俺、シカマルはこのモチノキデパート内にある休憩スペースでネモ、無惨、龍亞…さっき飯を運んできてくれた梨沙とテーブルを囲んで話していた。
休憩スペースといっても中々のもので、セルフだがコーヒーサーバーもあるし自販機もある。
ちょっとした小銭を支払えば、好きな飲み物を買えてゆっくり過ごせる。まあ、殆どカフェみたいなもんだ。
俺も定年退職したら、こういうところでのんびり店内を眺めながら過ごしたいもんだ。
休憩スペースといっても中々のもので、セルフだがコーヒーサーバーもあるし自販機もある。
ちょっとした小銭を支払えば、好きな飲み物を買えてゆっくり過ごせる。まあ、殆どカフェみたいなもんだ。
俺も定年退職したら、こういうところでのんびり店内を眺めながら過ごしたいもんだ。
ブラックの奴は、何処かへ消えちまった。ちょっと前に龍亞にちょっかいを出したばかりで、そう遠くには行ってないだろう。
止めても勝手に動くだろうから、放っておくしかないが。
止めても勝手に動くだろうから、放っておくしかないが。
話し合いの途中で放送も流れた。
やはり、死者の数が多すぎる。臨時放送に比べればマシだが6時間の間にここまで死ぬもんか?
灰原は想像できていたが、ネモの知り合いのニケが探していた水銀燈やおじゃる丸とかいう奴等の名前も流れていた。
こりゃ、いつナルトの名前が流れてもおかしくねえぞ…。
やはり、死者の数が多すぎる。臨時放送に比べればマシだが6時間の間にここまで死ぬもんか?
灰原は想像できていたが、ネモの知り合いのニケが探していた水銀燈やおじゃる丸とかいう奴等の名前も流れていた。
こりゃ、いつナルトの名前が流れてもおかしくねえぞ…。
それに報酬システムについても厄介だ。
殺した人数が多ければ、有利なアドバンテージを受けられる。
殺した人数が多ければ、有利なアドバンテージを受けられる。
あと殺人数だけじゃなく、首輪もカウントすると話していたな。
首輪が減れば、その分サンプルも消えて解析の邪魔になる。
マーダーもこの先、首輪は確保し出すだろう。ある意味ここから先、首輪は貴重品になるのかも。
首輪が減れば、その分サンプルも消えて解析の邪魔になる。
マーダーもこの先、首輪は確保し出すだろう。ある意味ここから先、首輪は貴重品になるのかも。
ネモの話す首輪解析のプランは、カルデアという施設に向かい、そこの施設に接続して処理能力を高めて首輪を外すプログラムを制作するとの話だった。
別の施設では無理かと聞いたが、やはりカルデアが最も望みがあるらしい。
乃亜の野郎がそんな馬鹿正直に施設内設備を再現するか、また首輪を外せるようなもの支給するもんか甚だ疑問ではあるが。
それにケチを付けるだけじゃ始まらねえ、とにかく何でも試すのには俺も賛成だった。
別の施設では無理かと聞いたが、やはりカルデアが最も望みがあるらしい。
乃亜の野郎がそんな馬鹿正直に施設内設備を再現するか、また首輪を外せるようなもの支給するもんか甚だ疑問ではあるが。
それにケチを付けるだけじゃ始まらねえ、とにかく何でも試すのには俺も賛成だった。
だが、あの藤木の奴が拡声器でマーダーを周辺に集めちまったらしい。
周辺に居そうなマーダーは氷を操る無惨の容姿をした奴とリーゼロッテとかいう女。
とくに後者は、世界を滅ぼすだとか何とか言ってるようだが…女版ブラックじゃねえか。
どちらもネモの手には余る相手だ。それなら、とても俺じゃ太刀打ちできねえ。
周辺に居そうなマーダーは氷を操る無惨の容姿をした奴とリーゼロッテとかいう女。
とくに後者は、世界を滅ぼすだとか何とか言ってるようだが…女版ブラックじゃねえか。
どちらもネモの手には余る相手だ。それなら、とても俺じゃ太刀打ちできねえ。
「戦車でカルデアまで一気に駆け抜けられれば問題はないと思う」
問題は人数ってとこか。
ネモの操る牛とその後ろの戦車。
スピードは出せるが、搭乗人数が限られちまう。
このデパートには大人数が集まっちまってるし、確かに全員を乗せるのは厳しそうだ。
ネモの操る牛とその後ろの戦車。
スピードは出せるが、搭乗人数が限られちまう。
このデパートには大人数が集まっちまってるし、確かに全員を乗せるのは厳しそうだ。
「乗せられて四人だ。それ以上はリスクが高い」
運転手のネモと……。
「これ以上、何を決める必要がある?」
無惨は乗る気満々らしい。
こいつは既に、残り二人をさっさと決めろ、自分が乗らないなど有り得ないという前提で話している。
言いたいことは色々あるが、まあそこで逆らうわけにゃいかねえな。
こいつは強い、悪いが上忍が10人居ても勝てそうにねえ。こいつが強過ぎるんだ。
一目でそこいらの賞金首なんざより、沢山血を浴びてるのがはっきりと分かった。
ここで癇癪を起こされても面倒だ。前向きに考えれば、ネモにこいつの世話係をやってもらうと思えば悪くねえ。ネモには悪いが。
無惨も仮にも首輪の情報を掴んだネモを殺す真似はしねえだろ。
ネモも上手くあしらって、対応してくれると思いたい。
こいつは既に、残り二人をさっさと決めろ、自分が乗らないなど有り得ないという前提で話している。
言いたいことは色々あるが、まあそこで逆らうわけにゃいかねえな。
こいつは強い、悪いが上忍が10人居ても勝てそうにねえ。こいつが強過ぎるんだ。
一目でそこいらの賞金首なんざより、沢山血を浴びてるのがはっきりと分かった。
ここで癇癪を起こされても面倒だ。前向きに考えれば、ネモにこいつの世話係をやってもらうと思えば悪くねえ。ネモには悪いが。
無惨も仮にも首輪の情報を掴んだネモを殺す真似はしねえだろ。
ネモも上手くあしらって、対応してくれると思いたい。
「私とネモの二人で十分だ。お前達は残れ。
ここで十分な療養を取るがいい」
ここで十分な療養を取るがいい」
意訳すれば足手纏いは消えろってか。
こりゃ、残り二人を乗せるのも嫌がるな。その分、速度が落ちてマーダーと接触する確立が上がっちまうって言いたいんだろ。
こりゃ、残り二人を乗せるのも嫌がるな。その分、速度が落ちてマーダーと接触する確立が上がっちまうって言いたいんだろ。
気に入らないが、強さで言えば無惨は役立つし移動速度を損なうリスクを負ってまで俺らを連れる理由はねえ。
ネモを確実にカルデアに送るのを優先した方が良い。
ネモを確実にカルデアに送るのを優先した方が良い。
「せめて、梨沙とあのしおって娘は乗せてあげてよ」
龍亞の言い分は、戦えない女子供の安全を考慮しろって事だった。
俺らといるより、悟空とかいう馬鹿強い奴と居た方が安全だろうしな。
俺らといるより、悟空とかいう馬鹿強い奴と居た方が安全だろうしな。
「これ以上無用な負担を強いらせるな。二人に酷だ。
あの戦車の揺れにも最早耐えられまい。それに、またあの氷のマーダーが現れた時、私とネモでは守り切れぬ。お前が守れ」
あの戦車の揺れにも最早耐えられまい。それに、またあの氷のマーダーが現れた時、私とネモでは守り切れぬ。お前が守れ」
ネモの能力は海水に由来する。凍結能力を持つその氷使いとの相性は悪いようだ。
無惨もまた日光の下では本領を発揮できず、不利な状況で戦わないといけない。
守れないというのも、分からなくはないが。
無惨もまた日光の下では本領を発揮できず、不利な状況で戦わないといけない。
守れないというのも、分からなくはないが。
「いつまで時間を無駄にする気だ? 貴様らが駄々をこねる間に、何人の罪のない子供が死んでいると思っている?
多くの命を救いたいのなら、ネモと私をカルデアに送り届けろ。
言わなくては分からないのか?」
多くの命を救いたいのなら、ネモと私をカルデアに送り届けろ。
言わなくては分からないのか?」
「そう…だけどさ…でも、無惨は強いんでしょ? ちょっとくらいさ」
「くどいぞ、貴様。私がネモを守ってやると言っている。
私とネモさえカルデアに行けば、後はどうとでもなる。何故、そんな簡単な事が分からぬ?
あの娘どもと、私の命が等価値だと本気で考えているのか?」
私とネモさえカルデアに行けば、後はどうとでもなる。何故、そんな簡単な事が分からぬ?
あの娘どもと、私の命が等価値だと本気で考えているのか?」
「…ぅ、っ」
「言え、言ってみろ。力も技もない下賤な娘共が、何の役に立つ?」
そこまで言うか?
こいつは良心も罪悪感も何もない。
共感性がまるでない。
表向き色々語るが、とにかく自分の安全が最優先だ。いっそ清々しい。
何が何でも首輪を外せるネモを手放したくないんだろう。
それでいて、リスクを欠片も背負いたくない。
……まあ、梨沙はともかく…しおって娘はな。
些か危険思考で、見張りも兼ねて保護してるって話だ。
無惨が乗せたくないって話は分からなくはねえよ。
そんなのを、カルデアに近づけて首輪の解除を邪魔されるようなことだってなくはねえ。
こいつは良心も罪悪感も何もない。
共感性がまるでない。
表向き色々語るが、とにかく自分の安全が最優先だ。いっそ清々しい。
何が何でも首輪を外せるネモを手放したくないんだろう。
それでいて、リスクを欠片も背負いたくない。
……まあ、梨沙はともかく…しおって娘はな。
些か危険思考で、見張りも兼ねて保護してるって話だ。
無惨が乗せたくないって話は分からなくはねえよ。
そんなのを、カルデアに近づけて首輪の解除を邪魔されるようなことだってなくはねえ。
「…私は平気よ。もういいわ」
ずっと黙っていた梨沙だったが…呆れて物も言えない様子だった。
ようやく絞り出したのがこの一言みたいだ。
元から梨沙も自分は良いから、しおだけ乗せてやれとずっと言ってたぐらいだしな。
ようやく絞り出したのがこの一言みたいだ。
元から梨沙も自分は良いから、しおだけ乗せてやれとずっと言ってたぐらいだしな。
「やめるんだ…龍亞……」
ネモも軽蔑を通り越して唖然としていた。
口を小さく開けて、静かに息を吐き出しながら目を細めている。
ここでの会議を始めてから、4人までなら2人でも速度は変わらないと再三説明していたが、無惨は一向に聞き入れなかった。
これ以上はどうやっても、話は進みそうにない。
口を小さく開けて、静かに息を吐き出しながら目を細めている。
ここでの会議を始めてから、4人までなら2人でも速度は変わらないと再三説明していたが、無惨は一向に聞き入れなかった。
これ以上はどうやっても、話は進みそうにない。
「おい」
ここに居る5人の中の誰でもない声が響く。
だが、その声は聞き慣れていた。この中じゃ一番縁があって付き合いが長い俺だから、一番先に気付いて振り返った。
音もなく気配も悟られずに、飄々とした態度を崩さないままブラックがそこに立ってやがる。
だが、その声は聞き慣れていた。この中じゃ一番縁があって付き合いが長い俺だから、一番先に気付いて振り返った。
音もなく気配も悟られずに、飄々とした態度を崩さないままブラックがそこに立ってやがる。
「退いてろ」
そういうことか。
察した俺は、横の龍亞と梨沙の襟を掴んで全速力で飛び退いた。ネモと無惨も遅れて、とはいっても途轍もない速さですぐに俺を追い抜いていく。
次の瞬間、俺らが居た休憩スペースはでかい氷山に押し潰された。
自然に生まれたもんじゃない。誰かが意図的に投擲したものだ。
考えたくもねえ。直径10数メートルはありそうな、氷の塊をぶん投げるような生き物なんざ。
察した俺は、横の龍亞と梨沙の襟を掴んで全速力で飛び退いた。ネモと無惨も遅れて、とはいっても途轍もない速さですぐに俺を追い抜いていく。
次の瞬間、俺らが居た休憩スペースはでかい氷山に押し潰された。
自然に生まれたもんじゃない。誰かが意図的に投擲したものだ。
考えたくもねえ。直径10数メートルはありそうな、氷の塊をぶん投げるような生き物なんざ。
「相も変わらず、人間との馴れ合いに執心しているようだな。絶望王」
(絶望王?)
氷山が砕け散って、コンクリートやガラスの破片を踏み潰しながら、黒髪の女が不遜にも歩んできた。
手には氷で作られたサーベルを握り、その目は絶望王と呼ばれたブラックへと注視されている。
やはり、ブラックは偽名か。
手には氷で作られたサーベルを握り、その目は絶望王と呼ばれたブラックへと注視されている。
やはり、ブラックは偽名か。
「首輪付けられて飼われたのが、そんなに不満か?
なってねえよ、まるで全然な。契約に五月蠅いのは悪魔の本分だろうが、口下手な営業トークで言い負かされてちゃ世話なくねえか?」
なってねえよ、まるで全然な。契約に五月蠅いのは悪魔の本分だろうが、口下手な営業トークで言い負かされてちゃ世話なくねえか?」
「良く吠える。
どちらが犬とその主か、今から分からせてやろう」
どちらが犬とその主か、今から分からせてやろう」
「ああ…そういう約束だったけな」
こいつ、人の知らねえ間に妙な因縁を作ってたみたいだ。
これ以上、面倒ごとを増やさねえでくれよ……。
これ以上、面倒ごとを増やさねえでくれよ……。
「そういうわけだ。お前ら、邪魔だから消えてくれ」
ブラックと女は飛び立ち、瞬きの内に数メートル先へと飛んで行っちまう。
言われるまでもなく、化け物共の喧嘩に首を突っ込む気なんか更々なかった。
あんな連中のバトルに付いてけるのなんざ、それこそ影レベルの忍か、カカシ先生…あと、噂じゃ滅法強いとかいうガイ先生でないと無理だ。
ガキの殺し合いにあんなの混ぜるのは、どういった神経してんだ乃亜は。
蟻の戦争にゾウを放り込んで面白いのか?
言われるまでもなく、化け物共の喧嘩に首を突っ込む気なんか更々なかった。
あんな連中のバトルに付いてけるのなんざ、それこそ影レベルの忍か、カカシ先生…あと、噂じゃ滅法強いとかいうガイ先生でないと無理だ。
ガキの殺し合いにあんなの混ぜるのは、どういった神経してんだ乃亜は。
蟻の戦争にゾウを放り込んで面白いのか?
「シカマル、藤木が居ない」
ネモの言うように、あの女の近くには誰一人いなかった。
「姿形は違うが、あれは偽無惨だ。それなら藤木が傍に居なきゃおかしい」
俺らを襲った藤木は偽無惨が連れ去ったのではと、ネモは推測していた。
もっとも、単に殺されたか特に連れ去りもしなかった可能性も高いが。
だが名前が呼ばれていない以上は、まだ藤木は生きてるってことだ。
そして1時間程前に、ネモ達は偽無惨と藤木に襲われている。二人は手を組んでいた。
もっとも、単に殺されたか特に連れ去りもしなかった可能性も高いが。
だが名前が呼ばれていない以上は、まだ藤木は生きてるってことだ。
そして1時間程前に、ネモ達は偽無惨と藤木に襲われている。二人は手を組んでいた。
「ふっふふふ…」
背筋が凍るような気がした。
あの陰鬱とした声色と、震える覚束ない笑い。
最初に俺達を襲ったあの、藤木茂その人の声だ。
紫電が弾ける音と共に、雷が人の形になって俺らの死角から現れる。
俺は瞬時に印を結び、ケリを着けようとして…。
あの陰鬱とした声色と、震える覚束ない笑い。
最初に俺達を襲ったあの、藤木茂その人の声だ。
紫電が弾ける音と共に、雷が人の形になって俺らの死角から現れる。
俺は瞬時に印を結び、ケリを着けようとして…。
「梨沙!!」
あの野郎! 真っ先に梨沙に狙いを着けて、電撃を撃ってきやがった!!
影真似で捕まえても、電撃は止まらねえ。
影真似で捕まえても、電撃は止まらねえ。
「くず鉄のかかし!!」
「!?」
龍亞が腕の機械のボタンを押す。その次の瞬間、ゴーグルを着けたボロい鉄のかかしが出現した。
藤木の電撃はそこへ吸い寄せられ、触れた途端に消失していく。
藤木の電撃はそこへ吸い寄せられ、触れた途端に消失していく。
話は聞いてたが、ヒヤッとしたぜ。
デュエルモンスターズのルールは大体把握したが、相手ターンにチェーン処理を行うのはかなりの反応速度が要る。
あいつも本職だけあって、カード使用の素早さだけは中々のもんだ。正直助かったぜ。
あんな電撃…梨沙に当たれば、ありゃ一溜りもねえ。
だが、くず鉄のかかしは使用後にインターバルが挟まる。次はあれじゃかわせない。
デュエルモンスターズのルールは大体把握したが、相手ターンにチェーン処理を行うのはかなりの反応速度が要る。
あいつも本職だけあって、カード使用の素早さだけは中々のもんだ。正直助かったぜ。
あんな電撃…梨沙に当たれば、ありゃ一溜りもねえ。
だが、くず鉄のかかしは使用後にインターバルが挟まる。次はあれじゃかわせない。
「!!」
ネモが海水を巻き上げ、鞭のように打ち付ける。
だが水に飲まれる前に既に、藤木は全身を雷に変化させ消失した。
直後、ネモの頭上に浮遊して現れ、雷を近距離で振り落とす。
後ろに飛び退いてネモは避けるが、雷の余波は床を砕きネモを煽って吹き飛ばしていく。
だが水に飲まれる前に既に、藤木は全身を雷に変化させ消失した。
直後、ネモの頭上に浮遊して現れ、雷を近距離で振り落とす。
後ろに飛び退いてネモは避けるが、雷の余波は床を砕きネモを煽って吹き飛ばしていく。
不味い。
あの無惨の着てた白服の時より厄介になっていやがる。
しかも、雷の力を使いこなしてねえか?
ネモから聞いてた限りじゃ、電撃を連打するくらいしか能力を使えてなかったはずだ。
あの無惨の着てた白服の時より厄介になっていやがる。
しかも、雷の力を使いこなしてねえか?
ネモから聞いてた限りじゃ、電撃を連打するくらいしか能力を使えてなかったはずだ。
まさか…あの氷の女と同行してたってことは、あれに何か入れ知恵されたのか。
畜生、やべえぞ。
龍亞のドラゴンのカードはまだ後10分近く、使用制限が残っている。
ネモもあまり負担を掛けられねえし…俺も戦闘じゃ碌に役に立たねえ。
龍亞のドラゴンのカードはまだ後10分近く、使用制限が残っている。
ネモもあまり負担を掛けられねえし…俺も戦闘じゃ碌に役に立たねえ。
残るのは無惨だが……。
「あ…あいつ……」
既に目の前では無惨が疾風のように駆けていて、ブラック達がこじ開けた風穴。
そこから差し込む日光から必死に身を遮ろうと走っていた。
そこから差し込む日光から必死に身を遮ろうと走っていた。
◇◇◇◇
「「「どうしよう~どうしよう~!! 敵襲だよ!!!」」」
3人のマリーンが大慌てであたふたして、騒ぎ立てる。
本体のキャプテンが魔神王との遭遇した情報を別のネモシリーズと共有していたのだ。
別の幹部格ならばともかく、マリーン達は事の急展開に動揺を隠せない。
本体のキャプテンが魔神王との遭遇した情報を別のネモシリーズと共有していたのだ。
別の幹部格ならばともかく、マリーン達は事の急展開に動揺を隠せない。
「落ち着いて、偽無惨をブラックが相手してるんでしょ」
先程のペーパームーンの会話とは逆にフランが宥める。
やはり、荒事に限ってはフランの方が慣れているし、ずっと冷静に物事を見ることが出来ていた。
やはり、荒事に限ってはフランの方が慣れているし、ずっと冷静に物事を見ることが出来ていた。
(マサオの名前…いや、感傷に浸る場合じゃないか)
当のフランも心中穏やかではなかったが、こうも慌ただしく目の前でパニくられるとこちらが落ち着かざるを得ない。
「うん、そうなんだけど…あの藤木って子にみんな襲われちゃって」
「…………なん、ですって」
藤木本人の実力ならともかく、あの雷の力は驚異的だ。
魔神王との戦闘後で消耗したネモでは手を焼きかねない。
魔神王との戦闘後で消耗したネモでは手を焼きかねない。
「ネモの雑兵共と吸血鬼の娘か」
カツカツと足音を立てて、白服に身を包んだ無惨が歩んでくる。
焦るフランと慌てるマリーンとは対照的に優雅ささえあった。
だからこそ、そのゆっくりとした歩調にフランは溜まらず苛立つ。
焦るフランと慌てるマリーンとは対照的に優雅ささえあった。
だからこそ、そのゆっくりとした歩調にフランは溜まらず苛立つ。
「貴方、ネモといたわね。梨沙は?」
怒声を交えつつ、声のトーンを抑えて無惨へと問いかける。
無惨も同じくネモと同じ空間に居たからだ。
では、何故それが一人こんな所に居るのか。
一人だけ逃げたからに他ならない。
無惨も同じくネモと同じ空間に居たからだ。
では、何故それが一人こんな所に居るのか。
一人だけ逃げたからに他ならない。
「私の知る所ではない。あの小娘など知るか」
「……臆病風に吹かれて、ここまで一直線に逃げてきたってことなの?」
決して口が裂けても口外することはないが。
藤木の食したゴロゴロの実の能力、その雷となり流動する身体に無惨は無力なのだ。
なにせ、血鬼術の類も含めて無惨は純粋な腕力に物を言わせた物理攻撃しか備わっていない。
覇気はおろか、チャクラも魔力も気も神秘も霊圧も、ロギアの肉体に攻撃を当てる術を無惨は何一つ持ち合わせていない。
一目で能力の不利を悟った無惨の行動は素早かった。
逃亡である。
藤木の食したゴロゴロの実の能力、その雷となり流動する身体に無惨は無力なのだ。
なにせ、血鬼術の類も含めて無惨は純粋な腕力に物を言わせた物理攻撃しか備わっていない。
覇気はおろか、チャクラも魔力も気も神秘も霊圧も、ロギアの肉体に攻撃を当てる術を無惨は何一つ持ち合わせていない。
一目で能力の不利を悟った無惨の行動は素早かった。
逃亡である。
「貴様の人間の真似事に私を巻き込むな」
「ッ……!」
そんな事も知らないフランからすれば。会話が成り立たない。臆病者の卑怯者だ。
即座に見切りをつけて、フランは横の壁に拳を打ち付けた。
轟音が響いて、コンクリートの壁にクレータが刻まれる。
即座に見切りをつけて、フランは横の壁に拳を打ち付けた。
轟音が響いて、コンクリートの壁にクレータが刻まれる。
「私、貴方と遊んでもいいかなと思ってたの」
明かな威嚇と牽制、そして脅しだった。
別に無惨が梨沙をご丁寧に守るとは思っていない。
だが、話すら取り合わないのは頭に来た。
それに真似事というのも、否定はしないが腹正しく聞こえる。
別に無惨が梨沙をご丁寧に守るとは思っていない。
だが、話すら取り合わないのは頭に来た。
それに真似事というのも、否定はしないが腹正しく聞こえる。
「フラン、駄目だよ、落ち着こうよ…!」
マリーンも無惨の態度に思うところはあれど、今の時点では味方側の男だ。
それにフランもあくまで脅しに止めているとはいえ、もしも無惨が売られた喧嘩を買うような真似をすれば、被害はより甚大だ。
フランも高位の吸血鬼だが、無惨もまた吸血鬼で言えば真祖に匹敵する。
戦えばどちらかが確実に死ぬ上に、ここにはマリーン以外にもしおも居る。
それにフランもあくまで脅しに止めているとはいえ、もしも無惨が売られた喧嘩を買うような真似をすれば、被害はより甚大だ。
フランも高位の吸血鬼だが、無惨もまた吸血鬼で言えば真祖に匹敵する。
戦えばどちらかが確実に死ぬ上に、ここにはマリーン以外にもしおも居る。
「……っ」
しおもただならぬ雰囲気の中、剣呑さを増す無惨とフランから数歩離れてじっとしていた。
こんな程度の距離を稼いだところで、どうこうなるものではないが、無意識の内に危険から遠ざかろうとしたのだろう。
マリーンもこの二人の交戦からしおを守れる自信はないし、フランも気に掛けるような器用な真似は難しい。無惨に至ってはそんな必要すらない。
こんな程度の距離を稼いだところで、どうこうなるものではないが、無意識の内に危険から遠ざかろうとしたのだろう。
マリーンもこの二人の交戦からしおを守れる自信はないし、フランも気に掛けるような器用な真似は難しい。無惨に至ってはそんな必要すらない。
「ねえ、無惨さんはここに居て。
代わりにフランちゃんが、梨沙ちゃんを探しに行けばいいんじゃないかしら」
代わりにフランちゃんが、梨沙ちゃんを探しに行けばいいんじゃないかしら」
静観していたベーカリーが口を開く。
「こいつを?」
フランの苛立ちは無惨の態度と、自分が離れればマリーンとベーカリー、あとは一応しおが無防備になる為に身動きが取れないと自覚していたからだ。
梨沙とネモを助けに行きたくとも、助けに行けないもどかしさ。
だが、ベーカリーの案ならば、確かにフランが居なくとも急な襲撃にも対応は可能だ。
梨沙とネモを助けに行きたくとも、助けに行けないもどかしさ。
だが、ベーカリーの案ならば、確かにフランが居なくとも急な襲撃にも対応は可能だ。
「そんな協力的なタマには見えないけれど」
無惨が素直に快諾するかは別として。
「でも無惨さん、一人遠くに行くのも嫌でしょう?」
無惨とて首輪解除の鍵を握るネモに死なれるのは困る。
日光の降り注ぐ青空の下で派手に抗戦するのは当然拒否しながら、ネモに死なれてその手掛かりを喪うのも本末転倒。
最優先は己の命だが、その次にネモの安否も必須だ。
故に絶望王と魔神王の戦闘と藤木から離れつつ、ネモから離れ過ぎない位置で日光を凌ぎながら様子を伺う。そのような消極的つつも、完全に戦場から離脱しきれない半端な状態にある。
日光の降り注ぐ青空の下で派手に抗戦するのは当然拒否しながら、ネモに死なれてその手掛かりを喪うのも本末転倒。
最優先は己の命だが、その次にネモの安否も必須だ。
故に絶望王と魔神王の戦闘と藤木から離れつつ、ネモから離れ過ぎない位置で日光を凌ぎながら様子を伺う。そのような消極的つつも、完全に戦場から離脱しきれない半端な状態にある。
「キャプテンに何かあれば、私が伝えられるから。
無惨さんはここで隠れて、キャプテンが本当に危ない時だけ動けばいいと思うわ」
無惨さんはここで隠れて、キャプテンが本当に危ない時だけ動けばいいと思うわ」
きっと、敵さんも無惨さんがいれば私達を簡単には襲わないものと、ベーカリーは付け加えて。
敵避けとしてはそれなりに使えるとは、フランも思う。
フランとて、無惨は下手にちょっかいを出したい相手じゃない。
強さだけならば、上位の妖怪に匹敵する。賢しい者なら交戦は避けようとするだろう。
無惨も格下相手なら、襲われようとも返り討ちは容易い。もし無惨が即逃げ出すような相手ならば、フランも戦ったとして勝ち目は薄い。
結果だけなら、リスクはあまり変わらないようにも思えた。
敵避けとしてはそれなりに使えるとは、フランも思う。
フランとて、無惨は下手にちょっかいを出したい相手じゃない。
強さだけならば、上位の妖怪に匹敵する。賢しい者なら交戦は避けようとするだろう。
無惨も格下相手なら、襲われようとも返り討ちは容易い。もし無惨が即逃げ出すような相手ならば、フランも戦ったとして勝ち目は薄い。
結果だけなら、リスクはあまり変わらないようにも思えた。
無惨にとっても、日光から逃れる為有無を言わさずネモから離れたが。
もしもあの身に危機が迫るのなら、無惨への危険度が一定の範疇を越えぬのであれば救出に行くのもやぶさかではない。
もっとも、だからといってネモにくっついてあんな人間の小娘などを日光を浴びるリスクを背負ってまで、守るのは御免被る。
だからベーカリーをネモの救難信号代わりとして、状況を随時把握しながら日光を凌げるこの場で待機を続けるのは悪くない案だ。
もしもあの身に危機が迫るのなら、無惨への危険度が一定の範疇を越えぬのであれば救出に行くのもやぶさかではない。
もっとも、だからといってネモにくっついてあんな人間の小娘などを日光を浴びるリスクを背負ってまで、守るのは御免被る。
だからベーカリーをネモの救難信号代わりとして、状況を随時把握しながら日光を凌げるこの場で待機を続けるのは悪くない案だ。
「たかが、料理人風情が策略家の真似事か? その浅はかな脳で私を操れるとでも?
思い上がりも甚だしい」
思い上がりも甚だしい」
「ごめんなさい。でもね、きっと悟空さんはしおちゃんを守ってあげると喜んでくれると思うの。
あの人は優しい人だから、これは無惨さんと悟空さんが仲良くなれるきっかけになれると思うわ」
あの人は優しい人だから、これは無惨さんと悟空さんが仲良くなれるきっかけになれると思うわ」
無惨は大きく舌打ちをした。
この女、どうにも本体のキャプテン以上にやり辛い。
無惨の最も望む答えと行動を、事前に先読みするかのようだ。
無惨の最も望む答えと行動を、事前に先読みするかのようだ。
ベーカリーは安寧を司る個体だ。
食事という人を楽しませることをやりがいとして、更に苦に対して否定的でリスクを嫌う。
後者について、ある意味では無惨という男の思想に最も近くあり、理解者とも言える。
食事という人を楽しませることをやりがいとして、更に苦に対して否定的でリスクを嫌う。
後者について、ある意味では無惨という男の思想に最も近くあり、理解者とも言える。
この場のみを単独で切り抜けるのは簡単だ。無惨には、それだけの力と強さが備わっている。
だがその後は別だ。シュライバーを始め、氷のマーダーがうろつきそれは無惨の姿で悪評をばら撒き、鬼狩りのような異常者共が標的を無惨へと定める事になりかねない。
そんな連中の他にも、まだ見ぬ強者が数多くいる。あのブラックという男も、最早金輪際関わりたくない程に無惨の中で警鐘を鳴らした強者だ。
だがその後は別だ。シュライバーを始め、氷のマーダーがうろつきそれは無惨の姿で悪評をばら撒き、鬼狩りのような異常者共が標的を無惨へと定める事になりかねない。
そんな連中の他にも、まだ見ぬ強者が数多くいる。あのブラックという男も、最早金輪際関わりたくない程に無惨の中で警鐘を鳴らした強者だ。
(何故、子供の殺し合いにあんな連中を何人も放り込んだのだ、あの乃亜(ばか)は!!?)
腹正しい。
考えるだけ、こめかみに血管が浮き上がる。
考えるだけ、こめかみに血管が浮き上がる。
とにかく無惨とて、油断のならぬ魔境。
その中で最強と謳われる孫悟空と友好関係を結び、その庇護下に収まるのは無惨にとっての最大の安寧である。
その中で最強と謳われる孫悟空と友好関係を結び、その庇護下に収まるのは無惨にとっての最大の安寧である。
それをベーカリーは先んじて提示してきた。
リスクを伴う事柄には保守的だが、この場でリスクを完全排除することが不可能である以上は、よりリスクを抑えた上で最も見返りがあるであろう選択を重視する。
無惨にとってもベーカリーにとってもだ。
リスクを伴う事柄には保守的だが、この場でリスクを完全排除することが不可能である以上は、よりリスクを抑えた上で最も見返りがあるであろう選択を重視する。
無惨にとってもベーカリーにとってもだ。
「……よかろう。だが、もし孫悟空が取るに足らぬ雑輩であれば、その命ないと思え」
「なら安心ね。悟空さんはとても頼りになる人よ~」
実に実に腹正しかったが。無惨一人では現状の打破は不可能なのは認めざるを得ない。
それ故に、業複だがこの料理人如きの口車に乗るしかない。
今までのように癇癪に任せて、激情的な行いに出ても解決する状況ではないのだ。
それ故に、業複だがこの料理人如きの口車に乗るしかない。
今までのように癇癪に任せて、激情的な行いに出ても解決する状況ではないのだ。
「……ごめんなさい、ベーカリー…行ってくるわ」
「ええ…行ってらっしゃい」
フランは少しだけ歩を進めて、振り返る。
やはり、無惨を代わりに置くとはいえ躊躇いもあったが。
この場で一番危ないのは梨沙達だった。
だから、躊躇いながらもフランは駆けだした。
二人目に出来た友達を、今度こそは喪わない為に。
やはり、無惨を代わりに置くとはいえ躊躇いもあったが。
この場で一番危ないのは梨沙達だった。
だから、躊躇いながらもフランは駆けだした。
二人目に出来た友達を、今度こそは喪わない為に。
「下らぬ」
腕を組んで、入れ替わるように無惨が椅子に腰掛ける。
とんだ茶番をしている。それが、ここまでの一連の光景を見た無惨の率直な想いだった。
とんだ茶番をしている。それが、ここまでの一連の光景を見た無惨の率直な想いだった。
「己の劣化にも気付けぬとはな」
無惨は変化を嫌う。
変化とは、衰えであり老いであり劣化が主であることを無惨は知っている。
フランが亀裂を入れた壁を一瞥する。
あんな人外が、人間の小娘一人に入れ込んで何が面白いのか。
変化とは、衰えであり老いであり劣化が主であることを無惨は知っている。
フランが亀裂を入れた壁を一瞥する。
あんな人外が、人間の小娘一人に入れ込んで何が面白いのか。
あれが死んでも、その次を探せば良いではないか。
どうせ吸血鬼(やつ)にとって、儚い時間しか生きられない。
子供が夏に捕まえた蝉のようなものだ。
死ねば次を捕えればいいだけのことだろうに。
子供が夏に捕まえた蝉のようなものだ。
死ねば次を捕えればいいだけのことだろうに。
蝉が死ぬたびに、一々泣く子供など何処にいる? 奴は阿呆なのか?
人の真似事など長くは続かない。
飽きるのは時間の問題だろうなと、無惨は決めつけた。
新しい玩具に入れ込んでから、散々遊んで捨てるのは子供の十八番だ。
飽きるのは時間の問題だろうなと、無惨は決めつけた。
新しい玩具に入れ込んでから、散々遊んで捨てるのは子供の十八番だ。
やはり、下らないと嘲笑して無惨は考えるのを辞めた。
「た…助け…、て、ェ……」
瞑想にふけようとしたその瞬間、赤い髪の少女が髪を取り乱してふらついた足取りで歩いてくる。
歩くというより、足を引き摺り辛うじて徐々に前に進んでいるという有様だ。
軍服だろうか? 少女らしいデザインに改造されてはいるが、ベーカリーやマリーンにはナチスの服にも見える。
無惨もナチスは別として、あれが軍服の類には見えた。
アドルフ・ヒトラーが首相となるのは、無惨の居た時代から約15年以上先の話だった。
歩くというより、足を引き摺り辛うじて徐々に前に進んでいるという有様だ。
軍服だろうか? 少女らしいデザインに改造されてはいるが、ベーカリーやマリーンにはナチスの服にも見える。
無惨もナチスは別として、あれが軍服の類には見えた。
アドルフ・ヒトラーが首相となるのは、無惨の居た時代から約15年以上先の話だった。
「凄い怪我だよ!」
顔は思いの外、泥や埃で汚れているものの奇麗だったが。
服は焼き焦げて、所々黒く炭化している。さらに服の端々にある隙間から見える素肌は焼き爛れ、痛ましい火傷を晒していた。
酷い拷問にあったのだろうことは明白だった。
服は焼き焦げて、所々黒く炭化している。さらに服の端々にある隙間から見える素肌は焼き爛れ、痛ましい火傷を晒していた。
酷い拷問にあったのだろうことは明白だった。
「これは酷いや…ナースを呼ばないと」
「待て、この女……」
確かそうだ。
ディオとキウル…そういえば片方は放送で名が呼ばれていたかと、それはどうでもいいことだなと思い出して。
あの二人の少年と共にいた、確かルサルカという女だったはずだ。
ディオとキウル…そういえば片方は放送で名が呼ばれていたかと、それはどうでもいいことだなと思い出して。
あの二人の少年と共にいた、確かルサルカという女だったはずだ。
「この服…」
改めて眺めて見れば、この女の服も見覚えがある。
そう、唐突に現れ無惨を襲ってきた気狂いの白き狂狼のものと同じだ。
特に腕にある赤い腕章、シュライバーも同じものを身に着けていなかったか?
そう、唐突に現れ無惨を襲ってきた気狂いの白き狂狼のものと同じだ。
特に腕にある赤い腕章、シュライバーも同じものを身に着けていなかったか?
冗談じゃない。
無惨は心中穏やかではなかった。
まるで不吉の前触れ、凶兆のようにルサルカが現れたのは気のせいか?
◇◇◇◇
私、ルサルカはマリーンとかいう、褐色の船乗りの男の子に介抱されていた。
参加者じゃないわね。分身みたいなものか。
それにしても、とても高度な分身だわ。向こうのコックさんもそうだけど、それぞれがしっかりと自立し自我を持っている。
首輪さえなければ、参加者との見分けも殆どつかない位に。
参加者じゃないわね。分身みたいなものか。
それにしても、とても高度な分身だわ。向こうのコックさんもそうだけど、それぞれがしっかりと自立し自我を持っている。
首輪さえなければ、参加者との見分けも殆どつかない位に。
感心しつつ、胸を撫で下ろす。上手く対主催に潜り込めた。
誰が、あんなゼオンなんかの言う通りなんかになるもんですか…!
私の体の何処かに声を届ける何かを仕込んだみたいで、急にゼオンはデパートに居る参加者への襲撃を私に命じてきた。でも、そんなの御免だ。
だから、わざと歩くスピードを遅めた。
だから、わざと歩くスピードを遅めた。
ゼオンの口ぶりは、表向きは平坦だったけど少しだけ焦り苛立ちがあった。
多分、この襲撃作戦は急遽計画したもの。
そこで丁度、私を使い捨ての駒にしようと思ってるんでしょう?
言ってやったわ、デパートに着くには時間が掛かると。
多分、この襲撃作戦は急遽計画したもの。
そこで丁度、私を使い捨ての駒にしようと思ってるんでしょう?
言ってやったわ、デパートに着くには時間が掛かると。
ゼオンは苛立って、電撃を飛ばしてきたけど、私も黒円卓の端くれよ。廃人にするのなら2桁以降の回数は必要。
何度撃たれたってそう簡単に壊れてやらない。
何度撃たれたってそう簡単に壊れてやらない。
それに本当に身体は限界で、これ以上速く動くのは無理だもの。
死ぬほどの無理をすれば別だけど、死ぬくらいならゼオンとの根競べを選ぶ。
そしたらあの坊や、痺れを切らしたわ。
きっと、時間がなかったのね。私が駄々をこねて電撃を浴びせても全然主張を曲げないのを見て、時間の無駄だと一方的に通話を切ったわ。
時間が有限であるなら、私を廃人にする時間も惜しいってこと。
読み通り、数発電撃を浴びせてそれっきり。
死ぬほどの無理をすれば別だけど、死ぬくらいならゼオンとの根競べを選ぶ。
そしたらあの坊や、痺れを切らしたわ。
きっと、時間がなかったのね。私が駄々をこねて電撃を浴びせても全然主張を曲げないのを見て、時間の無駄だと一方的に通話を切ったわ。
時間が有限であるなら、私を廃人にする時間も惜しいってこと。
読み通り、数発電撃を浴びせてそれっきり。
ゼオンは恐らくはあの変な帽子、間抜けな格好だったけどあれが恐らく何かの能力を与えていたに違いない。
あの子自身、黒円卓に差し迫る強さだったけど、それ以外にも私の行動を随時先読みするような手際の良さに違和感があった。
特定距離内の未来予知か、または読心能力のどちらかってところかしらね。
だから、距離さえ空けばこちらの考えを見透かされることはなさそうだ。
それならこちらのものよ。声色だけでも、あの坊やの状況を察して読み取るなんて簡単なんだから。
いくら、雷で脅そうとフェアなフィールドでの読み合いと駆け引きなら、私があんなクソガキに劣る道理なんかない。
歳の功を舐めんじゃないわよ!!
あの子自身、黒円卓に差し迫る強さだったけど、それ以外にも私の行動を随時先読みするような手際の良さに違和感があった。
特定距離内の未来予知か、または読心能力のどちらかってところかしらね。
だから、距離さえ空けばこちらの考えを見透かされることはなさそうだ。
それならこちらのものよ。声色だけでも、あの坊やの状況を察して読み取るなんて簡単なんだから。
いくら、雷で脅そうとフェアなフィールドでの読み合いと駆け引きなら、私があんなクソガキに劣る道理なんかない。
歳の功を舐めんじゃないわよ!!
……言ってて悲しくなるわ。
とにかく、ゼオンからもぎ取った妥協は遅くて良いから対主催に紛れながら、奇襲しろというもの。
既にジャックとかいう継ぎ接ぎ小娘が何処かに潜んでるでしょうね。
それに、大規模な戦闘が近くで始まっている。多分、こいつらをぶつけ合わせるのに、時間を気にしていたのかしら。
まあ、何だっていいわ。
拷問用の雷の解呪は妨害されるし、裏切り行為は継ぎ接ぎ娘に暗殺される恐れもある。
でも、対主催に紛れるのであれば命令に背くわけじゃない。
だから表向き命令を遂行するように見せかけて、あいつらの裏を掻いてやる。
既にジャックとかいう継ぎ接ぎ小娘が何処かに潜んでるでしょうね。
それに、大規模な戦闘が近くで始まっている。多分、こいつらをぶつけ合わせるのに、時間を気にしていたのかしら。
まあ、何だっていいわ。
拷問用の雷の解呪は妨害されるし、裏切り行為は継ぎ接ぎ娘に暗殺される恐れもある。
でも、対主催に紛れるのであれば命令に背くわけじゃない。
だから表向き命令を遂行するように見せかけて、あいつらの裏を掻いてやる。
デパートに着いてから、食人影(ナハツェーラー)に辺りを軽く捜索させて、上階に人がいるのが確認できた。
もう歩くのも辛くて、エレベーターに乗って少し休む。
着いたフードコートのエリア、その中にあるレストランの一つにマリーン達はいた。
もう歩くのも辛くて、エレベーターに乗って少し休む。
着いたフードコートのエリア、その中にあるレストランの一つにマリーン達はいた。
「えーと、えーと、ナースは……」
マリーンの別個体には医者も居るみたいだ。
治療を受けながら本体のネモに会ってそのまま上手く、解呪に繋げられると良いんだけど。
治療を受けながら本体のネモに会ってそのまま上手く、解呪に繋げられると良いんだけど。
もう一人、俊國君…いえここだと無惨と呼ばれていたわ。名簿にもある名前だし、それが本名ね。
ディオ君とキウル君と居た時にも会ったわね、彼……なんだか、最初と全然雰囲気違うんだけど…。
ディオ君とキウル君と居た時にも会ったわね、彼……なんだか、最初と全然雰囲気違うんだけど…。
そういえばキウル君、放送で呼ばれてたわね。
……ま、長生き出来そうなタイプじゃないでしょ彼。
……ま、長生き出来そうなタイプじゃないでしょ彼。
私は絶対に、貴方みたいにはならないわ。ええ、最後に生き残って笑うのは私よ。
どうせ、誰かに利用されて捨てられたんでしょう? ディオ君なんか、モロにそういうことしそうじゃない。
貴方、どんな死に方したのかしら? やっぱりそういう時に限って、不死身になりたいとか思うのかしらね。
どうせ、誰かに利用されて捨てられたんでしょう? ディオ君なんか、モロにそういうことしそうじゃない。
貴方、どんな死に方したのかしら? やっぱりそういう時に限って、不死身になりたいとか思うのかしらね。
まあ、死んだ子の事なんてどうでもいいわ。そんなことより今は体力を温存して、デパート内の戦闘に巻き込まれないように立ち回りながら、術の解呪を目指さないと。
この好機を絶対に逃しはしない。絶対に───
この好機を絶対に逃しはしない。絶対に───
「はははははははははは!!!」
目の前に広がるフードコート、まあレストランが幾つも並んでて休日の昼間なんかは家族連れ何かが賑わうのかしら。
きっと、子供の声なんかも良く響くんでしょうね。あんな風に。
きっと、子供の声なんかも良く響くんでしょうね。あんな風に。
「ふざ、ふざけるな…ふざけるなあああああああああああ!!!」
無惨の雄叫びが木霊して、デパート内を響かせる。
ああ、お願い…あの笑い声の主がシュライバーじゃありませんように。
ああ、お願い…あの笑い声の主がシュライバーじゃありませんように。
*
「ふふふ…ああ、良いねぇ。お祭りに乗り遅れずに済んだみたいだ」
くつくつと笑って、シュライバーは自分に注がれる視線を意識する。
ボロボロだが先ずは一人、探し人の赤い殺戮対象(いとしいひと)を見付ける。
あとは、何かの分身らしき雑兵が数人と料理人。塵芥に等しい幼児。
そして、つい数時間前に取り逃がしたあの怪物が居るではないか。
あとは、何かの分身らしき雑兵が数人と料理人。塵芥に等しい幼児。
そして、つい数時間前に取り逃がしたあの怪物が居るではないか。
ここにいるのはこの数人だが、他にもまだ歯ごたえのある沢山獲物も居る。
なるほど、ここは絶好の狩場なのだとシュライバーは歓喜した。
なるほど、ここは絶好の狩場なのだとシュライバーは歓喜した。
孫悟空との交戦後、次なる戦場を求め走っていたシュライバーは氷と蒼炎が空中で打ち合う光景を目撃する。
氷はともかく、蒼炎はあの青コートの男のものだ。
氷はともかく、蒼炎はあの青コートの男のものだ。
───そうか、僕を誘っているんだね。よし、乗ってあげるよ。
勝手に納得したシュライバーは、餌を前にした飢えた犬のように走り出す。
到着したデパートには複数人の気配があった。
かなりの、大人数が密集しているらしい。
見れば以前に出くわした絶望王ともう一人、誰か知らないが英雄が狩るに相応しい怪物が交戦していた。
早速、仲間に加わろうかという時。
視界の隅で、ルサルカを見付けてしまった。引き摺った足でヨタヨタとデパート内へと侵入していく。
到着したデパートには複数人の気配があった。
かなりの、大人数が密集しているらしい。
見れば以前に出くわした絶望王ともう一人、誰か知らないが英雄が狩るに相応しい怪物が交戦していた。
早速、仲間に加わろうかという時。
視界の隅で、ルサルカを見付けてしまった。引き摺った足でヨタヨタとデパート内へと侵入していく。
───アンナも居るのか、悩むねえ。
シュライバーとしては珍しく迷い、だがすぐに結論を出す。
絶望王達の決着は当分先だろう。その前にルサルカを殺しておく。
また逃げられても、面倒だ。
遊佐司狼に敵討ちをするには、ここで死んで貰わないと困るのに、当のルサルカはそれを拒否する。それに逃げ足が早い。逃がして探すのも手間だった。
ルサルカを殺してから、改めて絶望王に挨拶に行っても十分間に合うだろう。
絶望王達の決着は当分先だろう。その前にルサルカを殺しておく。
また逃げられても、面倒だ。
遊佐司狼に敵討ちをするには、ここで死んで貰わないと困るのに、当のルサルカはそれを拒否する。それに逃げ足が早い。逃がして探すのも手間だった。
ルサルカを殺してから、改めて絶望王に挨拶に行っても十分間に合うだろう。
───上かな?
デパート内で、ルサルカの跡を辿り、行先に検討を着けて。
エレベータを使ったのか、階数がご丁寧に表示されていた。
エレベータを使ったのか、階数がご丁寧に表示されていた。
───もう、アンナは本当に可愛いなぁ。
シュライバーは溜まらず嬉しそうに笑う。
恋人に会うのだから、嬉しくない筈がないと。過剰な演技をするかのように。
恋人に会うのだから、嬉しくない筈がないと。過剰な演技をするかのように。
「さあ、怪物退治の再開だァ!!!」
まず目についたのは無惨だった。
一度取り逃がした手前、ここで見逃す手はない。無惨を轍に変えてから、残る全員皆殺しに向かってやろう。
丁度、ルサルカ(アンナ)もいる。
怪物に囚われた姫君を救出する愛人(えいゆう)だなんて、洒落が効いている。
一度取り逃がした手前、ここで見逃す手はない。無惨を轍に変えてから、残る全員皆殺しに向かってやろう。
丁度、ルサルカ(アンナ)もいる。
怪物に囚われた姫君を救出する愛人(えいゆう)だなんて、洒落が効いている。
「馬鹿が!! 馬鹿がァァァ!!!」
密室内で音速を越えた速度で駆け回るシュライバーへ無惨は怨念を込めた怒声を飛ばす。
ソニックブームがテーブルを椅子を、内装を巻き上げ、砕いて、屋内で反響した衝撃波が無差別に破壊を誘発する。
いつ、このコンクリートの壁が粉砕し、日光が差し込むか。
だが、日光を遮れるシルバースキンでは無惨の本来のポテンシャルを発揮しきれない。
故に脱ぐしかなく、またそうしなければシュライバーの戦闘に食いつけない。
ソニックブームがテーブルを椅子を、内装を巻き上げ、砕いて、屋内で反響した衝撃波が無差別に破壊を誘発する。
いつ、このコンクリートの壁が粉砕し、日光が差し込むか。
だが、日光を遮れるシルバースキンでは無惨の本来のポテンシャルを発揮しきれない。
故に脱ぐしかなく、またそうしなければシュライバーの戦闘に食いつけない。
「おおおおおおおおおおォォォォォォ!!!」
刃を無数に生やした両腕と、背中から生やした無数の鉄線のような触手を悪戯に振るう。振るい続ける。
ここが屋内である以上、シュライバーの動きは限定されている。
それならば、あの速さに付いて行けずとも出鱈目に腕と触手を振り回せば、いずれは当たるだろうという判断だった。
ここが屋内である以上、シュライバーの動きは限定されている。
それならば、あの速さに付いて行けずとも出鱈目に腕と触手を振り回せば、いずれは当たるだろうという判断だった。
「何処狙ってるんだよォ! 下手糞がァ!」
針の穴を縫うように斬撃の合間をすり抜け、シュライバーは射撃を開始する。
ソニックブームと無惨の斬撃、そしてモーゼルから発せられる銃声がデパート内の一室に木霊する。
家族連れ、カップル、子供達が歓声をあげて賑わう憩いの場が一瞬にして血に塗れた戦場へと変貌した。
ソニックブームと無惨の斬撃、そしてモーゼルから発せられる銃声がデパート内の一室に木霊する。
家族連れ、カップル、子供達が歓声をあげて賑わう憩いの場が一瞬にして血に塗れた戦場へと変貌した。
「───ッッ!!?」
鼓膜が張り裂けかねないほどの騒音のなか、全身を撃ち抜く魔弾の五月雨。
数百発の弾丸が無惨の肉体に減り込み血を流させるが、そんなもの構う暇もない。
確かに、一つ一つが砲弾のように重い。以前の交戦から思っていた事だが、並みの鬼狩り程度なら容易く蹴散らせる。
下弦の鬼でも、これを捌ける者はそうはいない。
だが、無惨にしてみれば、いざ生身で喰らってみればさほど大した威力ではない。
前回は日光の真下、屋外の戦闘であった為にシルバースキンの破損に気を取られ冷静でいられず、その素早さにも翻弄されたが。
元より無惨の肉体は本人も称するように完璧に限りなく近い生物、疑似的な不死に近い。
例えシュライバーの銃撃であろうとも、それらは神秘の限りなく低い量産品。
無惨が化け物と知るあの男の刃には遠く及ばず、また制限されたとはいえ無惨の再生を上回るだけの連射ではない。
数百発の弾丸が無惨の肉体に減り込み血を流させるが、そんなもの構う暇もない。
確かに、一つ一つが砲弾のように重い。以前の交戦から思っていた事だが、並みの鬼狩り程度なら容易く蹴散らせる。
下弦の鬼でも、これを捌ける者はそうはいない。
だが、無惨にしてみれば、いざ生身で喰らってみればさほど大した威力ではない。
前回は日光の真下、屋外の戦闘であった為にシルバースキンの破損に気を取られ冷静でいられず、その素早さにも翻弄されたが。
元より無惨の肉体は本人も称するように完璧に限りなく近い生物、疑似的な不死に近い。
例えシュライバーの銃撃であろうとも、それらは神秘の限りなく低い量産品。
無惨が化け物と知るあの男の刃には遠く及ばず、また制限されたとはいえ無惨の再生を上回るだけの連射ではない。
(残り、10秒といったところか)
フードコート内の破損、ダメージ状況を瞬時に見渡し具体的な限界時間を計算する。
ここは最上階、一度崩壊すれば確実に屋根になっている天井も崩れ、崩落に巻き込まれる。
それだけならばいいが、必然的に今なお忌々しく空で我が物顔で輝く太陽の光も差し込むことだろう。
ここは最上階、一度崩壊すれば確実に屋根になっている天井も崩れ、崩落に巻き込まれる。
それだけならばいいが、必然的に今なお忌々しく空で我が物顔で輝く太陽の光も差し込むことだろう。
(当たらぬ!)
決着は10秒以内、それが理想だ。
1秒という極僅かな時間の間に既に100以上の攻防が成立している。
シュライバーが縦横無尽に駆け巡り、無惨が悪戯に刃を振り回す。これらの行いが常に繰り返され続けていた。
単調だが単調すぎる故に、想定外の事も起こらずに崩落のリミットも無惨の予想通りに進んでいく。
4秒経過時点で二者の攻防の戦闘音とは別に、みしりと建物内から響く鈍い音を無惨は鋭敏に聞き分ける。
1秒という極僅かな時間の間に既に100以上の攻防が成立している。
シュライバーが縦横無尽に駆け巡り、無惨が悪戯に刃を振り回す。これらの行いが常に繰り返され続けていた。
単調だが単調すぎる故に、想定外の事も起こらずに崩落のリミットも無惨の予想通りに進んでいく。
4秒経過時点で二者の攻防の戦闘音とは別に、みしりと建物内から響く鈍い音を無惨は鋭敏に聞き分ける。
「アッ、ハァ───」
シュライバーの奇声染みた猛り声が耳につく。
無惨の斬撃の合間の隙に向かって吶喊していた。
白き暴風雨の疾走により、大気が割けて膨大な衝撃波が発生する。
動きは見えないが、無惨の優れた感覚器官は衝撃波の発生地点を弾き出し、シュライバーの進行先を予測した。
無惨の斬撃の合間の隙に向かって吶喊していた。
白き暴風雨の疾走により、大気が割けて膨大な衝撃波が発生する。
動きは見えないが、無惨の優れた感覚器官は衝撃波の発生地点を弾き出し、シュライバーの進行先を予測した。
「ッッ!!?」
斬撃を放つ手と鉄線の触手の動きは緩めないまま、無惨は細胞を操作し自身の体内に埋め込まれた弾丸を肉で捉える。
そして、走り狂う白狼が喉元に食らい付く寸前、肉体の表面に小さな風穴を1000近く形作る。
次の瞬間、無惨の服下から魔弾が吹き出す。予測したシュライバーの進行先へと狙い撃つ。
丁度資源はシュライバーより、無限に提供されていた。それを使わぬ手はない。
肉体に貯蔵し続けた弾丸を、今解放しあの白狼へと返却する時だ。
そして、走り狂う白狼が喉元に食らい付く寸前、肉体の表面に小さな風穴を1000近く形作る。
次の瞬間、無惨の服下から魔弾が吹き出す。予測したシュライバーの進行先へと狙い撃つ。
丁度資源はシュライバーより、無限に提供されていた。それを使わぬ手はない。
肉体に貯蔵し続けた弾丸を、今解放しあの白狼へと返却する時だ。
「……!!」
避けられない訳ではない。
前方向へ駆けた足を止め、床を踏み抜き後方へ飛び退く。
無惨の繰り出す斬撃と射撃、軽く4桁を越えた攻撃の手をシュライバーは避けていった。
だが、僅かに余裕が消失する。
前方向へ駆けた足を止め、床を踏み抜き後方へ飛び退く。
無惨の繰り出す斬撃と射撃、軽く4桁を越えた攻撃の手をシュライバーは避けていった。
だが、僅かに余裕が消失する。
「どうした、お得意の射撃は辞めたのか?」
分かりやすい露骨な挑発を受けながら、シュライバーは攻め手を緩めざるを得ない。
射撃を中断し斬撃の回避に専念。
こちらの弾薬を再利用される以上、わざわざくれてやるのも癪だ。
また無惨もそれを見て魔弾の放出を停止する。
射撃を中断し斬撃の回避に専念。
こちらの弾薬を再利用される以上、わざわざくれてやるのも癪だ。
また無惨もそれを見て魔弾の放出を停止する。
「銃が駄目なら、近づけば良かろう」
この挑発も無視する。
無惨はシュライバーの接近に合わせ、体内に留めた魔弾を発射する気だ。
屋内という空間はシュライバーに立体的な動きを可能とさせ、ピンボールのように縦横無尽に飛び跳ね、より相対者に速さを痛感させるが。
逆に返せば、シュライバーの行動範囲を壁という障壁が狭める事にも繋がる。
さらにこの密室内、斬撃を避けて接近したとして、全身の何処からか魔弾を撃ちだされるのは厄介極まりない。
シルバースキンを脱ぎ捨てた事で、無惨の攻撃はその全身から変幻自在に繰り出せる。
面の攻撃ならば、ヒットアンドウェイの要領で回避は容易だが、無数の点となると撃ち方次第では進路方向を限定される。
シュライバーは、如何なる局面においても必ず回避を優先する。であれば、手数さえ揃えば実のところ動きを誘導するのは然程難しくない。
回避先を誘導されれば、そこへ予め先手を打つことでシュライバーに攻撃を当てることも可能。
無惨はシュライバーの接近に合わせ、体内に留めた魔弾を発射する気だ。
屋内という空間はシュライバーに立体的な動きを可能とさせ、ピンボールのように縦横無尽に飛び跳ね、より相対者に速さを痛感させるが。
逆に返せば、シュライバーの行動範囲を壁という障壁が狭める事にも繋がる。
さらにこの密室内、斬撃を避けて接近したとして、全身の何処からか魔弾を撃ちだされるのは厄介極まりない。
シルバースキンを脱ぎ捨てた事で、無惨の攻撃はその全身から変幻自在に繰り出せる。
面の攻撃ならば、ヒットアンドウェイの要領で回避は容易だが、無数の点となると撃ち方次第では進路方向を限定される。
シュライバーは、如何なる局面においても必ず回避を優先する。であれば、手数さえ揃えば実のところ動きを誘導するのは然程難しくない。
回避先を誘導されれば、そこへ予め先手を打つことでシュライバーに攻撃を当てることも可能。
「ま、結構頑張って考えたと思うよ」
先の戦闘は日光という天敵の下、あの白服の制約もあったハンデ戦だったとは認めよう。
以前よりは手強い。この島での強者との交戦経験から、恐らく成長も果たしている。
頭のキレも増しているようだ。
だが、だからなんだ?
所詮、太陽の光如きにも耐えられない不完全で無様な劣等。
わざわざ晒し切った弱点を狙わない良心など、シュライバーにない。
以前よりは手強い。この島での強者との交戦経験から、恐らく成長も果たしている。
頭のキレも増しているようだ。
だが、だからなんだ?
所詮、太陽の光如きにも耐えられない不完全で無様な劣等。
わざわざ晒し切った弱点を狙わない良心など、シュライバーにない。
「でも…ようは、君を守るこの城を壊してしまえばいいだけだろォ!!!」
密室…壁といえど、シュライバーからすれば所詮は紙細工にも等しい
強い悪意と殺意と共に、シュライバーは足を振り上げ踵を打ち付けて上昇した。
天井をぶち抜き、屋上を飛び越えて。
グランシャリオを纏い、遥か上空から降り落ちてこの建物ごと全て粉微塵に破壊し尽くす。
破壊に巻き込まれ死ぬか、太陽に晒され焼け死ぬか。どちらが死因になるか見物だ。
あわれな害獣の巣を、まるごと壊して外に曝け出して劣等を嬲り殺しにしてやる。
強い悪意と殺意と共に、シュライバーは足を振り上げ踵を打ち付けて上昇した。
天井をぶち抜き、屋上を飛び越えて。
グランシャリオを纏い、遥か上空から降り落ちてこの建物ごと全て粉微塵に破壊し尽くす。
破壊に巻き込まれ死ぬか、太陽に晒され焼け死ぬか。どちらが死因になるか見物だ。
あわれな害獣の巣を、まるごと壊して外に曝け出して劣等を嬲り殺しにしてやる。
「っ、───?」
大気の流れが変貌する。
風の絶妙な変化を肌で感じ取り、シュライバーは上昇中の身体を前方の虚空を蹴り飛ばす事で進路を後方へと変更。
次の瞬間、無惨からこの屋内全域を包み覆う程の衝撃波が発せられた。
それは、自ら自身の弱点たる太陽へと近づく愚かな行いに他ならない筈だ。
シュライバーの想像通り、衝撃波は触れるもの全てを粉砕して、太陽を遮る壁すら粉々に打ち砕く。
風の絶妙な変化を肌で感じ取り、シュライバーは上昇中の身体を前方の虚空を蹴り飛ばす事で進路を後方へと変更。
次の瞬間、無惨からこの屋内全域を包み覆う程の衝撃波が発せられた。
それは、自ら自身の弱点たる太陽へと近づく愚かな行いに他ならない筈だ。
シュライバーの想像通り、衝撃波は触れるもの全てを粉砕して、太陽を遮る壁すら粉々に打ち砕く。
(一生、一人で戯れていろ。狂犬が)
無惨は足の底から、小さな触手を一つ生やし自らの足場を着実にそして丁寧に崩していた。
大袈裟な攻撃でシュライバーの意識を分散させ、己の離脱方法を悟らせぬように。
そして、足場を壊し下階へと降りられると判断した時、大技でシュライバーを遠ざけ崩落する天井で視界を遮り、無惨はそのまま音も立てずに日光に触れる前に消えた。
大袈裟な攻撃でシュライバーの意識を分散させ、己の離脱方法を悟らせぬように。
そして、足場を壊し下階へと降りられると判断した時、大技でシュライバーを遠ざけ崩落する天井で視界を遮り、無惨はそのまま音も立てずに日光に触れる前に消えた。
(ふむ、すぐ上階の崩落に巻き込まれるな。チッ、早く離れるか)
下の階に降りてすぐ、胸を撫で下ろしたいところだったが、無惨は弾けるように疾走する。
さっさとネモを拾い、このままカルデアへと直行し孫悟空と合流する。
シカマルもフランも残りの子供達もどうでもよい。
さっさとネモを拾い、このままカルデアへと直行し孫悟空と合流する。
シカマルもフランも残りの子供達もどうでもよい。
(手土産は手にした。孫悟空め、これで使えぬ凡夫であるのなら殺してやるぞ)
意識を失ったしおを脇に抱える。
シカマル達が死のうが、この少女一人死なせたかった事で文句は言わせない。
悟空とネモに嫌と言うほどの恩を売ってやると無惨は考えた。
シカマル達が死のうが、この少女一人死なせたかった事で文句は言わせない。
悟空とネモに嫌と言うほどの恩を売ってやると無惨は考えた。
(こんな、何の価値も取柄もない子供の生死に一々五月蠅い連中だ)
煩わしさを覚えながら、無惨は次の行動を急いだ。
◇◇◇◇
ふざけんじゃないわよォ!!
あいつら、何してくれてんのよ! 馬鹿しかいないのここはァ!!
シュライバーは勢いの死なない跳弾みたいに飛び跳ねて、余波が四方八方消し飛ばす。
「う、ゴッ…ごほっ……!!?」
ソニックブームが私に直撃した。この時、髪の数本が引き千切れて…多分、ゼオンの分身も引き離されて死んだと思う。
自分に纏わりついた魔力の消失を確かに感じた。でも、そんなことを喜んでいる場合じゃない。
シュライバーは私なんて視界にも入ってない。
内臓が破裂して、口から血が逆流してきた。喉元を通って何か吐き出す。
肉片だ。内臓の肉片を吐き出したんだ。
自分に纏わりついた魔力の消失を確かに感じた。でも、そんなことを喜んでいる場合じゃない。
シュライバーは私なんて視界にも入ってない。
内臓が破裂して、口から血が逆流してきた。喉元を通って何か吐き出す。
肉片だ。内臓の肉片を吐き出したんだ。
「お、ェ、ァ…が…っ…」
咳き込みながら、息を吸えない苦しさに悶えながら。
私は這ったままぜいぜいと息を荒げながら身体を引き摺って───無惨の馬鹿は斬撃を辺り構わず、振り回す。
私は這ったままぜいぜいと息を荒げながら身体を引き摺って───無惨の馬鹿は斬撃を辺り構わず、振り回す。
「ァ、ギャァァアアアアアア!!!?」
うつ伏せに這っていた私の背中を40か所以上乱雑に切り刻んだ。
皮を割いて、肉を抉って骨までズタズタに穿っていく。
ああ、もう意識でも失えれば楽だったかもしれないのに、地獄の責め苦のような激痛が続く、
聖遺物の使徒、魔人となった私はこれ位なら死なないし意識も飛ばない。
皮を割いて、肉を抉って骨までズタズタに穿っていく。
ああ、もう意識でも失えれば楽だったかもしれないのに、地獄の責め苦のような激痛が続く、
聖遺物の使徒、魔人となった私はこれ位なら死なないし意識も飛ばない。
「が、があ…ァ…ァ、あ……」
きっと私からは見えないけど、背中はぐちゃぐちゃになった血と肉と骨が丸見えなんだと思う。
空気に触れるだけで、焼けるように痛い。
どうして、こんな目に合わなきゃ行けないのよ。
私、別に何も悪い事してないわよ。
少なくともこの島じゃ誰も殺してないし、シュライバーに一方的に付き纏われる被害者じゃない。
なんで、こんな目に…私が…。
空気に触れるだけで、焼けるように痛い。
どうして、こんな目に合わなきゃ行けないのよ。
私、別に何も悪い事してないわよ。
少なくともこの島じゃ誰も殺してないし、シュライバーに一方的に付き纏われる被害者じゃない。
なんで、こんな目に…私が…。
「や、め…ァ」
這っていた私をシュライバーが蹴り上げて、斬撃が私を切り刻んで。
五体満足なのがラッキーなくらい全身に切創を作って、赤くない場所がない所の方が少ないくらいに。
どうにもならない地獄の数秒間、蹴られ続け斬られ続けて空中で滞空して、最後は目に大きな衝撃波に巻き込まれて、崩落する瓦礫の雨に巻き込まれた。
五体満足なのがラッキーなくらい全身に切創を作って、赤くない場所がない所の方が少ないくらいに。
どうにもならない地獄の数秒間、蹴られ続け斬られ続けて空中で滞空して、最後は目に大きな衝撃波に巻き込まれて、崩落する瓦礫の雨に巻き込まれた。
「は、ァ…はァ…ふ、ぅ……ぐ、ァ……」
でも、だけど。耐えた。耐えきったわ。
地獄みたいな数秒間を。
瓦礫と一緒に下の階に落ちて、そのまま埋もれたけど。
こんな程度なら、私は死なない。今はこの瓦礫も掛布団みたいに心地いいくらいだわ。
この中に紛れてそして体力を回復させましょう。
幸い、ゼオンの監視からは逃れられたから、休んでても文句言われないしゼオンも私をこの中から探そうなんてしないでしょう?
禁止エリアになるのが怖いけど、残り1時間半以上ある。十分よ、休んで脱出するには…。
地獄みたいな数秒間を。
瓦礫と一緒に下の階に落ちて、そのまま埋もれたけど。
こんな程度なら、私は死なない。今はこの瓦礫も掛布団みたいに心地いいくらいだわ。
この中に紛れてそして体力を回復させましょう。
幸い、ゼオンの監視からは逃れられたから、休んでても文句言われないしゼオンも私をこの中から探そうなんてしないでしょう?
禁止エリアになるのが怖いけど、残り1時間半以上ある。十分よ、休んで脱出するには…。
「愛しいアンナ…こんな所に居たんだね」
瓦礫が持ち上げられる。
心から安堵した瓦礫の闇に光が差す、その先にはあのイカれた殺人狂がいる。
シュライバーは私を見下ろしていた。
心から安堵した瓦礫の闇に光が差す、その先にはあのイカれた殺人狂がいる。
シュライバーは私を見下ろしていた。
ヤバい、ヤバい、ヤバい。
アンタ、もっと殺せる対象の多いとこ行きなさいよ。もっと一杯いるでしょ!!
「ああ、アンナ! アンナァァァ!! しっかりしてよ!! お願いだから!!」
抱き上げられたかと思えば、急に抱擁される。
こいつ、頭悪すぎるの? 認知症なの?
こんなボロボロにしたのは、半分はアンタのせいよ!!
こいつ、頭悪すぎるの? 認知症なの?
こんなボロボロにしたのは、半分はアンタのせいよ!!
「ご、が、───ッ…」
メキメキと背骨が軋む。肋骨が歪んで胸が圧迫されて、息が出来ない。
シュライバーの馬鹿力が、背中をズタズタに引き裂かれて全身を数えきれないくらい殴打され続けたこんな私の身体を絞めつけてくる。
切創から血が吹き出てブシュブシュと音を立てる様なんて、人体から聞こえていい物音じゃない。
シュライバーの腕の中の力が強まって、肉から骨が突き破ってきた。
シュライバーの馬鹿力が、背中をズタズタに引き裂かれて全身を数えきれないくらい殴打され続けたこんな私の身体を絞めつけてくる。
切創から血が吹き出てブシュブシュと音を立てる様なんて、人体から聞こえていい物音じゃない。
シュライバーの腕の中の力が強まって、肉から骨が突き破ってきた。
止めを刺す気? 言っていることとやっていることが無茶苦茶よ!
残る力を振り絞って、魔術で治癒を掛けるけど長く持たない。
残る力を振り絞って、魔術で治癒を掛けるけど長く持たない。
待て、落ち着け。私は天才だ。だから大丈夫、落ち着け。
そうだ。シュライバーは私を愛しいと言っていた。
私に愛情を向けているのは、前々から気付いていた。
確かにシュライバーは化け物染みて強い。だけど、心を読む力は流石にない。と思う。
ゼオンみたいにこちらの考えを読まれて、先手を打たれることはない。
私に愛情を向けているのは、前々から気付いていた。
確かにシュライバーは化け物染みて強い。だけど、心を読む力は流石にない。と思う。
ゼオンみたいにこちらの考えを読まれて、先手を打たれることはない。
「しゅ、らいばー…わ、た…し……」
やれると私は思った。
自己暗示に自分を掛けて、目の前のこの子を全力で愛そう。
愛して、そして言葉巧みに私を救うように───。
愛して、そして言葉巧みに私を救うように───。
───僕は遊佐司狼に敵討ちをしたいんだよ。だから、アンナが生きていたら駄目だろ?
───アンナが生きてたらカタキにならないだろォォォ!!
───アンナが生きてたらカタキにならないだろォォォ!!
待て、待て待て…待って……あの言葉、どういう意味?
この際、どうして遊佐司狼なんて名前が出てくるのかは置いておく。
この際、どうして遊佐司狼なんて名前が出てくるのかは置いておく。
明るみにすべき問題はシュライバーの言う敵討ちだ。
これも意味が分からないが、言葉通りなら私が遊佐司狼に殺されて、シュライバーは敵討ちをしようと目論んでいる。
いくらなんでも、私が早々殺されるなんて…いえ、駄目よ、そんな慢心は犬にでも食わせろ。大事なのはシュライバーはそう考えているって事なんだから。
これも意味が分からないが、言葉通りなら私が遊佐司狼に殺されて、シュライバーは敵討ちをしようと目論んでいる。
いくらなんでも、私が早々殺されるなんて…いえ、駄目よ、そんな慢心は犬にでも食わせろ。大事なのはシュライバーはそう考えているって事なんだから。
そして、さっきシュライバーは私を愛していると言った。
ええ、聞き間違いじゃない。
馬鹿力で私に抱き着いて大泣きしているし、一応愛しているって言葉は本当?
ええ、聞き間違いじゃない。
馬鹿力で私に抱き着いて大泣きしているし、一応愛しているって言葉は本当?
愛していて、その人が殺されて敵討ちをして……。
分かる筈よ。考えなさい、ヒントは散りばめられてた。
シュライバーとの付き合いは長いわ。この子は戦争屋でも、根っこはシリアルキラー。
同じ戦争屋でもザミエルやマキナのような軍人とも少し違う。
そう、薄々私も気付いてたでしょう? この子のどんな行動も最後は殺人へと行き付く事なんて。
シュライバーとの付き合いは長いわ。この子は戦争屋でも、根っこはシリアルキラー。
同じ戦争屋でもザミエルやマキナのような軍人とも少し違う。
そう、薄々私も気付いてたでしょう? この子のどんな行動も最後は殺人へと行き付く事なんて。
もしかして…恋人を殺された敵討ちという動機で、遊佐司狼を殺したいってこと?
それで恋人になった私は生きてると邪魔だってこと?
生きてたら、仇討ちにならないから。
それで恋人になった私は生きてると邪魔だってこと?
生きてたら、仇討ちにならないから。
意味が、分からない…いえ、言いたい事は分かるけど。
───へえ、未来から来た猫型ロボットなんて……トランクスさんみたいだなあ。
……そういえば、悟飯君はトランクスなんて、下着の名前の男の話をしていたわ。
タイムマシンに乗って、未来の世界から来た人とか。
タイムマシンに乗って、未来の世界から来た人とか。
まさか、だけど…このシュライバーはタイムマシンで未来から来てる…とか?
そして私は未来で…遊佐司狼に殺されかけて、今みたいにシュライバーが近くに居て、助けて貰おうとした?
分かるわ。だって、他の誰でもない私自身の思考パターンだもの。
きっと、今みたいにシュライバーを誑かして、自己暗示をかけてより強力に愛させようとして……。
そして私は未来で…遊佐司狼に殺されかけて、今みたいにシュライバーが近くに居て、助けて貰おうとした?
分かるわ。だって、他の誰でもない私自身の思考パターンだもの。
きっと、今みたいにシュライバーを誑かして、自己暗示をかけてより強力に愛させようとして……。
「が、っ、ぐふ、ぅ、っ……!」
こうやって殺人へと直結する愛情を抱かれて、敵討ちの為に殺されたってこと?
なら、愛を語るのは駄目だ。その選択肢は間違ってる。
なら、愛を語るのは駄目だ。その選択肢は間違ってる。
どうする? どうする? どうする?
何を言えばいい。何を選択したらいい?
愛を語っても殺される。他の言動も、結局シュライバーに殺される。
何を言ってもシュライバーに……。
愛を語っても殺される。他の言動も、結局シュライバーに殺される。
何を言ってもシュライバーに……。
「ぜ…お、ん…あい、して……る…わ」
「は?」
殺されるのは不可避でも。
殺されるのは確定でも。
殺されるのは確定でも。
殺されるまでの時間を引き延ばす手段なら、一つだけ思い浮かんだ。
「ぜおん? ……ゼオン? 誰だい、それ」
「わたしの…あいした…愛しい、ひと……」
呂律は回らないけど、頭は回転させ続ける。
乗った、シュライバーは乗ってきた。
乗った、シュライバーは乗ってきた。
あくまで敵討ちに拘るシュライバーは、私に死んでいて欲しい。
でも、だけど…それは私とシュライバーが恋人であるという前提の話。
未来の私はそこでしくじった。恋仲になれば、普通は恋人を死なせず助けるだろうと、この狂人を常人の尺度で考えてしまったに違いない。
でも、だけど…それは私とシュライバーが恋人であるという前提の話。
未来の私はそこでしくじった。恋仲になれば、普通は恋人を死なせず助けるだろうと、この狂人を常人の尺度で考えてしまったに違いない。
「ぜ、お…ん…ど、こ…ゼオン……」
それならば、シュライバーとの恋愛関係を解消してしまえ。
「君、もしかしてさ」
私の頭髪を掴んで顔を持ち上げて、シュライバーは笑みと怒りを交えた大声を張り上げる。
「浮気してるわけ!!? ねえ!!」
鼓膜が張り裂けそうな声で怒鳴られて、全身が恐怖で竦んでしまう。
でも、大丈夫。だって私にはゼオンが居るわ。とても強くて、優しくて、厳しいけれど思いやりと深い愛情を持つあの子が。
でも、大丈夫。だって私にはゼオンが居るわ。とても強くて、優しくて、厳しいけれど思いやりと深い愛情を持つあの子が。
ああ…だって感じるんだもの。近くにあの子を。
「ゼオン、居る…のね、ちかくに…あなたを、かんじる……」
何も嘘は他人にだけ吐くものじゃない。私は自分だって騙してみせる。
声を吐く度、言葉を連想する度、白銀の髪、鋭い視線、銀のマントを思い浮かべて。
愛しくて愛しくて溜まらない、大好きなあの子を、もっと大好きになる。
声を吐く度、言葉を連想する度、白銀の髪、鋭い視線、銀のマントを思い浮かべて。
愛しくて愛しくて溜まらない、大好きなあの子を、もっと大好きになる。
好きよ、ゼオン。
「わたし、貴方が…好き、好きなの…大好きよ…ゼオン……」
より、強力に自己暗示を掛ける。
「なに、やってんだよもおおおおおおお!!!
マジで脳みそ腐ってんの!!? こんな場所で、下半身でもの考えてるのかァ!!」
マジで脳みそ腐ってんの!!? こんな場所で、下半身でもの考えてるのかァ!!」
掴んだ頭髪を思い切り振るい落とされて、私の顔面は鼻から打ち付けられて床とキスをする羽目になる。
鼻が曲がった…口の中が血で充満して、鉄臭い。痛い。
もう、どうしてこんな…ねえ、お願い…助けてゼオン。
鼻が曲がった…口の中が血で充満して、鉄臭い。痛い。
もう、どうしてこんな…ねえ、お願い…助けてゼオン。
「君と僕が恋人じゃないと、遊佐司狼を殺して愛を証明できないだろォ!!
全部台無しじゃないか! この馬鹿女ァ!!」
全部台無しじゃないか! この馬鹿女ァ!!」
私を掴むシュライバーの腕が上下に振るわれて、何度も何度も私は床とキスする。
血の匂いと味にも慣れて何も感じなくなった。
大丈夫、頑張れ私…もうすぐよ。多分、もうすぐ……。
血の匂いと味にも慣れて何も感じなくなった。
大丈夫、頑張れ私…もうすぐよ。多分、もうすぐ……。
「全く、もう手間かけさせるなァ! アッハハハハハハハハハハハ!!!」
怒りの籠った声から唐突に歓喜に満ちた笑い声が木霊していく。
「ゼオン…ゼオンねぇ……」
私の頭髪を掴む手が強まる。来た、そうよ……これが狙いよ。
殺す動機に拘るのなら、それには私が貴方と両思いでないと敵討ちも成立しないでしょう?
だから、先ず私を寝取ったゼオンを殺そうと矛先を向けるのは、シュライバーとしても自然な発想よね? お願い、そうであって!!
殺す動機に拘るのなら、それには私が貴方と両思いでないと敵討ちも成立しないでしょう?
だから、先ず私を寝取ったゼオンを殺そうと矛先を向けるのは、シュライバーとしても自然な発想よね? お願い、そうであって!!
「僕の恋人に手を出したんだ、ただじゃあおかない。フフッ、ウフフフ…」
あとは…賭けだ。
本当は悟飯君かメリュジーヌの名前を出したかったけど、きっとそうなればシュライバーは島中を走り回る。私を引き摺って。
それは無理だ。耐えられない、死んでしまう。
だから、ゼオンの名前を出した。ゼオンならそう遠くには居ないから。
後は私が持つか、シュライバーがその前にゼオンを見付けて戦うか。
本当は悟飯君かメリュジーヌの名前を出したかったけど、きっとそうなればシュライバーは島中を走り回る。私を引き摺って。
それは無理だ。耐えられない、死んでしまう。
だから、ゼオンの名前を出した。ゼオンならそう遠くには居ないから。
後は私が持つか、シュライバーがその前にゼオンを見付けて戦うか。
「アハハハ…アッハハハハハハハハハハ!!!」
シュライバーは私を持ったまま走り出す。
よし、行ける! まだ運に見放されてない。
別の男に靡いた裏切者(わたし)を先に制裁するパターンも十分有り得たけど、シュライバーは先に間男を殺すのを選んだみたい。
よし、行ける! まだ運に見放されてない。
別の男に靡いた裏切者(わたし)を先に制裁するパターンも十分有り得たけど、シュライバーは先に間男を殺すのを選んだみたい。
音速を越えた世界は、空気すら刃のように私の全身を切り刻む。
地面に触れたままの肉は水の籠った生々しい音を立てて、削れていく。
地面に触れたままの肉は水の籠った生々しい音を立てて、削れていく。
もう、悲鳴を上げる気力もない。ただ激痛に耐えながら、一言呟く為だけの体力だけは温存する。
この周囲一帯を走り回り、そしてシュライバーから愛を奪い去った間男を見付けるまでは止まらないだろう。
その制裁すべき男の名を呟くまでは、意識を手放すな。
皮と肉と骨が粉々になって、地面に置き去りにされて、ミリ単位で全身を削られる嫌悪感。
大丈夫、ここさえ切り抜ければ何とかなる。もう痛みにも慣れた。大丈夫。
その制裁すべき男の名を呟くまでは、意識を手放すな。
皮と肉と骨が粉々になって、地面に置き去りにされて、ミリ単位で全身を削られる嫌悪感。
大丈夫、ここさえ切り抜ければ何とかなる。もう痛みにも慣れた。大丈夫。
持ちなさい、私の身体……!!
───居た…居た! 居た!!
もう、指一本動かせないくらい重くなった身体だけど、視線だけは鋭敏に動かし続けていた。
そして見付けた、シュライバーの彼だけの音速の世界に無理矢理付き合わせられながら、摩耗して損傷を重ね続ける生き地獄の中で、白銀の希望を。
そして見付けた、シュライバーの彼だけの音速の世界に無理矢理付き合わせられながら、摩耗して損傷を重ね続ける生き地獄の中で、白銀の希望を。
だから、ありったけの愛情を込めて、貴方の名を叫ぶ。
傷んだ身体では貴方には届かないだろうけれど、シュライバーにはきっと伝うような小さい声量で。
傷んだ身体では貴方には届かないだろうけれど、シュライバーにはきっと伝うような小さい声量で。
「ゼオン……」
ゼオン、私の愛しい子…好きよ、大好き。
それを聞いて、シュライバーは犬歯を剥き出しにして、大きく口許を釣りあげた。
「やあ、君がゼオン君かな?」
シュライバーはそう言って、ゴミみたいに私を放り捨てた。
ほんと、扱いは最悪だけど…やった、やったわと私は心の中でガッツポーズを組んだ。
ほんと、扱いは最悪だけど…やった、やったわと私は心の中でガッツポーズを組んだ。
◇◇◇◇
「雌猫のクソみてェなトラブルもあったが、策は進んでいるようだな」
デパートの数10メートル先で、この俺ゼオンは策が進んでいることを確信した
青コートと氷の女の戦闘は既に開幕している。
女を霧でデパートへと誘導し、青コートとかち合わせる。
これは成功した。
同時にデパートの連中に気取られる前に、ジャックには一度霧を消去させる。
女を霧でデパートへと誘導し、青コートとかち合わせる。
これは成功した。
同時にデパートの連中に気取られる前に、ジャックには一度霧を消去させる。
これも上手く行ったようだ
当初は霧に気付かれぬよう、ルサルカに特攻させて気を引かせる予定だった。
離れているが、俺の分身を通せば命令もできる。
だがあの女、予想以上に移動速度が遅くそれもままならない。
あの時点で俺らから1キロも離れていないような場所で、グズグズしていやがったんだからな。
離れているが、俺の分身を通せば命令もできる。
だがあの女、予想以上に移動速度が遅くそれもままならない。
あの時点で俺らから1キロも離れていないような場所で、グズグズしていやがったんだからな。
脅しを兼ねて数発、バルギルド・ザケルガを打ち込んでやったが、痛めれば痛めるだけ到着が遅れる等と抜かしやがる。
身体はもう限界で、これ以上の速さで移動は出来ねえだと? 思い出すだけでイラつくぜ。
休息はしっかり取らせただろうが!!
身体はもう限界で、これ以上の速さで移動は出来ねえだと? 思い出すだけでイラつくぜ。
休息はしっかり取らせただろうが!!
氷の女を誘導する都合、何時までも待つ訳にもいかず、仕方ないので氷の女の魔力の移動を追いながらタイミングを見計らって、ジャックに霧を消させた。
あれを誘導しつつ、デパートの連中に知覚させないような霧の顕現は、ジャックも大分くたびれたようだ。
俺も氷の女の魔力を随時確認して、霧を消す適切なタイミングを伝えるのに余計な労力を支払わせられたもんだ。
あれを誘導しつつ、デパートの連中に知覚させないような霧の顕現は、ジャックも大分くたびれたようだ。
俺も氷の女の魔力を随時確認して、霧を消す適切なタイミングを伝えるのに余計な労力を支払わせられたもんだ。
心底、使い物にならねえ愚図猫だな奴は。
あのまま廃人にしてやっても良かったところだぜ。
元より、何の期待もしていなかったがな。だが…廃人にする時間も今は惜しい。
それにあの様子じゃ、どのみちデパート連中の気を逸らさせる事も難しかったかもしれねえな。
フン、やはり使えねえ。
ここの連中を片づけたら、あいつは完全に用済みだ。後で念入りに痛め付けて殺してやる。
元より、何の期待もしていなかったがな。だが…廃人にする時間も今は惜しい。
それにあの様子じゃ、どのみちデパート連中の気を逸らさせる事も難しかったかもしれねえな。
フン、やはり使えねえ。
ここの連中を片づけたら、あいつは完全に用済みだ。後で念入りに痛め付けて殺してやる。
(連中は別れたか)
霧を消した上でジャックとガムテにはデパート内へと潜入させた。
気配を断つという点で、あれは俺の遥か上を行く。
王には王の役割があるのなら、奴等には奴等の適職がある。
奴等には、より細かな事態の動向を俺に知らせる偵察を命じた。
気配を断つという点で、あれは俺の遥か上を行く。
王には王の役割があるのなら、奴等には奴等の適職がある。
奴等には、より細かな事態の動向を俺に知らせる偵察を命じた。
(嬉しい誤算だな。奴等が別れてくれたのは)
カードを使い奴等を分散させることも考えていたが、どうやら女の連れていた背の高いガキ…まあ俺は直接見てはいないが、ジャックが言うには美味しそうな男。
そいつが連中を掻き回して行動を別々にさせてくれたようだ。
感謝しなきゃな、その馬鹿には。
そいつが連中を掻き回して行動を別々にさせてくれたようだ。
感謝しなきゃな、その馬鹿には。
白のコートのような鎧を着た奴が一人自己保身に走り孤立し。
フランとかいうジャックが映画で戦った女が、今は一人。
残る雑魚とジャックのいうライダーのサーヴァントが固まっている
フランとかいうジャックが映画で戦った女が、今は一人。
残る雑魚とジャックのいうライダーのサーヴァントが固まっている
それなりに、理想的な別れ方をしたといえる。
さて、先ずは何処から潰すべきかな。
白服の男は…ほう、ルサルカの雌猫が接触したか。こいつはいい。
当初の予定を初っ端から狂わせてから、ようやく遅れてデパートに到着とはな。
まだ利用価値はあるか。
フランも…こいつもそうだな……ジャックの獲物か。
まだ利用価値はあるか。
フランも…こいつもそうだな……ジャックの獲物か。
「ライダーからだな」
標的は決まった。
ライダーのサーヴァントと雑魚共からだ。
乃亜の話じゃ、実質殺した人数に比例してドミノというポイントを渡し、報酬を渡すか否か決めると話していやがった。
ジャックとガムテに余分なドミノを渡す筋合いもねえ。
奴らから、先に捻り潰してやる。
その後に白服だ。雌猫には精々奴の足を引っ張るよう、命じておくとするか。
仕込むネタは浮かんだ。あのボロボロの雌猫でやれそうな簡単なものだが、効果抜群のものをな。
下準備をさせている間に、俺はライダーを始末しておく。
ライダーのサーヴァントと雑魚共からだ。
乃亜の話じゃ、実質殺した人数に比例してドミノというポイントを渡し、報酬を渡すか否か決めると話していやがった。
ジャックとガムテに余分なドミノを渡す筋合いもねえ。
奴らから、先に捻り潰してやる。
その後に白服だ。雌猫には精々奴の足を引っ張るよう、命じておくとするか。
仕込むネタは浮かんだ。あのボロボロの雌猫でやれそうな簡単なものだが、効果抜群のものをな。
下準備をさせている間に、俺はライダーを始末しておく。
もしも、ジャックがフラン達を早く始末しライダーの周りの雑魚が少しは残っているのなら、褒美としてくれてやっても構わねえがな。
そこは奴等次第だ。
そこは奴等次第だ。
「なに───?」
鮫肌を担ぎ上げ、ライダーを始末しようと出向こうとしたその矢先。
雌猫に括り付けた俺の使い魔の視界が真っ暗になった。
奴が取り外した? ……だとしても、外したのは百歩譲り納得するが、俺に一切の前触れも感知させずに?
なんだ? 何が起きた?
使い魔が最期に見た、あの風はなんだ?
屋内で唐突に巻き起こった突風が雌猫共を煽った途端に、全ての視界が消し飛んだ。
雌猫に括り付けた俺の使い魔の視界が真っ暗になった。
奴が取り外した? ……だとしても、外したのは百歩譲り納得するが、俺に一切の前触れも感知させずに?
なんだ? 何が起きた?
使い魔が最期に見た、あの風はなんだ?
屋内で唐突に巻き起こった突風が雌猫共を煽った途端に、全ての視界が消し飛んだ。
「……一体何が」
予期せぬトラブルが発生した。
俺はそう確信する。
ジャックとガムテを引き上げさせ、ここで離脱するのが安全策だ。
念話を通じて命じれば奴等は従うだろう。最悪、捨て置いたって構わない。
だが、同時に青コートと氷の女を両方始末する好機にも違いない。
デパートにいるのが雑魚共だけならば、放っておいても良かったが。奴ら二人が共に潰し合う好機を逃がすのも惜しいか?
上手く機を狙えば両方潰せる。
この奇襲、成功すれば見返りはでかい。
デパート連中の雑魚ですら殺し尽くせば、ドミノも高得点で取得できる。
俺はそう確信する。
ジャックとガムテを引き上げさせ、ここで離脱するのが安全策だ。
念話を通じて命じれば奴等は従うだろう。最悪、捨て置いたって構わない。
だが、同時に青コートと氷の女を両方始末する好機にも違いない。
デパートにいるのが雑魚共だけならば、放っておいても良かったが。奴ら二人が共に潰し合う好機を逃がすのも惜しいか?
上手く機を狙えば両方潰せる。
この奇襲、成功すれば見返りはでかい。
デパート連中の雑魚ですら殺し尽くせば、ドミノも高得点で取得できる。
目障りな目の上のたん瘤も消せて、乃亜からの報酬も受け取れる。
「やはり、様子を見るか」
幸い、こちらの存在はデパート連中にはバレていない。
それならば、今は見に回って状況把握に務めるのが───。
それならば、今は見に回って状況把握に務めるのが───。
「やあ、君がゼオン君かな?」
なん、だと……?
この俺が声を掛けられるまで、何の気配も感知できなかった?
何の前兆も補足できず、為すがままに背後を取られたのか。
何の前兆も補足できず、為すがままに背後を取られたのか。
無意識に鮫肌を握る手が強まった。
振り返り、何者が俺の背後を取ったか見定めねばならない。
「これ、君がやったんだよね?」
居たのは二人だ。
長い髪を紐のように持ち上げられて上体を引っ張られ、これ見よがしに顔を上げさせられている女。
俺が散々嬲った無能でカスみてえな雌猫、ルサルカだ。だがそんなもんはどうでもいい。
そのルサルカを縫いぐるみのような気安さで、持ち歩く白髪の男。
同じ軍服を纏い、眼帯を右に付け青い隻眼が俺に視線を刺してくる。
左腕の赤い腕章がルサルカと同部隊に所属しているのだと、俺に訴えかけてきた。
長い髪を紐のように持ち上げられて上体を引っ張られ、これ見よがしに顔を上げさせられている女。
俺が散々嬲った無能でカスみてえな雌猫、ルサルカだ。だがそんなもんはどうでもいい。
そのルサルカを縫いぐるみのような気安さで、持ち歩く白髪の男。
同じ軍服を纏い、眼帯を右に付け青い隻眼が俺に視線を刺してくる。
左腕の赤い腕章がルサルカと同部隊に所属しているのだと、俺に訴えかけてきた。
「僕からアンナを奪ったのは君だな?」
何を…言っていやがる……?
そんな駄猫、欲しけりゃいくらでもくれてやる。
そんな駄猫、欲しけりゃいくらでもくれてやる。
「テオザケル」
当たりさえすれば、雌猫ごとで構わなかった。
有無を言わさず会話も取り合わずに、電撃を放つ。
男は俺の眼前から、消えた。消えたと思わせる程の尋常ではない絶速で避けたのだ。
有無を言わさず会話も取り合わずに、電撃を放つ。
男は俺の眼前から、消えた。消えたと思わせる程の尋常ではない絶速で避けたのだ。
「なるほどなるほど…うん、見た目そっくりだからもしかしたらと思ったんだが……君───」
奴はピンピンした様子で、俺の視界の端、テオザケルの範囲外で戯言を続ける。
俺の背後を取る力量から推察してはいたが、この男の速さは異常だ。
青コートも氷の女すらも、この速さには追い付けまい。
この電撃も当たるとは、俺も到底考えていなかった。
ただの、牽制及び意識を逸らす為のフェイントに過ぎない。
俺は懐のカードに手を伸ばしかけている。
どうやら招かれざる客を呼んでしまったようだ。
得体が知れねえ。この作戦を続行することは危険すぎる。
リターンをリスクが完全に上回った瞬間だった。
俺の背後を取る力量から推察してはいたが、この男の速さは異常だ。
青コートも氷の女すらも、この速さには追い付けまい。
この電撃も当たるとは、俺も到底考えていなかった。
ただの、牽制及び意識を逸らす為のフェイントに過ぎない。
俺は懐のカードに手を伸ばしかけている。
どうやら招かれざる客を呼んでしまったようだ。
得体が知れねえ。この作戦を続行することは危険すぎる。
リターンをリスクが完全に上回った瞬間だった。
「ガッシュ君の弟かい?」
カードに触れ、そして……俺の思考は完全に停止した。
奴は今、なんとほざきやがった……?
「道理で弱っちい電撃な訳だ。彼の方が、ずっと迫力があった」
あんなカスの落ちこぼれと血が繋がってるだけでも、腸が煮えくり返そうだってのに。
よりにもよって、俺が弟だと…? 俺が奴より弱い?
よりにもよって、俺が弟だと…? 俺が奴より弱い?
「てめえ…良い度胸だ」
ニタニタと薄ら笑いを浮かべる、あのクソ野郎を目にして。
カードから俺の手は遠ざかっていた。
カードから俺の手は遠ざかっていた。
「あのカスと俺の雷、どちらが上かはっきりさせてやる」
俺の手からは雷が瞬き、修羅の怒りを雷が顕わしているようだった。
訳の分からない狂人の馬鹿だが、実力は間違いなく高い。高すぎる。
いずれ殺すにしても、この段階でぶつかるべき相手じゃない。
周到な用意と準備を重ねてから、討伐に向かわなくては。
いずれ殺すにしても、この段階でぶつかるべき相手じゃない。
周到な用意と準備を重ねてから、討伐に向かわなくては。
だが…。
だがッッ!!!
奴の口ぶりから、あのガッシュがこいつと戦った。そして忌々しいが今は放送直後。
名が呼ばれていないということは、あいつはこの男と戦い生き延びやがった!!
俺が一目で撤退を選ぼうとした、そんな奴を相手に?
名が呼ばれていないということは、あいつはこの男と戦い生き延びやがった!!
俺が一目で撤退を選ぼうとした、そんな奴を相手に?
ならば、俺がここで退いて、無様な逃走を選ぶわけにはいかねえ。
俺が奴より弱いなど、俺がガッシュに劣るなど断じてありえん!
こいつの屍で、それを証明してやる。
俺が奴より弱いなど、俺がガッシュに劣るなど断じてありえん!
こいつの屍で、それを証明してやる。
「さあ、奪い合おうか。僕と君で恋人(アンナ)を!!!」
「一人で勝手に盛り上がるんじゃねえぞ!!!」
俺は…いらない子なんかじゃない。
◇◇◇◇
(ランドセルが…!)
藤木の雷を後方へ飛び退き避けたネモだが、破壊の余波に煽られて華奢な身体は呆気なく吹き飛ばされる。
すぐに受け身を取りながら、続く二撃目を身を逸らして避け、水流を藤木へと飛ばす。
すぐに受け身を取りながら、続く二撃目を身を逸らして避け、水流を藤木へと飛ばす。
『どんな能力も使い様ですよ』
魔神王の声が鮮明に藤木の脳裏に反響する。
「せいっ!」
藤木は雷となり消失する。雷速で動いた藤木をネモの水流は捉えきれず、背後の壁を濡らしたに留まった。
以前の時とは違う。前情報もあり水に触れてはいけないことも藤木は理解していた。
飲まれる前に消えてしまえば、こんな水は怖くない。
以前の時とは違う。前情報もあり水に触れてはいけないことも藤木は理解していた。
飲まれる前に消えてしまえば、こんな水は怖くない。
「ッ! くっ…なんだ、以前の藤木じゃない」
ネモは驚嘆する。一度ならず、二度までもネモの攻撃を避けた。
まぐれじゃない。
ネモの攻撃に対策を練っている。
まぐれじゃない。
ネモの攻撃に対策を練っている。
『私の氷から脱出した、あの感覚を忘れない事です』
ネモの海水であれば、悪魔の実の能力者を完全に完封する。
能力者は等しく海水に触れる事で力を失い衰弱するからだ。
能力者は等しく海水に触れる事で力を失い衰弱するからだ。
『あれを使いこなせるだけでも、かなり違う』
だが、それは当たればだ。
砂や煙であれば、藤木の力量では修練不足で即座にネモが捉えた事だろう。
しかし藤木が操るのは雷、自然が齎すエネルギーの中でも最上位の力。
常に雷であり続けられるのであれば、その速度で動けばネモの海水には当たらない。
砂や煙であれば、藤木の力量では修練不足で即座にネモが捉えた事だろう。
しかし藤木が操るのは雷、自然が齎すエネルギーの中でも最上位の力。
常に雷であり続けられるのであれば、その速度で動けばネモの海水には当たらない。
(フフフ…こ、これなら……あのネモが手も足も出てないじゃないか)
ネモは横方向に駆け出して手を伸ばす。
先程の風圧に奪われ手放した、自身のランドセルを回収しようとしていた。
先程の風圧に奪われ手放した、自身のランドセルを回収しようとしていた。
「させるもんか!」
ばちりと乾いた音を立てたかと思うと、ネモの前で紫電が散る。白く発光した雷が人型になり、両手を突き出す。
ネモの胸に触れた瞬間、高圧電流が全身を駆け巡った。
ネモの胸に触れた瞬間、高圧電流が全身を駆け巡った。
「ぐあああああああああああああああ!!」
外気に触れる表皮から内部を焼き尽くされる感触は、サーヴァントの霊基にすら損傷を与えかねない。
『大事なのはネモから、ランドセルを遠ざけること』
『あれは騎兵、騎馬さえなければ恐れる事はない』
『あれは騎兵、騎馬さえなければ恐れる事はない』
ネモは特段強力なサーヴァントではない。
英霊に数えられるに相応しい偉業を制した一角といえど、神霊をその身に交えていようと。
三騎士程の恵まれたステータスもない。
英霊に数えられるに相応しい偉業を制した一角といえど、神霊をその身に交えていようと。
三騎士程の恵まれたステータスもない。
『神牛と戦車の維持に必要な魔力は少なくないでしょう』
『普段はランドセルに封じ、魔力の消費を抑えている筈』
『貴方の理解に合わせれば、ネモに一切武器を抜かせなければ良いのですよ』
『普段はランドセルに封じ、魔力の消費を抑えている筈』
『貴方の理解に合わせれば、ネモに一切武器を抜かせなければ良いのですよ』
「武器に頼った愚かな戦いが、如何に脆いか君に教えてやるんだ!!」
藤木は高笑いと共に電流をより引き上げてネモに流し込む。
───影真似の術!!
印を組み、シカマルの足元から影が伸び藤木から生えた影に触れた。全身の身動きが、張り付けにされたように動けなくなる。
藤木も覚えがある。シカマルの使う影の技だ。
だが、こんなもの雷になって実体を消せば無力化できる。
藤木も覚えがある。シカマルの使う影の技だ。
だが、こんなもの雷になって実体を消せば無力化できる。
「「「せーの!!」」」
更に同時に3人のマリーンが110mm個人携帯対戦車弾頭弾を担ぎ上げていた。
シカマルが龍亞と梨沙の名を叫び、龍亞は梨沙の腕を引いて後方へ駆けてから、二人は頭を庇い床へと伏せる。
シカマルが龍亞と梨沙の名を叫び、龍亞は梨沙の腕を引いて後方へ駆けてから、二人は頭を庇い床へと伏せる。
デパート内の壁面、地面が振動で揺れる。
ミサイルが藤木へと着弾し爆破したのだ。
爆音が耳を鳴らし、近くの窓が破裂してガラス片を撒き散らし、丁寧に並べてあった商品棚も軽々吹っ飛んでいく。
爆音が耳を鳴らし、近くの窓が破裂してガラス片を撒き散らし、丁寧に並べてあった商品棚も軽々吹っ飛んでいく。
「こ…ここまでする必要…」
「ない…わよね?」
「ない…わよね?」
龍亞も梨沙も事態の変化に付いて行けず、ここまで何も考える余裕はなかったが。
爆発の後いくらなんでも、たかだか小学生の男児にあんなもの打ち込むのは、やり過ぎではと唖然としていた。
爆発の後いくらなんでも、たかだか小学生の男児にあんなもの打ち込むのは、やり過ぎではと唖然としていた。
「効くもんか! そんなもの!!」
だが、それは間違っていたとすぐに理解した。
藤木の身体はノイズのように紫電が走る以外は、全くの無傷だったのだ。
瓦礫やコンクリート片が散らばる破壊の中心地にありながら、柔い人体が一切の傷を負っていない異常性。
自然系(ロギア)の悪魔の実が有する、物理的な干渉を実質全て遮断する流動する体。
一部の相性を除けば、自然のエネルギーそのものへと変身できる能力者は無敵。
藤木の身体はノイズのように紫電が走る以外は、全くの無傷だったのだ。
瓦礫やコンクリート片が散らばる破壊の中心地にありながら、柔い人体が一切の傷を負っていない異常性。
自然系(ロギア)の悪魔の実が有する、物理的な干渉を実質全て遮断する流動する体。
一部の相性を除けば、自然のエネルギーそのものへと変身できる能力者は無敵。
(ランドセルを…!)
だが、例外はある。
物理干渉不可能の肉体も、覇気という異能を纏うことで実体を捉えダメージを通せるように。
別の世界に於ける異能であっても、覇気ほどの倍率ではないが自然の力にも干渉し得る。
そう、例えば英霊の持つ宝具という名の偉業の集大成にして、極上の神秘ならば。
仮の担い手であろうとも、十分すぎるダメージを与えられるだろう。
故にネモはランドセルへと手を伸ばす。
物理干渉不可能の肉体も、覇気という異能を纏うことで実体を捉えダメージを通せるように。
別の世界に於ける異能であっても、覇気ほどの倍率ではないが自然の力にも干渉し得る。
そう、例えば英霊の持つ宝具という名の偉業の集大成にして、極上の神秘ならば。
仮の担い手であろうとも、十分すぎるダメージを与えられるだろう。
故にネモはランドセルへと手を伸ばす。
(ミサイルの爆破はフェイクだ、本命はネモ)
シカマルの持つ手札で、今の藤木に通用するのは影真似の術からの影首縛りの術になるが。
仕留めるには確実性が乏しい。
例えば完全に雷に変わった場合、果たして術の効力はどうなるのか。
雷という人間では到底御しきれぬエネルギーを、果たして首を絞め殺すまでの間留めておけるのか?
シカマル目線からの疑問は尽きない。だから、決め手はネモに譲る。
仕留めるには確実性が乏しい。
例えば完全に雷に変わった場合、果たして術の効力はどうなるのか。
雷という人間では到底御しきれぬエネルギーを、果たして首を絞め殺すまでの間留めておけるのか?
シカマル目線からの疑問は尽きない。だから、決め手はネモに譲る。
(藤木……)
ネモとて思うところがないわけではないが、到底藤木を見過ごす訳にはいかない。
子供が持つには不釣り合いすぎる異能は、この先大勢の犠牲者を出し、ネモと悟空が立てた脱出計画すら白紙にしかねない。
それだけは阻止しなければ。
藤木に対し同情はある。乃亜から強制された殺し合いに怯え、人を殺めようとした事は褒められる事ではないが。
恐らく現代の法であれば、情状酌量の余地もあるのだろう。
けれども、その為にネモ一人ならまだしも無辜の子供達を意図的に死なせ、殺し合いを支配する乃亜を打倒する唯一の希望を破棄させるような行いは許せない。
子供が持つには不釣り合いすぎる異能は、この先大勢の犠牲者を出し、ネモと悟空が立てた脱出計画すら白紙にしかねない。
それだけは阻止しなければ。
藤木に対し同情はある。乃亜から強制された殺し合いに怯え、人を殺めようとした事は褒められる事ではないが。
恐らく現代の法であれば、情状酌量の余地もあるのだろう。
けれども、その為にネモ一人ならまだしも無辜の子供達を意図的に死なせ、殺し合いを支配する乃亜を打倒する唯一の希望を破棄させるような行いは許せない。
「ッ、がッァァァァ、…な………ッ…!!?」
だが、ランドセルに触れようとした瞬間に横合いから雷の槍がネモを貫く。
全身を電撃が焼き、身動きが取れないまま倒れた。
全身を電撃が焼き、身動きが取れないまま倒れた。
「グ、が…ァ……」
ネモは短く呻き声を上げて、顔だけは藤木を睨み付ける。
手を床に付いて上体を上げようとして間接に力が入らず、顔を床に打ち付ける。
ネモは立とうとして、体に力が入らず痺れた全身の感覚が麻痺していることに気付いた。
手を床に付いて上体を上げようとして間接に力が入らず、顔を床に打ち付ける。
ネモは立とうとして、体に力が入らず痺れた全身の感覚が麻痺していることに気付いた。
(ま…ずい……!)
(そうか…コンセントの差し込み口から……!!)
事の一部始終を見たシカマルは一連の真相を即座に推測する。
電に変化させた体の一部を壁際のデパート内のコンセントから通電させ、そしてネモの近くの差し込み口から射出したのだ。
電に変化させた体の一部を壁際のデパート内のコンセントから通電させ、そしてネモの近くの差し込み口から射出したのだ。
『その力、貴方の世界ではかなりの脅威になりますね』
『電気が社会のライフラインの一部になっているとは』
『この島でも、それは同じようだ』
『電気が社会のライフラインの一部になっているとは』
『この島でも、それは同じようだ』
そのアイディアも能力の使い方も工夫も全部魔神王が藤木へと指示したもの。
(す…凄いぞ…と…俊國君? なのか? もう何か見た目変わってよく分かんないけど、あの人のいう通りにやったら、ネモだってやっつけちゃった)
確かに、本当にこんな強い能力とは夢にも思わなかった。
本来なら逆立ちしても勝てない筈のネモですら、赤子を手を捻るよう。
本来なら逆立ちしても勝てない筈のネモですら、赤子を手を捻るよう。
「フン!!」
藤木の手から電撃が放たれ、ランドセルに直撃。ネモやシカマル達の手の届かない、更に遠方へ吹き飛んでいく。
もう、かつての戦いのように、小さな堕天使が勝利を運ぶことは永劫ありえない。
もう、かつての戦いのように、小さな堕天使が勝利を運ぶことは永劫ありえない。
(フフフ…次はシカマルだァ……!!)
シカマルの能力の種は割れている。
影を伸ばして相手を動けなくする能力、はっきりって雑魚だった。
ネモに比べればどうってことない。
もう既に勝った気で、藤木はシカマルへと振り返る。
影を伸ばして相手を動けなくする能力、はっきりって雑魚だった。
ネモに比べればどうってことない。
もう既に勝った気で、藤木はシカマルへと振り返る。
「ぐ、っ…」
雷速の移動についてこれず、シカマルは藤木の不格好なミドルキックを避けられず受けてしまう。
「か…雷の速さで…蹴られた事はあるかい?」
藤木は、ニタニタと吹き飛んでいったシカマルを眺めていた。
ぜいぜいと息を荒げているのが遠目からでも分かる。もう虫の息みたいだ。
心地が良い。
かつて自分に恥をかかせた奴等にやり返すのは。
ぜいぜいと息を荒げているのが遠目からでも分かる。もう虫の息みたいだ。
心地が良い。
かつて自分に恥をかかせた奴等にやり返すのは。
「ネモッ!!」
その時、藤木の耳へと飛び込んだのは少女の叫びだった。
この少女も藤木には忘れように忘れられない。
この少女も藤木には忘れように忘れられない。
フランドール・スカーレット。
装飾品のような翼をはためかせ、般若のような形相で藤木へと吶喊する。
装飾品のような翼をはためかせ、般若のような形相で藤木へと吶喊する。
(壊す!)
1度ならず2度までもあのクソガキッ!!
余裕のある時のレミリアが居れば、落ち着きなさいと宥めるであろう憤怒を抱いて。
死に掛けたネモと無惨に横たわる牛と戦車を見て、より怒りを強めた。
死に掛けたネモと無惨に横たわる牛と戦車を見て、より怒りを強めた。
───禁忌「レーヴァテイン」───
手に高濃度のエネルギーが凝縮され、それは一振りの剣のような形状へと変化した。
フランの数倍以上はある、長尺の紅の太刀は藤木では避けようも見切りようもない速度で横薙ぎに振るわれる。
藤木の能力には辛酸を舐めさせられたが、一部の攻撃は身体をすり抜けずダメージを受けていたのをフランは忘れていない。
フランの憶測だが、物理攻撃には滅法強い一方で魔法などの特殊な攻撃なら通用すると判断。
仮に駄目でもレーヴァテインならば、身体をすり抜けるだけでこちらへの感電ダメージもない。
フランの数倍以上はある、長尺の紅の太刀は藤木では避けようも見切りようもない速度で横薙ぎに振るわれる。
藤木の能力には辛酸を舐めさせられたが、一部の攻撃は身体をすり抜けずダメージを受けていたのをフランは忘れていない。
フランの憶測だが、物理攻撃には滅法強い一方で魔法などの特殊な攻撃なら通用すると判断。
仮に駄目でもレーヴァテインならば、身体をすり抜けるだけでこちらへの感電ダメージもない。
実際にその憶測は正しく、藤木の余命は残り幾ばくも無い。そこまでフランは追い詰めていた。
「げ、っ…」
先程までの激情が嘘のように消失し、振るった腕と共にフランが止まる。
『そうだ。もう一つ』
藤木は掌を、天井へと翳していた。
『貴方の世界には、火災対策としてスプリンクラーというものが存在しているのでしょう?』
完全に壊れないよう加減された電撃にスプリンクラーが反応し、人口の雨を降りしきらせる。
それは丁度、フランの真上に降り注いでいた。
それは丁度、フランの真上に降り注いでいた。
『フランが伝承通りの吸血鬼ならば、恐らくは役に立ちます』
吸血鬼は流水を渡れない。
(人間の世界には、こんな悍ましい機械があるなんて、最悪だわ!)
フランは水の牢獄に囚われたも同然だった。
スペルカードで水を吹き飛ばすか? 恐らく可能だ。
スペルカードで水を吹き飛ばすか? 恐らく可能だ。
問題は───。
(流石にねぇ……)
もう藤木が目の前に居て、電撃が放たれていることだ。
流石のフランも雷速を後出しで追い抜くのは難しい。
流石のフランも雷速を後出しで追い抜くのは難しい。
(おいおいおいおいおいおいおいおいおい…)
ここから、一体どうやって負けるんだ?
慢心を飛び越えて藤木は困惑していた。
フランにとびっきりの電撃を打ち込めば、絶対に殺せる。当然水から出ないように勢いは抑える。
ネモはリタイア、シカマルではどうやっても藤木に勝てっこない。
あの影の術で雷速で動ける藤木をどうやって捕まえられる?
フランにとびっきりの電撃を打ち込めば、絶対に殺せる。当然水から出ないように勢いは抑える。
ネモはリタイア、シカマルではどうやっても藤木に勝てっこない。
あの影の術で雷速で動ける藤木をどうやって捕まえられる?
(え、うそ……これじゃ…僕の勝ちじゃないか!)
全部、魔神王の言う通りになっていた。
シュライバーの言った10人殺しも現実味を帯びてくる、それどころか本当に優勝しそうだ。
あの子の言う通りにさえすれば、藤木はわなわなと震えながら確信を強めていく。
シュライバーの言った10人殺しも現実味を帯びてくる、それどころか本当に優勝しそうだ。
あの子の言う通りにさえすれば、藤木はわなわなと震えながら確信を強めていく。
「え…と……」
フランを殺そうとして、ほんの一瞬迷う。
本当に殺しても良いんだろうか?
ドラマじゃ殺人犯は良く警察に逮捕されている。
古畑任三郎も良く殺人犯を捕まえている、あのイチローやSMAPですら逮捕していた。
長期休みの昼間によく見る相棒の再放送でも、右京さんは殺人を決して許さない。
ウルトラマンだって、良い怪獣は倒さない。
仮面ライダーも人の心を持つ怪人を見逃している。
プリキュアだって、敵の幹部が改心して和解したり友達になることがある。
ドラマじゃ殺人犯は良く警察に逮捕されている。
古畑任三郎も良く殺人犯を捕まえている、あのイチローやSMAPですら逮捕していた。
長期休みの昼間によく見る相棒の再放送でも、右京さんは殺人を決して許さない。
ウルトラマンだって、良い怪獣は倒さない。
仮面ライダーも人の心を持つ怪人を見逃している。
プリキュアだって、敵の幹部が改心して和解したり友達になることがある。
(い…いや……そんな……)
ヒーロー達はみんな、毎週悪い奴等を殺すだけじゃない。
フジキングはヒーローの筈?
それにこいつらは悪い奴等なのか?
フジキングはヒーローの筈?
それにこいつらは悪い奴等なのか?
『そういえば…放送で流れた永沢君は貴方のお友達の名前でしたね?』
「な…永沢君……」
目を瞑って、藤木は両手に電撃を溜めて、雷光がフランを照らした。
こうしないと、親友はもう生き返らない。
城ヶ崎さんも死んだままだ。
だから、ごめんなさいと小さく呟いて。
こうしないと、親友はもう生き返らない。
城ヶ崎さんも死んだままだ。
だから、ごめんなさいと小さく呟いて。
───影縫い!!
だが、藤木の肩に鋭い痛みが走った。
見れば黒い影が鋭利な槍のように先端を尖らせ、藤木の肩を貫通していたのだ
見れば黒い影が鋭利な槍のように先端を尖らせ、藤木の肩を貫通していたのだ
「ぐがっ…ぎゃ、があああああああああああ!?」
遅れて悲鳴を上げて、これは一体なんだ? なんで自分の体が傷付けられているのか。
激痛への苦悶と恐怖、そして疑問を交えた叫びは木々に木霊していく。
激痛への苦悶と恐怖、そして疑問を交えた叫びは木々に木霊していく。
「な…なん、ご…れ……ッ!?」
「修行中の新術だよ」
ほんの一瞬、悲鳴と共に身動きが止まった藤木の隙は英霊の視点からすれば大きい。
ネモから巻き上がった海水は蛇のように床を伝って、藤木を包み込んだ。
ネモから巻き上がった海水は蛇のように床を伝って、藤木を包み込んだ。
(か…体が…う、うごか……)
悪魔の実の能力者に共通する弱点。
それはかなづちであることと、もう一つ海水に触れればその力の一切を失うこと。
海水に首から上以外包まれた藤木は、最早身動きが取れない。
それはかなづちであることと、もう一つ海水に触れればその力の一切を失うこと。
海水に首から上以外包まれた藤木は、最早身動きが取れない。
(い…いや…だ……)
藤木は己の敗北を悟った。
(ぶっつけ本番だが…なんとか、上手くやれたな)
シカマルは額の汗を拭い溜息をついた。
乃亜による殺し合いに呼ばれることがなければ、数年後に不死身の肉体を持つ暁の忍、飛段を相手に使用した忍術だ。
藤木は物理攻撃を受けないが、特殊な力を込めた物であれば通用する。
チャクラを込め影を具現化し鋭利な槍のように敵を穿つこの忍術であれば、藤木の流動する肉体も貫くやもしれない。
藤木への対抗策としてシカマルが想定した術だが、欠点としてまだシカマルが鍛錬の途中であったこと。
術の原理と印は頭に叩き込んでいたが、不確かな術に命運を託すのは冷や汗ものだった。
乃亜による殺し合いに呼ばれることがなければ、数年後に不死身の肉体を持つ暁の忍、飛段を相手に使用した忍術だ。
藤木は物理攻撃を受けないが、特殊な力を込めた物であれば通用する。
チャクラを込め影を具現化し鋭利な槍のように敵を穿つこの忍術であれば、藤木の流動する肉体も貫くやもしれない。
藤木への対抗策としてシカマルが想定した術だが、欠点としてまだシカマルが鍛錬の途中であったこと。
術の原理と印は頭に叩き込んでいたが、不確かな術に命運を託すのは冷や汗ものだった。
(肝を冷やしたぜ…)
正直に言えばシカマルもこの術が出せるか、ほぼ賭けだった。
(実体化出来た影は一つだけ…親父なら、六つは出せたな)
自分の未熟さに不甲斐なさを覚える。この先、数時間の間にせめて三つは出せるようにしたいものだ。
だが、今ので術のコツは掴んだ手応えがあった。自分の数少ない手札に加えても良いのかもしない。
だが、今ので術のコツは掴んだ手応えがあった。自分の数少ない手札に加えても良いのかもしない。
「ネモ…」
息を切らしながらシカマルはネモに声を掛ける。
「分かっているよ」
龍亞と梨沙の前で、酷な為に口には出さないが。
既に、シカマルとネモの中で藤木の処遇は決定していた。
生かしておくわけにはいかない。
魔神王の入れ知恵もあったとはいえ、仮にもサーヴァントと中忍、そして吸血鬼を相手取り全滅させかけたのだ。
海水が弱点とはいえ、ネモも常にそれを出し続けていれば魔力切れで消失する。
とても、ネモとシカマルではもう抑え込めない。
既に、シカマルとネモの中で藤木の処遇は決定していた。
生かしておくわけにはいかない。
魔神王の入れ知恵もあったとはいえ、仮にもサーヴァントと中忍、そして吸血鬼を相手取り全滅させかけたのだ。
海水が弱点とはいえ、ネモも常にそれを出し続けていれば魔力切れで消失する。
とても、ネモとシカマルではもう抑え込めない。
シカマルと目配せし、ネモは藤木へと近づいていく。
「くそ、ちくじょう…、なんで…!!」
ジタバタ藻掻きながら藤木は叫ぶが、声の圧に反して全身の力は海水に奪われていた。
ぴちゃぴちゃと水を叩く音は、陸に上げられ食されるのを待つ魚のようだった。
ぴちゃぴちゃと水を叩く音は、陸に上げられ食されるのを待つ魚のようだった。
「梨沙、龍亞…」
シカマルが二人の肩に手を置いて振り向かせる。
この先の光景を見せる必要はない。
不安そうに見つめる二人を見て、シカマルは目を細める。
この先の光景を見せる必要はない。
不安そうに見つめる二人を見て、シカマルは目を細める。
「先に行こう…フラン、お前も来てくれ」
「ええ…」
「ええ…」
フランも知識としては、人間の子供は殺しに忌避感を持っているのは知っている。
自分よりも人の扱いに慣れているシカマルとネモに間違いはないだろう。
そう考えて、特に何も反論もしない。
自分よりも人の扱いに慣れているシカマルとネモに間違いはないだろう。
そう考えて、特に何も反論もしない。
「お前、ばかり…悟空を独り占め、しやがって!! お前が、居なければ……悟空が来てくれて、永沢君は死ななかったかもしれないんだッ!!」
藤木の内心は、憎悪と嫉妬と悲しみが入り交じり思考が混雑としていた。
目の前のネモは当然腹正しい。
それでも、放送前は自分が悪いという自覚も少しはあったが。
永沢の名前が流れて、それからどうして彼が死んだのか考え出した。
あんな島の隅っこで、悟空に守られ続けていたネモ。
こいつがズルい事をして悟空を騙して、ずっと自分の事を守らせているから、悟空が誰も助けられず永沢も他の子達も死んだんじゃないか。
藤木の中で、ネモの人物像は大きく捻じれていた。
目の前のネモは当然腹正しい。
それでも、放送前は自分が悪いという自覚も少しはあったが。
永沢の名前が流れて、それからどうして彼が死んだのか考え出した。
あんな島の隅っこで、悟空に守られ続けていたネモ。
こいつがズルい事をして悟空を騙して、ずっと自分の事を守らせているから、悟空が誰も助けられず永沢も他の子達も死んだんじゃないか。
藤木の中で、ネモの人物像は大きく捻じれていた。
『ネモはズルいですよね? だって、あのフランという子…しんのすけという男の子を殺しているんですよ?
それなのに、まるで食客扱いだ。まだ誰も殺してもいない貴方ときたら…』
それなのに、まるで食客扱いだ。まだ誰も殺してもいない貴方ときたら…』
「フランなんて人殺しなのにッ!! 僕は誰も殺してなんかないのに!!
なんで、こんな目に合わなきゃ…僕はァッ!! 一度君を襲っただけなのに」
なんで、こんな目に合わなきゃ…僕はァッ!! 一度君を襲っただけなのに」
「二回だよ」
悟空達と一緒に居た時と、偽無惨の時で計二回だ。今回も入れれば三回になるか。
ネモは心底呆れ果てて誤りを指摘する。
ネモは心底呆れ果てて誤りを指摘する。
「ふーん」
退屈そうにフランも喉を鳴らす。
別にネモに隠していた訳じゃない。しんのすけに手を掛けたのは、ジャックに嵌められた自分だと。
なんでそれを知っているのか疑問に思ったが、きっとあの偽無惨に全部吹き込まれたのだろうと想像する。
別にネモに隠していた訳じゃない。しんのすけに手を掛けたのは、ジャックに嵌められた自分だと。
なんでそれを知っているのか疑問に思ったが、きっとあの偽無惨に全部吹き込まれたのだろうと想像する。
(あーあ、そっか……)
あの場面を知っているのはジャックとフランを除けばしんのすけ本人しかいない。
だから、ジャックに聞いたのでもなければ、しんのすけから情報を引き出したとか考えられない。
そして既に死んだしんのすけから、そんなモノを引き出す方法は……。
だから、ジャックに聞いたのでもなければ、しんのすけから情報を引き出したとか考えられない。
そして既に死んだしんのすけから、そんなモノを引き出す方法は……。
(やっちゃったなぁ…)
『……映画館か。何ならオラたち、今から向かっても───』
『無駄よ。もう…あそこに助けを求めてる子なんて一人もいないもん』
『無駄よ。もう…あそこに助けを求めてる子なんて一人もいないもん』
生者はいなくとも、遺体位は埋葬できたのに。
死んでからも、きっと怖い目に合ってしまったしんのすけを思うと。
己の短絡的な考えに、眩暈すら覚える。
己の短絡的な考えに、眩暈すら覚える。
◇◇◇◇
嫌だ、死にたくない! 死にたくないッ!!!
「が…ぐ、ぞ……」
どうして、こんなことになるんだ。
「い、や………だ……ぁ」
クソックソックソッ!!
全部あいつらのせいだ。ネモが悪いんだ!
悟空に守って貰えたはずなのに、あの後何にもしなかったのに! 俊國君と二人っきりなんかにしやがって!
あんな脅され方したら、誰だって従うしかないじゃないか! 裏切り者とか言ってもそんなの仕方ないだろ!
どうしたら良いんだよ! あいつがあんなことしなければ、僕は悟空に助けて貰えたかもしれないのに!!
ズルいだろあいつだけ! 自分の好きな奴だけ助けやがって!! しおちゃんやフランちゃんが可愛いから、あいつは依怙贔屓してるんだ! そうだ、そうに違いない!!
しおちゃんだって、あんなヤバい目をしてる娘が普通な訳ないんだ。それなのに、僕との扱いの差は何なんだよ!
僕の立場にしおちゃんがいたら、同じこと絶対にしてないだろ!?
フランだって頭おかしいだろあいつ! 俊國が言ってたんだ。しんのすけとかいう2時間で友たちになった奴の為に優勝狙うとかサイコパスだって!
2時間で友達になんて、なれっこないだろ!
クソックソッ! 僕や永沢君みたいなブサメンは生きる価値がないっていうのか!!?
全部あいつらのせいだ。ネモが悪いんだ!
悟空に守って貰えたはずなのに、あの後何にもしなかったのに! 俊國君と二人っきりなんかにしやがって!
あんな脅され方したら、誰だって従うしかないじゃないか! 裏切り者とか言ってもそんなの仕方ないだろ!
どうしたら良いんだよ! あいつがあんなことしなければ、僕は悟空に助けて貰えたかもしれないのに!!
ズルいだろあいつだけ! 自分の好きな奴だけ助けやがって!! しおちゃんやフランちゃんが可愛いから、あいつは依怙贔屓してるんだ! そうだ、そうに違いない!!
しおちゃんだって、あんなヤバい目をしてる娘が普通な訳ないんだ。それなのに、僕との扱いの差は何なんだよ!
僕の立場にしおちゃんがいたら、同じこと絶対にしてないだろ!?
フランだって頭おかしいだろあいつ! 俊國が言ってたんだ。しんのすけとかいう2時間で友たちになった奴の為に優勝狙うとかサイコパスだって!
2時間で友達になんて、なれっこないだろ!
クソックソッ! 僕や永沢君みたいなブサメンは生きる価値がないっていうのか!!?
ふざけんなァ!
「きみ……」
龍亞とかいう奴が、僕を見下ろしてくる。
なんだ…なんだよ、その目は?
僕が卑怯者だって言いたいんだろ? フン、そうさ僕はどうせ卑怯者だよ。
そうだ、でもネモだって卑怯者じゃないか。
なんであいつばかり、悟空を独り占めするんだよ! 悟空もヒーローの癖に一人だけ贔屓するなよ!!
なんだ…なんだよ、その目は?
僕が卑怯者だって言いたいんだろ? フン、そうさ僕はどうせ卑怯者だよ。
そうだ、でもネモだって卑怯者じゃないか。
なんであいつばかり、悟空を独り占めするんだよ! 悟空もヒーローの癖に一人だけ贔屓するなよ!!
「なんで、あんなに強かったのに…こんなこと、するんだよ…」
え……?
「さっき言ってた永沢って、きみの友達だよね。なら、どうして皆に言ってくれなかったんだ。
シカマルもネモも…きっと、助けてくれたよ」
シカマルもネモも…きっと、助けてくれたよ」
なんだよ…急に、やめろよ……。
僕を見下せよ、蔑めよ、どうせ僕なんて卑怯者だって言えよ。
そうだよ、ああそうだよ! 乃亜が怖くて殺し合いに乗ったんだ、だからこれは仕方なかったことで……。
そうだよ、ああそうだよ! 乃亜が怖くて殺し合いに乗ったんだ、だからこれは仕方なかったことで……。
「友達の為に戦える…勇気があったのに、なんであんなことに使うんだ…君が仲間になってくれたら、あの時、かなだって死ななかったかもしれないのに」
そんな、悔やんだ目で見ないでくれ。
だって、そんなこと言われたら…もしかしたらって思うじゃないか。
だって、そんなこと言われたら…もしかしたらって思うじゃないか。
『奈良シカマルだ、お互いめんどくせー事に巻き込まれちまったな』
『私は的場梨沙よ。アンタ唇の色青いけど、大丈夫?』
『私は的場梨沙よ。アンタ唇の色青いけど、大丈夫?』
殺し合いが始まって、一番最初にあの二人に出会った時に。
あの時にほんの少し勇気を出して、もしかしたら永沢君も居るかもしれないから…一緒に探して欲しいって、言えばよかったのか?
死にたくないけど、殺し合いもしたくないから力を合わせようって?
あの時にほんの少し勇気を出して、もしかしたら永沢君も居るかもしれないから…一緒に探して欲しいって、言えばよかったのか?
死にたくないけど、殺し合いもしたくないから力を合わせようって?
……そんなこと…分かってる。分かってるんだよ。
だけど、だけど…乃亜に逆らうのが怖くて。
始めの一歩が怖くて踏み出せなくて。
後から、変なタイミングで変な勇気を振り絞って、頑張って乃亜をやっつけようとしてる皆の邪魔をしてるだけだなんて、そんなの僕が一番分かってるさ。
あんな場面で勇気を出すぐらいなら、最初からシカマル達の仲間になった方がマシだったなんて、何度も後悔したさ!!
だけど、だけど…乃亜に逆らうのが怖くて。
始めの一歩が怖くて踏み出せなくて。
後から、変なタイミングで変な勇気を振り絞って、頑張って乃亜をやっつけようとしてる皆の邪魔をしてるだけだなんて、そんなの僕が一番分かってるさ。
あんな場面で勇気を出すぐらいなら、最初からシカマル達の仲間になった方がマシだったなんて、何度も後悔したさ!!
分かってる、分かってるけど…死ぬ前に、そんなこと、思い知らさないでくれよ!
全部ネモのせいにしたいんだ! 僕は…僕が……ッ!!
全部ネモのせいにしたいんだ! 僕は…僕が……ッ!!
「ァ…ァあ、っァ……」
クソックソックソッ、止まれ、止まれよ涙…泣くなよ!
認めることになるだろ!! 全部自分が悪いってこと、全部受け入れることになるじゃないか!!
もう死ぬまで、後数秒なんだ。それまで自分を誤魔化せればいいんだ。
認めることになるだろ!! 全部自分が悪いってこと、全部受け入れることになるじゃないか!!
もう死ぬまで、後数秒なんだ。それまで自分を誤魔化せればいいんだ。
だから、泣くな…泣くなよ、泣くんじゃない僕ッ!!!
「……ね…も…あ、い…つ……ッ」
なんだよ…なんで、最期に…そんな、こと…言うんだよ……。
◇◇◇◇
「ッ───おい!?」
シカマルの叫び声が響く。
紫の炎のような光の輝きが、窓から飛び込んでくる。
同時に龍亞の腕の痣が赤く光った。
紫の炎のような光の輝きが、窓から飛び込んでくる。
同時に龍亞の腕の痣が赤く光った。
「うそ…だろ……あの時、遊星達が倒したのに」
龍亞は信じられないものを見たように瞠目する。
「地縛神まで…乃亜は誰かに配ったのかよ……」
その驚嘆と恐れを秘めた声は震えていた。