スロトレで「いつも燃えてる」体づくり「成功への道」 2010年08月18日

 「健康運動生活」を目指すなら、避けて通れないのが筋トレだ。運動系の雑誌などを見れば、「筋トレで基礎代謝を上げてダイエット」といった特集は定期的に組まれているし、参考書も数多くある。

 しかし、そんな筋トレも、「3日坊主」では仕方ない。

 そこで、初心者でもできる効果的な筋トレの方法、筋トレを継続するポイントなどを、「スロートレーニング」提唱者として知られる近畿大学の谷本道哉講師に訊いた。また、後日掲載予定の後編では、特に長続きさせるコツについて聞く予定だ。

文/松田尚之
編集/漆原次郎、連結社
写真/佐藤類

「脂肪を燃焼させる」筋トレとは!?

 「筋トレ」という言葉は、どこか苦行を連想させないだろうか。少なくとも私は長年そんな印象をぬぐえずにいた。原点は学生時代の経験にある。

 陸上部に所属して人並み以上に積極的に体を動かしていたのだが、筋トレだけは最後まで好きになれずじまいだった。雨で屋外練習ができなくなり、「今日は体育館でみっちり筋トレやるぞ」と聞かされた日の憂鬱さといったら……。

 先輩にドヤされながら行う腹筋、腕立て伏せ、スクワットは、まるで罰ゲームのようにしんどいばかりだった記憶がある。中には嬉々として何百回とメニューを繰り返すチームメートもいたが、「苦しいだけのはずの筋トレが楽しいって、こいつ一種のマゾなのでは」と思っていたものだ。

 ところが今その筋トレが、いわゆるアスリートだけでなく、一般の人たちの間でひそかに人気になっているらしい。背景には、生活習慣病予防という「筋トレによる健康づくり」のコンセプトがあるという。どれどれと書店に立ち寄ってみると、あるわあるわ、筋トレ本の花盛り。いくつかを手に取ってみたが、いずれもハードで汗臭いマッチョな筋トレイメージがすっかり払拭されている。美容、ダイエットに関心がある女性向けの書籍も目立つ。

 いったいいつの間にこんなブーム起きていたのか。それでも年に1回ぐらい突然思い出したかのように腹筋運動などやってみては、メタボ腹がまったくへこむ気配がない現実にあっさり心を折られ挫折してきた私は、半信半疑で取材をスタートさせることにした。


エネルギーを代謝しやすい体をつくる

 先生役を引き受けていただいたのは、ひとつひとつの動きをゆっくり行う筋トレ、いわゆる「スロートレーニング」で知られる、近畿大学の谷本道哉講師。通称「ストロレ理論」とも呼ばれるセオリーやメソッドの特徴はのちほどゆっくり伺うとして、はじめに根本的な疑問をぶつけてみた。

 そもそも筋トレって、アスリートのためのトレーニングなんじゃないんですか? 筋肉をつけると「病気を防ぎ健康になる」というのは、どういう理由ですか?

 「筋トレのメリットを簡単に言いましょう。まずひとつは、筋肉がついて基礎代謝の高い、つまり普段から良くエネルギーを消費する体になること。もうひとつは、体力がついて普段から活動的に動けるようになること。これが結果として生活習慣病の予防にもつながるわけです」(谷本道哉講師)

 谷本講師の話のポイントが、「基礎代謝」という言葉。

 人体は、実は「ただ生きているだけ」でも常に活動している。たとえば私たちが何も意識しなくても脳や心臓はきちんと働き続け、生命が維持されている。言い換えれば、体内では、食物として取り入れた栄養をエネルギーに変える働きが、全身の細胞レベルで24時間休みなく行われている。これを「基礎代謝」と呼ぶ。

 この機能が衰え、生命活動の基本的サイクルが衰えると、健康な体のメカニズムが崩れ、結果として血中糖度が上がって糖尿病になったり、血中脂質が増えて高脂血症になったりする。生活習慣病が引き起こされるわけだ。


筋トレで基礎代謝が増える「ワケ」

 筋トレすると成長ホルモンが分泌され、体脂肪が燃焼されて、筋肉量が増える。いわば体の成分が静かに変化していく。体脂肪はほとんど基礎代謝を行わないのに対し、筋肉は増えれば増えた分だけ活発に基礎代謝を行う。

 だからこそ筋トレによって筋肉を増やすのが、身体における健康なエネルギー循環を生み出す上で「とても大きな役割を果たす」と、谷本講師は強調する。

「筋トレを行うと基礎代謝が上がりますが、その増加量は筋肉が増えた分だけでは説明がつきません。臓器などを含む全身のエネルギー代謝が活発になる効果もあると考えられています」(谷本道哉講師)

さらに谷本講師は、もうひとつ別の切り口から、筋トレの大切さを説明する。

 「高齢者など、もともと体力があまりない人の場合、生活での活動量がどうしても落ちがちです。筋トレをしていると体を動かすことがおっくうでないので、自然と外を出歩いたり、家事ひとつでも面倒がらずに行えるようになります。日々の小さな運動の積み重ねが、健康な体を維持する上で、とても大きな意味を持つわけです。筋トレは、こうした好循環も生み出していきます」(谷本道哉講師)


有酸素運動でなくても体脂肪燃焼!

 一般に、体脂肪を燃焼させるには、ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動が有効といわれる。もちろんこれは間違いではない。

 ただし、脂肪燃焼は有酸素運動だけの専売特許ではない。普段からのエネルギー消費でも脂肪はしっかり使われている。筋トレで基礎代謝を上げることでも脂肪の燃焼量は増えるのだ。筋トレによる「普段から脂肪を燃焼できる体づくり」に注目してはどうか、というわけだ。

 谷本講師によると、たとえば「週3回ほどの本格的な全身の筋トレ」を3か月ほど実施すると、筋肉がついて基礎代謝が100キロカロリー程度増加することが、いくつかの研究で示されているという。これは毎日30分ほど大きく手を振ってウォーキングするのと同じくらいのエネルギー消費に相当する。

 私はこの話を聞き、「えっ、筋トレってそんなに効果的なの!?」と思ってしまった。だって毎日さぼらず30分歩くのって、けっこう大変ですよ。ちなみに谷本講師によると、時間があるときは、筋トレ(無酸素運動)の後でウォーキングなどの有酸素運動を組み合わせると、体脂肪燃焼効果がぐんと高まるのだそうだ


筋トレの弱点をカバーする「スロトレ」

 と、ここまで筋トレに関する理論的なお勉強をしたところで、次の質問。谷本講師が提唱する「スロトレ」って、いったい何なんですか? 普通の筋トレとは、どこが違うんですか? 何度か筋トレに挑戦しては失敗してきた私でも長続きさせられそうな方法なんでしょうか?

 「筋肉を鍛えるためには普通、何らかの方法で重い負荷を掛けます。ただし、これにはリスクもあります。いちばん心配なのは、筋肉や関節のケガ。また筋トレ中、力んだ状態のときに一時的に血圧が上がるので、高血圧の人にも強くは勧めにくい。スロトレは、こうした一般的な筋トレの弱点をカバーするメソッドなのです」(谷本道哉講師)

 スロトレの最大の特徴は、関節や体勢を固定せず、ひとつひとつの動きを「ゆっくり行う」エクササイズであることだ。たとえば、写真のスクワットを見てみよう。
スクワット。まずかがんだ状態で1秒間静止。その後ゆっくり3秒掛けて立ち上がる。また3秒掛けてしゃがむ。これを繰り返す。きつい場合は、椅子に大きく体重を乗せる。楽な場合は椅子を使わず、より深くしゃがんでレベルアップを!

通常のスクワットでは、ひざを伸ばした状態から深く屈曲する動作を繰り返す。しかしスロトレでは、ひざを伸ばしきったり曲げきったりしない。それが写真からもわかるはずだ。


スロトレが持つ真の効果とは!?

 この方法は、筋肉が休みなく一定の力を発揮し続ける効果がある。力を入れ続けて動作をするため、筋肉内の圧力が高まる。血管が持続的に閉塞されることになるので、筋肉内の血流は制限される。

 筋肉内の酸素環境や代謝環境が極めて苛酷になると、筋を再生する細胞の分裂を誘発したり、筋肥大を促す成長ホルモン分泌を誘発したりと、筋肥大にプラスになる多くことが起きる。

 「こういった一連の筋肉環境の劇的な変化が、筋肥大を促す強いシグナルになっていると考えられます」と谷本講師が言うように、重い負荷を掛けなくても筋肉を増やすことができるのだ。

 ケガの心配がなく、メタボ体型の人、高血圧の人でもすぐに始められる筋トレ。谷本講師のそんな説明を聞くうち、私の心の中の「筋トレアレルギー」は徐々に払拭されていった。

 個人的な感想だが、「スロトレ」というネーミングもいい。とっつきやすいというか、新たに始めるハードルが、低く設定されている気がする。そこでさっそく、教えてもらったばかりのスロトレ式スクワットにトライしてみることにした。


女性も、高齢者も、誰でもできる

 ……あれ? これ、端で見てるより、かなりキツイですね?

 「そうでしょう? 誤解があるといけないので申し上げておきますと、ゆっくり動く筋トレって、実はけっこう辛いんです。でも、楽をして簡単にできる健康づくりって、本当はどこにもないんですよ。その代わり、というわけではないんですが、スロトレは、どんな人でも、やればやっただけ筋肥大効果がある。筋トレには、若くて元気なスポーツマンがやるもの、という印象があるかもしれません。でも、女性も高齢者も、誰でも始められる良さがある。長続きさせるコツもありますから、ぜひ継続して取り組んでみてください」(谷本道哉講師)

 なるほど。やはりトレーニングに「楽な近道」はないのですね……。

 気になる谷本流「長続きの秘訣」については、後日公開の後編でゆっくり紹介していくことにしよう。








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最終更新:2011年12月27日 09:30
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