女神ヘラの嫉妬によって狂わされ自身の子供と
イピクレスの二人の子供を火中に投じ、
これを以て自らに追放の判決を下して
デルポイに赴き神託を乞うた時、神殿の巫女がそう呼んだという。
それまではアルケイデスと呼ばれていたとか。
- 赤子の頃、ヘラがヘラクレスを殺そうと臥床に2匹の蛇を送ったが、ヘラクレスはこれを両手で絞め殺したという。
また一説に、アルクメネの本来の夫
アムピトリュオンが、ヘラクレスと共に生まれた
イピクレスと
どちらが自分の子供であるかを確かめるために、自ら蛇を臥床に投げ込んだという。
- ヘラクレスはアムピトリュオンから戦車の乗り方を、アウトリュコスから相撲(レスリング)を、
命じられた仕事のこと。これをすべてこなせば不死となる、という神託内容だった由。
一つ目は
ネメアの獅子退治。この獅子は
テュポンの子で不死だったため、ヘラクレスは首を絞めて殺した。
二つ目はレルネの
ヒュドラ(水蛇)退治。これは御者の
イオラオスの協力を得て退治した。
(しかし御者の協力を得たため、功業に含むべきでないとエウリュステウスに言われたとか)
三つ目はケリュネイアの鹿を生きながらミュケナイへ運ぶこと。この鹿は
アルテミスに捧げられる黄金の角を持った鹿だとか。
四つ目はエリュマントスの猪を生きながら持ってくること。
五つ目はアウゲイアスの家畜の糞を一日の内に一人で運び出す事。
六つ目はステュムパロスの湖に集まる鳥を追い払う事。これは、
ヘパイストスから与えられた青銅のガラガラを用いて成功させた。
七つ目は
クレタ島の牡牛を連れてくること。
この牡牛は、
エウロペを渡海させた牛であるとも、また
ミノスが
ポセイドンに捧げるための牛であるとも言われる。
八つ目はトラキア人
ディオメデスの牝馬をミュケナイに運ぶこと。この馬は人食い馬だとか。
九つ目は、アマゾン族の
ヒッポリュテが持っている
アレスの帯を持ってくること。
当初は交渉によって譲られる事になったが、ヘラによって戦いとなり、ヘラクレスはヒッポリュテをはじめ
アマゾン族と戦いこれを殺している。
また、このアマゾン族との戦いの帰りに
トロイアに寄港、海の怪物から
ラオメドンの娘
ヘシオネを救うも、
約束された報酬がもらえなかったため戦いを起こすぞと宣言、後に実行している(『イリアス』などにも言及がある)
第十の仕事として、
ゲリュオネスの牛をエリュテイアから運んでくる事。
この牛は
エキドナと
テュポンの子である双頭の犬
オルトスに守られていたが、
ヘラクレスはこの犬を飼い主の
エウリュティオンともども殺した。
第十一の仕事として、
ヘスペリスの手にある黄金の林檎を持ってくること。この林檎は
やはり
テュポンと
エキドナの子である不死の百頭竜によって守られていた。
ヘラクレスはこれを、自身が蒼穹を支えている間に代わりに
アトラスに取りに行かせた。
第十二の仕事として、地獄から
ケルベロスを持ってくること。
- ヘラクレスはまた、ガイアとウラノスの子である巨人(ギガース)たちをオリュンポスの神々が
退治する際、協力している。
ぎがーすたちは神々によっては滅ぼされ得ないが、人間が味方になれば退治されるという予言があり、
ゼウスが
アテナ通じてヘラクレスを味方につけ、ヘラクレスの放つ矢によって
ギガースたちは滅ぼされたと云々。
ダイダロスはこのことに感謝してピーサにヘラクレスの像を建てたとか。
- エウエノス河を渡る際、妻のデイアネイラが川を渡れないで困っていた際にケンタウロスのネッソスが
助力を申し出、妻を託したがネッソスはデイアネイラに乱暴しようとしたので、ヘラクレスに誅された。
しかしこの犀、ネッソスはデイアネイラに、もしヘラクレスに効く媚薬が欲しいなら
ネッソスが地上に落とした精液と鏃の傷から流れた血を混ぜ合わせよと言い残し、デイアネイラはこれを持ち帰る。
この血は
ヒュドラの毒であり、後にデイアネイラがこれをヘラクレスの下着に塗ると
その皮膚に張り付いて腐食しはじめ、これが原因でヘラクレスは人間としては死ぬ事になる。
この事実を知ったデイアネイラは自ら縊れたと云々。
またヘラクレスが火葬されると、ヘラとヘラクレスは仲直りし、ヘラクレスは神となったという。
- ヘラクレスが十二功業のうちの十一番目を遂行するための移動中、アジアの港テルミュドライに立ち寄り、
そこで牛追いの車を引く牛のうち片方を犠牲にした。牛追いは自身の力ではどうすることもできなかったため
山の上に立ってヘラクレスを呪った。故に今でもヘラクレスに犠牲を捧げる際は呪いとともにこれを行うのだ、
という起源譚がアポロドーロス『ギリシア神話』にある。
現実のヘラクレス祭祀の際に、何かそのような習慣があったものか。
- メガラで行われていたポルトスと呼ばれる喜劇に、「ご馳走にありつきそこなったヘラクレス」といった、ヘラクレスが下品な所作をして観客を笑わせるものが盛んに行われていたとか。
- ヘロドトスは、ヘラクレスという名前がもともとはエジプトに由来しているという見解を述べており、
その証拠の一つとして、ヘラクレスの系譜が遠くエジプトの名祖
アイギュプトスや
ダナオスからの
血統をひいているからであるとしている。
ちなみに、ヘラクレスの親
アルクメネは
ペルセウスの孫にあたり、
このペルセウスがアイギュプトスとダナオスの系譜をひいているのだとか。
- またヘロドトス『歴史』巻四に、スキタイ地方には岩に記された「ヘラクレスの足跡」なるものがあり、
その長さは2ペキュス(90センチ)ほどもあるという。
- マラトン平野の住民たちは、伝承の上で、ヘラクレスを最初に神格として信仰したのは自分たちである、
と主張しているという話がパウサニアス『ギリシア案内記』第1巻第15章にある。
実際、マラトン平野南端のヴァラリアという地から、ヘラクレスへの奉納銘の刻まれた前五世紀半ばの
彫像台座および彫像断片が発掘されているほか、第二次大戦以前の発掘では
前六世紀末の古い法律の条文と、前五世紀初めのヘラクレス祭競技運営規定を表と裏にそれぞれ刻んだ
石柱が発見されており、このあたりの地域にヘラクレスの聖域が所在したと今日見なされているという。
参考文献
『ギリシア神話』アポロドーロス
『イリアス(上)』ホメロス
『歴史(上)』ヘロドトス
『歴史(中)』ヘロドトス
『ギリシア案内記(上)』パウサニアス