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クロス第43話

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匿名ユーザー

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終わりのない悪夢はない。
どんな悪夢であろうと、いつかは目覚めの時が来る。
だが目覚めたあとの現実が、悪夢よりも上等なものであるという保証はどこにもない。


「ここは……どこだ……?」

マリオは、誰に言うでもなく呟いた。
彼は、著しく混乱していた。プログラムに参加させられ、支給されたキノコを食べた。
そこまでは覚えている。だが、そのあと何をやっていたのかまったく思い出せないのだ。
すでに空は、夜の闇が包み込んでいる。失った記憶が、一時間や二時間でないことは明白だ。

「俺はいったい、今まで何をしていたんだ?」

マリオは知らない。自分が毒キノコを食べたことで正気を失い暴れ回っていたことも、今まさに毒が切れて本来の自分を取り戻したことも。

「困った……。俺はこれからどうすればいいんだ……」

おのれの進むべき道がまったくわからず、途方に暮れるマリオ。
そんなとき、彼の背後でかすかな物音が発せられる。

「誰かいるのか!?」

敏感にその音をキャッチし、マリオは振り向く。そこには、一人の少女が立っていた。

「岩崎さんじゃないか。どうかしたのか?」

気軽に話しかけるマリオだったが、その直後にみなみの様子が普通ではないことに気づく。
身にまとう服は血に汚れ、表情は幽鬼のごとき虚無の中にいくらかのおびえが混ざっている。
とても、まともな状況とは思えない。

「おい、岩崎さん、いったいどう……」

マリオが言葉を言い切るよりわずかに早く、みなみはマリオに襲いかかった。


◇ ◇ ◇


みなみがマリオを目撃したとき、その心にあったのはただ「恐怖」のみであった。
すでにまともな思考力を失っている彼女にとって、他人は全て恐怖の対象となっていた。
自分の前に現れる者は、全て自分に危害を加える者。そんな一種の被害妄想が、みなみを支配していたのだ。

殺される前に、殺せ。

壊れた心が命じるままに、みなみはマリオに襲いかかる。
手にするのは、無骨な鉄のはさみ。包丁を放置し丸腰になっていることに気づいた彼女が、適当な民家から調達したものだ。
一切の躊躇なしに突き出された刃は、マリオの頬をかすめる。

「マンマミーア! 俺を殺すつもりなのかよ!」

悲鳴を上げるマリオだが、それはみなみの動きに何ら影響を与えることはない。
ただマリオの命を刈り取るべく、彼女ははさみを振り回す。

「やめろ! やめてくれって! 俺は君と殺し合うなんてごめんなんだよ!」

襲い来る凶刃をかわしながら、マリオはみなみの説得を試みる。
だが、それは無駄な努力に過ぎない。
壊れた人間に、他の人間の言葉など届かないのだから。

(くそっ、こうなったらしょうがない! クラスメイトに暴力を振るうのは気が引けるが……。
 力ずくでおとなしくしてもらうしかないか!)

意を決して、マリオは反撃に出る。大振りの一撃をかわし、がら空きになったボディーへ掌底を突き刺す。

「がはっ!」

鋭い一撃を受け、みなみの体がくの字に折れ曲がる。
なんとか体勢を立て直そうとする彼女だが、高い身体能力を持つマリオの一撃は彼女にとってあまりにも強烈だった。
体勢を立て直すどころかさらに崩れ、みなみは地面に膝をついてしまう。

「いいのが入ったから、しばらくはまともに動けないだろ。その間に話を聞いて……」

改めてみなみを説き伏せようとするマリオ。だがその時、彼の言葉を遮るようにして銃声が響いた。

「な、なんだ!?」

マリオは、慌てて銃声のした方に視線をやる。
そこに立っていたのは、ショットガンを手にしたみくるだった。

「朝比奈さん!? いったいどういうつもりで……」
「い、今すぐ岩崎さんから離れてください! 今のは威嚇射撃でしたけど……つ、次は当てますよ! 本気ですよ!」

戸惑いを隠せないマリオに向かって、みくるはかすかに震えながら叫ぶ。

「おいおい、ちょっと待ってくれよ! たしかに俺は今岩崎さんを攻撃したけど、先に仕掛けてきたのは向こうだぜ? 正当防衛だ!」
「た、たとえそうだとしても! あなたが危険人物であることは紛れもない事実!
 さっき私たちを襲ったのを忘れたとは言わせません! 私は……岩崎さんを死なせるわけにはいかないんです!」
「待て! 俺が君を襲った? 何の話だ!」
「とぼけても無駄です! 長門さんを怪我させたのはあなたじゃないですか!」
「馬鹿な!」

みくるの言葉を、マリオは必死に否定する。だが心の内では、彼はその言葉を否定しきれずにいた。
自分の中から欠けている、プログラム開始直後からつい先程までの記憶。
その長すぎる欠落の中で、自分は本当にみくるたちを襲っていたのでは?
それを否定できるだけの根拠は、マリオにはない。
彼の中には、激しい葛藤が渦巻いていた。そして、それが彼の命取りとなる。

「あっ!」
「え?」

ふいに、みくるが大声をあげた。マリオはすぐには、その意味を理解できなかった。
しかしわずかな間を置いて、痛みが彼に何が起きたかを伝える。
マリオとみくるが話している間に体勢を立て直したみなみが、はさみをマリオの喉に突き立てたのである。

「OH……NO……」

弱々しいつぶやきを残し、マリオは地面に伏した。

「岩崎さん……。あなたは……また……」

目の前でまたしても殺人を犯したみなみに対し、みくるは悲しげな視線を向ける。
それに対しみなみが返すのは、魂のこもらない虚ろな視線だ。

「お願いです! もうやめてください! 高良先輩も、あなたがこんなことをするのは望んでいません!」
「高良……? 高良……高良みゆき……。ううっ!」

みなみを説得するために、みくるはみなみが姉同然に慕っていた相手の名前を出す。
その名前はみなみの壊れた心に響いたらしく、彼女は頭を押さえうめき声をあげ始めた。

(これなら……いける!?)

説得に手応えを感じるみくる。だがその直後、全てを吹き飛ばすような事態が彼女を襲う。

「いたっ!」

突然額を襲った痛みに、みくるは甲高い声で悲鳴を上げる。

「いったい何が……。クルミ? ま、まさか!」
「朝比奈ァァァァァ!!」

みくるが地面に落ちたクルミを確認した、その直後。彼女の鼓膜を大音量の声が叩く。
みくるにはすぐに、それが6/のものだと理解できた。

「6/さん、なんで私を……」
「なんでだと? とぼけるな! お前今、みなみに銃を向けてただろうが!」
「あっ!」

そういわれて、みくるは気づく。マリオが倒れたあとも、彼女はマリオに向けていたショットガンをそのまま構えていた。
端から見れば、その銃口がみなみに向いていたと勘違いされてもおかしくはない。

「ち、違うんです! これは!」
「言い訳しても無駄だぜ。俺はこの目でちゃんと見たんだからな!
 まさかお前が裏切るとは思わなかったぜ……。泉を殺したのもお前だな!」

弁解しようとするみくるだが、怒り狂う6/はまったく聞く耳を持とうとしない。
今度は自らの拳をみくるに叩き込もうと、彼女に向かって突っ込む。

「す、少し頭冷やしてくださーい!」

6/の突進に対し、みくるはとっさにポケットに入れたままになっていた三味線糸を放り投げる。
空中でほどけた三味線糸は、6/の体に絡みつく。

「うおっ! なんだこれ!」

細い糸を夜の闇の中で視認するなど、至難の業。何が起こったのかわからず、6/はパニックに陥っていた。
その隙に、みくるは逃げる算段を整える。

(今は岩崎さんも6/さんも精神が不安定……。一緒にしておくのは得策じゃありません。
 ここは6/さんの頭が冷えるまで、岩崎さんを隔離しておくべきです。
 6/さんの私への敵意が増加してしまう危険性もありますが……。
 それでも、まずは今をしのぐのが最優先です!)

みなみを連れて逃げようと、みくるは彼女に向かって駆け出す。
だが彼女に連れられるまでもなく、みなみはその場からの逃走を始めていた。
おそらくは人を殺した自分を6/に見られたくなかったのだろう、とみくるは推測する。

(それでもあなたを、一人にさせるわけにはいきません……。
 もう私には……あなたを守るしかやるべき事がないんですから)

一目散に逃げ去るみなみの背中を追いかけ、みくるもまたその場から消えていった。


◇ ◇ ◇


6/が自分の体に絡みついた三味線糸を取り去ったときには、すでにみなみもみくるも姿を消していた。
だが彼が一人になったのは、ほんのわずかな間だけ。すぐに彼を追って、光太郎が駆けつけた。

「先輩! いくら銃声が聞こえたからって、一人で行かないでくださいよ!
 いちおうこっちは怪我人なんですから! それで、何かあったんですか?」
「まあな」

光太郎の言葉に対し、6/は妙に静かな声で応対する。

「朝比奈に会ったよ。あいつは裏切った。おそらく、泉を殺したのもあいつだ」
「朝比奈先輩が? まさか? あの人に限ってそんなことは……」
「俺だってそう思ってたさ。だが事実だ。あいつは裏切ったんだ」
「そんな……」

6/の言葉を信じられず、光太郎は愕然とした表情を浮かべる。

「今からあいつを追いかける。だが、武器がクルミだけじゃさすがに心許ない。
 光太郎、お前の持ってる武器を少し分けてもらえねえか?」
「ええ、かまいませんよ。どうぞ」

素直に6/に従い、光太郎は自分が持っていた武器を地面に並べる。
6/はその中からアサルトライフルを手に取ると、その銃口を光太郎に向けた。

「え?」

その意味をまったく理解できていない光太郎を見つめながら、6/は躊躇なく引き金を引く。
放たれた弾丸は、光太郎の眉間を貫いた。

「なん……で……」

最後まで6/の真意を理解できぬまま、光太郎は息を引き取る。彼が受け継いできた輝ける意志は、ここにあっけなく潰えたのである。

「もういい……。裏切られるぐらいなら、最初から仲間なんていらない……。
 俺はもう、みなみさえいてくれればいい……」

淡々と呟きながら、6/は光太郎が並べた武器をかき集める。

「待ってろ、みなみ……。必ず俺が助けてやるから……」

6/は歩き出す。己の愛が、闇に染まっていることにも気づかずに。


【31番 マリオ 死亡】
【34番 南光太郎 死亡】
【残り8人】

【5番 朝比奈みくる】
【学年】高2
【状態】健康、覚醒
【所持品】ショットガン
【能力】知力:C 体力:E お茶汲み:B


【7番 岩崎みなみ】
【学年】高1
【状態】精神崩壊
【所持品】はさみ(現地調達)
【能力】知力:B 体力:B 胸:AA(カップ的な意味で)


【40番 6/】
【学年】高3
【状態】重度の疑心暗鬼
【所持品】クルミ一袋、金属バット、鉄パイプ、スタングレネード×2、アサルトライフル
【能力】知力:B 体力:C クルミ投げ:B




【34番 南光太郎】

Former

Next

死亡



【31番 マリオ】

Former

Next

死亡



【5番 朝比奈みくる】

Former

Next




【7番 岩崎みなみ】

Former

Next




【40番 6/】

Former

Next


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