ロックタイトでドライブシャフトのスプライン(仮)修復

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匿名ユーザー

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この稿は、ドライブシャフトのスプラインの異常と、完全に舐める前の応急処置について書いたものだが、あくまで前例のない(あるいは整備業界では常識はずれ?)の実験的なものだったため、結論から書くと「失敗」であった。

そのため、下記(「はじめに」以下)の内容は意味のないものとなってしまったが、自戒と、他の方々が同じことをトライされる事があるかも知れないので人柱の亡霊のタワゴトとして残しておく。

結果報告:

後輪のドライブシャフトとフレキシブルジョイントを繋ぐスリーブの、傷んだスプラインの隙間にはめ合い接着剤「Loctite 638」を充填した。しかし軸方向の僅かな摺動と整備での取り外しを考えて、片側に離型剤として薄くシリコングリスを塗り、さらに固化後にギアプーラーで一度固着を引き剥がしたのが良くなかったのか、一月足らずで分解してみるとロックタイトは粉っぽいペースト状になっていた。

スプラインのガタは修復前よりずっとマシな状態ではあったが、本来の目的だったスプラインの歯や溝の「固体による」修復ということにはなっていない。いずれこのペーストが押し出されてしまい、ガタは増して結局はスプラインが舐めるのは時間の問題だと思われる。

もしかしたら:

仮に「離型」、というか引き剥がしをせずにロックタイト本来のはめ合い接着を維持させたら、恐らくペースト状になることはなかったのではないか。しかし、それではドライブシャフト先端のバネが確保している軸方向の摺動ができず、車輪のストロークによる無理が、車輪アクスル側はともかく、ディファレンシャル側に何か不都合を起こすかもしれない。実はディファレンシャル内部には、ドライブシャフトのもう一方の先端とプラネタリーギアの軸との間にはかなりのクリアランスがあるので、問題ないのかもしれないが、、、無茶は禁物。そもそも、固着させてしまったら取り外しが大変。(200℃前後の熱を加えて、ギアプーラーで引き抜く)

もう一つ。ロックタイトには能書きに「スプライン」と書かれているLoctite 660という製品がある。固着力は638の方が強いのだが、もしかしたら660を使えば今回のように粉砕されることはなかったのかもしれない。(それでも離型剤併用の不具合がどうなるか、、、)

結論:

傷んだスプラインをはめ合い接着剤で修復しても、長持ちしなかったので実験は失敗。(ただし、何度も書くように引き剥がしをしなくてもよい場所であれば結果は違っただろう)

残る疑問:

スプラインのガタ(バックラッシ?)

手元にオリジナルより太い新品のドライブシャフトとスリーブがあり、それらをはめ合わせてみると、スプラインの嵌合に若干の隙間(遊び)があり、カチャカチャと音をたてる。他の例を知らないので、ドライブシャフトのスプラインの工作精度ってこんなものなのか?すぐとなりのフレキシブルジョイント⇔リアアクスル(ハブシャフト)のスプラインはもっとカッチリ嵌ったのだが?
このサイトの「ドライブシャフトスリーブのグリスアップ」ではグリスを施すように書かれているがスプラインの隙間については述べられていない。
バックラッシュ動画↓https://okamoo.com/Temp/DriveshaftBacklash.mp4
  • ※追記:この件について販売店(英Ricambio)に問い合わせてみたが、手っ取り早く言うと「そんなもんだ」とのこと。

硬めのグリスでも詰めておけばいいのかとネットの情報を当たってみたら、古いランドクルーザー80シリーズのガタが出たドライブシャフト・スプラインにメルセデス・ベンツ用「Starter Gear Lube」という見るからに非常に硬そうなグリスを塗る動画に遭遇した(https://youtu.be/URl7Y93XWtQ?t=113)。効果や耐久性は不明。件のグリスは「000-989-76-51」(動画内では000-989-76-51)という純正品番号があるが、日本国内では一般向けに売られていないかも知れない。国産相当品は不明だが、高ちょう度、耐高圧のグリスを当たってみたいと思う。
  • ※追記:色々当たってみて、普通のグリスではなく、軟質金属微粉末やグラファイト、二硫化モリブデン等を高濃度で配合した「ペースト」が良いのではないか、との感触を得た。上記のメルセデス・ベンツ用のものはこれにあたる(銀色はアルミ粉か?)。これはカストロールの「Castrol Molub-Alloy Paste TA」OEMで、動画のように海外でスプラインに使っている情報が多いが、国内では非常に高価で入手困難。BMW単車ののシャフトドライブのスプラインに、純正指定のペーストが使われるが、どうやら上記と同じものらしい。代替として国内メーカーの住鉱潤滑剤(SUMICO)から出ている「モリペースト500」を使ってみた。

いずれにしても、スプラインの修復とか言う以前に、ドライブシャフトそのものの交換が必要だということになった。

実験の顛末は以上。(失敗した以下の内容はあまり参考にならないが他山の石にでもなれば、、、

2023年2月18日追記 by Okapon

はじめに

この稿で紹介するのはあくまで一時凌ぎの実験的、応急的な処置であることをご理解いただきたい。この修復で、はたして傷んだスプラインがいつまで持つかも判らない。作業は2023年1月下旬だが、次回、異常が起きる(つまりスプラインが舐める!)か、あるいは不安に駆られてドライブシャフトを交換することになれば、改めてこちらで報告するつもり。(せめて1年は頑張って持ち堪えてほしい、、、)

  • はじめに(この項)・・・何が起きたか:ドライブシャフトのスプライン摩耗
  • 原因と対策・・・・・・・原因:Cクリップの脱落 対策:「はめ合い用接着剤」の充填
  • 本題・・・・・・・・・・下準備(予備実験):離型剤の効果確認 実地に応用(具体的には):作業手順
  • おわりに・・・・・・・・まとめ

何が起きたか

先日リアのフレキシブルジョイントとドライブシャフトを繋ぐドライブシャフトスリープにガタがあることを発見した。ドライブシャフトとスリーブを嵌合しているスプラインが摩耗していたのだった。一般的に、硬い鋼製のシャフトより柔らかい鋳物のスリーブの方が摩耗するので、スリーブのみ交換すれば事は簡単なはず。ところがスプラインをチェックしてみたら両方とも傷んでいて、スリーブのカップ状フランジ内部に鉄粉が付着していた。正しい修理としては、恐らくギアボックスを下ろしてドライブシャフトを交換する必要がある。


原因と対策

原因

こうなった原因はドライブシャフトの先端に在るはずのCクリップが脱落していて、軸方向に大きな遊びができたドライブシャフトがギアボックス側に移動し、スプラインが半分ほどしか掛かっていなかったために過大な荷重が掛かり続けていたからではないかと想像する。(シャフトを正規の位置に押し込むとガタは無くなるが、仮にシャフトがその位置に留まってくれたとしても遅かれ早かれスプラインはオシャカになる。)

外れたCクリップはスリーブのカップ状フランジの中にグリスでへばり着いていた。しかし腑に落ちないのは、前回整備したプロがクリップの付け忘れをするだろうかということと、忘れたのならクリップがその近辺に残っていたのはおかしい。そもそも溝にきっちり嵌ったクリップがそう簡単に脱落するのも考え難いのだが、自分でクリップを着脱してみたらどうも様子が変。クリップが開いてしまっているわけでもないのに指だけであっさり外れる。そこで反対側のドライブシャフトと比べてみたら明らかに溝が浅いことが判った。これではいくら復旧してもまた脱落して同じことの繰り返しになってしまう。スプライン復活以前にまずはヤスリでクリップの溝を深くすることから始めなきゃならなかった。
【下:きっちり嵌ったクリップ】

対策

作業概要:
本来なら交換すべきドライブシャフトだが、そのためにはトランスミッションを外して分解しないといけない。これを機会に太いシャフトに交換して、スプラインの負担を減らすとかも考えた。しかし、いずれはそれも必要になるとしても、当面の手間(と外注した場合は費用)を考えたらやはり躊躇してしまう。そこで何とか傷んだスプラインを修復できないものか、色々と思案してみた。

シャフトのスプラインを溶接で肉盛りして歯を切り直すという技もあるらしいが、当然ドライブシャフトをギアボックスから外す必要があり、そこまでするのなら補修部品が潤沢にあるFIAT 500ではあまり意味がない。http://usahato-blog.seesaa.net/article/407750490.html

昔、モンゴルやチベットの運転手たちが、傷んだネジのスレッドやスッピル(キー)の嵌合に出たガタをタバコの銀紙(錫箔)やアルミフォイルを隙間に巻き込んでその場凌ぎの応急処置をやるのを見たことがあり、自分もオルタネーターのプーリーハブの半月キーがナメて摩耗したハブのガタ取りに利用したが、流石に重い車体を動かす力が一手に掛かるドライブシャフトのスプラインには使えないだろう。https://okamoo.com/blog/2022/10/14/fiat-500%e3%80%80%e3%82%aa%e3%83%ab%e3%82%bf%e3%83%8d%e3%83%bc%e3%82%bf%e3%83%bc%e7%95%b0%e9%9f%b3%e3%82%92%e4%bf%ae%e7%90%86/

が、隙間を何かで充填してやれば暫くは持つのではないか。ただ、瞬間接着剤やエポキシ樹脂などは剪断や引き剥がしには強そうだけど耐圧荷重にはどうなんだろうとネットを探っていたところ、ネジの緩み止め剤のロックタイトのバリエーションに「はめ合い用接着剤」というものがふと目についた。https://www.henkel-adhesives.com/jp/ja/products/industrial-adhesives/retaining-compounds.html
中でも強力なのは「ロックタイト660」と「ロックタイト638」で、前者は隙間0.5mmまで充填できて硬化し、しかも能書きに「スプライン」に応用可能となっている。後者はスプラインとは書いてないが最強力と謳われている。今回は経済的事情から638を選んだが、隙間が大きい場合は660の方が良いだろう。

本題

ロックタイト638は母材にかなり強力に接着するらしく、ドライブシャフトのようにスイングアームの上下動で軸方向に若干の摺動の余地が必要な場合、しっかり固着してしまっては面倒なことが起きかねない(先述のようにCクリップがあり、ドライブシャフトの先端に小さなバネが仕込まれているのはその動きを規制するため。軸方向の動きができないと荷重によりスイングアームが上下したらシャフトやジョイント、ひいてはギアボックス内部の歯車、特にディファレンシャルに異常な応力が掛かって、ダメージはシャフト交換どころではなくなってしまう。そこで、オス・メスどちらかのスプラインの歯に離型剤を塗布して接着を抑止することで軸方向の動きを確保することにした。

下準備(予備実験)

ロックタイト638に離型剤が有効かどうかを確かめないと、スプラインの嵌合は強固になったは良いが、二度と離れてくれないとなると厄介。手近に合ったボルト・ナットで離型剤の有る無しでどう変わるかの実験をしてみた。
  • 3/8のインチボルトとナットを2本用意。
  • コントロールとして1本のボルトは離型剤を塗らずにそのままロックタイトを垂らし、ナットを固定。

  • もう1本のボルトに離型剤のシリコングリスを塗布(一般的な油性グリスはロックタイトと変な反応をするかも知れない。シリコングリスが大丈夫という保証はないが、その不活性に期待して、、、)。


  • 離型剤の上にロックタイトを塗布し、ナットをロックタイトに部分まで回し込む。

  • 24時間放置(すべきだったが今回は十数時間)後に、夫々にトルクレンチを掛けて回してみた。
  • 離型材なし:約20Nm(固化したロックタイトが砕けたように白くなっている)

  • 離型剤あり:スルリと回って計測不能。

離型剤なしのほうは思ったより低い値だが、耐圧力荷重を重視した「はめ合い用接着剤」である638は「ネジ固定剤」ではないので剪断応力には力を発揮しないのだろう。だからといって実際のドライブシャフトのスプラインの接触面積はこのネジよりはるかに大きいので離型剤が不要なほど簡単に抜けないだろうし、抜けたとしても写真のように破壊的な分離の仕方では困る。

しかし一方、離型剤を使ったほうは目論見通りあっさり動いた、というかあまりに拍子抜けの無抵抗だったので、シリコングリスのせいでロックタイトが変質し、固化しなかったのではと心配になった。歯の溝をキリの先で突いたりしてみたがグリスっぽい表面の下はしっかり固まって剥がれなかったので使えそう。スプラインが固着せず、軸方向に摺動できることが判ったのはありがたい。(歯の傷みが酷くない場合はグリスでなくシリコンスプレーでも良いかもしれない)

実地に応用(具体的には)

  • スリーブブーツはギアボックス側に追いやっておく。
  • ドライブシャフトとスリーブ、両方のスプライン部分をパーツクリーナーなどできれいに洗浄する。
  • スプラインの歯にまくれや大きい突起などがあればヤスリで修正する。
  • 傷みの少ない方(今回はたまたまスリーブの方が歯がきれいだった)のスプラインにシリコングリスを薄く塗布。
  • 歯の谷間にグリスが多く残らないように、しかし完全に拭き取ってしまわないようにグリスの厚みを均す。(シリコングリスの白い色が見えないくらい。先述「下準備の写真参照」)
  • 傷みの多い方(今回はドライブシャフト)のスプラインにロックタイト638をたっぷり塗布する。はみ出ても空気に触れる部分は硬化しないのでOK。
  • スリーブをドライブシャフトに押し込み、Cクリップを嵌め込むための溝を少し行き過ぎたところで止め、はみ出て固まっていないロックタイトを拭き取って1昼夜放置しておく(まだクリップは着けない)。
  • 一日後、スリーブの前後にロックタイトが滲んでいたら拭き取り、シリコングリスをたっぷり塗布する。
  • ギアプーラーをスリーブのフランジとシャフトの先端に掛け、外れない程度にフランジを引く(抜いてしまわない)。完全に固着していたら失敗なので、ヒートガンやバーナーで250℃ほどに加熱して引き抜き、1からやり直すか、諦める。

  • スリープの後ろに露出したスプラインにシリコングリスを塗のばしてから、スリーブを奥まで押し込み、手前に露出したスプラインにグリスを塗る。
  • 押したり引いたりを繰り返しスプラインの当たりをつけてなじませる。必要ならグリスを追加したり、シリコンスプレーを吹き付ける。
  • スリーブが手で動く*ようになればスリープブーツを戻し、シャフトにCクリップを装着し、先端の穴にスプリングを入れて、スリーブとフレキシブルジョイントをボルトで結合(トルク2.8kgm)する。(*手で動かないくらいだと駆動系に負担が掛かる恐れがある)

おわりに

繰り返しになるが、このその場凌ぎの応急処置が果たしてクルマにとって良いことなのか(財布には優しいが、、、)全くもって判らない。とりあえずやってみて、少なくとも「数日」経った現在、スプラインに異常はなく、クリップの脱落(とスプリングのヘタり)を放置しているままの状態よりは幾ばくかでもマシではある。

旧フィアット500でスプラインをナメて動けなくなったという記述はよく目にするも、これまではまるで他人事。知らぬが仏でずっと普通に走ってきたが、その前兆を見てしまったらもう放ってはおけない。とりあえずの手当はしたものの、この実験的補修の信頼性は全く不明であり、不安が無くなったわけではない。

「独自」開発の補修方法の信頼性を担保するものではないが、唯一、この「傷んだスプラインの隙間に何かを充填する」ということを報告している事例は自分の知る限り「しのはらプレスサービス株式会社」のスプライン補修システムがある。これはスプラインの途中に孔を穿ち充填剤を圧入して固化させるというもので、マツダが特許を保有しているらしいが詳細は判らない。当然自動車に応用できるからマツダが開発したのだろうけど、分解時にスプラインを抜くためにどのような方法を使うのか知りたいものだ。http://www.shinohara-press.co.jp/service/04.html

いずれにしてもある程度距離を走って検証が必要。やってみられるのなら人柱になる覚悟で。。。(笑)   そうでないなら続報を待たれたい。

追記:
Cクリップの脱落やスプラインの摩耗と関連があるかどうか判らないが、ドライブシャフト先端のスプリングが反対側のドライブシャフトのそれと比較して少し短く思えた。シャフトの穴からほとんどスプリングの頭が出ていなかった。新しいのを入手して比較したら下のように、単にヘタりによる長さの違いだけでなく、線の太さや巻数などバネレートも違うようだし、古いのは座面研磨もされていない。ウ~ン。。。

by Okapon
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