概要
戦闘に至るまでの背景
▲3327年前後の勢力図
アルスレーナは、それらの事態を招いた責任が自身にあることなど微塵も考えず、「頼りにならない援軍などいらない、
アーズ国だけで
リゼルバを攻略せよ」と、
神器衆に新たな命令を下していた。
アルスレーナの真意は、五ヶ国連合でも落とせなかった
リゼルバを、
アーズ国が単独で陥落させることにより、周辺諸国に
アーズ国の力を見せ付けるというものであった。
もちろん、具体的な攻略の見通しなど何ももたず、理想だけを述べて、その無理難題を
神器衆に丸投げする。
サルファーは、「今回の任務は秘密裏に行う為、全ての権限を私にお預け下さい、そして、結果が出る日まで、一切の作戦行動を隠密裏に行い、外部への漏洩を一切禁止します」と延べ、
アルスレーナの自尊心を傷つけることなく、全ての権限を預かることに成功、前回の失敗を繰り返さない準備をしつつも、この難題に挑むこととなった。
両軍の戦力
戦闘経緯
アーズ国軍は、
リゼルバに向かって正面から攻め込む。
防衛の指揮をとる
ジェルダーは、自信家で、自らの才能に溺れやすいタイプではあったが、それでも
アトレティア国軍で地位を自らの力で手に入れた男である。15万の軍勢が攻めて落とせなかった
リゼルバに、5万の敵が正面から攻めてくれば、相手を嘲笑するのではなく、何か考えがあると思い、その指揮が慎重になるのは当然であった。
更に、前回の戦いで疲弊した
リゼルバではあったが、
アトレティア本国から増援が送られ、兵力は十分回復していた。
何か策くらいはあるだろうと思いつつも、難攻不落の要地に敵よりも多い兵力で立てこもっている自分が負ける筈がないと思い、今回は一切の援軍を断り、
リゼルバの兵力だけで
アーズ国軍を待ち構えた。
まずは前回と同じ様に両翼からの攻撃を仕掛けてきた
アーズ国軍に、なんらかの罠があると警戒した
ジェルダー部隊は、部隊を散開させて布陣する。
その為、真正面からの攻撃に集中した
アーズ国軍は、相手の消極的な防衛にも助けられ、序盤は兵力差をそれほど感じることなく戦うことができた。
それでも同数の兵力がぶつかりあえば、一方向から攻めるしかない
アーズ国軍と、大要塞で迎撃する
ジェルダー部隊では、防衛側が圧倒的に有利であった。
しかし、一向に動きを見せず、正面からの戦いに徹する
アーズ国軍に、本当に無策で突撃していると確信した
ジェルダーは、陣形を変え正面決戦に移行した。
その瞬間に、
ゲルジュが反乱を起こし、
ジェルダーの本陣に襲い掛かる。
この戦いが始まる数日前、
サウラが密かに単身で
リゼルバに潜入して
ゲルジュと出会い、かつて拳を交えたライバルである
ゲルジュを説得、
ジェルダーの下で冷遇されていた
ゲルジュもこの説得に応じて、決戦時に反乱を起こす約束を結んでいた。
アーズ国軍は、正面から戦っていると見せて守備に徹していた為、それほどの損害を出していなかった。
そして、
ゲルジュの反乱を合図に、全軍を東部に集結させる。
広大な十字島では、部隊の移動にかなりの時間を要するが、
アーズ国は最初から西部は見せかけの兵を配置して、東部に部隊を集結させる編成であった。
普通なら、その様な狭い場所に全軍を集めればかえって混乱するだけだが、
サルファーが戦いの前にあらかじめ用意しておいた布陣は、水も漏らさぬ完璧な緻密さを誇り、全軍が混乱することなく針の穴を通すかの様に行軍し、七段に別れて次々と波状攻撃を仕掛ける。
これにより東部から
アーズ国軍の進入を許すが、それでも本来なら
リゼルバの防衛力を持ってすれば、苦戦には違いないが敗戦に結びつくほどの事態ではなかった。
だが、今回に限っては、内部で反乱を起こした
ゲルジュ部隊と、
アーズ国軍が合流を図る大事なルートを確保され、最近になって本国から異動させられ、地形に疎い新兵はろくに動くこともできず防衛軍に動揺が走る。
ここで
アーズ国艦隊は、
サルファーの用意していた第三の行動へと移る。
敵軍を直接攻撃するのではなく、中心部にある
ジェルダーが指揮する
リゼルバ要塞を見下ろせる高山へ配置し、そこから一斉射を放った。
本来、艦隊の射程距離では、たとえ完全に制空権を手に入れたとしても、対空砲がある以上一方的な攻撃は不可能であるが、
サルファーは高地からの着弾予想をあらかじめシミュレーションしており、渓谷の強風もあって、この地点からの攻撃のみ要塞中心部に攻撃が届くことを割り出していた。
要塞に直接攻撃が届き、これに守備兵は更なる混乱を起こす。
実際は要塞を陥落させるほどの砲撃とはならないものの、砲撃をされたという事実のみが兵士を動揺させ、既に自軍艦隊は全滅したのではないか、この要塞を守備する周囲の砦はどこまで陥落したのか、
ゲルジュ部隊だけではなく、どれだけの部隊が反乱を起こしたのか、完全に浮き足立った
ジェルダー部隊は、ついに要塞を放棄、撤退することとなった。
戦いの結末
リゼルバの陥落は、
アトレティア国軍に衝撃をもたらした。
指揮をとっていた
ジェルダーは、直属の上官である
ガザデルーの怒りを買い処断されるところであったが、
ジルダーは戦場以外で仲間の血を流すことを好まず、かろうじて処断を免れた。
ただし、かつてライバル
ゲルジュが辿ったのと同じく、艦隊没収と格下げを命じられることとなる。
リゼルバの陥落は、単に一拠点の奪い合いという枠を越え、その後の戦略に重要な意味をもたらす敗北であった。
実際には、
アーズ国軍は
リゼルバを完全制圧下においたわけではなく、単に
リゼルバ要塞を奪取しただけで、そこまで深刻な状況ではなかったが、それでも要塞を奪い返さない限り、そこから徐々に周辺地域が完全制圧されることは目に見えていた。そして、制圧が完了した時五ヶ国連合が復活すれば、
リゼルバを橋頭堡に戦略的に優位な位置を確保することができる。
しかし、その報告を聞いた瞬間次なる行動を起こした部隊が存在した。
セルカティーナ部隊である。
セルカティーナは、出陣の準備を整えると、一気に南方へ出陣し、
ソート、
イントス、
レイアルの三国の連絡路を遮断して、それぞれの連携を封じて孤立させ、
アヤクリスまでの長い一本の道を作り出す。
この三国は元々連帯感がそれほど強い訳でもなかった為、海路を使えば物資の輸送は容易に可能ではあったが、それを行わず、陸路を使っての軍勢の集結は封じ込められた為、実質上無力化する。
この報告が各国に届くと、今度は
アーズ連合軍が愕然とする。
リゼルバを陥落させることで、連合軍は戦略的に先手をとれる体制となり、圧倒的に有利な地位に立つ筈であった。
ところが
ミラニアから
アヤクリスまで一本の道で繋がれてしまい、
アトレティア国軍にも戦略の選択肢を自由に選ぶ権利が再び復活することとなる。
これにより、
セルカティーナは間接的に、
リゼルバ陥落で受けた
アトレティア国軍の損害をプラスマイナスゼロに戻す事に成功した。
ただし、このとき
セルカティーナ部隊は数が絶対的に少なく、
ソート、
イントス、
レイアルの三国に関しても、背後に大部隊がいると思ったから手を出さなかっただけであり、実情は薄氷のはったりであった。
だが、最大限の効果を発揮し、
アトレティア国が全軍をあげて三国を抑えたと思い込んだ
アーズ国は、歴史的大勝利にも関わらず前線はまったく盛り上がることはなかったという。
最終更新:2024年08月17日 14:00