『アルバート街の子供たち』(アルバートがい の こどもたち、原題:Дети Арбата / Deti Arbata)は、ロシアの作家アナトーリー・ルィバコフ(Anatoly Rybakov、1911–1998)が1950年代後半から執筆を始め、20年以上にわたり地下で温めていた長編小説で、1987年にようやく『新世界』誌で発表された。

概要
ペレストロイカ期の象徴的作品の一つであり、スターリン時代の大粛清を正面から描いたことでソ連国内外に衝撃を与え、ルィバコフを一躍国際的に知られる存在にした。日本語訳はみすず書房から1990年に長島七穂訳で上下巻として刊行され、現在も入手困難な古書として扱われることが多い。
物語は主に1930年代前半のモスクワ、アルバート通り(アルバート街)を中心に展開する。主人公のサーシャ・パンクラートフは、共産主義青年団(コムソモール)の熱心なメンバーであり、理想に燃える大学生。友人たちとともに青春を謳歌するが、スターリンの権力集中が進む中で、些細な冗談や手紙が密告の材料となり、逮捕・シベリア流刑に追いやられる。並行して、若きスターリン(コバ)自身の過去や権力掌握の過程が冷徹に描かれ、1934年のキーロフ暗殺をきっかけとする大テロルの予兆が克明に示される。ルィバコフは、粛清の犠牲者となった無数の若者たちの運命を、スターリン体制の構造的犯罪として告発する。この小説の最大の特徴は、スターリンを単なる「悪の独裁者」ではなく、革命の理想を私物化し、猜疑心と恐怖政治で国家を支配する人間として描いた点にある。執筆当時、スターリン批判はタブーだったため、ルィバコフは20年以上原稿を隠し続け、ようやくゴルバチョフ時代に公表された。発表後、ソ連国内で数百万部が売れ、若者たちの「失われた世代」の声を代弁したとして大きな反響を呼んだが、同時に「スターリン像の再評価」を巡る論争も巻き起こした。続編として『一九三五年とその後の三十年』『恐ろしい裁判』『砂埃』があり、四部作としてスターリン時代全体を総括している。