「へぇ、ここが依頼人の店ですか。なかなかご立派ですわねー」 リードは食料品店を見ると驚きを隠さなかった 酒場を後にしたリードともくせいは食料品店の主【マンプック】の依頼書をこなしにやってきたのだ 見れば精肉から青果、パンなど何でもある これほど大きな店舗を構える依頼人とは一体どんな人物なのだろう ふと、もくせいはころころと肥った男性が店に居るのに気がついた 彼は君達の姿を見つけるなり猛烈な勢いで喋り始める 「あら、あんた達がポチョムキンの紹介できた冒険者ね! ねぇそうでしょう? あたしには分かるのよ!」 「・・・引受人です、どうも」 その勢いにも動じないもくせいは、ふらふらしながら答えてみた 「あたしがマンプックよ!この店のあるじよ!ええそうですともあるじなのよ! いい事あんた達、このあたしはね、売り物に対してはヒッジョーに目が厳しいの! そりゃあもう厳しいったらないのよ!」 どうやらこのデブは少々エキセントリックなおかまのようだ 「ええ、それはとてもよくわかりますわ。品揃えがとてもよろしいですもの」 それまで黙っていたリードも口を開く (筋肉に美しさがありませんわね。汚らわしい脂肪剥き出しで・・・) そう思ったが表情には出さない 「・・・とりあえずお話をお聞かせくださいますか」 変な二人に板挟みにされているもくせいは煩わしさを感じつつもなお冷静に言った 「つまり何が言いたいかっていうとね? このあたしが、目をこらして選んできた可愛いお肉ちゃんとかクソ野菜野郎とか、つまりそれらは大変高価なわけよ! それが例えちょっと腐って食べられなくなって、ゴミ扱いになっちゃっても、んじょそこらの店のゴミとは格が違うわけよ! 値打ちがあるのよ!そこんとこいい!? そのゴミを!このあたくしの店のゴミを! 持っていく奴がいるのよキィィィィ! いい事!必ずそのこすっからい犯人を捜し出してちょうだい!!」 「・・・はい・・・えぇ・・・それは大変ですね・・・えぇ・・・はい・・・」 もくせいは、それはもう鬱陶しそうに相槌を打つ 「ええ。ええ。あなたが食材を愛されているのは十分わかりましたわ 必ずや、ゴミをあさる薄汚い野良犬を締め上げてごらんにいれましょう」 リードも話の要所以外は聞いていないようだ そこに、おだてられて有頂天になっているマンプックの後ろから、とてもすまなそうな顔をした小柄な男性が現れた 「すいません、兄が変態でして・・・」 男性はマンプックの弟で、クフックと名乗った クフックは、空中に向かってキーキーとわめき散らすマンプックを蹴ってどかすと、リードともくせいを店の裏に案内する 「食材の買い付け人としての腕はいいんですがね、兄も。 ああ、現場はこちらです」 弟の日常は苦労が多い、ということらしい 「ええ、どうもご親切にありがとうございますわ」 リードたちは丁寧にクフックの後ろを追いかけた もくせいたちが案内されたのは、ゴミ捨て場というより店舗の裏の路地だった 店の勝手口の脇、壁際に並ぶようにタルだの木箱だのがあって、そこが廃棄処分の食材を入れておくところのようだ この世界のゴミ処理がどうなっているかは分からないが、まあきっとうまい事やってるんだろう 「これは・・・随分とまた勿体ない・・・」 捨てられている食料は旅人である彼女たちにはなんとも贅沢に感じられる 「まあ、他の店ならば十分並ぶようなものばかりですわね」 リードももくせいと同意見のようだ クフックの話によると、ゴミ扱いの食料を入れておくと次の朝にはタルや木箱の中身が減っていたりカラになっていたりするらしい だから夜の間に誰かが漁っているんだろうが、待ち伏せしてとっちめるほど、自分も兄も腕っ節に自信があるわけじゃない、そこで・・・といったものだった 「うん、ここならばばれないんじゃないかしら!」 リードは早速、手ごろな場所を見つけて身を隠した しかし、下半身が丸見えである 「頭隠して、尻隠さず・・・」 対してもくせいは華麗なものだ 彼女はシーフ、つまり盗賊になるのに必要な技術を習得している これくらいは朝飯前とばかりに木箱などをたくみに積み上げ、素人目には分からない隠れ場所が築かれた 「さすがですわね、お姐さ・・・もくせいさん。わたくしではまだまだ力不足ですわ」 リードは技術の差に敬服するばかりだ 「でも、いつ来るかわからないからずっとここに隠れなきゃ・・・」 不安げなもくせいにリードは本能をくすぐられる だが欲望をぐっとこらえ、隠れ場から出る 「わたくしは、囮になった方がよろしいでしょう。 見張っている振りをして、どこかへ行ってから見張りなおします」 もくせいは静かに頷き、防具を解いて布切れ一枚になる この場所は見つかりにくいが、狭くて熱くいからだ 忍び寄る熱気が彼女の肌に汗を浮かび上がらせ、薄いTシャツは彼女の伸びやかな肢体にぺったりと張り付き、 少女から大人へと変わりつつある微妙な曲線を浮かび上がらせた 「それでは、わたくしは・・・わたくしは、行ってまいります!お姐さまぁ!」 それをなるべく見ないようにしてリードは見回りを始めた