地球温暖化対策

地球温暖化対策を強力に推進する

【政策目的】
○国際社会と協調して地球温暖化に歯止めをかけ、次世代に良好な環境を引き継ぐ。
○CO2等排出量について、2020年までに25%減(1990年比)、2050年までに60%超減(同前)を目標とする。
【具体策】
○「ポスト京都」の温暖化ガス抑制の国際的枠組みに米国・中国・インドなど主要排出国の参加を促し、主導的な環境外交を展開する。
○キャップ&トレード方式による実効ある国内排出量取引市場を創設する。
○地球温暖化対策税の導入を検討する。その際、地方財政に配慮しつつ、特定の産業に過度の負担とならないように留意した制度設計を行う。
○家電製品等の供給・販売に際して、CO2排出に関する情報を通知するなど「CO2の見える化」を推進する。



民主党環境政策による国民負担

地球温暖化対策という大儀があるとはいえ、過度の温室効果ガス排出制限は企業の生産活動を抑制すると同時に、電力価格などの高騰によって国民の経済活動にマイナスの影響を与える。これまでの自民党政権も経済界の大きな反発を受け止めながら温室効果ガスの排出規制にはそれなりに力を入れてきており、「90年度比で8%削減」という数値目標を掲げていた。当時の自民党施策における国民の最終的なコスト負担は年間1世帯あたり7万7千円といわれていた。

一方、今回、民主党が掲げている数値目標はこれまでの目標値を大きく上回る「90年度比で25%削減」である。これを先の手法と同様に国民の負担額に換算すると年間1世帯あたり36万円~91万円のコスト負担、経済産業省の試算によると10年間の国内全体で190兆円以上の費用が必要となるとされている。民主党の公約によって国民が負ってしまった「十字架」は想像以上に大きい。

【温室効果ガス 30%削減の衝撃】(1)民主案 36万円家計負担増
http://s03.megalodon.jp/2009-0908-0730-50/sankei.jp.msn.com/life/environment/090826/env0908260823000-n1.htm
【温室効果ガス 30%削減の衝撃】(2)民主案 36万円家計負担増
http://s04.megalodon.jp/2009-0908-0732-11/sankei.jp.msn.com/life/environment/090826/env0908260823000-n2.htm
【温室効果ガス 30%削減の衝撃】(3)民主案 36万円家計負担増
http://s01.megalodon.jp/2009-0908-0732-52/sankei.jp.msn.com/life/environment/090826/env0908260823000-n3.htm
温室ガス削減の民主案、10年で190兆円の費用が必要
http://s01.megalodon.jp/2009-0924-1654-53/sankei.jp.msn.com/life/environment/090825/env0908250130000-n1.htm

25%削減の実現性

前述のとおり、これまでの自民党政権も経済界の大きな反発を受け止めながら温室効果ガスの排出規制にはそれなりに力を入れてきた。しかし、そのような取り組みの一方で、1990年以降、我が国における温室効果ガスの排出量は減少したことはない。そもそも我が国の環境対策は、世界の水準と比べると非常に高い水準にあり、すでに多くの対策が為されている。即ち、これから我が国が「25%削減」を実現するためには、乾いた雑巾からさらに水を絞るような努力が必要であり、その道は果てしなく険しい。対して、現在の民主党はそれに向けた具体的な施策を持っているわけではなく、民主党がマニフェストに示した公約に現実味があるかどうかと言われれば、現時点では「無い」としか言いようがない。

温室効果ガス排出量の推移 (単位 CO2換算 100万t)
  1990 2000 2004 2005
日本 1,272.0 1,347.6 1,357.0 1,359.9
出所:総務省統計局 http://www.stat.go.jp/data/sekai/16.htm#h16-03

地球温暖化の主犯

そもそも我が国のCO2排出量は世界的に見てそれほど高いわけではない。現在、地球温暖化の元凶とされている温室効果ガスの排出量においてはアメリカ(21.1%)、中国(20.6%)が飛び抜けて高く、この2カ国で世界の排出量の40%を握っている。我が国の排出量は4.5%と、その経済規模から考えると非常に小さいのだ。地球温暖化防止という大義を果たすのならば、我が国が実現不可能に近い壮大な目標を掲げる前に世界の国々の中で飛びぬけて排出量の高い中国、米国の2カ国の削減を求める方が先決なのだ。

アメリカ 21.1%
中国 20.6%
ロシア 5.7%
インド 4.6%
日本 4.5%
ドイツ 3.0%
イギリス 2.1%
カナダ 1.9%
韓国 1.7%
イタリア 1.6%
メキシコ 1.6%
フランス 1.4%
オーストラリア 1.4%
その他 28.8%

どの国がたくさん二酸化炭素を出しているかがひとめで分かる図
http://s04.megalodon.jp/2009-0912-0829-24/www.garbagenews.net/archives/996379.html

また、一部で危惧されていたとおり、鳩山政権は国連会議にて我が国の温室効果ガス25%削減を国際公約化してしまった。鳩山氏は「すべての主要国の参加が日本の国際社会への約束の前提である」とはしているものの、これによって、「25%削減」は我が国が全世界に対して責任を負う「お約束」となってしまい、これまでの単純な国内政策論争とは違う次元の問題となってしまったことは確実だ。何度も繰り返すように「25%削減」の達成は「夢物語」に近い非常に高い目標値であり、またすでに環境対策が行き渡っている我が国においては環境未開国のアメリカや中国と違って、その削減には非常に困難が伴う。

今の民主党に必要なのは、その夢物語を実現するための現実的かつ具体的な手法論を早急に詰めることであり、広げた大風呂敷をさらに大きく広げることではない。現実的な手法論を詰めないままに削減目標を国際公約化してしまうのは、政権与党としてあまりにも責任感が欠如している。もし民主党が、いつまでも理想論だけを掲げていれば良い野党感覚から抜け出せないのだとすると、その政権は長くは続かない。政権与党には、目標を掲げたならば、それを「実現する」責任が常に伴うのだ。

「25%削減」国連で表明へ 途上国支援も
http://s02.megalodon.jp/2009-0921-1040-46/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090920-00000554-san-pol
<気候変動サミット>開幕 鳩山首相「25%削減」を表明
http://s03.megalodon.jp/2009-0923-0227-32/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090922-00000070-mai-int

排出権取引

このような非常に無理のある温室効果ガスの削減目標に対する民主党の最後の「切り札」が「排出権取引」である。

温暖化ガス「25%減」目標、海外排出枠も活用 民主
http://s03.megalodon.jp/2009-0914-1742-57/www.nikkei.co.jp/news/seiji/20090914AT3S1300U13092009.html

排出権取引とは、各国家や各企業ごとに温室効果ガスの排出枠を定め、排出枠が余った国や企業と、排出枠を超えて排出してしまった国や企業との間で取引する制度である。この制度の中核はキャップ制度、およびトレード制度という二つの要素によって成り立っている。
  • キャップ制度:この国際協定に参加する先進諸国の年間温室効果ガス排出量に上限を儲けることによって、温室効果ガス排出の抑制、および減少を義務付けるものである。
  • トレード制度:各国の持つ余剰な排出権枠を取引できる制度。排出権を購入した国はその排出量を自国の排出枠に上乗せすることができる。

上記制度が設置された目的は、定められた削減目標の達成が不可能となった国に対する救済措置(制度的な柔軟性と呼ばれる)を担保するためとされているが、実質的には目標を達成することのできなかった国に対する「罰金」、および頑張って排出量削減に努めた国に対する「報奨金」的な要素を含む制度である。

排出権取引の不備

上記、排出権取引に関してはいくつかの不備が指摘されているが、その代表的なものが途上国に対する措置である。実は現在、排出権取引に関する国際協定の中でキャップ制度によって排出量制限がなされているのは先進国のみである。一方、途上国に対してはキャップ制による排出量削減義務がない中で「排出権」だけが付与されており、それが新たな国際的な利権となっていると指摘されている。

この制度不備には、以下のような問題点が指摘されている。すべての国々にキャップ&トレード双方の制度が適用されている世界では、定められた削減量を達成できなかったA国が、頑張って余分に排出量削減を行なったB国から排出権を買った場合、A国が削減できなかった分量をB国が代わりに削減した事となり世界全体のCO2排出量を減らしてゆくという大命題は実現されてゆく。しかし、現在のキャップ&トレード制度の元では多くの場合、排出制限を達成できなかった国々はCO2削減義務を負っていない途上国から排出枠を購買する。この状況においては、すべての国々にキャップ制、トレード制の双方が適応されている場合と異なり、大命題となる世界全体のCO2総量は減少しない。環境対策とは全く無関係の場所で、数字合わせのために権利とお金だけのやりとりが行なわれることとなるのだ。

国連認証済みのプロジェクト(CDM)から生み出される排出権
総量:一億4046万CO2トン/年
権利取得国 比率
中国 43.37%
インド 15.05%
ブラジル 11.84%
韓国 9.91%
メキシコ 4.20%
アルゼンチン 2.74%
チリ 2.16%
マレーシア 1.24%
インドネシア 1.11%
ナイジェリア 1.07%
エジプト 1.02%
その他 6.29%

最も理不尽だといわれているのが、先に「地球温暖化の主犯」として名を挙げた中国には、途上国であるという理由で排出抑制義務が付されていない一方で、権利として付与される「排出権」に関しては世界の大半を手中に収めている点である。すなわち中国は、世界最大の温室効果ガスの排出国でありながら、一方で世界最大の排出権「輸出国」としてキャップ&トレード制の元で大きな利益を得る形となるのだ。鳩山政権がこの排出権取引を中心として温室効果ガス25%削減を達成するとすれば、地球温暖化の主犯格である中国になぜか利益供与を行うという「盗人に追い銭」のような状態になりかねない。

金融と排出権取引 : 温暖化対策 キャップ・アンド・トレードの矛盾明白
http://s04.megalodon.jp/2009-0925-0746-36/carbonf.blog99.fc2.com/blog-entry-284.html

民主党の施策は国民の幸せに繋がるのか?

そもそも国際協定によって定められたキャップ・アンド・トレード制度は、排出制限が達成できない国々に対する救済措置として設定されたものであり、現在の民主党政策のように他国からの排出権購入を「前提」として削減目標を設定するのは本末転倒である。民主党は25%もの高い数値目標を達成するために途上国などからCO2排出権を購入して帳尻を合わせることも辞さない構えであるが、そのために環境対策税の新設もうたわれている。一方、現在の制度の下での排出権取引に不備が存在するのは上で記したとおりだ。結局、環境保全とはかけ離れたところで、得をするのは排出権を売って利益を得る途上国、我々の手元に残るのは高額の税金負担だけとなる。


そこで報道されたのが、日本政府のラトビアからの排出権購入である。国内の報道を見る限り、ラトビアから排出権の購入を行うという事実は報道しているものの、なぜかその購入額に言及しているものがない。この辺りの報道には恣意的なものも感じるが、海外のニュースサイトでそのコストを調べてみると150万トンで1500万ユーロ(約20億円)とのこと、すなわち1トンあたり1,320円である。日本が1990年比で排出量削減を行うためには1%の削減公約ごとに約15億トンの温室効果ガスの削減が必要となるといわれるので、今回のラトビアからの購入価格を元に計算すると1%相当分の購入あたり約2兆円の血税が国外に流出することとなる。これは今回民主党が政策の目玉として掲げている高速道路無料化に必用な1.3兆円/年を大きく上回るコストである。鳩山政権は25%の削減公約の実現のため、一体どれ程の排出量を海外から購入する予定なのか?

「子育て支援」も「高速道路無料化」もその施策の政策的優先度に対しての論議はあろうとも、少なくともその実行によって国内の「誰か」が幸せになるのだろう。しかし、25%削減などという荒唐無稽の公約を掲げたあげく、その達成のために国民から集めた血税をそのまま海外に放出してしまうのならば、その政策は愚策中の愚策であろう。選挙前には「国民の生活が第一」としていた民主党は、政権を獲ったとたんに今回の地球環境問題などに象徴されるように、国民生活とはかけ離れたところに政策の重点をシフトしつつあるようにみえる。民主党はもう一度、なぜ国民が今回の選挙で民主党を支持したかを、改めて考え直す必要があるのではないか。






最終更新:2009年10月09日 11:42