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Before the Moment◆w9XRhrM3HU
「いやあ、それにしても良かったよ。あの化け物をやっつけられてさ」
今まで花陽の後ろに隠れていた足立が大きく伸びをしながら、勝利を祝福する。
この場に居る全員が、目を細めながら足立を眺めていた。警察という割には頼りない男。全員の印象は彼をただのヘタレだと認識させていく。
そんな視線を知ってか知らずか、足立は呑気に嬉しさに酔いしれていく。
実際、ここまで運が良いのは久しぶりなのだ。あんな化け物に襲われて、傷一つ付かないでやっつけ、これだけの利用価値のある参加者と合流できた。
特に
ウェイブ。彼は
エンヴィーと敵対しているらしく、万が一エンヴィーが襲撃してもこの男が前線に立ってくれることだろう。
(まあ、イェ―ガーズとかいうキチガイ集団に居る時点で、そのナイトなんちゃらのが信用できるけどね)
まあ何はともあれ、切れる手札が増えたのは丁度いい。久方ぶりに上機嫌になった足立は自然と顔が綻んでくる。
赤い血が噴き出し、雪乃の制服を赤く染める。
苦悶の声を上げながら、雪乃はそのまま地面へと倒れ伏す。
アカメが目を見開き、剣を強く握りしめ。その葬るべき敵だった筈の人物を見る。
「雪乃、アンタ何で……」
「本当、貴女は……最初からずっと、足を引っ張ってばかり……」
「刃の動きが……鈍いな。ダメージが抜けきらないか」
付き飛ばされたサリアは自分が雪乃に庇われたのだと、理解し雪乃に駆け寄る。幸い怪我は深くなく、致命傷ではないが一般人にその痛みはかなりの苦痛だろう。
そしてその血に濡れた刃の主、後藤は己の身体のコンディションを冷静に分析し測っていく。
完全な不意打ちだったが、電撃のダメージで動きに多少の支障があるらしい。雪乃が咄嗟に庇える程度には遅くなってしまった。
「はあ!? 何で。死んだんじゃねえのかよ!!」
足立が忌々しげに声を荒げるのを聞きながら、後藤は先の攻防を振り返る。
電撃が触れる寸前、後藤は
アンジュの首輪を翳しながら頭部をドリル状に変化させ穴を掘りあげた。
成人男性が入り込むには非常に小さい穴だったが、そこへ飛び込み直撃を避けたのだ。
(とはいえ、かなりのダメージを負ったが……)
少なくとも頭部を使った戦闘はしばらくは難しい。細胞を変化させ自在に操るには些か感電のダメージが大きすぎるのだ。
「みんな下がれ!」
ウェイブが剣を構えながら仲間を庇うように前に勇み出る。
アカメも刀を握りながら、息を整えスイッチを切り替えていく。
「―――何を手こずっている。ウェイブ」
「なっ……!?」
三者が得物を手に、交錯しようとした次の瞬間、冷たい女性の声と共に隕石のように巨大な氷の塊が後藤へと投擲される。
そのまま為す術もなく後藤ははるか後方へと吹き飛ばされていく。
この氷の異能には見覚えがある。特にウェイブ、足立からは絶対に忘れられない絶対強者の力。
「久しぶりだな。ウェイブ」
(なんでお前がここに居んだよおおおおおおお!!!)
□
「ウェイブ。聞きたいことは幾つかあるが、何故アカメと居る?」
結局、東は外れであった。何処かですれちがった可能性もあるが、エスデスは御坂らしき人物を見つけられない。
仕方ないのでそのまま歩を進めていく。実はその道中
キング・ブラッドレイも近くの居たのだが、これも運悪くニアミスし接触には至らない。
各所で戦闘の跡を見つけながら、進んでいき。気付けば、見知った連中が三人ほど居た。
一人はウェイブ。エスデスの部下だ。二人目がアカメ。狩るべき獲物である。三人目が足立。
特にアカメとウェイブが戦うどころか、共闘すらしている光景はイェーガーズとしては異常な事態だ。ウェイブから問いただす必要がある。
そして足立。きな臭いものを感じていたが、ここまで単独での移動は彼がただの民ではない事の証明ではある。使えない筈の能力が解放されたのだろう。
面白い。実に興味がわいた。
(一撃で後藤の奴を……隊長はやっぱり強え……)
後藤の撃退は素直に喜ぶべきだが、しかし一難去ってまた一難だ。
間違いなく、エスデスはアカメとの共闘に関して疑惑を向ける。正直なところアカメとの同盟を話すのは躊躇われる。
だが、ここで引くわけにはいかない。アカメは少なくとも、この殺し合いを切り抜けるうえで大事な仲間だ。それをエスデスにも分からせる必要がある。
「隊長、これは―――」
ウェイブは覚悟を決め、アカメとの同盟の経緯を話した。
殺し合いの破綻を望むのはアカメとて同じ。ここで争うことに何の意味はない。
敵の敵は味方ならば、ここではイェーガーズもナイトレイドと手を取り合えるのではないか。
「……そうか」
全ての話を聞き終わり、エスデスは納得した様子で頷いた。
「グランシャリオを返しておこう」
「隊長……分かって――」
「それでアカメを斬れ」
エスデスがグランシャリをが持っていたのに喜ぶ間もなく、告げられたのは死刑の執行命令。
目の前に突き刺さったグランシャリオが冷たく光る。
エスデスは心底呆れた表情でウェイブを見つめている。それは普段の部下に向ける視線ではなく、失望感のみが占める完全な侮蔑の瞳。
息を呑み、反射的にウェイブは一歩後退してしまう。
「私はな。別に部下が何をしようが、そこまで咎めはせん。
アカメとの共闘も、あの男に力及ばず仕方がなく一時的に……ならまだ良い。
だがな。私たちは帝国の軍人だぞ。それを忘れた訳ではないだろう。ウェイブ」
「だから、この殺し合いを終わらせて……」
「お前の精神が軟弱なのは知っていたが、どうやらそこまで脆いとはな。こうも簡単にナイトレイドに懐柔されるのは流石に見過ごせん」
「た、隊長! 確かに俺たちはアカメが悪だと思ってた。だけど、見方が変われば俺達が悪なのかもしれないんだ!」
ウェイブは語る。セリューと出会い、その正義が暴走し巻き起こした惨劇と騒動を。
確かにセリューの行い事態は悪を断罪しただけではある。だが、もっと別のやり方があった筈なのだ。
恐らく、自分たちの価値観や考え方はずれてしまっている。ウェイブも狡噛などの参加者に出会い指摘されたからこそ分かった。
だから今こそ、その考えを見直すべきだとウェイブは強くエスデスに主張する。
「言いたいことはそれだけか?」
「隊長……お願いだ……分かって……」
「なるほど。国が……いや住む世界が違えば、その視点も大きく変わるのだろうな。だが、何故お前は会って数時間程度の連中にこうも諭される?
奴らの言う価値観が正しいと誰が決めた? 私からすれば、セリューは何一つ間違っていない。あいつは自分の正義を執行したまでの事だ。
強いて言うなら、奴の間違いはその弱さ。奴が弱かったからその正義が否定された。良いか? 悪は弱者であり敗者だ」
「だけど、あいつは……。何の罪もない民を……」
ウェイブの脳裏を過ぎる穂乃果の姿。目の前で友達の死体を食われた彼女の表情は忘れられない。
図書館前に放置された生首。あれを見た時の同行者たちの顔。あの狡噛ですら、表情は苦くウェイブを見る目には些か訝しげなものがあった。
もうあんな間違いを起こしてはいけないのだ。ましてや、それが仲間の手によるものなら尚更だ。
だが、ウェイブの考えを嘲笑うように、エスデスは冷たく淡々と述べる。
「それが何だ? そいつらが単に弱かった。それだけの事だ。
セリューを襲ったことりという女も強ければ、それは正しかった。弱いから裁かれ、殺され、挙句の果てに救う対象であった仲間にまで害を及ぼした。
世の中は弱肉強食。他の連中が何を言おうが、これが真理だ。そうは思わないかウェイブ」
「じゃあ、イェーガーズは一体何の為に……俺達、軍人は力のない民の為の……」
「履き違えるな。イェーガーズは“帝国”の警察だ。それはお前の解釈の誤りに過ぎん」
今まで気づかなかった。エスデスは冷酷で恐ろしいながらも、部下思いでもあり罪のない民を護るイェーガーズの隊長であるとウェイブは思い込んでいた。
そう、思い込んでいたのだ。ここに来るまで、ウェイブはエスデスという人間を真っ向から見てはいなかった。
いやエスデスだけではない。セリューも
クロメも。その歪さに何処かで気付かないフリをしながらずっと接し続けていた。
「もう一度チャンスをやろう。アカメを殺せ、ウェイブ」
(何でエスデスが……
DIOの館に行くんじゃねえのかよ!!)
狼狽するウェイブの後ろで、足立も焦る。後藤が居なくなったのは良いが、エスデスと再会するのは最悪だ。
しかも今はその本性を剥き出しにし、氷のように冷たい冷酷さを見せている。
はっきり言ってただのキチガイ女だ。それも力が強い分、尚更質が悪い。その上、足立を知っているのも良くない。
ペルソナの制限も看破したかのような、発言もあったのも足立の警戒度を更に引き上げている。
ウェイブに気を取られている今の内に、この場から離れようと足立は密やかに足を踏み出す。
「何処へ行く。足立、折角会えたんだ再会を祝おうじゃないか」
「……え、いや……」
「どうした? 何をそんな顔をしてる。一応コンサートホールで共に居た仲じゃないか。
それに、お前の力もそろそろ見てみたいのでな。早く、見せてみろ」
エスデスの言葉に足立の次に反応したのがアカメだ。先ほどエスデスはお前の力と言った。
そう、力と。つまり足立には何らかの戦う力が備わっていたのだ。
しかし後藤戦ではそれを見せる様子はなかった。何故か、使えない理由があったか。あるいは―――
「ウェイブ。お前は人の言葉に流され過ぎだ。だから、人の仮面(ペルソナ)にも気付けない」
「それは……」
「お前の仲間面しているあのスーツの男。既に誰かを殺した……セリューの言葉を借りれば悪だぞ。
―――そら!」
氷の弾幕が足立を囲った瞬間、足立の周りを光が包みタロットカードが出現する。
タロットカードが握りつぶされた瞬間、異形の黒い剣士が氷の弾幕を弾き足立を庇う。
「足立、お前……」
「クソッ、何なんだよ。何でこうも俺の巡り合わせばかりついてないんだよ。クソ過ぎるだろ!!」
「やはりな。コンサートホールの火災と、まどかとアヴドゥルの殺害はお前の仕業だな。足立」
「アヴドゥルは俺じゃねえ!!」と叫びたくなる衝動を抑えながら、足立は周囲にも視線を向ける。
アカメは全ての合点がいったのか刀を構え、足立を警戒。残りの連中も足立から距離を置くように離れていく。千枝の知り合いである
ヒルダですら驚嘆しながら後ずさりするほどだ。
完全な孤立である。このままではエスデスに嬲り殺されるか、葬る連呼のイカレアカメに斬り殺されるかのどちらかだ。
「ああ、クソッ!!」
左腕で咄嗟に近くの少女の首根っこを掴み自分の元へ引き寄せる。
傷の痛みで退避が遅れた雪乃はあっさりと捕まり、足立に首を腕で固定され拘束されてしまった。
「ゆ、雪乃……」
「全、く……何処かの、無能のせいで……」
「オラ! 動くなお前ら! 動いたらコイツを―――」
「フン」
足立の台詞を遮り、エスデスが更に氷を投擲する。
咄嗟にグランシャリを抜いたウェイブが氷を全て弾き落とし、雪乃と足立を庇う。
「隊長! 今のは……」
「なあ、ウェイブ。奴の演技は上手かっただろう? アカメも案外、上手い役者なのかもしれないな」
「――!」
足立の本性をウェイブは気付けなかった。頼りないヘタレという印象以外は何も残らない、よくもあるくも凡人な庶民なのだとウェイブは思っていた。
だがその実、奴は平然と人を人質に使う自己保身の塊だ。恐らくエスデスの言う通り、足立は先ほど述べた二名を殺した殺人者なのかもしれない。
(まさか、アカメが……俺を騙すために……)
エスデスの言いたいことは、つまりそういうことだ。アカメの本性を自分は知っているのか否かだ。
アカメとの交流はほんの数時間、アカメを理解しきるにはやはり短すぎる。それよりもやはり信頼できるのは―――
手のグランシャリオに目が泳ぐ。アカメを斬るのなら今が絶好の好機。この期を逃せば、彼女の始末は難しくなる。
エスデスは全て見越し、ウェイブにアカメの殺害を促している。そうであるなら……。
「マガツイザナギ!!」
「アドラメr―――「遅いんだよ!!」
マガツイザナギの猛攻にサリアが吹き飛ばされ、アカメがその余波に煽られ顔を歪める。
そうしてる内にも足立は逃走ルートを組み立て、もう一撃大ぶりな電撃を放ちアカメ達の足を止めると雪乃を連れ、そのまま逃走する。
電撃が収まった時には既に足立の姿ははるか遠方にまで遠ざかっていた。
「くっ、足立ッ!」
だが、足の速さでは達人であるアカメの方が遥かに格上だ。今から全速力で駆ければ容易に追いつける。
しかし、そのアカメに向かい氷が降り注ぐ。咄嗟に後方へ飛び退け氷を避けるアカメに更に追撃の氷の弾幕。
刀で弾きながら、その下手人の姿をアカメは忌々しく見定める。
「会ってしまった以上、イェーガーズがナイトレイドを見逃す理由はないからな」
「エスデス……!」
ウェイブはグランシャリオを強く握り締め、刃を抜く。
己が為すべきことは一つしかない。
グランシャリオの切っ先を己の敵へと向ける。その様を見て、エスデスは薄くほくそ笑む。
「……アカメ」
「ウェイブ?」
「――行け! ここは俺が食い止める!!」
その切っ先はかつての仲間であり、上司であるエスデスの首元を刺し、ウェイブは明確な敵意を露わにする。
アカメは僅かに逡巡する。グランシャリオ、確かインクルシオの後継機でありその性能はインクルシオにも引けを取らない。
使い手もそれに劣らぬ実力者ではある。
しかし、相手は帝国最強の将軍。それも自身の上司だ。
「だがウェイブ……。エスデスは……」
「いくらお前でも帝具なしじゃ、隊長の相手は無理だ。この場じゃ俺が一番残るのに適任なんだよ」
アカメの実力は帝具に頼らぬ純粋な鍛錬の賜物だが、それでもやはり村雨があるのとないとでは戦力に大きな差が出る。
現状、エスデスの相手をするのはウェイブ以外に適任者は居ない。
「そうか、ウェイブ……」
「隊長……いや、エスデス! 俺はアンタを倒す……!。―――グランシャリオォォォォオオオオオオ!!!!」
ウェイブの咆哮に応え、その身を黒の鎧が包み込む。
一瞬の内に人の戦士から異形の修羅へと転身を終えたウェイブは腹武装の剣とエリュシデータを持ち、二刀流の構えを作る。
「良いだろう。それがお前の答えか」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
地面が陥没し、小型のクレーターが出来るほどの踏み込みでウェイブは一瞬にしてエスデスとの距離をゼロにまで詰める。
そこから剣を横薙ぎに振るうまでの時間差はアカメですら完全に見切るのが難しい。
だが、エスデスはより速く氷のサーベルを編み出し、剣を受ける。しかしそれを見越してウェイブはもう一本の剣でエスデスの胸元を狙う。
「―――ぐっ、が」
ウェイブの鳩尾にエスデスの蹴りがめり込む。
グランシャリオに包まれた鎧越しであるにも関わらず、衝撃を殺しきれず内臓にまで響くその脚力は完全に人の域を逸脱している。
衝撃に従い、ウェイブは吹き飛ばされ地面を無様に転がりながら、漆黒の鎧に砂埃を付けていく。
剣を地面に刺し、ブレーキ代わりに転がる身体を押し留めながら、ウェイブは今度は大きく跳躍する。
そして、エスデスの頭上から重力に従い振り落ち、足を先頭に自らを砲弾と化させる。
「グランフォール!!」
グランシャリオの持つ、必殺技グランフォールをエスデスは軽々受け止め流す。
ウェイブは足をバネに大きく後天しながら再度エスデスに肉薄し剣を裁く。
秒も過ぎず奔る二閃の白銀。ウェイブとグランシャリオの性能が一つとなって、初めて可能となる剣の乱舞。
「フッ」
涼しい顔でエスデスはその全ての剣裁を避け続ける。そこに不要な動きなど一切なく、最小限かつ最大限の合理性を持った動き。
完全に次元が違う。ウェイブとエスデスの強さは、最早差では片づけられない絶対的な境がある。
回避にも飽きたのか、エスデスが大きく腕を振りかぶり、サーベルを横薙ぎに払う。
それを両の剣を交差させ受け止めるウェイブ。だが、グランシャリオの性能でブーストされても尚、単純な腕力ですらウェイブはエスデスに拮抗すらしない。
両足で踏みしめた地面を抉りながら、後退を余儀なくされるウェイブにエスデスの剣撃が襲い来る。
手数は二対一。圧倒的にウェイブが勝り、有利にも関わらずその剣裁きを全て受け切れない。
斬り合う度にグランシャリオの鎧に傷が付き、徐々にウェイブの命綱であるグランシャリオの鎧への崩壊がカウントダウンされていく。
「……ダメだ。やはり、ウェイブ一人じゃ」
劣勢は誰の目から見ても明らか。エスデスは例え仲間だろうと容赦なく、敵ならば殺す。
このままではウェイブの寿命はあと数分しかもたない。やはり、アカメが介入しエスデスを凌がなければ勝機はない。
足立の件に関しては新一達に任せるようアカメが指示をしようとしたところで、ヒルダがアカメより前に歩み出る。
「アンタらは先に行きな」
「ヒルダ?」
「元はと言えば、足立を連れてきた私の責任でもある。だから、あそこの磯臭男を回収して何とか氷女の気を引くぐらいはやってやる。
だから、さっさと行きな。足立とやり合って一番勝てそうなのはアンタなんだから」
そう言って、ヒルダはサリアに視線を向ける。目が合ったサリアはアドラメレクを構えながらヒルダの横に並んだ。
「それに一応、帝具とかいうのをサリアは使えるんだ。上手く作戦たてりゃ何とかなるだろ」
「だが……」
「雪乃に庇われた分の働きはするわ。信じろと言っても信じられないと思うけど」
「サリア……」
『シンイチ、この戦いは私たちの挟み込む余地はない。それよりは雪乃の救出に向かう方が生存率も成功率も高い。
アカメ、お前もだ。ここは一旦退くのがベストだろう』
ミギーの台詞を聞きながら、アカメは周りを見渡す。
確かにここでアカメが出て行っても。残されたヒルダ、新一だけでは足立を倒す戦力としては心許ない。
ならばいっそ、アカメを行かせる為に中堅の実力者が足止めに専念した方が、両方の勝率も生存率もまだ上がるかもしれない。
「すまない。無理はするな」
アカメは刀を納め、足立の走っていく方角へ。新一は花陽を抱き上げ、音乃木坂の方角へ。
去っていく三人を見ながら、ヒルダは皮肉気に嘲笑する。
「たくっ。まさか、こんな時間稼ぎする羽目になるなんてな」
ヒルダからすればここまで命を張る義理のない連中だが、サリアに関しての借りもある。
だから、敢えて自ら足止めを進んで引き受けた。
眼前で繰り広げられる戦闘は既に一方的な暴力へと変貌している。
グランシャリオが罅割れ、生身の姿に戻ったウェイブが地面に叩きつけられエスデスに嬲られる姿は見ていて気分が悪い。
「ヒルダ、策はあるのよね?」
「ったりめえだ。耳貸せ」
真っ向から挑んでも勝ち目はない。ヒルダは今までの経験を活かし、一通りの戦いをシュミレートしながら策は練ってある。
とはいえ、ただでさえ低い勝率をほんの少し上げるだけの気休めでしかないが。
「―――!? サリア……?」
思いついた策を口にしようとした瞬間、ヒルダの鳩尾にサリアの拳が叩き込まれ、おまけにアドラメレクの篭手から電撃が流される。
全身を軽い痺れに襲われ、僅かに痙攣した後、ヒルダの意識は闇に落ちた。
「……昔からね、アンタとアンジュには一撃叩き込んでやりたいと思ってたのよ。
散々、私の部隊を掻き回してくれたんだから」
異変を感じ、振り返ったアカメ達にサリアは気絶したサリアを抱きかかえ近寄っていく。
一瞬、再びサリアが凶行に走ったのか勘ぐるが、ヒルダは寝ているだけで命に別状はない。
そのままサリアは少し乱暴ながらもヒルダを新一に押し付ける。
「悪いけど、ヒルダも預かってもらえる?」
「お前……」
「邪魔なのよ。帝具もパラメイルもないくせにでしゃばって。せめて、パラメイルかラグナメイルを持って来なさいって、起きたら伝えておいてくれる?」
「サリア。お前、まさか一人で……」
「それとこの首輪、ヒースクリフって奴に渡してくれる? アンジュが最後に残した置き土産なの」
サリアはティバックから取り出した、首輪を強引に新一の手に握らせる。
首輪を受け取りながらも新一はサリアを止めようと逡巡するが、目の前に電撃が飛び、踏み出そうとする足が反射的に止まる。
『シンイチ……早く向かうぞ』
「だけど……」
「早く行きなさいよ。グズグズしてると、雪乃が危ないわよ」
『それにヒルダが居ても居なくても、勝率はそこまで変わらん。何より、ウェイブが持ちこたえている内にここから離れなければ我々が危ない。
しかも足立は今、この瞬間も逃走を続けているんだぞ!』
「そうだ。ミギーの言う通りだ。この場はお前に任せたサリア」
片手で花陽を抱きかかえ、もう片方の腕でヒルダを担ぎ上げる。
新一はまだ振り切れないのか、顔を歪めるが、目を瞑り大袈裟な動作で背を向け駆けだした。
「全く、何やってるのかしらね。私は……」
恐らく、やろうと思えば足立の混乱に乗じて逃げることもできただろう。
そうしてまた
エンブリヲの為に戦い続ければ、彼への忠義を尽くすことができた。
けれど、そんな気も失せてしまった。あの忌々しく気に入らない女に庇われた事が、サリアの脳裏にこびり付く。
雪乃からすればサリアなど、今すぐにでも殺したいほど恨んでいる癖に何処までもすかした様で、いざと言う時には命まで張った。
あの花陽という女もだ。友達を殺されながらも、サリアを正面から見据え、堂々と罪を償えと促した女。
最後までこちらを気にしてきたお人好しの新一とヒルダ。あの二人も特に前者は仲間でも何でもないのに、ずっとサリアを説得しようとした。
何故彼女たちはそこまで強くいられたのか、サリアには分からない。
だからかもしれない。その強さを知りたいから、恐らくこんな真似をしてみようと思ったのは。
あるいは、結局何処か甘い。そんな優しく、お人好しなのがサリアという人間の本当の―――。
「行くわよ。アドラメレク」
頭に残る引っ掛かりを隅に追いやりこの場の唯一の命綱を手に、サリアは戦場へと踏み出す。
残ってしまった以上、闘争に全てを注がなければ、生き延びることはできない。
目を見開き、サリアは自身の中のスイッチを切り替えていった。
□
如何にグランシャリオといえども、その一部分を集中的に攻撃し続ければいずれは罅割れ、限界が来る。
後に辿るかもしれなかった未来の可能性の一つで。アカメはその方法で、グランシャリオの破壊を狙ったことがある。
この対戦もそれと同様。エスデスはグランシャリオの一部分に攻撃を集中させ、ついにはその氷の刃をウェイブ本体へと到達させた。
血を吹きだしながら、吹き飛んでいくウェイブ。グランシャリオの限界やウェイブ自身の疲労も重なり、彼を護っていた鎧も解除させ生身のまま地面に叩きつけられる。
そこへエスデスが更に肉薄し、足の先のヒールで自らが穿ったウェイブの傷へ勢いよく押し込む。
「が、あああああああああああ!!!」
ヒールはウェイブの傷口にめり込む、血を撒き散らしながら、苦痛の雄叫びを誘発する。
顔を歪め、激痛に耐えるウェイブを更に甚振るようにエスデスは足を乱雑に動かし、傷内の肉をかき混ぜていく。
「ウェイブ。実力は完成されているお前が、何故こうも弱いのか。それはお前がまだ迷っているからじゃないのか?」
「ぐ、ぅ……」
「そらっ。今度はもう少し、力を入れてみるか。その軟弱な精神でどこまで耐えられるかな」
エスデスが足に力を込めた瞬間、紫電がエスデスを照らし電撃が降り注ぐ。
ウェイブから離れ即座に電撃を避けるエスデス。電撃の主、サリアは舌打ちしながらもエスデスを睨む。
互いの視線が合い、それを合図にエスデスが氷の弾幕を張り、サリアはアドラメレクの電撃を氷に叩きつける。
氷と電撃が激突し、弾け合う。だが、決して拮抗はしていない。アドレメレクは篭手一つに加え、本来の使い手ではなく、尚且つエスデスのような非凡でもない凡人のサリア。
如何に帝具が強力足ろうとも、その戦力の差は大きく開きサリアに降りかかる。
弾ききれなかった氷がサリアの脇腹を掠り、血が滲む。顔を歪ませる間もなくエスデスが肉薄し蹴りを叩き込んでくる。
直接受けてしまったサリアは激痛のあまり立つことすら出来ず、膝を折るが更にその顔面に受け、エスデスの膝が飛びサリアの顔面を直撃する。
「ッ、ぶ……」
「お前もか。度胸は買うが、無謀だな」
視界が揺れ、体が脳の命令を伝達しない。顔面を蹴り上げられた衝撃はサリアに僅かな膠着を生み出した。
そこへ、エスデスがサーベルを振るう。だが、サリアに触れるギリギリでウェイブが剣を翳し弾かれる。そのままサリアを担ぎながらウェイブは一気に距離を取った。
「……お前、残ったのかよ?」
「アンタが、役に立たないせいでね……」
「そりゃ、悪かったな」
使い手は違うとはいえ、アドラメレクが味方に回るのは心強い。
ウェイブは大きく息を吸い、気合を入れなおしエスデスを睨む。
「グランシャリオとアドラメレク。二つとも相手にするには不足はないな」
「うるさい! さっきからこっちを見下して! この上半身デブ!!」
賢者の石でブーストされたアドラメレクから放たれる電撃。
幸い、先のアンジュ戦が後藤の乱入でお流れになったが為に、帯電量も十分補充されそれはエスデスにまで通用する火力を誇る。
「遅い。ブドーの足元にも及ばん」
ただし、それは当たりさえすればの話だ。サリアのアドラメレクの扱いはブドーに比べればあまりんも拙く乱雑だ。
エスデスは一瞬で見切りを付け、氷壁で電撃を伏せぎ、反撃に氷を飛ばす。
サリアは電撃を防御に回すが、氷は電撃に触れても尚、堕ちることはなくサリアの身体を切り刻んでいく。
「な、んで……」
確かに電撃は賢者の石の力で出力は底上げされる。しかし、それでも尚、エスデスの氷には遠く及ばない。
以前の
巴マミとの戦闘でも、本来ならばマミが勝利を収めるほどにサリアはマミからすれば格下だったのだ。
それを、コンデションの問題でたまたま勝利を得たに過ぎない。所詮、凡人のサリアでは最強クラスの帝具を扱おうが、非凡人には勝て得ない。
「チッ!」
ウェイブがサリアの服を掴み、強引に抱き寄せ氷の射程外から離脱する。
追尾する氷を剣で弾きながら、サリアを突き飛ばしウェイブはサリアを庇う。
その生身に切り傷を幾つも作り上げながらも致命傷だけは避け、剣を振りながら接近してくるエスデスへの対応も忘れない。
氷のサーベルとウェイブの剣が重なり合う。
「運が悪いな。唯一の応援もあの様ではな」
「ぐぅ、うおおおおおお!!!」
女でありながらエスデスの腕力は男の比ではない。その辺の危険種だけならば、素手でも容易に狩る事がエスデスには可能だろう。
エスデスのサーベルを受けるウェイブの両腕に血管が浮かび、今にも張り裂けそうなほど膨張していく。
額には玉のような汗を浮かべ、全身をバネにしてエスデスのサーベルを返そうと力を籠め続けるがエスデスを後退させることすら出来ず、刃は徐々にウェイブが押されていた。
(なんて、戦いなのよ……。あの女もアレと渡り合う男も化け物じゃない……)
勇んで挑み出たは良いが、戦いのレベルの差を強く痛感させられる。
ここにパラメイルかラグナメイルがあって初めてこの戦いに割り込めるのではないか。
否、仮にそうでも果たしてエスデスに通用するのか。パラメイルかラグナメイルがあろうと、エスデスは容易にの魔氷でサリアを蹂躙せしめるほどの力がある。
今まで出会ったドラゴンや敵のどれよりも、あの女は強い。
やはりそうだ。槙島の言っていた通り、サリアは凡人であり、非凡人には及ばない。
だからアンジュにも追いつけず、エンブリヲも彼女には見向きもしなかった。
これを言った槙島本人ですら、サリアには何の興味ももう抱いていない。
「うおらああ!」
最早、返すことを諦めたウェイブは二本の剣をサーベルに挟み込むと敢えて力を抜く。
サーベルはそのままウェイブの頭上へと振るわれるが、二本の刀で射線を逸らし、ウェイブは横へ転がり避ける。
だが、もう一方の手で氷を生成したエスデスはウェイブへと氷を投擲しその腹部へと貫通させる。
抜けていく血と共に倒れかけるウェイブに袈裟掛けにエスデスはサーベルを振るい落とす。
その銅を斜めに一閃。更に大量の出血と共にウェイブの目線が虚ろになる。そこへ、エスデスは止めの一撃を放つためにサーベルの切っ先をウェイブの胸元へ穿つ。
「アドラメレクッ!!」
そのサーベルに電撃が飛来する。サーベルはエスデスの手から離れ、遥か刀へと吹き飛ぶ。そのままエスデスに電撃を飛ばすがエスデスは飛躍し回避。
サリアは倒れかけるウェイブを支え、地面へと優しく寝かせた。最早ウェイブは身動き一つ取れないのか、サリアの為すままに横たわる。
「何だ。まだ居たのか」
「ええ、まだ居たわよ。もう少しアンタには付き合って貰わないとね!」
ジリジリと足を動かし、ウェイブを戦いに巻き込まぬようエスデスの視線を引きつける。
ウェイブがここまで追い込まれている以上、実質サリアはエスデスとのタイマン勝負にならざるを得ない。
だが、あらゆる面においてエスデスはサリアの遥かに格上だ。しかもサリアはウェイブのような完成された実力もなく、まともにやり合えば数秒で殺されるだろう。
だから、僅かな勝機に掛けるのなら、全身全霊の一撃を込めた大技をエスデスに叩きつける。
幸いにしてエスデスはサリアを完全な格下と見て舐めている。これならば、逃げることはない。
確実にこの勝負には乗ってくる。サリアはアドラメレクの帯電量を篭手の先に貯める。
「ソリッドシュータアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
賢者の石を強く握りしめる。ここまでの連用でこの石に残されたエネルギーも残りわずかだ。
恐らく、この一撃を放てば全て使い切ってしまうかもしれない。
「ほう、アドラメレクの奥の手……。その石の力か」
全身全霊の一撃もエスデスは片手を翳し、氷を展開しあっさり防いでいく。
やはり、最強と称されるエスデスの非凡さとデモンズエキスの強大さ。それらは凡人のサリアが如何に全霊を込めようと、打ち砕くことは不可能。
氷には傷一つ付かないのに対し、電撃は徐々にその出力を落とし勢いが下降していく。
電撃が撃ち負け、その余波でサリアの襲い掛かる。電撃の障壁を展開し直撃は避けるが、その衝撃は確実にサリアの身体を蝕む。
それでも、もう一度エスデスに向かいサリアは体の悲鳴すら無視して電撃を放つ。
エスデスは埃を払うような動作で手を振るい、氷の風が電撃を軽く煽り相殺される。
「ぐっ、ハァ……ハァ……」
電撃と氷が乱れ飛ぶ横でウェイブもまたギリギリ意識を繋ぎ留め、全身を流れる激痛と出血を無視しグランシャリオを杖代わりに立ち上がる。
戦況は最悪だ。どうやっても勝てるビジョンが浮かび上がらない。
「でも、なァ……勝たなきゃならねえんだよ!!」
誰に言うでもなく、自らを鼓舞するように吐き出す。
ここで倒れればアカメだけではない。エスデスの事だ、アカメと関わった全ての参加者に手を出す可能性も十分にある。
それはウェイブが守らなければならない。守ると決めた、力のない民だ。
「……本当に馬鹿だったよ俺……」
エスデスにもブラッドレイにも言われた。迷いがあり精神にムラがあるから剣が鈍るのだと。
ああ、その通りだ。ここに来てからのウェイブは、常に迷い続けていた。何が正しくて間違いなのか。ウェイブには分からない。
「今でも、何が正しいのか何てわからない……だけど……俺はあいつ等を護りたい……それだけで十分じゃねえか」
あいつらとはセリューでもあり、死なせたクロメでもあり、先を行かせたアカメ、新一、花陽でもあり、攫われた雪乃でもある。
そうだ。彼ら彼女らを誰一人として死なせたくなかった。だから、ウェイブは戦う。そこに悪も正義もない。
例えセリューがどんな間違いを犯していようとセリューは仲間だ。サリアのように説得し、一緒に間違いを正したい。
クロメが光子を襲ったのも許せないことだ。それでもウェイブはクロメが好きだった。だから、共に生きて彼女が今まで犯した罪を償い続けたかった。
「……そうか、俺やっぱりクロメの事が……」
狡噛達にも否定された仲間達だ。だが例えどんな連中であっても仲間を護りたかった筈なのに、ウェイブはそれすらも迷っていた。
彼らが否定する仲間はやはり、悪なのかもしれないと。
確かに、見方によっては悪だ。それでも仲間を救う、そんな想いが間違いな筈などない。
それに気付けなかったから、ウェイブは今まで周りを傷つけてきた。この優柔不断な精神が周囲を切り裂く刃になっていた。
簡単な事だ。仲間が間違えたのなら、一緒に正せばいい。
クロメの狂気が誰かを傷つけるなら、その狂気をぶち壊し、忘れさせてやれば良かった。
そんなことにすら気付けず、何時までもウジウジ悩んでいたから穂乃果を花陽を雪乃を傷付け、守る筈の仲間すら狡噛に撃たせてしまった。
「遅すぎるんだよ……。俺はいつもさ……」
でも、まだすべてを失った訳じゃない。まだウェイブには仲間が居る。
ウェイブが倒れるには早すぎる。
「ごめんな、クロメ。もっと早くに気付けたら、お前の事を助けてやれたかもしれない……。きっと違う未来も歩めたんだ」
ここに来て、クロメの姿ばかりが頭に浮かぶ。これほどまでにウェイブは彼女に想いを寄せていたのか。
失って初めて、彼女の大きさが良く分かる。
多分、この先の未来ではもっと二人の仲は深まり、きっと、ウェイブがクロメを救い。二人で全てをやり直す。そんな優しい未来もあったのかもしれない。
勿論、その逆もあり得たが、未来は無限に広がるのだ。断言はできない。
生きてさえいれば、誰にだって可能性があったのだから。
そんな、もう否定された未来に思いを馳せながら。グランシャリを前に構え、ウェイブはもう一度その鍵剣の名を開放する。
既に残された体力は少ない。相手もエスデスであることを考えれば、これが最後の戦いになるかもしれない。
「もう迷わねえ。もうこれ以上誰の未来も奪わせない! 例え相手が俺の隊長だとしても!!
―――グランシャリオォォォォォオオオオオオオオ!!!」
□
とうとう、サリアが放つ電撃の猛攻がなくなった。
帯電量が切れ、戦闘に使える電流がないのだ。こうなってはアドラメレクはただの篭手。
舌打ちしながら、銃を取り出し発砲するが、着弾の寸前冷気で全ての弾丸が凍結し墜ちてゆく。
銃弾を素で見切れる動体視力も呆れたものだが、その銃弾の勢いを凍らせる程の冷気も強大過ぎる。
接近戦に持ち込まれては、勝ち目はないと咄嗟に後ろに飛び退くが。エスデスがの踏み込みで一瞬で距離を詰められ、その鳩尾に拳を叩き込まれる。
息と唾を吐きながら、吹き飛ぶサリアの髪を強引に掴み、地面に叩きつける。
血と涙と汗が混じり飛び、エスデスを汚すが、彼女は気にするどころか歓喜に震えるように口元を歪めた。
「ここまで、ご無沙汰でな。少し物足りなかったんだ。
お前は良い声で鳴きそうだな?」
エスデスの残虐な顔は、これからお前を玩具にして遊ぶと宣告されたようなものだった。
その顔を見ながら、どうして自分はこんな馬鹿な真似をしたのか自問自答する。
最初は嫉妬からだった。その嫉妬対象を殺すのに邪魔だったから、マミと海未を殺した。
次も……同じだ。邪魔だからキリトを殺した。
(いつもアンジュの周りには人が集まるのよね)
最初はアルゼナルで孤立したアンジュも最後には実質アルゼナルのリーダー格にまで上り詰めている。
ここでも、単独行動と配置運が悪いだけでもっと多くの人物と出会えていれば、きっと中心的な人物になり得たのかもしれない。
それこそサリアとは違う。彼女の持つ、非凡さ故に皆が集まる。
(……馬鹿ね。そんなのあの白髪男の受け売りじゃない)
凡人だから非凡人だから。そんなのは関係が無い。
ただアンジュは自らの道を自分で切り開こうとした。その時、その道を歩く者たちが集いそれが仲間になっていっただけだ。
(そうよ……私だって……本当は……)
仲間が居た。表には出さないし、普段は死ねば良いぐらいに思うほど険悪だったが。
それでもアルゼナルのあの部隊はサリアにとっての居場所であり、仲間達だった。
そしてサリアを大事に思ってくれる人もきちんと居た。あの雪乃ですら羨ましがるほどの家族がずっと傍で見守ってくれたのに。
サリアはそれに気づかないで全てを捨ててしまった。挙句の果てに、他人の仲間まで奪い去り悲しみのどん底にまで突き落とした。
取り返しのつかなう事だ。もう引き返せない。
「―――なのに、馬鹿よね。アンジュもヒルダも……説得しようとして、新一も雪乃も花陽とかいうのも……。やり直せだなんて」
エスデスの手がサリアに触れた。これでサリアの命はエスデスの所有物だ。
生かすなり殺すなり、エスデスの意のままであり。サリアは為す術もない。
だが、その眼はまだ死んでいない。そこからの逆転を信じ、未だ自らの勝利を諦めていない戦士の目だ。
「アドラメレク!!!」
生粋の狩人であるエスデスには隙は全く見当たらなかった。サリアを舐めていようがそこに慢心はなく、万が一の逆転もない。
だが、狩人は狩人であるがゆえにたった一つの大きな隙が存在する。得物を狩り、勝者となった狩人はその勝利を疑わなず喰らおうとする。
たった今、エスデスはサリアに勝利しその獲物を喰らおうとした。それは彼女がこの殺し合いで見せた最大の隙であり、強者が弱者を蹂躙する事こそが真理だと疑わない狩人(エスデス)故の弱点。
「―――!」
自らの身体ごとエスデスに電撃を放つ。既に帯電量がなくなったアドラメレクにこれ程の電機はない。
なければ、創り出せばいい。サリアの手にはあらゆる対価を無視し、万物を生み出す赤の宝玉が握られているのだから。
以前の戦闘ではまだ賢者の石の力を完全に理解しなかったサリアだが、人は成長する。この戦闘に至るまでに彼女は賢者の石の力を完全に把握していた。
例え凡人であろうとも、その進みが非凡人に劣る道理はない。
咄嗟に距離を開けたエスデスは電撃を直接浴びることはない。が、ここで初めて先手をサリアに奪われた。
賢者の石をフルブーストした最大のソリッドシュータ。氷を展開するエスデスだが、その威力と速度に氷に生成が甘い。
「ッ!!」
ここで初めてエスデスが圧された。
如何にエスデスでも即席の氷では賢者の石の力を過剰したアドラメレクを防ぎきれない。
その足で大地を支えながら、だがその顔は大きく笑顔に歪む。
自身のダメージすら厭わず、虎視眈々とエスデスの隙を狙い、見事それを付いた戦法は見事だ。
「やるじゃないか! ここに来て私を圧したのはお前が二人目だ!!」
「こ、の!」
不意を突きながらも、だがエスデスの余裕はまだ崩れない。最初は押されたエスデスも徐々に電撃を押し返し。
再び拮抗は崩れ、電撃と氷の拮抗はサリアの方へと負荷が押し寄せる。
更にサリアは、自らの身体ごと電撃をエスデスに放ったのだ。そのダメージ量は決して小さくはない。
この拮抗状態が続くだけでも、その負担だけでサリアの意識は今にも遠のき掛ける。
「……私は才能なんてないし、アンジュやアンタにも何も勝てない。だけど、嫉妬深さと執着心の強さだけなら誰にも負けない自信があるのよ!!!」
酷使し続ける身体に鞭を打ち、サリアは声高に吠える。
その気迫に圧倒されたのか電撃の火力が増していき、再び氷がエスデスの元へ押し返されていく。
「ああ、俺だってな。ここで退くわけにはいかないんだよオオオオォ!!!」
否、電撃の力ではない。黒の鎧に身を包んだウェイブがその拳を氷に叩きつけていた。
グランシャリオとアドラメレク。二つの力が合わさったその瞬間、魔神顕現デモンズエキスを凌駕したのだ。
電撃と拳は見事、氷を粉砕し、残るエスデスの身に到達するのみ。
「―――最高だぞ。やはり、ここまで足を運んだのは正解だった!!!」
だが、その使い手であるエスデスを凌駕したわけではない。
エスデスはあの氷が破壊される寸前に力を込めた二つ目の氷を用意していた。
それも先の物とは比べ物にならない。一エリア消し飛ばせる程の巨大な氷の隕石だ。
「さあ、これもお前たちはどうやって破る? 私に見せてみろ!!」
電撃が拳が氷に触れ、先ほどの氷以上の圧力に二人の進撃は踏み止まる。
二人の体力も底をつきかけ、グランシャリの全身に罅が、サリアの賢者の石は以前の宝石のような輝きは見る間影もなく、あまりにも小さい。
既に手の内を出し尽くしたウェイブとサリアに対し、未だエスデスは健在。手を焼きはしたが、その全力は一片も見せてはいない。
「くっそ……頼むよ……これ以上、もう俺のヘマで誰も傷付けさせたくないんだ!!」
ウェイブも叫びも空しく、グランシャリオは崩壊を始めていく。
当然だ。ウェイブはここに来てその精神を立て直し、本来の完成された実力を出し切る事に成功したが、決して強くなったわけではない。
ウェイブの実力ではエスデスには勝てない。それは、明確な序列である。
雷神と修羅の帝具は、女王の息吹を得た魔人の帝具に飲み込まれていく。これが帝国最強の実力であり現実。
何を以てしても覆らない絶対的な支配。
だが、その支配を良しとしない存在がある。
絶対的な支配を壊す、イレギュラーが。
「もっと、気張りなさい! アドラメレク!!!」
ウェイブ程の実力もなければ、才能だってない。マナも歌も何もないただの凡人が。
ここまで、命を張り未だに諦めないのだ。
(情けねえ……サリアの奴が諦めてないのに……俺は……!)
民の為に戦うと誓ったウェイブがここで退くわけにはいかない。
ウェイブもそして新一達が説得し、罪を償わせるサリアもここで死なせない。
生きてさえいれば何だって出来る。
(アンジュは何があろうと最後まで生き抜こうとしてた……。諦めないし、だからきっと皆がアイツの周りに集まった……。
私だって――)
絶対的な支配はいずれ必ず滅びる。正しい歴史においてエンブリヲがノーマに敗れたように、帝国が革命軍により滅ぼされたように。
「何?」
氷に亀裂が走り、罅割れていく。エスデスの表情から笑顔が消えた。
期待はしていたが、二人の力を合わせたところでこの氷を打ち破るのは不可能であると、エスデスは心の何処か決めつけていた。
事実、エスデスの分析は的確で先程までは戦況はエスデスに傾いていたのだ。しかし、それは以前までの話だ。
「青い、アドラメレクだと?」
氷を砕く電撃の篭手は、ダイヤのように透く、海のように深い青に染まり更なる出力を増している。
その青き雷を纏いながら、漆黒の鎧がより一層輝きを増していく姿は。エスデスを以ってして神秘的だと言わざるを得ない。
こんな奥の手はアドラメレクにはなかった。無論、グランシャリオにもだ。
考えられるのは、エスデスが時間停止の世界に強引に踏み入ったように、サリアがここに来て奥の手を生み出したこと。
だが、サリアにアドラメレクの適正は殆ど無い。主催の調整で帝具の相性問題は緩和されているが、やはりサリアは凡人だ。そこまでの奇跡を単独では起こせない。
しかし、いくつかの偶然が重なり奇跡は必然のように起こる。
正しい未来で、サリアはエンブリヲに支配されたクレオパトラを覚醒させ、エンブリヲに勝利をおさめた。吹っ切れたサリアの精神力は強靭でありエンブリヲの支配すら退けるのだ。
帝具は時として、人の想いに答える。パンプキンが精神エネルギーを糧にするように。未来おいて
タツミの叫びで、インクルシオが進化するように。
ここに来て、精神的に吹っ切れ始めたサリアの想いは僅かながらにアドラメクレにも影響した。
そしてもう一つ。成り行き上共闘しているウェイブの存在だ。彼もまた可能性にあった一つの未来で、二つの帝具を同時に使用し、更に己の力を高めたことがある。
ウェイブは無意識の内にサリアの帝具を使い、結果としてその双方の力を高め合ったのだ。主催が施した相性の緩和があったからこそ起きた偶然。
これらが全て重なった事で、アドラメレクとグランシャリオは新たな領域に到達し、魔氷は砕け散る。
「「ダイヤモンド・ライジング・ローズ・グランシャリオォオオオオオオオオ!!!」」
エスデス以上に驚いているのはウェイブとサリアだろう。いきなり、唐突にこれ程の力が湧いてきた現象に彼らは全く心当たりがない。
無論、アドラメレクの隠された奥の手でもない。
そこまで考え掛けウェイブは思考を止める。どうでもいいことだ。今は―――
「この拳を叩きつける事だけを―――」
グランシャリオの鎧が崩壊し、既にウェイブの身体を纏っているのはその右拳と顔の半分程度だ。
だが十分だ。この一撃さえ通れば。
氷と雷と拳。三つ巴の一撃が交錯し、ウェイブの視界は光に包まれた。
□
□
黒に包まれた視界が揺れていく。車などのような乗り物の揺れ方とは違う。
何処か人間味があり、温かさすら感じる。ヒルダの記憶の中で似た経験のものは、ママの腕の中で眠った幼少期の頃の記憶だ。
リンゴの匂いに包まれてママが居て、人間らしい生活をしていたあの頃。
「……た……」
「……?」
「気付いたか!?」
目が覚めた時、視界に入ったのは自分を担ぐママとは似つかぬ若い男。
一瞬、気恥ずかしさで一杯になるがすぐに取り繕い、状況を整理する。
確かウェイブの救出兼、時間稼ぎを自ら引き受け。それから―――
「……サリア?」
サリアに電撃をかまされ、ヒルダは意識を手放した。そこまでが彼女が覚えている全ての記憶だ。
辺りを見渡すが当然サリアの姿もなければ、ウェイブもエスデスの姿もない。
つまり、サリアだけが残りヒルダが逃がされたのだろう。
「ごめん……。とにかく、今はこれからの事を話す。俺はアンタと花陽を連れて学院に向かう。
足立はアカメが追う。多分、あの変な人形みたいな能力は俺らじゃ勝てない。せめて、アカメかウェイブじゃないと」
「そう、か。サリアの奴……」
結局のところサリアはお人好しだったのだろう。
道を踏み外しても尚、性根の部分は自分の身よりも他人を優先しヒルダを逃がした。
もっと早くにヒルダがサリアに会えていれば……。
(ここに来てから、そんなことばかりだ)
モモカの時ももっとヒルダが覚悟を決めて、戦っていれば。
アンジュの時も後藤の遭遇場所から推察して、ヒルダが応援に行けない距離では無かったはずだ。
サリアだって、説得しこれからというときにまた―――。
「全員、どいつこいつも私の近くで居なくなりやがる……。せっかく全て手に入れたと思ったのに……」
『……これは? シンイチ、後藤だ!』
「え?」
走る二人の前方から接近する人影。
エスデスの氷を受けながらも尚、後藤は闘争心を萎えさせず、その眼光を新一へと向ける。
飛来する鎖鎌をアカメが弾き、新一は大きく距離を取る。
「お前、まだ生きていたのか!?」
「あの氷。規模はでかいが、冷静に見切れば対処できない攻撃ではない」
刀と鎌が火花を散らし、アカメと後藤の目線が交差する。
今のアカメに後藤の相手をする暇はない。一刻も早く、足立を追い雪乃を救出しなくてはならない。
だが後藤はアカメを焦るアカメを嘲笑うように、攻撃の手を緩めない。
「ぐっ―――!?」
「さっきの“知らない”太刀筋はどうした? 剣が乱れているぞ」
アカメの身体を鎖鎌が切り裂き、切り傷を作り出す。
先の戦闘と逆転し、余裕のないアカメが後藤に圧されだしていた。
「どうすりゃ、雪ノ下だって……」
『待て、ここはアカメも連れて逃げろ』
「ミギー?」
『敵の敵は味方という言葉があるだろう。……少し意味は違うが、それを実践しよう。
アカメと我々とで後藤を連れ、足立を追うのだ。そして、後藤を足立に押し付け私たちは雪乃を救出し離脱する』
「俺たちで、後藤を誘き出す?」
『後藤の狙いは私達だ。奴は不足したパラサイトを補充する為、私や
田村玲子を狙うはず。
そして闘争相手として、アカメにも入れ込んでいる部分がある。私達が逃げれば必ず追いかけてくるだろう』
「でも、そう上手く行くのか?」
『君が一人で足立に挑んでも、勝ち目は薄い。ヒルダを連れても難しいだろうな。
花陽は言うまでもない。
何より、私達の生存とこの場に居る全員の安否を確保するならこれしかない』
「だけど……」
新一としては、後藤以外に殺し合いに乗った参加者の存在も気になっている。
もしここでアカメを連れ、後藤を引き離しても、彼女たちが二人っきりになった時に後藤のような凶悪な参加者に襲われれば危険だ。
「舐めんな。一般人の護送くらい私一人でもやれる。
お前は雪乃って奴を助けに行ってこい」
「……ヒルダ」
「わ、私も……大丈夫です。だから、雪ノ下さんを助けてあげて下さい!」
拳銃を構え、ヒルダは花陽の手を強く握りしめる。
花陽もその手を強く握り返す。二人とも覚悟は万端という事だろう。
『それにシンイチ。学院まで距離は近い。
何より、穂乃果と黒子という二人が誰の力も借りないまま学院に着いたとは思えん。
強力な、それも殺し合いには否定的な参加者と合流して学院に居るかもしれん』
「……分かったよ。ヒルダ、小泉を頼む」
「ああ。それとこんな時に言う事じゃないが、余裕があったらでいい。もしもキナ臭い指輪やパラメイルかラグナメイルっていう巨大ロボットを見つけたら私に回してくれ。
戦力が欲しい。あのエスデスとか言うイカレにも、下手すりゃイリヤの馬鹿にすらこのままじゃ勝てねぇ」
「い、イリヤって……? わ、分かった」
あれだけ化け物染みた連中が闊歩するのだ。
恐らく序盤はバランスを崩壊させてしまう為、表には出していないが。
何処かに、パラメイルやラグナメイルのような兵器を隠している可能性は高いとヒルダは考える。
でなければ、ノーマをわざわざ呼んだりなどしない筈だ。
下手をすれば、首輪換金システムもその為に導入したのかもしれない。
新一も新一で聞き返したいことはあったが、時間がない。
後藤とアカメの戦いに意識を向け、新一は駆け出す。
アカメと後藤の斬り合いの中、刃化させたミギーを翳しながら新一が突っ込む。
以前の戦闘で、ブラッドレイの一撃を見切れたのだ。
それに比べ、後藤の技術はブラッドレイには及ばない。少なくとも、一度だけならば新一も二人の戦いに介入できる。
後藤の鎌を弾きながら、新一はアカメを掴み走り出す。
人外の怪力に為す術もないまま、アカメは新一に連れられて足立の向かった方向へと引っ張られる。
「シンイチ、何を?」
「話は走りながらする。とにかく、今は来てくれ!」
叫びながら、後ろを確認する。
後藤は一度、視線を新一達とは別方向に走るヒルダと花陽に視線を向けるが、僅かな逡巡の末、後藤は新一を狙い走り出す。
成功だ。少なくとも、後藤を釣るという最低条件を満たせた。
『よし、第一段階はクリアした。次は足立に追いつくまでに我々が殺されないようにしなければならない』
「そこが一番、難しそうだけどな!」
事情を把握したアカメも刀を構えながら、新一に並べ疾走する。
その様子に後藤も、これはただの闘争ではないと察した。
恐らくは次なる戦いへの伏線。工夫の一つなのだろう。
丁度いい。奴らの戦い方ももっと見て学びたかったところだ。
あの誘いに乗るだけの価値はある。
「……あの氷の女とも戦ってみたかったが、まあいい。今はお前が先だ
泉新一!」
新たな強さと、元の五頭を取り戻すために。今は一頭の怪物が駆け出した。
□
「まさかな……ここまでとは思わなかったぞ。ウェイブ!」
予想以上の戦いにエスデスは驚嘆し笑う。
あの短期間でウェイブが成長し自らを下す寸前まで食い付いてきたのだ。あの横の女の助力も当然あるのだろうが、それを考えても驚異的な進化だ。
完成された実力。それ故、それ以上の見込みはないと判断したていたが、これは少し見方を変えるべきかもしれない。
もしも、あの時アドラメレクが片腕だけではなかったら? もしも、ウェイブの体調が万全だったら?
ああ、一つの要素が違うだけでも戦況は大きく変わったかもしれない。
幸い、奥の手は使わずに済んだが、下手をすれば使わされていた……いや使っても尚、負けていたのはこちらかもしれない。
そんな死ぬか生きるかの瀬戸際に、先ほどまで立っていた事実にエスデスは笑いが止まらない。
と、同時にエスデス自身ももっとその先の強さが欲しくなる。未だ奥の手を披露していないが、もう一つ開発してみるのも悪くはない。
「認めよう。ウェイブ、お前は私の敵であり、獲物だ。
せいぜい、他の連中に喰われるなよ」
今はウェイブを追うことはしない。疲労困憊のウェイブを倒したところで面白くない。
それよりも、アカメを追う方がエスデスの中での優先順位は高い。
今頃、アカメは足立を追いあの二人の距離は近い。
エスデスからしても足立には興味がある。
あの人形を操る能力に加えて、足立は良い声で鳴いてくれそうだ。
この場に来てから全く悲鳴を聞いていない。
そろそろ、ペットが一匹欲しいところにアレだ。丁度いい、アカメを殺すついでに足立を捕らえに行くのも良いだろう。
「だが、何故だろうな……不思議だ。南の方角から胸を締め付けるようなキュンとした想いが込み上げてくる」
しかし、同時に特にジュネスとかいう施設の辺りから、何かエスデスを引き付けるようなものを感じるのだ。
これは一体、何なのか……。
異様に惹かれるものがある。もしや、恋する女の直感が働きそこにタツミが居るとでもいうのだろうか。
「他にも御坂の行方も気になる。それに、あの氷をぶつけた男。恐らく承太郎の言っていた後藤だろうな」
戦い方はともかく、身体的特徴は承太郎の言う後藤にそっくりだ。
その承太郎からの情報通り実に強く興味をそそられる。氷をぶつけた瞬間、後藤は後ろに飛び退き衝撃を最小限に留めていた。
戦場からは完全に離脱したが、ダメージは0にも等しいだろう。是非ともあの男とも戦ってみたい。
「さて、何処へ向かうかな」
アカメの追跡か敢えて引き返し御坂の探索再開か、ジュネスか足立確保か……アカメと関わった連中を炙り出し、拷問するのも良い。
ここに来てエスデスの楽しみはグンと広がった。
氷の女帝は一人ほくそ笑む。血と殺戮の匂いを醸しながら、彼女は足を踏み出した。
□
遥か彼方に吹き飛ばされたらしい。
目を覚ましたウェイブが思ったのはそんなことだ。
最後の拳がエスデスに入ったのかは分からないが、少なくともエスデスと戦いウェイブは生還出来たのは現実らしい。
「あの世って訳でもないしな……」
ここは間違いなく現実だ。この殺し合いの会場の空気は何度も吸っている。
だが不思議なの事に身体の痛みが無いのだ。エスデスの相当手ひどくやられ、正直なところ死も覚悟した程だ。
そこへ、こちらを見下ろす少女の姿が目に入る。
「お前、サリア……」
ウェイブの覚醒に気付いた瞬間、糸が切れたようにサリアが倒れる。
支えるウェイブだが、その全身が傷だらけな事に目を見開く。一刻も早い治療が必要だ。
幸い、ウェイブたちが飛ばされたのはマスタングの居る西のエリア。賢者の石を手渡し、治療を頼めば助かる。
「しっかりしろ! 賢者の石はあるな。それで……」
「もう、ないわ」
「え?」
サリアの手にはあの紅い宝石はもうない。
何故なのか。確かにあの戦いで賢者の石を相当な量消費したのだろうが、ウェイブは意識を失う寸前に僅かながらに残った賢者の石を目に焼き付けている。
「……使、ったの、よ……。アンタに」
「なっ、お前……」
全ての合点がいく。ウェイブの全身がこんなにも楽なのは治療されたからだ。
それも賢者の石で。
「出鱈目に、やったんだけど……その様子じゃ、上手く行った、わね」
「何で、こんな……」
「これ、あげる。アンタが……」
手に持った罅だらけのアドラメレクを手渡され、サリアは力なく腕を垂らす。
「あと、雪乃達や……ヒルダの、事も……」
「ふざけんな! やり直せってアイツ等に言われてただろうが!
お前が許されない事をしたのは知ってる。でも、生きろよ! 生きてりゃ誰だって……」
(やり直せ、か……。本当にやり直せたかな……今更、よね……)
セリューやクロメだって生きてさえいれば。サリアの姿が二人と重なる。
死なせてなるものか。息も薄くなるサリアを抱きかかえながらウェイブは歩みだす。
マスタングを探しても賢者の石が無ければ意味がない。それよりは医療道具のあるイェーガーズ本部に行くべきだろう。
「しっかりしろ! 絶対に死ぬな!!」
(悪いわね。新一、私はアンタの言うようにやり直せないわ……)
新一の言う通りだった。きっと順番が違ってしまったのだろう。
もし、サリアの目を覚まさせる人物ともっと早くに会っていれば、こんなことにはならなかった。
三人も殺さず。こんな引き返せないところまでこなかっただろう。
「……ごめんなさい、皆……」
「馬鹿ッ! 謝るなら、本人の前に行って自分で……」
きっと。最後にはアレクトラと和解し、世界を壊し自由となったハッピーエンドも存在したのだ。
けれども、IFの物語はそこへは至れない。
「ごめんなさい、アレクトラ―――」
【サリア@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 死亡】
【F-4/一日目/午後】
【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(大)、頭部出血(中、止血済)、頬に掠り傷、全身にかすり傷、奥歯一本紛失、顔面に打撲痕
[装備]:サラ子の刀@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:なし
[思考]
基本:悪を斬る。
1:足立を追い、雪乃を救出する。
2:キンブリーは必ず葬る。
3:タツミとの合流を目指す。
4:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
5:村雨を取り戻したい。
6:血を飛ばす男(
魏志軍)と御坂は次こそ必ず葬る。
7:エスデスを警戒。
[備考]
※参戦時期は不明。
※
御坂美琴が学園都市に属する能力者と知りました。
※ディバックが燃失しました
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、
タスク、
プロデューサー達と情報交換しました。
【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(大)、出血(止血済み)、横腹に刺し傷、ミギーにダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム品0~1 消火器@現実、分厚い辞書@現地調達品、キリトの首輪
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:足立を追い、雪乃を救出する。
2:後藤、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂美琴らしい?)エスデスを警戒。
3:ホムンクルスを警戒。
4:サリア……。
5:イリヤって確か、雪ノ下達が会った……。
6:ヒースクリフを探し首輪を渡す。
7:余裕ができたら指輪やロボットも探してみる。
[備考]
※参戦時期はアニメ第21話の直後。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※ミギーの目が覚めました。
【後藤@寄生獣 セイの格率】
[状態]:寄生生物一体分を欠損、寄生生物三体が全身に散らばって融合
[装備]:S&W M29(4/6)@現実、鎖鎌@現実
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、スピーカー、デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾45@現実、一撃必殺村雨@アカメが斬る!(先端10センチあまり欠損)、アンジュの首輪、不明支給品0~1(アンジュ分、武器らしいものはなし)、不明支給品0~1(キリト分、武器らしいものはなし)
[思考]
基本:優勝する。
0:新一を追う。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。ヒースクリフ(茅場晶彦)に興味。
5:田村怜子・泉新一を探し取り込んだ後DIOを殺す
6:黒、黒子とはこの身体に慣れてからもう一度戦いたい。
7:武器を使用した戦闘も視野に入れるが、刀(村雨)はなるべく使用しない。
8:氷の女(エスデス)とも戦ってみたい。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※黒い銃(ドミネーター)を警戒しています。
※寄生生物三体が全身に散らばって融合した結果、生身の運動能力が著しく向上しました。
ただし村雨の呪毒によって削られ、130話「
新たな力を求めて」の状態を100%とすると現在は75%程度です。
※寄生生物が0体になった影響で刃は頭部から一つしか出せなくなりました。全身を包むプロテクターも使用できなくなりました。
※ミギーのように一日数時間休眠するかどうかは不明です。
【F-3/一日目/午後】
【
足立透@PERSONA4】
[状態]:
鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(極大) 、爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血
[装備]:MPS AA‐12(残弾4/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率、
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:対主催に紛れ込んで身の安全を確保する。無理ならゲーム肯定派と手を組む(有力候補は魏志軍)。
1:ゲームに参加している鳴上悠・
里中千枝の殺害。
2:自分が悪とバレた時は相手を殺す。
3:隙あらば、同行者を殺害して所持品を奪う。
4:エスデスとは会いたくない。何でこっちくんだよ……。
5:DIO...できれば会いたくないし気が進まないけど、ねぇ。
6:しばらく交戦は避けたい。休みたい。 ほんと勘弁してくれよ!
7:殺人者名簿を上手く使う。
8:逃げる。とにかく人質(雪乃)を上手く使う。
9:広川死ね!あの化け物(後藤)とエスデス死ね!もうみんな死ね!
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。
【
雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、MAXコーヒー@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている、ランダム品0~1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
0:セリューには由比ヶ浜を殺した償いを必ずさせる。
1:何とか足立から逃げたいが。
2:比企谷君...由比ヶ浜さん...戸塚くん...
3:イリヤが心配
4:サリアさんは……。
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
【G-5/一日目/午後】
【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(大) 、左肩にダメージ、ノーパン、頭部出血(中)、全身にガラスによる切り傷。アンジュを喪った衝撃(超極大)
[装備]:グロック17@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2、クロのパンツ フォトンソード@ソードアート・オンライン
[思考]
基本:ノーマらしく殺し合いを潰す。
1:イリヤをぶちのめす。あの化け物(エンヴィー、名前は知らない)には要警戒。
2:花陽を学院まで護送する。
3:エンブリヲを殺す。
4:マスタングとイェーガーズ(ウェイブはともかくエスデス)を警戒。マスタングは千枝とは会わせないほうが良いかもしれないが、千枝には決着はつけさせておきたい。
5:キンブリーの言葉を鵜呑みにしない。
6:千枝とは別行動し、全てが片付いたら地獄門で合流すし足立の事について問い質す。
7:強い戦力になるもの、特にパラメイルかラグナメイルが欲しい。
8:アンジュ、モモカ、サリア……。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。
※キンブリーと情報交換しました
【
小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(中)、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)
[装備]:音ノ木坂学院の制服
[道具]:デイパック×2(一つは、ことりのもの)、基本支給品×2、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ、スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation 、寝具(六人分)@現地調達、サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:穂乃果と会いたい。
3;μ'sの仲間や
天城雪子、
由比ヶ浜結衣の死へ対する悲しみと恐怖。
4:セリムくんは本当にただの人殺しなのかな...?
5:雪乃には無事で居て欲しい。
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後。
【F-5/一日目/午後】
【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、全身に打撃痕(痛みは無し)、高揚感、狂気 、欲求不満(拷問的な意味)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1~3、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:亡き友アヴドゥルの宿敵DIOを殺す。
1:ジュネスか、アカメか、御坂か、足立か。
2:クロメの仇は討ってやる。
3:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
4:タツミに逢いたい。
5:ウェイブを獲物として認め、次は狩る。
6:拷問玩具として足立は飼いたい。
7:アカメ(ナイトレイド)と係わり合いのある連中は拷問して情報を吐かせる。
8:後藤とも機会があれば戦いたい。
9:もう一つ奥の手を開発してみたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※
暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
【D-4/一日目/午後】
【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(大)、出血(中、止血済み)、疲労(超絶大)、精神的疲労(大)、左肩に裂傷、左腕に裂傷、全身に切り傷
[装備]:修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!、エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:ディバック、基本支給品×2、グリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ、不明支給品0~3(セリューが確認済み)、首輪×2、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、雷神憤怒”アドラメレク@アカメが斬る!(左腕部のみ 罅割れあり)
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。一度自分達の在り方について話し合い、考え直す。
0:キンブリーは必ず殺す。
1:エスデスが誰かを害するのなら倒す。出来れば説得したいが。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具は移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:セリューと合流し、一緒に今までの行いの償いをする。
6:サリア……。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。
最終更新:2016年03月04日 22:01