「強大なエネルギーを秘めたパンドラボックスを巡り…っていつの話だよこれ。台本チェンジだチェンジ」
『胡散臭さに手足が生えたような地球外生命体が去った後、わたしとイリヤさん達一行は仮面ライダー捜索の為に別行動を取りました。
見てますか皆さん!何故か喋れなくなったような気がしましたけど、ご覧の通りいつものルビーちゃんですよー!』
「急に何の話をしてんだよ。一方俺ことエボルトは七海やちよのお気に入りの魔法少女、環いろはとの接触に成功。
こいつを連れて行けば好感度アップも間違いなし。おいおいまさか、本当にハーレムルートに入っちまったか?」
『魔法少女に不埒な真似を目論む愚行、全ての可憐な女の子の味方であるこのわたしが許しませんよ!
それにしても環いろはさん、あんなピッチリスケスケ衣装とはけしからんですねぇ。ウチのイリヤさんとの素敵なショット(意味深)を期待したいですねぇゲフフ(汚い笑い)』
「一行前と即座に矛盾してんぞ。さぁて、どうなりますやら」
『胡散臭さに手足が生えたような地球外生命体が去った後、わたしとイリヤさん達一行は仮面ライダー捜索の為に別行動を取りました。
見てますか皆さん!何故か喋れなくなったような気がしましたけど、ご覧の通りいつものルビーちゃんですよー!』
「急に何の話をしてんだよ。一方俺ことエボルトは七海やちよのお気に入りの魔法少女、環いろはとの接触に成功。
こいつを連れて行けば好感度アップも間違いなし。おいおいまさか、本当にハーレムルートに入っちまったか?」
『魔法少女に不埒な真似を目論む愚行、全ての可憐な女の子の味方であるこのわたしが許しませんよ!
それにしても環いろはさん、あんなピッチリスケスケ衣装とはけしからんですねぇ。ウチのイリヤさんとの素敵なショット(意味深)を期待したいですねぇゲフフ(汚い笑い)』
「一行前と即座に矛盾してんぞ。さぁて、どうなりますやら」
「しっかし分からねぇもんだな」
エーデルフェルト邸を後にし、徒歩で移動の最中。
暫し続いた無言を打ち破ったのは、蛇王院が発した一言だった。
前触れなく出たその言葉に、同行者二名と一本は視線で続きを促す。
分からないと急に言われても、一体何の事かがこっちはサッパリなのだから。
暫し続いた無言を打ち破ったのは、蛇王院が発した一言だった。
前触れなく出たその言葉に、同行者二名と一本は視線で続きを促す。
分からないと急に言われても、一体何の事かがこっちはサッパリなのだから。
「遊戯や遊星は自分のデッキを取られてんのに、凌牙は本人のを渡されてんだぜ?それにイリヤだって、相棒と引き離されなかった。
なんだってこうも支給品に差があるのか分からなくてよ」
「言われてみれば……そっか、わたしもルビーが一緒じゃなかったかもしれないんだ」
なんだってこうも支給品に差があるのか分からなくてよ」
「言われてみれば……そっか、わたしもルビーが一緒じゃなかったかもしれないんだ」
有り得た可能性を思い浮かべ、幼い肢体が微かに震える。
デイパックを開けたら真っ先に相棒のステッキが飛び出し、普段通りに戦えた。
しかし遊戯や遊星のみならず、イリヤもルビーの没収により戦闘手段を失う事態が起こらなかったとも限らない。
運が悪ければ、司共々斬り殺された末路があったかもしれないのだ。
平行世界への転移直後、ベアトリスから必死に逃げた時の事を嫌でも思い出す。
事情が重なり見逃され命拾いした、そういう幸運が二度も続くと楽観的には考えられない。
デイパックを開けたら真っ先に相棒のステッキが飛び出し、普段通りに戦えた。
しかし遊戯や遊星のみならず、イリヤもルビーの没収により戦闘手段を失う事態が起こらなかったとも限らない。
運が悪ければ、司共々斬り殺された末路があったかもしれないのだ。
平行世界への転移直後、ベアトリスから必死に逃げた時の事を嫌でも思い出す。
事情が重なり見逃され命拾いした、そういう幸運が二度も続くと楽観的には考えられない。
『うむむむ…むさ苦しくてあくどい男の手に渡った可能性もあるってことですねー……。何たる地獄!ルビーちゃんはイリヤさんに身も心も全て捧げ、染め上げられたと言うのに!』
「誤解を招くこと言わないでよ!?」
『えー事実じゃないですか。初めて会った晩、熱くてドロリとした液体をわたしに……』
「あ、あれは鼻血でしょ!」
「誤解を招くこと言わないでよ!?」
『えー事実じゃないですか。初めて会った晩、熱くてドロリとした液体をわたしに……』
「あ、あれは鼻血でしょ!」
半分事故、もう半分はこの面白ステッキが原因で義兄と入浴中バッタリになったのも今や懐かしい。
あの時見たモノが記憶から引っ張り出され、つい頬に朱が差す。
あの時見たモノが記憶から引っ張り出され、つい頬に朱が差す。
「デッキが無いのは確かに痛いが、コレを取られなかったのは助かったぜ」
傍らの漫才染みたやり取りを尻目に、遊戯は首から下げた装飾品を見やる。
現代を生きる決闘者と名も無きファラオが人格交代を行うには、千年パズルが必要不可欠。
今こうして自分が表に出て話す事すら、現実に起こっていなかったのも有り得た。
主催者に感謝する気は微塵も無いが、没収を免れたのには安堵を抱く。
それはそれとして、デッキが他者の手に渡ったのはやはり頭の痛い問題だった。
現代を生きる決闘者と名も無きファラオが人格交代を行うには、千年パズルが必要不可欠。
今こうして自分が表に出て話す事すら、現実に起こっていなかったのも有り得た。
主催者に感謝する気は微塵も無いが、没収を免れたのには安堵を抱く。
それはそれとして、デッキが他者の手に渡ったのはやはり頭の痛い問題だった。
「凌牙が最初から自分のデッキを持ってるってことは、別にデュエル自体を禁止してる訳じゃねぇんだろ?なら、遊戯達にだって支給しても問題ない筈なんだが」
「……若しかすれば、俺や遊星くんがデッキが無い状態でどう足掻くか見てみたい。なんてだけかもな」
「……若しかすれば、俺や遊星くんがデッキが無い状態でどう足掻くか見てみたい。なんてだけかもな」
険しい顔で立てた仮説はシンプルながら、絶対ないと否定も出来ない内容。
決闘都市準決勝の直前に巻き込まれた電脳空間での戦いが、一つの良い例になる。
首謀者の海馬乃亜はデュエルで勝てば肉体を与えると、BIG5をそそのかし遊戯達を襲わせた。
だが実際には最初から約束を守る気は無く、自身の娯楽に過ぎなかったのだ。
油断ならない強大な力の持ち主であっても、性根は傍迷惑な好奇心の悪童に等しい。
檀黎斗もそれに当て嵌まるなら、拍子抜けな動機であっても不思議はない。
決闘都市準決勝の直前に巻き込まれた電脳空間での戦いが、一つの良い例になる。
首謀者の海馬乃亜はデュエルで勝てば肉体を与えると、BIG5をそそのかし遊戯達を襲わせた。
だが実際には最初から約束を守る気は無く、自身の娯楽に過ぎなかったのだ。
油断ならない強大な力の持ち主であっても、性根は傍迷惑な好奇心の悪童に等しい。
檀黎斗もそれに当て嵌まるなら、拍子抜けな動機であっても不思議はない。
『確かに、放送でのふんぞり返った態度を見ると逆に納得がいきますねー。ルビーちゃんに小細工までして、ふてぇ野郎ですよ!』
「あの人にとっては、本当に全部自分が楽しむ為なんだね……」
「あの人にとっては、本当に全部自分が楽しむ為なんだね……」
クラスカードの時間制限や治療魔術の効きの悪さなど、イリヤが不利になる為の細工を施された。
主催者にとってはバランス調整の一環であっても、こっちからすれば迷惑でしかない。
ふよふよ浮かぶ羽を拳に見立て振るい、魔術礼装なりに怒りを表す。
主催者にとってはバランス調整の一環であっても、こっちからすれば迷惑でしかない。
ふよふよ浮かぶ羽を拳に見立て振るい、魔術礼装なりに怒りを表す。
一方でイリヤは顔を曇らせ、怒りと悔しさを乗せ呟いた。
仲間である司と零、敵でも助けたい気持ちに嘘はなかった小さな魔女。
たった一つしかない命を失った彼らも、檀黎斗にはゲームを盛り上げたか否か以外に何も思わない。
ひょっとすれば自分達が知らないだけで、最初の想いは違ったのかもしれない。
ダリウスのように、長い年月の中で変わってしまったのが真実でないとも言い切れない。
だとしても、決闘と称し殺し合いを強要したのが許されるかは別。
司達の死を娯楽と扱い嘲笑ったのには怒りがあり、そのような男の元に親友が囚われているのは気が気でなかった。
仲間である司と零、敵でも助けたい気持ちに嘘はなかった小さな魔女。
たった一つしかない命を失った彼らも、檀黎斗にはゲームを盛り上げたか否か以外に何も思わない。
ひょっとすれば自分達が知らないだけで、最初の想いは違ったのかもしれない。
ダリウスのように、長い年月の中で変わってしまったのが真実でないとも言い切れない。
だとしても、決闘と称し殺し合いを強要したのが許されるかは別。
司達の死を娯楽と扱い嘲笑ったのには怒りがあり、そのような男の元に親友が囚われているのは気が気でなかった。
『おや、この反応は……皆さんどうやら追い付いたようです』
若干空気が重くなりかけたが、ルビーの声で切り替えを余儀なくされる。
移動中も常に網を張っていた為、他参加者の探知は正確だ。
言い方からして、自分達三人が追い掛けている者が見付かったらしい。
トラブルが起きず目的達成に近付いたのは良いが、イリヤの表情はどこか硬い。
件の相手の人を食ったような、根本的な部分で相容れない雰囲気を思えば当然だが。
移動中も常に網を張っていた為、他参加者の探知は正確だ。
言い方からして、自分達三人が追い掛けている者が見付かったらしい。
トラブルが起きず目的達成に近付いたのは良いが、イリヤの表情はどこか硬い。
件の相手の人を食ったような、根本的な部分で相容れない雰囲気を思えば当然だが。
「心配すんな。俺も話で聞いただけだが、ふざけた態度続けるようならガツンと言っとくからよ」
「ああ。イリヤだけに気負わせはしないから、頼ってくれて良いぜ」
「ああ。イリヤだけに気負わせはしないから、頼ってくれて良いぜ」
緊張を察し、軽く頭を撫で蛇王院が不敵な笑みを見せる。
魔界孔の出現に端を発した、群雄割拠の日本で一勢力を纏め上げた男だ。
アクの強い連中相手と斬った張ったは珍しくなく、今更滅多な事で動じる弱腰にも非ず。
魔法少女とはいえまだ小学生のイリヤ一人に、負担を強いるつもりはない。
遊戯も同じだ、奇人悪人相手の舌戦はデュエルを通じて幾度となく経験済。
エーデルフェルト邸の時同様、毅然とした態度で臨むまで。
魔界孔の出現に端を発した、群雄割拠の日本で一勢力を纏め上げた男だ。
アクの強い連中相手と斬った張ったは珍しくなく、今更滅多な事で動じる弱腰にも非ず。
魔法少女とはいえまだ小学生のイリヤ一人に、負担を強いるつもりはない。
遊戯も同じだ、奇人悪人相手の舌戦はデュエルを通じて幾度となく経験済。
エーデルフェルト邸の時同様、毅然とした態度で臨むまで。
「…うん、二人共ありがとうございます」
『頼れる殿方で安心しちゃいました。ルビーちゃんも人間ならコロッと惚れちゃったかもしれませんよ』
「惚れんのは別に構わねぇがな。俺の女どもなら、杖相手でも仲良くやれんだろ」
『ま、まさかの公式ハーレム王!?一体どこのア○ススフトのキャラなんですか!?』
「は?何言ってんだ?」
『頼れる殿方で安心しちゃいました。ルビーちゃんも人間ならコロッと惚れちゃったかもしれませんよ』
「惚れんのは別に構わねぇがな。俺の女どもなら、杖相手でも仲良くやれんだろ」
『ま、まさかの公式ハーレム王!?一体どこのア○ススフトのキャラなんですか!?』
「は?何言ってんだ?」
心強い仲間の存在に、幾分緊張も解れる。
ルビーの案内に従い移動を続け、5分も経っていない頃。
付近の民家より大きく、一際目立つ建造物が目に映り込んだ。
外観からして学校、ただ三人の記憶にあるどれとも一致しない。
数時間前にイリヤを庇って力尽きた、白鳥司の通う中学校とは知る由もなく。
反応が近いとの言葉に気を引き締め直し、
ルビーの案内に従い移動を続け、5分も経っていない頃。
付近の民家より大きく、一際目立つ建造物が目に映り込んだ。
外観からして学校、ただ三人の記憶にあるどれとも一致しない。
数時間前にイリヤを庇って力尽きた、白鳥司の通う中学校とは知る由もなく。
反応が近いとの言葉に気を引き締め直し、
「えっ」
この場にいる筈のない親友が視界に飛び込み、イリヤから平常心を奪い取った。
◆◆◆
人の皮を被った蛇、と。
初対面の相手に対し大変失礼であり、うっかり口に出そうものなら怒りを買うこと確実である。
何かと突飛な神浜の魔法少女の中で常識人の部類に入るいろはが、分からない筈がなく。
理解した上で、そう思わずにはいられなかった。
初対面の相手に対し大変失礼であり、うっかり口に出そうものなら怒りを買うこと確実である。
何かと突飛な神浜の魔法少女の中で常識人の部類に入るいろはが、分からない筈がなく。
理解した上で、そう思わずにはいられなかった。
少女、である。
年の頃は十を過ぎてまだ一年程度。
妹達と同年代で、ランドセルを背に登下校を繰り返すのが当たり前の日常を送っている筈。
同性のいろはをして、綺麗と言う他ないくらいには整った顔立ち。
黒い薄手のドレスで隠し切れない、剥き出しの素肌は透き通るような白さ。
病的な青白さとは違う、少女が本来持ち得る女としての魅力が体に表れていた。
その手の趣味嗜好の持ち主が見れば、己が欲棒を鎮めるのにさぞや苦労するだろう。
年の頃は十を過ぎてまだ一年程度。
妹達と同年代で、ランドセルを背に登下校を繰り返すのが当たり前の日常を送っている筈。
同性のいろはをして、綺麗と言う他ないくらいには整った顔立ち。
黒い薄手のドレスで隠し切れない、剥き出しの素肌は透き通るような白さ。
病的な青白さとは違う、少女が本来持ち得る女としての魅力が体に表れていた。
その手の趣味嗜好の持ち主が見れば、己が欲棒を鎮めるのにさぞや苦労するだろう。
「まさか、やちよより先に俺が会っちまうとはねぇ。折角お空のデート中だったってのに、邪魔したのは恨まないでくれよ?」
異性同性問わず惹き付ける魅力を自らぶち壊す、軽薄な口調。
外見と中身がまるで一致していない、酷くアンバランスな態度。
密かに片思い中の男子生徒が目撃したら、百年の恋も一瞬で冷めるだろう。
こんな状況で何だが、ふと水波レナを思い出す。
変身の固有魔法を持ち、他者の姿をしばしば無断で借りていた。
元の言葉遣いと変身中の姿とのギャップに面食らったのは、神浜に来て間もない頃だったか。
ここにいるのはレナではない、しかし他人の姿を偽る力の持ち主に違いない。
いろはのみならず、全プレイヤーが断言出来る。
何せ眼前の少女、美遊・エーデルフェルトは主催者に囚われの身。
会場で呑気に軽口を叩くのは有り得ない。
外見と中身がまるで一致していない、酷くアンバランスな態度。
密かに片思い中の男子生徒が目撃したら、百年の恋も一瞬で冷めるだろう。
こんな状況で何だが、ふと水波レナを思い出す。
変身の固有魔法を持ち、他者の姿をしばしば無断で借りていた。
元の言葉遣いと変身中の姿とのギャップに面食らったのは、神浜に来て間もない頃だったか。
ここにいるのはレナではない、しかし他人の姿を偽る力の持ち主に違いない。
いろはのみならず、全プレイヤーが断言出来る。
何せ眼前の少女、美遊・エーデルフェルトは主催者に囚われの身。
会場で呑気に軽口を叩くのは有り得ない。
何故、美遊の姿を真似ているのか。
何を目的に動いているのか等、抱いて当然の疑問が泡のようにプカプカ浮かぶ。
しかし最も聞かずにいられないのは、先程から度々口にする名前。
神浜で最初に会った魔法少女であり、チームの纏め役であり、尊敬と信頼を向ける先輩であり、
一人にさせないと約束したあの人。
何を目的に動いているのか等、抱いて当然の疑問が泡のようにプカプカ浮かぶ。
しかし最も聞かずにいられないのは、先程から度々口にする名前。
神浜で最初に会った魔法少女であり、チームの纏め役であり、尊敬と信頼を向ける先輩であり、
一人にさせないと約束したあの人。
「教えてください、やちよさんと会ったんですか?」
「でなきゃ、わざわざお前に付いて来たりはしてねぇさ」
「でなきゃ、わざわざお前に付いて来たりはしてねぇさ」
別段誤魔化す意味も無い為、あっさり肯定。
次に気になるのは、どういった状況でやちよと会ったのか。
定時放送の前、それともフェントホープを訪れる直前。
行動を共にしていない理由をいろはが問うのを待たず、薄く色付いた唇が動く。
次に気になるのは、どういった状況でやちよと会ったのか。
定時放送の前、それともフェントホープを訪れる直前。
行動を共にしていない理由をいろはが問うのを待たず、薄く色付いた唇が動く。
「折角顔を合わせたんだ。コーヒーでも飲みながら、ゆっくりお喋りといきたいんだがねぇ。生憎豆も機械も手元にないと来た。檀黎斗も神様を気取るなら気を利かせて欲しいもんだ、だろ?」
「え?えっと……」
「何だよ、女同士のトークは苦手だったか?やちよにもっとお前さんの好みなりを、聞いとけば良かったかもな」
「え?えっと……」
「何だよ、女同士のトークは苦手だったか?やちよにもっとお前さんの好みなりを、聞いとけば良かったかもな」
返答に詰まるもお構いなしで、軽口が飛んで来る。
少なくともいろはの知る魔法少女達に、こういったタイプはいなかったように思う。
気さくな口調で心を開かせる、というのとも異なる。
冗談交じりの態度の裏にどことなく、値踏みするかの不躾な視線を宿らせている気がしてならない。
ちょっとした遊び心で揶揄う八雲みたまと違い、距離を感じる冷たいナニカがあった。
少なくともいろはの知る魔法少女達に、こういったタイプはいなかったように思う。
気さくな口調で心を開かせる、というのとも異なる。
冗談交じりの態度の裏にどことなく、値踏みするかの不躾な視線を宿らせている気がしてならない。
ちょっとした遊び心で揶揄う八雲みたまと違い、距離を感じる冷たいナニカがあった。
「痴れ事を垂れ流し……煙に巻く……それが貴様の魂胆か……?」
気圧され会話の主導権を奪われつつある中、鬼が蛇の独擅場へ待ったを掛ける。
魔族の王の鎧を纏い、素顔は仮面で隠れ見えない。
なれど発する威圧感は健在、サファイアブルーのレンズが小さき体を射抜く。
いろはを庇おうと前に出たつもりはない。
だが毒にも薬にもならない茶飲み話に耳を傾けてやる程、我が身を戦から完全に遠ざけた覚えも無し。
戯れに付き合う気は無いと、刃の如き視線を黒死牟が叩き付ける。
魔族の王の鎧を纏い、素顔は仮面で隠れ見えない。
なれど発する威圧感は健在、サファイアブルーのレンズが小さき体を射抜く。
いろはを庇おうと前に出たつもりはない。
だが毒にも薬にもならない茶飲み話に耳を傾けてやる程、我が身を戦から完全に遠ざけた覚えも無し。
戯れに付き合う気は無いと、刃の如き視線を黒死牟が叩き付ける。
「おいおいそう凄むなって。今のご時世、いい大人がか弱いガキを脅しちゃ通報確定だろ?」
「戯けたことを……童の皮を被った化生が……何をほざく……」
「戯けたことを……童の皮を被った化生が……何をほざく……」
神に囚われた少女の姿を模してるだけではない。
執念で辿り着いた武の境地、透き通る世界を取り繕った外見だけで欺くのは不可能。
小娘の形は見た目だけ、中身は人間どころか如何なる生物とも一致せず。
真紅の騎士や軍服の男と同じ、鬼とは別に人の理から外れた者。
或いは生まれながらに、人ならざる存在として産声を上げたか。
執念で辿り着いた武の境地、透き通る世界を取り繕った外見だけで欺くのは不可能。
小娘の形は見た目だけ、中身は人間どころか如何なる生物とも一致せず。
真紅の騎士や軍服の男と同じ、鬼とは別に人の理から外れた者。
或いは生まれながらに、人ならざる存在として産声を上げたか。
いずれにせよ、天津達のように持ち得る情報を開示するならともかく。
軽口でこちらを煙に巻く気であれば、律儀に相手をしてやる理由は皆無。
怪物同士の視線が交差し、魔法少女が場を宥めようと口を開き掛け、
軽口でこちらを煙に巻く気であれば、律儀に相手をしてやる理由は皆無。
怪物同士の視線が交差し、魔法少女が場を宥めようと口を開き掛け、
「美遊っ!」
駆け寄って来る白い少女へ、言葉を引っ込めざるを得なかった。
「あの子は……」
「思ったよりお早い再会になったな」
「思ったよりお早い再会になったな」
見知らぬ少女の登場にいろはが目を瞬かせる一方で、彼女を知っているような言葉を吐く。
後方へ視線を移せば、慌てて追いかける二人の参加者。
テンプレートな海賊スタイルの男はともかく、特徴的な髪型のもう一人は知っている。
プレイヤー全員が最初の場で慟哭する少年を目にし、自分は数時間前に直接会った。
白い少女共々、こうも早くにまた会うとは思わなかったが。
後方へ視線を移せば、慌てて追いかける二人の参加者。
テンプレートな海賊スタイルの男はともかく、特徴的な髪型のもう一人は知っている。
プレイヤー全員が最初の場で慟哭する少年を目にし、自分は数時間前に直接会った。
白い少女共々、こうも早くにまた会うとは思わなかったが。
その白い少女ことイリヤは、一心不乱に親友の元へ走る。
ダリウスの救済に巻き込まれ、かと思えば神を名乗る狂人に囚われた親友。
どうして会場にいるのだという疑問はあれど、深く考え込むより先に体が動いた。
今だけは同行者達の声も、初対面の顔ぶれもイリヤを止めるには至らない。
目尻に涙を浮かべ堪らず手を伸ばす。
ダリウスの救済に巻き込まれ、かと思えば神を名乗る狂人に囚われた親友。
どうして会場にいるのだという疑問はあれど、深く考え込むより先に体が動いた。
今だけは同行者達の声も、初対面の顔ぶれもイリヤを止めるには至らない。
目尻に涙を浮かべ堪らず手を伸ばす。
「おっと、ハグがお望みってんなら頼みを聞いてやっても良いが……俺相手で良いのか?本物のこいつに知られりゃ、浮気と思われるかもなァ?」
「っ!?」
「っ!?」
触れる寸前で腕を跳ね除け、足に急ブレーキが掛かった。
姿形は自分の記憶にある美遊と、何一つ変わらない。
同じなのはそれだけだ。
美遊はこのような、人を小馬鹿にした話し方なんてしない。
嘲りを隠そうともしない笑みなど、絶対に浮かべない。
何より近付いてようやく分かった。
全身を蛇に巻き付かれ、舌先で首を舐められる捕食寸前に似たおぞましさ。
こんなものを感じさせる存在が、美遊であるなど有り得ない。
姿形は自分の記憶にある美遊と、何一つ変わらない。
同じなのはそれだけだ。
美遊はこのような、人を小馬鹿にした話し方なんてしない。
嘲りを隠そうともしない笑みなど、絶対に浮かべない。
何より近付いてようやく分かった。
全身を蛇に巻き付かれ、舌先で首を舐められる捕食寸前に似たおぞましさ。
こんなものを感じさせる存在が、美遊であるなど有り得ない。
一体何者なのかの答えは、傍らの相棒が呆れと軽蔑を籠めた声で教えてくれた。
『趣味は人それぞれと言いますが、限度があるでしょうに。無駄に敵を作るのがお好きなんですか?エボルトさん』
「そいつは心外ってやつだ。こいつの見た目になったのはお遊びだが、お前らの友達だってのは今初めて知ったからな」
「なっ……」
「そいつは心外ってやつだ。こいつの見た目になったのはお遊びだが、お前らの友達だってのは今初めて知ったからな」
「なっ……」
ルビーが言った名前を知らない筈がない。
エーデルフェルト邸での戦闘に介入し、魔女の頸を落とした地球外生命体。
一応自分達の恩人という立場であれど、信用出来る要素が一つもない男。
仮面ライダーに関する情報を聞く為追いかけたが、美遊の姿になってるのを誰が思い付けるという。
宇宙服に似た装甲とも、コブラのような頭部の異形でもない。
他者の姿を真似られる能力でも持っているからか。
混乱は長く続かず、すぐに怒りへ変わりキッと鋭い目をぶつける。
当の相手は怯む所かヘラヘラ笑い、美遊を馬鹿にされているようで我慢ならない。
エーデルフェルト邸での戦闘に介入し、魔女の頸を落とした地球外生命体。
一応自分達の恩人という立場であれど、信用出来る要素が一つもない男。
仮面ライダーに関する情報を聞く為追いかけたが、美遊の姿になってるのを誰が思い付けるという。
宇宙服に似た装甲とも、コブラのような頭部の異形でもない。
他者の姿を真似られる能力でも持っているからか。
混乱は長く続かず、すぐに怒りへ変わりキッと鋭い目をぶつける。
当の相手は怯む所かヘラヘラ笑い、美遊を馬鹿にされているようで我慢ならない。
「揶揄ったにしても笑えねぇな。胸糞悪いもん見せてくれたからには、相応の礼が返って来るのを知ってるか?」
「人を見下す態度をやめないなら、痛い目見るって忠告した筈だぜ!」
「人を見下す態度をやめないなら、痛い目見るって忠告した筈だぜ!」
美遊とイリヤの関係を聞いた二人の男も、瞳を吊り上げ口々に言う。
片や冷静ながら不快さを隠さず、片や明確な怒りを露わにと違いはある。
しかし抱く思いは同じ。
これ以上イリヤの心を弄ぶなら、タダで済ませる気はない。
片や冷静ながら不快さを隠さず、片や明確な怒りを露わにと違いはある。
しかし抱く思いは同じ。
これ以上イリヤの心を弄ぶなら、タダで済ませる気はない。
「分かった分かった、一旦落ち着けって。ったく、このお嬢ちゃんに関しちゃ冤罪なんだがねぇ」
美遊は士郎だけでなくイリヤの関係者。
初耳でありイリヤを惑わせる意図は無いのだが、言った所で納得しないだろう。
尤も、エボルトにとっては嬉しい誤算でもあった。
つい先程立てた仮説が真実か否か、答えを知ってるかもしれない者が向こうからやって来たのだ。
追々聞くとして、取り敢えず美遊の擬態を解かねば拳が飛ぶに違いない。
仕方ねぇなと呟き自身の細胞を変化、小さな体躯が一瞬で赤い粘液状に崩れる。
秒と掛けずに再構築、聖杯の少女は影も形も見当たらない。
初耳でありイリヤを惑わせる意図は無いのだが、言った所で納得しないだろう。
尤も、エボルトにとっては嬉しい誤算でもあった。
つい先程立てた仮説が真実か否か、答えを知ってるかもしれない者が向こうからやって来たのだ。
追々聞くとして、取り敢えず美遊の擬態を解かねば拳が飛ぶに違いない。
仕方ねぇなと呟き自身の細胞を変化、小さな体躯が一瞬で赤い粘液状に崩れる。
秒と掛けずに再構築、聖杯の少女は影も形も見当たらない。
「こいつなら文句は――」
瞬間、言葉を切り右腕を跳ね上げた。
電光石火と言うに相応しい、必要な動作を数段階すっ飛ばしたとしか思えぬ速さ。
右手に握るは短銃型の変身ツール、トランスチームガン。
単体でも武器として扱え、放つは対象を溶かし貫く高熱硬化弾。
西部劇のガンマン顔負けのクイックドローだがしかし、肝心の引き金を引く締めの動作は行わない。
銃口が睨む先には、イリヤが現れてから沈黙を保った白い鎧。
ステンドグラスを填め込んだ額へ、何故得物を突き付けているのか。
エボルトの首に添えられた、煌めく刀身が何よりの答え。
電光石火と言うに相応しい、必要な動作を数段階すっ飛ばしたとしか思えぬ速さ。
右手に握るは短銃型の変身ツール、トランスチームガン。
単体でも武器として扱え、放つは対象を溶かし貫く高熱硬化弾。
西部劇のガンマン顔負けのクイックドローだがしかし、肝心の引き金を引く締めの動作は行わない。
銃口が睨む先には、イリヤが現れてから沈黙を保った白い鎧。
ステンドグラスを填め込んだ額へ、何故得物を突き付けているのか。
エボルトの首に添えられた、煌めく刀身が何よりの答え。
「幾ら何でも気が短過ぎだろ。カルシウムが足りないなら、ミルクでも探してやろうか?」
美遊の擬態を解いた直後、間近で殺意の爆発が起きた。
肌を焼く激痛にも似た感覚へ、エボルトも無反応ではいられない。
数多の星を狩り培われた戦闘技術により、人外の速度で銃を引き抜いたのだ。
だが一手早く、黒死牟もまた得物へ手を掛けエボルトの頸へと走らせた。
指先すら触れず垂らしていた手を、一体いつ柄に置いたのか。
スタンド使いや仮面ライダーが有する時間停止ではない。
視認不可能と言っても過言でない速さで、魔剣を抜き放ったのである。
肌を焼く激痛にも似た感覚へ、エボルトも無反応ではいられない。
数多の星を狩り培われた戦闘技術により、人外の速度で銃を引き抜いたのだ。
だが一手早く、黒死牟もまた得物へ手を掛けエボルトの頸へと走らせた。
指先すら触れず垂らしていた手を、一体いつ柄に置いたのか。
スタンド使いや仮面ライダーが有する時間停止ではない。
視認不可能と言っても過言でない速さで、魔剣を抜き放ったのである。
ザンバットソードと首の間の隙間は、紙切れ一枚が挟まるかも怪しい。
指の腹で蟻を潰す程度の、ほんのそれだけの力が加われば終わり。
限界寸前で斬首を押し留め、仮面越しに殺気立った瞳で睨み付ける。
黒死牟をこうも怒りで逸らせた理由は、誰の目にも明らか。
指の腹で蟻を潰す程度の、ほんのそれだけの力が加われば終わり。
限界寸前で斬首を押し留め、仮面越しに殺気立った瞳で睨み付ける。
黒死牟をこうも怒りで逸らせた理由は、誰の目にも明らか。
現代日本では滅多に見ない着物姿。
後ろで結び馬の尾のように垂らした黒の長髪。
両耳に付けた、日の出が描かれた耳飾り。
天界の寵愛を受けた人間(ばけもの)、この世でただ一人鬼の始祖を恐怖させた日輪。
神が掌で転がす操り人形、憎たらしくも断ち切れぬ血で結ばれた弟。
継国縁壱に擬態したエボルトの頸を、魔剣が今すぐ斬らせろと訴えていた。
後ろで結び馬の尾のように垂らした黒の長髪。
両耳に付けた、日の出が描かれた耳飾り。
天界の寵愛を受けた人間(ばけもの)、この世でただ一人鬼の始祖を恐怖させた日輪。
神が掌で転がす操り人形、憎たらしくも断ち切れぬ血で結ばれた弟。
継国縁壱に擬態したエボルトの頸を、魔剣が今すぐ斬らせろと訴えていた。
「貴様が……童遊びにもならぬ戯れを……止める気が起きないなら……」
妬んだ。
憎んだ。
常に目障りだった。
幾度となく、死を願った。
心底嫌った。
負の念を両手足の指の数並べても、尚足りない。
憎んだ。
常に目障りだった。
幾度となく、死を願った。
心底嫌った。
負の念を両手足の指の数並べても、尚足りない。
なれど、忘れた事はただの一度もなく。
常に己が内を焼き続けた、永き時を経ても変わらぬ羨望の対象だからこそ。
指先が触れることすら叶わなくとも、背を追うのを止められなかった故に。
常に己が内を焼き続けた、永き時を経ても変わらぬ羨望の対象だからこそ。
指先が触れることすら叶わなくとも、背を追うのを止められなかった故に。
たとえ一時の悪巫山戯に過ぎなかろうと、弟を騙るその愚行に殺意が滾るのを抑えられない。
「頸を落とし……黙らせれば良い……」
弟に姿を変えた化生を殺すのに、躊躇を抱く余地はない。
むしろ縁壱の顔で腐り切った軽口がほざかれるのを待たず、早々に死で以て終わらせたって構わない。
生前ならば、恐らくその通りにしただろう。
一刀で即座に黙らせた筈が、この場においては必要かも分からない警告を先に発した。
相手の口を割る前に殺すのが如何に愚策かを、僅かな理性が訴えているからか。
迷い全てを断ち切れぬ身なれど、自死を選ぶ気が無い以上情報の必要性は理解してるつもりだ。
むしろ縁壱の顔で腐り切った軽口がほざかれるのを待たず、早々に死で以て終わらせたって構わない。
生前ならば、恐らくその通りにしただろう。
一刀で即座に黙らせた筈が、この場においては必要かも分からない警告を先に発した。
相手の口を割る前に殺すのが如何に愚策かを、僅かな理性が訴えているからか。
迷い全てを断ち切れぬ身なれど、自死を選ぶ気が無い以上情報の必要性は理解してるつもりだ。
或いはもう一つ。
自身と化生の発する殺気へ、息を呑む気配が周囲で複数。
今しがた現れた白い小娘の一団だろうが、知ったことではない。
だがそれとは別に、己の後方に立つソレは。
視界に収めずとも脳裏を掠め続ける桜色が、振り返った先にいる事実が。
花を編んで作った鎖となって、魔剣を握る手に絡み付く。
振り払えば散る脆き拘束に過ぎない、なのに引き千切れず捕らえられるがまま。
化生へ向ける殺意とは別に、例えようのない煩わしさで歯が音を立てた。
自身と化生の発する殺気へ、息を呑む気配が周囲で複数。
今しがた現れた白い小娘の一団だろうが、知ったことではない。
だがそれとは別に、己の後方に立つソレは。
視界に収めずとも脳裏を掠め続ける桜色が、振り返った先にいる事実が。
花を編んで作った鎖となって、魔剣を握る手に絡み付く。
振り払えば散る脆き拘束に過ぎない、なのに引き千切れず捕らえられるがまま。
化生へ向ける殺意とは別に、例えようのない煩わしさで歯が音を立てた。
「エボルト、さん」
充満する剣鬼の怒りで、喉に猛烈な痛みを感じる中。
怪物同士の睨み合いに割って入り、殺伐とした空気を鎮めんとする声があった。
喉を震わせ叫んだのではない、ただ一言名を読んだ。
横目で見やる星狩りから、いろはは目を逸らさない。
怪物同士の睨み合いに割って入り、殺伐とした空気を鎮めんとする声があった。
喉を震わせ叫んだのではない、ただ一言名を読んだ。
横目で見やる星狩りから、いろはは目を逸らさない。
ああと、こうして近くでその顔を見たから思うのだ。
外見だけ真似た所で、やはりここにいるのは縁壱ではない。
彼について全てを知ってはいない。
怒気交じりに、ほんの少し教えてもらっただけ。
それでも、弟の事で兄が心を掻き毟る姿を見たから。
外見だけ真似た所で、やはりここにいるのは縁壱ではない。
彼について全てを知ってはいない。
怒気交じりに、ほんの少し教えてもらっただけ。
それでも、弟の事で兄が心を掻き毟る姿を見たから。
「もうやめてください。縁壱さんも美遊ちゃんも、あなたが誰かを傷付ける為にいるんじゃありません」
どれだけ手を伸ばしても届かない痛みを、いろはは知っている。
再会を強く願っても決して叶わない現実に、頬を濡らして来たから。
たとえ意図したものでなくても、心へ唾を吐きかける行為に黙ってはいられない。
再会を強く願っても決して叶わない現実に、頬を濡らして来たから。
たとえ意図したものでなくても、心へ唾を吐きかける行為に黙ってはいられない。
「……ま、おふざけも程々にしなきゃ困るのは俺の方か」
『自覚してるんなら、今からでも真面目になるのをオススメしますよー』
「性分なんでな。死んでも治らないもんだと思って、諦めてくれ」
『自覚してるんなら、今からでも真面目になるのをオススメしますよー』
「性分なんでな。死んでも治らないもんだと思って、諦めてくれ」
人間の小娘の言葉に揺り動かされるなら、地球に潜伏した10年の間に心を入れ替えている。
お説教が利いたのでないが、おちょくるのも大概にせねばなるまい。
分かっていても皮肉や軽口が飛ぶのは、ルビーに言ったのが全て。
ともかく、詳しい関係は不明だが自分は黒死牟の地雷を踏んだらしい。
警告は最初で最後、いつ戦闘になってもおかしくない。
銃を下ろし、最も馴染み深い石動惣一に擬態。
桜ノ館中学前に集まった面々には、初めて見せる姿だ。
お説教が利いたのでないが、おちょくるのも大概にせねばなるまい。
分かっていても皮肉や軽口が飛ぶのは、ルビーに言ったのが全て。
ともかく、詳しい関係は不明だが自分は黒死牟の地雷を踏んだらしい。
警告は最初で最後、いつ戦闘になってもおかしくない。
銃を下ろし、最も馴染み深い石動惣一に擬態。
桜ノ館中学前に集まった面々には、初めて見せる姿だ。
「これなら文句ねぇだろ?俺なりに多少は反省してるんだ、お前らの前じゃこいつの見た目のままでいるさ」
「……」
「……」
姿が変わろうと、神経を逆撫でする態度は健在。
いらぬ遊びでこちらを掻き回し、頭を沸騰させた化生をこのまま斬りたい気持ちが無いとは言わない。
されど向こうは縁壱ではない男の皮を新たに被り、得物を懐に納めた。
無駄な遊びを繰り返した挙句、膨れ上がった殺意をぶつける空気も削ぐとは。
まっこと不愉快極まる相手に低く唸り声を漏らし、ザンバットソードを首から離す。
いらぬ遊びでこちらを掻き回し、頭を沸騰させた化生をこのまま斬りたい気持ちが無いとは言わない。
されど向こうは縁壱ではない男の皮を新たに被り、得物を懐に納めた。
無駄な遊びを繰り返した挙句、膨れ上がった殺意をぶつける空気も削ぐとは。
まっこと不愉快極まる相手に低く唸り声を漏らし、ザンバットソードを首から離す。
「おっかないったらねぇな、まったく」
刀身が触れた箇所を擦りつつ、改めて集まった面々を見回す。
友好的なものが一つも存在しないのは、別に良い。
仲良しこよしで友情を築く気はない、だがいい加減真面目に話を進める頃合いか。
友好的なものが一つも存在しないのは、別に良い。
仲良しこよしで友情を築く気はない、だがいい加減真面目に話を進める頃合いか。
「さて、と。ちょっとしたアクシデントもあったが、お互いちゃんと話した方が良いだろ」
『なんか纏め役っぽいこと言ってますけど、そもそもあなたが原因ですからね?』
「それを言うなって。トラブルメーカー同士、少しは肩を持ってくれよ」
『失礼な!あなた程悪趣味じゃありません!一緒にナレーションやったくらいで心を許す軽い女と思ってるなら、そりゃ大間違いですよ!』
「冷たいねぇ。声の仕事が得意な仲だろ?」
『なんか纏め役っぽいこと言ってますけど、そもそもあなたが原因ですからね?』
「それを言うなって。トラブルメーカー同士、少しは肩を持ってくれよ」
『失礼な!あなた程悪趣味じゃありません!一緒にナレーションやったくらいで心を許す軽い女と思ってるなら、そりゃ大間違いですよ!』
「冷たいねぇ。声の仕事が得意な仲だろ?」
話が拗れた10割の原因だと自覚しつつ、何でも無いようにあっさり切り替えた。
さしものルビーも呆れを隠せないが、当のエボルトはどこ吹く風。
彼らだけにしか伝わらない内容を話す両者へ、周りの者も微妙な顔を作る。
さしものルビーも呆れを隠せないが、当のエボルトはどこ吹く風。
彼らだけにしか伝わらない内容を話す両者へ、周りの者も微妙な顔を作る。
「二人共何のことを言ってるの……?」
「ルビーが素っ頓狂な事を言い出すのは珍しくないから、深く考えなくて良いと思います……」
「そ、そうなんだ」
「ルビーが素っ頓狂な事を言い出すのは珍しくないから、深く考えなくて良いと思います……」
「そ、そうなんだ」
どこか遠い目で言うイリヤに軽く困惑し、自己紹介もしないままつい言葉を交わした相手に向き合う。
インキュベーターとカレイドステッキ、異なる契約を結んだ魔法少女達。
妹と姉、半身をそれぞれ喪った両者だが現時点では互いの名前も知らない。
まずは基本的なことからと名乗り合う。
インキュベーターとカレイドステッキ、異なる契約を結んだ魔法少女達。
妹と姉、半身をそれぞれ喪った両者だが現時点では互いの名前も知らない。
まずは基本的なことからと名乗り合う。
「嬢ちゃん同士打ち解けんのが早ぇな。俺らも倣って自己紹介くらいやっとくか?」
「……」
「……」
いろは達の様子を横目に、蛇王院が話しかけたのは白い鎧の参加者。
未だ素顔を見せぬ男は言葉無く、青いレンズを二人に向ける。
襲って来る気配は見られないが、相応に緊張感を抱く相手だ。
因縁深いホーリーフレイムとの抗争を始め、各勢力とぶつかり合った蛇王院。
ブルーアイズを巡る海馬とのデュエルに始まり、数多の強敵に打ち勝った遊戯。
戦いの舞台は異なるも歴戦の強者である彼らをして、今しがたの強烈な殺気に自然と身構えたのも無理からぬ反応。
とはいえそこはスカルサーペント総長と、初代決闘王。
及び腰の姿勢にはならず、堂々とした態度で相手との対話を望む。
未だ素顔を見せぬ男は言葉無く、青いレンズを二人に向ける。
襲って来る気配は見られないが、相応に緊張感を抱く相手だ。
因縁深いホーリーフレイムとの抗争を始め、各勢力とぶつかり合った蛇王院。
ブルーアイズを巡る海馬とのデュエルに始まり、数多の強敵に打ち勝った遊戯。
戦いの舞台は異なるも歴戦の強者である彼らをして、今しがたの強烈な殺気に自然と身構えたのも無理からぬ反応。
とはいえそこはスカルサーペント総長と、初代決闘王。
及び腰の姿勢にはならず、堂々とした態度で相手との対話を望む。
男達の顔を仮面越しに見つめ、ややあって黒死牟は思い出す。
片方は一番最初の空間、磯野なる人間が屠り合いの宣言を行った場で発言を許された少年である。
頭を吹き飛ばされた別の少年が名を口にしており、自分のみならず全ての参加者の知るところ。
ついでに言うなら、本田以外の者からも遊戯の名は聞いている。
片方は一番最初の空間、磯野なる人間が屠り合いの宣言を行った場で発言を許された少年である。
頭を吹き飛ばされた別の少年が名を口にしており、自分のみならず全ての参加者の知るところ。
ついでに言うなら、本田以外の者からも遊戯の名は聞いている。
「不動が信を置く札使いとは……お前か……」
「遊星くんと会ったのか!?」
「こいつは流石に予想してなかったな……」
「遊星くんと会ったのか!?」
「こいつは流石に予想してなかったな……」
まさかその名が出るとは思わず、驚きを露わに聞き返す。
驚愕は蛇王院も同じだ、合流前に遊星の動向を知る者と接触が叶った。
行動を共にしていないのが気になるが、そこも含めて詳しく聞かねばなるまい。
とっつき辛い相手であるも、仲間と会ってる以上はキッチリ話してもらう。
驚愕は蛇王院も同じだ、合流前に遊星の動向を知る者と接触が叶った。
行動を共にしていないのが気になるが、そこも含めて詳しく聞かねばなるまい。
とっつき辛い相手であるも、仲間と会ってる以上はキッチリ話してもらう。
「丁度良い場所の前に全員集まったんだ、お喋りの続きは中でやったの方が良いだろ」
「胡散臭いエイリアン野郎に同意するのは癪だが、ここで話し込んでも悪目立ちするだけだな」
「胡散臭いエイリアン野郎に同意するのは癪だが、ここで話し込んでも悪目立ちするだけだな」
正論だが余計なトラブルの元でもあるエボルトへ、蛇王院から辛辣な声が飛ぶ。
言われた当人はわざとらしく肩を竦め、全く懲りた様子がない。
ただ提案に反対する者はおらず、直ぐ近くの施設へ入って行く。
数時間前にカイザーインサイト一行が訪れた桜ノ館中学は、新たな来訪者達を招き入れた。
言われた当人はわざとらしく肩を竦め、全く懲りた様子がない。
ただ提案に反対する者はおらず、直ぐ近くの施設へ入って行く。
数時間前にカイザーインサイト一行が訪れた桜ノ館中学は、新たな来訪者達を招き入れた。
馬鹿正直に内履きを探し履き替える者はおらず、土足を咎める者も皆無。
生徒用の玄関を通り、廊下を進み数分。
見付けた図書室を情報開示の場に決め、先頭のエボルトが引き戸を開ける。
学校に置いてある本特有の、何とも言えぬ匂いが漂う。
殺し合いには何の意味も無い、こういった細部の再現まで拘ったらしい。
その情熱の向かう先がゲームと称する悪辣な殺戮では、素直に褒める者もいないが。
生徒用の玄関を通り、廊下を進み数分。
見付けた図書室を情報開示の場に決め、先頭のエボルトが引き戸を開ける。
学校に置いてある本特有の、何とも言えぬ匂いが漂う。
殺し合いには何の意味も無い、こういった細部の再現まで拘ったらしい。
その情熱の向かう先がゲームと称する悪辣な殺戮では、素直に褒める者もいないが。
(懐かしい、な……)
自分の通っていた穂群原学園ではないが、図書室の空気はイリヤにも覚えがある。
特別な思い出じゃない、取るに足らない日常の一幕。
とっくに覚悟は決まっており、過去へ飛んだ選択に後悔はない。
僅かに漏れ出た心の雫を拭い、今やらなきゃならない戦いへ意識を戻す。
特別な思い出じゃない、取るに足らない日常の一幕。
とっくに覚悟は決まっており、過去へ飛んだ選択に後悔はない。
僅かに漏れ出た心の雫を拭い、今やらなきゃならない戦いへ意識を戻す。
本棚の並ぶ空間へ足を踏み入れる中、振り向き一点を睨む者がいた。
「新手、か……」
「え、黒死牟さん?」
「え、黒死牟さん?」
校内に参加者が訪れたと、即座に分かった。
竈門炭治郎や我妻善逸のような、先天性の優れた五感に非ず。
人間時代より戦の渦中に身を置き、数百年かけて研ぎ澄まされた感覚。
始祖の血が齎す、人の限界を容易く見下ろす五感機能。
此度はそれらに加え、サガの情報収集器官装置が稼働している。
一人分の足音が何処から響き、闘争を終えた証の血の臭いまでもを正確に捉えた。
尤も、サガの鎧を纏わずとも侵入を察するのは難しくない。
竈門炭治郎や我妻善逸のような、先天性の優れた五感に非ず。
人間時代より戦の渦中に身を置き、数百年かけて研ぎ澄まされた感覚。
始祖の血が齎す、人の限界を容易く見下ろす五感機能。
此度はそれらに加え、サガの情報収集器官装置が稼働している。
一人分の足音が何処から響き、闘争を終えた証の血の臭いまでもを正確に捉えた。
尤も、サガの鎧を纏わずとも侵入を察するのは難しくない。
『むむ?』
「っと、タイミングが悪いな」
「っと、タイミングが悪いな」
図書室前に集まった6人以外の者の気配に、他の数人も気付く。
幾つかの制限を課せられたが、ルビーの優れた探知機能は誤魔化せない。
特体生として超常の能力を持ち、尚且つ魔界孔出現後の日本で否応なしに危機察知能力が磨き上げられた蛇王院も同様。
中途半端に気配を隠したとて、気付かれないと思ったら大間違い。
幾つかの制限を課せられたが、ルビーの優れた探知機能は誤魔化せない。
特体生として超常の能力を持ち、尚且つ魔界孔出現後の日本で否応なしに危機察知能力が磨き上げられた蛇王院も同様。
中途半端に気配を隠したとて、気付かれないと思ったら大間違い。
「ルビー、誰か来たの?」
『みたいですねー。何やら変わった反応をお持ちのようですけど』
「ま、その辺の家よりは目立つからな。立ち寄ってもおかしくねぇか」
『みたいですねー。何やら変わった反応をお持ちのようですけど』
「ま、その辺の家よりは目立つからな。立ち寄ってもおかしくねぇか」
参加者の誰かに馴染みのある学校なのか。
そうでなくとも、保健室なりで物資調達をしに来る者がいても不思議はない。
問題は来訪者のスタンスが、自分達と相容れるか否か。
さてどうするかと話し合う前に、黒死牟は一人踵を返す。
そうでなくとも、保健室なりで物資調達をしに来る者がいても不思議はない。
問題は来訪者のスタンスが、自分達と相容れるか否か。
さてどうするかと話し合う前に、黒死牟は一人踵を返す。
ファンガイアの王の鎧は相応の力と、日除けの加護を鬼に授ける。
しかし必要に迫られなければ、積極的に活用する気は無し。
慣れぬ着心地は、却って黒死牟を縛る拘束具にもなり兼ねない。
であれば、日の当たらぬ屋内での解除は至極当然。
資格者の意志に従い、サガークが離れ霞のように鎧は消え去った。
しかし必要に迫られなければ、積極的に活用する気は無し。
慣れぬ着心地は、却って黒死牟を縛る拘束具にもなり兼ねない。
であれば、日の当たらぬ屋内での解除は至極当然。
資格者の意志に従い、サガークが離れ霞のように鎧は消え去った。
「っ!」
露わとなる、古風な着物を纏った侍。
人の形を保ちながらも、人では有り得ぬ三対六つの眼。
複数人の強張る気配を察するが、感じ入るものは毛先程もない。
背に声が掛けられるのを呑気に待たず、姿の見えぬ侵入者の元へ足早に向かって行く。
人の形を保ちながらも、人では有り得ぬ三対六つの眼。
複数人の強張る気配を察するが、感じ入るものは毛先程もない。
背に声が掛けられるのを呑気に待たず、姿の見えぬ侵入者の元へ足早に向かって行く。
「行っちゃった…」
『まあパーティに一匹狼系の殿方が混じってるのも、ある意味お約束ですよ』
「それってフォローのつもりなの…?」
『まあパーティに一匹狼系の殿方が混じってるのも、ある意味お約束ですよ』
「それってフォローのつもりなの…?」
相棒の惚けた発言は置いておき、有無を言わさぬ口調にイリヤも何か言うタイミングを失った。
冥王やうさぎなど、人でない参加者とは既に顔を合わせている。
ルビーと(合意なしに)契約を結ぶ前ならまだしも、今更大概の事で動じる少女でもない。
とはいえやはり、抜き身の妖刀染みた威圧感には相応の緊張があるわけで。
冥王やうさぎなど、人でない参加者とは既に顔を合わせている。
ルビーと(合意なしに)契約を結ぶ前ならまだしも、今更大概の事で動じる少女でもない。
とはいえやはり、抜き身の妖刀染みた威圧感には相応の緊張があるわけで。
「アイツに任せても良いが、あの口下手っぷりで誰彼構わずバッサリ!なんてならなきゃいいんだがなァ」
「黒死牟さんはそんなこと……」
「黒死牟さんはそんなこと……」
冗談めかして言うエボルトに、いろはは思わずムッとして反論。
そんなことしないと言い切る筈が、ふと思い出す。
定時放送の前、病院で自分が寝ている間に何があったかを。
あっけらかんとする結芽と反対に、疲れたような姿のキャルを。
エボルトの言うような、見境なしに剣を向ける男ではない。
けれど万が一、あらぬ誤解を受けてしまうんじゃないかと言われたら――
そんなことしないと言い切る筈が、ふと思い出す。
定時放送の前、病院で自分が寝ている間に何があったかを。
あっけらかんとする結芽と反対に、疲れたような姿のキャルを。
エボルトの言うような、見境なしに剣を向ける男ではない。
けれど万が一、あらぬ誤解を受けてしまうんじゃないかと言われたら――
「あ、あの!わたしも黒死牟さんを追い掛けます!」
大丈夫と信じたい反面、前例があるだけに一度浮かんだ心配はなくならず。
皆にそう言い、いろはもまた背を向け走り出した。
皆にそう言い、いろはもまた背を向け走り出した。
『めんどくさい年上に尽くすタイプな気がしますね、いろはさんって』
「急に何の話!?」
「急に何の話!?」
◆◆◆
一人だった。
民家内の気配も、微かに耳を震わせる呼吸の音も。
自分自身以外に存在しない。
ゲーム開始直後以来二度目となる、一人きりの時間で橘朔也は身を休ませていた。
民家内の気配も、微かに耳を震わせる呼吸の音も。
自分自身以外に存在しない。
ゲーム開始直後以来二度目となる、一人きりの時間で橘朔也は身を休ませていた。
ガラスに映った姿をじっと見つめる。
つい昨日まで当たり前にあった己の体は、どこにも見当たらない。
アメジストの瞳と二つに結んだ長髪。
不死の生物との戦いを通じ鍛えられた体はなく、細身ながら少女特有の柔らかさも備えた肢体。
窓を挟んだ向こう側に立っているんじゃあない、正真正銘これが今の橘だ。
つい昨日まで当たり前にあった己の体は、どこにも見当たらない。
アメジストの瞳と二つに結んだ長髪。
不死の生物との戦いを通じ鍛えられた体はなく、細身ながら少女特有の柔らかさも備えた肢体。
窓を挟んだ向こう側に立っているんじゃあない、正真正銘これが今の橘だ。
この世を去った少女をハッキリ見れるのに、本人はここにいない。
不思議な感覚へ、寂しさが全く無いと言えば嘘になる。
別れはとうに済ませた。
一度目は届かぬ手に嘆くしかなく、二度目は言えなかった「さよなら」を確かに伝えて。
天々座理世は橘の元を去ったが、想いは形として残り続ける。
不思議な感覚へ、寂しさが全く無いと言えば嘘になる。
別れはとうに済ませた。
一度目は届かぬ手に嘆くしかなく、二度目は言えなかった「さよなら」を確かに伝えて。
天々座理世は橘の元を去ったが、想いは形として残り続ける。
「仇を討ったとしても……」
殺された人間が生き返る訳ではない。
恐怖心に惑い迷走の末に、小夜子を伊坂の手から守れなかった時と同じだ。
カテゴリージャックを封印しても、最愛の恋人が戻って来ないように。
リゼがひょっこり顔を出し、自分の名前をもう一度呼ぶ奇跡は起きない。
恐怖心に惑い迷走の末に、小夜子を伊坂の手から守れなかった時と同じだ。
カテゴリージャックを封印しても、最愛の恋人が戻って来ないように。
リゼがひょっこり顔を出し、自分の名前をもう一度呼ぶ奇跡は起きない。
復讐を果たした後に訪れる虚しさは皆無に非ず、なれど思考放棄へ逃げるつもりは微塵もない。
他ならぬリゼ自身が言ったじゃあないか。
橘達を生かす為に命を散らす選択を、後悔してはいないと。
誰かに強要されのではない、自暴自棄でどうでもよくなったんじゃない。
あれで良かった、最高の師匠を守れた自身の選択で落ち込まないで欲しい。
慰めや誤魔化しとは違う弟子の本心を告げられて尚、後ろ向きで腐っている責任感を忘れた男にはなれなかった。
他ならぬリゼ自身が言ったじゃあないか。
橘達を生かす為に命を散らす選択を、後悔してはいないと。
誰かに強要されのではない、自暴自棄でどうでもよくなったんじゃない。
あれで良かった、最高の師匠を守れた自身の選択で落ち込まないで欲しい。
慰めや誤魔化しとは違う弟子の本心を告げられて尚、後ろ向きで腐っている責任感を忘れた男にはなれなかった。
(放送でリゼが言っていた友達は呼ばれなかったか……)
精神的な消耗に加え、間髪入れずに起こった海神との死闘。
目まぐるしく変化する戦場へ考える暇も無かったが、ようやっと落ち着き意識を回す余裕も生まれる。
何故か二つ名前が記載されたココアを含め、リゼの友人達は無事。
専用武器があるとはいえ元々一般人のリゼ同様、本来は戦う術を持たない少女達。
仮面ライダーの自分でさえ苦戦を免れない環境で、運良く6時間危機から逃れたとは考え辛い。
信頼出来る参加者と出会えたのだろうと、今更ながらにホッと胸を撫で下ろす。
可能ならば二回目の定時放送まで発見ないし、せめて何らかの情報が得られるのを願いたい。
手遅れとなり、リゼに誓った決意を嘘にする気はないのだから。
目まぐるしく変化する戦場へ考える暇も無かったが、ようやっと落ち着き意識を回す余裕も生まれる。
何故か二つ名前が記載されたココアを含め、リゼの友人達は無事。
専用武器があるとはいえ元々一般人のリゼ同様、本来は戦う術を持たない少女達。
仮面ライダーの自分でさえ苦戦を免れない環境で、運良く6時間危機から逃れたとは考え辛い。
信頼出来る参加者と出会えたのだろうと、今更ながらにホッと胸を撫で下ろす。
可能ならば二回目の定時放送まで発見ないし、せめて何らかの情報が得られるのを願いたい。
手遅れとなり、リゼに誓った決意を嘘にする気はないのだから。
「…っ!あれは……」
考え込むのに俯いていた顔を上げ、何となしに窓の外へ目をやる。
丁度そのタイミングだ、奇妙な飛行物体が一瞬見えたのは。
丁度そのタイミングだ、奇妙な飛行物体が一瞬見えたのは。
心意システムの影響で橘に起きた変化は、リゼの姿になっただけではない。
外見こそ学生生活を謳歌する少女でも、秘め得る力は常人の枠には収まらない。
仮面ライダーギャレンと同等のスペックを、生身で発揮可能。
パワーや走力のみならず、五感もまた超人の領域へ押し上げられた。
元々橘はバッティングセンターのボールに書かれた数字を正確に見れる程、優れた動体視力の持ち主。
そこへ加えて、オーガンスコープと呼ばれる高機能な視覚センサーと同等の力を得ている。
通常肉眼では捉えられない存在も、微かだが見る事が出来たのだ。
外見こそ学生生活を謳歌する少女でも、秘め得る力は常人の枠には収まらない。
仮面ライダーギャレンと同等のスペックを、生身で発揮可能。
パワーや走力のみならず、五感もまた超人の領域へ押し上げられた。
元々橘はバッティングセンターのボールに書かれた数字を正確に見れる程、優れた動体視力の持ち主。
そこへ加えて、オーガンスコープと呼ばれる高機能な視覚センサーと同等の力を得ている。
通常肉眼では捉えられない存在も、微かだが見る事が出来たのだ。
「ドラゴン、か?海馬やジャックのカードにあったのとは違うようだが」
長い胴体で空中を泳ぐ、未知の巨大生物。
やれUMAだ軍の秘密兵器だとメディアが騒ぎ、白井虎太郎が見たら新作のネタとはしゃぐだろう。
残念ながらここは殺し合いの場であり、巨大な怪物も然して珍しくない。
おまけにハッキリと姿を確認出来てはいないが、巨大生物の背に人らしき者が乗っているようにも見えたのだ。
やれUMAだ軍の秘密兵器だとメディアが騒ぎ、白井虎太郎が見たら新作のネタとはしゃぐだろう。
残念ながらここは殺し合いの場であり、巨大な怪物も然して珍しくない。
おまけにハッキリと姿を確認出来てはいないが、巨大生物の背に人らしき者が乗っているようにも見えたのだ。
「まさか、さっきの俺達のように逃げているのか?」
触手を操る怪物の追跡を振り払う為に、列車型のモンスターに乗り込んだのは記憶に新しい。
そういった目的でドラゴン(仮)を駆る可能性も、絶対ないとは言い切れない。
ひょっとすればリゼの友人達が乗っているかもしれないのを、どうして否定出来ようか。
そういった目的でドラゴン(仮)を駆る可能性も、絶対ないとは言い切れない。
ひょっとすればリゼの友人達が乗っているかもしれないのを、どうして否定出来ようか。
再び橘は考え込む姿勢を取る。
腕組し難しい顔を作る姿はリゼそのものだと、見てそう思う彼女の友人達は民家におらず。
どう動くかに頭を悩ませた。
リゼの仇相手に最悪の場合は、相討ちに持ち込む覚悟だったが無事生き延びた。
但し流石に無傷とはいかず、コンディションを考えればもう少し体力回復に充てるのが正しい。
何が待ち受けているか分からないのに、考え無しに飛び込んで良いものか。
腕組し難しい顔を作る姿はリゼそのものだと、見てそう思う彼女の友人達は民家におらず。
どう動くかに頭を悩ませた。
リゼの仇相手に最悪の場合は、相討ちに持ち込む覚悟だったが無事生き延びた。
但し流石に無傷とはいかず、コンディションを考えればもう少し体力回復に充てるのが正しい。
何が待ち受けているか分からないのに、考え無しに飛び込んで良いものか。
(だがこんな時剣崎なら、迷わず向かう筈だ)
合理的な考えを優先した結果、助けられた筈の手を掴めない。
そんな後悔をしない為に、後輩であり尊敬する仲間がどう動くかは分かり切ったものだ。
馬鹿になれと、一人の男が言い遺した言葉を思い出す。
考え無しに動き回る無鉄砲になる気はないが、ほんの少し無茶をやる馬鹿にはなって良いのかもしれない。
そんな後悔をしない為に、後輩であり尊敬する仲間がどう動くかは分かり切ったものだ。
馬鹿になれと、一人の男が言い遺した言葉を思い出す。
考え無しに動き回る無鉄砲になる気はないが、ほんの少し無茶をやる馬鹿にはなって良いのかもしれない。
行き先を決めた以上、動くのに躊躇は必要無い。
頷き立ち上がると、民家を出てドラゴン(仮)が見えた方へ走る。
出発し数分、橘はすぐに自分の体が如何なる状態かを悟った。
リゼ専用の槍を使ってないにも関わらず、足が異様に速い。
試しに速度を数段上げてみれば、どう考えても普通の人間が出せないだろう速さを叩き出す。
頷き立ち上がると、民家を出てドラゴン(仮)が見えた方へ走る。
出発し数分、橘はすぐに自分の体が如何なる状態かを悟った。
リゼ専用の槍を使ってないにも関わらず、足が異様に速い。
試しに速度を数段上げてみれば、どう考えても普通の人間が出せないだろう速さを叩き出す。
(バックルが突然消えたのはこういう事だったのか…!)
詳しい原理は不明だが、生身でギャレンと同じ力を発揮出来るらしい。
考えてみれば動体視力に自信があるからといって、遠く離れた位置のドラゴン(仮)を見れるのも普通は有り得ない。
リゼが聞いたら、「今気付くのか」と天然加減へ呆れ笑いを浮かべたろう。
考えてみれば動体視力に自信があるからといって、遠く離れた位置のドラゴン(仮)を見れるのも普通は有り得ない。
リゼが聞いたら、「今気付くのか」と天然加減へ呆れ笑いを浮かべたろう。
橋を渡って北上、隣接したエリアに到着。
暫く進むと見えたのは、点在する民家よりも目を引く建造物。
独自の佇まいから学び舎と即座に分かり、ご丁寧に学校名の書かれた校門まである。
モンスターに乗った者が近辺へ降りたとすれば、最も目立つ施設を無視するだろうか。
仮に負傷していたら手当の為に、保健室へ向かう可能性は低くない。
暫く進むと見えたのは、点在する民家よりも目を引く建造物。
独自の佇まいから学び舎と即座に分かり、ご丁寧に学校名の書かれた校門まである。
モンスターに乗った者が近辺へ降りたとすれば、最も目立つ施設を無視するだろうか。
仮に負傷していたら手当の為に、保健室へ向かう可能性は低くない。
(行って確かめなければ始まらないな)
銃と槍、二つの得物を意識しながら校舎内へ入る。
念の為に不意打ちを警戒し、可能な限り気配を殺して進む。
少年少女が青春を送る場の賑やかさはなく、まるでホラー映画さながらの不気味さが漂う。
場合によってはいつ襲われてもおかしくない状況に、自然と表情も険しさを増す。
念の為に不意打ちを警戒し、可能な限り気配を殺して進む。
少年少女が青春を送る場の賑やかさはなく、まるでホラー映画さながらの不気味さが漂う。
場合によってはいつ襲われてもおかしくない状況に、自然と表情も険しさを増す。
「――――っ!?」
静寂は前触れなく終わりを告げ、橘の警戒心が一気に引き上げられた。
音もなく、しかし無視出来ない存在感を伴い現れる異形。
光の差し込まない寒々とした廊下の奥より、凡そ学び舎には釣り合いな者が顔を見せる。
嫌悪と恐怖を共に植え付ける、剣鬼の眼が橘を射抜く。
愚かにも腹を空かせた怪物の素巣へ、自ら飛び込んだとの錯覚を抱いた。
音もなく、しかし無視出来ない存在感を伴い現れる異形。
光の差し込まない寒々とした廊下の奥より、凡そ学び舎には釣り合いな者が顔を見せる。
嫌悪と恐怖を共に植え付ける、剣鬼の眼が橘を射抜く。
愚かにも腹を空かせた怪物の素巣へ、自ら飛び込んだとの錯覚を抱いた。
「お前、は……」
喉奥から這い出るここ数時間で聞き慣れた、喪った二人目の弟子の声。
酷く乾いて聞こえるのは、それだけ自身の緊張が大きい証拠。
何も相手が人間でないからというだけで、ここまで極端に警戒を強めない。
アンデッドとの戦いを思えば、今になって人ならざる存在を強く恐れる弱者に非ず。
加えて先の冥王のように人間以外との共闘も経た以上、人じゃない参加者と必ずしも敵対するとは限らない。
理解して尚戦慄を隠せない理由はただ一つ、相手の纏う気配に近しい者を知っているから。
酷く乾いて聞こえるのは、それだけ自身の緊張が大きい証拠。
何も相手が人間でないからというだけで、ここまで極端に警戒を強めない。
アンデッドとの戦いを思えば、今になって人ならざる存在を強く恐れる弱者に非ず。
加えて先の冥王のように人間以外との共闘も経た以上、人じゃない参加者と必ずしも敵対するとは限らない。
理解して尚戦慄を隠せない理由はただ一つ、相手の纏う気配に近しい者を知っているから。
外見は全く違う。
記憶に根付くソレは色を無くした髪だった、瞳の数は人間同様に二つだけ。
文字と漢数字を浮かばせてもいなかった。
似ても似つかない、しかし無関係と言い切るには己の中で待ったが掛かる。
積み上げた文化を気まぐれで蹂躙し素知らぬ顔で去って行く、天災もかくやの化け物。
バッティングセンターでの平和な時間に、望まぬ形で幕を下ろした男。
リゼの仇であり、今さっき討った名も知らぬ怪物をどういう訳か想起させるのだ。
記憶に根付くソレは色を無くした髪だった、瞳の数は人間同様に二つだけ。
文字と漢数字を浮かばせてもいなかった。
似ても似つかない、しかし無関係と言い切るには己の中で待ったが掛かる。
積み上げた文化を気まぐれで蹂躙し素知らぬ顔で去って行く、天災もかくやの化け物。
バッティングセンターでの平和な時間に、望まぬ形で幕を下ろした男。
リゼの仇であり、今さっき討った名も知らぬ怪物をどういう訳か想起させるのだ。
「……」
互いに無言で相手を見据える中、施設を訪れた時以上に得物を意識せざるを得ない。
研究職であった橘がギャレンの適正者に選ばれたのは、人選の適当な穴埋めなんかじゃあない。
上級アンデッドや仮面ライダーレンゲル相手に、スペックで差を開けられても勝利を奪える強さ。
類稀なバトルセンスの持ち主だからに他ならない。
変身後と同等のスペックを発揮可能な今、培った技術をフルに活かし先手を取れる筈。
相手が刀を引き抜く速さを追い越し、ギャレンラウザーで撃ち落とせる。
研究職であった橘がギャレンの適正者に選ばれたのは、人選の適当な穴埋めなんかじゃあない。
上級アンデッドや仮面ライダーレンゲル相手に、スペックで差を開けられても勝利を奪える強さ。
類稀なバトルセンスの持ち主だからに他ならない。
変身後と同等のスペックを発揮可能な今、培った技術をフルに活かし先手を取れる筈。
相手が刀を引き抜く速さを追い越し、ギャレンラウザーで撃ち落とせる。
(……いや、難しいか)
事がこちらの有利で進む光景を、橘自身が否定し打ち消す。
自分と相手には距離が開き、向こうの剣が届くには十数歩足りない。
だというのに多少の有利を一瞬で覆し、瞬きを終えた直後に喉元を切っ先が突き刺したとておかしくはない。
剣崎も認める一流の戦士だからこそ分かる、男の前に立った時点で間合いに閉じ込められたも同然だと。
自分と相手には距離が開き、向こうの剣が届くには十数歩足りない。
だというのに多少の有利を一瞬で覆し、瞬きを終えた直後に喉元を切っ先が突き刺したとておかしくはない。
剣崎も認める一流の戦士だからこそ分かる、男の前に立った時点で間合いに閉じ込められたも同然だと。
恐怖心をとっくに克服し、アンデッドとの戦いを終えた橘なら会話での戦闘回避も冷静に考えられたろう。
だがリゼの命を奪った怪物の脅威を、身を以て味合わされたが為に。
相手の反応を待たずして警戒心が上がり続け、思考は剣呑な方向へと向かったまま。
気付かぬ内に、戦いが起きる前提に傾かせる橘をどう思ったか。
沈黙を保った異形の侍が初めて口を開き掛け、
だがリゼの命を奪った怪物の脅威を、身を以て味合わされたが為に。
相手の反応を待たずして警戒心が上がり続け、思考は剣呑な方向へと向かったまま。
気付かぬ内に、戦いが起きる前提に傾かせる橘をどう思ったか。
沈黙を保った異形の侍が初めて口を開き掛け、
「待ってください!」
後方より発せられた少女の声に、爆発寸前の空気が鎮静化の兆しを見せた。
橘が驚く一方で、侍は心なしか不機嫌そうに口を噤む。
橘が驚く一方で、侍は心なしか不機嫌そうに口を噤む。
黒死牟を追い掛けて来たいろはが見たのは、穏やかじゃない様子で睨み合う男と少女。
変身せずとも魔力を操作し、身体能力を上げたのが功を為し間に合った。
夜中に水名神社を調査した時、高く聳える正門を一跳びで追い越したのと同じ方法だ。
それはともかく、まず先に言わねばならない事がある。
背に向けられる視線に気付きつつも、少女へ向けて口を開く。
変身せずとも魔力を操作し、身体能力を上げたのが功を為し間に合った。
夜中に水名神社を調査した時、高く聳える正門を一跳びで追い越したのと同じ方法だ。
それはともかく、まず先に言わねばならない事がある。
背に向けられる視線に気付きつつも、少女へ向けて口を開く。
「わたし達に殺し合いをする気はないです。少しだけ驚かせちゃったかもしれないけど、でも、黒死牟さんも自分からあなたを傷付けることはしません」
警戒されてるとは承知の上でハッキリと告げた。
見境なしに剣を振るい、血の河を生み出す為にいるんじゃない。
憐れみで庇い立てするのでなく、そう信じて疑わない言葉に顔を顰める。
見境なしに剣を振るい、血の河を生み出す為にいるんじゃない。
憐れみで庇い立てするのでなく、そう信じて疑わない言葉に顔を顰める。
またしても頼んだ覚えのない気遣いに出て、自身の不快感を煽る気か。
背後から感情の揺らぎを察したのか、振り返って視線を合わせる。
眉を八の字に下げた困り顔で、苛立ちを臆さずに受け止めた。
背後から感情の揺らぎを察したのか、振り返って視線を合わせる。
眉を八の字に下げた困り顔で、苛立ちを臆さずに受け止めた。
「だって、黒死牟さんのことを誤解して欲しくなかったから……」
「……」
「……」
人ではない貌をして、安易に人を寄せ付けない態度を取っていて。
禍々しく、底冷えする程の殺気を放つ。
過去の行いを知らないけど、許されざる罪を繰り返したと察しは付く。
誰かにとっての悲しみを生み出す側だったのを分からない程、いろはは鈍くない。
けど今ここにいる彼は、それだけが全部じゃないから。
彼の抱える傷を見て、彼に幾度も命を救われた。
ほんの少しでも痛みを癒したいと思えた相手だから、彼に向かう敵意の前へ飛び出せる。
禍々しく、底冷えする程の殺気を放つ。
過去の行いを知らないけど、許されざる罪を繰り返したと察しは付く。
誰かにとっての悲しみを生み出す側だったのを分からない程、いろはは鈍くない。
けど今ここにいる彼は、それだけが全部じゃないから。
彼の抱える傷を見て、彼に幾度も命を救われた。
ほんの少しでも痛みを癒したいと思えた相手だから、彼に向かう敵意の前へ飛び出せる。
人を喰らう鬼に向けてとは思えない、されどとうに見慣れた態度。
他者からどれ程敵愾心を向けられても、今更知った事ではない。
しかしこの娘にとっては、黙っていられるものに非ず。
口走り掛けた吐き捨てる言も、喉をせり上がる前に消え失せる。
結局返すのは無言、向こうにとっても慣れた反応へ困ったような笑みを浮かべられた。
他者からどれ程敵愾心を向けられても、今更知った事ではない。
しかしこの娘にとっては、黙っていられるものに非ず。
口走り掛けた吐き捨てる言も、喉をせり上がる前に消え失せる。
結局返すのは無言、向こうにとっても慣れた反応へ困ったような笑みを浮かべられた。
「女相手にだんまり貫くってのは、良いやり方とは言えねえな」
自身のとは異なる声に、発すべき内容を改めて練る必要が無くなる。
気安く肩に手を置かれ、僅かに振り向けばいろは程の付き合いは無いが見知った顔。
海賊帽の下で浮かべたシニカルな表情は、野性味溢れる顔立ちも相俟って異性を虜にするだろう。
色を好む軟派な男、そう軽蔑を籠めて断言は出来まい。
実戦を知らねば身に付かない屈強な体と、人の特徴から逸脱した異形の右腕。
いろはに少々遅れる形でやって来た蛇王院である。
気安く肩に手を置かれ、僅かに振り向けばいろは程の付き合いは無いが見知った顔。
海賊帽の下で浮かべたシニカルな表情は、野性味溢れる顔立ちも相俟って異性を虜にするだろう。
色を好む軟派な男、そう軽蔑を籠めて断言は出来まい。
実戦を知らねば身に付かない屈強な体と、人の特徴から逸脱した異形の右腕。
いろはに少々遅れる形でやって来た蛇王院である。
「腕は立つようだが、堅物過ぎんのも考えもんだぜ?」
友人へ接するかのような軽口へ、鬱陶し気に手を振り払い応える。
必要以上に馴れ合う気が無いとの態度にも、激昂した様子はない。
気難しい奴だと呆れ笑いを一つ返された。
病院で会った小娘達といいこの男といい、いろは以外にも馴れ馴れしくする者がまだ現れるのか。
必要以上に馴れ合う気が無いとの態度にも、激昂した様子はない。
気難しい奴だと呆れ笑いを一つ返された。
病院で会った小娘達といいこの男といい、いろは以外にも馴れ馴れしくする者がまだ現れるのか。
「人じゃないってんなら、俺の右手もどうこう言えるもんじゃないからな。殺り合う気がなけりゃ、理由も無いのに喧嘩は売らねぇよ」
蛇王院の住まう日本では人外の存在は珍しくもない。
第一蛇王院自身、学聖ボタンの影響でジャンヌに斬られた腕が異形と化した身だ。
人じゃないからといって排除を選ぶ、ホーリーフレイム同様の所業に走る気はゼロ。
異形の特徴を持つ元ホーリーフレイム聖歌隊のマリーシアを、差別意識を抱かず勢力へ迎え入れたように。
人間かそうでないかで態度を変える男じゃないからこそ、部下達からの厚い信頼を得て来た。
第一蛇王院自身、学聖ボタンの影響でジャンヌに斬られた腕が異形と化した身だ。
人じゃないからといって排除を選ぶ、ホーリーフレイム同様の所業に走る気はゼロ。
異形の特徴を持つ元ホーリーフレイム聖歌隊のマリーシアを、差別意識を抱かず勢力へ迎え入れたように。
人間かそうでないかで態度を変える男じゃないからこそ、部下達からの厚い信頼を得て来た。
加えて意外に見えるかもしれないが、蛇王院はワイルドな外見と裏腹に他者へ積極的に戦闘を仕掛ける性質でもない。
スカルサーペントにとっての戦いは基本的に、自分達の身を守る為のもの。
全国統一を掲げ学生連合を襲撃したのも、神威との取引を受けたが故。
蛇王院を知る者に「らしくない」と疑問を持たれた好戦さは全て、自分を慕う部下を死なせない為の苦渋の決断があったから。
スカルサーペントにとっての戦いは基本的に、自分達の身を守る為のもの。
全国統一を掲げ学生連合を襲撃したのも、神威との取引を受けたが故。
蛇王院を知る者に「らしくない」と疑問を持たれた好戦さは全て、自分を慕う部下を死なせない為の苦渋の決断があったから。
それは舞台が魔界孔出現後の日本ではなく、神が作り上げた遊戯盤に移っても同じ。
鬼の始祖に最も近い上弦の壱だろうと、他者を害する意図を見せなければこちらも手出しはしない。
鬼の始祖に最も近い上弦の壱だろうと、他者を害する意図を見せなければこちらも手出しはしない。
「あんたといろはが仲良しだってのは分かったが、続きは一旦後回しにしとけ。初対面の女を放置は頂けないからよ」
「贋物の目玉でも填めているのか貴様……」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「贋物の目玉でも填めているのか貴様……」
「あ、ご、ごめんなさい!」
辛辣に返す黒死牟を余所に、蛇王院に言われいろはは慌てて頭を下げる。
謝罪を受けた当の橘は、三人のやり取りに少々困惑気味。
ついさっきまで張り詰めていた空気は霧散し、気付けば思考も幾分かの冷静さを取り戻す。
相手の雰囲気につられたが、戦わずに済むならそれに越した事はない。
謝罪を受けた当の橘は、三人のやり取りに少々困惑気味。
ついさっきまで張り詰めていた空気は霧散し、気付けば思考も幾分かの冷静さを取り戻す。
相手の雰囲気につられたが、戦わずに済むならそれに越した事はない。
「済まない、少しばかり熱くなっていた。言うのが遅れたが、檀黎斗の言い成りになる気がないのはこちらも同じだ」
「なら話は早ぇ。ついて来な、女を立たせたままにはしないからよ」
「なら話は早ぇ。ついて来な、女を立たせたままにはしないからよ」
敵意の無さを伝えれば向こうも頷き、顎で自分達が来た道をクイと示す。
ファーストコンタクトこそ殺伐としたが、殺し合いに乗っていない参加者との接触には無事成功。
蛇王院の提案を断る理由はない、ただ一つだけ訂正しておかねばなるまい。
ファーストコンタクトこそ殺伐としたが、殺し合いに乗っていない参加者との接触には無事成功。
蛇王院の提案を断る理由はない、ただ一つだけ訂正しておかねばなるまい。
「勘違いさせてしまったようだが…俺は元々男だぞ」
「は?」
「は?」
サラリと言われた内容に思わず聞き返し、頬が引き攣るのが蛇王院自身にも分かった。