概要
「弾劾演説」は、1714年にグロワス13世(サンテネリ国王)が、国内の政治的混乱に乗じた外部の工作を鎮静化させ、民衆の怒りの矛先を真の敵へと向けさせるために行った演説である。
この演説は、グロワス13世が王権を枢密院に委任する「大回廊の勅令」を出したものの、貴族会に一時的に拒否されたことで、シュトロワ市内の政情不安が高まったことを背景に行われた。この混乱に乗じて、アングランの工作により、民衆の不満と怒りはガイユール公領に向けられ、多くの市民がガイユール館を取り囲む騒乱状態に陥っていた。
目的
この演説の主な目的は、民衆の怒りを鎮め、その矛先をガイユールから真の敵であるアングランへと転換させることであった。そのために、王はゾフィ妃と共に軍装で騎乗し、近衛兵を率いて騒乱の渦中にあるガイユール館へ向かうという演出を行った。これは、王家とガイユール家の揺るぎない結束を視覚的に示し、民衆に植え付けられたイメージを覆す狙いがあった。
この演説により民衆は王の言葉に熱狂し、ガイユールへの敵意は霧散した。代わりに、彼らの怒りはアングランへと向けられ、王とゾフィ妃への忠誠を叫んだ。
また、この演説は当時学生だった思想家ジュール・レスパンにも強烈な印象を与えた。彼は王を「傑物」と認めつつも、その巧みな民衆扇動の手法を本質的に「不正」であると断じ、王に対して強い関心と反発を抱くきっかけとなった。アングラン側もこの演説とその後の民衆の反応を脅威と受け止め、サンテネリに対する外交方針の再考を迫られることになった。
この演説により民衆は王の言葉に熱狂し、ガイユールへの敵意は霧散した。代わりに、彼らの怒りはアングランへと向けられ、王とゾフィ妃への忠誠を叫んだ。
また、この演説は当時学生だった思想家ジュール・レスパンにも強烈な印象を与えた。彼は王を「傑物」と認めつつも、その巧みな民衆扇動の手法を本質的に「不正」であると断じ、王に対して強い関心と反発を抱くきっかけとなった。アングラン側もこの演説とその後の民衆の反応を脅威と受け止め、サンテネリに対する外交方針の再考を迫られることになった。
演説全文
我が半身、敬愛して止まぬシュトロワの市民諸君に、ルロワの王グロワス13世が挨拶を送る!
この世界の中心に誇り高く生きる我がサンテネリ市民!賢明なる諸君に私は会いに来た!
私はある噂を聞いた!我がサンテネリに破廉恥な者が巣くい、堂々たる堅城を土台から食い破る白蟻のごとく、こそこそ闇に隠れて活動しているのだと!我らが祖国を敵に売り渡さんと!
なるほど!市民諸君!裏切り者はガイユールか?賢明な市民諸君の言だ。私はそれを信じよう!
ところで諸君、私は先年、まさにそのガイユール公領に旅した。我が祖先が攻め入ったのと同じ道を辿って。近衛とデルロワズの黒針鼠を率いた旅だ
バロワのヴァノー、デルロワズのルエンを抜けて、古都ロワイヨブルに入った。我が父祖が激戦の末奪い取ったガイユールの堅城に
私は覚悟した。何しろ因縁の地だ。いかにこのサンテネリの王といえど、罵声を受け、石以て追われるかも知らん。そんな覚悟を秘めて私は城門をくぐった
城門を抜けた私が受けたのは——地を揺るがさんばかりの歓声だった!王を讃え、サンテネリの栄光を祈り、ロワイヨブルの民は我らの兵の頭上に花を蒔いた!石ではない!花を!忠実なるシュトロワの諸君が私にしてくれるのと同じように
そのときの私の歓喜を諸君は想像できるだろうか!かつて城市を血で染め上げたルロワの王を、彼らは歓待したのだ!なんと寛大で、なんと高貴な態度だろう!
——とはいえ、賢明なる諸君が言うのだ。ガイユールは裏切り者で、私は見事にだまされたのだろう。私はシュトロワ市民を信じる
ロワイヨブルを出た私はガイユール公爵とともに領内を旅した。沿道の人々もまた同様に我らを讃えた。そして!私はついにガイユールの首府リーユにたどり着いた。諸君も聞いたことがあるだろう。あの”リーユの大門”をくぐり、私はガイユールの民にこの身を預けた。今度こそ石つぶてかと覚悟しながら。
しかし、予想に反して私になされたのはガイユールの民の大いなる祝福だった。人々はサンテネリの永遠の繁栄を願い、私を歓呼のうちに迎え入れた。
——だが、私がこの目で見たものは幻だったのかもしれない。賢明なシュトロワ市民が言うのだ。ガイユールは卑劣な害虫であると。私はだまされたのだろう
私は愚かな王だ!卑劣なガイユールのものたちにすっかりだまされていたようだ!親愛なるシュトロワの民が私に気づかせてくれた!——だが
諸君!私は愚かな王だ!父グロワス12世にも、祖父大帝にもとても及ばぬ若輩だ。しかし、愚かながらも、目の前にあるものを「在る」と認識することくらいはできる。そうだろう?皆は同意するか?例えば諸君が手に持つ酒の杯を「酒の杯」と認識することができるように。そんな能力くらいは私に備わっていると
今私が抜いた剣。この手に掲げる剣が諸君には見えるか!これこそは、私の父祖、そして諸君の父祖がガイユールを征した剣だ。私は今、この剣の存在を確実なものとして認識している!疑念ある者はいるか?!この剣が幻だと思う者はあろうか!
さて、賢明なるシュトロワ市民諸君。実は諸君に伝えたいことがある。
——私はガイユールの地で、ある”もの”を受け取った。それはガイユール秘蔵の宝玉!この大陸の隅から隅まで探しても同様の輝きは手に入らぬ、まさに門外不出の宝をガイユールは私に委ねた。その宝を護るためならばガイユールの人々は最後の一人になるまで戦うという、最上の宝物を彼らはこの私に贈ったのだ!
だが、諸君が私の目を覚ましてくれた今、私は受け取ったその宝の存在を疑ってしまう。何せ私が”唯一信ずる”シュトロワの諸君が言うのだから。
——どうだろう、共に確かめてくれまいか!私が受け取ったガイユールの宝が本当に存在するのか!
私が今、両手でかき抱くこの貴婦人の姿が諸君には見えるか?ガイユール大公の長女にしてその美と聡明さを謳われた淑女、ゾフィエンガイユールの姿が!彼らはこの唯一無二の宝を私に贈ってくれた。そして皆、見えるだろうか!今この貴婦人は、私の妻だ!
サンテネリの王にしてルロワ家の当主グロワスの妻、王妃ゾフィエンルロワだ!我らの王妃ゾフィは、シュトロワの誇りたる近衛の服を身に纏い、諸君にこうして会いに来た!これは幻だろうか!
賢明なシュトロワ市民諸君。教えてくれ!サンテネリ王を心から歓迎し、祝福し、秘中の秘たるこの”もの”を贈ってくれたガイユールは、果たして卑劣な裏切り者だろうか!
卑劣な売国奴ガイユールの大公女が、サンテネリを想い、シュトロワを愛し、ルロワの王と結び、そして我らの誇り高き軍衣を纏うなど、そんなことがあろうか!
——これは幻か?!市民諸君!ガイユールは我らの敵かっ?!賢明な諸君の判断を仰ぎたい!
親愛なるシュトロワ市民諸君。賢明なる市民諸君!私は自信が持てた。ガイユールは敵ではないな!むしろ我らシュトロワの民の友。家族だ。シュトロワの民の長とガイユールの長の娘が婚姻を交わしたのだ。我々は家族だ!
私は考えた。かくも賢明なシュトロワ市民は、なぜ家族たるガイユールを敵と、卑怯者と、売国奴と考えたのだろうかと。——諸君の賢明と忠誠はこの王が知っている。であれば、諸君を陥れた何者かが潜んでいるのではないか?栄光の王国サンテネリの平穏を厭い、混乱の種をまき、我ら家族が互いに憎しみ合う様を楽しげに眺める者が、どこかに潜んでいるのではないか。
私はそれが怖い。そのような悪意の者が我が国に潜んでいるのかもしらん
私は愚かな王だ。その卑劣漢の正体を見極めることができない。だから賢明なるシュトロワ市民諸君。この王に教えてくれ!私はサンテネリの王として我が国と我が民を苦しめるものを容赦しない!
この剣を振り下ろす相手は何者だ!その卑劣漢の名を王に教えてくれ!賢明なるシュトロワ市民諸君!