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二人だけのふわふわ時間(唯視点)

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二人だけのふわふわ時間



かっこ唯澪SS【ふわふわ革命

第2話:二人だけのふわふわ時間


「…ファンクラブ?」

私が首を傾げて見つめると、若干目を逸らし気味にりっちゃんが答える。

「そ、そう!なんでも一週間の間にファンが急増したみたいでさ。あー…、っと、澪ファンクラブに続いて設立したみたいだ、ぞ?」

目を逸らされたことにちょっぴり傷ついたのでりっちゃんの事を見つめながらケーキを食べてみる。
あの一件以来、目を逸らされることに対して敏感になっちゃっている私。
別に親しくない生徒くらいならそこまで気にしないけれど、仲の良い友達に目を逸らされたら結構ダメージは大きいのです。

「へぇー、そうなんだ」

まぐまぐ。
うん、相変わらずムギちゃんのケーキはおいしい。

「あのー、唯さん?そんなに見つめられると照れちゃうなぁー…なーんて」
「んー?」

まぐまぐ。

「えーっと……唯?」
「うん、なぁに?」

にっこり。
観念したりっちゃんが目を合わせてくれたので笑顔で返し、見つめること数秒。
けれどすぐに顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「ぅ、ぁ………ゃ、なんでも、ないっす…」

ありゃ、10秒持たなかったか。
りっちゃんならもう少し頑張ってくれると信じてたんだけどなぁ。
あずにゃんとムギちゃんにも同じように見つめたら2人共机に突っ伏して撃沈しちゃったんだよね。
ちなみにあずにゃんは5秒、ムギちゃんは20秒でした。

髪型を変えてからというもの、雰囲気が変わったらしい私。
変わったという自覚はあんまりないんだけど。
なんだか私が見つめると高確率で皆顔を赤くしちゃうみたい。
理由を聞いたら「なんか照れちゃう」とか「見てると堕ちそうになる」とか「目覚めちゃいけない自分に目覚めそう」とかいろいろ。
なんだかちょっと失礼だなぁと思いつつ、皆の反応が楽しいから学校ですれ違う生徒達をじっと見つめたりとかしてる。
別に見つめるくらい減るもんじゃないよね。色んな子が顔赤くしてる所を見るのって楽しいんだもん。

「ふふっ。りっちゃんかわいー」
「な…っ!あーもー!あたしの事はいいんだって!」
「ほらぁ、あんまり騒ぐとお茶こぼしちゃうよ?」
「…っ!と、とにかく!お前が誰彼構わずそうやって目で堕とそうとするからファンクラブが出来たんだよ!」



平沢唯の変。通称『ふわふわ革命』

なんとも言えないネーミングではあるけれど、私の髪型が変わってしまった事件をこう呼ぶ…らしい。
事情を知らない周りのクラスメイトや生徒達の間では色々と噂が飛び交っていたということを人伝てに聞いた。
イメチェンやら反抗期やらご乱心やら、その他諸々。
言いたい放題言ってくれるなぁと苦笑しつつも、髪型の変化については聞かれたら理由を答える程度で特に自分からあれこれいうこともなかった。

私としては距離を置かれていた軽音部の皆やクラスメイトの仲を取り戻せたからそれだけで満足していたんだけど。
前述の通り、見つめるだけで面白い反応を返してくれる子が結構いたからつい調子に乗って視線を送ったり笑いかけてたりしていた、そんな一週間。

その甲斐あってか私のファンクラブが出来ちゃったらしい。まる。

澪ちゃんのファンクラブが出来た時はそりゃあ澪ちゃんは可愛いから出来て当たり前だよねぇ、なんて他人事のように思っていた訳で。
それがまさか自分のファンクラブが出来ちゃうなんて思いもよらなくて。
実感がないというか、自分の身に起きたことなのにどこか客観視している部分もあったり。
まぁ、自分を慕ってくれる人がいるというのは悪い気はしないんだけど、特にこれといった感動は沸いてこなかった。

「まさか自分のファンクラブが出来るなんてねぇ。嬉しいやら恥ずかしいやらだよ」
「澪に続いて唯までとはな…。ま、なんとなく予想してたけどさ。会員数が澪のファンクラブに迫る勢いらしいし」
「え、そんなにいるの?でも、澪ちゃんの人気には敵わないよー」
「おま…、それ本気で言ってんのか…?」
「へ?」

りっちゃんが信じられないものを見る目で私を見ていた。
あれ、そんなに変なこといったっけ?と首をかしげていると、りっちゃんが音楽室のドアを指差す。

「…唯。ドア、開けてみろ」
「え?」

なんで?と聞き返そうと思ったけれどりっちゃんが早くしろ!と視線で訴えていたので大人しくドアの方へと向かう。

「開けたらいいの?」
「ああ。ゆっくり開けるんだぞ」

ギィィ…と音を立てながらゆっくりとドアを引く。
なんだかいつもより引きが重いなぁ、なんて考えながらドアを開けると、わらわらと数人の生徒がなだれ込んできた。

「わ…!」

突然の事にびっくりしながらも手前にいた子を倒れる前に抱きとめる。
抱きとめたのは偶然。というか自分も巻き込まれなくてよかった、と密かに安堵していたらなんだか感じる視線。

「あ…」
「ゆ、唯先輩…」
「…はぅっ」

あれ、なにこれ?
こっち見ながら呟いたり固まったりしてる子ばっかなんだけど、この子達は一体なんなんだろ。

「あのー、りっちゃーん?どういうことー?」

りっちゃんは苦笑しながらこっちに近づいて、倒れている他の子達を立たせていた。

「どういうこともなにも、この子達みーんな唯のファンクラブに入ってる子達だぞ」

だよな?とその子達に同意を求めると、コクコクと首を縦に振って頷く。
その言葉に改めてファンクラブの子達を見ると確かに澪ちゃんのファンクラブの人達と同じような視線を向けられているような気がした。
うん、照れるね。これは。
こんな、そんけーの眼差しというか、憧れの眼差しを向けられると妙にこそばゆい。
私でさえこう感じてるってことは恥ずかしがりやな澪ちゃんはもっと大変に違いない。
そう考えると澪ちゃんの気持ちがちょっぴり分かった気がした。

「おーい、唯。そろそろ解放してやろうぜー」
「え?」

りっちゃんに言われてファンクラブの子を抱きしめたままなのに気付いて解放してあげる。
けれどその子は真っ赤になってそのまま床にへたり込んでしまった。
そんなにきつく抱きしめたかな、と思いつつその子を介抱するためにそのまま保健室へと向かうのだった。

◆◆◆

「ふぃー…、ただいまー」

ファンクラブの子を保健室に連れてって、戻ろうと思ったら他のファンクラブの子に捕まって。
一緒に写メをとったり、お話をしていたら随分と時間がかかってしまった。
なんだか普段使わない神経を使ってドッと疲れが押し寄せてきた気がする。
芸能人とかテレビに出てる人はもっと大変なんだろうと考えると有名になるのも考えものだなぁと思う。

「あ…、唯」
「えっと…、あれ?澪ちゃんだけ?皆は?」

部室に戻ってくると澪ちゃんしかいなかった。
何かを誤魔化すように慌てて後ろを振り向く澪ちゃん。
目が潤んでいるように見えたのは気のせいかな。
ベースをいじってたから練習していたのは想像がつくけれど。

「なんか、私が来た時には皆ぐったりしてて。三人共、先に帰ったよ」

とのこと。
それにしても澪ちゃんだけ残っているということは待っててくれた…?
…なぁんて考えるのは自惚れなのかな。

「そっか。だったら澪ちゃんも一緒に帰ればよかったのに」
「そうしようかと思ったけど…来たばっかりだったし、練習せずに帰るのは嫌だったんだ。それに…」

澪ちゃんがちらりと私を見る。

「…それに?」

澪ちゃんの言葉を促すように視線を合わせると、顔を赤くしながらも先の言葉を紡いでいく。

「…っ!そ、それに、定期的に唯の状態を把握しておかないとなっ!テストがあるたびにギターのコード忘れられたら、困る、から…」
「あ、あはは…耳が痛いや。でも私の為にありがと、澪ちゃん」
「う…べ、別に、私が好きでやってるだけだから」

澪ちゃんの心遣いがすごく嬉しい。
優しいけど恥ずかしがり屋さんなところがまた可愛らしくて。
こっちまでふわふわした気持ちになっちゃうんだ。

「それでもありがとう、だよ。…そだ、復習も兼ねて二人で『ふわふわ時間』やろうよ!私と澪ちゃんのダブルボーカル付きでさっ」
「ええっ!?ふ、二人で?」
「うん。だって、澪ちゃんと一緒に歌ってる時が一番楽しいから」
「あ、ぅ…。その…そ、そうか…。……ん、よし。じゃあ唯のチューニングが終わったら合わせようか」

ちょっとだけ躊躇っていた澪ちゃんだったけどすぐに練習モードに切り替わる。
いつもの澪ちゃんとは違った一面。きりりとした顔がカッコいい。
程良い緊張感を纏った真面目な顔になると、弦を弾いてベースの調子を確かめる。
私もそれに続く形でギー太の準備をして調整を始めた。


ティータイムののんびりした時間は好き。演奏をしている時も勿論好き。
実はその中で演奏を始める少し手前の溜めの時間も密かに好きだったりする。
目配せをして、リズムをとって、呼吸を合わせて。
これからはじまるよ、っていう皆が同じスタートラインから出発するあの瞬間がたまらない。
まぁ、こんな事を言っていたら好きな瞬間なんてものはいっぱいあるんだけどね。

澪ちゃんと私だけの、二人だけの演奏。
ギターとベースの二つの音が室内を満たし、そこに私と澪ちゃんの声を乗せて歌を歌う。
楽器の音と二人の歌が混ざりあって一つになる。

うん、やっぱり澪ちゃんと一緒に歌うのは気持ちいい。



演奏し終わって見つめ合う。
高揚感もあってか息が若干上がり、顔は紅い。きっと私も同じだと思う。

「…うん。良い感じに合わせられたな」
「そうだね。澪ちゃんとうまく合わせられた感じがする。歌もよく声が通ってたし」

これで五人が揃ってたら言うことないね。と二人で笑い合う。
ふと気付くと時計は18時を回っていて私達は慌てて帰り支度を始めた。

「今日はハプニングさえなかったら普通に演奏出来たと思うんだけどね」
「そういえば私が来る前に何かあったのか?律達に聞こうとしたんだけど何も答えてくれなくてさ」

りっちゃん達、澪ちゃんに何も言わずに帰っちゃったのか。
そりゃあ不安がるよ。…ああ、だから私が帰ってきたとき泣いてたのか。澪ちゃんってば寂しがり屋さんだしね。

「んー、私も良く分かってないんだけど」

澪ちゃんが来るまでの出来事を掻い摘んで澪ちゃんに説明した。


「唯のファンクラブ、か…」
「私もさっきりっちゃんに聞いたんだけど、びっくりしたよ。まさか自分のファンクラブができるなんてさ、なんだか照れるね」

えへへ、と澪ちゃんに笑いかけるとなんだか複雑そうな顔。
どうしたの?と尋ねると別に、とそっけない返事と共に背を向けてベースをしまい始めた。
一体どうしたというんだろう。何か澪ちゃんの気に障ることでも言ったのだろうか。

「…唯はさ、ファンクラブが出来て嬉しいか?」
「へ?うーん…そうだねぇ、いきなりだったから驚いたよ。だけど、応援してくれてるのが伝わってくるし…嬉しいかな」
「そう、か」

澪ちゃんの声色が暗くなり、ベースを片付ける手が止まる。

「澪ちゃん?」
「…ごめん、なんでもないんだ」

背中を向けられているから澪ちゃんがどんな顔をしているのかは分からない。
けれどその後ろ姿は元気がないように見えて、私が何かしたのだろうかと不安になった。
グラウンドではまだ運動部が活動している音が聞こえている筈なのに。
私と澪ちゃんしかいない音楽室はやけに静かで。
なんだか澪ちゃんが遠く感じて、思わず手が伸びた。

「…っ!ぁ…ゆ、唯…」

おぶさるみたいに腕を首に回して後ろから抱きつく。
初めてこの髪型で学校に来て、澪ちゃんと二人きりになった時もこんなことしたっけ。

「なんでもないことないよ。澪ちゃんが元気ないと私も心配だもん」
「あ、ぅ……べ、別にたいしたことじゃない、から」
「それでも、だよ。澪ちゃんのお話、ききたいな」
「うぅ…、唯のばか…」

聞こえてきたのは澪ちゃんの涙声。
こんな澪ちゃんが見れるのは軽音部の特権。ファンクラブの子達だって直に見ることなんてできない。

それが、引き鉄。
スイッチがカチリと切り替わって。

そうなるともう止まらない。
澪ちゃんの耳元に顔を寄せ、首に回していた手を顔にそえてそっと囁く。

「ほら、澪ちゃん。こっち、向いて欲しいな?」
「…――っ!!」

びくんと大きく反応した後、力が抜けたのかくたりと寄りかかってくる澪ちゃんを優しく抱きしめる。
なんか今日はよく人が寄りかかってくるなぁ。
それが澪ちゃんだったり軽音部の皆とかならいつでも大歓迎だけど。

「おっと…、澪ちゃん大丈夫?」
「うぅ…誰の所為だと思ってるんだ…」

上から覗き込むようにして尋ねると上目遣いで涙目の澪ちゃんが睨んでいた。
というか多分睨んでいる、と思うんだけど。涙目のせいか全然怖くもなんともないわけで。
むしろ、ふるふる震えて可愛いなぁとか思っちゃったり。
りっちゃんが澪ちゃんをからかいたくなる気持ちが良く分かる。

だって、澪ちゃん可愛いんだもん。
見た目はもちろんだけど中身というか、反応がすごく可愛い。

「ほらぁ、白状しちゃったほうが楽だよ?一体澪ちゃんは何を悩んでるのかな?」
「だ、だから…別に何も…」
「ホントかなぁ?その割には澪ちゃんの眉間がきゅーってなってるよ」
「な…っ!」

後ろから抱き締めてるから澪ちゃんの顔を直で見られないけれど、外が薄暗くなっているお陰で窓が鏡の代わりになっていて私の位置からでも澪ちゃんの表情が確認できた。
その顔は泣きそうで、とても苦しそう。
険しくなっている澪ちゃんの眉間を指でほぐすように優しく撫でる。

「澪ちゃんの可愛い顔が台無しになっちゃう」
「…ぅ」

マッサージするように何度か撫でるとそれが気持ちいいのか、強張っていた眉間はすぐにほぐれた。
けれど。

「……っ」

我に返ったらしい澪ちゃんはすぐに俯いて顔を隠してしまった。

「澪ちゃん?」
「……」

ぷい。

「澪ちゃーん」
「……」

ぷい。

「みーおちゃん」
「……」

ぷい。


む。今日の澪ちゃんはなんだか強情さんだなぁ。
顔を背けて目を合わせないようにしてるし、余程言いたくないことでもあるのかな。

でも、逃がさないよ。

「嘘付いたら針千本飲まなきゃ駄目なんだよ?ちくちく痛い針を千本も飲まなきゃいけないんだから」
「…っ!?いやっ!痛いのはいやだっ!!」

澪ちゃんの苦手な話題を振れば幾らでも崩せるんだから。

「だから嘘は付いちゃいけないんだよ?」
「やだぁっ!いたいのやだぁ…!」
「大丈夫だよ。嘘を付かなきゃ痛い事なんかなんにもないから。だから、安心して。ね?」
「ほ、ほんと…?」
「うん。ほんとだよ」

ちっちゃい子をあやすみたいに優しくなでなでしてあげると怖がっていた澪ちゃんはようやく大人しくなった。
それにしても、痛い話とか怪我の話とかホントに苦手なんだね。予想以上に暴れるからちょっとだけびっくりしたよ。

「だから、私に話してほしいな。どうして澪ちゃんが苦しそうな顔してるのか、教えて?」
「……ぅう。だ、だれにも言わない…?」
「うん、もちろん。私と澪ちゃんだけのヒミツだよ」

こんな可愛い澪ちゃんを他の子に教えるわけが無い。
しばらくの間、小さく唸ったりもごもごしたりしていたけど決心がついたのか、小さく深呼吸をして話し始めた。

「…ゆ、唯がなんだか遠くに行っちゃったような…私、達から離れていくような…そんな気がしたんだ」
「大丈夫、私は遠くになんて行かないよ」
「…そ、それに」
「それに?」
「今の唯を他の子に知られるのが嫌だった、から」
「え?」

えっと、つまりそれは。
どういう、こと?

私は和ちゃんみたいに物分かりいいわけじゃない。
もっと分かりやすく言ってくれないと、澪ちゃんの言いたいことがうまく飲み込めない。

「唯のファンが増えて軽音部の人気が上がるのは良い事だって分かってる。けど、嫌なんだ」
「…えっと」

ふと私の腕に僅かに感じる重み。
視線を下ろすと澪ちゃんが服の裾を控え目に掴んでいた。

私より大きくてぷにぷにしてる澪ちゃんの手。
それが弱々しげに、けれど固く握られていて。
そんな澪ちゃんの行動に胸がきゅうと締め付けられた。

―…どうしよう、澪ちゃんがすごくかわいい。

「…ぅわっ!ゆっ、唯!?」

あまりの可愛さに思わず澪ちゃんを抱きしめて頬ずり。
いつもあずにゃんにしているようにすりすりとお互いの頬をくっつけた。

「つまり、澪ちゃんはさ。さみしかったんだよね?」
「…っ!」
「“あれ”から1週間、私が他の子達と仲良く…というか皆の反応が楽しくて見つめたり抱きついたりして色々遊んでたもんね。そしたらファンクラブができて、私もびっくりしたちゃったけど」
「唯は優しいから、さ…。休み時間とか放課後なんかにファンの子達がやってきたら相手をすると思うんだ。そしたら皆で一緒にいる時間が減って。そのまま唯が離れていっちゃうんじゃないかと思ったら、不安になって」
「もう、澪ちゃんは大げさだなぁ」

そして可愛いなぁ。
それはもう、顔の筋肉が緩んでほっぺたのにやにやが止まらないほど。

「…ありがと、澪ちゃん。とっても嬉しい」
「ぁう…」
「だから、約束するね」
「え?何を…」
「“こういうこと”はファンの子とかにはしないから」
「こういうこと?」
「それはね」

そう言って。
私はくっつけている頬を更に澪ちゃんへと近付け―

「……え?」
「こういう“スキンシップ”のことだよ」

ちょん、と鼻同士がくっつくくらいに顔を寄せる。
ようやく目が合って、澪ちゃんの瞳に私が映っているのが見えた。
潤んだ瞳は黒真珠みたいでとても綺麗。

「ゆ、ゆい…」
「だって、澪ちゃんや軽音部のみんなは特別だもん」

こんなスキンシップはほんとに親しい、仲の良い人にしかしない。
あ、端折って言わなかったけど妹の憂や和ちゃんももちろん特別。

「~~~っ!」

あ、澪ちゃんが真っ赤になって照れてる。ほんと可愛いなぁ。
さっきから私ってばキュンキュンしっぱなしだよ。

澪ちゃんがこんな風になってるのって私の言葉に反応してくれてるから…だよね?
顔を真っ赤にさせてるのも、照れたり恥ずかしがっているのも、全部。
“私が”そうさせてるんだな、って思ったらなんだかすごくにやにやしちゃった。
だって、私が澪ちゃんを独り占めしてるみたいじゃない?

「ふふ、真っ赤になってる澪ちゃんも可愛い。でもあんまりそういう顔、他の子に見せちゃダメだよ?皆が澪ちゃんにキュンキュンして大変なことになっちゃうからね」
「…な、なんで唯がそんな事言うんだ?」
「んー、それはね?」

少し考えた後、密着させた顔を離さずに澪ちゃんの耳元でそっと囁く。


―澪ちゃんと同じ理由、かな?


「えっ…?それって、どういう」
「よしっ。外も暗くなっちゃったし、帰ろっか?」

澪ちゃんの返事には答えずに今までくっつけていた身体を離して、ギー太を背負う。

「ちょ、ちょっと、唯――!」
「ほら、そろそろ先生が見回りに来る時間だし。見つかったら怒られちゃうよ」

澪ちゃんの問いかけを遮って澪ちゃんの手をとる。
あったかくて私よりもすこし大きな手が弱弱しく握り返してきた。

「…っ。ああ、そうだな…」

悲しそうな顔をさせてごめんね、澪ちゃん。
なんでこんな事を言ったのか、私もよく分かってないんだ。

「明日はちゃんと皆で練習できるといいね」
「うん…」
「もし、明日もこんな感じだったらさ」
「…?」

澪ちゃんの方に寄りかかるように近付いて、そっと耳打ち。

「また“二人”で秘密の練習、しよ?」
「……っ!」

わぁ、顔が真っ赤だー。
うん。やっぱり澪ちゃんはかわいいなぁ。
でも、ここで終わらせない。

「ね、どうかな?」
「あぅ、ぅ…」

うんうん。
テンパッてるねぇ。恥ずかしがってるねぇ。
そんな澪ちゃんにキュンキュンですよ。にやにやですよ。

「私と練習、したくない?」
「ぅぅ…。ゆ、唯と練習…したい、です…」
「はい。よくできました」

澪ちゃんの答えに大満足の私なのでした。



それから。
時々、2人だけで練習するようになったのは私と澪ちゃんだけの秘密。

第01話「魅惑の髪形」(唯視点)/(澪視点
第02話「二人だけのふわふわ時間」(澪視点

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