◆
『この音って……』
画面の向こうの彼女が言うまでもなく、天津も何者かの接近には気付いた。
心身共に軽くない傷を負い、仲間の犠牲を経ての逃走。
立ち止まり無力感に身を委ねたい衝動が、微塵もないとは言えない。
基本的に自信家の天津と言えど、信頼の置ける仲間を二度も失えば精神的に大きく響く。
一海も承太郎も、戻るべき居場所と帰りを待つ人々がいた筈。
もし自分がもっと上手く立ち回っていれば、力があれば彼らの死を防げたんじゃないか。
リオン・アークランドの策略を阻止できず、滅亡迅雷.netの全滅と不破諫の死という結末を招いた時と同じだ。
何故生きるべき者達が未来へ向けて歩めない、どうして大罪を犯した自分だけが死を免れる。
自死願望がある訳でなくとも、一度自責の念が浮かべば毒のように後悔が広まっていく。
立ち止まり無力感に身を委ねたい衝動が、微塵もないとは言えない。
基本的に自信家の天津と言えど、信頼の置ける仲間を二度も失えば精神的に大きく響く。
一海も承太郎も、戻るべき居場所と帰りを待つ人々がいた筈。
もし自分がもっと上手く立ち回っていれば、力があれば彼らの死を防げたんじゃないか。
リオン・アークランドの策略を阻止できず、滅亡迅雷.netの全滅と不破諫の死という結末を招いた時と同じだ。
何故生きるべき者達が未来へ向けて歩めない、どうして大罪を犯した自分だけが死を免れる。
自死願望がある訳でなくとも、一度自責の念が浮かべば毒のように後悔が広まっていく。
残念ながらここは社長専用の私室ではなく、悪辣な殺し合いの会場。
天津が立ち直るまで、気を遣ってくれる程の優しさには期待出来ない。
こっちの事情を一切知らず、襲い掛かって来る輩も一人二人では済まないだろう。
病院から十分な距離を取り、何らかの支給品でも使われない限り耳飾りの侍と即座の再会は起こらない筈。
天津が立ち直るまで、気を遣ってくれる程の優しさには期待出来ない。
こっちの事情を一切知らず、襲い掛かって来る輩も一人二人では済まないだろう。
病院から十分な距離を取り、何らかの支給品でも使われない限り耳飾りの侍と即座の再会は起こらない筈。
「全く……延々と自分を責める時間も寄越してはくれないか」
苦い表情でドライバーを装着し、慎重に近付く。
コンディションが良いとは言えず、場合によっては戦闘回避も視野に入れねばなるまい。
コンディションが良いとは言えず、場合によっては戦闘回避も視野に入れねばなるまい。
そう考えていたが、集まった面々を見た途端に隠れてやり過ごす選択は消滅。
モンスターを従える少女と、異様な風体の怪人物。
彼らも気になるが、それ以上に見知った二人の男を放っては置けない。
片方は異形の見た目と化しているものの、声から飛電或人と分かった。
おまけに言動から察するに、滅同様の悪い予感が当たったらしい。
放って置けば憎しみのままに争い合い、最後はどちらも命を落とす。
自分の知る過去とは異なる展開も、絶対に起こらないとは言い切れない。
モンスターを従える少女と、異様な風体の怪人物。
彼らも気になるが、それ以上に見知った二人の男を放っては置けない。
片方は異形の見た目と化しているものの、声から飛電或人と分かった。
おまけに言動から察するに、滅同様の悪い予感が当たったらしい。
放って置けば憎しみのままに争い合い、最後はどちらも命を落とす。
自分の知る過去とは異なる展開も、絶対に起こらないとは言い切れない。
ゲームを仕組んだ神ならば、これもまた一つの結末としたり顔で言うだろう。
生憎そのような三流以下の悲劇を、天津は断じて認めない。
生憎そのような三流以下の悲劇を、天津は断じて認めない。
「俄かには信じ難い部分もあるかもしれないが、1000%真実だと誓おう。今から話すのは正真正銘、君達二人が本来辿る筈だった未来だ」
前置きもそこそこに、己の知る全てを話す。
イズと迅の破壊、その先に一体何が起きたのかを。
イズと迅の破壊、その先に一体何が起きたのかを。
「何だよ、それ……」
聞き終えた或人はわなわなと震え、乾いた声をどうにか絞り出す。
信じられないし、信じたくない。
意図した事でないとはいえ、自分が迅を手に掛けた。
滅の憎悪は勘違いでも何でもなく、恨んで当然の動機に根付いたものだったなど。
信じられないし、信じたくない。
意図した事でないとはいえ、自分が迅を手に掛けた。
滅の憎悪は勘違いでも何でもなく、恨んで当然の動機に根付いたものだったなど。
何よりも、天津の語る未来において自分は滅を赦している。
復讐の連鎖を断ち切り、もう一度ゼロワンとして高く跳んだ。
実感が全く湧かず、馬鹿げた夢物語と言っても過言ではない。
けれどデタラメと切り捨てるには、語る最中の天津はこれまで見たどんな顔よりもずっと真剣味を帯びていた。
ヒューマギアに敵愾心をぶつけた頃とは正反対の、言動一つ一つに重みがあったと認めざるを得ない。
復讐の連鎖を断ち切り、もう一度ゼロワンとして高く跳んだ。
実感が全く湧かず、馬鹿げた夢物語と言っても過言ではない。
けれどデタラメと切り捨てるには、語る最中の天津はこれまで見たどんな顔よりもずっと真剣味を帯びていた。
ヒューマギアに敵愾心をぶつけた頃とは正反対の、言動一つ一つに重みがあったと認めざるを得ない。
「……」
天津が話し終え沈黙を貫く滅にも、表情からは動揺が見て取れた。
皮肉にも或人と同じ想いだ、自分が悪意を振り切る未来がまるで想像できない。
おまけに話を聞くに、滅亡迅雷.netは自分を含め悪意の監視者としてのスタートを切った。
人類滅亡の結論を覆し、ヒューマギアのみならず人類をもある意味守る立場になったのだという。
雷や亡、そして迅ならともかく自分までそうなるなど予想できる筈がない。
いやそもそも、これだけ憎悪を向け合う或人と手を取り合うのが――
皮肉にも或人と同じ想いだ、自分が悪意を振り切る未来がまるで想像できない。
おまけに話を聞くに、滅亡迅雷.netは自分を含め悪意の監視者としてのスタートを切った。
人類滅亡の結論を覆し、ヒューマギアのみならず人類をもある意味守る立場になったのだという。
雷や亡、そして迅ならともかく自分までそうなるなど予想できる筈がない。
いやそもそも、これだけ憎悪を向け合う或人と手を取り合うのが――
「君達二人なら悪意を乗り越えられる。迅の言葉だ」
「迅が……?」
「ああ。自分自身でさえ止められない悪意に苦しめられる君達を見て、それでも彼は信じ続けた」
「迅が……?」
「ああ。自分自身でさえ止められない悪意に苦しめられる君達を見て、それでも彼は信じ続けた」
或人にとっては戦友であり、滅にとっては息子同然のヒューマギア。
破壊された恨みでも、自分の仇を取るよう促すでもない。
復讐に駆られ、殺し合いでも変わらなかった二人は二の句が継げない。
互いに紡ぐべき言葉を見付けられない中、天津は畳み掛けるように続ける。
彼らが引き返せない程の悪意に堕ちる前に、何としてでも連れ戻す為だ。
破壊された恨みでも、自分の仇を取るよう促すでもない。
復讐に駆られ、殺し合いでも変わらなかった二人は二の句が継げない。
互いに紡ぐべき言葉を見付けられない中、天津は畳み掛けるように続ける。
彼らが引き返せない程の悪意に堕ちる前に、何としてでも連れ戻す為だ。
「滅、迅を破壊され君が抱いたのは本当に彼への憎しみだけなのか?」
「何が言いたい……?」
「何が言いたい……?」
呻くような問い掛けは自覚がないからか、若しくは気付かない振りをしているのか。
どちらにせよ、天津が言葉を引っ込める気は無かった。
どちらにせよ、天津が言葉を引っ込める気は無かった。
「迅を破壊され君は彼を恨んだ。同時に理解出来た筈だ、大切な存在を理不尽に奪われる痛みを」
「……っ」
「…私自身、偉そうに言える立場でないのは自覚している。だが今はあえて言わせてもらおう」
「……っ」
「…私自身、偉そうに言える立場でないのは自覚している。だが今はあえて言わせてもらおう」
数多の悲劇の元凶となり、己が罪の重さを理解したからこそ伝えねばならない。
「イズを破壊した事が彼にとってどれ程の絶望か、本当は分かってるんじゃないのか?他ならぬ君自身が、許されざるアークになったと誰よりも理解してるんだろう?」
「馬鹿な……!何を言って……」
「いいや!こればかりは1000%の自信を持って言おう!君が彼に恨みを抱くのは、君にもイズや迅と同じ心が芽生えた証拠だ。
どれだけ否定しても、他ならぬ君自身が証明している!未来を知る者としてここに断言しよう。
君の心が生んだのは未知の感情への恐怖や、迅を奪われた憎しみだけじゃない。イズを破壊した事実への罪悪感も、間違いなく存在している」
「馬鹿な……!何を言って……」
「いいや!こればかりは1000%の自信を持って言おう!君が彼に恨みを抱くのは、君にもイズや迅と同じ心が芽生えた証拠だ。
どれだけ否定しても、他ならぬ君自身が証明している!未来を知る者としてここに断言しよう。
君の心が生んだのは未知の感情への恐怖や、迅を奪われた憎しみだけじゃない。イズを破壊した事実への罪悪感も、間違いなく存在している」
違う、そのたった二文字が喉の奥でつっかえ出て来ない。
否定したいのに考える、考えてしまう。
この地で一人の少女を殺してから、聞こえない筈の迅の声が度々聞こえたのは。
若しかすれば、己に宿る罪悪感がああいった形になったからなのではと。
否定したいのに考える、考えてしまう。
この地で一人の少女を殺してから、聞こえない筈の迅の声が度々聞こえたのは。
若しかすれば、己に宿る罪悪感がああいった形になったからなのではと。
「俺、は……」
「滅……」
「滅……」
目に見えて動揺する滅へ、或人も言葉に詰まりどうすべきか迷いが生まれた。
憎しみは消えていない、天津の言う未来を素直には受け取れない。
けれど、知ったことかと切り捨てられもしない。
憎しみは消えていない、天津の言う未来を素直には受け取れない。
けれど、知ったことかと切り捨てられもしない。
自分の語った内容に各々思う所があるのは明らかと、少なくない手応えを天津は感じる。
すぐには納得出来なくとも、まずは互いに矛を収める展開へ持って行こうとし、
すぐには納得出来なくとも、まずは互いに矛を収める展開へ持って行こうとし、
「不公平、と言う以外に語る内容が見つかりませぬなぁ」
何もかもを台無しにする、悪意を煮詰めた声が場の支配権を奪い取った。
「……私の話はまだ終わってないのですがね。会話を遮るのがビジネスの世界でどれ程の無礼に当たるか、理解していないのでは?」
「これは失敬。拙僧としてもこのまま見物に徹しても良かったのですが、何分細かいことが気になる性分でしてな。口を挟まずにはいられなかったと、こういう次第故に」
「これは失敬。拙僧としてもこのまま見物に徹しても良かったのですが、何分細かいことが気になる性分でしてな。口を挟まずにはいられなかったと、こういう次第故に」
ジロリと睨み付けるが、のらりくらりと受け流しまるで堪えた様子がない。
警戒を払いながらも、或人達を優先し視線を外していた。
だが今になって急に会話へ強引に参加し始め、一体何を言うつもりなのか。
警戒を払いながらも、或人達を優先し視線を外していた。
だが今になって急に会話へ強引に参加し始め、一体何を言うつもりなのか。
仮定の話に過ぎないが。
もしこの場にカルデアのマスターや、 二天一流の女剣士。
或いはインド異聞帯の担当だったクリプター、そして機械人形の女忍。
辺獄を名乗る術師の、アルターエゴ・リンボの悪辣さを知る彼らがいれば揃って言うだろう。
もしこの場にカルデアのマスターや、 二天一流の女剣士。
或いはインド異聞帯の担当だったクリプター、そして機械人形の女忍。
辺獄を名乗る術師の、アルターエゴ・リンボの悪辣さを知る彼らがいれば揃って言うだろう。
それでは駄目だ、この男に喋らせる前に攻撃すべきだったと。
「貴殿が真実を、ええ、虚偽の宿らぬ真を口にしたとその前提を踏まえて言わせてもらいましょう。――――蘇生の恩恵に与れたのは迅なる絡繰人形のみ。或人殿の言ういず殿は、違うのでしょう?」
「え……」
「え……」
ドクリと、心臓が強く跳ねたのが自分でも分かった。
或人の様子に気付いてか、猫のように目を細める。
或人の様子に気付いてか、猫のように目を細める。
「そこな滅殿は愛しき息子を取り返し、民衆の守り人たる地位を得て、気の知れた仲間達に囲まれた未来が待っている。
しかし、しかししかしィ……非常に残念でなりませぬがァ……ンンン、或人殿がいず殿を取り戻すことは叶わず終いと、そういう訳でありますか」
「待て、それは……!」
しかし、しかししかしィ……非常に残念でなりませぬがァ……ンンン、或人殿がいず殿を取り戻すことは叶わず終いと、そういう訳でありますか」
「待て、それは……!」
違うと言おうとするも、実際に言葉は出て来ない。
リンボが口にした内容に偽りがないのを、他ならぬ天津自身が分かっているからだ。
破壊される以前のデータを修復出来たのは迅だけ。
技術に秀でた刃唯阿をして、イズの復元はどうやっても不可能と断言せざるを得なかった。
リンボが口にした内容に偽りがないのを、他ならぬ天津自身が分かっているからだ。
破壊される以前のデータを修復出来たのは迅だけ。
技術に秀でた刃唯阿をして、イズの復元はどうやっても不可能と断言せざるを得なかった。
「先に己からいず殿を奪った滅殿は取り戻し、なのに自分は失ったまま。実に不公平且つ理不尽極まると、そうは思いませぬかな?或人殿?」
「え、あ……」
「え、あ……」
問い掛けられた或人は言葉らしい言葉を出せず、パクパクと口を動かすだけ。
リンボの語る内容へ耳を貸すのは危険だ。
一度毒を植え付けられ、激しく揺さぶられただけに同じ目に遭うのは避けるべき。
リンボの語る内容へ耳を貸すのは危険だ。
一度毒を植え付けられ、激しく揺さぶられただけに同じ目に遭うのは避けるべき。
そう分かって尚、考えるのを止められない。
迅は戻って来る、でもイズは戻って来ない。
皮肉にも天津の話が嘘とは思えなかっただけに、残酷な事実を否定出来ない。
迅は戻って来る、でもイズは戻って来ない。
皮肉にも天津の話が嘘とは思えなかっただけに、残酷な事実を否定出来ない。
「何で、イズだけ……」
喪った絶望はどちらも味わった、だというのに何故片方だけしか戻って来ないのだろうか。
迅の修復を間違っていると言う気は無い。
でもイズだって、あんな風に破壊されて良い筈が無かった。
なのにイズを奪った滅は取り戻せて、自分だけがイズを奪われたまま。
それは、それは、
迅の修復を間違っていると言う気は無い。
でもイズだって、あんな風に破壊されて良い筈が無かった。
なのにイズを奪った滅は取り戻せて、自分だけがイズを奪われたまま。
それは、それは、
「妬ましくて堪らないのでありましょう?ンンンンン!その衝動を拙僧は歓迎いたします!」
悪意を乗り越えるよりも前。
迅を手に掛けていない、復讐に燃えていた時間軸の或人だから抱いてしまった嫉妬心。
微かに鎮静しかけた憎悪が再び顔を出し、後はリンボの望むがまま。
負の感情を煽りぶくぶくと肥やすのは、呪術に精通した陰陽師にはお手の物。
ノロによる強化の後押しを受け、渦巻く怒りが或人の自我すらも飲み込んでいく。
迅を手に掛けていない、復讐に燃えていた時間軸の或人だから抱いてしまった嫉妬心。
微かに鎮静しかけた憎悪が再び顔を出し、後はリンボの望むがまま。
負の感情を煽りぶくぶくと肥やすのは、呪術に精通した陰陽師にはお手の物。
ノロによる強化の後押しを受け、渦巻く怒りが或人の自我すらも飲み込んでいく。
「俺は…オレは…!アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
「なんだと…!?」
「なんだと…!?」
天津や滅の驚愕を余所に、或人…アナザーゼロワンから放たれるプレッシャーが爆発的に上昇。
外見に変化は見られずとも、先程までとは段違いの脅威へ生まれ変わった。
外見に変化は見られずとも、先程までとは段違いの脅威へ生まれ変わった。
本来のアナザーゼロワンウォッチには存在しない特徴が、檀黎斗主催のゲームでは仕組まれている。
内の一つ、悪意に満ち溢れた者が使えば高位の力を得たアナザーライダーに変身が可能。
他者の介入が含まれるとはいえ、急激に憎悪を肥大化させた或人はこの条件を満たしてしまった。
加えて言うなら、現在の或人はリンボの術を受けほとんど暴走状態。
滅への憎しみは変わらずとも、見境なしで破壊を撒き散らす悪意の化身。
アナザーゼロワン・リアライジングホッパーが、最悪の形で誕生を果たしたのだ。
内の一つ、悪意に満ち溢れた者が使えば高位の力を得たアナザーライダーに変身が可能。
他者の介入が含まれるとはいえ、急激に憎悪を肥大化させた或人はこの条件を満たしてしまった。
加えて言うなら、現在の或人はリンボの術を受けほとんど暴走状態。
滅への憎しみは変わらずとも、見境なしで破壊を撒き散らす悪意の化身。
アナザーゼロワン・リアライジングホッパーが、最悪の形で誕生を果たしたのだ。
「ンンンンン!!!それで良い、良いのですよ或人殿。自らを解き放たなければ掴める願いなどありはしませぬ」
「貴様は…!何ということを……!!」
「貴様は…!何ということを……!!」
手を叩き復讐鬼の再誕を祝福するリンボを、射殺さんばかりに天津は睨む。
悪意に振り回されるまま、どちらかが力尽きるまで殺し合う。
そうならないよう説得を試みて、解決の兆しが見えて来たのが台無しだ。
ほんの数秒でも時間を戻せるなら、力づくでこの男の口を塞いでやりたい。
悪意に振り回されるまま、どちらかが力尽きるまで殺し合う。
そうならないよう説得を試みて、解決の兆しが見えて来たのが台無しだ。
ほんの数秒でも時間を戻せるなら、力づくでこの男の口を塞いでやりたい。
「そう憤りなさるな。拙僧はただ、復讐を望む或人殿の願いを叶えただけです。それに、貴殿は殺戮遊戯に否定的な立場。なれば滅殿がここで討たれた方が都合が宜しいと、そうではありませぬかな?」
「いきなりわたくしに振らないでよー」
「いきなりわたくしに振らないでよー」
男達のやり取りを黙って見ていた灯花だが、リンボの凶行を非難する様子は見られない。
むしろ、そうするだろうなという納得さえあった。
そして灯花自身、或人が滅を殺す事への反対は一切無い。
もし何らかの技能や知識、異能の類等々。
灯花が目的を果たすのに有益な力を持つと言うのであれば、怒りを一時的に引っ込めるくらいはした。
だが利用価値を全く見出せず、しかも一応敵対の意志は見せなかったリンボと違って誰彼構わず殺す方針の男を、
天津の説得を支援してまで生かそうと思える程、酔狂になった覚えはない。
むしろ、そうするだろうなという納得さえあった。
そして灯花自身、或人が滅を殺す事への反対は一切無い。
もし何らかの技能や知識、異能の類等々。
灯花が目的を果たすのに有益な力を持つと言うのであれば、怒りを一時的に引っ込めるくらいはした。
だが利用価値を全く見出せず、しかも一応敵対の意志は見せなかったリンボと違って誰彼構わず殺す方針の男を、
天津の説得を支援してまで生かそうと思える程、酔狂になった覚えはない。
何よりも、滅は既に一度いろはを殺そうとしたのだ。
元々抱く強い尊愛の情に加え、リンボから受けた『いろはを自分だけのものにしたい』という暗示の効果。
上記二つの影響もあり、滅を進んで生かしたいとは全く思えなかった。
元々抱く強い尊愛の情に加え、リンボから受けた『いろはを自分だけのものにしたい』という暗示の効果。
上記二つの影響もあり、滅を進んで生かしたいとは全く思えなかった。
「時にはリスクを背負うのも大事だけどー。背負い過ぎるのはお馬鹿さんのやることだし、スクラップが妥当ってとこじゃないかにゃー」
「ンンン!何やら拙僧が、そのリスクの内に入ってると言わんばかりの視線が気になりますが!まあそういうわけですので、或人殿が本懐を遂げる様を共に見守りましょうぞ」
「生憎だが、君達の悪趣味に付き合うつもりは1%もない!」
「ンンン!何やら拙僧が、そのリスクの内に入ってると言わんばかりの視線が気になりますが!まあそういうわけですので、或人殿が本懐を遂げる様を共に見守りましょうぞ」
「生憎だが、君達の悪趣味に付き合うつもりは1%もない!」
三流以下のバッドエンドに或人達を巻き込んだ怒りを露わにし、プログライズキーを装填。
黄金の装甲にブレード状の角を持つライダー、サウザーの変身を瞬時に終える。
黄金の装甲にブレード状の角を持つライダー、サウザーの変身を瞬時に終える。
或人達の元へ駆け出そうとし、聴覚装置が頭上から迫り来る脅威を察知。
飛び退き躱した直後、巨大なぬいぐるみの頭部が地面を粉砕。
BIG5とのデュエル時のクリボー同様、モンスターが勝手になどとそんな訳がない。
飛び退き躱した直後、巨大なぬいぐるみの頭部が地面を粉砕。
BIG5とのデュエル時のクリボー同様、モンスターが勝手になどとそんな訳がない。
「余計なことしないで大人しくしててよー、千パーセントのおじさん」
「子供とはいえ、悪戯の度が過ぎる。環くんの礼儀正しさを少しは見習って欲しいものだ」
「子供とはいえ、悪戯の度が過ぎる。環くんの礼儀正しさを少しは見習って欲しいものだ」
おじさん呼ばわりされ、若干の苛立ちを含めながらサウザンドジャッカーを構える。
一刻を争う事態故、いきなり手札を切らせてもらう。
大尉との戦闘で使ったライダモデルの一斉開放、これにより複数体のライダーを味方に付けた。
一刻を争う事態故、いきなり手札を切らせてもらう。
大尉との戦闘で使ったライダモデルの一斉開放、これにより複数体のライダーを味方に付けた。
「キザで痛いおじさんのくせに、お姉さまを語らないでよ!」
「なに…?君は……っ」
「なに…?君は……っ」
いろはの名へ予期せぬ反応があり、驚くのも束の間。
召喚者の苛立ちへ呼応し襲い来るマッド・キマイラへ、聞き返す暇は消え失せた。
召喚者の苛立ちへ呼応し襲い来るマッド・キマイラへ、聞き返す暇は消え失せた。
「壊シテヤル…!滅……!!!」
「くっ……」
「くっ……」
傍らの喧騒に一切意識を割かず、或人は憎きヒューマギアへ剥き出しの憎悪をぶつける。
夢をひたむきに追い掛けた面影は砕け散り、復讐こそが全てと言わんばかりの殺意を発す。
滅とて大人しく破壊を受け入れる気は無いが、意志に反して動きは緩慢だ。
マッド・キマイラとアナザーゼロワンの一撃を、生身で受けたダメージは大きい。
正史では起こり得なかった、復讐の達成が現実と化すのも時間の問題。
夢をひたむきに追い掛けた面影は砕け散り、復讐こそが全てと言わんばかりの殺意を発す。
滅とて大人しく破壊を受け入れる気は無いが、意志に反して動きは緩慢だ。
マッド・キマイラとアナザーゼロワンの一撃を、生身で受けたダメージは大きい。
正史では起こり得なかった、復讐の達成が現実と化すのも時間の問題。
しかし偶然か、或いは天が意図して引き寄せたのか。
数秒後に描かれる筈の未来が、新たな乱入者によって破り捨てられる。
大地を引き裂き現れる、赤いボディのスーパーマシン。
ネオ富実野シティの英雄の愛機を駆るは、或人が見失った善意で戦う仮面の戦士。
数秒後に描かれる筈の未来が、新たな乱入者によって破り捨てられる。
大地を引き裂き現れる、赤いボディのスーパーマシン。
ネオ富実野シティの英雄の愛機を駆るは、或人が見失った善意で戦う仮面の戦士。
「或人!?どうなってんだよ…お前むちゃくちゃヤベェことになってんじゃねぇか!?」
馬鹿の二文字がマッチする語彙力だが、本心からの驚愕だ。
Dホイールを飛び降り、赤いスーツの戦士がアナザーゼロワンの前に立つ。
放送前に続き二度目の再会となる青年、万丈龍我が或人の復讐へ待ったを掛ける。
Dホイールを飛び降り、赤いスーツの戦士がアナザーゼロワンの前に立つ。
放送前に続き二度目の再会となる青年、万丈龍我が或人の復讐へ待ったを掛ける。
キャルと別れ、或人及びDIOの捜索にDホイールを走らせどれくらい経った頃か。
北上した先のエリアで喧騒を聞き取り、念の為にと龍騎に変身し来てみればこの状況だ。
アナザーゼロワンの姿は一度見ている為、すぐに或人と気付けた。
だが望んだ再会とは言い難く、安易に近寄る事を躊躇させるプレッシャーが漂っている。
一体全体、自分の元を去ってから何が起きたのか。
近くにいる他の連中が関係あるのかと、質問を飛ばせる程呑気に構えてはいられない。
北上した先のエリアで喧騒を聞き取り、念の為にと龍騎に変身し来てみればこの状況だ。
アナザーゼロワンの姿は一度見ている為、すぐに或人と気付けた。
だが望んだ再会とは言い難く、安易に近寄る事を躊躇させるプレッシャーが漂っている。
一体全体、自分の元を去ってから何が起きたのか。
近くにいる他の連中が関係あるのかと、質問を飛ばせる程呑気に構えてはいられない。
「滅ィ……!!」
「は?滅って……」
「は?滅って……」
万丈の存在など視界に映っていないかの如く、瞳はヒューマギアに向けられたまま。
思わず振り返り或人と同じ方を見やれば、破損の激しい青年の姿。
この男がイズを破壊し或人を復讐へ走らせた元凶。
ということはつまり、今の状況は或人が望んだ展開に他ならない。
思わず振り返り或人と同じ方を見やれば、破損の激しい青年の姿。
この男がイズを破壊し或人を復讐へ走らせた元凶。
ということはつまり、今の状況は或人が望んだ展開に他ならない。
「……」
或人から話を聞いた時、万丈も滅は危険だと思った。
大切な人を理不尽に奪われた境遇を重ねたのを抜きにしても、人類滅亡の結論を受け入れるのは真っ平御免。
滅は倒した方が良いのと思ったのは、万丈なりに考えた末の答え。
であるならば、或人がこれからやる事に口を出すべきではないのかもしれない。
大切な人を理不尽に奪われた境遇を重ねたのを抜きにしても、人類滅亡の結論を受け入れるのは真っ平御免。
滅は倒した方が良いのと思ったのは、万丈なりに考えた末の答え。
であるならば、或人がこれからやる事に口を出すべきではないのかもしれない。
「……やっぱ駄目だ。今やっちまったら、後で絶対後悔するとしか思えねぇ」
しかし万丈が選んだ答えは、或人を止めること。
これに驚いたのは様子を見ているしかなかった滅だ。
突然現れた男が何者か知らないが、或人と接触済なら自分の情報も得ている筈。
何故強く警戒するべき相手を、守る気になったのか。
これに驚いたのは様子を見ているしかなかった滅だ。
突然現れた男が何者か知らないが、或人と接触済なら自分の情報も得ている筈。
何故強く警戒するべき相手を、守る気になったのか。
「貴様は何を考えている……飛電或人から俺の事を聞いていないのか……?」
「全部聞いた。正直俺だって、お前を何発かぶん殴ってやりてぇくらいには頭に来たけどよ――」
「全部聞いた。正直俺だって、お前を何発かぶん殴ってやりてぇくらいには頭に来たけどよ――」
もう一度或人を真正面から見る。
恋人を人体実験に利用した連中への、全ての元凶だった星狩りへの。
許してはおけない連中への怒りに燃えた時の自分と似ている、けれど決定的に違う。
恋人を人体実験に利用した連中への、全ての元凶だった星狩りへの。
許してはおけない連中への怒りに燃えた時の自分と似ている、けれど決定的に違う。
「俺にはこいつが、止めてくれって泣いてるようにしか見えないんだよ」
確たる根拠は何だと問われたら、万丈自身言葉では上手く説明出来ない。
それでも、今の或人は最初に会った時より尚酷い。
復讐の事しか頭にないのではなく、復讐以外を無理やり考えさせられなくなったようだ。
理由を聞かれても、強いて言うなら勘としか答えられない。
馬鹿だ筋肉馬鹿だと呆れられるのは承知の上、けれど自分自身が感じたものを信じなくてどうする。
それでも、今の或人は最初に会った時より尚酷い。
復讐の事しか頭にないのではなく、復讐以外を無理やり考えさせられなくなったようだ。
理由を聞かれても、強いて言うなら勘としか答えられない。
馬鹿だ筋肉馬鹿だと呆れられるのは承知の上、けれど自分自身が感じたものを信じなくてどうする。
もしこのまま或人が滅を破壊すれば、きっと心に良くないものを残す。
もう二度と、イズが信じた飛電或人には戻れなくなるかもしれない。
その理由一つで、万丈が戦うには十分だった。
もう二度と、イズが信じた飛電或人には戻れなくなるかもしれない。
その理由一つで、万丈が戦うには十分だった。
「ドケェエエエエエエエエッ!!!」
「うおっ!」
「うおっ!」
尤も、どれだけ或人を思っての行動も届くとは限らない。
最優先は滅だが、復讐を阻む者も等しく自身の敵。
一度は喝を入れてくれた相手であろうと、攻撃に躊躇を抱かない。
たとえ殺してしまう結果になっても、祝福(のろい)を受けた魂には響かないだろう。
最優先は滅だが、復讐を阻む者も等しく自身の敵。
一度は喝を入れてくれた相手であろうと、攻撃に躊躇を抱かない。
たとえ殺してしまう結果になっても、祝福(のろい)を受けた魂には響かないだろう。
絶叫を上げ蹴りを繰り出すアナザーゼロワンに対し、龍騎は咄嗟に防御の構えを取る。
両腕の交差で即席の盾を作れば、腕部装甲が攻撃を弾きダメージを最小限に抑えられる筈。
両腕の交差で即席の盾を作れば、腕部装甲が攻撃を弾きダメージを最小限に抑えられる筈。
そんな予想を裏切り、殺し切れない衝撃に足が地面から離れた。
「がっ…!?」
吹き飛ばされたと、脳が状況を理解するのを待ってはくれない。
視界に一瞬黄色い光が映り、次の瞬間には背中に痛みが襲う。
龍騎の胸部及び背は特に強固なアーマーで覆われ、破壊は至難の業。
だというのに今受けたのは、装甲が意味を為したと思えない鈍痛。
視界に一瞬黄色い光が映り、次の瞬間には背中に痛みが襲う。
龍騎の胸部及び背は特に強固なアーマーで覆われ、破壊は至難の業。
だというのに今受けたのは、装甲が意味を為したと思えない鈍痛。
「アアアアアアアアアアッ!!」
短く漏れた呻き声すら掻き消し、次から次へと龍騎の全身へ衝撃が走る。
何をされているのかを正確に理解出来ぬまま、辛うじて腹部に捻じ込まれる爪先を見た。
一瞬呼吸が止まる感覚を覚え、ゴミのように地面を転がる。
何をされているのかを正確に理解出来ぬまま、辛うじて腹部に捻じ込まれる爪先を見た。
一瞬呼吸が止まる感覚を覚え、ゴミのように地面を転がる。
「クッソ……!遠慮も躊躇もなしかよ!期待してなかったけどな!」
『GUARD VENT』
サンドバッグのキツい洗礼を受けたが、ノックダウンには程遠い。
両肩に赤龍の腹部を模した盾、ドラグシールドを装備し防御力を強化。
猛攻へ備え距離を詰め、こちらから攻撃に出るもアナザーゼロワンを捉えらない。
蛍光イエローの脚部が消えたかと思えば、数十発の蹴りが一斉に龍騎を叩いた。
両肩に赤龍の腹部を模した盾、ドラグシールドを装備し防御力を強化。
猛攻へ備え距離を詰め、こちらから攻撃に出るもアナザーゼロワンを捉えらない。
蛍光イエローの脚部が消えたかと思えば、数十発の蹴りが一斉に龍騎を叩いた。
「っ、何だこの速さ……!?」
常人を遥かに超える身体機能を以てしても、ロクな反応が許されない異常なスピード。
どうにか隙を見付けて反撃に移る、といった戦法がまるで取れず耐えるしか出来ない。
ドラグシールドを構えダメージを抑えるが、限界はすぐそこまで来ていた。
盾越しに伝わる衝撃で腕に痺れが襲い、僅かに力が弱まる。
どうにか隙を見付けて反撃に移る、といった戦法がまるで取れず耐えるしか出来ない。
ドラグシールドを構えダメージを抑えるが、限界はすぐそこまで来ていた。
盾越しに伝わる衝撃で腕に痺れが襲い、僅かに力が弱まる。
「ぐあああああああっ!?」
防御が崩れた途端に叩き込まれる、機関銃さながらの蹴りの嵐。
無数の打撃を纏めて受けたかの勢いに、紙風船のように軽々と吹き飛ぶ。
地面へ激突し、カードデッキもバックルから外れてしまった。
万丈に力を齎したスーツは、鏡が砕け散るかの儚さで消失。
生身で痛みに呻く青年に心を揺さぶられる事無く、アナザーゼロワンの意識は滅へ逆戻り。
無数の打撃を纏めて受けたかの勢いに、紙風船のように軽々と吹き飛ぶ。
地面へ激突し、カードデッキもバックルから外れてしまった。
万丈に力を齎したスーツは、鏡が砕け散るかの儚さで消失。
生身で痛みに呻く青年に心を揺さぶられる事無く、アナザーゼロワンの意識は滅へ逆戻り。
全体的なスペックの大幅な上昇に加え、超出力による高速戦闘。
基本形態であるライジングホッパーの正統進化と言うべき、仮面ライダーゼロワンの最終形態。
そのリアライジングホッパーの能力を付与されたのが、現在のアナザーゼロワンだ。
加えてアナザーライダーであるも、ベースとなったのは或人が元々変身するライダー。
使いこなせなかったメタルビルドと違い、十全の戦闘を行える。
初戦時と違い持ち得る力に差が大きく開き、万丈は手も足も出ない。
かといってアッサリ諦める気は皆無、痛む体に鞭打って立ち上がり、
基本形態であるライジングホッパーの正統進化と言うべき、仮面ライダーゼロワンの最終形態。
そのリアライジングホッパーの能力を付与されたのが、現在のアナザーゼロワンだ。
加えてアナザーライダーであるも、ベースとなったのは或人が元々変身するライダー。
使いこなせなかったメタルビルドと違い、十全の戦闘を行える。
初戦時と違い持ち得る力に差が大きく開き、万丈は手も足も出ない。
かといってアッサリ諦める気は皆無、痛む体に鞭打って立ち上がり、
「っ!?マジかよ……!」
見覚えのあるモノが地面へ投げ捨てられてるのを発見し、驚きながらも拾い上げる。
横部分に備え付けられたレバーと、二つのボトルを填め込むスロット。
自意識過剰な正義のヒーローが使う物と同じ特徴を持つも、決定的に異なる毒々しいカラーリング。
滅が殴り飛ばされた際に、ボトル共々デイパックから落ちたエボルドライバーだ。
まさか自分のビルドドライバーより先に、宿敵だった男の変身ツールを見付けるとは。
厳密に言うと内海成彰が使っていた複製品だが、今それを知る由はない。
横部分に備え付けられたレバーと、二つのボトルを填め込むスロット。
自意識過剰な正義のヒーローが使う物と同じ特徴を持つも、決定的に異なる毒々しいカラーリング。
滅が殴り飛ばされた際に、ボトル共々デイパックから落ちたエボルドライバーだ。
まさか自分のビルドドライバーより先に、宿敵だった男の変身ツールを見付けるとは。
厳密に言うと内海成彰が使っていた複製品だが、今それを知る由はない。
「よりにもよってエボルトのかよ……」
顔を顰め露骨に拒否感を表す。
当然と言えば当然だ、自分達の星を滅ぼそうとした男の使う兵器なのだから。
強い武器が手に入って万歳などと、能天気に考えるにはエボルトとの因縁は余りに根深い。
思わず拾ったとはいえ、早くもそこらに放り捨てたい衝動に駆られる。
当然と言えば当然だ、自分達の星を滅ぼそうとした男の使う兵器なのだから。
強い武器が手に入って万歳などと、能天気に考えるにはエボルトとの因縁は余りに根深い。
思わず拾ったとはいえ、早くもそこらに放り捨てたい衝動に駆られる。
同時に宿敵の力だからこそ、この状況でどれだけ役立つかも理解出来てしまう。
使用へ躊躇が大きいか否かと言ったら前者。
だがしかし、ぶん殴ってでも助けてやりたい相手がすぐ近くにいるなら。
自分の中の意地や葛藤のせいで、取り返しの付かない事態になるかもしれないなら。
使用へ躊躇が大きいか否かと言ったら前者。
だがしかし、ぶん殴ってでも助けてやりたい相手がすぐ近くにいるなら。
自分の中の意地や葛藤のせいで、取り返しの付かない事態になるかもしれないなら。
「迷ってる場合じゃ、ねぇだろうが!!」
『EVOL DRIVER!』
腰へ巻きつけたドライバーが、腹立たしい男の声で起動を伝えた。
右手で複数のボトルの内の一本、龍を模したソレを強く握り締める。
嘗て自分の体を好き勝手に動かされた時、生み出されたドラゴンエボルボトルだ。
昂る戦意と、内に眠る力が引き出される感覚は覚えがある。
変身を不可能にされ、足掻き続けた果てに再び力を取り戻した時と同じ。
右手で複数のボトルの内の一本、龍を模したソレを強く握り締める。
嘗て自分の体を好き勝手に動かされた時、生み出されたドラゴンエボルボトルだ。
昂る戦意と、内に眠る力が引き出される感覚は覚えがある。
変身を不可能にされ、足掻き続けた果てに再び力を取り戻した時と同じ。
心意システムの影響も少なからず存在するだろう。
されど想いの力で可能性を切り開くのは、万丈にとってこれが初めてではない。
嘗ての己と同じく復讐に囚われ、自分自身ではどうにも出来ず苦しむ男を助けたい。
揺るがぬ意思を糧に、創造(ビルド)は今ここに現実のものとなる。
されど想いの力で可能性を切り開くのは、万丈にとってこれが初めてではない。
嘗ての己と同じく復讐に囚われ、自分自身ではどうにも出来ず苦しむ男を助けたい。
揺るがぬ意思を糧に、創造(ビルド)は今ここに現実のものとなる。
青いカラーリングから一転、ボトルが黄金に輝く。
グレートドラゴンエボルボトルを、もう一度己が手に掴み取った。
万丈の決意に呼応し、デイパックからクローズドラゴンが飛び出す。
小さな相棒もまた、馬鹿が付く程に真っ直ぐな青年と想いは同じだ。
言葉は無くとも通じ合い、クローズドラゴンへボトルを装填。
エボルボトル同様に進化を果たし、或人を閉じ込める悪意の檻を共に打ち砕く。
グレートドラゴンエボルボトルを、もう一度己が手に掴み取った。
万丈の決意に呼応し、デイパックからクローズドラゴンが飛び出す。
小さな相棒もまた、馬鹿が付く程に真っ直ぐな青年と想いは同じだ。
言葉は無くとも通じ合い、クローズドラゴンへボトルを装填。
エボルボトル同様に進化を果たし、或人を閉じ込める悪意の檻を共に打ち砕く。
『覚醒!』
『グレートクローッzzzzzzzzuuuzuzuzuzzzzzz』
『CROSS-Z BLOOD!』
本来のドライバーでそうするように、星狩りの兵器と一体化させた。
豪快に叫ぶ電子音声にエラーが起こるも、次いで聞こえたのは万丈に聞き覚えの無い名前。
旧世界での死闘の時にも、新世界でのキルバスとの戦いでだって存在しない。
正史においては有り得なかった力を、臆さずに受け入れる。
豪快に叫ぶ電子音声にエラーが起こるも、次いで聞こえたのは万丈に聞き覚えの無い名前。
旧世界での死闘の時にも、新世界でのキルバスとの戦いでだって存在しない。
正史においては有り得なかった力を、臆さずに受け入れる。
『Are You Ready?(覚悟はいいか?)』
「んなもんとっくにできてんだよ!変身!」
『Wake up CROSS-Z!Get GREAT DRAGON!with BLOOD!』
『フッハッハッハッハッハッ!!!』
レバーの急速回転によりファクトリーが展開。
今更覚悟を問われたとて、答えは初めて仮面ライダーになった日から完了している。
断ち切れぬ因縁で繋がれた青年の足掻きへ、だから人間は面白いと言わんばかりの高笑いが響き渡った。
今更覚悟を問われたとて、答えは初めて仮面ライダーになった日から完了している。
断ち切れぬ因縁で繋がれた青年の足掻きへ、だから人間は面白いと言わんばかりの高笑いが響き渡った。
青い光が晴れた時、現れたのは仮面ライダーエボルとは異なる戦士。
黄金と真紅で彩られた装甲を纏い、風に靡くは漆黒のマント。
星狩りと似た特徴を持ちながらも、頭部には正しき心を持つ戦士の仮面を装着。
蒼炎と龍を象ったパーツが、変身者の戦意を表すかの如く輝きを放つ。
黄金と真紅で彩られた装甲を纏い、風に靡くは漆黒のマント。
星狩りと似た特徴を持ちながらも、頭部には正しき心を持つ戦士の仮面を装着。
蒼炎と龍を象ったパーツが、変身者の戦意を表すかの如く輝きを放つ。
名付けるならば、仮面ライダークローズブラッド。
旧世界でビルド殲滅計画を実行した、仮面ライダーブラッドとの類似点があれど同じに非ず。
ハザードトリガーとロストボトルを使わない代わりに、エボルドライバーとエボルボトルでブラッド族としての高スペックを付与。
更に変身者が万丈なのもあって、ラブ&ピースの戦士として戦う。
旧世界でビルド殲滅計画を実行した、仮面ライダーブラッドとの類似点があれど同じに非ず。
ハザードトリガーとロストボトルを使わない代わりに、エボルドライバーとエボルボトルでブラッド族としての高スペックを付与。
更に変身者が万丈なのもあって、ラブ&ピースの戦士として戦う。
「今の俺は…負ける気がしねぇっ!!!」
湧き上がる膨大な力を実感し、なれど強さに酔いしれ目的を見失う本物の馬鹿にはならない。
新たな戦士の誕生にもアナザーゼロワンは見向きせず、復讐以外に何一つ考えられない。
上等だ、嫌でも自分の方を向かざるを得なくするまで。
脚部装甲に蒼炎が迸り、踏みしめた地面が溶け出す。
必ずや止めてやると、昂り続ける戦意に押し出され疾走。
新たな戦士の誕生にもアナザーゼロワンは見向きせず、復讐以外に何一つ考えられない。
上等だ、嫌でも自分の方を向かざるを得なくするまで。
脚部装甲に蒼炎が迸り、踏みしめた地面が溶け出す。
必ずや止めてやると、昂り続ける戦意に押し出され疾走。
急接近する気配へようやっと振り返った直後、頬へ突き刺さる拳。
銃弾を数百発浴びても、痒いとすら思えない肉体強度をアナザーゼロワンは誇る。
だがクローズの拳はどんな兵器よりも重く、奥底へ沈んだ魂にまで響く一撃だ。
意識が飛び掛ける程の衝撃が襲い、脳が激しく揺さぶられる。
銃弾を数百発浴びても、痒いとすら思えない肉体強度をアナザーゼロワンは誇る。
だがクローズの拳はどんな兵器よりも重く、奥底へ沈んだ魂にまで響く一撃だ。
意識が飛び掛ける程の衝撃が襲い、脳が激しく揺さぶられる。
「ガァッ…!?」
「うおらあああああああああああっ!!」
「うおらあああああああああああっ!!」
呻き体勢が崩れるも、クローズが止まる気配は欠片も見当たらない。
怯んだ隙へ拳の連打を叩き込むのは、ボクサー時代から変わらぬ戦法。
或人を縛る悪意という名の鎖を、一本残らず打ち砕くように。
決意の証たる蒼炎を纏わせ、アナザーゼロワンへ放ち続ける。
怯んだ隙へ拳の連打を叩き込むのは、ボクサー時代から変わらぬ戦法。
或人を縛る悪意という名の鎖を、一本残らず打ち砕くように。
決意の証たる蒼炎を纏わせ、アナザーゼロワンへ放ち続ける。
「邪魔ダ…!!」
無抵抗なサンドバッグになると言った覚えはない。
龍騎よりも力が増したからと言って、アナザーゼロワンが脅威でなくなった訳でもない。
数発目の拳が当たる寸前、残像を残しクローズの死角へ高速移動。
向こうの反応を律儀に待ってやらず、凶器と化した右脚を振るう。
龍騎よりも力が増したからと言って、アナザーゼロワンが脅威でなくなった訳でもない。
数発目の拳が当たる寸前、残像を残しクローズの死角へ高速移動。
向こうの反応を律儀に待ってやらず、凶器と化した右脚を振るう。
「あっぶね…!」
頭部センサーにより強化した反応速度と、培った戦闘経験による危機察知能力。
それらを駆使し防御を間に合わせ、アナザーゼロワンの蹴りは腕部装甲を叩くに留めた。
尤も、この一発が攻撃の全てと言うなら大間違い。
つい数分前に龍騎を散々痛め付けた猛攻が、再度始まる。
それらを駆使し防御を間に合わせ、アナザーゼロワンの蹴りは腕部装甲を叩くに留めた。
尤も、この一発が攻撃の全てと言うなら大間違い。
つい数分前に龍騎を散々痛め付けた猛攻が、再度始まる。
「っ、やっぱ速ぇな……!」
一定方向のみからじゃない、全方位から一斉に襲い来るに等しい。
あらゆる抵抗を許されず、肉片に変えられるまで続く蹴りの嵐。
新たな姿になっても戦慄を抱かざるを得ない速さだが、諦める理由にはならない。
何より、先の光景の焼き直しを覆す力が今はある。
胸部を狙った蹴りに合わせ拳を放ち、互いに腕と脚が弾かれ合った。
あらゆる抵抗を許されず、肉片に変えられるまで続く蹴りの嵐。
新たな姿になっても戦慄を抱かざるを得ない速さだが、諦める理由にはならない。
何より、先の光景の焼き直しを覆す力が今はある。
胸部を狙った蹴りに合わせ拳を放ち、互いに腕と脚が弾かれ合った。
「こんなもんじゃ俺は止まらねぇぞ!!」
「黙レ…!!」
「黙レ…!!」
悪夢の如き速度で迫る足底へ、クローズもまた拳速を急激に引き上げ迎え撃つ。
羽織ったマントは飾りに非ず、特殊推進ユニットの機能を発揮。
アナザーゼロワンにも引けを取らぬスピードを我が物とし、熱き鉄拳を幾度も叩き付けた。
頭部を狙った蹴りが防がれる、四肢を狙った蹴りが弾かれる、腹部を狙った蹴りが押し負ける。
悪意へ心を浸らせ手に入れた筈の圧倒的な強さへ、徐々に追い付かんとしていた。
羽織ったマントは飾りに非ず、特殊推進ユニットの機能を発揮。
アナザーゼロワンにも引けを取らぬスピードを我が物とし、熱き鉄拳を幾度も叩き付けた。
頭部を狙った蹴りが防がれる、四肢を狙った蹴りが弾かれる、腹部を狙った蹴りが押し負ける。
悪意へ心を浸らせ手に入れた筈の圧倒的な強さへ、徐々に追い付かんとしていた。
「アアアアアアアアアアッ!!!」
「おらああああああああっ!!!」
「おらああああああああっ!!!」
防ぎ漏らした蹴りが、クローズへ届く回数も少なくない。
優れた耐久性の装甲や肉体であっても、連続で受ければ捨て置けぬ傷と化す。
それが分からない筈はなく、されど「だから何だ」の一言で捻じ伏せる。
痛みには慣れている、仮面ライダーになる前からキツい目にばかり遭って来たのだから。
苦痛へ泣き叫び、戦いから逃げたいと駄々を捏ねる段階は遥か昔に通り過ぎた。
優れた耐久性の装甲や肉体であっても、連続で受ければ捨て置けぬ傷と化す。
それが分からない筈はなく、されど「だから何だ」の一言で捻じ伏せる。
痛みには慣れている、仮面ライダーになる前からキツい目にばかり遭って来たのだから。
苦痛へ泣き叫び、戦いから逃げたいと駄々を捏ねる段階は遥か昔に通り過ぎた。
「それによぉ…お前の方がもっと痛い想いしてんだろ…!」
数十発目の蹴りを振り払い、自身の額を相手へ力の限りぶつける。
原始的な戦法にたたらを踏んだ復讐者へ、逃がさぬとばかりに踏み込む。
原始的な戦法にたたらを踏んだ復讐者へ、逃がさぬとばかりに踏み込む。
「或人…お前やっぱり前の俺にすっげぇ似てるわ。大事な相手をふざけた理由で奪われて、手が届く距離にいるのに何もしてやれなくて……!」
言葉を遮るように右脚が振るわれるも、返答を期待して口を開いたんじゃない。
相手同様、クローズの脚部が唸りを上げアナザーゼロワンと激突。
蹴りと蹴りの拮抗は長続きせず、揃って弾かれ間髪入れずに次撃を放つ。
持ち前の走力を存分に活かし、クローズの反応を許さぬスピードで以て襲来。
相手同様、クローズの脚部が唸りを上げアナザーゼロワンと激突。
蹴りと蹴りの拮抗は長続きせず、揃って弾かれ間髪入れずに次撃を放つ。
持ち前の走力を存分に活かし、クローズの反応を許さぬスピードで以て襲来。
「仇を討つ以外、ロクに考えられないよなそりゃ。余裕なんて、全っ然あるわけねぇ」
脅威の度合いは変わらずとも、そう来る事はクローズにも予想出来た。
裏拳がアナザーゼロワンの脚を叩き、自身へは到達させない。
攻撃失敗による隙は致命的だが、敵の速さなら文字通りの一瞬でその隙を埋められる。
裏拳がアナザーゼロワンの脚を叩き、自身へは到達させない。
攻撃失敗による隙は致命的だが、敵の速さなら文字通りの一瞬でその隙を埋められる。
「俺もそうだった。ファウストの連中が許せなくて、おまけにやってもいねぇ殺人の濡れ衣まで着せられたんだぜ?一々変装しないと散歩にも行けねぇよ」
であるならば、この瞬間にクローズはアナザーゼロワンを上回ったのだろう。
怪物を倒し悪しき夢を終わらせる、魔弾の如き拳が胴を貫く。
並外れたスピードでも回避が叶わない、肉体のみならず目に見えぬ心にまで届く一撃。
ギシリと聞こえた軋む音は、果たしてどこからだったのか。
怪物を倒し悪しき夢を終わらせる、魔弾の如き拳が胴を貫く。
並外れたスピードでも回避が叶わない、肉体のみならず目に見えぬ心にまで届く一撃。
ギシリと聞こえた軋む音は、果たしてどこからだったのか。
「仮面ライダーになってもそれは変わんなかった。自分の事以外、あれこれ頭回してられなかった」
短く悲鳴を上げ殴り飛ばされ、空き缶のように地面を転がる。
体と、体以外の部分が痛くて仕方ない。
常人だったら瞬く間に戦意を失い兼ねないが、アナザーゼロワンはその枠に入らない。
絶えず湧き上がり、自分自身でも止める術を知らない憎悪が戦闘続行を瞬時に選択。
滅を破壊しろ、その為なら邪魔者を消し去っても構わない。
復讐鬼に堕ちても本来の或人が決して考えなかった、無慈悲な指令に迷わず従う。
羽音を響かせ現れた大量のバッタが、農作物を食い荒らす害虫さながらにクローズへ群がる。
体と、体以外の部分が痛くて仕方ない。
常人だったら瞬く間に戦意を失い兼ねないが、アナザーゼロワンはその枠に入らない。
絶えず湧き上がり、自分自身でも止める術を知らない憎悪が戦闘続行を瞬時に選択。
滅を破壊しろ、その為なら邪魔者を消し去っても構わない。
復讐鬼に堕ちても本来の或人が決して考えなかった、無慈悲な指令に迷わず従う。
羽音を響かせ現れた大量のバッタが、農作物を食い荒らす害虫さながらにクローズへ群がる。
「けどなぁ……!口じゃ偉そうなことなばっか言うくせに、見てないとこで俺を助けようと…泣かせることしやがった奴がいてくれたんだよ!」
全身を食い荒らされた、哀れなヒーローの成れの果て。
惨たらしい予想を裏切り、バッタの大群が焼き払われる。
掴む得物は火炎と蒼炎の二つを纏いし聖剣、烈火。
物語の守り手とクローズ自身の異なる炎を一本に宿し、敗北を真っ向から否定。
助けねばならない男を放置して、勝手に死んでおさらばは御免だ。
惨たらしい予想を裏切り、バッタの大群が焼き払われる。
掴む得物は火炎と蒼炎の二つを纏いし聖剣、烈火。
物語の守り手とクローズ自身の異なる炎を一本に宿し、敗北を真っ向から否定。
助けねばならない男を放置して、勝手に死んでおさらばは御免だ。
「あいつのおかげで、俺は本当の意味で仮面ライダーになれた。取り返しのつかねぇことやって、香澄に顔向け出来ない馬鹿にならずに済んだんだよ。
だからよ或人…今のお前が道踏み外して、二度と仮面ライダーに戻れなくなる前に絶対ぇ連れ戻してやる!お前がイズを、裏切っちまわない為にも!」
「黙レェエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」
だからよ或人…今のお前が道踏み外して、二度と仮面ライダーに戻れなくなる前に絶対ぇ連れ戻してやる!お前がイズを、裏切っちまわない為にも!」
「黙レェエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」
妬みと憎しみで、滅への復讐以外どうでもいい筈なのに。
何故こんなにも、聞くだけで苦しくなるのか。
どうしようもない程に、泣きたくなってしまうのだろうか。
何故こんなにも、聞くだけで苦しくなるのか。
どうしようもない程に、泣きたくなってしまうのだろうか。
だったら壊せば、いいや殺して黙らせれば良い。
憎悪に突き動かされるまま、或いは逃避するかの結論へ辿り着く。
脚部へエネルギーを集中、眼前で聞くに堪えないモノを吐き出す男を仕留める。
マギアやレイダーに打ち勝ち、悲劇を食い止めて来たゼロワンの蹴り技。
此度は悪意を糧に標的を砕くという、自身のこれまでの戦いに泥を塗るに等しい。
たった今言われた通り、二度と仮面ライダーゼロワンに戻れなくなるだろう。
憎悪に突き動かされるまま、或いは逃避するかの結論へ辿り着く。
脚部へエネルギーを集中、眼前で聞くに堪えないモノを吐き出す男を仕留める。
マギアやレイダーに打ち勝ち、悲劇を食い止めて来たゼロワンの蹴り技。
此度は悪意を糧に標的を砕くという、自身のこれまでの戦いに泥を塗るに等しい。
たった今言われた通り、二度と仮面ライダーゼロワンに戻れなくなるだろう。
放たれんとしている力が如何に危険か、対峙中のクローズも勿論分かる。
何度言葉を投げかけても、悪意は深く根を張ったまま。
もし自分が殺されれば、きっと完全に手遅れになってしまう。
何度言葉を投げかけても、悪意は深く根を張ったまま。
もし自分が殺されれば、きっと完全に手遅れになってしまう。
「だったら俺も、本気でぶつけて止めてやるよ!」
『Ready Go!』
『GREAT DRAGONIC FINISH!』
過去の戦いで幾度もして来たように、レバーを高速回転。
ボトルの成分とクローズドラゴンの機能が、最大まで活性化。
パイプオルガンの演奏に似た音声が鼓膜を激しく刺激し、エボルドライバーから右脚へとエネルギーが流れ込む。
ボトルの成分とクローズドラゴンの機能が、最大まで活性化。
パイプオルガンの演奏に似た音声が鼓膜を激しく刺激し、エボルドライバーから右脚へとエネルギーが流れ込む。
示し合わせたかのタイミングで共に跳躍、飛び蹴りを叩き込む。
足底同士がぶつかり、それ以上は進ませまいと両者宙で拮抗。
発せられる悪意の波動がクローズの体力を削り取り、敗北へ一歩また一歩と近付けさせる。
足底同士がぶつかり、それ以上は進ませまいと両者宙で拮抗。
発せられる悪意の波動がクローズの体力を削り取り、敗北へ一歩また一歩と近付けさせる。
「これが……どうしたぁっ!!!」
「ッ!?」
「ッ!?」
助けると、己が抱いた想いは決して裏切らない。
負ける気がしないんじゃない、負けられない。
戦意の高まりは留まる所を知らず、限界を超えて尚も昇り続ける。
土壇場でハザードレベルが急上昇、逸る鼓動がクローズを巨大な蒼龍に変え突き進む。
負ける気がしないんじゃない、負けられない。
戦意の高まりは留まる所を知らず、限界を超えて尚も昇り続ける。
土壇場でハザードレベルが急上昇、逸る鼓動がクローズを巨大な蒼龍に変え突き進む。
「戻って来い…或人ォッ!!!」
「ぁ――」
「ぁ――」
先の見えない暗闇の中で、取り残された子供を救い出すように。
憎悪という名の檻を木っ端微塵に粉砕し、善意の心を引っ張り上げる。
憎悪という名の檻を木っ端微塵に粉砕し、善意の心を引っ張り上げる。
偽りの歴史を完全に砕くには、正しき歴史を歩んだ戦士の力が必要。
しかしアナザーウォッチの使用者の肉体が、限界以上のダメージを受ければ変身を保っていられない。
体内から弾き出されたウォッチは宙を泳いだ後、乾いた音を立てて地面に転がった。
しかしアナザーウォッチの使用者の肉体が、限界以上のダメージを受ければ変身を保っていられない。
体内から弾き出されたウォッチは宙を泳いだ後、乾いた音を立てて地面に転がった。
「つっっっかれたぁ……!ってか、これ言うの二度目じゃねかよ……」
地面へ大の字に横たわり、疲労を思いっ切り声に出す。
一度目の或人との戦闘時と同じだが、消耗は確実に今回のが大きい。
打ち勝ったものの体力がどっと抜き取られ、堪らず変身解除。
慣れないドライバーを使った反動もあってか、額には汗がびっしょりと浮かんでいる。
一度目の或人との戦闘時と同じだが、消耗は確実に今回のが大きい。
打ち勝ったものの体力がどっと抜き取られ、堪らず変身解除。
慣れないドライバーを使った反動もあってか、額には汗がびっしょりと浮かんでいる。
「万丈さん……」
力無く呟かれた自身の名へ、顔を向ければ曇った表情でへたり込む青年が一人。
暴れ回ったアナザーゼロワンの面影はなく、正気に戻ったのは間違いない。
有言実行、或人を悪意から解放出来て安堵する。
万丈と違い、当の或人は喜べるような心境ではないが。
暴れ回ったアナザーゼロワンの面影はなく、正気に戻ったのは間違いない。
有言実行、或人を悪意から解放出来て安堵する。
万丈と違い、当の或人は喜べるような心境ではないが。
「暗い顔すんなって。俺は――」
重い体を起こし口を開き、視線の先で彼の表情が急に変わった。
どうしたと聞くのを待たず、立ち上がり駆け寄った或人が突き飛ばす。
背中から地面に倒れ、鈍痛が疲れた体に響く中、
どうしたと聞くのを待たず、立ち上がり駆け寄った或人が突き飛ばす。
背中から地面に倒れ、鈍痛が疲れた体に響く中、
「或人……?」
呼んだ名前に一言も返さず、夥しい血を吐き出す青年が見えた。