概要

賢者の憂鬱とは、蜉蝣時代を描いた文献のひとつ。
アルファ917年に作家ディマラによって執筆された、全体的に明るい文体でどこかコミカルに書かれているのが特徴。

蜉蝣時代とは群雄割拠の戦乱の時代である。
当然ながら、最前線で槍を振るう勇将や、敵を手玉に取る智将にばかり焦点が行く物語である。
しかし、そんな彼らが戦場に立つためには、内政官たちが国を繁栄させ、富や食料を蓄えなければならない。
全ての根底にある重要な役割を担いながら、その功績が形として現れることの少ない内政官は、いつの時代も「成功して当たり前、失敗したら罵声の嵐」というつらい立場に立たされていた。

そんな彼らの功績と苦悩から、私生活における笑い話までをまとめたのが「賢者の憂鬱」であった。
登場人物たちは、それまでの戦乱を生き抜く固い人物像から脱却し、彼らも一人の人間だったことを思わせるどこか明るい作風で描かれ、人気を博した。


主な収録エピソード

ロードレア国の内政官として、今でこそ最も高い知名度を残しているが、アルディアが書き残した蜉蝣戦記の原本では、それまでほとんど名前が出ていなかったのに、突如としてロードレア国主の後継者として現れる。
後の研究によって、彼こそがロードレア国の内政を支え、富国強兵に努め、戦場への補給を絶やさず、前線で戦うラディアアリガルたちを影から支えていた存在であったことがわかり、自然な形での継承ということが判明するが、全てを書き残したと自負するアルディアをもってしても、やはり内政官の仕事は視野に入っていなかったのだろうか。


彼の特徴はなんといっても「法」にある。
新興国のベルザフィリス国において、刑法から税率まで、あらゆる基準をゼロから作り上げた。
これは、ルーディアに仕官してから用意したものではなく、彼が若いころから作り続けていた草案であり、まさに人生を費やした一大事業であったが、もしもルドリアザグルスが暴君ではなければ、アル国で適応され、その後の流れは全く違ったものになっていたのかもしれない。
一人の優れた将軍がいても、簡単に歴史は変わらないが、一人の優れた内政官は、歴史を変えてしまったかもしれないという可能性を秘めている。


彼が作り上げた「ノイア法令」は確かに完成度が高かったが、ベルザフィリス国が戦乱を統一すると、グレシアの作り上げた法が適応されたため、この地においてノイア法令が採用されることはなかった。
しかし、その書物は他国へ流れ、幾つかの国で採用されたため、どちらの法が優秀か、後世の法曹たちが徹夜で論争を繰り返すこととなる。
そして、それらの国はノイア法令をそのまま採用するのではなく、自分たちの都合のいい様に修正を加えていったため、現在では彼が作ったわけではないのに、民衆の恨みを買っている法が存在するという、本人は予想もしなかった流れ弾を受けている。


ディアルが残したシーザルス国を治めたが、物語では簒奪した悪者として描かれることも多い苦労人。
彼は治水に特に力を注ぎ、安定した収穫を得るため、長年に渡って工事を推し進めた。
労働力とされた民衆からは何度か怒りの声も届いたが、「たとえ今の民衆に恨まれても、百年の国家をつくるために必要な事業だ」と、その信念を曲げなかった。
シーザルス国は、蜉蝣時代が終わった後も繁栄を続けたが、その礎を作ったのは、ディアルではなくオルリアだったと言っても過言ではない。


彼女の最大の特徴は、複雑な物資の流れを、脳内で立体的な地図を作り上げることですべて把握して、現時点でどの土地に何の物資が必要かを的確に答えることができた所にある。
また、あらかじめ城に隠し地下通路を作ったり、兵站ルートも通常の街道とは別の独自ルートを作ることで、賊による物資の強奪を回避したり、時には敵に包囲されている城に秘密裏に食料を送り込んだりした。
私生活においては、同時代の人間が「特殊な趣味を持っていた」というが、それが具体的に何なのかはついに記録は発見されなかった。


近年になって内政面が再評価された彼だが、実はこの時、商業国として急激に力を付けていたアルビス国を相手に、船を使って貿易を行っていたという資料が発見された。
当時ロッド国で豊富に取れた上質な絹が、この国ではまだそれほどの価値を見出せなかったが、アルビス国に持っていくと莫大な財になるということにいち早く気付き、リヴァイルシアはこのルートから莫大な財力を得て、アル国、ロードレア国との戦いに備えたという。
ロンドーナ大陸東部は、この時代はまだ海を越えてまで貿易するという発想があまりなかった為、相当な先見の明があった。


バルディゴスを失ったルディック国は、カルディスメファイザスに一方的に蹂躙されたイメージしかないが、彼は兵役システムを見直したり、農耕に力を入れたりと、富国強兵に努め、民衆からは支持を受けていた。
一説によると、これらはバルディゴスが本来皇帝になってから行う筈だった幻の政策だったともいうが、真相は謎である。
私生活においては、政務が終わったあとも国のことしか頭になかった為、妻の呼びかけに気付かず階段を踏み外して転げ落ちたことがあるという。
彼は、私心を捨てて国のことしか考えていなかったが、バルディゴスが遺した「ルディック国」という一ヶ国しかこの世に存在しないかの様に固執していた為、最後まで降伏という選択肢にだけは気づかなかった。


慈悲をもって国を富ませたとあるが、実際のところ彼女は優しすぎる性格から、治世には向いていなかったという説もある。
サリーアが何か政策をとったのではなく、「サリーアの慈悲に溢れた笑顔が見たい」と、内政官たちが張り切った結果、ゾリメック国の繁栄に繋がったのではという新説である。
勿論、臣下の功績はそれを用いた主君に帰するものであり、彼女の実績を否定するものではないが、これまでの自らが民を導いたという人物像は否定され、彼女はただ玉座に座って笑っていただけのお飾りだった、ということになる。


蜉蝣時代はとにかく資料に乏しい面もあるため、今後もまだ見ぬ歴史に埋もれた優秀な内政官の発見が期待されている。
なお、作者ディマラの回想録によると、サリーアの項目だけは、彼女を万能の女神と神格化していた当時の熱狂的なファンによって削除を要求されたという。


関連項目



最終更新:2024年08月21日 04:30