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目的地がレーダーに映る範囲にあるならば、特に計画を立てなくても、そこへ行くことはできるでしょう。また、目的地の方角が(どうやって調べるかという問題はあるものの)分かっていれば、その方位へ向けて一直線に飛行し続ければ目的地の周辺に到達することができます。さらに、到着時間や燃料消費、退屈さなどを気にしなければ、低空を飛行し続けても問題ありません。
しかし、ジェット旅客機を飛ばすのにそれだけでは面白くないので、地図上のルート(水平経路)と上昇・巡航・降下(垂直経路)の計画を立てて、YSFLIGHTで利用可能な航法計器を使用してフライトを楽しむ方法を、できるだけシンプルな形で考えてみたいと思います。
水平経路
- 水平経路の計画では、出発地から目的地までのVOR間を結ぶルートを考えることが主な作業になります。そのためには、飛行するマップの空港やVOR間の配置・方角・距離を知っている必要があります。一部のアドオンでは詳細な航空図が添付されています。他のマップでも誰かが作成してくれたものが公開されているかもしれません。そうでなければ、Scenery Editor(テスト版と正式版どちらが新しいかは都度確認のこと)で地図データの中身を調べたり、Navigation Planner(第三者作成ツール。利用は自己責任で)を使用したり、後は飛びながら航路を”開拓”したりすることになります。マップによっては本物の航空図も参考になるかもしれません。
- 多くのVOR局を経由する場合、あらかじめ各局名とコースを順番に書き出しておくことで、フライト時の航法に関わる負担を減らすことができます。
- 目的地までの距離は、次に説明する垂直経路の計画に必要な情報になります。
垂直経路
- 垂直経路の計画では、先に水平経路の計画で得られた「目的地までの距離」を元に、「巡航高度」と「上昇/降下率(区間)」の(実現可能かつ現実的な)設定を行います。視覚的に言えば、下図のような”台形の形”を考えることになります。
- 先に言ってしまうと、標準的な「上昇/降下率」は機体性能や飛行管理の都合上、概ね決まっています。上昇・巡航・降下の各フェーズについては以降で説明します。
上昇距離
- 下図は、上昇時の飛行距離と到達高度の関係をグラフ化したものです(機体はアドオンのB737-500で、10,000フィート以上は250ノットを維持して上昇しています)。機種や燃料搭載量、飛ばし方などにもよりますが、ジェット旅客機なら離陸後30,000フィートに達するのに大体30~50マイル掛かる計算で見積もればよいかと思います。
- 上昇時は降下と違って、垂直経路を直線的に上昇し続けるというのは難しく、またあまり求められていないので、効率良く上昇することに専念すればよいかと思います。
巡航高度
- 航空機、特にジェット機は高い高度ほど速く飛ぶことができます(YSFLIGHTでもその特性が再現されています。そしてなにより高高度を飛行するのは気持ちが良いものです)。ただし、上昇/降下に必要な距離もその分増えるので、目的地までの距離に対して巡航高度を高く取りすぎてしまうと、(特に近距離フライトでは)巡航距離が短くなりすぎてしまいます。感覚的に、巡航区間は全区間の1/3は確保したいものです。
- 一方、巡航可能な高度の上限は、機体の性能に依存します(一般的な旅客機の最大巡航高度は40,000ft程度)。
降下開始地点(降下距離)
- 降下開始地点(Top of Descent(TOD, T/D))の計算とは、「目的地のどれくらい手前から降下を開始すべきか=降下に必要な距離」を求めることです。ここでは降下角一定で降りていくときの計算方法について考えてみます(YSFLIGHTでは基本的に風の影響などを考慮する必要はないので、純粋に計算通り飛べばうまくいくはずです)。
- 降下角が一定ならば、機体―目的地間の水平距離と高度差は比例関係になるので、一方に適当な係数を掛ければもう一方の値を求めることができます。航空機の降下角は約3°が一般的であり、そのときの計算は以下のようになります。
- 降下に必要な距離(NM)= 高度(ft)×3 ÷1000 = 高度(FL)×3 ÷10
高度 |
距離(NM) |
(ft) |
(FL) |
理論値 |
3掛け |
誤差 |
1,000 |
10 |
3.1 |
3 |
-0.1 |
2,000 |
20 |
6.3 |
6 |
-0.3 |
3,000 |
30 |
9.4 |
9 |
-0.4 |
5,000 |
50 |
15.7 |
15 |
-0.7 |
10,000 |
100 |
31.4 |
30 |
-1.4 |
15,000 |
150 |
47.1 |
45 |
-2.1 |
20,000 |
200 |
62.8 |
60 |
-2.8 |
25,000 |
250 |
78.5 |
75 |
-3.5 |
30,000 |
300 |
94.2 |
90 |
-4.2 |
35,000 |
350 |
109.9 |
105 |
-4.9 |
40,000 |
400 |
125.6 |
120 |
-5.6 |
- 高度 =(目的地との距離(NM)÷3 ×1000)(ft),(目的地との距離(NM)÷3 ×10)(FL)
距離(NM) |
高度 |
理論値(ft) |
3割り |
誤差(ft) |
(ft) |
(FL) |
3 |
955 |
1,000 |
10 |
+45 |
6 |
1,911 |
2,000 |
20 |
+89 |
9 |
2,866 |
3,000 |
30 |
+134 |
15 |
4,777 |
5,000 |
50 |
+223 |
30 |
9,553 |
10,000 |
100 |
+447 |
45 |
14,330 |
15,000 |
150 |
+670 |
60 |
19,106 |
20,000 |
200 |
+894 |
75 |
23,879 |
25,000 |
250 |
+1,121 |
90 |
28,659 |
30,000 |
300 |
+1,341 |
105 |
33,436 |
35,000 |
350 |
+1,564 |
120 |
38,212 |
40,000 |
400 |
+1,788 |
- 整数で乗除算するのは、操縦しながら暗算できるようにするためです。降下中、目的地との距離・高度差をもとに上記の計算を定期的に行い、機体が適切な降下パスから外れていないかをチェックして、必要に応じて降下率を調整します。
- キリの良い高度に対する距離(1,000ft/3NM、10,000ft/30NM、20,000ft/60NM、30,000ft/90NM)は覚えておくと、降下パスを感覚的に把握しやすくなります。また、高度をフライトレベル(FL)で考えれば、割ったり掛けたりする0の桁数を減らせます。
- 実際の降下開始地点は、計算で求めた距離よりも数マイルは余裕を持った方がよいと思います。
- 「高度3掛け・距離3割り」での実際の降下パスは、下図の通り、3°よりわずかに深く(約3.14°)なりますが、誤差の範囲でしょう。
- ちなみに降下角3°よりやや深めの5°で降下したときは、10,000フィートで約18.8マイル掛かります。これは降下角3°のときの6割程度の距離となります。
計画例
- 上昇・巡航・降下の各フェーズで必要な飛行距離について理解した上で、改めて垂直経路の図(垂直経路の飛行計画(例))を見てほしいのですが、「目的地までの距離(全区間)」が190マイルで「巡航高度」を30,000フィートに設定したとき、「上昇区間」は上昇距離の図(上昇時の飛行距離と到達高度(例))の通り40マイル、「巡航区間」は60マイルで全区間の約1/3(最低限巡航したい距離)、「降下区間」は降下角3°で90マイルになっています。このときの「降下開始地点」は全区間の半分を少し過ぎたところに位置しています。
- つまり、全区間の半分の距離から降下できる高さより低い高度を「巡航高度」に設定すれば、大きな間違いはないと思います(標準的な上昇/降下を行い、最大巡航高度未満を飛行するという前提で)。
降下距離を測る
- 飛行計画後の話になってしまいますが、計画通りに降下を行うには、目的地との距離をリアルタイムに知る必要があります。高高度からの降下では目視という訳にはいかないので、レーダーやDMEを利用することになります。
- レーダーは『3』キーを押すたびに視程範囲(レンジ)を切り替えられます。例えばレンジが「100 MILES」のときは、半径50マイル先(四隅はもう少し先)まで表示することができます。レーダーで50マイル先に表示された空港に着陸したい場合、その時点で約17,000フィート未満を飛んでいないと(降下角 3°のパス基準で)”高い”ということになります。
- レーダーで目的地との距離を測りながら高度を処理する方法は、無線標識局の設置されていない空港や、15,000フィートくらいまでの高度を気ままに飛んで着陸する場合に便利です。しかし、ある程度の距離まで近づいたら、目視によるアプローチ~着陸を行う必要があります。規定の高度でダウンウィンドレグにエントリーして、トラフィックパターンの型通りにアプローチするか、ストレートインやダイレクトベースでの進入なら、早め早めに降下しながら滑走路へ接近していきます。最終降下は(かなり低いと感じられますが)1,000フィートを切る高度から開始します。
- 低空での目視による降下判断には、HUDのピッチ角目盛りが参考になります。目視でのアプローチでも触れていますが、降下角3°で降りるなら、ピッチ角の目盛りが-3°のラインと滑走路の位置を比較して高いか低いかを判断できます。慣れてくればYSFLIGHTの低空での高度感覚を掴めるようになるでしょう。
最終降下開始前。滑走路端が3°の降下パスに重なるまで水平飛行する
- 空港にVOR/DMEが設置されていれば、DME計器により距離を確認することができます。ただし、YSFLIGHTではマップにもよりますが通常60~90マイル程度近づかないと受信できないので、30,000フィートを超える高度から降下するには、空港VORより1つ以上手前のVOR局のコース上で降下を開始しなければなりません。逆を言えば、それくらいの巡航高度は、複数のVOR局を経由しないと目的地までたどり着けないような距離をフライトするときに選択するものと言えます(計画例参照)。
- レーダーやDME以外に、NAV1, NAV2のSTATIONリストにも局までの距離が表示されるので、ある程度は参考になるでしょう。
最終更新:2016年03月19日 21:50