「んー?びびったかぁ?」
「わけないでしょ。でもいきなりその気になれって言われてなるほど簡単でもないよ、男ってのはさ」
すごい美人でもね。
「そりゃあ残念だ。なあ行商人さん、……だよな?」
「ああ。紐売りの商人だよ。刀の柄に巻くものだから、お姉さんには要らないかな」
背負った箱から一つ真田紐を取り出して見せた。
互いの身の上なんか、名前だって訊きもしなかったし尋ねられもしなかった。
何気なく取り出したのは水色に薄い黄色の糸を織り交ぜた紐だった。多分これじゃ似合わない。
秋に色づいた朽ち葉のような深い色合いの体の線出す衣に、
たっぷりした濃い象牙の、沢山ひだとりながら巻き付けた布。
そうだね、冴え冴えとした色より、秋の豊穣さが似合う。
「おー、綺麗じゃねぇか!髪に巻いたって良さそうだ!」
そりゃあ凄く結びにくそうだ。
手入れされた爪が紐に触れる。
「いくら?」
いい加減布団に苛々来てたから適当にあしらうことに決めた。
「売ーらない。言ったでしょ、刀の柄とかに巻く紐なんだって。
これは武士相手の商売、女の子が持ってたら物騒でしょが」
「俺ぁそんな深窓のお姫様じゃねぇって。な、行商人さん、遠い国の話聞かせてくれよ。
このへんの男じゃないんだろ?」
内心を知ってか知らずか、普通にどこの町でも求められる、どこか知らない土地の話せがまれた。
そのまま女は迷わず菓子に手を伸ばし、一口で食べた。
ついで辺り軽く見回して、襖空けておねーさん水くれや、二人ぶんなー、と軽く注文入れる。
………なんていうか、布団引いてあって茶屋の二階でとか気にしてない子だった。
ちょっとだけ残念、でも気が楽になった。
そりゃ一般人に紛れて街並みに出りゃー俺だって色々あるけど、なんかねえ。
しかし、もしや四国はこんなもんなんだろうか。いや、んなわけない、と思う……多分。
「まあね。でもどこだって一緒だよ。景色は違うけどね」
「一緒?!一緒かよー……そっかあ」
なんか真面目な顔していた。そういう顔するとけっこう凛々しい。
ちゃらちゃら初めて見た男引っ張り込むアホな女かと思ってたけど、その面差しはそれなりだった。
気のせいかも知れないけど。
「どっか、行きたいの?知ってる国ならちょっとは教えられるけど」
「……いっちばんいい男が居る国ってどこか解るかい?」
前言撤回。アホーぅ。
ぺん、と額を叩くとにかっと笑った。日差しのような笑顔、旦那の笑顔もさわやかで裏表ないけど、
この女の笑い方とは違うな、なんかそう思った。
こっちの方が南国の太陽っぽい。いや、なんかこの国取り巻く海みたいな、
浅瀬が多くて潮の流れが訳わかんなくて、目まぐるしいのに一個も変わってないような感じ。
流罪の罪人の末がいっぱい居る国なのに明るくて、でも雑駁で、混沌としてるのに全部受け入れて爽やか。
「それは俺だーとか言おうぜぇ?」
誰が言うか。代わりに聞き返した。
「おねーさんのいい男ってどんな?」
「ええとー。包容力あって器でかくって俺のこと海みたいに抱き留めてくれてだな、
背は低くてもイイから髭で、筋肉あって、んで強いのがいいなあ。うん、海が似合う男がいいねぇ」
………ひげ?ひげぇ?二十歳前……かちょっと過ぎたか、
異人のトシは良く分かんないけど、とにかく若い女の人が髭!?
「ヒゲっすか」
つうか具体的だ。誰それ。なんか大将思い出したけど……まあ海は違うし。
姫親が行く!4
「わけないでしょ。でもいきなりその気になれって言われてなるほど簡単でもないよ、男ってのはさ」
すごい美人でもね。
「そりゃあ残念だ。なあ行商人さん、……だよな?」
「ああ。紐売りの商人だよ。刀の柄に巻くものだから、お姉さんには要らないかな」
背負った箱から一つ真田紐を取り出して見せた。
互いの身の上なんか、名前だって訊きもしなかったし尋ねられもしなかった。
何気なく取り出したのは水色に薄い黄色の糸を織り交ぜた紐だった。多分これじゃ似合わない。
秋に色づいた朽ち葉のような深い色合いの体の線出す衣に、
たっぷりした濃い象牙の、沢山ひだとりながら巻き付けた布。
そうだね、冴え冴えとした色より、秋の豊穣さが似合う。
「おー、綺麗じゃねぇか!髪に巻いたって良さそうだ!」
そりゃあ凄く結びにくそうだ。
手入れされた爪が紐に触れる。
「いくら?」
いい加減布団に苛々来てたから適当にあしらうことに決めた。
「売ーらない。言ったでしょ、刀の柄とかに巻く紐なんだって。
これは武士相手の商売、女の子が持ってたら物騒でしょが」
「俺ぁそんな深窓のお姫様じゃねぇって。な、行商人さん、遠い国の話聞かせてくれよ。
このへんの男じゃないんだろ?」
内心を知ってか知らずか、普通にどこの町でも求められる、どこか知らない土地の話せがまれた。
そのまま女は迷わず菓子に手を伸ばし、一口で食べた。
ついで辺り軽く見回して、襖空けておねーさん水くれや、二人ぶんなー、と軽く注文入れる。
………なんていうか、布団引いてあって茶屋の二階でとか気にしてない子だった。
ちょっとだけ残念、でも気が楽になった。
そりゃ一般人に紛れて街並みに出りゃー俺だって色々あるけど、なんかねえ。
しかし、もしや四国はこんなもんなんだろうか。いや、んなわけない、と思う……多分。
「まあね。でもどこだって一緒だよ。景色は違うけどね」
「一緒?!一緒かよー……そっかあ」
なんか真面目な顔していた。そういう顔するとけっこう凛々しい。
ちゃらちゃら初めて見た男引っ張り込むアホな女かと思ってたけど、その面差しはそれなりだった。
気のせいかも知れないけど。
「どっか、行きたいの?知ってる国ならちょっとは教えられるけど」
「……いっちばんいい男が居る国ってどこか解るかい?」
前言撤回。アホーぅ。
ぺん、と額を叩くとにかっと笑った。日差しのような笑顔、旦那の笑顔もさわやかで裏表ないけど、
この女の笑い方とは違うな、なんかそう思った。
こっちの方が南国の太陽っぽい。いや、なんかこの国取り巻く海みたいな、
浅瀬が多くて潮の流れが訳わかんなくて、目まぐるしいのに一個も変わってないような感じ。
流罪の罪人の末がいっぱい居る国なのに明るくて、でも雑駁で、混沌としてるのに全部受け入れて爽やか。
「それは俺だーとか言おうぜぇ?」
誰が言うか。代わりに聞き返した。
「おねーさんのいい男ってどんな?」
「ええとー。包容力あって器でかくって俺のこと海みたいに抱き留めてくれてだな、
背は低くてもイイから髭で、筋肉あって、んで強いのがいいなあ。うん、海が似合う男がいいねぇ」
………ひげ?ひげぇ?二十歳前……かちょっと過ぎたか、
異人のトシは良く分かんないけど、とにかく若い女の人が髭!?
「ヒゲっすか」
つうか具体的だ。誰それ。なんか大将思い出したけど……まあ海は違うし。
姫親が行く!4




