したらば3スレ/(230-234)少女リアvsコロシアム最強の男
俺は強かった
剣を持てば誰よりも多くの兵を切り裂き返り血を浴び、弓矢を射れば数え切れない程の敵の脳天をぶち抜き、武器などなくとも何も問題はない
何人も地に沈め両の手を赤く赤く染めてみせた
俺は英雄だった
しかしそれはこの国に一時の平穏が訪れるまでの話
平和は俺とは相入れない存在のようだ
昂る闘争心を制御する方法も、穏やかな日々の過ごし方も俺は知らない
そんな鬱憤を晴らす為に正義感など欠片もないのに自警団紛いのことまで始めた
敵が何十人いようが関係ない、俺は全て一人で勝利を手にし続けた
しかし、人々はそんな俺の強さを恐れ隠れて化け物と呼ぶようになった
だから俺は自らをコロシアムという檻の中へと閉じ込める事にした
血に飢えることもない、人々は戦争の時と変わらない称賛と羨望を俺へと向ける、武器の使用と殺しは御法度だったが充分だ
見世物でも客寄せパンダでも何でもいい、ここは外よりよほど居心地がよかった
俺はコロシアムで勝ち続け、何時からか俺の試合は賭けとして成立しなくなっても
それでも誰もが俺が戦う事を望み続ける
化け物の俺がここではまだ英雄でいられた
そして今日も満席のコロシアムの中央で挑戦者を迎え撃つべくウォーミングアップをしていると、コツコツという高いヒールの音が闘技場内に響いた
俺が目を向けるとそこにいたのはまだ二十歳にも満たないような少女だった
「おじさん強いんでしょ?私と勝負してよ」
少女は凛とした声で淀みなく言い放った
剣を持てば誰よりも多くの兵を切り裂き返り血を浴び、弓矢を射れば数え切れない程の敵の脳天をぶち抜き、武器などなくとも何も問題はない
何人も地に沈め両の手を赤く赤く染めてみせた
俺は英雄だった
しかしそれはこの国に一時の平穏が訪れるまでの話
平和は俺とは相入れない存在のようだ
昂る闘争心を制御する方法も、穏やかな日々の過ごし方も俺は知らない
そんな鬱憤を晴らす為に正義感など欠片もないのに自警団紛いのことまで始めた
敵が何十人いようが関係ない、俺は全て一人で勝利を手にし続けた
しかし、人々はそんな俺の強さを恐れ隠れて化け物と呼ぶようになった
だから俺は自らをコロシアムという檻の中へと閉じ込める事にした
血に飢えることもない、人々は戦争の時と変わらない称賛と羨望を俺へと向ける、武器の使用と殺しは御法度だったが充分だ
見世物でも客寄せパンダでも何でもいい、ここは外よりよほど居心地がよかった
俺はコロシアムで勝ち続け、何時からか俺の試合は賭けとして成立しなくなっても
それでも誰もが俺が戦う事を望み続ける
化け物の俺がここではまだ英雄でいられた
そして今日も満席のコロシアムの中央で挑戦者を迎え撃つべくウォーミングアップをしていると、コツコツという高いヒールの音が闘技場内に響いた
俺が目を向けるとそこにいたのはまだ二十歳にも満たないような少女だった
「おじさん強いんでしょ?私と勝負してよ」
少女は凛とした声で淀みなく言い放った
「残念だが今回の挑戦者はリグルだ、お前と戦っている時間はない」
時間があったとしても受けてやる道理などないが
「あの茶色いおじさんなら控え室でのびてるよ」
少女が表情を変えることもなく告げる
そして数分後、彼女の言葉通り控え室で血塗れになって倒れているリグルが発見された
少女の靴にも血が付いていることに俺はその時気付いた
「まさか、お前がやったとでも?」
あり得ない、リグルは現コロシアムでは俺に次ぐ実力者だ、こんな少女に敗れるはずはない
「へぇ、意外と察しがいいんだ、おじさん」
しかし少女の答えは肯定だった
「どんな手を使った?不意打ちか、それとも色仕掛けか」
「戦ってみればわかるんじゃない?」
少女がクイックイッと手を招き俺を挑発する
その瞬間、コロシアムがドッと沸き立つ
彼女への嘲笑や罵倒もあるが大半は歓声であった
普通ならばこのコロシアムの人気闘士であるリグルの代わりが実力不明の謎の女性では観客も納得しないだろう
しかし、少女はそんな不満を払拭するほど美しかった
肩まで伸びた艶やかな青髪、瞳の水色は透き通るように美しく、身体も引き締まる所は引き締まり出る所は出ている、男の理想像そのものと言っても過言ではなかった
その上、このコロシアムでは臨場感のある戦いを生むために防具はとことん面積を減らされる、少女もそのルールに習い最低限の箇所のみを鎧で守っていた
コロシアム初の女性闘士、それが惜し気もなく肢体を見せ付ける美少女ともなれば嫌でも観客は盛り上がる
俺にもはや退路は残されていない、元々引くつもりもなかったが
「いいだろう、その挑戦受けてやる」
今日一番の歓声がコロシアムを包んだ
時間があったとしても受けてやる道理などないが
「あの茶色いおじさんなら控え室でのびてるよ」
少女が表情を変えることもなく告げる
そして数分後、彼女の言葉通り控え室で血塗れになって倒れているリグルが発見された
少女の靴にも血が付いていることに俺はその時気付いた
「まさか、お前がやったとでも?」
あり得ない、リグルは現コロシアムでは俺に次ぐ実力者だ、こんな少女に敗れるはずはない
「へぇ、意外と察しがいいんだ、おじさん」
しかし少女の答えは肯定だった
「どんな手を使った?不意打ちか、それとも色仕掛けか」
「戦ってみればわかるんじゃない?」
少女がクイックイッと手を招き俺を挑発する
その瞬間、コロシアムがドッと沸き立つ
彼女への嘲笑や罵倒もあるが大半は歓声であった
普通ならばこのコロシアムの人気闘士であるリグルの代わりが実力不明の謎の女性では観客も納得しないだろう
しかし、少女はそんな不満を払拭するほど美しかった
肩まで伸びた艶やかな青髪、瞳の水色は透き通るように美しく、身体も引き締まる所は引き締まり出る所は出ている、男の理想像そのものと言っても過言ではなかった
その上、このコロシアムでは臨場感のある戦いを生むために防具はとことん面積を減らされる、少女もそのルールに習い最低限の箇所のみを鎧で守っていた
コロシアム初の女性闘士、それが惜し気もなく肢体を見せ付ける美少女ともなれば嫌でも観客は盛り上がる
俺にもはや退路は残されていない、元々引くつもりもなかったが
「いいだろう、その挑戦受けてやる」
今日一番の歓声がコロシアムを包んだ
「勝負になった以上、手加減はしない」
俺は少女に最後の警告をする
美しい少女を殴ることに何も抵抗がないわけではない
「いいよ、私も手加減出来ないから…覚悟してね?」
今まで表情を崩さなかった少女がその時、一瞬だけ蠱惑的に微笑んだ
その一言で俺は弾かれたように飛び出し、得意の右ストレートを放つ
少女はトンと軽くサイドステップしてそれをかわす
なるほど、多少は速い…が想定内だ!
俺は右手をそのまま裏拳として少女に放つ
ブゥン!!
しかし、少女は俺の行動を先読みしているかのように姿勢を低くしその裏拳をかわした
「単純…」
少女は飛び上がりサマーソルトキックで俺の顎を打ち抜いた
バキィ!
その威力に俺はよろめき、血を流す
どうやら唇を切ったようだ
久々に俺がクリーンヒットをもらったことで「ワー!!」っと観客が沸き立つ
だが、そんな大歓声でさえ今の俺の耳には入ることはない
「お前、名前は?」
右手で血を拭いながら訊ねる
「リア、覚えなくてもいいよ私もおじさんの名前知らないし」
俺に一撃入れたというのにその顔には喜びの欠片も見て取ることが出来ない、出来て当然と言わんばかりだ
「じゃ、こっちの番」
バシ!
彼女の右足を左腕で受け止める
不意を打たれなければ威力自体は大したことはない
彼女は右足を戻すと続いて左足を振り抜いた
(甘い!)
俺は右手で足を掴み捻り潰そうとした…
が、突然リアの左足が狙いを変えた
バシィ!
「ぐっ…」
右の膝裏にキックを受け俺の体勢が崩れる
その隙をリアが見逃すはずもない
ゴガッ!
「がっ!」
俺の鼻を跳び膝蹴りが捕らえ、鼻血が吹き出す
「まだまだ」
リアはそう言って倒れかける俺の体を踏み台にして高く跳び上がりくるっと宙返りをしながら踵落としを叩き込む
バキィン!
脳天をモロに捕らえられ視界も覚束ない、ただ痛みだけが感覚を支配し
ドサッ!俺はコロシアムで初めてダウンを奪われていた
俺は少女に最後の警告をする
美しい少女を殴ることに何も抵抗がないわけではない
「いいよ、私も手加減出来ないから…覚悟してね?」
今まで表情を崩さなかった少女がその時、一瞬だけ蠱惑的に微笑んだ
その一言で俺は弾かれたように飛び出し、得意の右ストレートを放つ
少女はトンと軽くサイドステップしてそれをかわす
なるほど、多少は速い…が想定内だ!
俺は右手をそのまま裏拳として少女に放つ
ブゥン!!
しかし、少女は俺の行動を先読みしているかのように姿勢を低くしその裏拳をかわした
「単純…」
少女は飛び上がりサマーソルトキックで俺の顎を打ち抜いた
バキィ!
その威力に俺はよろめき、血を流す
どうやら唇を切ったようだ
久々に俺がクリーンヒットをもらったことで「ワー!!」っと観客が沸き立つ
だが、そんな大歓声でさえ今の俺の耳には入ることはない
「お前、名前は?」
右手で血を拭いながら訊ねる
「リア、覚えなくてもいいよ私もおじさんの名前知らないし」
俺に一撃入れたというのにその顔には喜びの欠片も見て取ることが出来ない、出来て当然と言わんばかりだ
「じゃ、こっちの番」
バシ!
彼女の右足を左腕で受け止める
不意を打たれなければ威力自体は大したことはない
彼女は右足を戻すと続いて左足を振り抜いた
(甘い!)
俺は右手で足を掴み捻り潰そうとした…
が、突然リアの左足が狙いを変えた
バシィ!
「ぐっ…」
右の膝裏にキックを受け俺の体勢が崩れる
その隙をリアが見逃すはずもない
ゴガッ!
「がっ!」
俺の鼻を跳び膝蹴りが捕らえ、鼻血が吹き出す
「まだまだ」
リアはそう言って倒れかける俺の体を踏み台にして高く跳び上がりくるっと宙返りをしながら踵落としを叩き込む
バキィン!
脳天をモロに捕らえられ視界も覚束ない、ただ痛みだけが感覚を支配し
ドサッ!俺はコロシアムで初めてダウンを奪われていた
「もう終わり?」
リアが俺の顔を覗き込む
倒れてる俺に追い打ちもしないのは余裕の表れか
観客の声も徐々に声援より困惑やどよめきの方が大きくなってきた
当然だ、膝をついた事もないコロシアム始まって以来最強と呼ばれた男が戦う術を持っているようには見えない少女の前に倒れ伏しているのだから
いつまでも無様な姿を晒してはいられない、俺は英雄なのだから…
俺は両腕に力を込めて立ち上がり、そのままリアに掴みかかる
「遅すぎ…」
しかし、リアはあっさりと懐に潜り込み肘打ちを正確に鳩尾へと放つ
「ぐぶっ」
下がった頭部をリアが右足で蹴り上げる
パギャァ!
そして、左足を軸に回転して右足で鳩尾にミドルキック
ズムッ!
「おぐっ…!げほっ!」
あまりの痛みに俺は血と胃酸を同時に吐き出した
「隙だらけ」
リアは一気に距離を詰め連続でキックを放つ
ズドドドドドドドドドド!
「がっ!…ごぐっ…べっ…」
ただ闇雲に蹴るだけではない針に糸を通すような正確さで人体の弱点を突いてくる
幾多の修羅場をくぐり抜けてきた俺は痛みには強いという自負があった、しかし目の前の少女にあらゆる攻撃を防いできた鋼の肉体は通用しない
単純な力ならいくらでも勝る相手は過去にいただろう、だがそのハンデを補って余りあるテクニックをリアは有していたのだ
俺は生まれて初めて恐怖を感じていた
「うわぁぁ!」
それを振り払うかのように両腕を振り回す
しかしそんな物がリアに通じるわけもなかった
あっさり見切られボディブローを2発、顔面にジャブを3発、トドメにアッパー
ドガ!ドガ!
ズドド!
バガァ!
俺の口から血のついた歯が飛び出す
ふらふらと倒れそうになる俺にリアは飛び付いて太ももで首をガッチリとホールドした
「ばいばい」
リアはそのまま上体を大きくのけ反らせる
ドゴシャア!
リアのフランケンシュタイナーが俺の頭をかち割った
リアが俺の顔を覗き込む
倒れてる俺に追い打ちもしないのは余裕の表れか
観客の声も徐々に声援より困惑やどよめきの方が大きくなってきた
当然だ、膝をついた事もないコロシアム始まって以来最強と呼ばれた男が戦う術を持っているようには見えない少女の前に倒れ伏しているのだから
いつまでも無様な姿を晒してはいられない、俺は英雄なのだから…
俺は両腕に力を込めて立ち上がり、そのままリアに掴みかかる
「遅すぎ…」
しかし、リアはあっさりと懐に潜り込み肘打ちを正確に鳩尾へと放つ
「ぐぶっ」
下がった頭部をリアが右足で蹴り上げる
パギャァ!
そして、左足を軸に回転して右足で鳩尾にミドルキック
ズムッ!
「おぐっ…!げほっ!」
あまりの痛みに俺は血と胃酸を同時に吐き出した
「隙だらけ」
リアは一気に距離を詰め連続でキックを放つ
ズドドドドドドドドドド!
「がっ!…ごぐっ…べっ…」
ただ闇雲に蹴るだけではない針に糸を通すような正確さで人体の弱点を突いてくる
幾多の修羅場をくぐり抜けてきた俺は痛みには強いという自負があった、しかし目の前の少女にあらゆる攻撃を防いできた鋼の肉体は通用しない
単純な力ならいくらでも勝る相手は過去にいただろう、だがそのハンデを補って余りあるテクニックをリアは有していたのだ
俺は生まれて初めて恐怖を感じていた
「うわぁぁ!」
それを振り払うかのように両腕を振り回す
しかしそんな物がリアに通じるわけもなかった
あっさり見切られボディブローを2発、顔面にジャブを3発、トドメにアッパー
ドガ!ドガ!
ズドド!
バガァ!
俺の口から血のついた歯が飛び出す
ふらふらと倒れそうになる俺にリアは飛び付いて太ももで首をガッチリとホールドした
「ばいばい」
リアはそのまま上体を大きくのけ反らせる
ドゴシャア!
リアのフランケンシュタイナーが俺の頭をかち割った
頭にドロリとした不快な感触がある
そうか、頭から血を流しているんだ俺は…
リアは俺から背を向けヒールを鳴らしながら歩き始めた、勝負が着いたから帰ろうとしているという所か
観客は誰一人声を発することも出来ない、目の前で起きた出来事にまだどこか理解が追い付いていない
しかしその瞳は雄弁だ
絶対王者を一方的なまでに打ちのめしてみせたリアには羨望と少しの恐怖、美しい少女に手も足も出ずに叩きのめされた俺には失望と少しの哀れみ
俺が…英雄じゃなくなる?
「…まっ…て…!」
気づけば俺は立ち上がっていた
身体はボロボロだ、立っているのがやっとなほど
それでも俺は負けるという恐怖から少しでもいい、逃れたかった
「俺は…まだ、戦える…!」
その言葉を聞いてリアが僅かに口角を上げたのを俺には知る術がなかった
「じゃあ、本気出してあげるね?」
その瞬間、リアが俺の視界から消えた
「…!?どこに…」
バキィ!
リアのハイキックが後頭部を捕らえる
前のめりに倒れそうになる所に左アッパー
ドガァ!
しなやかな鞭が続いて脇腹を捕らえる
ドボッ!
そしてリアは両手で下がった俺の頭を抑えると何度も膝蹴りを見舞う
ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!…
圧倒的な力の暴風雨の前に俺は声を上げる事すら出来なかった
ぷるん!とその肢体を弾ませながら躍動する少女の攻撃は先ほどまでより遥かに鋭く激しかった
本気でなかったというのも事実と思う他ないだろう
それでも俺は倒れるわけにはいかなかった
全身の骨が砕けても、無駄なことをと嘲られても
英雄でなくなれば俺は…化け物でしかないのだから
パァァン!
リアの爪先が俺のストマックを揺らす
「ごぼっ…」
そこでリアはピタリと攻撃を止めた
「おじさん、弱いね」
弱いなんて生まれて初めて言われた
「俺は…弱いか…」
化け物のような強さだと恐れられ続けてきた
周りの期待を常に背負わされた
こんな強さなどなければと思うと同時に戦いを求め続ける己の性が何より嫌いだった
「うん、私より全然弱い」
そう言うとリアは目にも止まらぬ速さで俺の膝裏と鳩尾にキックを放つ
ズドド!
左足を振り上げ顎をかち上げ、無理やり上を向かせる
パガァァン!
「ごべぇ…!」
もはや何本目かもわからない歯が俺の口から飛び出る
「とどめ」
リアはまたしても俺を踏み台に高く高く跳び上がり今回はそのまま俺の顔面へと着地した
メキィ!
リアの体重も加わり勢いが増した状態で俺は地面叩きつけられた
ゴシャア!!
「がふっ…!」
俺は口から大量の血を吐き出した
リアの靴裏がその血で染まる
「…汚れちゃった」
リアはそう言うと俺の顔面でグリグリと靴に付着した血を拭った
「弱かったけど結構面白かったよ、おじさん」
もはや俺はまぶたを持ち上げる力も残っていない
俺は今、見るに耐えない姿をしているだろう
しかし対照的に心は晴れやかな物だった
自分より遥かに強い人間がいること
自分を弱いと言う人間がいること
それだけで俺は化け物ではないと言える気がした
どれだけ少女に負けたと罵られようと恐れや畏怖の感情だけで接せられ続けるよりは遥かにマシだと思うことが出来た
唯一惜しむらくは新たなコロシアムの覇者の誕生をこの目で見れないことだけだと考えた所で俺は完全に意識を手離した
そうか、頭から血を流しているんだ俺は…
リアは俺から背を向けヒールを鳴らしながら歩き始めた、勝負が着いたから帰ろうとしているという所か
観客は誰一人声を発することも出来ない、目の前で起きた出来事にまだどこか理解が追い付いていない
しかしその瞳は雄弁だ
絶対王者を一方的なまでに打ちのめしてみせたリアには羨望と少しの恐怖、美しい少女に手も足も出ずに叩きのめされた俺には失望と少しの哀れみ
俺が…英雄じゃなくなる?
「…まっ…て…!」
気づけば俺は立ち上がっていた
身体はボロボロだ、立っているのがやっとなほど
それでも俺は負けるという恐怖から少しでもいい、逃れたかった
「俺は…まだ、戦える…!」
その言葉を聞いてリアが僅かに口角を上げたのを俺には知る術がなかった
「じゃあ、本気出してあげるね?」
その瞬間、リアが俺の視界から消えた
「…!?どこに…」
バキィ!
リアのハイキックが後頭部を捕らえる
前のめりに倒れそうになる所に左アッパー
ドガァ!
しなやかな鞭が続いて脇腹を捕らえる
ドボッ!
そしてリアは両手で下がった俺の頭を抑えると何度も膝蹴りを見舞う
ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!…
圧倒的な力の暴風雨の前に俺は声を上げる事すら出来なかった
ぷるん!とその肢体を弾ませながら躍動する少女の攻撃は先ほどまでより遥かに鋭く激しかった
本気でなかったというのも事実と思う他ないだろう
それでも俺は倒れるわけにはいかなかった
全身の骨が砕けても、無駄なことをと嘲られても
英雄でなくなれば俺は…化け物でしかないのだから
パァァン!
リアの爪先が俺のストマックを揺らす
「ごぼっ…」
そこでリアはピタリと攻撃を止めた
「おじさん、弱いね」
弱いなんて生まれて初めて言われた
「俺は…弱いか…」
化け物のような強さだと恐れられ続けてきた
周りの期待を常に背負わされた
こんな強さなどなければと思うと同時に戦いを求め続ける己の性が何より嫌いだった
「うん、私より全然弱い」
そう言うとリアは目にも止まらぬ速さで俺の膝裏と鳩尾にキックを放つ
ズドド!
左足を振り上げ顎をかち上げ、無理やり上を向かせる
パガァァン!
「ごべぇ…!」
もはや何本目かもわからない歯が俺の口から飛び出る
「とどめ」
リアはまたしても俺を踏み台に高く高く跳び上がり今回はそのまま俺の顔面へと着地した
メキィ!
リアの体重も加わり勢いが増した状態で俺は地面叩きつけられた
ゴシャア!!
「がふっ…!」
俺は口から大量の血を吐き出した
リアの靴裏がその血で染まる
「…汚れちゃった」
リアはそう言うと俺の顔面でグリグリと靴に付着した血を拭った
「弱かったけど結構面白かったよ、おじさん」
もはや俺はまぶたを持ち上げる力も残っていない
俺は今、見るに耐えない姿をしているだろう
しかし対照的に心は晴れやかな物だった
自分より遥かに強い人間がいること
自分を弱いと言う人間がいること
それだけで俺は化け物ではないと言える気がした
どれだけ少女に負けたと罵られようと恐れや畏怖の感情だけで接せられ続けるよりは遥かにマシだと思うことが出来た
唯一惜しむらくは新たなコロシアムの覇者の誕生をこの目で見れないことだけだと考えた所で俺は完全に意識を手離した