◆
正直に言って驚いた。
病院が設置されたエリアとは正反対の西側へ転移したのも。
移動を始めた矢先、見覚えのあり過ぎる建造物を見付けたのも。
病院が設置されたエリアとは正反対の西側へ転移したのも。
移動を始めた矢先、見覚えのあり過ぎる建造物を見付けたのも。
「ここってマギウスの翼の……」
聳え立つ廃ホテルは物言わずいろはを見下ろす。
本物のフェントホープではなく、精巧な再現に過ぎないとは察せられる。
しかし見知った施設が実際に目の前にあれば、一切驚くなというのは難しい。
イヴの孵化と共に崩壊し、二度と訪れる機会はない筈だった。
本物でないとはいえ、よもやこういった形で再び目にするとは。
本物のフェントホープではなく、精巧な再現に過ぎないとは察せられる。
しかし見知った施設が実際に目の前にあれば、一切驚くなというのは難しい。
イヴの孵化と共に崩壊し、二度と訪れる機会はない筈だった。
本物でないとはいえ、よもやこういった形で再び目にするとは。
呆然と見上げるのも束の間、直ぐに顔を引き締める。
傍らに立つ黒死牟もいろはの変化に気付き、短く問う。
傍らに立つ黒死牟もいろはの変化に気付き、短く問う。
「行くのか……」
「はい、やちよさん達がいるかもしれないですし。それにもし結芽ちゃん達が近くに飛ばされてたら、ここに来ててもおかしくないです」
「はい、やちよさん達がいるかもしれないですし。それにもし結芽ちゃん達が近くに飛ばされてたら、ここに来ててもおかしくないです」
やちよもマギウスの二人も、フェントホープを見付けたらまず間違いなく調べるだろう。
加えてこれだけ目立つ施設だ、転移した仲間や他の参加者だって無視は出来ない。
いろはと違って特別行きたい場所も無い黒死牟には、強く反対する理由もない。
好きにしろと無愛想に告げると、承諾を得られた礼が返って来た。
加えてこれだけ目立つ施設だ、転移した仲間や他の参加者だって無視は出来ない。
いろはと違って特別行きたい場所も無い黒死牟には、強く反対する理由もない。
好きにしろと無愛想に告げると、承諾を得られた礼が返って来た。
黒江の手引きで潜入した時と違い、備え付けの扉を開く一般的な方法で内部へ足を踏み入れる。
拠点として使っていた魔法少女達は当然おらず、人の気配の薄さが自然と肌寒さに変化。
思わず制服越しに二の腕を擦るいろはを尻目に、黒死牟はサガの鎧を解除。
日に炙られないなら窮屈な思いをしてまで、装着を続ける意味も無し。
引き剥がした腹部の絡繰を支給品袋に放ろうとし、勝手に掌を離れた。
拠点として使っていた魔法少女達は当然おらず、人の気配の薄さが自然と肌寒さに変化。
思わず制服越しに二の腕を擦るいろはを尻目に、黒死牟はサガの鎧を解除。
日に炙られないなら窮屈な思いをしてまで、装着を続ける意味も無し。
引き剥がした腹部の絡繰を支給品袋に放ろうとし、勝手に掌を離れた。
『&&&%$&%+##』
解読不能の言語らしきものを発し飛び回る、円盤状の生命体。
サガークと呼ばれる存在が何を言ってるのか、黒死牟にもいろはにも不明。
旧ファンガイア語しか話せない都合上、キバットバット三世同様の制限は免れた。
ファンガイアの言葉を理解出来る者が限られている為、必然的にコミュニケーションは困難。
新しい資格者へ伝えたい事でもあるのか、だとしても黒死牟からすれば然して興味もない。
鬱陶し気に目を細める横では、いろはがそっと手を伸ばす。
サガークと呼ばれる存在が何を言ってるのか、黒死牟にもいろはにも不明。
旧ファンガイア語しか話せない都合上、キバットバット三世同様の制限は免れた。
ファンガイアの言葉を理解出来る者が限られている為、必然的にコミュニケーションは困難。
新しい資格者へ伝えたい事でもあるのか、だとしても黒死牟からすれば然して興味もない。
鬱陶し気に目を細める横では、いろはがそっと手を伸ばす。
「あなたが、黒死牟さんを太陽に当たらないようにしてくれたんだね。ありがとう」
『&#$%+#@@&』
「わっ、ご、ごめんね?撫でられるの嫌だった?」
『&#$%+#@@&』
「わっ、ご、ごめんね?撫でられるの嫌だった?」
純粋な感謝で撫でたつもりだったが、怒ったように全身を震わせ跳ね除けられた。
紅渡以上にファンガイアの血が濃い、登大我に仕えていたからか。
プライドは高く、愛玩動物のように扱われるのは不服だったらしい。
傍目には微笑ましいやり取りも、黒死牟の興味は一切引かない。
サガークを掴んで今度こそデイパックに放り、何も無かったように移動を再開。
紅渡以上にファンガイアの血が濃い、登大我に仕えていたからか。
プライドは高く、愛玩動物のように扱われるのは不服だったらしい。
傍目には微笑ましいやり取りも、黒死牟の興味は一切引かない。
サガークを掴んで今度こそデイパックに放り、何も無かったように移動を再開。
慌てて追いかけて来る気配を感じつつ、病院での弟との斬り合いに思考は沈む。
姿形、声、技の冴え、己を見つめる瞳。
何もかも全てが、百年以上が経とうと色褪せぬ記憶のまま。
悪劣な幻覚でなければ、日輪を騙る愚物にも非ず。
正真正銘、本物の継国縁壱だった。
姿形、声、技の冴え、己を見つめる瞳。
何もかも全てが、百年以上が経とうと色褪せぬ記憶のまま。
悪劣な幻覚でなければ、日輪を騙る愚物にも非ず。
正真正銘、本物の継国縁壱だった。
縁壱本人が自分と同じ屠り合いの場にいるのを、今更疑う余地はない。
主への忠義すら削ぎ落とされ、人間の小娘一人に雑念を募らせる有様に堕ちた身なれど。
長きに渡り己を憎悪と嫉妬で掻き毟った男を、見間違える程耄碌してはいない。
だからこそ、受け入れざるを得ないと理解しても脳が現実を拒む。
縁壱が振るう剣の先へ、人に仇為す悪鬼はおらず。
本来ならば人格者たる弟が率先し守らんとするだろう、善良な人々が鬼滅の刃の餌食と化す。
主への忠義すら削ぎ落とされ、人間の小娘一人に雑念を募らせる有様に堕ちた身なれど。
長きに渡り己を憎悪と嫉妬で掻き毟った男を、見間違える程耄碌してはいない。
だからこそ、受け入れざるを得ないと理解しても脳が現実を拒む。
縁壱が振るう剣の先へ、人に仇為す悪鬼はおらず。
本来ならば人格者たる弟が率先し守らんとするだろう、善良な人々が鬼滅の刃の餌食と化す。
そんな馬鹿なと、有り得ぬ妄想と吐き捨てられるのならそうしたい。
しかし他ならぬ自身の六眼が捉えてしまった。
滅ぼすべき鬼へ向ける筈の殺意を、よりにもよって人間にぶつけた姿を。
己へ付いて回る理解の及ばぬ、だが善性の強さは間違いのない少女の腕を斬り刻んだ暴挙を。
しかし他ならぬ自身の六眼が捉えてしまった。
滅ぼすべき鬼へ向ける筈の殺意を、よりにもよって人間にぶつけた姿を。
己へ付いて回る理解の及ばぬ、だが善性の強さは間違いのない少女の腕を斬り刻んだ暴挙を。
悪夢同然の光景に訳も分からず脳が軋む痛みを覚え、気付けば無我夢中で得物を振るった。
いろはの命を再度拾い、小生意気な娘と共に弟と斬り合い、新たな力を得て。
結果、何か大きく変わったのかと言うなら首を横に振る他ない。
縁壱は自身から離れ、今もどこかで血の河を生み出しているのだろう。
一方自分は未だ何がしたいのか、縁壱をどうしたいのかの答えを出せずにいる。
いろはの命を再度拾い、小生意気な娘と共に弟と斬り合い、新たな力を得て。
結果、何か大きく変わったのかと言うなら首を横に振る他ない。
縁壱は自身から離れ、今もどこかで血の河を生み出しているのだろう。
一方自分は未だ何がしたいのか、縁壱をどうしたいのかの答えを出せずにいる。
仮に、最早何の意味も無い仮定の話ではあるが。
他者の介入がない、紛れもない縁壱自身の意志で以て眼前に立ったのなら。
枯れ細った老爺ではなく、生命力に満ち溢れた全盛期の姿で。
憎らしくも認めざるを得ない、最強の剣士として刃を向けるのであれば。
四百年前から続く屈辱にやり直しの機会が訪れたと、そう考える自分がともすればいたのかもしれない。
他者の介入がない、紛れもない縁壱自身の意志で以て眼前に立ったのなら。
枯れ細った老爺ではなく、生命力に満ち溢れた全盛期の姿で。
憎らしくも認めざるを得ない、最強の剣士として刃を向けるのであれば。
四百年前から続く屈辱にやり直しの機会が訪れたと、そう考える自分がともすればいたのかもしれない。
なれど、今の縁壱は神が戯れに二度目の命を吹き込んだ玩具。
鬼狩りとは名ばかりの殺戮に身を委ね、あまつさえ本人は己の在り方に一切の疑問を持たない。
そのような弟と対面し、やれ再戦だ何だのと思える筈がない。
ギチリと口内から発する音にも気付かず、奥歯を忌々し気に噛み締める。
改めて胸中を渦巻く、神への猛烈な怒り。
私が、俺が憎み焦がれた男はあんな――
鬼狩りとは名ばかりの殺戮に身を委ね、あまつさえ本人は己の在り方に一切の疑問を持たない。
そのような弟と対面し、やれ再戦だ何だのと思える筈がない。
ギチリと口内から発する音にも気付かず、奥歯を忌々し気に噛み締める。
改めて胸中を渦巻く、神への猛烈な怒り。
私が、俺が憎み焦がれた男はあんな――
「縁壱さんのことを、考えてるんですか……?」
茹で上がる頭を冷やし、意識を現実に引き戻す声。
いつの間にやら表情へ考えが出ていた鬼を覗き込む、少女と視線が合う。
途端に沸き立つ怒りは沈静、打って変わって不機嫌そうに口元が歪む。
余計な事へ思考を割き過ぎたせいで、見せたいとも思わない隙を晒した。
己自身に苛立つ黒死牟をどう思ったか、僅かな間を開けていろはがもう一度口を開く。
いつの間にやら表情へ考えが出ていた鬼を覗き込む、少女と視線が合う。
途端に沸き立つ怒りは沈静、打って変わって不機嫌そうに口元が歪む。
余計な事へ思考を割き過ぎたせいで、見せたいとも思わない隙を晒した。
己自身に苛立つ黒死牟をどう思ったか、僅かな間を開けていろはがもう一度口を開く。
「大事な家族だから…っ」
最後まで言い切らず、中途半端な所で途切れた。
口を噤んだ理由は、自分を見る男の視線が険しさを増したから。
口を噤んだ理由は、自分を見る男の視線が険しさを増したから。
「お前が……奴と私との……何を知る……」
よくもまあ、そんな戯言をほざけるものだ。
血の繋がった弟ではある、同じ女がこの世に産み落とした兄弟ではある、人間だった頃は瓜二つの容姿を持った双生児であった。
だがしかし、縁壱を家族として愛したことなど只の一度もない。
血の繋がった弟ではある、同じ女がこの世に産み落とした兄弟ではある、人間だった頃は瓜二つの容姿を持った双生児であった。
だがしかし、縁壱を家族として愛したことなど只の一度もない。
何度、目障りと思ったか。
何度、死んでくれと願ったか。
何度、何故お前だけがと妬んだか。
何度、どうして私はお前のようになれないと憎んだか。
何度、死んでくれと願ったか。
何度、何故お前だけがと妬んだか。
何度、どうして私はお前のようになれないと憎んだか。
何度、届かぬ背を焼き付かせた弟へ心を引き裂かれたか。
「言うに事欠き……奴が……大事など……」
負の衝動に背を押され吐き捨てた言葉に、いろはは無言。
揺れ動く瞳が、歪めた鬼の顔を映し出す。
制服の袖を強く握り、失敗の自分を責める。
彼が安易に触れて欲しくはない、心の一番柔らかい部分。
悪意はなくとも、無遠慮に指先で突いてしまった。
揺れ動く瞳が、歪めた鬼の顔を映し出す。
制服の袖を強く握り、失敗の自分を責める。
彼が安易に触れて欲しくはない、心の一番柔らかい部分。
悪意はなくとも、無遠慮に指先で突いてしまった。
「ごめんなさい…また、最初の時と同じことをして……」
頭を下げ、素直に謝罪を口にする。
言い訳はしない、だけどまだ言わねばならい、伝えねばならない事があった。
でも、と続け顔を上げ、もう一度ちゃんと彼の視線を受け止める。
言い訳はしない、だけどまだ言わねばならい、伝えねばならない事があった。
でも、と続け顔を上げ、もう一度ちゃんと彼の視線を受け止める。
「ありがとうございます。黒死牟さんが縁壱さんをどう思ってるのかを、教えてくれて」
多くは語らなくても、声に籠められた感情から察するのは不可能じゃない。
黒死牟が弟へ向ける想いを、悲しく思わなかったかと言えば嘘になる。
家族であっても、自分と妹とは異なる関係も珍しくはない。
理解は出来るがあっさり割り切れもしない。けど、
黒死牟が弟へ向ける想いを、悲しく思わなかったかと言えば嘘になる。
家族であっても、自分と妹とは異なる関係も珍しくはない。
理解は出来るがあっさり割り切れもしない。けど、
「縁壱さんのことを良く思ってなくても、でもどうでもいい人なんかじゃないから…」
嫌うということは、それだけ弟の存在が大きいこと。
負の感情を抱くのは、決して弟に無感情じゃない事実に他ならない。
もし弟をどうでもいい存在としか思ってないのなら、あれ程に動揺は見せなかった。
いろはが縁壱の名を口にした時、あんな風に怒りをぶつけなかった。
本当に嫌いなだけだったら、こんなにも強く迷ってはいない。
負の感情を抱くのは、決して弟に無感情じゃない事実に他ならない。
もし弟をどうでもいい存在としか思ってないのなら、あれ程に動揺は見せなかった。
いろはが縁壱の名を口にした時、あんな風に怒りをぶつけなかった。
本当に嫌いなだけだったら、こんなにも強く迷ってはいない。
世に溢れる真っ当な兄弟の在り方とは断じて言えない。
それでも黒死牟…継国巌勝は縁壱の兄だった。
兄に生まれ、弟を見て来た。
憎悪と嫉妬に苛まれる責め苦の如き生であったのは否定せずとも、縁壱への関心を失った時間だけは無かった。
それでも黒死牟…継国巌勝は縁壱の兄だった。
兄に生まれ、弟を見て来た。
憎悪と嫉妬に苛まれる責め苦の如き生であったのは否定せずとも、縁壱への関心を失った時間だけは無かった。
「だから黒死牟さんが縁壱さんのことで、どうすればいいか迷ってるなら――」
今でも思い出す。
助けられなかったあの娘達を。
助ける筈の手で絶望に堕としてしまった、ヨダカの魔法少女を。
どうしてこうなってしまったんだろうと、深く後悔を抱いたのは本当だ。
今になって過去を無かったことには出来ない。
助けられなかったあの娘達を。
助ける筈の手で絶望に堕としてしまった、ヨダカの魔法少女を。
どうしてこうなってしまったんだろうと、深く後悔を抱いたのは本当だ。
今になって過去を無かったことには出来ない。
「心から『こうしたい』って答えが出せるように、支えたいって思うんです」
だけど、最初から後悔する為に行動したんじゃない。
助けたくて動いた自分の選択を、間違いとは思っていない。
後悔したくないから手を伸ばし続けるのは、魔法少女になった時から変わらない。
助けたくて動いた自分の選択を、間違いとは思っていない。
後悔したくないから手を伸ばし続けるのは、魔法少女になった時から変わらない。
「………………」
黒死牟は沈黙以外に何も返せない。
理解の及ばぬ奇人の言動を繰り返すのは、これが初に非ず。
出会って間もない頃から一切変わらぬ、鬼を鬼と思わず手を差し伸べる姿。
口先だけの救済を嘯き己に酔う、善と無知を履き違えた愚か者。
そう断言出来たなら、どれ程楽だったろうか。
紡ぐ言葉は微塵の偽りも宿らず、いざ現実に我が身を動かす行動力を持つ。
一日にも満たない付き合いを経て、疑いの悉く削ぎ落とされた。
理解の及ばぬ奇人の言動を繰り返すのは、これが初に非ず。
出会って間もない頃から一切変わらぬ、鬼を鬼と思わず手を差し伸べる姿。
口先だけの救済を嘯き己に酔う、善と無知を履き違えた愚か者。
そう断言出来たなら、どれ程楽だったろうか。
紡ぐ言葉は微塵の偽りも宿らず、いざ現実に我が身を動かす行動力を持つ。
一日にも満たない付き合いを経て、疑いの悉く削ぎ落とされた。
環いろはという少女は、本気で自分を助けるとのたまっている。
幾度目になるか数える気にもならないが、改めて突き付けられた。
ああ本当に、この娘は何なのだと愕然とする一方で。
そう言うだろうなと納得を抱く己も片隅に存在し、それがまた黒死牟の混乱を深めるのだ。
幾度目になるか数える気にもならないが、改めて突き付けられた。
ああ本当に、この娘は何なのだと愕然とする一方で。
そう言うだろうなと納得を抱く己も片隅に存在し、それがまた黒死牟の混乱を深めるのだ。
加えて、ほとんど衝動的にだが縁壱への嫌悪を口にした。
余計なものを口走らず一睨みで黙らせれば済んだだろうに、一体何をやっているのか。
釈然としない自分への不快感と、未だこちらを見つめる桜色の少女。
両方から瞳を逸らし、広い廊下の奥を睨み付ける。
余計なものを口走らず一睨みで黙らせれば済んだだろうに、一体何をやっているのか。
釈然としない自分への不快感と、未だこちらを見つめる桜色の少女。
両方から瞳を逸らし、広い廊下の奥を睨み付ける。
「談話で無駄に時間を貪るのが……望みではないだろう……」
「は、はい!」
「は、はい!」
愛想の欠片もない、移動を促す言葉。
共にいるのを拒絶されなかった、その一つだけでいろはには十分だ。
横並びで歩き、ふと目に付いた部屋に入る。
フェントホープへ潜入の経験があるとはいえ、隅から隅まで詳しく調べてはいない。
当然いろはにとっては初めて訪れる場所も、一つや二つではなかった。
共にいるのを拒絶されなかった、その一つだけでいろはには十分だ。
横並びで歩き、ふと目に付いた部屋に入る。
フェントホープへ潜入の経験があるとはいえ、隅から隅まで詳しく調べてはいない。
当然いろはにとっては初めて訪れる場所も、一つや二つではなかった。
室内をざっと見回すと、家具の類はほとんど置かれていない。
積み上がったダンボールの上に、埃の被った布が掛けられている。
羽の魔法少女達の私室ではなく物置に使っていたのだろう。
薄暗い中を進んで行き、何と無しに見やった半開きの箱に驚き近付く。
蓋を全開にすれば案の定、見覚えのある物を手に取った。
積み上がったダンボールの上に、埃の被った布が掛けられている。
羽の魔法少女達の私室ではなく物置に使っていたのだろう。
薄暗い中を進んで行き、何と無しに見やった半開きの箱に驚き近付く。
蓋を全開にすれば案の定、見覚えのある物を手に取った。
「こんな場所にあるなんて……」
掌に収まったのは魔法少女なら、誰しも欲するだろう物。
グリーフシード、魔女を倒した証であり魔法少女の生命線。
命の核の穢れを取り除き、やがて訪れる末路を先延ばしにするソレが、無造作に箱詰めされてるとは予想外。
少なくとも本物のフェントホープだったら、もっと保管場所を考えただろうに。
どういった経緯で生まれるかを知ってるだけに、グリーフシードが見付かっても上機嫌とはならない。
グリーフシード、魔女を倒した証であり魔法少女の生命線。
命の核の穢れを取り除き、やがて訪れる末路を先延ばしにするソレが、無造作に箱詰めされてるとは予想外。
少なくとも本物のフェントホープだったら、もっと保管場所を考えただろうに。
どういった経緯で生まれるかを知ってるだけに、グリーフシードが見付かっても上機嫌とはならない。
自分達魔法少女への救済措置のつもりで、幾つかは会場にばら撒いたのだろうか。
内心複雑だがドッペルを使った時の違和感を思い出せば、グリーフシードが手元にあって損はない。
あったのは大量とは言えず、片手で数えられる分のみ。
後からやちよ達が見付ける可能性も考え、全部は持って行かず一つだけ手に取る。
ごめんなさい、持って行きますと生来の真面目さから断りを入れて。
内心複雑だがドッペルを使った時の違和感を思い出せば、グリーフシードが手元にあって損はない。
あったのは大量とは言えず、片手で数えられる分のみ。
後からやちよ達が見付ける可能性も考え、全部は持って行かず一つだけ手に取る。
ごめんなさい、持って行きますと生来の真面目さから断りを入れて。
轟音がいろは達の鼓膜へ届いたのは、正にそのタイミングだった。
「今のって……」
「……」
「……」
弾かれたように振り向くいろはより早く、黒死牟は音の発生源だろう方向を見やる。
物理的な広さ故先客がいたとしても、互いに気付かないのは不思議じゃない。
自分達と会わぬ内に相反する目的の者同士がかち合い、戦闘が始まったか。
いずれにしろこちらへ気付いての行動でないのなら、存在を気取られる前に退散も可能。
尤も、実際にその選択を取るかどうかは別である。
物理的な広さ故先客がいたとしても、互いに気付かないのは不思議じゃない。
自分達と会わぬ内に相反する目的の者同士がかち合い、戦闘が始まったか。
いずれにしろこちらへ気付いての行動でないのなら、存在を気取られる前に退散も可能。
尤も、実際にその選択を取るかどうかは別である。
行くのかと声に出し問う必要も無い。
娘が何を考え、どう動くのを望んでるかは安易に察しが付く。
であれば、いらぬ会話に時間を割くのは無駄の一言に尽きる。
娘が何を考え、どう動くのを望んでるかは安易に察しが付く。
であれば、いらぬ会話に時間を割くのは無駄の一言に尽きる。
腰に差した二振りの得物をカチリと鳴らせば、すかさずいろはは魔法少女の衣装を纏う。
何が起きているにしろ、聞かなかった事にする気は皆無。
始まる闘争の予感に気を引き締め直し、急ぎ現場へと身を走らせ――
何が起きているにしろ、聞かなかった事にする気は皆無。
始まる闘争の予感に気を引き締め直し、急ぎ現場へと身を走らせ――
「っ!?」
到着を待たず、頸を断ち切る煌めきが襲い掛かった。
いきなり何事かと、目を白黒させる余裕は皆無。
青く、星々の照らす夜空が剣に形を変え疾走。
目を奪われる輝きなれど、生憎いろはが抱くのは感動とは程遠い戦慄。
切断一歩手前まで追い込まれた痛みが、治った筈なのに首元で疼く。
鬼を滅ぼす灼熱の刀ではない、しかし自分の命を刈り取るのは同じ。
咄嗟の判断で左腕を翳すも、無意味の三文字以外にない儚い抵抗で終わる。
青く、星々の照らす夜空が剣に形を変え疾走。
目を奪われる輝きなれど、生憎いろはが抱くのは感動とは程遠い戦慄。
切断一歩手前まで追い込まれた痛みが、治った筈なのに首元で疼く。
鬼を滅ぼす灼熱の刀ではない、しかし自分の命を刈り取るのは同じ。
咄嗟の判断で左腕を翳すも、無意味の三文字以外にない儚い抵抗で終わる。
「……」
「チッ…!」
「チッ…!」
訪れるのを覚悟した痛みは来ない。
代わりに聞こえる小さな吐息と、知らない誰かが舌を打つ音。
瞳が映すは彼が纏った着物の背中。
またしても守られたと理解し、口を突いて出る礼の言葉。
ありがとうございます、そう背に告げ意識は戦闘へ切り替わる。
困惑から脱せず足手纏いになるつもりはない、自分に出来る戦いをするまで。
代わりに聞こえる小さな吐息と、知らない誰かが舌を打つ音。
瞳が映すは彼が纏った着物の背中。
またしても守られたと理解し、口を突いて出る礼の言葉。
ありがとうございます、そう背に告げ意識は戦闘へ切り替わる。
困惑から脱せず足手纏いになるつもりはない、自分に出来る戦いをするまで。
「ふん、相変わらず無駄に生き汚い害虫だな。あの偽善者どもから寄生先を変えたのか?」
「え?あの、何を言ってるんですか……?」
「口調まで変えるとは、お前の気持ち悪さは底なしか?今度は男に媚びるアバズレでも演じてるらしいな」
「アバズ…!?」
「え?あの、何を言ってるんですか……?」
「口調まで変えるとは、お前の気持ち悪さは底なしか?今度は男に媚びるアバズレでも演じてるらしいな」
「アバズ…!?」
初対面の相手にいきなり殺されかけたのもだが、長々と罵声を浴びせられ困惑を隠せない。
襲って来た人物を見れば、紺色の鎧で全身が覆われている。
天津や承太郎達のような仮面ライダーとは分かるが、声に聞き覚えは全くない。
相手の様子から察するに、自分に何らかの悪感情を抱いてるようだ。
かといって心当たりが無いいろはには、何のことやらさっぱり。
理由を聞きたいが肝心の相手が会話に応じる気配はゼロ。
襲って来た人物を見れば、紺色の鎧で全身が覆われている。
天津や承太郎達のような仮面ライダーとは分かるが、声に聞き覚えは全くない。
相手の様子から察するに、自分に何らかの悪感情を抱いてるようだ。
かといって心当たりが無いいろはには、何のことやらさっぱり。
理由を聞きたいが肝心の相手が会話に応じる気配はゼロ。
まさか自分の姿を勝手に擬態され、知らぬ内に恨みを買ったとは露知らず。
一方マサツグ様もまた、目の前にいるのは正真正銘初めて会う少女と気付けない。
みかげ達の所へ戻る最中、放送前に散々舐め腐った真似に出た小娘を偶然発見。
黒々と燃え盛る負の衝動に急かされるまま、標的を急遽変更。
全くの冤罪だと知る由もなく、いろはに襲い掛かったのだ。
一方マサツグ様もまた、目の前にいるのは正真正銘初めて会う少女と気付けない。
みかげ達の所へ戻る最中、放送前に散々舐め腐った真似に出た小娘を偶然発見。
黒々と燃え盛る負の衝動に急かされるまま、標的を急遽変更。
全くの冤罪だと知る由もなく、いろはに襲い掛かったのだ。
いろはを恨む理由も黒死牟の知った事ではなく、問い質す気も起きない。
現われた剣士は敵である、その一点さえ確かなら十分。
虚哭神去を抜刀し聖剣を防いだ体勢を、長々と維持しても戦況に変化は無し。
襲って来た、故に返り討ちにし斬り捨てるまで。
人外の肺活量にて行われる呼吸が大気に悲鳴を上げさせ、瞬く間に血液が沸騰。
己が技を繰り出すのに躊躇は不要。
現われた剣士は敵である、その一点さえ確かなら十分。
虚哭神去を抜刀し聖剣を防いだ体勢を、長々と維持しても戦況に変化は無し。
襲って来た、故に返り討ちにし斬り捨てるまで。
人外の肺活量にて行われる呼吸が大気に悲鳴を上げさせ、瞬く間に血液が沸騰。
己が技を繰り出すのに躊躇は不要。
――月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦
「チッ…!」
聖剣を防ぐ構えを崩さず、目の前の剣士を渦に閉じ込める。
刀を振るうという必要不可欠な動作を無視し放つ予想外の技に、クロスセイバーも反応が追い付かない。
甲冑の恩恵でダメージは抑えられるが、不快な痛みはゼロじゃない。
刃が胴を引き裂き、数歩の後退で距離を離す。
むざむざ逃がしはせぬとすかさず踏み込み、鬼は追撃に牙を剥く。
刀を振るうという必要不可欠な動作を無視し放つ予想外の技に、クロスセイバーも反応が追い付かない。
甲冑の恩恵でダメージは抑えられるが、不快な痛みはゼロじゃない。
刃が胴を引き裂き、数歩の後退で距離を離す。
むざむざ逃がしはせぬとすかさず踏み込み、鬼は追撃に牙を剥く。
「気安く俺に近付くな!醜い生ゴミが!」
耐久性の高さもあって致命傷には至らずとも、ストレスは増加。
怒声で尻込みする黒死牟ではないが、予期せぬ方向からの飛来物を視界の端に捉えたなら別。
クロスセイバーから対象を変え刀を振るい、斬り落とした物の正体は燭台。
まるで意志を得たように、高級ホテルを過去に彩った調度品の一つが黒死牟を狙ったのだ。
怒声で尻込みする黒死牟ではないが、予期せぬ方向からの飛来物を視界の端に捉えたなら別。
クロスセイバーから対象を変え刀を振るい、斬り落とした物の正体は燭台。
まるで意志を得たように、高級ホテルを過去に彩った調度品の一つが黒死牟を狙ったのだ。
不可思議な現象に首を傾げる場合ではない。
燭台を斬るのとタイミングをほぼ同じくし、いろはがクロスボウを放つ。
いろは自身も一度は仮面ライダーになったから分かるが、易々と貫ける強度の装甲じゃあない。
一発二発をチマチマ撃っても無意味、よってこれまで通り連射。
煌びやかな桜色とは裏腹に、魔女やウワサを葬って来た魔法少女の射撃だ。
生半可な防御では的同然だがクロスセイバーには無問題。
青い残像を生みながら急接近、小癪な抵抗を一刀の元に終わらせる。
燭台を斬るのとタイミングをほぼ同じくし、いろはがクロスボウを放つ。
いろは自身も一度は仮面ライダーになったから分かるが、易々と貫ける強度の装甲じゃあない。
一発二発をチマチマ撃っても無意味、よってこれまで通り連射。
煌びやかな桜色とは裏腹に、魔女やウワサを葬って来た魔法少女の射撃だ。
生半可な防御では的同然だがクロスセイバーには無問題。
青い残像を生みながら急接近、小癪な抵抗を一刀の元に終わらせる。
「くっ…!」
敵が自分の矢を突破するくらい、十分予想の範囲内。
全身の筋肉をしならせて跳躍、後方へと一気に飛び退く。
魔法少女に変身し純粋な力も、十代の少女が出せる限界を優に超える。
背後の扉を蹴破りダイナミックに入室、妙にだだっ広い部屋へ転がり込む。
全身の筋肉をしならせて跳躍、後方へと一気に飛び退く。
魔法少女に変身し純粋な力も、十代の少女が出せる限界を優に超える。
背後の扉を蹴破りダイナミックに入室、妙にだだっ広い部屋へ転がり込む。
自暴自棄になった梓みふゆが飲酒に逃げた場所、とは勿論知らない。
視界が映す夜空色の装甲へ矢を射る。
装填やトリガーを引く手間は不要、意思一つで発射可能。
しかし寸前で背後の空気を切り裂く音を拾い、嫌な予感に再び回避。
視界が映す夜空色の装甲へ矢を射る。
装填やトリガーを引く手間は不要、意思一つで発射可能。
しかし寸前で背後の空気を切り裂く音を拾い、嫌な予感に再び回避。
「きゃっ…!」
直撃は凌ぐも完全に回避とはならず、背に衝撃が走る。
魔法少女の打たれ強さなら、床へ叩き付けられても死にはしない。
かといって痛みを受け入れる趣味はなく、どうにか受け身を取った。
何かが壁にぶつかり、視線をやればソファーが落下しバネが突き出るのが見える。
魔法少女の打たれ強さなら、床へ叩き付けられても死にはしない。
かといって痛みを受け入れる趣味はなく、どうにか受け身を取った。
何かが壁にぶつかり、視線をやればソファーが落下しバネが突き出るのが見える。
「立ち上がろうとするなよゴキブリめ。害虫は害虫らしく這い蹲ってろ!」
「っ!」
「っ!」
罵声と共に頭上から靴底が振り下ろされた。
憎たらしい少女の顔諸共踏み潰し、靴の汚れに変えるのへ罪悪感はない。
むしろ殺したいと思っていた相手の無様な最期が拝めるのであれば、やらない方が不自然。
憎たらしい少女の顔諸共踏み潰し、靴の汚れに変えるのへ罪悪感はない。
むしろ殺したいと思っていた相手の無様な最期が拝めるのであれば、やらない方が不自然。
忘れるなかれ、此度の闘争もまた魔法少女一人の足掻きに非ず。
悪しき剣士の望む光景を阻む刃が、喉元へ食らい付かんと疾走。
クロスセイバーへ仇為す存在を察知し、色褪せた絵画が回転刃の如く迫る。
まるで剣士を「守る」かの現象も、黒死牟を止めるには至らなかった。
悪しき剣士の望む光景を阻む刃が、喉元へ食らい付かんと疾走。
クロスセイバーへ仇為す存在を察知し、色褪せた絵画が回転刃の如く迫る。
まるで剣士を「守る」かの現象も、黒死牟を止めるには至らなかった。
――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮
人の限界しか知らぬ者には悪夢同然の速度で放つ、魔の領域へ座する居合斬り。
両断された挙句、半月状の力場が食い荒らす絵画には見向きもしない。
己が刃を輝く剣で防ぎ、得物を挟んで睨み合う敵以外へ何を見ろと言う。
両断された挙句、半月状の力場が食い荒らす絵画には見向きもしない。
己が刃を輝く剣で防ぎ、得物を挟んで睨み合う敵以外へ何を見ろと言う。
腕に力を漲らせ、聖剣共々薙ぎ払う。
鬼の膂力へ呼吸による身体強化を加えたのだ、100kgに近い重量の装甲とて真っ直ぐに立ってはいられない。
後方に足を縺れさせたクロスセイバーへ、立て直しを許さず刀が駆ける。
鬼の膂力へ呼吸による身体強化を加えたのだ、100kgに近い重量の装甲とて真っ直ぐに立ってはいられない。
後方に足を縺れさせたクロスセイバーへ、立て直しを許さず刀が駆ける。
刀身が胴を撫でる瞬間に、紺色の剣士への守護が発動。
不可視の力により引き剥がされた扉が飛来、人間が直撃を許せば骨の数本はへし折れるだろう勢いだ。
視線を剣士から離さず得物を背後へ振るい、扉の残骸が足元へ散らばる。
改めて標的を切り刻まんとするが狙いが逸れたのは事実、反対に振り下ろされた聖剣を最小限の動作で躱す。
不可視の力により引き剥がされた扉が飛来、人間が直撃を許せば骨の数本はへし折れるだろう勢いだ。
視線を剣士から離さず得物を背後へ振るい、扉の残骸が足元へ散らばる。
改めて標的を切り刻まんとするが狙いが逸れたのは事実、反対に振り下ろされた聖剣を最小限の動作で躱す。
次の剣の到達を待たず斬り掛かり、鬼の斬撃が受け流された。
あらぬ方へと伸びる得物を引き戻すも、間髪入れずに聖剣が突きを見舞う。
刀身を弾き返し、逆に斬り込むがあっさりと回避。
躱した体勢から宙へと身を躍らせ回転、円を描いた刃が襲い来る。
防御に出た所で得物共々砕き兼ねない威力に対し、黒死牟が選ぶは迎撃。
そちらから近付いた事を後悔させるべく、得物を振り上げる。
あらぬ方へと伸びる得物を引き戻すも、間髪入れずに聖剣が突きを見舞う。
刀身を弾き返し、逆に斬り込むがあっさりと回避。
躱した体勢から宙へと身を躍らせ回転、円を描いた刃が襲い来る。
防御に出た所で得物共々砕き兼ねない威力に対し、黒死牟が選ぶは迎撃。
そちらから近付いた事を後悔させるべく、得物を振り上げる。
――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月
切っ先で床を引っ掻きながら斬り上げ、三つの月を生み出す。
自ら鬼の狩場へ首を突っ込む哀れな獲物、なんて末路は訪れない。
足場のない不安定な宙にいながら繰り出す、澱みのない剣捌き。
刃を打ち消し華麗に着地、一呼吸終える間もなく剣士は鬼と刃を叩きつけ合う。
自ら鬼の狩場へ首を突っ込む哀れな獲物、なんて末路は訪れない。
足場のない不安定な宙にいながら繰り出す、澱みのない剣捌き。
刃を打ち消し華麗に着地、一呼吸終える間もなく剣士は鬼と刃を叩きつけ合う。
膂力、速度、技の完成度。
それら全てで柱や弐以下の上弦を寄せ付けぬ強さの鬼を相手に、クロスセイバーは難なく渡り合っていた。
時に防ぎ、時に受け流し、時に猛攻を与える。
黒死牟がどこから攻めに出ようと、一太刀も浴びず五体満足を保つ。
それら全てで柱や弐以下の上弦を寄せ付けぬ強さの鬼を相手に、クロスセイバーは難なく渡り合っていた。
時に防ぎ、時に受け流し、時に猛攻を与える。
黒死牟がどこから攻めに出ようと、一太刀も浴びず五体満足を保つ。
「おい化け物、そんな醜い顔で一丁前に侍気取りなんて人間様に申し訳ないと思わないのか?俺なら恥ずかしくて自殺してるぞ」
神々しい甲冑姿からは想像も付かない、下衆な内容が飛び出す。
鬼狩りから挑発や憤怒をぶつけられた経験は多々あれど、こうも性根の悪さを漂わすのは滅多にない。
顔を顰めつつ胸部目掛け真一文字を描く。
骨まで断たれ肉塊二つが地に転がるだろう一撃も、クロスセイバーは焦らずに対処。
鬼狩りから挑発や憤怒をぶつけられた経験は多々あれど、こうも性根の悪さを漂わすのは滅多にない。
顔を顰めつつ胸部目掛け真一文字を描く。
骨まで断たれ肉塊二つが地に転がるだろう一撃も、クロスセイバーは焦らずに対処。
「やれやれ、必死こいて振るった剣がこの程度とは。ゴミに同情を抱く気なんて無かったが、流石に憐れに思えて来るな」
口を動かしつつ攻撃の手も決して止めない。
流水の如く軽やかであり、激流の如き苛烈な威力で怒涛の攻めを繰り出す。
腕一本で行う動きとは思えない刃の群れが殺到、下手に防ごうものならたちまち肉片の山と化す。
なれど黒死牟に対処不可能と言った覚えはなし。
一つ一つを正確に捉え、無駄を完全に削ぎ落とした剣技で以て捌く。
力と技の両方を兼ね備えた鬼をどう思ったか、声色に少しばかりの苛立ちを含ませ剣士がまたもや挑発を並べる。
流水の如く軽やかであり、激流の如き苛烈な威力で怒涛の攻めを繰り出す。
腕一本で行う動きとは思えない刃の群れが殺到、下手に防ごうものならたちまち肉片の山と化す。
なれど黒死牟に対処不可能と言った覚えはなし。
一つ一つを正確に捉え、無駄を完全に削ぎ落とした剣技で以て捌く。
力と技の両方を兼ね備えた鬼をどう思ったか、声色に少しばかりの苛立ちを含ませ剣士がまたもや挑発を並べる。
「ふう、ゴミに時間を割かれるこっちの身にもなって欲しいもんだ。こんなショボい剣で何を為す気でいるのやら。雑魚は雑魚らしく、やる事全てが無駄と理解し――」
「無駄なんかじゃありません!」
スラスラと飛び出す罵倒は、少女の声に掻き消された。
不機嫌を露わに睨み付けると、自身へクロスボウを向ける姿が見える。
ゴミがと吐き捨て己を守る力が発動、長テーブルが少女目掛け飛びこちらへの攻撃を阻む。
とはいえ少女にとっても既に見知った現象だ、予めそうなると分かっていれば二度も同じ手は受けない。
魔力の矢を発射し長テーブルを破壊、連射を止めずに続けてクロスセイバーを狙う。
頭部から突き出たブレード部分に命中。
ストライクマークの効果で貫通力の上がった矢だ、砕けずとも振動で視界を大きく揺さぶられる。
絶叫マシンを降りた直後に似た眩暈を覚え、生まれた隙へ鬼が刃を差し込む。
不機嫌を露わに睨み付けると、自身へクロスボウを向ける姿が見える。
ゴミがと吐き捨て己を守る力が発動、長テーブルが少女目掛け飛びこちらへの攻撃を阻む。
とはいえ少女にとっても既に見知った現象だ、予めそうなると分かっていれば二度も同じ手は受けない。
魔力の矢を発射し長テーブルを破壊、連射を止めずに続けてクロスセイバーを狙う。
頭部から突き出たブレード部分に命中。
ストライクマークの効果で貫通力の上がった矢だ、砕けずとも振動で視界を大きく揺さぶられる。
絶叫マシンを降りた直後に似た眩暈を覚え、生まれた隙へ鬼が刃を差し込む。
「生ゴミが…!」
『闇月・宵の宮』が至近距離で放たれ、剣を翳しながらクロスセイバーは後退。
安定しない視界でありながら、咄嗟の対処は見事の言葉以外に見当たらない。
本人に称賛を投げ掛けた所で喜びはなく、不愉快になるだけだろう。
頭を振って射殺さんばかりの視線を叩き付けるが、敵は共に動じた様子なし。
無駄な足掻きを続ける鬼も、自身を悉く不快にさせる少女もだ。
安定しない視界でありながら、咄嗟の対処は見事の言葉以外に見当たらない。
本人に称賛を投げ掛けた所で喜びはなく、不愉快になるだけだろう。
頭を振って射殺さんばかりの視線を叩き付けるが、敵は共に動じた様子なし。
無駄な足掻きを続ける鬼も、自身を悉く不快にさせる少女もだ。
「黒死牟さんが戦って来たことは、絶対に無駄なんかじゃない。否定なんてさせません」
殺意を籠めた瞳に貫かれて尚、いろはは怯まず毅然と反論をぶつける。
殺し合いに参加する前の彼を知らずとも、殺し合いでの彼を近くで見て来たから言えるのだ。
彼が剣を振るったから、失われなかった命がある。
彼が戦ったから助かった者がいて、繋がった命がある。
他ならぬいろは自身が黒死牟に助けられたから、彼を否定する嘲りには黙っていられない。
殺し合いに参加する前の彼を知らずとも、殺し合いでの彼を近くで見て来たから言えるのだ。
彼が剣を振るったから、失われなかった命がある。
彼が戦ったから助かった者がいて、繋がった命がある。
他ならぬいろは自身が黒死牟に助けられたから、彼を否定する嘲りには黙っていられない。
「……本当に気色悪いなお前。こんな蛆虫、いや最早蛆虫にすら失礼か。お前のようなカスをさっさと片付けなかった自分が恨めしくなってきたぞ」
心底の侮蔑を籠めて、いろはを徹底的にこき下ろす。
そもそもマサツグ様にとっていろはは偽善者のヒーロー(笑)連中と一緒にいた、煽り気質の小娘という認識。
放送前とは口調も変えて、化け物の男に媚びを売っている。
全くの人違いとは未だ気付かず、ころころ都合の良い女を演じては自分に楯突く様が非常に気に入らない。
そもそもマサツグ様にとっていろはは偽善者のヒーロー(笑)連中と一緒にいた、煽り気質の小娘という認識。
放送前とは口調も変えて、化け物の男に媚びを売っている。
全くの人違いとは未だ気付かず、ころころ都合の良い女を演じては自分に楯突く様が非常に気に入らない。
十聖刃は手元に戻った、「守る」スキルも時間経過で罠カードの効果が切れ問題無く機能。
だけど心を蝕む感情は未だに燻り続け、奥底の恨みを激しく燃え上がらせる。
何より苛立つのは、敵が『二人』で自分と戦っていること。
群れなければ何も出来ない、力が無い故の雑魚らしい無様さ。
そう己へ何度言い聞かせても、内心は酷くささくれ立つばかり。
あのような醜悪な容姿の化け物さえ、形はどうあれ共に戦う存在がいる。
口では仲間や友情を見下す一方で、自分では手に入らなかったソレを羨む。
だけど心を蝕む感情は未だに燻り続け、奥底の恨みを激しく燃え上がらせる。
何より苛立つのは、敵が『二人』で自分と戦っていること。
群れなければ何も出来ない、力が無い故の雑魚らしい無様さ。
そう己へ何度言い聞かせても、内心は酷くささくれ立つばかり。
あのような醜悪な容姿の化け物さえ、形はどうあれ共に戦う存在がいる。
口では仲間や友情を見下す一方で、自分では手に入らなかったソレを羨む。
そんなナオミ・マサツグの負の側面を肥大化させた存在にとっては、見ているだけで許し難い光景。
劣等感の刺激で感情が揺れ動き、ニノン達を相手取った時同様に「聖剣の担い手」スキルが効果を発した。
黒死牟とも渡り合ったスキルの恩恵は、感情が高まれば高まる程にマサツグ様へ力を齎す。
自分に余計な痛みを与え、化け物と屑の分際で協力し、痛々しいお仲間ごっこを見せ付ける。
今しがたのいろはの言葉で不快感を煽られたのも影響を受け、マサツグ様の剣技は更に上昇。
放って置けばいずれ黒死牟を完全に凌駕するだろう。
全身に力が漲る感覚を覚え、やはり自分にこそ天は微笑むのだと口の端を吊り上げた。
劣等感の刺激で感情が揺れ動き、ニノン達を相手取った時同様に「聖剣の担い手」スキルが効果を発した。
黒死牟とも渡り合ったスキルの恩恵は、感情が高まれば高まる程にマサツグ様へ力を齎す。
自分に余計な痛みを与え、化け物と屑の分際で協力し、痛々しいお仲間ごっこを見せ付ける。
今しがたのいろはの言葉で不快感を煽られたのも影響を受け、マサツグ様の剣技は更に上昇。
放って置けばいずれ黒死牟を完全に凌駕するだろう。
全身に力が漲る感覚を覚え、やはり自分にこそ天は微笑むのだと口の端を吊り上げた。
「お前らのような低能に、言葉で懇切丁寧に教えてやっても時間が勿体ない。力が無ければ何も出来ない現実を、体に叩き込んで――」
「貴様は……」
「貴様は……」
歌うように口から飛び出る挑発はまたもや中断されて、多少マシになった機嫌が急下降。
人の話を最後まで聞けないのかと軽蔑を視線に乗せ、
人の話を最後まで聞けないのかと軽蔑を視線に乗せ、
「一体何を……そこまで妬む……?」
閉ざした心の奥深くを、容赦なく抉られた。
○
歪な少年だと、一目見た時から思った。
口を開けば罵詈雑言しか飛び出さず、褒められた人間性でないだけではない。
真っ先に疑問を感じたのは、少年の持つ強さの理由。
口を開けば罵詈雑言しか飛び出さず、褒められた人間性でないだけではない。
真っ先に疑問を感じたのは、少年の持つ強さの理由。
月の呼吸を以てしても斬り刻めないのは、今に始まったものでなく。
頑強極まる外殻のデェムシュの例がある以上、耐久性が異様に優れた存在は最早珍しくない。
不可視の斬撃波を飛ばし、軌道へ複数の力場を発生。
数や位置、出現のタイミングが常に変化する悪辣な刃の檻。
鬼狩りを屠った己が血鬼術も、異界の屠り合いにおいては殺傷力を大きく削がれる憂き目に多々あっている。
此度の剣士もそういった装備を手に入れたと分かる以上、一々愕然とする必要は皆無。
頑強極まる外殻のデェムシュの例がある以上、耐久性が異様に優れた存在は最早珍しくない。
不可視の斬撃波を飛ばし、軌道へ複数の力場を発生。
数や位置、出現のタイミングが常に変化する悪辣な刃の檻。
鬼狩りを屠った己が血鬼術も、異界の屠り合いにおいては殺傷力を大きく削がれる憂き目に多々あっている。
此度の剣士もそういった装備を手に入れたと分かる以上、一々愕然とする必要は皆無。
分からないのは相手の急激な技の精度の上昇について。
鎧に隠れた生身の更に奥を、透き通る世界は確かに見た。
痣者に非ず、自身と同じ世界を視てもおらず、何より剣士のソレとは程遠い肉体。
男女問わず剣を振るう為に鍛えた者は、筋肉の付き方にも特有のクセが生まれる。
だが紺色の鎧を纏った少年の体に、剣士として鍛えた痕跡はまるで存在しない。
幼い結芽でさえ刀を得物とする以上、肉体に証拠が刻まれたというのに。
既に歴代の柱の何人かを超えた剣術を持ちながら、強さに説明が付かない矛盾。
あえて喩えるならば、後付けで絶技だけを手に入れたと言うべきか。
鎧に隠れた生身の更に奥を、透き通る世界は確かに見た。
痣者に非ず、自身と同じ世界を視てもおらず、何より剣士のソレとは程遠い肉体。
男女問わず剣を振るう為に鍛えた者は、筋肉の付き方にも特有のクセが生まれる。
だが紺色の鎧を纏った少年の体に、剣士として鍛えた痕跡はまるで存在しない。
幼い結芽でさえ刀を得物とする以上、肉体に証拠が刻まれたというのに。
既に歴代の柱の何人かを超えた剣術を持ちながら、強さに説明が付かない矛盾。
あえて喩えるならば、後付けで絶技だけを手に入れたと言うべきか。
もう一つ、強さとは別に不可解なのが少年の言葉や態度の端々に見え隠れする感情。
並べ立てられた挑発の数々は、生前なら青筋の一つや二つは浮かべたと思えるくらいには痛い所を突く内容。
こちらの事情を知らぬ者であるというのに、腹立たしい所を的確に掻き回してくれる。
醜悪さを突き付ける末路を自らの手で引き寄せ、挑発で心を軋ませるのはデェムシュとの戦闘で味わった。
加えて現在は劣等感以上に、傀儡と化した弟への形容し難いナニカの方が強い。
それらが重なり不快だとは思えど激昂には至らず、故に少年が挑発の裏に何を隠してるかに気付けた。
ソレは黒死牟にも酷く覚えのある感情であり、なればこそ余計に分からない。
何を考えてソレを自分や、いろはに抱くのかが。
解答には届かず余りに不可解な為か、気付けばポツリと問いが零れ出たのだった。
並べ立てられた挑発の数々は、生前なら青筋の一つや二つは浮かべたと思えるくらいには痛い所を突く内容。
こちらの事情を知らぬ者であるというのに、腹立たしい所を的確に掻き回してくれる。
醜悪さを突き付ける末路を自らの手で引き寄せ、挑発で心を軋ませるのはデェムシュとの戦闘で味わった。
加えて現在は劣等感以上に、傀儡と化した弟への形容し難いナニカの方が強い。
それらが重なり不快だとは思えど激昂には至らず、故に少年が挑発の裏に何を隠してるかに気付けた。
ソレは黒死牟にも酷く覚えのある感情であり、なればこそ余計に分からない。
何を考えてソレを自分や、いろはに抱くのかが。
解答には届かず余りに不可解な為か、気付けばポツリと問いが零れ出たのだった。
仮に少年が縁壱と遭遇し強運によってどうにか逃げ延びた後、自分達に会ったと言うのであれば。
嫉妬の向かう先が神々の寵愛を受けた、縁壱の才と言うのだったら十分理解出来る。
縁壱への嫉妬に身を焦がし八つ当たり気味に襲ったとしても、傍迷惑だがまだ納得の範囲内。
しかし小年はどういう訳か、自分といろはに妬みを抱いている。
嫉妬の向かう先が神々の寵愛を受けた、縁壱の才と言うのだったら十分理解出来る。
縁壱への嫉妬に身を焦がし八つ当たり気味に襲ったとしても、傍迷惑だがまだ納得の範囲内。
しかし小年はどういう訳か、自分といろはに妬みを抱いている。
分からない、分かる筈もない。
黒死牟の内心がどうであれ、共に戦う存在を得ているからなど。
そんなものが嫉妬の理由だなんて思いつく訳がなく、直接ぶつけた問いはどんな剣よりも深く少年を刺し貫く。
煽りや挑発の意図は皆無、ただ本当に意味が分からないから思わず声に出た。
たったそれだけに過ぎずとも、少年の嫉妬心を更に掻き乱すには十分な効果を持ち、
黒死牟の内心がどうであれ、共に戦う存在を得ているからなど。
そんなものが嫉妬の理由だなんて思いつく訳がなく、直接ぶつけた問いはどんな剣よりも深く少年を刺し貫く。
煽りや挑発の意図は皆無、ただ本当に意味が分からないから思わず声に出た。
たったそれだけに過ぎずとも、少年の嫉妬心を更に掻き乱すには十分な効果を持ち、
「―――――――――あ゛?」
膨れ上がった怒気が肌を引っ掻き、相手の琴線に触れたと理解せざるを得なかった。
「空気を読む能力もないゴミクズが…!余計なことをほざいてないで、とっとと死んでいろ…!!」
人間ですらない化け物の分際で、自分の内心へズケズケと入り込んだ。
隠した部分を強引に引っ張り出し、挙句本人はすっとぼけたように意味不明と表情で伝える。
これで怒りを覚えるなとは流石に無理な話。
最初から殺す気だったがもう容赦はしない、誰を怒らせたかを徹底的に後悔させて消し去ってやる。
隠した部分を強引に引っ張り出し、挙句本人はすっとぼけたように意味不明と表情で伝える。
これで怒りを覚えるなとは流石に無理な話。
最初から殺す気だったがもう容赦はしない、誰を怒らせたかを徹底的に後悔させて消し去ってやる。
『刃王必殺リード!既読六聖剣!』
『刃王剣必殺読破!星烈斬!』
鍔部分のエンブレムを押しながら、刀身部分をスライド。
十本の聖剣の力を一つに束ね生まれたのが十聖刃だ。
元となった他の聖剣の力も自在に引き出し、全知全能の書を巡る戦いで活用されて来た。
十本の聖剣の力を一つに束ね生まれたのが十聖刃だ。
元となった他の聖剣の力も自在に引き出し、全知全能の書を巡る戦いで活用されて来た。
但し今回は世界を守る意志など介入の余地がない、私的な怒りで能力を行使。
烈火、流水、黄雷、激土、翠風、錫音。
固く結ばれた剣士達の絆を踏み躙る、六本の力を付与した斬撃の嵐を見舞う。
炎竜の餌食と化すか、激流に骨まで洗い流されるか、神罰の如き雷に焼かれるか。
岩石の群れに叩き潰されるか、暴風の刃で細切れか、音撃に肉片すら残さず消し飛ぶか。
烈火、流水、黄雷、激土、翠風、錫音。
固く結ばれた剣士達の絆を踏み躙る、六本の力を付与した斬撃の嵐を見舞う。
炎竜の餌食と化すか、激流に骨まで洗い流されるか、神罰の如き雷に焼かれるか。
岩石の群れに叩き潰されるか、暴風の刃で細切れか、音撃に肉片すら残さず消し飛ぶか。
――月の呼吸 陸ノ型 常世弧月・無間
どれも御免被る。
斬撃の嵐を巻き起こすなら、こちらも相応の技で掻き消すだけのこと。
虚哭神去の一振りが奏でるは、無数の半月による乱れ撃ち。
さながら地獄に引き摺り込む亡者の大群の如く、死へ誘う手を伸ばす。
間合い外への離脱は決して認めぬ斬撃同士が喰らい合い、余波が空間へ破壊を生む。
斬撃の嵐を巻き起こすなら、こちらも相応の技で掻き消すだけのこと。
虚哭神去の一振りが奏でるは、無数の半月による乱れ撃ち。
さながら地獄に引き摺り込む亡者の大群の如く、死へ誘う手を伸ばす。
間合い外への離脱は決して認めぬ斬撃同士が喰らい合い、余波が空間へ破壊を生む。
『烈火!既読!』
阻止された時にはもう、クロスセイバーは再びエンブレムをスライド操作。
火炎剣烈火を複数本生み出し回転。
渦を巻く炎が敵の視界を一時的に塞ぎ、すかさず十聖刃をバックルに納刀。
勝負を諦めたのではない、最大威力の技の発動に必要不可欠な工程だ。
トリガーを引き抜刀、必殺と呼ぶに相応しい力を纏わせる。
火炎剣烈火を複数本生み出し回転。
渦を巻く炎が敵の視界を一時的に塞ぎ、すかさず十聖刃をバックルに納刀。
勝負を諦めたのではない、最大威力の技の発動に必要不可欠な工程だ。
トリガーを引き抜刀、必殺と呼ぶに相応しい力を纏わせる。
『刃王!必殺読破!』
『聖刃抜刀!刃王一冊斬り!』
エンブレムの刻まれた刀身が真紅に輝き、部屋中を眩く照らす。
星雲に覆われた聖剣は創造ではない、純粋な破壊を齎す凶器。
悪しき物語を書き換える善の使い手はここにおらず、どこまでも身勝手な殺意によって幕を引く。
星雲に覆われた聖剣は創造ではない、純粋な破壊を齎す凶器。
悪しき物語を書き換える善の使い手はここにおらず、どこまでも身勝手な殺意によって幕を引く。
「喜べ生ゴミども。お前ら如きの為にもう一度この技を使ってやるんだ、精々感謝してあの偽善者と同じ地獄へ落ちろ!」
憎たらしい忍者の少女のように、満足気な最期など誰が与えてやるものか。
聖剣の輝きとは裏腹の、ドス黒く淀んだ殺意を剥き出し構える。
化け物の脆弱な剣やカスの脆い矢で、止められると思ったら大間違いだ。
聖剣の輝きとは裏腹の、ドス黒く淀んだ殺意を剥き出し構える。
化け物の脆弱な剣やカスの脆い矢で、止められると思ったら大間違いだ。
「……」
六眼を焼き、異形の貌を照らす星雲を黒死牟は言葉無く見据える。
異界の剣士が放たんとする一撃の脅威が如何程か、分からぬ訳がない。
未だ振るわれずとも、骨の髄まで軋ませる威圧感。
一度放たれれば小手先の剣など綿毛の壁に等しい、二度目の滅びを迎えるのは確実。
異界の剣士が放たんとする一撃の脅威が如何程か、分からぬ訳がない。
未だ振るわれずとも、骨の髄まで軋ませる威圧感。
一度放たれれば小手先の剣など綿毛の壁に等しい、二度目の滅びを迎えるのは確実。
それでも、警戒こそあっても戦慄は抱かない。
アレは危険、そこへ異論を挟む余地はなく。
なれど自身を掻き乱す、幾年の時が過ぎようと忘れられない熱は皆無。
己が脳を焼いた日輪の熱さを、眼前の剣士からは全く感じ取れなかった。
アレは危険、そこへ異論を挟む余地はなく。
なれど自身を掻き乱す、幾年の時が過ぎようと忘れられない熱は皆無。
己が脳を焼いた日輪の熱さを、眼前の剣士からは全く感じ取れなかった。
ああそうだ。
無様と言う言葉ですら足りない終焉で、一度は現世を去っても。
神を騙る人間の傀儡と化した弟に、正体の掴めない動揺を抱いても。
未だ己がここにいる意味を、見出せなくても。
憎み、妬み、狂おしいまでの羨望があったあの太陽は色褪せることなく、我が身の奥底へ根付いているのだ。
無様と言う言葉ですら足りない終焉で、一度は現世を去っても。
神を騙る人間の傀儡と化した弟に、正体の掴めない動揺を抱いても。
未だ己がここにいる意味を、見出せなくても。
憎み、妬み、狂おしいまでの羨望があったあの太陽は色褪せることなく、我が身の奥底へ根付いているのだ。
自分が現世に舞い戻った意味は、何一つ分からない。
この地で何を為すべきかなど、こっちが知りたい。
主への忠義を果たす気力すら、未だ微塵も湧かず。
弟をどうしたいかの答えも、結局出せないまま。
この地で何を為すべきかなど、こっちが知りたい。
主への忠義を果たす気力すら、未だ微塵も湧かず。
弟をどうしたいかの答えも、結局出せないまま。
だけど
――『兄上』
――『心から『こうしたい』って答えが出せるように、支えたいって思うんです』
もう一度縁壱の前に立つ事が叶わず、力尽きるのは。
縁壱に劣る者に自身の命をくれてやるのは。
方針などと到底呼べない、下らない意地に過ぎなくとも。
紛れもない本心で、無性に気に食わなかった。
縁壱に劣る者に自身の命をくれてやるのは。
方針などと到底呼べない、下らない意地に過ぎなくとも。
紛れもない本心で、無性に気に食わなかった。
いずれまた、自分は今度こそ地獄へ落ちるのだろう。
屠り合いの果ての結末が避けられないのだとしても、
屠り合いの果ての結末が避けられないのだとしても、
「貴様の手にかかるなど……笑止……」
錆びた刃が輝きを取り戻すように。
飛ぶことを諦めた鳥が、再び空を目指すように。
凍てつき朽ち果てるだけの魂へ火が灯る。
飛ぶことを諦めた鳥が、再び空を目指すように。
凍てつき朽ち果てるだけの魂へ火が灯る。
魔剣を引き抜き、黄金の蝙蝠で刀身を研ぐ。
妖刀を構え直し、鮮血色に染め上げる。
鬼とは異なる魔導に属する力が、意思一つで活性化。
寿命の前借りで限界を超えさせた痣とは違う、奇怪な模様が頬に発現。
妖刀を構え直し、鮮血色に染め上げる。
鬼とは異なる魔導に属する力が、意思一つで活性化。
寿命の前借りで限界を超えさせた痣とは違う、奇怪な模様が頬に発現。
戦場の空気が塗り替えられていく。
粘ついた嫉妬心と憎悪が燃えて溶け落ち、濁った星雲が解れて崩れる。
粘ついた嫉妬心と憎悪が燃えて溶け落ち、濁った星雲が解れて崩れる。
「……っ」
鬼の放つ闘気を直に中てられ、クロスセイバーの喉が引き攣った音を立てた。
数百年の時を闘争の渦中に置いた剣鬼が、明確な意思で以て応える戦意。
気弱な者は忽ち心臓の鼓動を止め、戦い慣れた者であっても冷や汗を抑えられないプレッシャー。
数百年の時を闘争の渦中に置いた剣鬼が、明確な意思で以て応える戦意。
気弱な者は忽ち心臓の鼓動を止め、戦い慣れた者であっても冷や汗を抑えられないプレッシャー。
もしここにいるのが直見真嗣や、神山飛羽真だったら。
絆や物語という、守るべきものを背負った彼らなら。
戦慄し恐怖に蝕まれようと、退くことだけはしなかっただろう。
しかし己を動かす原動力があくまで妬みと恨みであり、守るべきは自分以外に持てない彼は違う。
戦友の生き様に恥じぬ戦いを見せた、忌々しいヒーロー。
雷鳴の剣士と、青鬼と、天才物理学者と、どれだけ憎んでも憎み足りない忍者。
連中から痛みと共に植え付けられた、忘れ得ぬ死の予感がまたもや顔を出す。
絶対守護の力を得てからは無縁だった感覚が、クロスセイバーを怯ませた。
絆や物語という、守るべきものを背負った彼らなら。
戦慄し恐怖に蝕まれようと、退くことだけはしなかっただろう。
しかし己を動かす原動力があくまで妬みと恨みであり、守るべきは自分以外に持てない彼は違う。
戦友の生き様に恥じぬ戦いを見せた、忌々しいヒーロー。
雷鳴の剣士と、青鬼と、天才物理学者と、どれだけ憎んでも憎み足りない忍者。
連中から痛みと共に植え付けられた、忘れ得ぬ死の予感がまたもや顔を出す。
絶対守護の力を得てからは無縁だった感覚が、クロスセイバーを怯ませた。
たった数歩の後退が針の穴より小さく、されど確実な隙を生み勝敗を決定付けた。
意識全てを紺色の剣士に割き、内より膨大な熱が湧き出る。
尋常ならざる肺活量の呼吸が空気に絶叫を上げさせ、人外の身体機能を極限まで上昇。
生命の核を起点に、活性化した魔皇力が全身へ行き渡った。
火炎に似た痣とステンドグラスを思わせる模様、二つを浮かび上がらせた鬼が打ち倒すべき存在を捉え逃さない。
意識全てを紺色の剣士に割き、内より膨大な熱が湧き出る。
尋常ならざる肺活量の呼吸が空気に絶叫を上げさせ、人外の身体機能を極限まで上昇。
生命の核を起点に、活性化した魔皇力が全身へ行き渡った。
火炎に似た痣とステンドグラスを思わせる模様、二つを浮かび上がらせた鬼が打ち倒すべき存在を捉え逃さない。
「――――――ッ!!!」
そして疾走。
研がれた二振りの牙が、獲物を食らうべく迫る。
纏わり付く剣士の妬みを引き裂き、鬱屈とした魂をも叩き潰さんと駆け出す。
研がれた二振りの牙が、獲物を食らうべく迫る。
纏わり付く剣士の妬みを引き裂き、鬱屈とした魂をも叩き潰さんと駆け出す。
「だから何だゴミめ!雑魚がイキってカッコ付けた所で、寒いだけなんだよ…!」
僅かでも怯んだ事実を誤魔化すように、仮面の下で相手をこき下ろす。
武器を一つ増やしたからどうだというのか。
馬鹿正直に突っ込んで来たのが大間違いと、思い知らせてやらねば。
自身の害となる虫けらを近付けさせない為に、「守る」スキルが発動。
複製された複数本の烈火が浮遊し、鬼を狙い射出。
僅かなりとも妨害出来ればこっちのもの、己が振るった剣の餌食となるのは確実。
武器を一つ増やしたからどうだというのか。
馬鹿正直に突っ込んで来たのが大間違いと、思い知らせてやらねば。
自身の害となる虫けらを近付けさせない為に、「守る」スキルが発動。
複製された複数本の烈火が浮遊し、鬼を狙い射出。
僅かなりとも妨害出来ればこっちのもの、己が振るった剣の餌食となるのは確実。
だがクロスセイバーの予想に反し、黒死牟は足を止めずに突き進む。
回避はおろか、得物で烈火を弾き落とす素振りさえ確認できない。
そんな必要がないと、分かっているからだ。
回避はおろか、得物で烈火を弾き落とす素振りさえ確認できない。
そんな必要がないと、分かっているからだ。
「ストラーダ・フトゥーロ!」
鬼の後方より放たれる、束ねられた無数の矢。
桜色の輝きが黒死牟を照らすのも一瞬、烈火を狙い撃ち爆散。
魔力を高めた魔法少女の大技(マギア)が、勝利を阻む壁を薙ぎ払う。
桜色の輝きが黒死牟を照らすのも一瞬、烈火を狙い撃ち爆散。
魔力を高めた魔法少女の大技(マギア)が、勝利を阻む壁を薙ぎ払う。
鬼狩りや病院で会った人間達のように、絆だの信頼だのと抜かす気はない。
なれど曲がりなりにも、この数時間で共に闘争へ身を委ねた身。
いろはが奮戦する様を傍らで見て来たのは、否定出来ない。
暑苦しい仲間意識などに非ず、ただ一つの事実として受け入れただけ。
今更になって、肝心な場面で下手を踏む真似はしないだろう。
敵の小賢しい妨害に、打つ手を見出せぬ非力な娘ではないと。
なれど曲がりなりにも、この数時間で共に闘争へ身を委ねた身。
いろはが奮戦する様を傍らで見て来たのは、否定出来ない。
暑苦しい仲間意識などに非ず、ただ一つの事実として受け入れただけ。
今更になって、肝心な場面で下手を踏む真似はしないだろう。
敵の小賢しい妨害に、打つ手を見出せぬ非力な娘ではないと。
「なんで……お前も…お前らも……!」
黒死牟の内心が実際の所どうあれ、その光景は受け入れ難く許せない。
群れる以外に能の無い虫けらと嘲笑っても、心を誤魔化せない。
どこまで行っても孤独を拭えない自分にはないものを、間近で見せ付けられた。
群れる以外に能の無い虫けらと嘲笑っても、心を誤魔化せない。
どこまで行っても孤独を拭えない自分にはないものを、間近で見せ付けられた。
力なら手に入れた。
虐げて来た連中を逆に虐げ、見下せるだけの力を。
常に自分を肯定し続け、逆らうものを徹底的に否定する者達を。
だけど本当に欲しかったモノは零れ落ち、自分よりずっと弱い連中ばかりが当たり前のように手に入れる。
どうして、どうして、
虐げて来た連中を逆に虐げ、見下せるだけの力を。
常に自分を肯定し続け、逆らうものを徹底的に否定する者達を。
だけど本当に欲しかったモノは零れ落ち、自分よりずっと弱い連中ばかりが当たり前のように手に入れる。
どうして、どうして、
「どうしてお前らだけが――」
自分が今どんな顔を浮かべてるのかも気付けない。
「どうして」の四文字だけが壊れたラジオのように繰り返され、こんなに近くにあるのに自分では手に入れられないモノへ手を伸ばす。
恨みか焦燥か自分でも分からず、聖剣を振るうが既に遅い。
一度揺らぎの生じた精神など最早、黒死牟を相手取った剣術の上昇に自ら枷を付けたも同然。
「どうして」の四文字だけが壊れたラジオのように繰り返され、こんなに近くにあるのに自分では手に入れられないモノへ手を伸ばす。
恨みか焦燥か自分でも分からず、聖剣を振るうが既に遅い。
一度揺らぎの生じた精神など最早、黒死牟を相手取った剣術の上昇に自ら枷を付けたも同然。
嘗て己を切り裂いた暴風よりも苛烈で。
嘗て己を打ち砕いた鉄球よりも重く。
黒竜の衣を纏った麒麟児の爪よりも鋭い。
嘗て己を打ち砕いた鉄球よりも重く。
黒竜の衣を纏った麒麟児の爪よりも鋭い。
下らないと執拗に吐き捨てながら、その実妬み羨む以外に残されていない執着諸共。
鮮血の如く紅き鬼の牙が、噛み砕いた。
鮮血の如く紅き鬼の牙が、噛み砕いた。
「がぁっ…っ……!?」
胴に刀身が触れたと認識し、即座に襲い来る衝撃。
回転し安定しない視界なぞ意識を割く余裕もない。
叩き付けられた床に亀裂が生まれるのを、果たして気付いたかも怪しい。
突き立てた牙が猛烈な痛みを発生させ、クロスセイバーから冷静さを削り落とす。
変身は解除されておらず、紺色の鎧にも破損は見られない。
本来の変身者でなく制限の対象下なれど、仮面ライダーセイバーの最終形態は非常に高性能だ。
魔皇力やザンバットソードを重ねた黒死牟の剣技であっても、容易く壊せる装甲じゃあない。
回転し安定しない視界なぞ意識を割く余裕もない。
叩き付けられた床に亀裂が生まれるのを、果たして気付いたかも怪しい。
突き立てた牙が猛烈な痛みを発生させ、クロスセイバーから冷静さを削り落とす。
変身は解除されておらず、紺色の鎧にも破損は見られない。
本来の変身者でなく制限の対象下なれど、仮面ライダーセイバーの最終形態は非常に高性能だ。
魔皇力やザンバットソードを重ねた黒死牟の剣技であっても、容易く壊せる装甲じゃあない。
逆に言うと、クロスセイバーに変身して尚もこれ程のダメージに襲われた。
ハオウソードローブと呼ばれる選ばれし者の甲冑でさえ、完全には殺し切れない。
被害を最小限に抑えつつも、捨て置けない痛みが蝕む。
研ぎ澄まされた双剣の斬撃のみではない、斬られた以外の激痛が甲冑の下で荒れ狂う。
弟との邂逅を切っ掛けに得た力、魔皇力が原因だと知るのは黒死牟ただ一人。
ハオウソードローブと呼ばれる選ばれし者の甲冑でさえ、完全には殺し切れない。
被害を最小限に抑えつつも、捨て置けない痛みが蝕む。
研ぎ澄まされた双剣の斬撃のみではない、斬られた以外の激痛が甲冑の下で荒れ狂う。
弟との邂逅を切っ掛けに得た力、魔皇力が原因だと知るのは黒死牟ただ一人。
発想の元となったのは、病院での真紅の騎士との再戦。
いろはとのコネクトで発動した、桜吹雪を思わせる斬撃の嵐。
頑強なデェムシュの外骨格を砕くには至らずとも、肉体の内側からの破壊で膝を付かせた。
外から斬れぬなら、脆いままの中を斬る。
単純極まるも効果的な戦法を可能にしたのが魔皇力。
黒死牟は知らぬ事だが、仮面ライダーキバこと紅渡も同じ方法で敵を葬って来た。
蹴りを叩き込み、足底から流し込んだ魔皇力でファンガイアの肉体に多大なダメージを与えたのである。
いろはとのコネクトで発動した、桜吹雪を思わせる斬撃の嵐。
頑強なデェムシュの外骨格を砕くには至らずとも、肉体の内側からの破壊で膝を付かせた。
外から斬れぬなら、脆いままの中を斬る。
単純極まるも効果的な戦法を可能にしたのが魔皇力。
黒死牟は知らぬ事だが、仮面ライダーキバこと紅渡も同じ方法で敵を葬って来た。
蹴りを叩き込み、足底から流し込んだ魔皇力でファンガイアの肉体に多大なダメージを与えたのである。
(改良の余地は……まだあるか……)
クロスセイバーへ剣を届かせても、当の本人は完成に程遠いと冷静に評価を下す。
紺色の甲冑が破壊困難な強度であるのを加味し、しかし粉砕する気で振るっただけに満足など出来よう筈もなく。
そもそも二刀で技を繰り出すこと自体が初なのに加え、形状が全く異なる得物同士では剣筋にも差異が生じる。
今のまま振るい続けたとて、未完成ではそう遠くない内に限界がやって来る。
呑気に鍛錬を重ねる時間がない以上、実戦の中で改善していく以外にない。
紺色の甲冑が破壊困難な強度であるのを加味し、しかし粉砕する気で振るっただけに満足など出来よう筈もなく。
そもそも二刀で技を繰り出すこと自体が初なのに加え、形状が全く異なる得物同士では剣筋にも差異が生じる。
今のまま振るい続けたとて、未完成ではそう遠くない内に限界がやって来る。
呑気に鍛錬を重ねる時間がない以上、実戦の中で改善していく以外にない。
と、我が事ながら思考の変化に気付き暫し硬直。
数刻前まで伽藍洞の人形同然だった筈が、戦闘へ幾分かの気概を取り戻している。
生前から焦がれ狂わせた弟との再会に、火を付けるものがあったのか。
或いは、理解が及ばぬながらも自分へ付いて回った――
数刻前まで伽藍洞の人形同然だった筈が、戦闘へ幾分かの気概を取り戻している。
生前から焦がれ狂わせた弟との再会に、火を付けるものがあったのか。
或いは、理解が及ばぬながらも自分へ付いて回った――
「無能で醜い……気持ちの悪いカスがァァ……!!」
余計なものを考える前に、怨嗟の籠った苦悶の声が意識を引き戻す。
痛みは大きいがクロスセイバーの耐久力と、ミームの集合体という特異な出自故の生命力。
何よりどうやったって消えない昏い想いを原動力に変え、紺色の剣士は戦闘続行を選ぶ。
激痛を噛み殺し、聖剣の柄を砕けんばかりに掴む。
痛みは大きいがクロスセイバーの耐久力と、ミームの集合体という特異な出自故の生命力。
何よりどうやったって消えない昏い想いを原動力に変え、紺色の剣士は戦闘続行を選ぶ。
激痛を噛み殺し、聖剣の柄を砕けんばかりに掴む。
「黒死牟さん!」
剣士の反撃による敗北を跳ね除けるべく、魔法少女が手を伸ばした。
何を意図した行動か、真紅の騎士との戦闘を思い返せば察するのは容易い。
尤も、今回は少しばかり予想と違ったが。
何を意図した行動か、真紅の騎士との戦闘を思い返せば察するのは容易い。
尤も、今回は少しばかり予想と違ったが。
「わたしにお願いします!」
「……」
「……」
迷いの入り込む余地が無い瞳で告げて来る。
人に仇為す鬼へ、己に力を貸してくれとほざく。
言っている意味を本気で理解してるのかと、呆れとも苛立ちとも区別の付かないナニかを感じ、
人に仇為す鬼へ、己に力を貸してくれとほざく。
言っている意味を本気で理解してるのかと、呆れとも苛立ちとも区別の付かないナニかを感じ、
「…………」
だが、こいつはそういう娘だと。
納得か諦めか分からないモノも同じように浮かび、最早ため息すら億劫となるも。
この局面でしくじる程に、脆弱でないとも分かるから。
主に許可を得て血を与えるのとは異なる、勝利の為に力の一端を与える慣れぬ感覚へ眉間に皺を寄せ。
いろはの掌に、自分のを重ねた。
納得か諦めか分からないモノも同じように浮かび、最早ため息すら億劫となるも。
この局面でしくじる程に、脆弱でないとも分かるから。
主に許可を得て血を与えるのとは異なる、勝利の為に力の一端を与える慣れぬ感覚へ眉間に皺を寄せ。
いろはの掌に、自分のを重ねた。
斬り刻み、蝕む為ではない。
害する意図を宿らせぬ力が流れ込み、いろは自身の魔力と共に編み上げる。
害する意図を宿らせぬ力が流れ込み、いろは自身の魔力と共に編み上げる。
『刃王必殺読破!』
『刃王一冊撃!セイバー!』
一方のクロスセイバーも必要な工程を終え、技を繰り出す。
バックルへ十聖刃を納め、トリガーを二回引く。
星雲を纏った斬撃ではない、エネルギーを付与する対象は右脚の装甲部分。
仮面ライダーの代名詞とも言える蹴り技で、怒りを直接体に叩き込む。
足蹴にし殺されると言う屈辱的な最期を味合わせねば、到底気は晴れそうもない。
バックルへ十聖刃を納め、トリガーを二回引く。
星雲を纏った斬撃ではない、エネルギーを付与する対象は右脚の装甲部分。
仮面ライダーの代名詞とも言える蹴り技で、怒りを直接体に叩き込む。
足蹴にし殺されると言う屈辱的な最期を味合わせねば、到底気は晴れそうもない。
「踏み潰されて死ねゴキブリども!」
跳躍し足を突き出すクロスセイバーへ、いろはも照準を合わせる。
コネクトの影響を受け固有武器は巨大化。
クロスボウから固定台座突きのバリスタに変わり、魔力で生成した矢を装填。
発射の直前に四方八方から、調度品が獲物を見付けた鷹の勢いで襲来。
「守る」スキルの妨害は如何なる場面でも起き、名前通りスキル保持者を危機から遠ざける。
コネクトの影響を受け固有武器は巨大化。
クロスボウから固定台座突きのバリスタに変わり、魔力で生成した矢を装填。
発射の直前に四方八方から、調度品が獲物を見付けた鷹の勢いで襲来。
「守る」スキルの妨害は如何なる場面でも起き、名前通りスキル保持者を危機から遠ざける。
が、脅威を退けるのは「守る」スキルだけの特権に非ず。
飛来する調度品の群れは餌に食らい付く害鳥ではない、自ら狩り場へ突っ込んだ獲物に過ぎない。
攻めに動くのが魔法少女の仕事なら、守りに動くのは鬼の役目。
人間の娘の支援という釈然としない立ち回りだが、敵を調子付かせたいかと言えばそれも否。
虚哭神去とザンバットソード、怪物の手で生み出された双剣が斬撃の結界を生成。
襲って来た悉くを細切れにし、矢の発射に支障を生じさせない。
手を貸してくれた鬼へ内心で感謝しつつ、直接言葉で伝えるのは終わった後。
煌めく青を発し剣士が蹴りを放つのと、タイミングを同じくして桜色の魔矢を発射。
メギドと魔女、本来は人間へ仇為す異形を葬る為の光が激突。
飛来する調度品の群れは餌に食らい付く害鳥ではない、自ら狩り場へ突っ込んだ獲物に過ぎない。
攻めに動くのが魔法少女の仕事なら、守りに動くのは鬼の役目。
人間の娘の支援という釈然としない立ち回りだが、敵を調子付かせたいかと言えばそれも否。
虚哭神去とザンバットソード、怪物の手で生み出された双剣が斬撃の結界を生成。
襲って来た悉くを細切れにし、矢の発射に支障を生じさせない。
手を貸してくれた鬼へ内心で感謝しつつ、直接言葉で伝えるのは終わった後。
煌めく青を発し剣士が蹴りを放つのと、タイミングを同じくして桜色の魔矢を発射。
メギドと魔女、本来は人間へ仇為す異形を葬る為の光が激突。
拮抗するも時間を置かずに砕けたのは、いろはの放った矢。
何とも呆気ない終わりへ、クロスセイバーは勝利を確信し嘲笑う。
何とも呆気ない終わりへ、クロスセイバーは勝利を確信し嘲笑う。
「結局雑魚は雑魚なんっ!?」
勝ち誇った笑みが凍り付き、仮面越しの視界を桜色が覆い隠す。
蹴りで砕いたんじゃあない、矢が勝手に砕け散ったのだ。
コネクトの失敗による結果でない事は、クロスセイバーを包むモノを見れば明らか。
砕けた矢の破片一つ一つが極小の半月であり、紺色の甲冑に纏わり付き離れない。
蹴りで砕いたんじゃあない、矢が勝手に砕け散ったのだ。
コネクトの失敗による結果でない事は、クロスセイバーを包むモノを見れば明らか。
砕けた矢の破片一つ一つが極小の半月であり、紺色の甲冑に纏わり付き離れない。
もしもマサツグ様が万全の状態だったら、突破も不可能ではなかったろう。
しかしオーエド町での傷も完治しないまま、黒死牟に新たな傷を刻まれた状態では。
クロスセイバーの力を行使しようと、敗北を遠ざけるには足りない。
しかしオーエド町での傷も完治しないまま、黒死牟に新たな傷を刻まれた状態では。
クロスセイバーの力を行使しようと、敗北を遠ざけるには足りない。
「――――っ!!!??!!」
魔力で構成された三日月が斬り刻んだ末、一斉に弾ける。
スモールサイズと言えども大量数が纏めて爆発すれば、クロスセイバーを襲う衝撃は軽くない。
悲鳴すら出せずに吹き飛び、幾枚もの壁を突き破って尚も止まらなかった。
スモールサイズと言えども大量数が纏めて爆発すれば、クロスセイバーを襲う衝撃は軽くない。
悲鳴すら出せずに吹き飛び、幾枚もの壁を突き破って尚も止まらなかった。