと思いますけれど」 運ばれてくるマグマの一つを手で持ち、リードは雪山に訊く 「私は受けるのに賛成ですが・・・」 雪山は慎重に意見を述べた (リーダー、優秀なのはいいのだけれど、筋肉がまるでないのよね・・・ やっぱりわたくしのように悟りも開かぬハーフエルフ種ですわね) だがリードは話を聞いていない 「だけど・・・何か問題でもあるのか?」 コーラが再び口を挟む 「皆さんはどうなのかなと思って」 雪山は肩を竦めて答えた 「賛成の人はこれを飲む・・・」 一向に話がまとまらないのを見かねたもくせいは、デビルドリンクを一気に飲み干していた 「デ、デビル?なんだかこれって・・・。まあ賛成だから飲んじゃうんだよ」 ワッフルもそれに続く 「気楽で金払いがいい、となると答えはただ一つであろう」 ロベルトは既に飲み始めていた 「一日無駄にしているよりはマシですわ。少しでもお金が稼げるのなら」 リードは飲む気はないようだが、依頼を受ける旨を雪山に伝える 「よし、それなら話は決まりだ。 きっちり三つの仕事、片付けてきてくれよな。 ちなみに報酬は全額後払いだ。しくじるんじゃねえぞ」 体格のいい酒場の主人は僅かに顔をほころばせた