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澆季溷濁(前編)

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「逃げなかったんだ」
「お主ら相手に逃げても無駄じゃろ」

中央司令部の建物を挟んだ向かい側で、ドロテアとモクバはメリュジーヌとシャルティアを待ち受けていた。
あれだけディオが大声で騒ぎ立てていたし、光の護符剣なんて目立つものが使われたのだから、こちらの襲来には気づかれているとは思っていた。しかしまさか建物内に息を潜めて隠れるどころか出口で堂々と待ち受けているとは思わなかった。さしたる驚きは無かったが。

「ギャオオオオオオ!!」

彼女たちを威圧するように、ドロテア達の背後に立つ青眼の白竜が咆哮をあげる。

「ブルーアイズホワイトドラゴン...俺の兄サマの魂のカードだ」
「ほぉ~、これはまたご立派なドラゴンでありんすねぇ」

シャルティアはニタニタと笑みを浮かべる。嘲笑。言葉こそ誉めてはいるが、こんな程度の竜で自分に勝てると思っているモクバ達の愚かさを嘲笑っているのだ。
モクバからしてみれば、その煽りは腹に据えかねるものがある。ブルーアイズホワイトドラゴンは海馬瀬人の象徴そのもの。それを愚弄されれば当然怒りが沸いてくる。
今すぐにでも食ってかかりたいところだが、ここでそれをするのは死を意味するのは充分に理解しているため、どうにか堪えていた。

「そっちも準備ができているなら話が早いね」
「待て待て。少し話をさせてくれんか?」

剣を構え、一足飛びにブルーアイズを斬りつけようとしたメリュジーヌにドロテアは呼びかけ止める。

またそれか、とメリュジーヌとシャルティアは共にため息を吐く。
そのやり取りは既にディオで終えている。
戦闘力では自分達より遥かに劣り、首輪目的で仲間を謀殺し、情報もシャルティアの力があれば容易く引き出せるときた。
以上のことを踏まえれば、彼らを見逃す価値は微塵もないのは覆らない。

「君たちと僕らで交渉が成立すると思っているのか?」
「妾達は孫悟飯達のもとへ向かっておる。メリュジーヌ、お前が殺し合いに乗っておることを誤魔化してやってもいいが?」
「彼らが殺し合いに乗った僕らの仲間だとは思わないの?」
「それも考えたわ。が、こうしてお前たちの潔癖を証明しようとしておる妾達を排除するつもりということは、孫悟飯達は打倒主催派なんじゃろ?もしも罠なら放っておけば妾達は勝手に自滅するんじゃし」
「......」
「そして、妾達にあれほどの力を見せつけ、且つ妾達と別れてからは策を弄せず殺し合いに臨んだお前が戦闘を避けたのは、孫悟飯達が相応の力を持っているから...そんな奴らの橋渡しをしてやろうと言っておるんじゃ」
「いい提案だね。ここで君たちを斬ってしまった方が早いのを除けばだけど」
「どうしてもダメか?」
「しつこいでありんすねぇ。もう赤ん坊でもわかることだと思いんす」
「なら仕方ない...気は進まんがやるしかないの」

ドロテアが魂砕きに手を添えた瞬間だった。

ドロテアの視界からメリュジーヌの姿が消えた。ドロテアが大剣を構えたのとほぼ同時。メリュジーヌは既に手を伸ばせば届く距離にまで踏み込んでいた。

「ッ!?」


モクバがポケットに手を入れようとするのが視界に入るが、もう遅い。このままドロテアを突き刺し、そのままモクバも斬り捨てる。あとはどこぞに潜ませているだろう獣耳の少年、キウルを探し出してそれで終わり。なんともまあ呆気ない戦いだ。
否、これは戦いでは無くただの蹂躙だ。信念もなく、力にモノをいわせただけのただの空虚だ。そんながらんどうな心のまま、メリュジーヌはドロテアに背を向け突きは虚しく空を切った。

「...なにをやってるでありんすか、お前」

眼前の光景にパチクリと目を瞬かせるシャルティア。それはメリュジーヌも同じだ。確かに自分はいまドロテアを刺そうとした。しかしそれがどうだ。彼女に無防備な背中を晒し、あまつさえ誰もいない空間に剣を突いているではないか。

予想外の出来事に硬直する両者。その隙をドロテアとモクバは見逃さない。

「隙ありじゃあ!」
「ブルーアイズ、尻尾だ!」

口角を釣り上げ横薙ぎに振るわれた魂砕きとブルーアイズの尻尾が同時にメリュジーヌの身体に当てられ、その身体が遠くへと吹き飛ばされていく。

「飛べ、ブルーアイズ!」

モクバの指示により翼を広げ、ドロテアとモクバを背に乗せた白龍は空を舞う。

「空なら安全とでも思ったでありんすか?」

シャルティアはルビーを手にし、ステッキに光を溜める。本来使えるスキルではなく、こちらを使ったのは、MPの節約だけでなく、試運転を兼ねてのことだった。せっかく新しい力を手にしたのだ。あんな都合よくデカい的があるなら利用しない手はない。使い勝手は美遊やイリヤを見て理解している。

「そぅらおちなんし!」

狙いを定め、ステッキを振るうと、ブルーアイズとは逆の方角へと光弾は放たれた。

「は?」

思わず間の抜けた声が漏れる。いま、確かに自分は龍へと狙いを定めた。なのに、光弾を発射しようとした寸前、急に撃ち出す方向が変わったのだ。

「おやぁ?モクバや、奴らどうあってもこのドラゴンに攻撃したくないらしいの。殊勝な奴らじゃ」
「へっへーん!奴ら、今さらブルーアイズにビビりやがったんだ!悔しかったら俺たちに追いついてみやがれぃ腰抜けども!」

舌を出し、如何にも子供じみた挑発をしながら飛び去ろうとするモクバ達に、シャルティアのこめかみにビキリと青筋が走る。
あの挑発が如何にもな演技であるのは充分にわかっている。
しかし、もともと彼女はプライドが高く気が長い性格ではない。それも、メリュジーヌや悟飯のような自分すら認める強者相手、少なくともイリヤ程度に戦えるならまだしも、あんな触れれば折れるような雑魚共に虚仮にされれば、当然の如くその怒りは沸き立ってしまう。

「いい気になってんなよゴミども」
苛立ち隠さぬ語気のまま、シャルティアは《グレーター・テレポーテーション/上位転移》を行使。
瞬きする間にブルーアイズの前にテレポートする。

「このままそのウスノロトカゲと地面にキスしゃがれぇ!」

シャルティアは純粋に身体能力も高い。その力を持ってすれば、殴るだけでドラゴンごと地面に叩き落とすこともできる。
怒号と共に振り上げた腕は、しかしブルーアイズを掠めることもなく別の方角へと振り下ろされた。

「んなっ...!?」

まただ。また、明確に狙いを外された。驚愕に目を見開いたその隙にドロテアの魂砕きとブルーアイズの頭突きが放たれ、シャルティアを地面へと叩き落とす。
その際に、モクバは中指を立てたファックサインを忘れずに。

「~~~~ッッッ!!!」

声にならない怒りを胸にシャルティアは立ち上がる。
先の迎撃には大したダメージを受けていない。だからこそか。この程度のことしかできない奴らに攻撃できないという不快感と憤怒が勝った。
この屈辱は悟飯に一方的に殴られた時にも匹敵する。

「ざけんな、ざけんな、ざけんなあああぁぁ!!」
「待ってシャルティア」

激しく形相を歪め、怒りのままに飛び立とうとするシャルティアをメリュジーヌが呼び止める。

「いま追いかけたところでさっきと同じ轍を踏むだけだ。ひとまず落ち着こう」
「あ゛ぁ゛!?」

八つ当たりの如く檄を飛ばしながら振り返るシャルティアだったが、メリュジーヌの顔を見てそれも止まる。
無表情。
今しがた自分も同じ失敗をしたというのに、微塵も感情を揺らがせない彼女を見ていればいやでも思考は冷えていくというものだ。

「情報を整理するよ。僕たちは確かに彼らを攻撃するつもりだった。しかし、いざ攻撃をしようとしたら明後日の方角へと向けさせられていた」
「これもさっきの金髪が使ってたカードでありんすか?」
「もしくは別の支給品か...なんにせよ、僕らが彼らを攻撃できないのは、恐らく彼らの仕業じゃない。あの少年も少女も反応すらできていなかったからね」
「ーーーあぁ、そういやいやんしたねぇ。コソコソコソコソ隠れ回ってるのがもう一匹」

二人は己の攻撃が向けられた方角へとジロリと視線をやる。
ドロテア達と対面した時から、誰かに見られているのは察していた。そしてその『誰か』の正体をメリュジーヌは既に看破している。
その答え合わせをするかのように、中央司令部の屋上から二人めがけて弓矢が飛来する。
メリュジーヌもシャルティアも微動だにせず、己の得物で迫り来るそれを軽々と弾き飛ばし、矢の来た方向に視線をやる。

獣耳の少年・キウル。ただ一人残った彼が、ヒトを超えた麗しき二槍の怪物を見下ろしていた。


「ふーっ」

キウルは嵌めていた指輪を外し、深く深呼吸をしながらメリュジーヌとシャルティアを見据える。今はまだそこそこの距離があるが、それでもなお二人の放つ強者の威圧感は肌に伝わってくる。
彼女たち以上の『神格』と対面したことはあるが、あの時は頼れる仲間たちがおり、なによりハクという漢がいてくれた。今は違う。
正真正銘、単身で、歴戦の仮面の者(アクルトゥルカ)達にも劣らぬ猛者二人を相手取らなければならない。
勝機はゼロ。動けば死。動かずとも死。相手の気まぐれでもなければ、確実に自分は数分以内に死ぬ。
それでも。やらなければならない。成さねばならない。

(私がやらなければ。私がやらなければ、モクバさん達だけじゃない。みんな、みんな...!)

第二射を構えようとする指が震えている。情けない。これがあの戦場を駆けてきた者の姿か。偉大なる義兄達に後を託された者の姿か。

(とまれ、とまれ、とまれ...!!)

ーーーやるだけやって、ダメだったらそんときゃ笑って誤魔化せばいいさ

脳裏に声が過った。かつて、姫殿下・アンジュに投げかけたハクの言葉が。
それは自分に向けられたものではない。けれど、あの時の、オシュトルであろうとする演技さら忘れていたかのような彼の言葉が、なんだか肩の荷を下ろしてくれたような感覚を抱いた。

(本当に緩いんですから、あの方は)

きっとこれは妄想だろう。ここは幼子だけが集められた蠱毒の流壺。罷り間違っても彼が呼ばれているはずもなし。けれど、キウルにはなんだか彼が見守ってくれているかのように思えて仕方がなくて。

眼前に現れた二人の怪物を前にしても、もう震えはしなかった。


だが現実は残酷だ。少年がいくら恐怖を乗り越えようとも、実力差が覆ることはない。
最強の名を欲しいままにする妖精王と始祖に次ぐ最高位たる真祖の吸血姫を前に、少年が一矢報いることなど奇跡が起こってもあり得ない。

いま、こうして向かい合っている時点で、勝敗は既に決していた。

ディオ・キウル・モクバ・ドロテアの四人が別行動を取る、そのほんのわずか前の出来事。


「いやはや、戦力的に微妙だとは思っておったがまさかここまでとは」

情報整理のため机に並べられた支給品を見ながらドロテアはひとりごちる。

光の護符剣。三分間、光の剣の牢に敵を閉じ込め攻撃を防ぐ。
チーターローション1人分。僅かな時間、足を速くする。
磁力の指輪。攻撃と防御を下げる代わりに相手は装備者以外に攻撃できなくなる。この効果は相手が装備者の存在を認識してから発揮される。

防御や時間稼ぎ目的ならそれなりに粒揃いではあるが、問題は迎撃用の手段だ。
キウルとディオ、そして永沢の支給品にはロクな攻撃手段が無かった。
現状、全員含めて攻撃に使えそうなのが魂砕きとブルーアイズホワイトドラゴンのみなのは流石に不安を覚えずにはいられない。
「どのみち魂砕きは妾しか使えんし、このドラゴンのカードはモクバがよく使い道を知っておるからモクバ。となれば、お前たち二人、特にディオ。お前はここで武器の調達をした方が良さそうじゃの」

ドロテアのその進言に反論を挟む者はいなかった。メリュジーヌやブラック、中島の姿を模した怪物達のような猛者相手に銃火器が通用するとは思えなかったが、それでも無いよりはマシだ。

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